ISを纏うオータムと強化服を使用しているとはいえ生身の康太との戦闘は既に五分を経過していた
後から追加される為に薄れる様子のない煙幕、加えて上司たるスコールより生かして捕らえる事を厳命されているオータムは射撃武器が使えなかった
しかし例えそうだとしても生身の人間一人に此処まで梃子摺る事など有り得ない、最初は怒りに呑まれそうになっていたオータムだが、現状に焦りが見えていた
「クソがッ!何処行きやがったッ!」
センサーを封じられ、正確な位置が掴めない為に無闇矢鱈と破壊して康太をうっかり殺しては意味がない、しかし大して損害のない攻撃を続けてくる康太が付かず離れずの位置に居るというのはオータムにも都合が良かった
なんとかカウンターで捕まえる、康太の動きにも慣れてきた時、煙幕の向こう側より放たれた火線がアラクネを打ち据える
「チッ、そこかッ!」
人間が個人で抱えられるような威力ではない、銃座に設置する重機関銃の類だと気付いたオータムはその先に康太が居ると踏んで銃弾を防ぎながら射点に突進する
その先に見えたのはブローニングM2重機関銃であり、対物ライフルに使用される銃弾を連射してくる代物であったが、決められた方向に撃つよう固定されたセントリーガンとしての物であり、無事であったロッカーの中から展開されているが康太の姿はない
それが囮だという事に気付いたオータム、そんな彼女を強烈な発砲音と共に重機関銃とは比べ物にならない程の衝撃が襲う
「な、何だッ!?」
攻撃が来た方向、あまりの衝撃に弾が通り抜けた後は煙幕が晴れた空間の先には康太が居り、康太の身長以上の銃が腰溜めに構えられていた
それはミネッサが康太の為に用意した強化服用の銃であり、XM109という対物グレネードランチャーを、ライフルとして改造した代物であった
銃身を延長し、専用の徹甲弾の炸薬を増やし、発砲の衝撃に耐えられるように銃本体の強度を上げたそのライフルは、口径25ミリという既に銃ではなく砲という分類になる程の大口径を誇っている
その重量、反動から強化服を着ていても反動制御は困難な化物のようなライフルだが、その威力は既にIS用の火器にも匹敵する
あまりにも現実離れした武装の存在に思考が停止するオータム、その間に康太は煙幕が晴れた事からより正確な照準をつける事が可能となり、続けて発砲する
それはアラクネのサブアームの付け根に着弾し、二本の腕を破壊した
着弾の衝撃に蹈鞴を踏むオータム、その隙に康太はライフルを拡張領域へと格納すると再び煙幕の中へと逃げ込む
それまでは取るに足りないと思っていたオータムは流石に認識を改めた、ISを使わずとも勝てるという康太の態度に嘘偽りは無かったのだと、今の火力を見て理解する
「クソッタレがあぁぁぁぁぁッ!!」
だがそれで納得出来るかは別である、それまで封印していた射撃武器を取り出すと更衣室の中を全周囲水平に薙ぎ払った
それでも捕獲という任務は忘れていなかった為に康太が逃げた方向から逆に時計回りに発砲はしていた、それによりオータムが発砲してきた事を察した康太は姿勢を低くし、銃弾は康太の頭上を通り抜けていく
だが銃弾が通り抜けた先は煙幕が一時間に晴れる、偶然にも間に障害物が無い場所に康太が居た為、その姿を見付けたオータムは今度こそ逃がさないという執念を滲ませて康太を捕らえようとする
そんなオータムを強化服の膂力で伏せた状態からの跳躍により上に逃れる康太、オータムも通り過ぎた後で即座に振り返るが、自身の首に何かが纏わり付いているのを感じた
次の瞬間、勢いよく首が締められ呼吸が出来なくなるオータム、混乱する中、見れば康太の手にはワイヤーが握られていた
「フンッ、シールドバリアに頼っているからこうなる」
康太のその言葉はオータムには殆ど聞こえていなかったが、ワイヤーを首から離そうと手を伸ばすも、食い込んだワイヤーをISの手で掴むのは困難であった
今にも意識を飛ばしそうになるオータム、ISの保護機能により護られているが、即座に命に関わるものではない為に保護機能の発動も遅い
しかし流石に命の危機が迫ってくるとISも搭乗者を保護する為に動き出す、オータムの首に繋がるワイヤーをシールドバリアの応用で焼き切ったのだ
ワイヤーが焼き切れた事で呼吸が可能になり、新鮮な空気を大きく吸い込み、荒く息を吐くオータム、最早命令も頭になく、此処まで自分を馬鹿にした相手を徹底的に痛めつけてやらなければ収まりがつかない、そう思い下手人の姿を探し求めると、煙幕が薄くなってきており、同時に阻害されていたセンサーも回復した事で康太の位置を捉える
逃さない、その一心だけを胸に康太の居る位置へ視線を向けるオータム、そこには床にある何かのハッチを開け、その中へと身を踊らせる康太の姿があった
「ふざっ!?巫山戯るなよテメェッ!!」
此処まで自分を虚仮にしておきながら悠々とこの場を立ち去ろうとする康太の姿に、オータムはかつてない程の怒りを込めて突進する
追い付くが、既に康太は穴の中、その穴はISが通り抜けるには遥かに小さく、人間一人が通り抜ける程度であり、更にはその穴の向こうからエンジン音が聞こえ、小さく見える向こう側をバイクに乗った康太が一瞬だけ通り過ぎていった
それを見たオータムは直ぐにISを解除すると自身も同じ様にハッチの中へと身を踊らせる、そして着地する瞬間にISを展開すると遠目に見えるバイクのブレーキランプの光を目掛けてISを飛ばす
康太の乗るバイクは既に角を曲がっていて姿は見えないが、オータムは必死に追う、曲がり角を曲がればやはり遠目にバイクが見え、同じように先の曲がり角を曲がっていくのが見えた
逃げるにしても行き先を告げるかのような康太の姿、それは明らかに誘い込むような動きに見えるのだが頭に血が上りきったオータムには関係がない
ISであるとはいえ蛇行するように通路を進むバイクを追うには速度を活かしきれず、ある程度の距離を詰める事に成功するも、最後には何かの部屋に入って行った康太だが、その隔壁が閉じられる
だがその程度で諦められる訳がないオータムは隔壁に向けて残る全てのサブアームを射撃形態にすると、自身の持つマシンガンと共に隔壁を蜂の巣にして内部へと飛び込んだ
「やっぱり、あのオータムなら挑発し続ければ乗ってくると思ってたわ」
「康太さんを囮にするのは気が進みませんでしたが、此処までは計画通りです」
「なっ……あっ!?」
だが部屋の中に飛び込んだオータムを待ち受けていたのはフェネクスとバンシィを駆るリナとクロエ、そして横一列にずらりと並んだジェガンにキャノンガンといった機体達、そしてISの展開を行っている康太の姿であった
「オレ達はラビットフット社、篠ノ之博士の私兵だ。まさかオレの機体が新慈絵丸一機だけだと本気で思っていたのか?」
そう言ってジェガンR型を展開した康太、更には先程破壊した隔壁よりも強固な隔壁が降ろされた事で、オータムは康太の機体が使用出来ないという状態の初めから全てが罠だったと今更ながら悟った
「クッ―――」
「撃て」
「クソがあぁぁぁぁぁッ!!」
絶叫するも、逃げ場のない室内で十を超えるISからの集中砲火が康太の合図と共に開始された
全ての機体が構えるビームライフルやビームキャノンが容赦なくアラクネを捉え、あっという間に原型を留めない程に破壊していく
オータム本人はISにより護られているとはいえ、最早戦闘どころかまともな飛行すら不可能な程に攻撃を受けたアラクネはそのまま地面へと崩折れる
そのまま油断せず無人機達にはアラクネに銃口を合わせるよう指示を出した康太は、一先ず亡国機業のエージェントを捕らえる事が出来た事に安堵する
「まずは一機、だな」
「お疲れ様でした、康太さん」
「ふふん、オータムは怒りやすいから煽り耐性が低いっていう私の情報、役に立ったでしょう?」
「そうだな。まさか此処まで釣れるとは」
事前にリナからの情報により亡国機業のエージェントに関してはプロファイリングが完了していた
だからこそ舞台でシールドエネルギーを使い切り、ISが使えないという状況を演出し亡国機業のターゲットである康太自身を囮とし、その康太が生身でオータムを挑発する
そうして冷静な思考が出来なくなったオータムをこうしてラビットフット社の地下施設の奥の奥へと誘い込み撃滅するという策が無事に成功した事に一先ずは安堵する
「残る一機、バックアップ要員とされるMの方だが―――来たな、構えろ!」
リナからの情報により亡国機業が投入してくるISは二機だという事は判明していた、多少の差異はあったとしてもIS戦力は敵リーダーのスコール・ミューゼルという人物が持つゴールデン・ドーンという機体だと分かっている
その為にIS学園最強の肩書を持つ生徒会長の更識楯無が遊撃として存在しているのだ、そして隔壁の向こう側からの敵意を感じ取った康太の警告により少なくとも一人は釣り上げられたのだと確信する
複数の装甲を束ねて作られた隔壁、貫く手段はそこまで多くないが、ビームサーベルのように高熱量を当て続ける武装は流石に防げない、現に今も康太達の目にはビーム刃により溶断されていく隔壁が見えていた
その為、敵が隔壁を突破した瞬間を同じ様に狙い撃つ、そういった作戦で、溶断された隔壁が倒れた瞬間、全ての機体が攻撃を開始する
それぞれのビームライフルのEパックが尽きるまで行われた総攻撃、隔壁の向こうには倒れた敵の姿があるか、確認しようとした時だった
「全機、緊急回避!」
持ち前の勘で敵の動きを感知した康太、無人機を自身のコアに格納しスペースを確保した後、その場を離れていく、それに追随する形でクロエとリナもまた動くが、隔壁の向こう側より緑色をしたビームが飛来する
「この威力、荷電粒子砲か」
光速で飛来する為に避けるのは間に合わなかった、事前に前に向けていたシールドで受けた康太は、シールドの表面を焼いたその威力から敵がSEED系の武装に近いと判断する
その康太と同じく共にシールドで受け止めたリナとクロエ、だが突如として背後から衝撃が走り、前へと倒れ込む
そして二人が目にしたのは背部のバックパックに被弾し、メインブースターが破損したという機体のコンディションを示す通知だった
「嘘っ!?」
「私達の背後から!?何故!?」
康太よりも後ろに居た二人、当然ながら背後に敵機は存在せず、正面に居る敵から射線が通る位置ではない
何が起きたのか理解出来ない、しかし再び敵意を感じた康太はその感覚に従って機体を動かす、正面からの荷電粒子砲による攻撃、だがシールドを構える左手は正面に向けつつ、体を捻った事で直前までバックパックが存在していた位置にあった右手に被弾した
「ゲシュマイディッヒ・パンツァー……いや、BT粒子だと?」
しかし被弾した右腕は荷電粒子砲ほどの威力はなく、解析結果からセシリアのブルー・ティアーズと同じBT粒子と判明する
康太自身の知る曲がるビーム兵器とは違う存在に首を傾げるが、今のようにBT粒子を曲げられるというのは康太もセシリアから聞いた事もなかった
「思い出した!コウ、サイレント・ゼフィルスはビームを曲げる攻撃をして来るわ!」
「お前なあッ!!」
「だ、だって……見たのちょっと前だったから……」
事前にリナから聞いていた情報で亡国機業のMが使用してくる機体がブルー・ティアーズの二号機だという話は聞いていた、だが康太はその事からセシリアの一号機と同じくらいと予想していた為に、リナが今になって曲がるレーザーの事に言及し、それに大して怒号を上げる
しかし此処で言い争っても何の得にもならないと直ぐに思考を切り替えた康太、すると隔壁を超えて敵機が姿を現す
だがその姿は康太が予想した、ブルー・ティアーズの同型機という姿とはかけ離れた姿をしていた
灰色の装甲を持ち、大型のビーム砲とシールドを兼ねた大型ビームサーベルを装備し、背部の円盤状のバックパックから無数のビーム砲を射出しオールレンジ攻撃を行ってくる機体、康太の知るそれと比べると今の主流であるISの姿と同じ様に装甲に覆われていない部分もあるが、見間違える筈もなかった
「プロヴィデンス……」
G.I.W.が発表したMSのように流れ着いた漂流物を他の勢力が確保していたのは康太も理解していた、だがこうして目の前に存在し、それを敵が運用しているとなると康太の手にも汗が滲む
「手酷くやられたな、オータム」
「テメェ、どうして此処に……」
「それに答える義務は無い」
パイロットは装甲の存在しない箇所から見える身体から女だと分かる、ならばその正体はリナの言っていたM本人だと理解する康太
そんな康太達を無視するようにMはオータムに近づき、その体を抱き上げる
不満そうな表情をするオータムだが、機体の殆どを失っている為に口答えする事はなかった
そしてあろうことか康太達に背を向けると、そのまま立ち去ろうとする
「待て!逃すと思うな!」
「紫藤康太、多少腕に覚えがあるようだが、貴様如きが私に勝てると思うな」
「何をッ!」
離脱しようとするMに大して即座に追撃を掛けようとする康太、だがMは顕になっている口元に嘲笑を浮かべるとドラグーンを射出、その砲口の全てを康太に向けて発射した
それを反射的に避けていく康太、するとドラグーンは円錐形の大型三基が荷電粒子砲を、小型の八基がBT粒子による攻撃をしてくる事が分かった
そして火力はあるが直線的な軌跡を描く荷電粒子と、威力は劣るが変幻自在な軌跡を描くBT粒子によって波状攻撃を仕掛けて来る為、逃げ道が限定された屋内という事もあり康太の動きは制限される
荷電粒子砲は確実に避ける、BT粒子は避けきれない分は装甲の厚い箇所で受け止める、敵意から狙われている場所を瞬時に理解した康太はそうしてドラグーンによる一斉攻撃を凌いだ
それでも被弾した箇所に多少のダメージはある、そこで康太は被弾した部分の装甲をパージし、現在量子化して格納されている無人機の装甲を代わりに装着してダメージコントロールを行った
しかしドラグーンの一斉攻撃からMは既に離脱を始めている、それでも距離は大きく離されていない為に、康太は追撃に移る
亡国機業の目的、機体の出処、その他様々な情報を得る為に絶対に逃がす事は出来ない相手であり、何よりパイロットとして完全に見下していたMに対して一矢報いたいという意地もあった
その為、再び地下施設内の通路を行くMを追い、康太も通路を駆け抜けていく
元よりオータムを抱えている為に動きが制限されるMに対し、外という広大な空間でならドラグーンの回避も逃げ道が増え、自身の有利になると、決して勝算が無いとも言い切れなかったのもある
その為、康太は追撃するという選択肢を選んだのだ
狭い通路内、前から足止めとしてドラグーンによる射撃が飛んでくるがシールドを掲げ、センサーやブースターといったBT粒子でも損傷を与えられる箇所を狙ってくる攻撃は、逆に読みやすく、相手もまた高速で通路内を飛行するという神経を使う動きをしている為に先程より射撃の精度が甘くなっていた事も相まって康太はMとの距離を詰めていく
この調子なら外に出られる前に追い付く、そう思った時、康太は足を止めざるを得なくなった
オータムの半壊したアラクネ、だがISとして拡張領域より武装を呼び出す機能は生きていたらしく、その拡張領域よりバラ撒かれた大量のグレネードを避ける為、足を止めるしかなかったのだ
それにより大きく距離を離される事となり、既にMは外に出た
グレネードが起爆し終えた後、康太も追跡し外に出るとセンサーで遠目にMの姿を捉える
距離は開いたがまだ追い付ける、そう判断した康太は拡張領域より二基の追加ブースターを取り出す
「逃さんと言った!」
本来はベースジャバーの航続距離を伸ばす為のそれをフルアーマーユニコーンガンダムと同じ様に腰に接続すると、そのまま加速してMへと追撃を掛ける
そうして生み出された直線での推力はそれまでの比ではなく、あっという間にMとの距離を詰めていった、流石に追い付かれている事に気付いたMもまたドラグーンを射出し、康太に差し向ける
しかし速度があり、何よりも回避する空間があるというのが大きかった、それまでは最低限の動きで防御するしかなかった康太は大きく動き回る事で敵に狙いを絞らせない
更には射程に捉えた事でビームライフルによる攻撃も挟むようになった為、その回避に意識を割かれる分、Mのドラグーンの制御も甘くなる
康太はその隙を逃さず、左手のシールドを捨てると拡張領域からサザビーの物をモデルとしたビームショットライフルを呼び出すと、二門ある銃口の下部から拡散されたビームを発射する
ドラグーンからの射撃を回避する為、バレルロールを行いながら撃たれた拡散ビームは射線を読む事も難しく、大型一基、小型三基を撃破し、もう少しで格闘戦が可能な距離まで近付いた康太は両手のライフルを格納すると両腰からビームサーベルを抜いて迫る
「チィッ!」
そうすると流石に片手間で凌ぐ事は出来ないと理解したMは足を止め、ドラグーンの制御に専念する
途端に命中精度の上がったドラグーン、康太も荷電粒子をビームサーベルで斬り裂き、回避をしていくがMとの距離を狭めるに連れて回避は困難となり、遂には追加ブースターに被弾してしまう
IS用のエネルギータンクとなっているそれは荷電粒子を受けた事で反応し爆発する、その前にパージする康太だが、被弾していないもう片方のタンクも切り離す
そして切り離されたタンクは推力を最大にしてMへとロケットのように突進していき、プロヴィデンスの両肩に備えられた機銃で迎撃される
だがそれによって生じた爆炎を目眩ましに康太が迫り二刀を振るう、左手の複合防盾にて受け止めるMだが、懐まで入り込まれた事に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる
しかし斬り結んでいた時間は短く、周囲のドラグーンで自身を誤射しないように康太だけを狙い撃った事で後方に下がらせる事に成功する
とはいえ此処までの攻防でこの場を離脱するには康太を排除する必要があると判断したMは抱えていたオータムをその場に置くと改めてユーディキウム・ビームライフルと複合防盾を構え、康太と相対する
大破した機体のPICで辛うじて浮いているだけのオータムはその事に抗議しようにも、康太の技量から文句は言えないという事は分かっていた
そしてどちらからともなく動き出した康太とM、数は多少減ったがその分制御は楽になったMの操るドラグーンは二つの攻撃方法を巧みに使い分けて康太を翻弄する
特にBT粒子を利用した曲がるレーザーは的確にジェガンの頭部センサーやスラスターを狙って来ており、避けなければ戦闘に支障を来たすのは明らかな部位を狙ってくる為に康太も回避に専念せざるを得ない
流石にエネルギー切れがある為に定期的にドラグーンを戻さざるを得ないのだが、Mは入れ代わり立ち代わりにドラグーンの補給と射出を行い隙を見せない
操る数が少なければMの負担も小さい為に動きの精度が高く、攻めあぐねるジェガンはBT粒子と言えども被弾が重なり装甲がひび割れていく
なんとか懐に飛び込んでもMは白兵戦能力も高く、斬り結ぶ事は出来ずとも複合防盾より発振される刀身の長いビーム刃を使い康太よりも有利な間合いで寄せ付けない
そして再びドラグーンによる射撃の嵐が襲い掛かり、康太との距離を引き離す、このやり取りが幾度となく繰り返された
しかしAMBAC機動を始めドラグーンの回避の為に負荷の掛かる機動を続けていた康太の疲労は激しく、本人が気付いていない内に動きが鈍り、遂には被弾してしまう
最初に左脚を撃たれ、脚部スラスターが破損、被弾により体勢を崩したところに追撃で放たれたビームライフルが康太の右腕を捉える
生身の部分はシールドバリアと絶対防御により無事とはいえ、運悪く関節部を破壊された事で右腕の動きが著しく阻害される事となり、実質使用不可能となってしまう
「終わりだ、紫藤康太ッ!」
此処までの交戦で一番の康太の被弾にMは勝利を確信する、そのままユーディキウム・ビームライフルを構えジェガンの頭部に狙いを合わせ、引き金を引く
放たれた高出力のビームは違わずジェガンの頭部を粉砕し、内部に収められていた康太が着弾の衝撃で大きく頭を仰け反らせる
「があっ―――ま、まだだッ!!」
だが康太の戦意は消えていなかった、直ぐに視線を戻すとその眼は真っ直ぐにMを見据え、半壊しつつある機体を駆り一直線に突き進む
残っているスラスターを全てフル稼働させて繰り出された瞬時加速、勝利を確信した所で行われた突撃にMは意表を突かれるも既の所で振るわれたビームサーベルを回避する
半壊した機体でなお繰り出された瞬時加速は予想外だったが、細かな動きが無理な瞬時加速の後は無防備な背中を見せるしかない、その背中へと銃口を向けようとした
「なっ―――ッ!?」
だが振り向いたMが見たのは既に反転し目前まで迫り、再びビームサーベルで斬り裂こうとしてくる康太の姿であった
これもまた反射的に回避するが先程より姿勢が崩れる、そして今の動きが再び来ると予想したMはハイパーセンサーで自身の背後へと駆け抜けた康太の姿を見た
強力な推進力によって流されていく康太、だがAMBACにより無理矢理に反転すると即座に瞬時加速、それだけでは先程の瞬時加速を相殺するだけだ、だから康太は即座に追加の瞬時加速を、
「ば、馬鹿な!?貴様、そんな真似をしてどうなると思っているんだ!?」
背後から再三に渡り接近してくる康太の斬撃を回避しつつMは康太の所業に驚愕する、だがそれは無理のない事であった
瞬時加速はあまりの加速度からどうしても直接的な動きにしかならないものだ、それをジェガンのパワーに物を言わせて無理矢理にAMBACを行い反転している
それだけでも各部に強烈なGが掛かるというのに、あろう事か康太は瞬時加速の慣性で背後に流されるのを再び瞬時加速により総裁し、あまつさえ瞬間的に二度の瞬時加速を行う事でより爆発的な加速度を得る二重瞬時加速を行う事で慣性の相殺と加速を同時に行っているのだ
ISでも制御の難しい瞬時加速を無理矢理に抑え込み、ゼロにするどころか正反対の負荷をその身に受けるような機動をすれば如何にISにPICによる慣性制御機能があろうと耐え切れる筈がない
事実、ジェガンの各部は負荷が掛かっているのか軋みを上げ、機械よりも脆弱な生身の人間である康太の体は疾うの昔に限界を迎えていた
Mから唯一見える康太の生身の部分、その顔も苦痛に歪み口の端や閉じられた目の端からも赤い血が溢れているのが見て取れた、にも関わらず康太は止まる事はない、文字通り腕が潰れようと血反吐を吐きながら、まだ動く左手に残された一刀を握りしめ、尚も己の勝利の為だけに戦う事を止めようとはしなかった
そんな狂気とも言うべき康太の飽くなき勝利への執念に呑まれたMは思わず動きを止めてしまう、それはともすればほんの僅かな時間だったのかもしれない、だがこの瞬間に、それはあまりにも致命的過ぎた
「ぐあぁぁぁぁぁッ!?」
硬直したM、その体に袈裟斬りにビームサーベルの刀身が走る、傷付く事などないと思っていたその敵に、遂に一矢報いる事が出来た康太は満足気に口元に笑みを浮かべた
だがまるで役目を果たしたかのように、それまで幾度も瞬時加速をする事で酷使されてきたジェガンのスラスター各部が一斉に火を噴いた
それによりまるで墜落していくかのように眼下に広がる海へと落下していく康太、だがMは最後の交錯の際に康太が確かに発した言葉を聞いていた
『―――次は勝つ、織斑マドカ』
最後の最後まで決して折れる事のなく戦った男の言葉、それがMの耳にいつまでも残っていた
既に康太の姿は海の中へと消えた、海に落ちる直前に別の装甲が展開されていた事から離脱する為に海中を選んだのだろうとMは予想する
「お、おい。今ならあの野郎を確保出来るんじゃねえのか?」
「私の任務は万が一の際のお前の確保だ。それに、今の一撃でシールドエネルギーもかなり削られた。これ以上は帰投する為のエネルギーも怪しい」
「チッ、運の良い野郎だな」
それまで邪魔にならないよう、ただ空中に浮かんでいるだけだったオータムがPICでゆっくりと近付いてきてMに訊ねるが、それをMは否定する
それを聞いてオータムは舌打ちするが、背に腹は代えられないと大人しく追撃は断念する
そんなオータムを抱え、改めて拠点に帰る為の針路を取るM
『―――次は勝つ』
「―――それは私の台詞だ」
頭に残る先程の康太の言葉、今回は見た限りではMの、マドカの勝利の様に見える
だがマドカはそのような勝利でもなく、ましてや何故自身の名前を康太が知っていたのかという疑問でもなく、次こそは完全に雌雄を決するという戦意を漲らせるのだった
唐突な設定解説、コウタくんの装備編
XM109改……本編にあるように対物グレネードランチャーを改造して造られた対物ライフル、25ミリという大口径で既に分類上は砲として扱われる化物武器である。
重く、反動も半端なものではない為に強化服の使用を前提としている、というかさっさとIS展開してビームライフル使った方が早いレベル。
それでもISの展開が不可能な状況での火力は信頼が置ける、火力は正義である。
液体金属刀……コウタくんが普段懐に備えているナイフ、柄が両手で握れる程に長いのが特徴。
しかし柄はエネルギーパックを兼ねており、鞘に収められている液体金属をエネルギーを消費する事で刀身として形成する事で刃として使用する。
その為、ナイフとしてのサイズのみならず、エネルギー消費を増やす事で打刀な大太刀としても使用する事が可能と、一本で様々な刃物に変化させる事が出来る。
加えて刀身を再構築する事で刃こぼれしても即座に切れ味を回復するという芸当が可能。
※なおこれらの装備は小説『リビルドワールド』に出てくる装備をモデルにしています。
因みにコウタくんが生身でオータムとの戦闘をやってましたが、これをパワーアシストの無い戦闘服で銃火器を使わず六本の刀のみで煙幕なしの真正面からやってのけるのがちっふーである。