ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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第一部 Armored Core 4
Last Raven 〜国家解体戦争〜


 捉えた。

 

 照準と照星が目標にぴたりと重なる。俺は奴の制動のタイミングを狙って、右手に構えたライフルのトリガーを引き絞った。歴戦の経験からわかる、どんな高機動性を有していようとも絶対に避けられないタイミングだ。

 

 ライフルの銃口から放たれた青白い光の奔流は、周囲の空気をプラズマ化させながら亜光速で目標に向かう。着弾。その超高温のエネルギーは、地面のアスファルトもろとも周囲100mにわたってあらゆるものをイオン化させ、爆散し、爆風と黒煙がもうもうと巻き上がる。

 

 眼下には、粉塵と煙の黒い塊。それが一瞬視界を遮った次の瞬間、発破音に近い轟音とともに視界右側が青白く瞬いた。とっさに回避行動を取るが、ライフルを握った俺の右肩から先が棒きれのように宙を舞うのを視界端に捉える。しかし、痛みはない。切り飛ばされたのは搭乗機(アーマード・コア)の右腕部だからだ。

 

 敵機はあの絶対不可能なタイミングで回避し、さらに一瞬にして地上数十mで滞空するこちらに接近し、すれ違いざまにレーザーブレードで俺が乗るACの腕を切り飛ばした。まるで瞬間移動だ。クーデター軍が投入した新型機の並外れた運動性能と瞬発力に改めて舌を巻く。

 

 右腕を失った異常を検知して、コックピット内にはけたたましいアラート音が鳴り響いた。しかし、後方モニターには旋回して追撃を加えようとする敵が見えているため無視するしかない。

 

 急降下して回避行動をとり、後方からの繰り出される二撃目のレーザーブレードに反応して避けるも、今度は頭部が薙ぎ払われた。コックピットの天井から轟音が響く。そして、再び別のアラート音がけたたましく鳴る。

 

 頭部メインカメラを失い解像度を大きく低下させたモニターが、前方へ大きくオーバーランした敵機の後ろ姿を捉える。外観は一般的なACと大きな違いはないが、背面には翼のような6本の構造体が生えていた。至近距離で初めてその全貌が確認できた正体不明機は、まるで白く美しい天使のようなシルエットをしていた。しかし、悠長に観察などしている余裕はない。やらなければ、こちらがやられるだけだ。

 

 眼前の敵背面めがけてスロットルレバーを全開。自機の背面で点火したブースターの推力が機体を前方へ蹴飛ばす。わずか数秒で200km/hまで達する加速に、ダメージを負った機体が急加速で軋みを上げる。

 

 その勢いのまま敵機に斬撃を加えるべく、振り上げた左腕手首のプラズマ発生装置から青く輝くブレード状の本流を吐き出させる。左腕に備わる近接戦闘用のレーザーブレードは、プラズマ粒子を強力な電磁場で閉じ込めた数万℃のプラズマ刃だ。どれだけ最新の高性能機であろうと、これを防げる装甲など存在しない。

 

 俺は一撃必殺のレーザーブレードを敵機めがけて振り下ろす。しかし、こちらのプラズマ刃が届くより早く、奴は肩のブースターを点火。一瞬にして旋回し、振り向きざまにレーザーブレードが振るわれる。レーザーブレードを振り下ろそうとした自機の左腕部の肘から先が切り飛ばされる。

 

 敵機はそのまま各部のブースターを瞬かせ、流れるような動作で機体を宙返りさせるとこちらの頭上から脚部を振り下ろす。半シーケンス制御で駆動するACには到底真似できない動きに一瞬見惚れた。それはまるで体操選手が、空中で宙返りをするような滑らかな動きだったからだ。

 

 敵機が放ったムーンサルトキックの衝撃がコックピットに収まる身体にまで響く。激しい衝撃に機体操作もままならず、ブースターを点火する間もなく空中から地面に叩き落とされた。わずかな無重力感の後に大きな衝撃と轟音が響くと、視界が暗転して鳴り続いていたうるさいアラート音が遠のき、そのまま意識が飛んだ。

 

 

 ___遠くで幾重ものアラート音が鳴っている。混濁する意識のなかで、アラートの不協和音に聞き入っていた。こんな音もあったのか。なんの異常だ?

 

 ふと意識が戻り、戦闘中であったことを思い出した。どれくらい気を失っていたかわからない。焼けた金属の臭いと、火薬の臭いと、漏電の独特なオゾン臭いが鼻の奥を突き刺す。全身に痛みが走ったが、身体は動く。とにかくまだ生きている。

 

 身体状態の確認もそこそこに、俺は機体の損傷状態をチェックする。頭部と両腕部はすでになく、機体のダメージモニタリングはほぼ全箇所が異常を示していた。機体を動かそうと試みるも、何処かに挟まっているのか、アクチュエーターモーターの稼働音と振動はするものの機体は動かない。

 

 外界を視認するためのコックピットモニターは至るところのドットが欠け、辛うじて見える景色と計器の数値で現在の姿勢を判断する。どうやら、倒壊したビル施設にソファのように機体を預けた姿勢でいるようだ。フットペダルを踏み込むも、操作レバーを倒すも、アクチュエーターモーターが唸りをあげるだけで機体は動こうとしない。

 

 そうこうしているうちに、鋭い高音が混じった重低音が徐々に大きくなって聞こえてくる。大気の振動が機体を通して伝わり、俺の身体を震わせた。

 

 これは聞き慣れた音とは異なるが、間違いなくACのブースト音だ。空を映すドット欠けとノイズだらけのモニター上方から、翼を広げた天使の姿をした敵機が、ゆっくりと降臨してくる。幸か不幸か気を失っていたのはほんの一瞬だったようだ。

 

 その天使のように神々しい姿をした悪魔は一瞬だけブーストを吹かし、対地速度を殺して地面にタッチダウンすると、レーザーブレードを携え警戒するように一歩一歩近づいてくる。その様は、鎌の代わりにレーザーブレードを振るう死神のようだ。

 

 これまでにないほどモニターに大きく映し出された敵機は、鋭い輝きを放つレーザーブレードの切っ先をこちらに向ける。確実に仕留めるためにコックピットを貫こうとしているのだろう。

 

 こちらの武装はほとんどを失っている。おまけに機体は動かない。戦闘能力がないことは筒抜けだろうに。しかし、無抵抗で殺されるわけにはいかない。

 

 手早くコンソールを操作し、キーボタンを叩くと機体胸部に備わったミサイル迎撃用の機銃をエマージェンシーモードで作動させた。ACに対しての攻撃力は皆無だが牽制には使える。

 

 突然の機銃発射に驚いた敵機は前面のブースターを吹かし、慌てた様子で機体を引かせた。急速後退する奴の機体周辺には薄い光の膜が浮かび上がり、小径機銃の弾丸は装甲にぶつかる前に運動量を失う。どうやら奴は攻撃を無効化するバリアまで展開できるようだ。

 

 もちろん、ミサイル迎撃用の小径機銃で倒せるとは思ってはいなかったが、おかげで数秒間だけ打開策を見出すための時間を稼ぐことができた。

 

 敵機は物理法則を無視したような機動性能と、緻密な機体制御性能を有し、あらゆる面で旧来のACとは隔絶した性能を持っている。おまけにあのバリア。これがクーデター軍の秘密兵器か。これほどの性能差では、なにをやっても勝てるはずがない。人型巨大兵器アーマード・コアを操り、地上最強と謳われた傭兵(レイヴン)であっても、もはや戦いにすらならない。

 

 モニターには、再びブレードを構える敵機の姿が映った。その背面に光が収束していくのを捉える。どうやらオーバードブーストまで使えるらしい。恐らく一気に間合いをつめて止めをさすつもりだろう。俺はやけくそとばかりにコンソールに拳を叩きつける。

 

 オーバードブーストは、その大推力で重量10tを優に超えるACを音速近くにまで加速させる強襲用ブースターだ。そして、使用する際は10G以上の重力加速度が機体とパイロットにかかる。

 

 姿勢制御の要である頭部とバランサーとなる両腕を失った状態で、果たしてどこまで機体が耐えられるだろうか。そもそも、どんな軌道で飛ぶのかすら想像がつかない。だとしても、できることをしなくてはいけない。これまでもそうして、幾多の戦場を生き抜いてきたのだから。

 

 天使の背中に収束していた光が飽和し、後光が射した。オーバードブーストの凄まじい推力によって敵の機体そのものが弾丸となってこちらへ襲いかかってくる。

 

 その刹那後に、こちらのオーバードブーストも点火。とたんに満身創痍の身体がコンクリートの塊に押しつぶされたような加速Gをうけて軋む。肺が押しつぶされて口から空気が漏れ出す。そして、体中の全血液が地面に置き忘れてしまうかのような急上昇に視界が暗転した。

 

 これまでに感じたことのない機動と振動と轟音に三半規管は完全に麻痺し、まるでどちらを向いているのかわからない。ただ、空中を舞っているのだけはわかった。しかし、クーデター軍が開発した新型ACの圧倒的な力の前に、最強と謳われたレイヴンの翼はすでにもがれている。

 

 無事に着地できるとは到底思えない。翼のない(レイヴン)は、それでも飛び立った。幸いなことに、俺が地に落ちた瞬間の記憶はない。

 

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