ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Retaloation 後編 〜アナトリアの英雄〜

 4足歩行型の大型機動要塞GAEM−QUASAR装甲には、銃弾もミサイルも、摂氏数万℃のレーザーブレードすらもきかない。こちらの策は尽きた。

 

 どうする? 対粒子装甲ではない主砲や関節部なら破壊は可能だろうが、それでどれほどのダメージが与えられるだろうか。奴はなかなか素早く、そうそうブレードで狙える箇所でもない。

 

 そのとき、敵機動要塞から通信が入った。

 

《アンタかい? アマジーグを殺したアナトリアの傭兵は》

 

 通信機からは意外なことに女の声がした。たしかに俺はアマジーグと戦ったが、奴にとどめを刺したのは俺ではなくジョシュア・オブライエンだ。あの忌々しい白い機体が脳裏に浮かぶ。

 

「残念だが、人違いだ。俺は確かにアナトリアの傭兵だが、アマジーグを殺したのは別の人間だ。お前たちはマグリブ解放戦線か? アマジーグの復讐だとしたら、それはただの逆恨みだ。殺した奴の名前を教えてやる。それで、この場は引き取り願いたいのだが」

 

《なっ___》一度通信が切れる。

 

 

  再び通信が入る。《アナトリアの傭兵、そちらは万策尽きたはずだ。おとなしく投降しろ。貴様の身柄さえ確保できれば、私たちはアナトリアを潰したりはしない》

 

 今度は別の女が脅しにかかる。何なんだコイツらは。少なくとも戦闘要員とは思えない。

 

「残念だが、まだ終わっちゃいない。こちらには奥の手がある」

 

 もちろんはったり(ブラフ)だ。俺は続けて言葉を放つ。

 

「お前らこそ、その機体はどうした。それは、いち反乱分子が持てるような兵器じゃない。おおかた企業から支援をうけて、アマジーグの敵討ちとしてアナトリアに復讐するように仕向けられたのだろう。マグリブ解放戦線は、いつから企業の犬になった」

 

《アタシらは犬じゃない! 砂漠の狼よ!!》また別の女の声が吠える。どうやら、艦橋(ブリッジ)には最低3人のオペレーターがいるようだ。

 

「ふん、アマジーグが聞いてあきれるな。ああ、そうか。奴はお前たちみたいなのとは一緒に戦っていられないから、一人で戦っていたんだな」

 

《違う! あの人は、私たちをコジマ汚染から守るために、一人で戦っていたんだ! お前になにがわかる!? 私たちはあの人の妻だぞ!!》最初の女が再び会話に応じる。

 

 私たちは……妻? アマジーグは一夫多妻だったのか。アラブ人ならなんら不思議なことではない。だが。「何度も言うが、殺したのは俺じゃない。帰らないのなら、俺は機動要塞(そいつ)を潰す。これが最終勧告だ」

 

 俺は、左肩のマイクロミサイル発射口を開くそぶりを見せる。弾はもう1発しかない。それでも、戦闘員でない者にであれば通用するだろうことを願ったはったり(ブラフ)だ。それに、時間が稼げたおかげで秘策を思いついた。

 

《私たちは戦うしかないのよ!》

 

 崖の上の機動要塞が瞬く。返答とばかりに地響きをともなって主砲が発射された。俺はクイックブーストで回避し、最後のマイクロミサイルを放つ。奴にミサイルはきかないが、狙いは奴じゃない。

 

 ミサイルの着弾位置を手動で足下の崖に設定する。放たれた大量の小型弾頭は、機動要塞がいる足下に向かって進み、爆発で崖を崩壊させた。繋がったままの無線機からは、女3人のけたたましい悲鳴が聞こえてくる。

 

 機動要塞は足場を失い、砕けた岩石を伴いながら50mほどの落差を真っ逆さまに落ちる。重量200tを超えると思われる機動要塞の落下の衝撃でアナトリアには地震が起きた。これで、中の全員が気絶でもしてくれればいいのだが。

 

 俺はライフルを構えながら、慎重に近づく。動かない敵ならば、レーザーブレードをプラズマトーチ代わりに使って分断し、無力化できるだろう。さらに近づく。

 

 しかし、事はそう上手くは運ばなかった。機動要塞は鈍い動きで4本の脚をバタつかせると、一本一本の脚を器用に使って起きあがる。こちらを捕らえヘビーマシンガンを乱射する。俺はたまらず距離をとる。そして、追い打ちをかけるべく、機動要塞上部後方のハッチが大きく展開し、垂直ミサイルが発射された。

 

 高高度まで上昇した数発のミサイルが重力加速を加えて速度を高めながら向かってくる。それに対し、俺は斜め上方向に飛び上がり、相対速度を高めて誘導ミサイルをやり過ごす。そして、そのまま機動要塞を眼下の望めるまで上昇すると、ライフルを構えて精密射撃の準備をする。

 

 攻撃のチャンスはそれほど多くはない。機動要塞は、再び垂直ミサイルを発射すべく上部の発射管ハッチを解放する。そこが弱点だ。俺はタイミングを合わせてライフル弾3発をハッチの中めがけて正確に叩き込む。3本の光条が機動要塞に吸い込まれた。ひと呼吸遅れて、機動要塞後部が大爆発を起こす。

 

 垂直ミサイルの誘爆による要塞内部からの爆発は、ライフル弾をも弾く強靱な装甲と、後ろ足を含む機体後半部分を木っ端微塵に吹き飛ばし、さらに200t超の機動要塞を30mほど弾き飛ばした。あたりには装甲や破片が散乱している。

 

 吹き飛ばされた衝撃で主砲は折れ曲がり、もやは攻撃力と呼べるものはないに等しい。それでも、前足だけで前進しようと金属片がきしみを上げる。 

 

《私たちは……戦わなくてはいけないんだ……アマジーグの敵を……》

 

 無線から女の声がする。武器弾薬庫の装甲は安全のため厚く設計されているものだ。ブリッジは恐らく無事だろう。俺は、どうするかを決めあぐねていた。この機動要塞を完全に破壊すべきかどうかを。機動要塞は、いまだにに前進を続けようともがいている。

 

《私たちは……》

 

 俺は、あきれて通信を開く。

 

「俺は、最期にアマジーグと話した」

 

《___えっ……》しめた。食いついた。

 

「奴の最期は立派だった。自分のすべてを犠牲にしてでも、守るべきもののために戦い続けた。だが、アマジーグがお前たちを守ろうとしたように、俺にも守るべきものがある」

 

 俺はブレードを振るい、地面を真一文字に薙ぐ。そして、機動要塞にブレードを真っ直ぐに突きつける。

 

「この線から先は一歩も通さん。なにがあってもだ」

 

 もちろんはったり(ブラフ)だ。半分は。

 

 

___その数十秒後、機動要塞から、降伏を意味する白色信号弾が打ち上げられた。無線からは、すすり泣く女達の泣き声が聞こえていた。

 

 

 

 後日。

 

 

 

 耳鳴りがする。聴覚の衰えからくる、いつもの耳鳴りだ。

 

 毎朝目を覚ましては、ベッドで仰向けになりながら、窓から見える空を見ていた。残った左目は、霞か雲かも区別がつかないが、それでも空を見ていた。手足を失った俺には、それしかできなかったからだ。

 

 アナトリア襲撃部隊の迎撃に成功し工廠に戻った俺を、メカニック達の喜ぶ顔とフィオナの安堵した表情が出迎えた。エミールの表情はよくわからないが、いつもより穏和な雰囲気が感じられた。ハワードは、半壊した最新の機動要塞サンプルを手に入れて興奮気味だった。

 

 その機動要塞を操作していたアマジーグの嫁達は全員無事だった。数日の拘留の後、易々と解放された。

 

 マグリブ開放戦線は、多くの荷物を抱えていた。神の威信と、人の誇りと生活。アマジーグという偶像。そして、企業のあやつり人形という矛盾。だからアナトリアを落とせなかった。対する俺は、すべてを失ったが、アナトリアを抱えて戦うはめになった。だから苦戦した。

 

 これは、弱者と弱者の戦いだった。

 

 世の中には、強い人間も弱い人間も存在しない。強くいられる人間は、抱えた荷物が少ないから強くいられるだけだ。弱い人間は、抱えた荷物が多いから弱さとなるにすぎない。

 

 だが、抱えた荷物が多いほど、人間らしい生き方だといえるのかもしれない。そういう意味では、AC1機だけを抱えて戦い続けた(レイヴン)は、人間らしく生きてはいなかったのだろう。しかし、だからといって___

 

 

 ___人間は時間をもてあますとロクなことを考えない。これまで考えたことを頭から振り払った。どうせもう、あの空を自由に羽ばたくことはできないのだから。

 

 耳鳴りは続いている。

 

 

 そういえば、そろそろ朝食の時間か。かすかなノック音の後、自室のドアが開きフィオナが入ってきた。朝日に照らされて、フィオナの明るいブロンドの髪は一層目に映える。ゆっくりベッドの脇まで来ると、俺に覆い被さるようにして顔を寄せた。

 

 顔は相変わらずぼやけてよく見えない。白衣に染み込んだいつもの薬品のにおいと、いつもの石鹸の香りが混じった複雑なにおいが、間違いなくフィオナであることを証明してくれる。

 

 フィオナの体温を頬で感じる。それに、ショートヘアが顔にかかってくすぐったい。こちらは顔をかくこともできないんだ。フィオナが、俺の左耳に息がかかるほどの距離まで口元を近づけて言う。

 

 

「おはようレイヴン。今日はちょっと外に出られるかしら?」

 

 俺は首の筋肉をめいっぱい使って、わずかにうなずいた。

 

 

 フィオナは、いつものようにライトで瞳孔の開き具合を確認し、体温をはかり、聴診器で心音を聞く。着替えをすませ、朝食を取った後、軽い俺の身体を易々と持ち上げ車いすに乗せる。そして、俺の頭にゴーグルのようなものを被せた。

 

「これは、ネクストのAMS技術を応用した装置よ。カメラと集音機とスピーカーがついていて、非接触で脳波を読みとって視覚と聴覚と発話の補助をするの。あなたのために、ハワードと私でつくったの」

 

 フィオナが装置のスイッチを入れると、神経活動が活発になるせいか頭の各部がムズムズとした。とはいえ、ネクスト起動時ほどはっきりとした感覚ではない。それでも、ぼやけていた視界が幾分くっきり見えるのが実感できた。そして、フィオナの声がやけに大きく聞こえた。

 

「どう? 話してみて」

 

 フィオナに促され、たどたどしく声を出してみる。

 

「アー、アー、聞コエテイルカ。コチラれいゔん」

 

 何だこれは!? 俺の言葉が、金属音混じり高周波音で装置から発せられる。まるで、出来損ないのロボット音声だ。フィオナは腹を抱えて笑う。

 

「良い部品がなくて、ありあわせでつくったから、こうなっちゃた。具合はどう?」フィオナが笑いすぎて流れた涙を拭いながら訊く。

 

「視覚モ、聴覚モ、以前ニ比ベレバハッキリトシテイル。ふぃおなノ顔モ、ハッキリト見エル。アリガトウふぃおな」

 

「どういたしまして___」おかしさのあまり、フィオナは再び吹き出した。

 

「これが、AMS技術の本来の使い方なのよ。さあ、レイヴン。新型兵器のテストを兼ねて散歩(出撃)できるかしら?」

 

「いぇす、まぁむ。問題ナイ」とはいえ、自分の発声する声の気持ち悪さに慣れるまでには時間がかかりそうだ。

 

 

 

 寄宿舎および工廠と研究所、司令部がある建物は、アナトリアの郊外にある。フィオナはいつもの白衣姿に、ヒジャブと呼ばれるスカーフで頭を隠しただけの格好で車椅子の俺を押し、街の中心地まで向かう。

 

 コロニー・アナトリアの街は、オスマン・トルコ時代から存在する古い街だ。近代化により軽量高剛性の樹脂建造物が増える一方で、石畳や石造りの建物も多く残っている。中東と欧州文化が入り交じった特徴的な建造物は目にも楽しい。

 

 家々には目玉かたどったような飾りがぶら下がっていた。「ナザール・ボンジュウ」という厄払いのお守りなのだとフィオナが教えてくれた。

 

 こういった形でアナトリアに来ることがなければ、一生目にすることがなかった景色だろう。この時代にあっても、ここに住む人々の表情には活気があった。道行く人達は、フィオナを見つけてはおじぎをしたり、手を振り「セラーム」もしくは「メルハバ」と声をかける。フィオナはそれらすべてに笑顔で応えた。

 

 街の中央には、先日の襲撃で尖塔が破壊された礼拝堂がある。瓦礫の撤去はいまだ進まず、周辺には立ち入り禁止をしめす黄色いテープが張られていた。周辺には礼拝客がたむろしている。そこから、手に花を持った一人の少女がこちらに駆け寄ってくる。

 

「めるはあ。れいうん、あいがとぉ」5歳児くらいだろうか。舌足らずな礼を言いながら一輪の花を俺に差し出してくる。受け取ることができない俺のかわりに、フィオナが花を受け取ってくれた。

 

「メルハバ。アリガトウ」俺が電子的な音声で礼を発すると、少女は泣き出しそうなほどびっくりした顔をして礼拝客に混ざる母親らしき元へ逃げ戻っていった。それを見送りながら二人で笑う。フィオナが声をかけてくる。

 

「見える? これが、あなたが守ってくれたものよ。あなたはアナトリアの英雄なのだから」

 

「ヨシテクレ。柄ニモナイ」

 

 ずいぶん大きなものを抱えてしまったなと、俺は少し後悔をした。

 

 

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