突如として現れたグロムリン・フォズィル、名前を知っている康太に対し一夏が尋ねようとしたが、それより先にグロムリンが動き出す。
先程のネェル・アーガマを狙った有線ヘッドビームではないが機体側面のヴァリアブル・メガ・ランチャーや迎撃ウェポン・ユニットからのビームとミサイルによる猛攻が空を覆い尽くすほどに火線を描く。
それぞれグロムリン本体と比べれば線のように細いが、そもそものグロムリン自体の巨体さもありビームはIS用のビームライフルよりも高火力であり、ミサイルは小型の物が多くを占めるが中には対艦用の大型ミサイルもあり、狙われたネェル・アーガマは対空機銃によって迎撃する。
対してIS部隊も動いており、散開した後はビームの射線に気をつけつつ自身に迫るミサイルは撃ち落としており、その動きは手慣れていた。
「前にシミュレーターとはいえネェル・アーガマとの模擬戦やっておいて良かったよね!」
「加えて私のブルー・ティアーズも
特に武装を瞬時に切り替えるシャルロットと自由自在な軌道を描くBT兵器を操るセシリアの働きは目覚ましく、二人だけで全体の四割のミサイルを迎撃している。
二人程では無くとも放たれるミサイルの数はかつてのシミュレーターで経験したネェル・アーガマとMS部隊による攻撃よりも少ない為、射撃の苦手な一夏や箒ですらも余裕を以て対処していた。
そんな中で突如として攻撃の質が変わる、今まで目に付く敵を全て攻撃するかのような無差別な物から、明確に康太の駆るデルタカイのみを集中しだしたのだ。
「この感覚、クイーンか」
グロムリン・フォズィルから感じられる敵意から動かしている者の正体を看破する康太。
自身に集中する攻撃をMS形態のデルタカイの脚部スラスターを使い縦横無尽に宙を駆け、それどころか反撃として右手に握ったロングメガバスターを放つが、ビームがグロムリン・フォズィルに直撃する前に展開されている力場によって霧散する。
「やはりIフィールドか。各機に通達、敵はIフィールドバリアを使用!光学兵器は通用しない為、実体弾で対応せよ!」
「また光学兵器無効ですの!?」
それを見てグロムリン・フォズィルに搭載されている装備を看破する康太、次いで伝えられる警告に対して幾度も光学兵器を無効化してくる相手が多い為にセシリアが叫ぶ。
加えてブルー・ティアーズではろくな有効打を与えられない為に方針を切り替え、グロムリン・フォズィルが放つミサイルの迎撃を主として立ち回り始めた。
それにより余裕が出来た一夏たちはフルアーマーユニコーンガンダムの武装を構える、スターク・ジェガン用のミサイルランチャーから六発、撃ち尽くした後はパージしバズーカを両手に握り弾倉を全弾放つ勢いで連射し、機体の各部に取り付けられたグレネードに点火して高火力の爆発物による弾幕がグロムリン・フォズィルへと向かう。
巨体故に回避も出来ず、加えてビームで迎撃しようにもIフィールドと干渉する部分も出てくる為に完全とは言えない。
多くのミサイルなどによりダメージを受けるグロムリン・フォズィル、元の大きさから深刻なダメージとまではいかないが幾つかの武装が潰される、そうして弾幕が途切れた場所を見付けて箒と鈴が切り込み、より深く損傷を与えていく。
「図体ばかり大きくて大したことないわね!」
「このまま片っ端から斬り刻むぞ!」
地形を変えるほどの火力は脅威ではあるが、自分たちの攻撃が通用することに士気を上げる箒たち、だがそれも長くは続かない。
「待って、損傷したところが修復している!?」
「あれはまさか、デビルガンダムと同じものなのか!?」
他のISとは違い一歩退いた位置で敵の動きを見ていた楯無と、その眼の良さから見抜いたラウラの言う通り、破損したグロムリン・フォズィルの装甲の内部から触手のようにケーブル等が伸びていき、それ等が破損した装甲や武装を修復していく。
「間違いなくDG細胞だな。さて、あれだけの巨体を一撃でぶち抜くとなると、装備がな……」
そんな修復能力を見て元からグロムリン・フォズィルに搭載されている能力であることを知っていた康太は冷静な反応を見せるが、そもそも超巨大モビルアーマーを相手取ることを想定していなかった為に手持ちの装備では負けはせずとも勝てないことを悟っていた。
『IS学園、聞こえているわね。援護するわ、射線上より退避しなさい』
「何ッ!?」
そんな中で突如として通信が入り、同時に攻撃範囲を示す情報が送られてくる。
相手の正体は不明だがその場に留まれば何らかの攻撃に巻き込まれる、即座に判断したIS学園の面々はグロムリン・フォズィルへと牽制を加えつつ距離を取る。
そしてカウントダウンの終了と同時に亡国機業の基地から少し離れた位置、その地面が吹き飛び強大なエネルギーの本流がグロムリン・フォズィルへと向かう。
「これは、陽電子砲か!」
真っ直ぐにグロムリン・フォズィルに向かったそれはIフィールドの力場によって減衰するも一部が本体へと貫通しその機体表面に損傷を与える。
それを見て康太は即座にデルタカイを変形させると最大加速で被弾した箇所へと向かい、拡張領域よりプロト・スタークジェガン用の大型対艦ミサイル四発を呼び出す。
ブースターに点火せず呼び出した時の慣性のまま無誘導爆弾のように信管のみ起動させたそれは損傷を受けたグロムリン・フォズィルの側面をより大きく破壊し、あまりの損傷に一度はその巨体が沈む。
しかし直ぐに修復が始まり、加えて機体上部の有線ヘッドビームが鎌首をもたげるように康太で狙い、感知した康太も回避行動に移る。
敢えて近い位置を飛ぶことで狙いを定めようにも旋回半径を大きくする康太、それを支援するように大型のミサイルが幾つも飛来し、有線ヘッドビームの基部に損傷を与えることで機能不全に陥らせた。
『これで暫くは修復の為に動けないでしょうね。今はこの場を離脱しましょう。ネェル・アーガマも、次の座標で落ち合えることを願っているわ』
先程と同じ声、それがスコール・ミューゼルのものだということに思い当たる康太だが、自身を援護してくれた存在を見ると目を見張る。
陽電子砲とミサイルの弾頭からもしやと思ってはいた、砲撃によって土煙を上げる地上から浮かび上がってきたのはネェル・アーガマと同じように白を基調としつつ赤のアクセントが目を引く一隻の艦だった。
「あの戦艦、シミュレーターで見ましたわね」
「ああ、授業中に康太がプロヴィデンスと戦ったシミュレーターで映ってた筈だ」
その艦の姿を捉えた時、見覚えのある者達はそう口にする中で、改めて康太がその名を口にする。
「―――アークエンジェル」
大天使の名を関する白亜の艦、それが亡国機業の新たなる戦力であった。
◆
その場に監視用のドローンを残し戦域を離脱したネェル・アーガマとアークエンジェル、似たようなカラーリングの二隻が並走しながらギアナ高地の上空を進む中、アークエンジェルの格納庫にはネェル・アーガマより代表して訪れた康太と束にクロエ、そして千冬の姿があった。
他の者達は戦闘で消耗した整備や補給、いざという時の為にネェル・アーガマで待機しており、指揮は楯無が執っている。
千冬にも仮でジェガンを保有しつつ乗り込んだ中、出迎えたのは亡国機業中立派のスコール、そして保守派のジョーカーだった。
「まさかアークエンジェル級を保有しているとはな。何処にもそんなデータは無かったぞ」
「それに関しては私も同意見だわ。スコールゥ?何処からこれだけの資源や資金を持ち出したのかしらぁ?」
「当然、私達の最高機密ですもの。こっそり保守派や革新派の資金を掠め取ったりしていたわよ」
「道理で帳簿と実際の物資の数に違和感があると思ったら!本当に貴方って人は!せめて私達には共有しなさいよ!」
「嫌よ、何処から情報が漏れるか分かったものじゃないもの」
束という重要人物を迎える中で派閥のトップとも言える二人が自ら姿を見せる中で、康太の疑問からアークエンジェル建造の中で足りない分を他の派閥からちょろまかしていた事が発覚、ジョーカーが詰めるもスコールはどこ吹く風であった。
「ねぇねぇこーくん、この船だと見所は何処にあるかな?」
「んー、あんまりネェル・アーガマよりも革新的な装備って思い当たらないんですよねえ。変換率80%超えの太陽光発電とか、レーザー核融合パルス推進とか、その辺りかと」
対して束も気ままにアークエンジェル内部を見て回ろうとしており、康太にどのような技術が使われているのか訊ねるも、あまり良い反応は返ってこない、なお既存の太陽光発電は変換率20%くらいなので四倍の効率という点で一般的には破格の性能をしていたりする。
「あ、そうだ。ジョーカー、この艦が原型通りの設計ならお前の、というより亡国機業の目的達成出来るぞ」
「あら、それはどんな物なのかしら?」
「俺の記憶違いでなければニュートロン・ジャマーが搭載されていた筈だ。核分裂を阻害する代物で、コレを使えば既存の核兵器は全て無力化される」
そんな中でアークエンジェルの装備を思い返していた康太だが、辿り着いたのは劇中でアークエンジェルが砂漠に降下した後の初戦闘時、サイ・アーガイルがニュートロン・ジャマーを展開しようとし、他のクルーから必要無いと返されるシーンだ。
それを聞いて油が切れた機械のようにゆっくりとした動作でスコールを見るジョーカー、それに対してスコールは微笑みを浮かべて肩をすくめる。
「――――――ッ!?――――――ッ!」
最早声にならない叫びを上げ、まさかの核戦争による人類絶滅の危機を回避するという亡国機業の目的があっさりと達成されたという事実に己の感情の許容量を超えたジョーカーは、取り敢えず腹立たしさもありスコールへと拳を振るうのであった。
◆
あの後、暴れるジョーカーを周りの整備士などが慌てて抑え、何とか落ち着きを取り戻したことでアークエンジェルの艦橋に移動したオレ達だが、早速オレはCICのコンソールを操作していた。
「ほら、やっぱりあったぞニュートロン・ジャマー」
「私の……私達のこれまでの苦労って一体……」
そこで本当にニュートロン・ジャマーが搭載されていることを確認したのだが、今度はあっさりと目的が達成してしまったことで落ち込んでいるジョーカーが居た。
核戦争が起きないように動いて、最終手段としてミサイル迎撃可能なISを集めていたのに一つの技術でそれまでの活動が全て引っくり返されればそうもなるだろう。
「サイズによるが三機で地球全土を覆えるって話しもあったからなあ。応用すれば原子炉のメルトダウンも防げるし、技術公開すれば核兵器が無駄になって世界平和には近付けるな」
具体的にはならず者国家と呼ばれる某半島の北の国とかな、核兵器でパワーバランス取ろうと画策していた中でコレが公表されたら独裁者は憤死するかもしれない。
核保有国の力は相対的に弱まり国力こそが絶対となればISの持つ戦略兵器としての価値が飛躍的に高まる、だからジョーカーたちの活動が無駄とはならないのは確かだ。
「とはいえ一部の国からするとエネルギー安全保障の危機なんだよな。起動すると大規模な電波障害も起きるし、その辺りも匙加減が難しいんだ」
因みに原子力発電の割合が一番多いのはフランスで六割くらい原子力に頼っているのでニュートロン・ジャマーを使うだけで大規模テロのようなことになってしまう。
間違いなく全面核戦争から人類を救う技術だが、何事も扱う者次第という事だな。
「あと核融合は防げないからレーザー着火式の純粋水爆とか開発されたら無意味になるから、その辺りを今後は対策していくことになるんじゃないか?」
「そう、ね。これからの亡国機業の活動はそれがメインになるでしょう。それでスコール、コレは広めても構わないわよね?」
「ええ、問題ないわ。それこそが亡国機業の悲願なのだから」
「そうよね、その辺りは貴方も亡国機業の一員だもの。なら私達からラビットフット社へお願いするわ。今回の一件が片付いた後、ニュートロン・ジャマーを貴方たちの方から世界に発表してくれないかしら?」
「ん〜、それは良いけど、何で束さんたちなの?別に適当な技術者に教えて発表させても良いじゃん」
「それも考えたけど、篠ノ之束という知名度と天才性を考えた結果よ。その方が世界により強く印象付けることが出来る、そう考えたわ」
確かに裏側の存在である亡国機業より、紛いなりにもラビットフット社という表の立場を持つ篠ノ之博士の方が発表するには都合が良いだろう。
篠ノ之博士も少し考えたようだが、最終的にはそれを了承した。
「うん、わかったよ。そこまで言うなら束さんがやってあげようじゃない!それに、宇宙に出るのに地上で下手に暴れたりなんてされたら迷惑だからね」
なお余談だが後にニュートロン・ジャマーを世界に発表した時、その功績の大きさから篠ノ之博士にノーベル賞が送られることが決定するのだった。
とはいえ予想外だったのは物理学などではなく、平和賞の受賞だった点だろう、そこは篠ノ之博士なので公の場に姿を現すことは無かったけれども。
「さて、大きく話は逸れたけど本題に入りましょうか」
「それに関しては申し訳ない」
「あの怪物、グロムリン攻略作戦を始めましょう」
オレが原因で脱線した話を戻す時が来た、この場に集まった目的を達成する為に動き出すのだった。