ジェガン、IS世界に立つ!!   作:RABE

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割りと早くに更新出来ました、次回は……先になろうの方を一話更新してからになるので少し遅れるかもです

なお、今回はラビットフット社の保有する最大戦力の御目見えになります、タイトルで分かった人は居ますかね?


60話 教典に近いもの

前回と同じような浮遊感の後、覚醒した意識で一夏が周囲を見渡すと、そこは見覚えのない部屋の中であった

 

窓もなく外の様子は分からない、だが長いソファが部屋の壁際に設置され、中央にはテーブル、出入口らしきドアと、その反対側には大型のモニターが置いてある

 

何処かカラオケボックスみたいだなと思いつつ、他の面々も同じようにこの部屋に転送されてきているのを確認する

 

その中でクロエは真っ先にモニターに近付き、モニター横に備えられているパソコンの操作を始めた

 

「やっぱり、コウタさんが使うのはアレみたいですね」

 

「そうね、アレね」

 

何をしているのかと思っていたが、そのモニターに表示された物を見てクロエは隣に来て同じようにパソコンを覗き込んでいたリナと共に頷き合うと、まだ全容を知らない者達に向けてパソコンに表示されているものを大型モニターにも表示する

 

「まず、今回のシミュレーターでコウタさんが使う兵器ですが―――」

 

そして、ブリーフィングが始まった

 

 

織斑千冬は他の生徒達と共にシミュレーターの画面を観ていた

 

その出自が独特な、ズレた価値観を持つある意味問題児とも言える少年と、同じくズレた価値観を持つ自身の親友が手掛けたシミュレーターの価値は十分に認めていた

 

流石に先程の自爆には面食らったものの、今度はそのような心配はないと聞いて一先ずは信用している

 

シミュレーターに表示されている戦場は海上、専用機持ちの発進場所はラビットフット社の保有する大型輸送機アルバトロスとなっていた

 

その輸送機自体は千冬も知っている、簡易的な移動拠点兼商業目的の輸送機だと報告を受けているからだ

 

なので千冬は康太の指揮する母艦の方に視線を向ける、雲に隠れているようだが海上という事は何らかの船舶、恐らくは空母や揚陸艦といった船にMSを載せているのだろうと予測する

 

そうしている内にモニター内にその艦が現れる、白を基調とした塗装がされ前方に伸びる三本のカタパルトが特徴的であり、一対の翼を備えたその艦が()()()()()()()()()()()()()現れたのだ

 

「あの大馬鹿者め……」

 

どのような母艦か先に聞いていなかった自分も悪いが、誰がこのような空中戦艦を持ち出してくると予想出来たというのか

 

モニターに姿を現した事で『ネェル・アーガマ』と表示された艦を眺めながら、千冬は内心頭を抱えるのだった

 

 

頭を痛める千冬の心情など知らず、ネェル・アーガマの艦橋にてオットー・ミタスと同じ軍服に身を包んだ康太は艦長席に腰掛け正面に視線を向けていた

 

「艦長、レーダーに敵輸送機を捕捉、本艦の前方二十キロの位置です!」

 

「始めるとするか。ブリッジ遮蔽、ミノフスキー粒子戦闘濃度散布!MS隊は順次発艦始め!後部ミサイル発射管、全弾ビーム撹乱幕を装填!各砲座、照準敵輸送機!」

 

擬似的に再現されたオペレーターからの報告に対して矢継ぎ早に指示を出す康太、それに応じて艦橋の窓を装甲が覆い、ミノフスキー粒子が戦場に広がっていく

 

それと同時に原作通りの大きさの艦に対してISサイズのMS、ジムⅢがベースジャバーに乗りカタパルトから発艦を開始する

 

サイズの違いから特徴的とも言えるカタパルト甲板に増設されたISサイズのカタパルトにより四機ずつ横並びで発艦していくジムⅢ、それが後部を含めた四基のカタパルトから発艦する為、搭載されている三百機が次々と飛び立っていく

 

「主砲並びに単装ビーム砲、サブ・メガ粒子砲、発射準備良し!」

 

「主砲発射!他は次に備えろ!」

 

そうして状況が刻一刻と推移していく中で砲術長の席より攻撃準備が整った事を受け、指示を出す

 

ネェル・アーガマの上下に備えられた二連装メガ粒子砲が稼働し、アルバトロスへと狙いを定めると同時に発射された強力なビームが途中に存在した雲を散らしながら突き進む

 

計四門の砲から放たれたメガ粒子は、航空機と言えども足の遅い輸送機であるアルバトロスを違わず撃ち抜き、その巨大な翼をもぎ取った

 

「主砲命中!敵輸送機、墜落して行きます!」

 

「まだだ、まだISが出てくるぞ!MS隊の発進状況は!?」

 

「八割が発艦完了しました!」

 

「よし、残りは本艦の直掩に回せ!ミサイル発射管、MS隊が敵部隊と交戦する前にビーム撹乱幕を展開する!接敵までに準備急げ!」

 

「了解!」

 

「観測機の状況は!?」

 

「全機上空にて待機中!ミノフスキー粒子に上手く隠れています!レーザー通信は感度良好!これは、観測機より入電!敵IS部隊を確認!数九、本艦に向け針路を取っています!」

 

「よろしい。これより対IS戦闘を開始する!ミサイル発射管、諸元入力!敵の鼻っ面に叩き込んでやれ!MS隊はビーム撹乱幕の展開と同時に攻撃開始!」

 

「MS隊、敵部隊との接触まで残り二十!」

 

「ビーム撹乱幕発射!」

 

「了解、ビーム撹乱幕発射します!」

 

展開される部隊の状況、敵の状況、それらを把握し行動に移していく康太、その指示によって放たれたミサイルが複数、戦場へと向かう

 

が、到達と同時に炸裂する筈だったミサイルが幾つか迎撃され、効果を発揮する事なくレーザーにより撃ち落とされた

 

「敵がミサイルを迎撃!ビーム撹乱幕、当初の予定より拡散していません!」

 

「やはり対応してきたか。となると、クロエだな。狼狽えるな、第二次攻撃を開始する。ミサイル発射管、再びビーム撹乱幕を発射せよ!MS隊にはビーム撹乱幕の展開が完了するまで無理に仕掛けるなと伝えろ!」

 

「りょ、了解!」

 

だが即座に次の手を打つ康太、自身の取った戦術はネェル・アーガマを運用する際の戦術として考案していたもので、それを知っている相手となると自ずと限られてくる

 

第二波として新たなミサイルが発射、今度は既に展開されていたビーム撹乱幕の影響によりレーザーで迎撃される事もなく全てのミサイルが新たなビーム撹乱幕を形成する

 

展開までに十機近くのジムⅢが落とされたものの、まだ大勢に影響はないと見て攻撃を続行する

 

「全機、攻撃開始!可能であればバンシィ並びにフェネクスを優先して攻撃、撃墜せよ!」

 

そうして場の準備が整った事で全ての部隊に攻撃指示を出す康太、そこには自身の戦術を知るクロエとリナを真っ先に倒すように仕向けていた

 

「この艦の全力は出せないとはいえ、此方の戦術を把握されている以上は無視も出来んからな。仲間とはいえ、戦いは非情さ」

 

同じ企業に所属し、幾つもの戦いを切り抜けてきた戦友であり、幼馴染でもある二人ではあるが、今の康太は完全に指揮官として振る舞っており手心を加えようという考えは一切なかった

 

こうして、戦闘の火蓋は切って落とされたのであった

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

撃墜されたアルバトロスからISを展開して脱出した一夏はそう安堵の息を吐く

 

作戦会議として康太の指揮する戦艦のスペックを大まかに説明されていた時に襲ってきた強力なビーム攻撃により大きく揺れる機内、劈くような音を立てて軋んでいく輸送機の内装を見てそれぞれが思い思いにISを展開して脱出していくというまず普通では体験出来ない経験に冷や汗をかきつつ、砲撃が飛んできたであろう方向を見やる

 

『皆さん、ご無事ですか?今のは輸送機を狙った攻撃です。次は私達を狙ってくるでしょう。ですが、康太さんならその一段階前に仕掛けて来ます』

 

少し落ち着いたところでクロエからの通信に耳を傾ける一夏

 

自分も康太の出自を知るだけに、それが指揮する戦艦が普通ではないと予想は出来ている

 

そして康太と共に居る事の多いクロエならば自分達以上に康太の取る戦術を知っているだろう事から自然と指揮を任せていた

 

『クロエさん、このジャミングもその一環ですの?』

 

『まさかISのハイパーセンサーで此処まで見えなくなるなんてね』

 

『確実にミノフスキー粒子の影響です。私達のビーム兵器に使用している粒子ですが、レーダー等を阻害する効果もあります。それを戦艦の出力で散布されればこうなるのも仕方ありません』

 

そんな中でセシリア、シャルロットの現状で一番の厄介な点を挙げ、その理由を知るクロエが答えた

 

本来ならば広大な宇宙でも運用が可能なように数百キロであろうと見渡せるISのハイパーセンサーが、現状では三キロ程度しか鮮明に把握出来ないというのはISに乗り慣れている者からすれば信じられないような現象であった

 

『逆に向こうは戦艦サイズのセンサーを備えているので、私達よりも眼が広いです。更にはコウタさんの事なので念には念をと観測機を飛ばしている筈です。なので、恐らくは上空に既に敵機が居ます』

 

『本当に念入りだな』

 

『うむ、戦術的には正しい判断だな。不測の事態というのは何時如何なる時でも起こり得るものだ。ならば、誰かが上空の観測機を止めなければなるまい』

 

それらの事から彼我の戦力差を冷静に伝えるクロエ、敵に回り本気で仕留めに掛かってくる康太の容赦な無さに箒は頬を引つらせ、元軍人のラウラは逆に感心しながらも対策を練っていく

 

だがそれよりも早く、この場で一番センサーの性能が高いセシリアが警告を発す

 

『戦艦からミサイル!』

 

レーダーが阻害されていなければより早く接近に気付けたであろうが、既に距離は近く着弾まで幾許の猶予もない状態であった

 

いち早く気付いたセシリアは可能な限り迎撃を試みるが全てを撃ち落とすには至らず、他の専用機持ちがそれぞれ回避に移る中、唐突にそのミサイルが自爆する

 

『不発!?』

 

『いえ、これはビーム撹乱幕です!エネルギー兵器の射程が殆ど発揮出来なくなります!直ぐに実弾に換装して下さい!』

 

事前に情報共有が出来なかったのが痛かった、クロエは自分達を覆うよう広範囲に展開されたビーム撹乱幕を見て悔しがる

 

その後の展開が予想出来るだけに、直ぐに手を打たなければ何も出来ずに撃墜されてしまう

 

『そんな事を言われましても……』

 

『セシリア、コレ使って!』

 

『これは、感謝しますわ、シャルロットさん!』

 

それぞれ実弾兵装に装備を切り替える中、装備が基本的にレーザー兵器しかないセシリアにシャルロットが自身の装備の中から六一口径アサルトカノン、ガルムを貸し出す

 

同じように射撃がビーム主体の紅椿を駆る箒にも一夏が自身の拡張領域内からジム・ライフルとバズーカを、近接戦闘主体の一秋と鈴にも同じ装備がラウラとクロエから貸し出していた

 

そうして準備を整えた時、センサーにネェル・アーガマより発艦したMS隊が捉えられる、まだ向こうは射程距離に入っていないのか攻撃はしてこないが、ギリギリで射程圏内に入っていたセシリアとシャルロットがそれぞれガルムで狙撃を行う

 

それらの攻撃は違わずジムⅢを捉え、制御を失った機体がベースジャバーより落下していく

 

そのまま立て続けに落としていく二人だが、十機を超えた辺りで再びミサイルが着弾する、弾頭は先程と同じくビーム撹乱幕であり、より濃度を増したガスによりビーム兵器の射程は絶望的となった

 

『敵部隊、来ます!』

 

そんな戦場になり今まで回避を優先していたMS隊の動きが変わる、率先して距離を詰めるように動いており、セシリアとシャルロットが狙撃で数を減らすよりも遥かに多くの敵が殺到する

 

そして双方の距離が一キロを切った時、MS隊の方から大量の白煙の尾を引くミサイルの群れが放たれた

 

「うおおおおおっ!?」

 

ジムⅢの肩部と腰部に備えられているミサイルポッドより放たれたミサイルの数は一機につき十発、ここまでに十数機が撃墜されているとはいえまだまだ総数二百を超える数から放たれたミサイルは文字通り視界全てを覆い尽くす程の物量となり一夏達を襲う

 

ジム・ライフルや散弾入りのバズーカを使い迎撃するも圧倒的な数を前には僅かな量に過ぎず、一発でも被弾すれば体勢が崩れ立て続けに被弾が重なる

 

それでも全身装甲であるユニコーンを纏う一夏はまだ楽な方であった、ミサイルの被弾により激しく揺さぶられはしたもののシールドエネルギーの減少はまだ少ない

 

同じだけの攻撃を受け、全身を装甲で覆っていない者達は被弾によりシールドエネルギーを大きく減少させ、衝撃を受け止められなかった為に脱落する者も出た

 

「一秋兄!?箒!?」

 

機体が全身装甲ではなく、パイロットとしての経験が浅い一秋と箒の二人が脱落、意識を失い海へと落下していく

 

その二人を受け止めようと一夏はユニコーンを動かそうとするが、そこに散弾の雨が襲い掛かる

 

「くそっ、こんな時に!」

 

攻撃のあった方向を見れば数機のジムⅢがバズーカを構えて接近してきていた

 

早く救助に向かいたいという焦りの中、一夏に向けて機体から戦場の状況が変わった事が知らされる

 

「ビーム兵器が使えるようになった、これなら!」

 

伝えられたのはビーム撹乱幕の濃度が下がったという情報であった、それを受けて一夏はジム・ライフル等の実弾兵器を格納すると新たに拡張領域の中からビームガトリングガンを取り出し、弾幕を形成する

 

弾切れのある実弾兵器よりも弾数の多いビームガトリングガンによる弾幕で射撃の苦手な一夏でも次々とジムⅢを落としていく

 

そんな状況に堪らなくなったのか、大きく散開していくMS隊、この隙きに救助に向かえばまだ二人を助けられると一夏が思ったその時だった

 

『いけません、艦砲射撃が来ます!回避をッ!!』

 

「えっ?」

 

クロエからの警告、だがその言葉を理解するよりも先に一夏の視界がピンク色をした光に覆い尽くされる

 

その光が通り過ぎた時、一夏の姿は何処にも見当たらなかったのであった

 

 

「敵IS、三機撃墜しました!それぞれ白式、紅椿、ユニコーンと断定!」

 

「ふむ、クロエはともかくリナが生き残ったのは意外だな。近くにシャルロットが居たのは運が良かったという事か」

 

エネルギー兵器を封じてからの実弾の物量により疲弊させ、艦砲射撃による攻撃による戦果を聞きながら康太はそう呟く

 

事前の予想では先程の戦術に対して一番有効に対処するのは実弾兵器を多く持ち、高速切替により状況に応じて素早く対応する事の出来るシャルロットだと予想していたからであり、その近くにたまたま居たリナが生き延びた事も不思議ではなかった

 

対してクロエは最初に比べてその技量も格段に向上しているのを康太は直ぐ近くで見てきた、可能な限りで攻撃を集中させて砲撃で仕留められなかったとしても、多少の期待こそあったものの仕方ないと直ぐに割り切れている

 

とはいえこのままでは数に任せて押し潰す事が可能となる、ジムⅢの装備はバズーカの他にビームライフルとシールドを持たせてあり、その全てがジェガンの物をそのまま使用している

 

その為、火力だけならジェガンD型と全く同じであり、それが四方八方から撃ってくる中で掠めただけでも撃墜される危険性のあるネェル・アーガマのメガ粒子砲がある、康太としても同じ状況に放り込まれれば苦戦は免れない状況にどう対処するのか、康太はそこに興味があった

 

「艦長!敵IS部隊、本艦に向け接近してきます!」

 

「ほう、そう来たか。観測機の方は戦線に参加するように伝えろ。距離が縮まれば本艦のセンサーで十分に捉えられる。初撃が肝心だ、上手くやれよ」

 

「了解!」

 

そしてオペレーターより伝えられるクロエ達の動きに康太は小さく笑みを浮かべ、軍帽の位置を直しながら指示を出す

 

それはこの状況での最適解であり、それを成し遂げられるかどうか、その勝負が分かれ目となる事を悟っていた

 

 

周囲を包囲するように展開するMS隊に背を向けるようにしてネェル・アーガマへと向かうクロエ達は移動し、時折飛んでくる砲撃を回避しながら通信をしていた

 

『それで、何で向こうに突撃するのよ?』

 

「この戦闘の勝利条件は三つ、『敵MS隊の殲滅』と『敵艦の撃沈』、そして『敵指揮官の排除』です。先程の状況では敵の殲滅しか勝利条件はありませんが、あの数と艦砲射撃を同時に相手取るのは分が悪いと言わざるを得ません。加えて、あの場に居た全てのMSを撃破したところで、まだ直掩に残された機体が敵艦周辺に残っています。なので他の二つの条件も狙える敵艦周辺での戦闘の方が私達に有利に働きます」

 

『成る程、合理的な判断だ。この中であの艦や康太について一番知っているのは姉上だ。私はその判断に従おう』

 

「他にも、敵艦に乗り込めば向こうは攻撃を躊躇い、艦砲射撃は死角に入る事で封じられます。そこに辿り着くまでが厳しいですが、この状況を覆すにはそのようなリスクを負う必要があるのです。あと、姉じゃないです」

 

『私は問題ありませんわ。それに、そろそろ一度くらいはまともに康太さんに勝ちたいですもの。このまま勝ち逃げなんて許しませんわ!』

 

『そうだね、さっきのシミュレーターも色々と問題あったし、ちょっとは返さないとね』

 

移動しながら作戦を伝え、全員の同意が得られた事で団結して動き出すクロエ達、だがそんな中で一人、リナだけが何かに引っ掛かっているように首を傾げていた

 

『ん〜、でもコウの事だからまだ何かありそうなのよねえ』

 

「そうですね、コウタさんならまだ何か仕込んで居ても不思議ではないです」

 

『その何かが、具体的に何なのよ?』

 

『そうね、例えば――――――狙撃とか?』

 

次の瞬間、上空より放たれたビームがリナの駆るフェネクスの背部に直撃し、スラスターとアームドアーマーDEを接続しているアームを破壊した

 

「全機緊急回避!」

 

『何で私が言った時に撃ってくるのよおぉぉぉぉぉッ!!』

 

リナの被弾を確認した途端に回避に入った事で幸いにして他のメンバーへの被弾は無かった

 

その中でセシリアは狙撃手の姿を捉えようと背面飛行をしながらスターライトMkⅢを上空に向ける

 

未だに狙撃が飛んできている事から射点の特定は容易であり、その光学センサーが相手の姿を捉えた

 

それは機体本体はジムⅢであるものの、背中には航空機を背負うように接続し、長大なライフルを構える機体であり、航空機の方には丸いレドームが備えられている

 

捕捉と同時に情報が更新、機体名ジムⅢ・ディフェンサーと表示され、細かな情報も他の者達に共有される

 

「観測機!完全に失念していました……ッ!」

 

『成る程、あれが我々の上を飛んでいたから砲撃の精度があれだけ高かったのだな』

 

『本当、数が多くても力押しでくるだけデビルガンダム軍団の方がマシだったんだね!性格悪すぎるよ、康太!』

 

『何を言う、部隊指揮官として有効な手を打つのは当たり前の事ではないか。康太はその当たり前を実践しているだけだ』

 

『そう言うラウラさんはどっちの味方ですの!?』

 

奇襲により散開しながら通信は繋がっている、クロエは存在を知っており、戦闘を開始する時には言及していたにも関わらず今になって思い出した事を悔やみ、シャルロットは数と戦術の組み合わせによる手強さを嘆き、ラウラは隊を率いる立場に居た事から康太の手腕を評価し、そんなラウラにセシリアがツッコミを入れる

 

先程まで希望が見えていたが完全に浮足立つクロエ達だが、そこに発破を掛ける者が居た

 

『色々と面倒な手を打ってくるけど、結局は康太を倒せば勝ちなのよね!ほら、前から来る砲撃と後ろからの狙撃、どっちも避けながら進むわよ!』

 

「そう、ですね。早くしなければ他のMS隊も加わってより状況が苦しくなるだけです。なら、前に進みましょう!」

 

『鈴さんの仰る通りですわ。それに、向こうが狙撃出来て此方が無理という話はありませんもの。進みながらですが、私があの狙撃手を対処します。ですので、皆さんは回避に専念して下さい!』

 

『私はさっきのでスピード出ないし、此処で足止めするわ。まあ、ちょっとだけだろうけど、無いよりはマシよね!』

 

難しく考えるよりも即行動に移した方が良いと述べる鈴に、全員がそれぞれに出来る事をしていく

 

位置が露見しているのに一切移動する素振りを見せない狙撃手に、同じ狙撃手のセシリアが撃ち負ける筈もなく砲撃の合間を縫ってはレーザーによりジムⅢ・ディフェンサーを撃ち落とす

 

スラスターを撃ち抜かれた事で足の鈍ったリナがその場に残り、当たらずとも派手に攻撃を放つ事で追撃してくるMS隊の注意を引く

 

それらの活躍により遂にネェル・アーガマの眼前まで迫るクロエ達、その接近を阻もうと直掩のジムⅢが動き、ネェル・アーガマの対空砲が火線を放つ

 

中でも一番に厄介なのがネェル・アーガマの対空機銃であり、セシリアの持つスターライトMkⅢと同等の威力のレーザーを雨のように撃ち続けていた

 

『この火力は反則ですわよ!?』

 

「サイズと出力の差です、諦めて下さい」

 

『それはそうだけど、どうやってあの中に入るの!?』

 

「対空砲を潰しつつ、あのカタパルト甲板に降ります。あそこなら敵も迂闊に撃てません」

 

『その後はどこかに穴を空けて突入するって訳ね?』

 

「そうです。ですが生半可な火力ではあの艦の装甲は抜けません。ビームサーベルで切り裂くか、或いは―――」

 

『私の機体にあるハイパー・メガ・カノンの出番という訳だな、姉上!』

 

「はい、この艦の単装ビーム砲並みの威力ですが、十分な威力が期待出来ます。あと、姉じゃないです」

 

この場に残った五人は襲い来る攻撃の嵐を回避し、時に対空砲を砲座ごと吹き飛ばしながら即座に作戦を決める

 

全ての対空砲を潰す必要はなく、左舷の対空砲を無力化したところに生じた穴を抜けて船体中央にあるカタパルト甲板に着地する

 

なお康太が艦橋で此処ぞとばかりに「左舷砲撃手、弾幕薄いぞ!何やってる!」と言っていたが、当然クロエ達は知らない

 

『チャージ完了まで十秒は掛かるぞ!』

 

『それまで敵を寄せ付けなければ良い訳ね!』

 

『分担してラウラさんの周囲をカバーしますわよ!』

 

『向こうも、何とか排除したいみたいだね』

 

「ですが此方は艦への被害を無視出来ます。このまま勝ちます!」

 

そうしてネェル・アーガマに取り付いた五人は行動を移す、ラウラが自身の機体が備えているハイパー・メガ・カノンを艦橋へ向け、その周囲を囲むように他の四人が盾となる

 

チャージが完了すれば撃たれる、その事が分からない訳もなく阻止しようと直掩のジムⅢがベースジャバーから降りてビームサーベルとシールド、或いはビームジャベリンを構え近づけば鈴がビームトライデントを振るい貫き、他の三人から近付く前に撃たれ撃墜されていく

 

それでも気を抜けない状況で実際の時間よりも長く錯覚しながらもハイパー・メガ・カノンのチャージが完了した

 

そうして放たれたのは戦艦の火力にも引けを取らない威力のビーム攻撃、それは艦橋の前方部分を撃ち抜き、ISが通り抜けるには十分な大きさの穴を空ける

 

「今です、突入しましょう!」

 

『ええ!』

 

『そうね!』

 

『うん!』

 

『うむ!』

 

道は出来た、残っているMS隊も無視出来る、ならば躊躇う必要は何処にもないと五人は艦橋へ足を踏み入れる

 

そこには黒い軍服を身に纏い、艦長席から立ち上がって侵入してきたクロエ達に鋭い視線を向ける康太が居た

 

「ふむ、まずは見事だと言っておこう。よくぞあの戦術を打ち破ってみせた。クロエの情報があったとはいえ、勝たせる気は無かったのだがな」

 

「それでも、今回は私達の勝ちです、コウタさん」

 

「まあ、そう見えても仕方ない。だが私はまだこうして立っている、外に居るMS隊を突入させる事も出来る、艦の大型核融合炉を臨界状態に持っていき、核爆発により道連れにする事も出来る。戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなね。ならどうやって勝ち負けを決める?―――敵である者を全て滅ぼして、かね?」

 

対峙し、懐から取り出した現実でも康太の愛銃となっているカスタム品のGSRが五人に向けられた

 

拳銃程度、ISを相手にするには殆んど意味を為さない、にも関わらず康太から発せられるプレッシャーのようなものにセシリアと鈴、シャルロットとラウラは思わず一歩後退ってしまう、が―――

 

「今は訓練です。コウタさんを拘束すれば此方の勝ちでシミュレーターも直ぐに終わるのですから大人しくして下さい」

 

「えー、もうちょっとこう、ラスボス的なムーブしたかったんだけど、あ、ちょ、分かったから腕を撚るなISのパワーだと洒落にならなアーッ!」

 

何も影響を受けた様子のないクロエの言葉にあっさりと威圧感を霧散させた後、無理やりに拘束され腕に手錠を掛けられる

 

そのあまりの落差に四人は呆然としていたが、クロエの言っていた通りに手錠が掛けられた瞬間、勝利条件を満たした事でシミュレーターは終了、全員の意識が現実へと帰還していくのだった

 

 

「で、何でオレは正座させられてるんです?」

 

「ほう、何も心当たりがないと言うか?」

 

「ちゃんと言われた通りに自爆は無しにしてたじゃないですか。やろうと思えば甲板に取り付かれた時点で融合炉を臨界に持っていって自爆も出来たんですよ」

 

「そもそもあのような戦艦を持ち出した事が問題なのだ、馬鹿者!」

 

「ザクレロッ!?」

 

あの後、現実に戻ってきた途端にオレは織斑教諭に正座をさせられ、今日何度目かの出席簿を食らっていた

 

「MSは良い、あの性能なら直ぐに束の奴が作れるだろうし、今のMSもあのような代物だからな。だが、あの空中戦艦はどうみてもおかしいと思わなかったのか?」

 

「痛た……あー、織斑先生、一つ言い訳していいですか?」

 

「何だ、言ってみろ」

 

「ネェル・アーガマですが、此処だけの話、地下ドックで既に七割方建造が完了してます」

 

だが話を聞く限り、ネェル・アーガマの姿があまりにも常識と掛け離れていた為に怒られているらしい、なのでオレはネェル・アーガマの事を一部教えた

 

そう、あの艦は今現在地下のラボの一角で建造中なのである、それには回収してきたエウクレイデスが大いに役立っているとだけ言っておこう

 

そもそも核融合炉を始め幾つもの技術を保有しているのだ、建造に着手したのは臨海学校の後だが、リソースを大きく割いての建造はかなりの速度で進んでいる

 

だから決して空想上の産物、という訳ではないのだ

 

「お前達は一体何と戦っているんだ……」

 

「仮想敵はデビルガンダム本体ですよ。ISが突入して撹乱。ビーム撹乱幕は突入部隊の掩護。ISでデビルガンダム本体の注意を引きつけ、先程は封印してましたがネェル・アーガマのハイパー・メガ粒子砲で仕留める。そういう想定で建造しているんです。後は宇宙に出た際の拠点として使ったり、他様々な技術が実際にどのように動くかの技術実証艦という訳です」

 

つけ加えるなら、本来は宇宙での活動の目処が立った辺りで、もっと武装の少ない別の艦を建造する予定だったのを、対デビルガンダムという目的の為に計画を前倒しで、武装が豊富で艦載機の運用に長けた艦、という事でネェル・アーガマの建造が決まったのだ

 

デビルガンダムとの戦いが終われば宇宙で使用するという役目もあるので無駄ではない、建造の技術料はともかく素材でかなり高くついたけど

 

技術実証としては重力ブロック、ミノフスキー・クラフト、大型核融合炉の建造といった物が挙げられ、宇宙に出れば順次研究を行う為の設備も追加する、そんな予定である

 

「……まあ、分かった。詳しくは束からも聞いておこう。ところで、先程のシミュレーターでこの艦を使ったのは、もしかしてだが―――」

 

「理論値ですが、実際に操艦した際の戦闘データ等の収集もありますね。各国の代表候補生等と本気で戦闘出来る、良い機会でした」

 

「やれやれ、随分と強かになったものだ。話はもう良い、お前は今から他の生徒達がシミュレーターを使う際のサポートに回ってくれ。お前の用意した機体を使う場合、その簡単な説明も頼む」

 

「分かりました、織斑先生」

 

と、どうやらオレの言葉に色々と納得がいったのか、怒気の失せた様子の織斑教諭から言われた通りの役割を熟す為に端末を用意し、登録してある機体の説明をする作業に移るのだった




という訳でコウタくん達の新たな戦力、ネェル・アーガマの登場でした。

登場の理由は本編でコウタくんの言った通りです。

なお当然のように、本来ならISのシールドバリアを有しているので、シミュレーター中もやろうと思えばシールドバリアを展開してラウラの砲撃を防げました、流石にそれは大人気ないという理由でハイパー・メガ粒子砲ともどもコウタくんが封印してましたが。

次回は、そろそろ楯無さんと他の専用機持ちとの絡みも書かないといけないので、専用機持ちのみでの訓練シーンとか、文化祭の準備シーン、でしょうか?まだ未定です
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