ジェガン、IS世界に立つ!!   作:RABE

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FGO新章開幕!でもオリュンポスもクリアしてないから急がないとな!あとガチャ爆死しました……一騎も新サーヴァント来ないとかね……


67話 折れた剣

IS学園の学園祭は特に大きな混乱もなく終わった、しかし学生達が集まる後夜祭の中、一夏を始めとして一年一組の生徒達は康太達の姿がない事に気付く。

 

姿が見えないのは康太とクロエとリナ、ラビットフット社に於いて篠ノ之束に近い位置に居る者達であり、一夏達はまた何か裏で動いているのだろうかと予想する。

 

だが限られた者達、康太達と関わりのある専用機持ち達にコアネットワークを通じて伝えられた内容に全員が驚愕した。

 

『紫藤康太、敵ISと交戦し負傷。現在意識不明』

 

たったそれだけの文章、他に一切の詳しい事は書かれておらず、他には地図とパスコードが添付されているだけだった。

 

地図に記されているのはラビットフット社の地下施設、以前一夏達が訓練をしていた場所より更に奥であり、パスコードはそこに辿り着くのに必要な物であった。

 

その為、専用機持ち達は一斉に移動を開始、そこに康太が居て、より詳しい情報を教えてくれると思ったからだ。

 

以前と同じくエレベーターに乗り込み、道案内代わりのオートマトンに連れられ、その場に辿り着く。

 

そこには治療用ポッドに入れられた康太と、それを心配そうに見詰める楯無、そして近くにあった椅子に座り泣きじゃくるリナと、その隣に寄り添うクロエの姿があった。

 

「楯無さん!」

 

先頭に居た一夏はそれを見て一番話しを聞きやすそうな楯無に声を掛ける。

 

「あら、来たのね、皆……」

 

「何があったんですか!?どうして、康太がこんな!?」

 

「端的に言えば篠ノ之博士の送ったメッセージ通りよ。康太くんは学園祭を狙った敵のISと交戦して、結果負傷した。一矢報いる事には成功したけど、最終的には取り逃がしたわ」

 

「敵って……何で俺達を呼んでくれなかったんですか!皆で相手をすれば、康太だってこんな事には!」

 

「そのこーくんが望んだからこそ、だよ」

 

楯無に詰め寄る一夏、他の者達も同様の気持ちではあるが、そんな彼等に横から声が掛けられる。

 

「束さん……」

 

「姉さん、康太が望んだとはどういう意味なのだ?」

 

「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。学園祭で大きな混乱を生じさせたく無かった、だから裏で対処しようとした。ただそれだけだよ。そしてこーくんは敵と戦って、今回は負傷したけど引き分けたってところかな?」

 

声を掛けたのはこの地下施設の主である束であった、その彼女が端末を操作すると、部屋の奥から一機のISが現れる。

 

「これは!?」

 

「何て損傷ですの……!?」

 

それは先程の戦闘に於いて康太が使用していたジェガンであったが、傷付いたその姿に全員が息を呑む。

 

右腕と左脚はビームに穿たれた穴が痛々しく、左腕と右脚は完全に摩耗し千切れたケーブルが飛び出していた。

 

頭部は無くなっており、極めつけは全身全てのスラスターが黒く焼き付いている、その他にも細かな傷は無数にあるがその損傷具合が激戦を物語っている。

 

「この機体の損傷は頭部と右腕、左脚以外は全てこーくんの動きに耐え切れなかった事による自壊だよ。そして、そんな動きをする為にこーくん自身の体もまたとんでもない負荷が掛かったんだ。これが現在のこーくんの容態だよ」

 

そんなジェガンの状態に言葉を失っていた専用機持ち達だが、気にする事無く束は空中にディスプレイを投影する。

 

そこには人型のモデルが浮かんでおり、負傷箇所を示す場所が赤く表示される。

 

「手足は例外無く関節部で千切れ掛けてる、特に瞬時加速中にAMBACを行った左腕と右脚は酷くて、皮だけが辛うじて繋がってるような状態だよ。内臓も殆ど破れてる、というより折れた一部の骨が内臓を貫通してるんだよね、特に肋骨とか心臓を貫いてる。比較的無事なのは頭だけだけど、それも高Gに晒された時に視神経が切れてる。完全に無事なのは脳だけだよ。今のこーくんはね、ISと接続してギリギリ生きてるだけの状態なんだ」

 

「それは……」

 

淡々と語られる康太の容態、それは生きているというよりはただ死んでないといった方が正確な有様であった。

 

改めて康太の姿を見れば、胸の辺りでISコアが康太の体と繋がっていた、ジェガンの物と思われるそれが今、康太の命を繋いでいるのだ。

 

「一応、折れた骨は全て除去してるし、治療用ポッドの中でナノマシンを使って治せる場所は治してる。こーくんからの細胞から培養したクローン臓器を作ってるから、完成すれば損傷の大きな臓器は移植する。大丈夫、眠ってるだけで脳はISコアがちゃんと維持してくれてるから。体が元に戻れば目覚める事が出来るよ。この私が絶対に死なせないからね」

 

体は信じられない程に傷付いている、しかし絶対に生かしてみせるという束の言葉に、全員が安堵する。

 

「じゃあ、信じて良いんですね?」

 

「当たり前だよ。こーくんにはまだ未来がある。こんな所で終わるなんて、私が絶対に認めないからね」

 

興味のない人間にはそれこそ生死すら気に留める事もない束が此処まで言った事に誰もが希望を持った。

 

確かに康太は重症で生きているのが奇跡と言える状態だ、それでも明確に回復の道筋が見えている事は全員の心を軽くする。

 

「まあこーくんが目覚めるのは暫く掛かるし、皆もこーくんが何と戦ったのか気になるよね。という訳でそこの水色、説明しといて。コレ使って良いから」

 

「み、水色!?」

 

「お前以外に誰が居るんだよ。束さんは他にも色々と忙しいんだぞ」

 

「分かってるわ。けど、私には更識楯無っていう名前があるんだから、せめて家名で―――」

 

「その価値があるなら呼んでやるよ。じゃあね、いっくん、カズくん、箒ちゃん!」

 

「えっ?あ、はい」

 

そうして全員が落ち着いたところで今度は何故このような事態に陥ったのか、その説明に入る前に全てを楯無に丸投げして束はその場を立ち去っていった。

 

そのあまりの切り替えの早さに一夏達は呆然と見送るしかなかった。

 

「うわ、必要な資料だけはちゃんと纏めてあるわね。此処までやるなら自分でやった方が早いでしょうに……コホン、取り敢えず頼まれたからには説明するわね。尤も、生徒会長として説明する義務もあるのは確かなのだけれど。まず始めに言っておくけど、この件はとてもではないけれど表沙汰にする事は出来ない話よ。他言無用、外部に対して話す事の一切を禁じます。良いわね?その覚悟が無いなら、早く立ち去った方が良いわ。一分だけ待つわよ」

 

説明を任された楯無は束が残していったタブレット端末を手に取り、そこに記されている内容を見て愚痴を零す、だが自身が康太を戦いに駆り立てたという面もあり、世界の裏側の事情も交える話である為に念を押す。

 

その気迫に全員が気圧されるが踏み留まり、一分後にもその場に残った。

 

「覚悟はあるみたいね。まず今回の学園祭の裏で暗躍してきた組織、その名を亡国機業というわ」

 

「亡国機業!?」

 

「ああ、セシリアちゃんは夏休みの時に聞いていたんだったわね。他に、この組織の名を聞いた事があるって人は居るかしら?」

 

楯無はまず犯人の組織名を告げた、それに反応するのは自身の使用人に接触して来たという事を知るセシリアのみで、楯無からの確認には軍人だった頃に情報を僅かに知っていたラウラを除けば、全員が首を振る。

 

「じゃあ亡国機業の簡単な説明から始めるわね。亡国機業はいつから存在するのか、どんな目的を持っているのか、全てが謎に包まれている秘密結社よ。ただ、彼等は世界中の国々からISを強奪して自分達で運用しているわ」

 

「ア、ISを……」

 

「強奪……」

 

「康太くんはそんな組織と今回の件より先に、既に敵対関係にあったの。夏休みの時、詳細は私も把握していないけどイギリス絡みで彼等の計画を意図していなかったとはいえ妨害したのよ」

 

「まさか、あの時の事が原因で康太さんは狙われたんですの!?」

 

楯無の口から語られる亡国機業の内容、その全ては謎に包まれているがイギリスでの一件を知るセシリアは今回の件がその時の報復ではないかと憂慮する。

 

だが楯無は首を横に振った。

 

「それより先に康太くんは亡国機業のターゲットになっていたみたいよ。絶対に生かして捕らえるよう、亡国機業の全ての部隊に指示が出ていたの。ラビットフット社だからなのか、あの篠ノ之束の側近だからなのか、それとも康太くん自身に彼等しか知らない何らかの利用価値があるのか、それは分からない。でも今回の件も亡国機業は真っ直ぐに康太くんを狙って来たわ。そこで康太くんと私達で罠を仕掛けたの。相手に康太くんが完全な無防備に見えるようにして、確実に仕留められるよう誘導したのよ」

 

「それで康太を囮にしたんですか!?」

 

「そうね。でもそれは康太くん達の、ラビットフット社で立てた作戦よ。そして作戦は途中まで完璧に進んでいたわ。亡国機業のエージェントを一人、機体を完全に破壊して捕獲寸前まで追い詰めたの。でも、そこに予想外の強敵が現れた」

 

そう言って楯無はタブレット端末を操作、空中に投影されているディスプレイに今回の作戦で交戦した二機のISを表示していく。

 

だがその片方の機体には全員見覚えがあった。

 

「あれは!?」

 

「プロヴィデンス!?」

 

蜘蛛のように見える機体と、かつてのシミュレーターで康太が交戦してみせた機体、細部は違えど見間違える筈がなかった。

 

「このアラクネと呼ばれる機体は罠に仕掛けて完全に破壊したわ。でもこの機体、プロヴィデンスと交戦して康太くんは今回の重症を負ったの」

 

ディスプレイに表示されるのはプロヴィデンスと康太との戦闘記録、ドラグーンによるオールレンジ攻撃は全員がシミュレーターの時に見ていた、だが大型ドラグーンは荷電粒子砲を放っているが、小型ドラグーンから放たれる赤いレーザーは空中で自由自在に弧を描き、四方八方から攻撃してきている。

 

幸いにも威力はそこまで高くなく、康太は避けきれないなら装甲で受け止めていた、しかしブースターやセンサーといった部位を狙ってくる為に決して無視できる攻撃ではない。

 

更にはそのレーザーだ、解析結果でレーザーはBT粒子が使用されていると表示されている。

 

「そんな、有り得ませんわ!私以上にBT適性があるだなんて!?」

 

「ぐす、わた、私が忘れていたから!サイレント・ゼフィルスのレーザーは曲がるって、ちゃんと覚えてたら!コウは、コウは!!」

 

「サイレント・ゼフィルス!?リナさん、知ってますの!?あの機体は、元はサイレント・ゼフィルスなのですか!?」

 

「ちょっと落ち着きなさいよセシリア!リナも、落ち着いてからで良いわ。まず、全員で知ってる情報を掻き集めるわよ」

 

「ご、ごめんなさい、私、私……」

 

「良いから落ち着きなさいって。で、セシリア。まずはサイレント・ゼフィルスって機体の事を教えてくれるかしら?」

 

「ええ、そうですわね。では、私の知る限りの事をお教えしますわ」

 

一時的に取り乱したセシリアとリナだが、そこを鈴が落ち着けて可能な限りでの情報共有となった。

 

そこでセシリアの口から語られるのは、イギリス本国で開発中であったブルー・ティアーズの二号機の話、試験的にシールドビットと呼ばれる兵装を組み込んだという機体の話だ。

 

そしてBT粒子を曲げる方法、BT兵器が高稼働時に可能な偏光制御射撃(フレキシブル)という能力であった。

 

しかし現状ではBT適性はセシリアがトップであり、そのセシリアでさえ偏光制御射撃は使えないのだ、例えセシリアのデータを利用し多少は扱い易くしたところで他の人間に使える筈がない、そうセシリアは締めくくった。

 

「加えて、あのパイロットは全てのビットを制御しながら自身も動き回っていました。悔しいですが、私よりも上というのは事実ですわね」

 

「そう、ありがとうセシリアちゃん。リナちゃんは……まだ掛かりそうだし、先に記録の方を見た方が早いわね。敵が逃げた事で康太くんは追撃に移ったわ。けど、そこでの戦闘も決して楽なものではなかった。私も最初に見た時は自分の目を疑ったわ。執念、まさにそうとしか言いようのない光景だったもの」

 

そうしてディスプレイに表示されている戦闘記録が再生される、先程の屋内の戦闘ではなく、通路を通って外に出たところからの戦闘の様子だ。

 

追加ブースターで速度を上げている康太、避ける為のスペースも広く取れる外では先程と違い被弾も少なく済んでいた。

 

しかし距離を詰めれば敵も狙いを付けやすくなる、追加ブースターに被弾してしまう。

 

康太はそれをパージし、無事な方のブースターをロケットとして使用するが、迎撃されて不発に終わる。

 

それでも爆発を目眩ましに康太は距離を詰め、ビームサーベルによる格闘戦へ移る、敵も格闘戦にて対処し、斬り結べばドラグーンによる射撃で引き剥がしに掛かる、幾度もその流れが繰り返され、動き回る必要があった分だけ疲労した康太は遂に被弾してしまう。

 

その姿に思わず悲鳴を上げてしまう者は多かったが、康太はその状態でも諦めなかった、残るスラスターをフル稼働しAMBACと二重瞬時加速を組み合わせた新たな機動により高速で絶え間ない斬撃という未知の戦闘技術を編み出してみせたのだ。

 

だがそれは正しく諸刃の剣、その身に掛かる加速度は一気にプラスからマイナスへ、そしてまたプラスへと繰り返されるものであり、いくらISが搭乗者に対してPICによる高い耐G性能を誇ったとしても、耐え切れるものではなかった。

 

あっという間に康太の体は限界を超え、それでもISは康太の脳だけは保護し、康太はその頭で思考し敵を見据え、手足や内臓、視覚さえも捨て敵に一撃を叩き込んだ。

 

それは自身の身を一切考慮しない捨て身の一撃、最早狂気の段階に足を踏み入れた一撃だった。

 

その気迫に誰も言葉が出なかった、仮に同じような状況になった時、自分達は此処までやって戦えるのか、全員が無理だと悟ったからだ。

 

それ程までに康太の動きは常軌を逸していた、そこまでやって機体が限界を迎えた為に追撃を断念して離脱に切り替えた辺りは冷静ではあるが、つまりは今の重症の状態でも気絶する事無く痛みに耐えながらこの場に帰還して見せたという事でもある。

 

あまりにも堅く固められている康太の覚悟、普段は同じ学生である筈なのにその背がとても遠く感じられた。

 

「以上が、今回の戦闘の顛末よ。敵も然ることながら、康太くんの執念も凄まじいものだったわね。さて、此処まで見て貰ったけど、もし仮に今後亡国機業との交戦があるとして貴方達に同じ事が出来るかしら?」

 

『…………』

 

そこに掛けられる楯無な言葉、誰もがあのプロヴィデンスのパイロットと対峙して最悪でも相討ちに持ち込めるかと言えば、誰もそのような技量は持ち合わせていない。

 

再び対峙する事があれば康太しか対応が出来ない、それではまた康太は己を犠牲にして戦おうとするだろう。

 

だが友人である康太に頼ってばかりでは居られない、セシリアやシャルロット、ラウラは少なからず康太に対する恩義もある、ならばやるべき事は一つだった。

 

「強くなりますわ。次は康太さんを護れる程に、強く」

 

「そうだね。放っておくとまた怪我をしそうだし、近くで見ておかないと危なっかしいもんね」

 

「早速訓練を―――と言いたいが学園祭での疲労もあろう。疲労した状態での訓練が無駄とは言わんが、己を見詰め直すには冴えた状態の方が良かろう。明日は振替休日だ、時間はたっぷりとある」

 

そう覚悟を決めた者達に釣られ、他の者達も戦意を高めていく。

 

それを見て今まで泣いていたリナも立ち上がる。

 

「私も、もうコウを傷付けさせない。あの女は、次は私が倒す!」

 

赤く泣き腫らしているが、その眼には強い怒りの色が見える。

 

その事に一抹の不安はあるが、意志の強さに楯無は何も言わない事にした、危なければ修正するつもりだ。

 

「私も、少しは戦えるからと、それで何処か満足していました。ですが、本当の意味で強くなど無かったのだと気付かされました。私も、強くなります」

 

そしてまたクロエも目標を新たにする、此方も危うげな気配があるが、楯無が目を離さないよう注意しようと決める。

 

「じゃあ明日から特訓しましょう。泣き言は聞かないから、覚悟しておいてね」

 

『はい!』

 

こうしてこの日、IS学園の一年生専用機持ち達は覚悟を新たにより一層強くなる事を決めたのだった。

 

その後、康太の側にクロエとリナが交代でつく事になり、休息を取りながらも急な容態の変化に備える事となった。

 

他の専用機持ちも心配するが、この場はラビットフット社の領域という事もあり退室する事となる、心配はあるが康太が回復する事を祈ってその場を後にしていくのだった。

 

 

初めに認識したのは、まるで宇宙に居るような重力の重みを全く感じない浮遊感だった。

 

次にゆっくりと目を開けば、そこにあったのはただ広い、どこまで続いているかも分からない真っ白な空間だ。

 

「此処は……」

 

まだ多少はっきりとしない頭で一番新しい記憶を探る、確かオレはプロヴィデンスと交戦し、機体が限界を迎えた事で離脱した筈だ。

 

墜落に見せかけて海中に飛び込む瞬間、機体の装甲をシージェガンに切り替えた事で光学兵器の威力が極端に落ちる海中を進み、IS学園にあるラビットフット社の水中ドックから拠点に戻った事は覚えている。

 

あの戦闘ではかなりの無茶をした、勝つ事だけに夢中になり自分の体を全く顧みなかった事は覚えているし、拠点に辿り着いた辺りで倒れたような気もする。

 

帰路でISからオレの体が瀕死だった事は聞いていたと思う、だとすれば今オレが居るこの場はあの世という事だろうか?

 

『―――ますか』

 

ふと、誰かの声が聞こえた気がする。

 

『聞こえ―――』

 

少女のもののように聞こえる声だ。

 

『聞こえますか』

 

徐々に鮮明になってくる声、それと同時に目の前に誰かの姿が浮かび上がって来るのが見えた。

 

『おはよーございます、ご主人様!貴方の忠実なAI、ハロロがお目覚めの時間をお知らせですよ!』

 

「チェンジで」

 

一気に覚醒した思考で状況を把握すると同時にそう告げる。

 

『何でですか!?ご主人様と共に歩み、ずっと側から支えて来たじゃないですか!?ほら、私ですよ!?ハロ系ヒロインで正妻のハロロでーす!』

 

「やかましい!あとハロ系ヒロインで言ったらお前より先にハナヨという存在が居るわ!」

 

どうやらあの世という訳ではないらしい、こんな騒がしいお迎えとか本当にあったらあの世のイメージが崩れる。

 

とはいえ、あの世でないというのであれば此処は夢の中という事だろうか、明晰夢という奴かな。

 

『ヒドいです!この世界に来てからずっと尽くして来たのに!嵩張るからという理由でハロからドックタグに姿も変えたのに!少しは愛情以て労ってくれても良いじゃ無いですか!?AIにだって愛は必要なんですよ!』

 

「何を言って――――――いや、まさか。ジェガンか?」

 

『そうです!この姿はご主人様の記憶の中からそれっぽい物をトレースしたものですが、私はご主人様の愛機、ジェガンのISコアそのものですよ!』

 

ISにはそれぞれのコアに人格が設定されている、それは知ってはいたがこうして明確に言葉を交わすのは当然ながら初めての事だ。

 

オレの愛機たるジェガンのコア人格が目の前のハロロだという事には多少、いやかなり面食らったが、これが夢が現かは関係なく確かめておきたい事があった。

 

「ハロロ、お前がジェガンだというのなら疑いはしない。だが一つ聞かせて欲しい事がある」

 

『何でしょうか、ご主人様?』

 

「お前はオレを恨んでいるか?己の意地だけの為に、限界以上に酷使した乗り手の事を」

 

物には魂が宿るというのは八百万の神を信奉する日本人としての感傷かもしれないが、こうして意志がある相手なら尚更だ。

 

だからこそ確かめたかった、あの時オレは機体が壊れるのもお構いなしにスラスターを噴かせて手足を振り回した、それは乗り手として失格なんじゃないかと、こうして対峙して思ったのだ。

 

『恨んでなんていませんよ。私は特殊なISなんです。他の子は、好戦的な性格の子なら同じ様に思うかもしれませんが、私はご主人様と同じく、元は別の世界の存在ですから。私の望みは『ご主人様と共に戦う事』です。寧ろ今回の事は私の方が不甲斐ないばかりですよ。ご主人様の反応速度に付いて行けず、私の方が先に耐え切れなかったなんて末代の恥です』

 

「お前にも死後の世界があるのか?」

 

『どうでしょうか?分かりませんけど、それだけ悔しかったのは本当です』

 

「そうか。強くなりたい、な」

 

『そうですね、強くなります。乗り手の実力を全て発揮させる事の出来ない機体なんてお飾りでしかありません!』

 

「ならどうする?外装パーツをより性能の良いのにするか?」

 

『ふふん、甘いですねご主人様!私はISです!ISにはISなりに強くなる方法があるじゃないですか!』

 

「ほう、まさかとは思うが」

 

『はい、二次移行(セカンドシフト)です!楽しみにしていて下さいね!これまでの戦闘データ、シミュレーターでの適性、ご主人様の深層意識、全てのMSの設計思想!ありとあらゆるデータからご主人様に最適だと思う機体を選出し、その機体をご主人様色に染め上げて見せますよ!次にご主人様が目覚めた時、新しくなった私を十全に扱って下さいね!』

 

「分かった。機体のお陰と言われないよう、オレも成長すると誓おう」

 

最早この場の出来事をオレは夢だとは全く思えなくなっていた、目の前のコアの人格だというハロロは間違い無くオレが共に戦って来たISなのだろう。

 

『ところでご主人様。ご主人様は未だにご自身を凡人だと思っていますか?』

 

「唐突だな。まあ、篠ノ之博士とか織斑先生とかに比べたら凡人だろうよ」

 

『それは比較対象がおかしいだけで、ご主人様はとっくに凡人卒業してますよ。死を恐れないで夢を追うなんて覚悟、寧ろ修羅の類です』

 

「そう思うか?」

 

『そうですよ。ですから、ご主人様も意識を切り替えましょう。貴方は既に凡人(量産機)ではありません。これからは唯一(ワンオフ機)になりましょう。私と一緒に』

 

「そうか。そうだな」

 

自身に相応な夢だと思わなければ宇宙に手を伸ばそうなど、言えないのかもしれない。

 

ならば此処でオレは、もっと欲張りになっても良いのだろう、量産機が相応しいというのではなく、より高みを望んでも良いのなら。

 

『では、私は成長の為の準備に入りますね!あ、それと思いっ切り使い潰す気で動かしても良いですけど、ちゃんと私の事を後で労って下さいよ!具体的には身嗜みはキチンと、装甲をピカピカにお願いします!』

 

「分かった分かった。長い付き合いになるんだ。その位、手間でもなんでもないよ」

 

『約束ですよ?破ったらいざという時に本気を出せないかもしれませんからね?』

 

「安心しろ。お前はオレの機体で、オレの相棒なんだから。雑には扱わないさ」

 

『あと、私以外のコアを使っても良いですけどあまり浮気はしないで下さいよ?』

 

「心配性だな。使うとすれば、機体テストか汚れ仕事だろうよ。それはオレにとって本命って訳じゃないしな」

 

『なら安心ですね。最後に、ご主人様の為に一言だけ伝えますね。今後とも貴方と共に戦い抜く為に、貴方が貴方の目的を達成出来るように―――あなたに、力を……』

 

ハロロの姿をしながら、最後の方は元ネタとなった存在とは違い静かに祈るようにしてその姿は消えていった。

 

それと同時にオレの意識も遠のいていく、きっとこの眠りから目覚めた時には相棒の二次移行も終わっているのだろう。

 

ならば今は休もう、流石に今日は色々な事があり過ぎた、疲れも溜まっているのだろう。

 

次に目が覚めた時、体調不良で機体性能を全く引き出せませんでした、なんて笑い話にもならない。

 

ああ、相棒がオレにどんな可能性を見て、どんな機体でそれを体現するのかが、今から楽しみで仕方がなかった。




ハロロ……クロスボーンガンダム・ゴーストの主人公、フォント・ボーがクラブ活動で作ったAI、簡単に言えば美少女化したハロである。

今作のハロロはジェガンのISコアが康太の知識の中からその姿を拝借しただけであり中身は割りと違う。

元が康太と共に流れてきた機体だけに既存のISコアと違い、ジェガンが兵器である事から乗り手と共に戦い抜く事が目的となっており、コアとしては珍しく好戦的である。

その為、仮に何らかの理由で束が全てのISコアを停止させようとした場合で本機だけは独自に活動する事が出来る、それどころか回収したコアにも同じ事をして無人機として配下に置く事も可能、現状康太と束の敵対ルートは存在しないので使われない能力ではあるが。

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