そして、コウタくんの新たな機体が……
ラビットフット社のラボ、IS学園の地下にあるその施設、その最奥部は夜中であっても明かりが消える事は少ない。
「成る程ねえ、こーくんの能力に合わせての二次移行。その為に資源を探してるのかあ」
そこで部屋の主は、篠ノ之束はラボの内部を映し出している監視カメラの一つに目を向けていた、明かりの無い部屋の中では一機のISが稼働していた。
ジェガン・サーガ、康太が汚れ仕事を行う際に使用する特殊戦用の機体である、本来なら康太が動かしているように見えるのだが、その中身が空である事を束は知っていた、何よりも康太本人が未だに治療用ポッドの中に居るのだから。
「そういう事なら私もちょっとだけお手伝いしてあげようかな?」
そう言うと束はキーボードを操作して色々と物資を漁っているジェガン・サーガの元へコンテナを移動させる。
突如として現れたコンテナに対して驚くようなリアクションを見せるジェガン・サーガ、だが開封されたコンテナの中身が様々な物資に溢れているのを確認するとそのコンテナを運んでいく、どうやら束が送った物はお気に召したようだ。
「さてさて、どんな機体に仕上がるかなあ?強いの?速いの?それとも既存の枠には当て嵌まらないような特別な機体?」
束でさえも康太のISがどのような変化を迎えようとしているのかは把握していない、見ようと思えば見えるかもしれないが、それは無粋でつまらないと束は自制していた。
だがどのような機体になったところで、束の興味は一つに集約される。
「でもでも、どんな機体でもこーくんは戦うし、もっと強くなるんだよねえ。楽しみだなあ、次はどんな光を見せてくれるのかなあ?」
この日の束はとてつもなく上機嫌であった、気を抜けば顔が緩んでしまうのを抑えられない程に、流石に妹や親友の家族、そして自身を慕ってくれる少女達の前で、康太が重症にも関わらず上機嫌な様子を見せるのが悪手だという事は分かっていた。
だからボロが出る前に康太の説明を楯無に投げたのだ、用意したデータを預けて、自身は誰にも顔を見られる事のないラボの奥に籠もった。
命を省みる事無く駆けた一条の光、人が己の全て賭してでも成し遂げようとする姿、ニュータイプとは違うが束の好きな人間の姿は今思い出しても鮮明に思い出せる程に鮮烈であった。
「こーくんにはまだ未来がある、これは本当。こんな所で終わるなんて私が絶対に認めないっていうのも、本当の事」
そんな束が一夏達の前で約束をした、しかしそれには束しか知らない意図もあった。
「だってこんな所で終わっちゃったらつまらないもんねえ。次があれば、こーくんはもっと光り輝くのは間違いないもん」
加えて自分からその身を投じる為に、束が誘導してやる必要性もないという点も素晴らしいと言えた、全て康太が康太自身の意志でやるからこそ輝けるのだから。
無邪気に笑う束、その近くのモニターには康太の脳波が映し出されており、ニュータイプの物と見られるその数値がこれまでよりも跳ね上がって安定しているのが記されていた。
◆
―――全戦闘データ、シミュレーター履歴、マスター深層意識、参照完了。
―――マスターの適性並びに戦闘パターンより、移行先機体を可変・高機動型に設定。
―――マスターの記憶領域より全ての設計思想を確認、機体選出を開始。
―――可変機構、該当。高機動性、該当。選出条件にマスターの特殊技能、ニュータイプ能力への対応を追加、該当。機体選出完了。
―――選出機体を原型機とし、マスターに対して最適化を開始。機体構築シミュレーターを開始。
―――内部制御システム構築、原型機より不要な特殊システムを削除、空き領域に対して新規システムを構築、完了後秘匿。
―――内部制御システム構築、全行程完了。続いて本体の構築を開始。
―――フレーム形成、既存フレームでは耐久値が不足。βが確保した物資を確認、要求値に達する剛性を確認、フレームに対してはサイコフレームの使用を決定。
―――スラスター形成開始、既存部品をベースに改良、多少の大型化を黙認、推力確保を最優先。
―――スラスター形成完了。機体各部への配置完了、パイロット保護機能の不足を確認。
―――PIC最適化を開始…………パイロット保護機能、不足。結論、コアの出力不足。
―――PIC出力確保の為、コアの連結を検討。β、Γとの意志統一完了、統合開始。新型ISコア、本機をトライコアと呼称。
―――PIC出力確保。副次効果として機体出力、エネルギー総量の増加を確認。
―――続いて部駆動部形成開始、出力増加によって既存部品を原型とし耐久性の向上を主眼に設計。
―――駆動部形成完了。装甲部の形成を開始
―――チタン合金セラミック複合材、強度不足。ガンダリウム合金、精製方法不明。
―――マスターの記憶領域より、マイクロハニカム構造による装甲材精製技術を確認。ミノフスキー粒子に静電入力を行う事により立方格子状の力場が発生する事を利用した装甲材精製技術と認識。
―――試行開始、実行可能と判断。本機の装甲に対し、チタン合金セラミック複合材をベースとしたマイクロハニカム装甲を採用。
―――装甲部形成完了。これにて全行程を完了。
―――二次移行、開始。
◆
沈み込んでいた意識が呼び起こされる、目に入るのは水中の光景、以前にもお世話になった事のある篠ノ之博士特製の治療用ポッドの中だ。
そしてオレの治療が終わったからか、それとも意識を取り戻したからか、治療用ポッド内部の液体が排出され、ポッドが開く。
そして以前と同じように液体に浸かっていたから服は来ていない、近くに見覚えのあるオレの服があったから着込むが、それを済ませて改めて周りを見渡すとラビットフット社のラボの中だった。
主にオレが機体の調整なんかを行う部屋、半ばオレの機体専用の整備室のようになっていたラボの一角だ。
なら近くに、夢で見たのが本当の事であれば二次移行を果たした相棒が居ると思ったが、その姿は無い。
やはり夢は夢か、そう思いもしたがふと胸に、自分の心臓に違和感を感じて手を当てる。
普通なら鼓動を感じる筈の場所、だがその鼓動が一切感じられず、また今になってその存在に気付く。
「そうか、お前はそこに居るのか」
恐らくだが、負傷した臓器の中で心臓の機能を代替する為にオレと融合したのだろう。
その辺りは後で詳しく調べる必要がある、だが不意に頭の中に新たな機体の姿が浮かび上がり、相棒が二次移行していると確信出来た。
そして、相棒がどんな機体を選んだのかも判明した。
「なら行こうか、
◆
IS学園の第六アリーナ、そこは学園内のアリーナで一番の広さを誇り、主にキャノンボール・ファスト等の練習などで使われる事が多い場所だ。
そんな第六アリーナは現在、急遽ではあるがラビットフット社に貸し出されていた。
一時間程度の予定とはいえ九月末には実際にキャノンボール・ファストもある為、この時期は予約で埋まっているにも関わらず、である。
当然、その時間帯に予約を入れていた生徒からは不満があったが、その辺りは完成した戦技研の建物内に設けられたシミュレーターの使用を許可する事でバランスを取っていた。
ではそんな第六アリーナで何が行われているか、貸し出されているとはいえ見学は自由にしても良いとされており、一年生専用機持ち達や耳聡い生徒は観客席にてアリーナ内で飛行するその機体を眺めていた。
「なあ箒、俺達って今日から康太に追い付く為に訓練するんだったよな?」
「そうだな。少なくとも、私はそのつもりだ」
「康太って、暫く復帰出来ない程に重症だったよな?」
「ああ、生きている方が奇跡というレベルだった筈だ」
「何でもう復帰して新型乗り回してるんだろうな?」
「私にも分からん……」
だが眺めている者の中には遠い目をしてそれを眺めていた者達も居た、主に昨日の戦闘での康太の負傷の度合いを知っている者達である。
一応、説明はされているのだが、機体が二次移行すると同時に肉体の修復とISとの融合が行われたという人智の及ばない領域の話しをされ、そしてテンションの上がった様子で嬉々としてISを展開していた康太を見て、心配など何処か遠くへと吹き飛んでしまったのだった。
そんな彼等の視線の先には白を基調としつつ明紫が各部に配された派手めの塗装が為された機体が居る。
通常のISとは異なり戦闘機のような姿をしているのはそれが可変機構を備えているという証であり、キャノンボール・ファスト用の第六アリーナであっという間に端から端へと辿り着く程の推力を誇っていた。
あまりの出力に第六アリーナの敷地内では全力を出す事が出来ず、後日許可を取って海上での試験飛行を行うというのだからその出力の高さが伺える、また現在の見積もりではエネルギー消費を考慮せず、加速する為の距離があれば最高速は大凡で時速8000キロ(マッハ7弱)に迫るのだとか。
そうでなくとも巡航速度で時速4,500キロ(マッハ4弱)は堅いというのだから、間違いなく世界最速のISと呼べるだろう。
そしてその推力は別の場面でも発揮される、ある程度の飛行性能を見たのか戦闘機のような姿が崩れ、手脚が伸びて人型を取る、その間は一秒にも満たない。
可変時は機体上部に固定されていた長大なライフルを右手に、可変時の機首と武装プラットフォームを兼ねているシールドは左手に移り、それが機体の主兵装なのだと分かる。
ジェガンから二次移行したというが、その姿は全くジェガンとは似ても似つかない、何より双眸と∨字アンテナを備えたその頭部は康太の言うガンダムタイプの物である。
事前に伝えられていた名前はガンダムデルタカイ、それが康太の新たな剣の名前であった。
「ガンダム、か」
「康太さんの原点とも言える名前ですわね。つまり、康太さんのISコアがアレを選んだという事ですのね」
「そして、その性能を引き出す為に合計三つのISコアが融合した世界でも唯一のトライコアを搭載した、康太の為だけの機体だね。それだけの出力があって漸くPICが慣性を相殺出来るって話だから、ね」
世界でも数の少ない二次移行機、だがその変化は機体の外見のみに留まらなかった。
三つのISコアが融合し、三倍の出力を得て漸く康太の機動に機体が耐えられるようになったという事実、そして可変時に折り畳まれる手脚から康太を保護する為に生まれた、それまでは不可能だった生体の量子化技術を備えた世界でも類を見ない機体なのだ。
それは搭乗者である康太の為だけの機体であり、扱い辛さもまた極端なものという、量産や別の人間が扱う事を一切考慮しない正に
今も視線の先ではガンダムが人型の状態での機動力を確認していた、圧倒的な推力により機体の各スラスターが稼働する度に凄まじい速度で機体が動き回っている。
全開のほんの一割だとしても、推力が大きければ生み出される加速度は他の機体の比ではない、少しでも調整を間違えればあっという間に機体は制御を失ってしまうだろう。
だが康太は病み上がりの体でありながらそれを完全に制御している、文字通り人機一体となった康太にとっては最早己の肉体と何ら変わらないのだ。
機動性を確認すれば残りは武装のテストとなる、各種武装が展開され、標的に向けて放たれるのをデータ収集目的の無人機のEWACジェガンがセンサーで確認していく。
ロング・メガ・バスター、ビーム・キャノン、ハイ・メガ・キャノン、メガ・マシン・キャノン、炸裂ボルト、基本的な装備とシールドに装備可能な各種兵装を切り替え、順次試していく。
そして最後に使用されたのが、フィン・ファンネルである、セシリアのブルー・ティアーズを見慣れているとはいえ、その動きは二機のみでも速く、正確であり動きもまるで生きているかのように滑らかであった。
何より、一夏達は知らないが原型となったプロト・フィン・ファンネルとは違い、形状こそ似ているがνガンダムの物と同じ様にファンネル自体がAMBAC可能という、強化発展を遂げていた。
更に操れるのは二機だけでなく、拡張領域より追加で四基のフィン・ファンネルが現れ、計六基のフィン・ファンネルが先程と変わらぬ動きで宙を舞い、ビームによる散弾を放出していく。
威力、練度、数、その全てがブルー・ティアーズの、それを操るセシリアの上位互換という姿、そしてそれだけの数を操りながら尚も自機の操作を行い、複数の標的を同時に、短時間で撃ち抜いていく姿は最早芸術的とも言えた。
『ハハハ、フハハハハッ!良いぞ、
そして、それを成す康太は楽しそうに、無邪気とさえ言える程に歓喜の声を上げている。
そんな姿を見て、誰もがポツリと呟いた。
「遠いな……」
「遠いですわね……」
自分達よりも先へと行ってしまった友人、その差を思いながら、それでも追い付くのだと覚悟を改め、何にも縛られない自由なその姿を目に焼き付けるのだった。
◆
日本の某所、高層マンションの最上階、夜の帳が降りた頃、その一室の玄関が開かれ二人の人間が中へと踏み込んだ。
「やっと戻って来れたぜ……」
「意外としつこかったな、日本の連中も」
その二人の正体は亡国機業のオータムとマドカであり、この部屋もまた亡国機業の日本国内に於ける拠点の一つであった。
しかし此処に辿り着くまでの間、康太との戦闘の結果を見た楯無が直ぐに派遣した日本のISを要請し、近辺に網を張られた事で太平洋方面に逃げたと思わせつつ、大回りして日本に再び上陸する必要が出来たのだ。
結果、ISを使用して此処に辿り着く訳にもいかず、陸路を変装して進む必要があり一日以上を費やして今になって帰還したという訳である。
特にオータムは顔を見られており、変装も完全とは言えない為に一夜を山の中で過ごす事になったので二人はそれなりに疲労していた、食料はISの拡張領域の中にレーションが入っていたとはいえ、米軍のMREと呼ばれるそれはMeals, Rarely Edible(とても食べられたものじゃない食べ物)など、多少の改善はされたが他国の物と比較してもマズいと評される物であり、加えて不用意に火を使う訳にもいかない為に加熱パックがあるとはいえ味気ない食事を強いられたのだ。
その後も更識の追跡を警戒したりと、神経を酷く使う移動だった事もあり、こうして辿り着けたもののオータムは何も言う気が起きない程であった。
「お帰りなさいませ。大変だったわね、オータム。報告は後でで良いから、シャワーを浴びて来たらどう?」
「悪いが、そうさせて貰うぜ……」
そんな二人をドレスに身を包んだ女性、スコールが出迎えるが、恋人でもあるオータムの疲労困憊振りを見て先に労う態度を見せた。
その言葉に素直に頷いたオータムは山での潜伏で体を洗う事が出来なかった事もあり、動きは鈍いが真っ直ぐシャワールームへと向かっていった。
逆に、そこまで身嗜みに興味がないマドカは先にスコールへの報告を済ませる、とはいえISのデータと簡単な所見を述べるだけだ、マドカには亡国機業への忠誠心など微塵も存在せず、ただ自身の体内に叛逆防止用のナノマシンが存在するから従っているに過ぎないのだ。
「そう、今回の事は良く分かったわ。追って次の指示があるまで休んでいて良いわ」
「そうさせて貰う」
報告を終え、素早く自身に与えられた個室に戻ろうとするマドカ、だがその背にスコールが声を掛ける。
「それにしても、随分と機体に損傷を負ったみたいね」
「敵の力を見誤った、それだけだ。次は必ず私が勝つ」
わざわざ敗北した事を指摘してくるのか、自然と手に力が入っていくのを自覚したマドカだが、続くスコールの言葉にそれも霧散する。
「その貴方が痛み分けになった特異点、紫藤康太なのだけど、機体が二次移行したそうよ。レインが撮影した映像を送って来たわ」
「っ!?寄越せ!」
「ええ、しっかりと確認しておきなさい。次は勝つのでしょう?」
それはIS学園に居る亡国機業のスパイからの情報であり、観客席からスマートフォンでの撮影とはいえ康太の新たな機体、ガンダムデルタカイのテスト風景であった。
当然、スコールの方でも別の部署に回して戦力分析をさせているが、映像データのコピーを収めたメモリを見せると、引っ手繰るようにマドカは掴み取る。
そしてメモリを持ったまま部屋へと戻っていった、それを見届けたスコールは自分も部屋に戻ると、デスクトップパソコンに表示されている、先程マドカに渡したデータの映像を眺める。
「威力偵察としてオータムを送ったのだけど、予想以上に強敵だったわね。でも、私の機体への例の武装の積み込みは完了して、後は調整を待つばかり」
オータムには黙っているが、そもそもスコールはオータムが勝てるとは思っていなかった、現在のIS学園の戦力を少しでも測り、紫藤康太に関する情報を少しでも集めてくる事が目的だったのだ。
しかし今回マドカとの戦闘の結果、康太の機体が二次移行し、その機体は軽く見ただけでも正攻法で勝つのは難しい機体となってしまっていた。
だがそれでもスコールは自身の機体、ゴールデン・ドーンに新たに組み込まれた武装とシステムがあれば勝算は十分にあると確信していた。
「フフフ、次の作戦はキャノンボール・ファストの時ね。特異点、紫藤康太、貴方を黄金の王の前に跪かせてあげるわ」
そして、再びIS学園にその魔の手が迫ろうとしていた。
という訳でコウタくんの新たな機体はガンダムデルタカイです、最近SDの方でも出てきましたね。
選出した理由はユニコーン系列との繋がりですね、ベース機のデルタプラスは言わずもがな、フェネクスとも関わりがある事と、同時代に於けるガンダムタイプにして、ファンネル装備などが理由に挙げられます。
うん、見事にタイトル詐欺ですね、とはいえジェガンが出番無くなるかと言えばそうでもなく、任務によって使い分けられていきます、高性能な分、任務によっては過剰戦力で使われない、等と一部ではジェガンも引き続き使用されます。
なお今作のデルタカイ、色々と原型機とは差異や特徴があります。
具体的には
……ナイトロ削除(コウタくんがニュータイプとして覚醒済の為)
……フレーム部分にサイコフレームを使用。
……フィン・ファンネルがプロトより進化している(AMBACは勿論、フィン・ファンネル・バリアも展開可能)
……フィン・ファンネルを最大で六基装備、通常の二基の横に連結する形で装備する。
……マイクロハニカム構造を装甲に採用(F90の技術)
その他にも様々な点が違いますが、その辺りは今後の描写で明かしていきます。
次回以降はちょっと短編を幾つか挟む予定です。また色々と悪ふざけがあるかも?です。
そして書いてて思ったのですが、この作品はマドカもある意味ヒロインかもしれませんね(笑)