ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
「貴族どもめ、私をこんな辺鄙な場所まで呼びだておって!」
GAの代表ロナルド・ウッドのでっぷりと太った腹は、車の後部座席で揺られながら煮えくり返っていた。
老いた巨人とも揶揄される
GAの主な資本元は、旧ドイツ騎士団を発祥とするローゼンタール、およびユダヤ金融資本が流れ込むイスラエルの軍産複合体が母体のオーメル・サイエンスの2社。
胃袋には欲しいままに金を詰め込まれ、でっぷりと太っただけの木偶の巨人がGAであり、その実態は金で操られる巨大な操り人形であった。
そのローゼンタールに呼び出されたとあっては、世界のどこへでも、代表みずから出向かねばならない。GA代表ロナルド・ウッドと、護衛役の一人の女性士官を乗せた車は、企業会合をすべくローゼンタールが所有するドイツ山奥の別荘に向かっていた。
「まだ着かんのか!?」と運転手に対して悪態をつくロナルド・ウッドとは対照的に、隣に座る女性士官メノ・ルーは楽しそうに窓の外を眺めている。現在はローゼンタール・グループが所有しているロールス・ロイスの電気自動車の乗り心地と、普段は見慣れないドイツの山々の景色を堪能しながら、観光気分で終始ご機嫌だ。
車が静かに停まって降りた先には、玄関まで数百mはあろうかという大きな庭園と屋敷があった。陽光に照らされて輝くドイツ邸は、まるでおとぎ話にでてくる建物そのものだ。メノ・ルーは眼を輝かせて、この感動的な景色を見れたことを神に感謝した。
対するロナルド・ウッドは、だだっ広い庭を歩かなければならないことを呪った。そして「貴族どもは、どこまで私をコケにするつもりだ!」と文句を言う。
「さあ、参りましょう。閣下」ニコニコとメノ・ルーはロナルドを促す。
本来であれば、代表の一歩後について歩くところだが、本日は護衛の任務も兼ねているため前を歩く。GAの正規軍服であるカーキー色のジャケットとスカートは、実はお気に入りだ。普段はあまり着ることがないため行事があると軍服を着ることができて嬉しかった。
胸とお尻が少しきつくなったことを気にかけながら、ロナルドの歩調に留意しながら颯爽と歩き出す。そして、護衛として一応周囲に注意を巡らす。拳銃は腰のホルスターにしっかりとある。動きやすいように、腰まである長い髪は、アップにして同じくカーキー色をした帽子の中に押し込んであった。
50mほど歩いただろうか。ロナルドの息はすでに切れている。前を歩く女性士官の歩を進める度に揺れる、美しい腰のくびれとヒップラインに目をやり、脱がせてみたい衝動に駆られる。何かに意識を集中させなければ、歩くのが辛くて辛くて仕方がなかった。
100m。ハヒー。ハヒー。何の音だ? その空気の抜けるような音の出所が、ロナルド自身の喉であることに気づくまで数十秒かかった。
150m。意識は数十年前の兵役時に飛んでいた。当時はまだ痩せていて陸軍に所属していた。厳しい訓練くぐり抜け、身ひとつで戦場を駆け抜けたものだ。数多くの功績を勲章で称えられ、私はここまで上り詰めたのに◎△$♪×¥●&%#?!。
200m。玄関に着いた。おお、天にまします我らの父よ。感謝いたします。ロナルドは汗と涙と鼻水を流す。メノ・ルーが立派なドアベルをノックすると、執事が中からドアを開けた。
大きなドアが開け放たれた先には、豪華絢爛な内装と大きな階段が見えた。入り口では執事やメイドが整列し、GAの二人を出迎えた。一番奥には、白騎士の格好をした大柄な男性と、フォーマルスーツを着た小柄な女性が並んで立っている。
「GA所属メノ・ルー大尉です。GA代表ロナルド・ウッドをお連れいた……キャッ!」そこでロナルド・ウッドの視界はぐるりと反転し、倒れ込んだ。
「閣下!!」メノ・ルーが呼び、周りの者が駆け寄る。
「み、水を……」ロナルドは声を振り絞って言葉を発する。
「やや、GAの巨人殿は水をご所望だ。樽いっぱい持ってきなさい」
大柄な白い騎士が駆け寄りながら放つジョークは、ロナルドの耳にもかすかに聞こえていた。
この、貴族どもめ___。もはや、うめき声にすらならなかった。
旧ドイツ騎士団の血を受け継ぐ、ローゼンタールの代表は、青を基調とした煌びやかな騎士の衣装を身にまとい、腰には騎士の象徴たる剣を下げていた。
豪華絢爛な内装や彫刻、絵画が並ぶ広い応接間に彼が入ってくると、まるで中世にタイムスリップしたようだとメノ・ルーは思った。そして円卓に着くと、その代表みずからが声高らかに挨拶をする。
「皆様、本日は遠路はるばるご足労いただき、いたみ入ります。とくに、GA閣下には大変なご苦労をおかけしました。さて、まずは本日お集まりいただいた皆様をご紹介いたしましょう」
ローゼンタールの代表は右手を掲げ、円卓の右側に座る者たちを紹介した。
「GAアメリカの代表を務めるロナルド・ウッド閣下と、その奥がGAの最高位リンクスであるメノ・ルー氏」
カーキー色の軍服を着た仏頂面のロナルド・ウッドと、同じく軍服姿で緊張気味のメノ・ルーが呼ばれ、他の面々と目を合わす。
右手を下ろし、今度は左手を掲げる。
「オーメル・サイエンステクノロジーの軍事情報部管理官のアディ・ネイサン氏。その奥がオーメル期待のリンクス、ミド・アウリエル氏」
スーツを着た鋭い目の男アディ・ネイサンと、同じくフォーマルスーツに身を包んだ無表情の女性ミド・アウリエルが、それぞれと目で挨拶を交わす。
「そして、私が本日この会を執り仕切るローゼンタール代表のハインリヒ・シュテンベルグ。ハインとお呼びください」ハインは胸に手を当て、深々と頭を垂れる。
「向こう側にいるのが、我が社の最高位リンクスである白騎士こと、レオハルト侯にございます。まずは現在の情勢についてご説明しましょう。レオ」
旧知の間柄なのであろう、愛称で呼ばれた白騎士レオハルトは立ち上がり、円卓を囲む5人に向けて説明を始める。
「昨日、反パックス勢力として最大規模を誇っていたマグリブ開放戦線が、事実上崩壊しました。その要因となったのは、先にマグリブ開放戦線の指導者である英雄アマジーグを討ったアナトリアの傭兵です。
マグリブ開放戦線は、アナトリアへ報復行動に出たものの、アナトリアの傭兵による迎撃によって主戦力の大半を失った模様。そのなかには、GAヨーロッパから流出したと思われる、4足歩行型の大型機動要塞GAEM-QUASARも確認。アナトリアの傭兵はこれを単機で撃破しております」
「バカな! あれには、対ネクスト用の特殊装甲が装備されているはずだ。並のネクストでは傷ひとつつけられんようにできている。アナトリアはそれほど強力な武器を所持しているのか!?」ロナルドが吠える。
「いえ、多少のチューニングは施されているものの、なんの変哲もないただのネクスト機です。垂直発射ミサイルの、わずかな発射タイミングを見計らい、ハッチ内部を正確に撃ち抜いて撃破した模様です。今後はハッチ内にも改良を加えねばなりませんな、ウッド閣下」
「信じられん……」ロナルドは、うなだれたように体重を椅子に預けた。
そこへ、オーメルの管理官が挙手をしてレオハルトに質問を投げかける。
「そういえば、事案のアナトリアの傭兵は、国家解体戦争のイスタンブール前線で、レオハルト氏が討ち漏らしたレイヴンだとの噂だが、いかがお考えだろうか」
「はて、記憶にありませんな。それほどの猛者であれば覚えていても不思議ではないのですが。ただ、1機取り逃がしたACがおりましたが、それでしょうかな」
レオハルトは気にもとめない様子で話を続ける。
「さて、金で動くアナトリアの傭兵はさして問題ではありません。真に脅威となるのは、マグリブ開放戦線が崩壊したことによる、BFF側との力関係の変化です。直近の案件としては、ご存じのとおりGAEとBFF側の癒着。正確にはGAEとアクアビット社との極秘提携が大きな問題なのです」
レオハルトはそこで言葉を切り、ハインに目配せをする。ハインがうなずき、言葉を引き継いで立ち上がった。
「現在BFFは、強力なネクスト部隊をもつレイレナード、特殊兵装を得意とするアクアビットと協調関係を強めて軍備を強化しており、マグリブ開放前線の崩壊を契機に、BFFはこちらに討って出てくる可能性が十分に考えられます。
対する我々は、物量でこそ勝っているものの、コジマ技術関連に関しては彼らに一歩遅れていると言わざるを得ない。そして、ネクストの数でも大きく劣っているのが現状です。
そして、さらにGAEはアクアビットと共同で巨大兵器の建造に着手しているとの情報もあり、これは無視できない由々しき問題です」
ハインは言葉を切り、GA代表の顔色を伺い見る。
「た、確かに、GAEの裏切りは、我々の怠慢が生んだ結果だ。だが、貴奴らは周到に用意していた模様で、我々の情報網をもってしても事前に見抜くのは不可能だった。事前の通達どおり、この責任は我々GAアメリカが内部粛正という形で収拾する」
ロナルド・ウッドは、吹き出す汗をハンカチで拭い、うろたえを隠しながら弁解する。
「ええ、そのために御社最高位のリンクスである、メノ・ルー氏をはるばる連れだっていただいたのです。ただし、GAや我々が直接動いたとなると、アクアビット、強いてはBFFを刺激しかねません。今回の粛正劇は傭兵と協力して、最小規模で作戦を決行する。あくまで隠密に。そして、証拠となるものはすべて消さねばなりません」
「失礼」とオーメルのミド・アウリエルが挙手をし、涼やかな声でハインに質問を投げかける。
「『すべての証拠を消す』とは『傭兵も含めて』ということでしょうか?」
鋭い質問に、ハインはわずかな間をおいて、頷いた。
「彼らもプロだ。情報漏洩などのというミスは犯さないであろうが、我々の秩序維持には些細な不安要素もあってはならない。世界の秩序を維持するためには、GAEを粛正したのが我々であることは、決して世に知られてはならないのだ。また、GAEへの攻撃が、BFF側の破壊工作であったとして公表すれば、今後の彼らの動きを牽制することも可能だ。___我々のやり方に、辟易したかね?」
ハインは答えを待たずに続ける。
「それにより後々、我々は世界から悪者と罵られることだろう。しかし、そうしなければ、再び地上には戦火が巻き起こるだろう。我々は何を犠牲にしてでも、世界の秩序を維持していかなくてはならない。情報が外部に漏れればそれだけ真の和平の到来は遅くなってしまうのですッ!」
ロナルド・ウッドは、ハインが興奮のあまり抜剣するのではないかと、隣で冷や冷やしていた。
「国家解体戦争で、多くの犠牲を払ってまで、ようやく手に入れた秩序を守るのが、我々騎士としての務め。そして、我々パックスの使命なのです。我々3社は力を合わせて、世界の脅威を取り除かねばならないッ!どんな手段を使ってでも、真の和平を築かなければならないのですッ!!」
ハインは、卓上に握り拳を叩きつける。
円卓に座る全員が目を見開いて驚いた。そして、ひと呼吸の後、声のトーンを落としてささやくように語りかける。
「___そのために、力を貸してくれるだろうか、メノ・ルー?」
急に話題を振られたメノ・ルーはさらに驚いて「は、はい!」と上ずった声で答えた。
「失礼。少々熱くなってしまいました。では、メノ・ルー氏には、アナトリアの傭兵と共同で、GAEのインド洋ハイダ工場を襲撃し、建造中の巨大兵器を破壊。そして、いっさいの証拠を残さず基地を爆破する任についてもらう。それに際して、君のネクストに剣を与えよう。すべての悪を滅ぼす光の剣だ。通達はすでにしてある。基地で受領し任務にあたりたまえ」
「……はい、心得ました」メノ・ルーはわずかな迷いを抱えながらも敬礼して答える。
「レオハルト侯とミド・アウリエル氏は行動を共にし、イスタンブール前線基地でBFF側の動向に注視してくれ。
なお、少ない兵力を補うために、今後はアナトリアやアスピナの傭兵達と行動を共にする機会が増えるだろう。だが、彼らは傭兵だ。場合によっては敵となるということも重々承知しておいてほしい。以上だ。
今後の我々の行動次第で、世界の動向が大きく変わる。世界の行く末は、ネクストのパイロットである君たちの肩にかかっているといってもいいだろう。心して任務にかかってくれたまえ!」
その場の全員が敬礼をして答えた。
「___さて、別室にお茶を準備させていただいた。堅苦しい話はここまでにして休憩にしようか。本日はレディも多い。甘いものも用意させておこう」
◇ ◇ ◇
___誰もいなくなった部屋で、ローゼンタールのハインリヒ・シュテンベルグと、オーメル・サイエンスのアディ・ネイサンがワインを片手に会話をしている。
「見事な演説でしたね。我々は悪の組織から世界を守る正義の味方だ。これで無事、戦争が始まる」
「戦争? 人聞きの悪い。これは力を用いた
「ふふん、騎士殿とは思えない言葉ですな」ネイサンは勝手に乾杯のジェスチャーをして、グラスに残った赤ワインをすべて飲み干した。
「ペンは剣より強し。剣など、もはや、ただの飾りだ」ハインは、腰にぶら下げた剣の重さを確認する。昔に比べてずいぶんと軽くなった。剣が軽く感じるほど、世界そのものの価値も軽く感じるようになった。
世界はただ動いているだけだ。戦争とは金を使って駒を動かすだけの
「ネイサン、アナトリアとアスピナには
「わかっている」ネイサンはワインクーラーから、ボトルを引っ張り出し、グラスに注ぎながら答える。「アナトリアの方は生き残れたなら……だが」
「生き残るさ。剣はただの飾りなのだから。そうでなくとも持ち駒がひとつ減るにすぎない。どっちに転んだとしても、我々は損をしない」
とはいえ、もはやリンクスすら時代遅れだ。
それから、誰もいなくなった世界で新しい
リンクス同士の戦争が幕を開ける。