元の世界に帰らない、その言葉を聞いたリナは一瞬だけ何を言っているのか分からないという顔をしていた
そして色々と言いたい事はあるだろうが、一言だけ絞り出すように答えた
「何、で……?」
「この世界は歪んでいる。少なくともデビルガンダムが存在する限りは世界が滅んでも不思議じゃない。そしてオレにはガンダム作品の知識がある。少なくとも対抗は出来る」
「でも、この世界は―――」
「アニメの世界、オレ達には関係ない。お前が言いたいのはそういう事かもしれないが、さっきも言ったがオレはアニメの『インフィニット・ストラトス』なんて知らない。此処はオレにとっては紛れもなく現実だ。まだ4ヶ月程度だが、此処で過ごした日々も、此処で出会った人達も多く居る。そんな人達を置いて、デビルガンダムという脅威のあるこの世界から帰るなんて真似はオレには出来ない」
「コウ……」
短い間とはいえ、何もせずにいられる程、この世界での経験は軽いものではない
「それに、これから先も同じような事が起こらないとは限らないからな。ガンダム世界には文字通り世界を滅ぼすような存在が多い。デビルガンダムの他にも、世界に大きな影響を与える存在が現れるかもしれない。その時に対応策を知っている人間が居ると居ないでは大違いだろう?」
直接的な破壊をもたらす兵器としてコロニーレーザー等に限らず、ガンダム世界にはそれ以外の物も数多く存在する
例えばアスタロスという植物がある、元はスペースコロニーの過酷な環境でも生育可能な植物として開発されたが、繁殖力が旺盛過ぎて既存の生態系を大きく歪めるような存在だ
コアラ等の動物は特定の植物しか食べられない、もしも地球がアスタロスで覆われるような事になれば今の自然は永久に失われる事となるだろう
例えばニュートロンジャマー、この世界ではまだ原子力発電に頼り切っている国の比率は多くないが、オレの居た世界と同じように国内の発電の大部分を原子力発電に頼っているフランス等で使用すれば大混乱は必至だ
核戦争を未然に防ぐという意味では有効かもしれないが電波障害は防げない、それにより世界経済への混乱が予想される、オレ達だってミノフスキー粒子を用いる火器の使用に関しては都市部での使用に制限を掛けている程だ
例えばエンジェル・コール、地球のあらゆる技術を用いてもワクチンの開発が出来なかった宇宙細菌だ
焼却するしか処分方法がなく、一度大気中に放たれてしまえば全ての生物が溶けて死滅するのは間違いない
その他にもカイラスギリーやらジェネシス、サイクロプスといった大量破壊兵器は勿論、バグに軍用オートマトンといった生々しい殺戮兵器まで多岐に渡る
そういった力がこの世界に与える影響は予想出来ないレベルだ
「それに、オレは既にこの世界で引き金を引いた。敵の命を奪う事を、自分自身の意志で戦う事を決めたんだ。それを、元の世界に帰るからと逃げるようは真似はしない」
「それは……」
「372人、それがこの世界でオレが直接手に掛けた人数だ。そして今日、更に26人の人間の命を奪った。既にお前の知ってるオレではないんだ。済まないが、それだけの事をやった以上は元の世界には―――」
帰れない、そう続けようとした時、リナがオレに抱き着いてきた
その肩は震えている
「―――らない……」
「は?」
「帰らない!コウが帰らないなら、私も帰らない!!」
「いや、お前何を言って―――」
「コウばかりが一人で全部背負ってるけど、だったら私も背負う!何でコウばかりが苦しもうとするの!?絶対にそんな事、させないから!私も一緒にコウと戦う!」
「あのな、戦うって言ってもそんな簡単に割り切れるようなものじゃないだろう!」
「だからってコウだけがやる事でもないでしょう!もう決めたから!絶対の絶対!」
「おま……」
こうなるとリナは昔から梃子でも動かないヤツだ、単に駄々を捏ねているように見えて意思は固い
だからオレはため息を一つ吐いた後でリナに向き直る
「お前を実戦に出すかどうかはまだ決めてないが、それなら覚悟はあるんだな?」
「……良いの?」
「どうせ直ぐにどうにか出来る訳ではないからな。だったらまずは受け入れるしかない」
「ありがとう、コウ!」
そう言って抱き締めてくる力を強めるリナ、半ば諦めたのでその背中を軽く叩いてやる
取り敢えず、オレだけでなくリナの両親も心配している事だろう、ならば何とか連絡だけでも取れないか努力はするべきだ
世界を渡る通信なんて前代未聞だが、この辺りは篠ノ之博士に頼るしかないな
「ん?あれ、今気付いたけどコウの体って結構筋肉質になってる?」
「あ?まあISの操縦って最後はやっぱり体力勝負なところがあるからな。他にも生身である程度は戦えるようにこの世界に来てからはずっと鍛え続けてきたんだ。元の世界の頃とは比べ物にならないくらいに鍛えてあるさ」
「へぇ……ねえ、ちょっと脱いで貰っても良い?」
「何でだよ!?」
「男の子だし、別に減るものでもないから良いでしょう!?」
「主にオレの尊厳とか気力が減るわ!」
ならば実力行使、とばかりにオレの服を脱がそうとしてくるリナを引き剥がすべく格闘戦になるのだった
さっきまで真面目な話をしていただけに、リナの行動に翻弄されてしまう
結局、引き剥がすのに三十分は掛かり、その分だけ日本へ向けて出発する時間が遅れるのだった
◆
あの後、脱がされる事なくリナを引き剥がした後はノッセルを操縦して日本へと帰還した
最終的に騒ぎを聞き付けて部屋に入ってきたクロエにも手伝って貰って引き離せた辺り、どれだけの執念を持っていたのか呆れる程だ
とはいえそれ以降は落ち着いたものだ、大人しくしていたがそろそろIS学園に近付いて来た辺りで声を掛ける
「見えてきたぞ、あれがIS学園だ」
「おぉ~、本当にあの変なタワーもある!本物のIS学園なんだ!」
確かに中央部に耐久性に喧嘩売ってるような奇妙なデザインのシンボルタワーは一度見れば忘れないだろうが、そこに食い付くのか
だがIS学園の様子を知っているのならばリナの言っていた事は改めて真実なのだと理解出来る
「そろそろ着水するぞ。各自、シートベルトを着用しろ」
オレは訓練も兼ねて操縦席で装置の誘導に従い操縦している、他の全員がちゃんと着席してベルトを着けた事を確認し海に着水する準備をする
オート化が進んでいる事から操縦はそこまで難しくはないが多少は緊張する、だが特に問題らしい問題は起きず無事にノッセルは海に浮かぶ
「よし、後はドックに入るだけだな。その後は改めてオレ達の上司に会うとしよう」
IS学園に海から近付いていくと岸辺の一部が開いて内部へ入れるようになる
ノッセルを入手してから置き場に困った事で篠ノ之博士が学園内に増設した設備である、学園側に無断で作って完成してから事後承諾で報告したものだ
しかし作ってしまった物は仕方ないと正式に認可されている、この近くに試作のマスドライバー施設を建造予定でありそちらは正式に許可を取っているから、ついでに見逃された可能性も高いが
ドック内でノッセルを停泊させた後はラボへの通路を進む
今回連れてくる事になったのはリリアナ、ミネッサ、リナの三人だ
篠ノ之博士とエイフマン教授に挨拶して、その後は戸籍関係で生徒会長のところに行くか
事前に帰還の連絡は入れておいた為、ラボの一室に入ると既に二人は待機していた
「只今戻りました、束様、エイフマン教授」
「やあやあ、待ってたよくーちゃん、こーくん。色々大変だったねえ」
「フェネクスに関しては完全に予想外でしたが、米軍の追撃を撒けた事はプラスでしたよ。とはいえ、幼馴染がこの世界に来た事には驚きましたが」
「そうだねえ。じゃあ報告はまた後にしてまずは自己紹介といこうか。初めまして、私が人類史で最も天才な人間こと、篠ノ之束さんだよ!」
自らを天才と称する篠ノ之博士、否定は出来ない為にそのままスルーし、各々の反応を見る
リリアナはそもそもそういった知識に乏しいのか無反応、ミネッサは多少は驚いているがオレという存在から予想していたのかその反応は小さい、そしてリナが一番驚いた表情をしている
『インフィニット・ストラトス』という作品が元の世界にあるならば劇中でISの開発者として篠ノ之博士の名前が出ないとは考え難い、ならばその名をリナも知っていたとしても不思議はないか
「コウ。コウの上司って、篠ノ之束なの?本当に?」
「ああ、オレがこの世界に来た事にいち早く気付いて身元を保証してくれた人だ。そして、宇宙を目指す為に色々と協力している」
「大丈夫だった!?人体実験とか、頭を弄くられたりとかされてない!?この人、かなり常識外れな人だよ!?」
「その辺りはされてないが、正直言うとやりかねないから擁護出来ないんだよなあ……」
そもそもニュータイプ能力の片鱗を見せた途端に積極的に実戦に投入しようとする辺り、リナの言葉は正しいように思える
「むむ、こーくんの幼馴染だからってこの私に随分な態度だね。お前が束さんの何を知ってるって言うのさ!」
「ISの力を世間に認めさせる為に『白騎士事件』を引き起こした事とか!」
「あー、篠ノ之博士。リナに関しては後で別途報告すべき事があるので、その時まで少々お待ち下さい。かなり重要な案件なので、今は置いておいてくれませんか?リナも、色々知ってるとは思うが今は落ち着け」
「ふーん、こーくんがそう言うなら今は退いてあげるよ」
「私も、コウがそう言うなら……」
何で自己紹介だけでこんな事にならなければならないのか、そう思うがまずは他の面々も自己紹介をする必要がある
そういう訳でリナ、リリアナ、ミネッサの順で自己紹介をしていく
「成る程、他の二人はともかくミネッサ・トムソンは技術者としてラビットフット社で雇っても良いけど、どうする?」
「本当!?あ、いや、本当ですか?」
「うん、本当だよ。世間に発明品が認められない悔しさは私も良く知ってるからね。それに、私ほどじゃないにしてもキミも天才の部類だし。私ほどじゃないにしても」
大切な事だからか二回言う篠ノ之博士、そもそも『白騎士事件』の影響でミネッサの能力が認められなかったという事もあるのだが、ミネッサとしては自身の研究が進められるならそれで良いらしい
「ならお願いします!主な研究分野は機械工学、生体工学、脳科学です!」
という訳でミネッサもラビットフット社に所属する事になったのである
研究所での事から表舞台には登場し難い過去になっているので今後どうなるか分からないが、それでも自由に研究出来る環境は彼女にとって理想的な環境だろう
と、そのミネッサがさっきから気になっていたのか、最初から居たが何も喋らないエイフマン教授の方を気にしている
「あの、そちらの方は一体?」
「レイフ・エイフマン教授だ。この世界で篠ノ之博士の他にISコアを完全に解析し、製造も出来る唯一の人物になる。が、どうにも様子がな……」
「えぇっ!?ISコアを!?」
ISコアの製造が可能という点で大きく驚くミネッサの反応は当然の事だろう
しかしエイフマン教授は御年73歳ながら杖を突く事はあっても腰が曲がっていたりはせず老いを感じさせない御仁なのだが、今の教授は多少ふらついており、目にも隈が出来ている
「むぅ、シドウ君が説明してくれた通り、わしはレイフ・エイフマンという。主に材料工学、機械工学を得意としている」
何度か呼ばれて自分の事だと気付いたのだろう、エイフマン教授が挨拶を返すが、やはり声に覇気がない
「教授、かなりお疲れのようですが、GNドライヴの研究が煮詰まっているのですか?少し気分転換に休まれた方が良いと思いますが」
「いや、心配せずとも研究自体は上手く進んでおるよ。しかし、進み過ぎてついつい時間を忘れてしまってな。なに、先程も一時間は仮眠をとっておる、何も問題はあるまい」
「今すぐ寝て下さい」
ゲームが良いところまで進んでタイミングを外したみたいな感覚で言わないで欲しい
何はともあれ深刻な理由でない事は一安心したが
その後、ミネッサが技術者として、リリアナがパイロット候補としてラビットフット社に所属する事を希望したので、クロエが二人を連れてラボの方を案内しに行き、エイフマン教授には休息を取って貰う事にした
そうして人払いが済んだ所でリナに関する事、『インフィニット・ストラトス』という作品の存在に関しての話となる
リナの口から語られるのはオレ達の元居た世界には『インフィニット・ストラトス』というライトノベル作品があり、篠ノ之博士を始めとする人々もまた同じように登場しているらしい
リナはアニメ版しか観ていないらしいが、それでも多くの情報を得られるというのはかなりアドバンテージとなるだろう
聞いていた篠ノ之博士も最初はリナの事をあまり良い印象を持っていなかったようだが、興味を惹かれたのか話に聞き入っていた
「成る程、それで私とか色々な事を知ってた訳だね」
「実際のところ、篠ノ之博士ならやりますか?白式のデータを取る為にゴーレムを送り込んだり、紅椿のデビュー戦の為だけに銀の福音を暴走させたりといった事は」
「うーん、今とかなり状況が違うけど……やるだろうね、私なら!」
「成り行きとはいえ篠ノ之博士の下に着く形で良かったですよ。まあ、今もあんまり変わってませんけど……」
経緯が変わっているだけで学園のイベントの度に何かしらのアクシデントに見舞われている事に違いはない、それが篠ノ之博士ではなく外的な要因に変わっているだけで
「そうなると今後のイベントでも警戒した方が良いのか。リナ、取り敢えず近い中でどんなイベントでアクシデントが起きるか分かるか?」
「それなら学園祭ね!多くの人間が入り込むのに紛れて亡国機業のオータムってヤツが二次移行した白式を奪おうと襲撃してくるわ」
「学園祭か……二学期最初のイベントで外部からの客も多い。確かにISコアを狙う連中からすれば絶好の機会だな」
とはいえ事前に襲撃がある事を把握出来ているなら心構えとか、何より襲撃に対して準備をしておく事が出来るのは大きい
おまけに敵の名前まで分かっているとなれば、それはちょっとしたチートだ
「そのオータムって奴の情報は?」
「えっと、確か機体は蜘蛛みたいなアラクネって機体だったわ」
「米国の第二世代だね。因みに機体スペックはこんな感じだよ」
そう言って篠ノ之博士がモニターにアラクネのスペックを表示する、正直に言って見た目はゲテモノだな
とはいえ腕が多いからな、武装を持たせれば火力は多くなるし格闘戦も有利に進められる、警戒するに越した事はない
「あっ、あと主人公のワンサマーを誘拐したのもコイツね!第二回大会の決勝戦の時!」
「うん?一夏を誘拐?」
軽くアラクネと対峙した時のシミュレートをしていたがリナの語る内容に違和感を覚える
「第二回モンド・グロッソの決勝戦で誘拐されたのは兄の一秋の方だろう?」
「一秋って、誰のこと?」
誘拐された事が原因であの豆腐メンタルになった訳だし、一夏が誘拐されたのならそれは逆だ
だがリナは一秋を知らないという
「織斑一秋、一夏の双子の兄だ。そして白式のパイロットでもある」
「私の知ってる『インフィニット・ストラトス』の主人公はワンサマーこと織斑一夏だけよ。そして白式のパイロットも織斑一夏だけど?」
オレの過ごしてきた現実と、リナの観てきたアニメの世界は多少の差がある事は分かっていた、だが一秋という人物の有無は大きな違いだ
「ふむふむ、カズくんはアニメには登場していない、と。ならやっぱり何らかの差異が影響してるのかな?並行世界とか、色々面白そうな話になってきたね!」
それに対して篠ノ之博士だけは楽しそうな様子を見せている、科学者として何らかの考えで頭を回転させているのだろう
しかしそうなるとリナの言う知識を鵜呑みにするのも危険になってきた
「リナ、お前が分かる範囲で良い。襲撃が起きるタイミングは何処だ?」
「私の知る限りだと文化祭と専用機限定のタッグマッチ、それから修学旅行ね。アニメはそこまでだったわ」
「そうか。文化祭はある、修学旅行もある、だが専用機限定タッグマッチっていうのは無い。そもそも今年が異常なだけで、本来はそこまで多くの専用機が集まる事なんて無いからな。そんなイベント自体存在しないぞ」
「そうなの!?」
「ああ。代わりにキャノンボール・ファストっていうレース系のイベントがある。て、どうした?そんな深刻な顔して?」
専用機限定タッグマッチとやらが無ければ何が起こるというのか、ぶつぶつと小声で呟いていたリナは突然顔を上げると一言だけ大声で叫ぶ
「かんちゃんの専用機が危ない!」
「は?かんちゃん?」
誰の事だ、と思うと同時に誰かがそんな呼び方をしていた人が居たようなと頭の片隅に引っ掛かるが、それを思い出すよりも早くリナがオレの手を掴んで廊下へと引っ張っていく
「おい!」
「コウ、学園でISを開発出来そうな場所に案内して!今すぐに!」
「はあ?開発も何も、普通は学園内で開発なんて―――」
「いいから案内して!手遅れになる前に!」
「何だってんだよ……まあ、出来るとしたら整備室とかか?」
「整備室ね、ならそこに行くわよ!」
「だから待てって!各アリーナに隣接して存在してるから複数ある上に、距離も離れてるんだぞ。それに今は夏休みだから残ってる生徒も居ないって」
「それでも可能性はあるのよ」
「いやお前そもそも学園からしたら部外者だし……ああもう、分かったよ付き合ってやる!博士、何か起きるみたいなのでちょっと出ます!」
「行ってらっしゃ~い、後でどんな結果になったかだけ報告してくれれば良いからねえ。原作知識とやらが何処まで正しいか把握出来るチャンスだし」
廊下に出る前に一言篠ノ之博士へ告げてからラボを出る
よもやリナのこの行動によってオレは一人の少女と深く関わる事になるとは思いもしないのだった
因みにリナの思考は
専用機限定タッグマッチが無い
↓
簪ちゃんの専用機開発にワンサマーが関わらない
↓
簪ちゃんの専用機開発が大幅に遅れるか、最悪完成しなくなる
という思考でした、キャノンボール・ファストで襲撃来れば自動的にタッグマッチも行われるのですが、アニメ勢ゆえの勘違いが……
なお私は簪ちゃん好きです
※どうでもいい独り言
……バニ上十一連一回とか、今年のガチャ運はかなりおかしな事になっている気がする