56話 墜ちた翼の真実
『新兵器モビルスーツに関する報告書
先日GORDON IRON WORKS(以下G.I.W.)によって発表された新兵器モビルスーツ(以下MS)、ザクシリーズと呼称されたそれは『機動戦士ガンダムSEEDシリーズ』に於ける第二作、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場した物と酷似機体である。
この事からG.I.W.が我々の呼称する『漂流物』としてその技術を得た事は明白である。
ザクは元は初代である『機動戦士ガンダム』に登場した機体をSEEDの舞台であるコズミック・イラ(以下C.E.)に準じた形でリメイクした存在ではあるが、その性能は大きく異なっている。
ビーム兵器の運用が標準化しており、シールドと肩部スパイクの位置が左右反転している事に加え、一番の特徴がウィザード・システムと呼ばれるストライカーパックシステムと同様の装備換装能力だ。
しかしG.I.W.の発表した機体はザクを踏襲しているもののその機能を備えていない、これはG.I.W.の持つ技術力ではウィザード・システムの完全再現が不可能だった事が原因と思われる。
その代わりにフライトユニットを固定式で装備しているが、その形状が同作品に登場したグフ・イグナイテッドに酷似している事から、それらのデータも取得している事が予想される。
以下、それらの機体の中でG.I.W.が発表した機体を、原作情報と比較しながら分析していく。
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○ザク・ウォーリア、ザク・ファントム
……名称はザクと同様であり、前述の通りバックパックがフライトユニットに固定されている。
ザク・ウォーリアが一般機、ザク・ファントムが通信能力等を強化した隊長機という扱いになる。
武装はビーム突撃銃やビームトマホーク、グレネードといったシンプルな物を基本としており、他にも様々な武装が用意されており、主力機として必要な武装は一通り揃っている。
G.I.W.が公表しているカタログスペックからISに遠く及ばない性能なのは当然の事であるが、IS程でないにしても同じような動きが可能である為、数が増えればISでも脅威となり得る機体である。
○コマンドザクCCI
……人間大というMSの大きさの制約上、レーダーが標準装備出来ないMS部隊の目となる機体である。
元となった同名の機体は偵察能力と通信能力の強化された機体であるが、この機体はレーダーユニットを搭載する事でMSでは不可能な索敵を担当する。
レーダーユニットを搭載した結果、フライトユニットを搭載出来ず飛行能力を持たないが、ベースジャバー等のサブフライトシステムと同様の能力を持つグゥルによって部隊行動を可能とすると推測される。
なおその機体の特性上、戦闘に直接参加する可能性は低い。
○ザク・ガズウート
……ザクをベースにシールドを撤去、背部に大型の連装ビーム砲を二基、計四門備え、両腕にM66キャニス短距離誘導弾発射筒、脚部にM68パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒を備えた重砲撃型機体。
名称からガズウートと呼ばれる別機体の武装を組み込んでいると思われる。
ビーム砲以外はザク以前の主力機であるモビルジンと呼ばれる機体の要塞攻略用装備(通称D装備)の武装である事から、恐らくはC.E.に於けるザフトと呼ばれる勢力のデータを広く取得している可能性がある。
この機体もまた飛行能力を持たないが、グゥルによって他の機体に追随し、その火力を以て支援を行う為の機体と思われる。
カタログスペックより、肩部のビーム砲はIS用の携行ライフル並の威力があると思われる為、相対した際は早めに対処する事を推奨する
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以上がG.I.W.の発表したMSの分析となる。
これまでこの世界に於けるIS以外のパワードスーツはEOSが挙げられる。
しかしEOSが三十キロの次世代型バッテリーを搭載しているにも関わらず全力稼働で十数分しか持たないのに対し、MSは同じバッテリー駆動でありながら飛行、ビーム兵器の使用といったエネルギーを多く消費するにも関わらず全力稼働でも一時間は稼働する事が出来る。
これはC.E.は他のガンダム世界とは違い核融合炉という膨大なエネルギーを半永久的に供給する動力源が基本的に使用出来ない事からバッテリー駆動という他に無い特徴があり、そのバッテリー技術を応用した物と推察される。
これらの性能を遺憾無く発揮したMSでも一機ではISに遠く及ばない、だが数を揃え圧倒的な物量による戦闘ではISも苦戦する事は必至である為、今後の作戦行動に於いては機体性能による力圧しはあまり推奨しない。
※追記、今のところ完全に兵器として誕生したMSではあるが、全身を装甲で覆い男性でも使用可能、宇宙空間に於いても高い機動性を発揮するポテンシャルから船外作業中のデブリ対策として十分な性能を持っていると判断出来る。
よって宇宙開発用にラビットフット社でもMS開発は一考の余地があると思われる。
詳しくは別資料として添付した『ワークスジン』『レイスタ』『シビリアンアストレイ』を参照されたし。
西暦2022年8月30日
作製者:紫藤康太』
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九月一日、夏休みが明けたばかりであり多くの学生は長期の休みが終わった憂鬱な気分と、久し振りに級友に会えるという楽しみとをない交ぜにした気持ちを抱きながら出校する日だ
そんな中でオレこと紫藤康太もまた教室に居る、手短に終わった始業式の後で詰め込み教育であるIS学園では直ぐに授業が行われる、オレはその授業開始までの僅かな時間も利用してレポートの作成を行っている
作成している内容は簡単、昨日の内にG.I.W.により公表されたMSによる対IS戦闘、その動画からISの敗北した原因を分析しているのだ
『―――以上がMSによる対IS戦闘の概要であり、世界で初となるIS以外の兵器によるISの明確な敗北の敗因である。再現性は兎も角とし、この戦闘によりISが絶対無敵の兵器という世間の認識は大きく覆される事となった。今後、女性権利団体の動きだけでなく、女尊男卑の風潮により抑圧されてきた男性達による不穏な動きにも警戒する必要がある、と―――ふぅ」
一通り切りの良いところまで作成したところで一息入れて買っておいた缶コーヒーを飲む、最近ブラックが美味しいと感じられるようになってきたな
「ふぅ、ではない馬鹿者!」
「グフっ!?」
あ、頭が……それに鼻に……喉を通ろうとしたコーヒーが鼻に……
脳天に強烈な一撃が叩き込まれたオレは噎せながら顔を上げる、そこには出席簿を構えた織斑教諭が仁王立ちしていた
「既に授業は始まっている。お前にも仕事があるのは理解しているが、学生である以上は学業が優先だ。それで、何を作成していたんだ?」
「あっ……」
言うが早いか織斑教諭はオレが先程までレポートの作成を行っていた端末を見る
キーボードは空間投影式である為に必要ないからあっさり持っていかれた
他の機密情報、例えば『シビリアンアストレイ』といった作業用MSのデータも近くにあるのだが、まあ織斑教諭はオレの正体を知る数少ない人間の一人だから見られても吹聴するような事はないだろう
そんな織斑教諭だが、レポートを目にしてからは集中した顔でじっと端末を眺めていた
そして最後まで見たのか一つ頷くとオレに視線を戻して言った
「紫藤、このレポートだが学園に提出しても問題ないか?」
「その戦闘分析レポートなら問題ないです」
「そうか。なら後でこのレポートをコピーして学園に提出しろ。先程の件はそれで相殺してやる。ああ、それと今からこのレポートを使って一つクラスの前で発表しろ」
「えっ?」
レポートのコピー自体は全く問題ない、『MSによる対IS戦闘と今後の課題』という題名のつけられたそのレポートにはオレの正体に関する事はなく、あくまでG.I.W.の公開した動画から読み取った情報を分析した事だけが書かれているからだ
「驚く事はないだろう。実際、今朝の職員会議でこの件をどう教えるか議題に挙がったんだ。これから教材を作る予定だったが、これを使わせて貰う事にする」
「えぇ……」
仮にも教師が学生のレポートを教材にするのはどうかと思うが、織斑教諭は至極真面目な表情を崩さない
「お前はもう少し自分の立場を考えるんだな。ラビットフット社のテストパイロットとしてだけでなく、戦術眼といった物にも長けている。臨海学校の一件もお前の書いたレポートが正規のISパイロット達の間でシドウ・レポートとして広まった件を忘れたか?お前のレポートはそれだけの価値があると世間からも評価されているんだ。そういった意味ではこれもまた第二のシドウ・レポートという訳だ」
「そういうものですか?」
「そういう物だ。お前のレポートは資料の配置も見易いからな。束の側近という立場も併せれば嫌でも注目は集まる。それに、私の目から見ても的外れな意見は見当たらない。そういう訳で発表しろ」
「言いたい事は分かりましたが、最後に一つだけ。何で織斑先生ではなくオレなんです?」
「レポートを活かすのに書いた本人以上の適任が居るか?安心しろ、フォローはしてやる」
「了解……」
実際、先程怒られたという負い目もあるので仕方なくだがオレは教壇まで行って端末をセットする
黒板がディスプレイだからそこに資料を映せば簡単に教材に早変わりだ
「という訳でつい先日に起きたIS撃墜事件に関してオレなりの分析を述べさせて貰う。とはいえ専門家という訳ではないから素人意見になるが。まずは何故そのような事態に至ったかの説明からだ。今回の一件、皆はそこに至るまでの経緯は知ってるよな?」
壇上に上がったところでクラスの様子を確認する、全員が真剣な顔でオレに注目しているが、撮影やらを経てオレもこういった事に慣れてきた
そしてISの撃墜事件に関しては朝から大きくニュースで取り上げられていた、それこそ他のニュースはちょっと触れて延々と、だ
ネットニュースでも一面を飾っていた事と、この場に居る誰もが将来はISに関わる事を目標としているだけに、殆んどの人間は知っているようだ
まあ、一夏とか一秋とか、あと転入生として来たばかりのリナは首を傾げていた、リナの自己紹介とか全く聞いてなかったな、それだけレポートに集中し過ぎていたって事か
「知らない人間も居るみたいだから説明しておくが、MSの発表を行った時、製造元のG.I.W.はMSをISに代わる主力兵器となると豪語した。それに反発したアメリカの女性権利団体がどうやってか保有していた第二世代型IS『スタウト』で襲撃を掛けた。大方ISの力を示そうと考えんだろうが、『スタウト』の製造元でもあるG.I.W.に襲撃を掛けるとは皮肉だな」
『スタウト』という機体はアメリカの第二世代型ISだ、堅牢な装甲と実績のある堅実な設計の武装で高い信頼性を持つ機体である
重量が重く機動性が低いのがたまに傷だが、まだ新しい兵器であったISで信頼性というのて現場からの支持が厚かった名機と言えるだろう
そんなISを保有していた女性権利団体だが、どうせISの性能でMSを蹂躙してやろうとか考えていたのだろう、まあ連中の思想でいけばISが敗れる事があってはならないのだから、墓穴を掘ったとも言えるが
「さて、そんな経緯で起きたG.I.W.本社襲撃だが、結果は知っての通りISの敗北、MSという兵器がISを倒したという、IS不敗神話の終焉だ。とはいえ完全にMSがISを上回ったかと言えば、それは絶対にない。それを分析していこう」
そうしてオレが表示したのはG.I.W.本社の見取り図だ、なんとG.I.W.本社は製造工場を含めて殆んどの施設が地下に建設されている
防衛、機密保持の観点からそのようになったという、地上にあるのは輸送機を飛ばす為の滑走路やそれを誘導する為の管制塔、地上を進むトラック等が通る為の通路くらいというのだから徹底している
そして荷物の運搬を行う巨大なエレベーターにて地下五十メートルという深さを降りた先に工場等がある、軍事関係の生産をメインとしているが、これなら核戦争が起きても生産能力を失うといった事はないだろう
アメリカとしても自国の国防に関する事だけに建設には多額の補助金が出しているらしい、そんな場所の見取り図をオレが入手した方法だが、実はG.I.W.のホームページに少し前から掲載されていた
それを鵜呑みにするのもあれだが、実際に同じような構造になっている部分はある為に今回使わせて貰った
「見ての通りG.I.W.の施設は大部分が地下に建造されている。核戦争にも耐えられる代物だが、故にISはMSの生産拠点でもある地下施設の破壊に向かう為に自らそこに侵入してきた。だがこれは悪手だ。さて、此処で一つ問題を出そうか。ISが最強の兵器として君臨出来ている理由は何だと思う?」
ただオレが話しているだけなのもあれなので授業らしく質問を飛ばしてみせたりする
それに対して手を挙げたのは……専用機持ちを除けば谷本さんだけか
「じゃあ谷本さん」
「え、本当に?じゃあ、ISが最強の理由、それはシールドバリアがあるからだよ!どんな攻撃も防ぐから無敵だよね!」
「悪くない、が全てではないな。確かにエネルギーがある限り殆んどの攻撃を防ぐシールドバリアはISに大きなアドバンテージを与えてくれる。だがオレ個人が思うISが最強たる所以は、その機動性にあると思う」
谷本さんの言うシールドバリアも大きな力だ、どんなに強力な火力を持とうが紙装甲では意味が無い
だが如何にシールドバリアと言えども被弾すればエネルギーを消費するのだ、なら対策はそもそも当たらなければ良い
「ISは既存の兵器と比べても機動性が桁違いだ。戦闘機がマッハ1の巡航速度に達したのに対してISは既にマッハ2で飛行可能な機体も存在している。更にヘリコプター以上に自由な運動能力、加えてそんな激しい機動を行ってもパイロットに負担を掛けさせないPICによる耐G性能。おまけに瞬時加速で静止状態から爆発的に加速も可能ときた。これを捉えるというのは至難の業だろう。そして、こんな滅茶苦茶な動きをする相手に攻撃を当てたところで谷本さんの言ったようにシールドバリアがある。これで戦闘機や戦車が勝てる訳がない」
戦闘機は速度でも小回りでも、武装によっては火力でも劣り、戦車に至ってはそもそも空中目標を相手にする事を苦手としている
そして先程のISでの地下施設攻撃に話を戻す
「だが何事にも例外はある。極端な話、シールドバリアもエネルギーが尽きれば使えなくなる。武装の火力によっては貫通も出来る。まあ今回の件でそんな武装はなかった訳だが。話を戻すと、ISが兵器として君臨した理由は機動性にある。だが今回のケースでは、ISは地下空間に自ら飛び込んだ。先程オレがこの事を悪手と言ったのは、地下では外と違い自由な機動が行えなくなる事にある」
そう結論を出して表示するのはG.I.W.の動画から切り出した画像だ
そこには地下の通路で大量のミサイルやビーム兵器によって集中砲火を受けるISの姿があった
「事前に述べたが、高速機動を行うISに攻撃を当てるのは至難の業だ。しかし地下という閉鎖環境ではその問題がある程度は改善出来る。このように点で当てられないのなら面で押し潰せば良いんだからな」
画像で行われている攻撃は単にISのみを狙うのではなく、満遍なく埋め尽くすかのような攻撃を行っていた
おまけにMS部隊は敵が一ヶ所しかないエレベーターから来ると分かっているのだ、事前に待ち構えておいて敵が来れば決めておいた場所に向かって撃つだけで良い
光速で迫るビームも、近距離でのミサイルも、不意を打たれたISに対して大きな効果を発揮した事だろう、結果シールドバリアはパイロットの保護をメインに張られる為に機体へのダメージは通してしまい、スラスターを破壊されて機動力を奪われたISに追加の一斉射が加えられてしまえばあっという間にシールドエネルギーが枯渇してしまう
これこそがISの敗れた真実、MS側の物量による作戦勝ちという訳だ
「ついでに言えば、待ち構えていたMS部隊とISの火力では突破が難しい三メートルの厚さの隔壁など、G.I.W.は初めからISを誘い込む為に誘導していたんだろな。ホームページにわざわざ見取り図を載せたのもその一環だろうし、倒せなくても閉じ込められるようにするくらいの設備が整っていた事からも確定だな」
相手を煽って、情報をリークして、用意しておいた隔壁で閉じ込める、何がどうあっても確実にISを仕留めるという執念を感じさせる程の代物だ
G.I.W.が漂流物を確保しているのは確実だが、それ以上に何としてもISに対抗する事を目指していたように感じられる
「結果として正面から捩じ伏せた、と言える訳ではないがG.I.W.は大きな声でISを使わずにISを倒したと喧伝している。その流れは影響は大きくG.I.W.の株価は急上昇、世界各国も軍にMSを導入しようと注文が殺到してるって話だ」
この事を話した途端、クラスの女子達は程度の差はあれど表情を歪める、中でも一番表情を曇らせたのはシャルロットだ
デュノア社が開発し、ラビットフット社が技術提供を行って発表したストライク・ラファール、それが完全に当て馬のような形にされたのだから当然だろう、協力したオレもあまり面白いとは思わない、向こうが漂流物を確保していた事への焦りや仕事に追われていたけどな
なのでデュノア社にはまた支援を行うつもりだが、今は授業だ、とは言っても後はパイロットに関するものだが
「さて、ISパイロットや整備士を目指す皆には面白くない話だっただろう。だがこれは現実だ、地下空間でなくとも圧倒的な物量で押し寄せてくる敵の厄介さは、此処に居るリナ以外の専用機持ちならば理解している事だろう」
思い出すのは臨海学校の際のデビルガンダム軍団を相手にした戦闘の事だ、向こうのように再生したりはしないが数という脅威を知る面々もまた険しい表情をしている
「本来ならMSを相手にする際にもっと厄介な点があるのだが……今は語らない方が良いだろうな。織斑先生、こんなところで大丈夫ですか?」
一通りの事を話し終えた為に織斑教諭へと確認を取ると、そのまま織斑教諭は一つ頷いて教壇に上がる
オレは自分の端末を回収して席に戻った
「悪くない発表だった、紫藤。さて、聞いての通りISに追い付けそうな兵器が登場し、以前よりもISの価値というものは低下しただろう。だがパイロットになるにしろ、整備士になるにしろ、はたまたモンド・グロッソに出場するにしろ、そのどれもが高い技量を必要とする。諸君がどのような道に進むかはそれぞれだが、今後はより一層の努力が必要となるだろう。その為にも精進しろ。では授業の続きを行う」
オレのレポートに対して織斑教諭がそう締めくくり、授業が行われていく
再び始まった学校生活、夏休みの間に世界が大きく変わっていった事からIS学園一年一組の他の生徒達は各々思うところがあるのか表情を引き締めて授業に臨んでいった
次回、コウタくんによるデュノア社へのテコ入れと会長との対談(二度目)の予定になります