ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Internal Purge 前編 〜内部粛清〜

”すると、イエスと一緒にいた者のひとりが、手を伸ばして剣を抜き、そして大祭司の僕に切りかかって、その片耳を切り落した。

そこで、イエスは彼に言われた、「あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる。”

 

マタイによる福音書 第26章 51節から52節より

 

 

 

「作戦内容の最終確認を行います。

 

 本作戦の目標は、GAEハイダ工場を襲撃し、基地内部で製造されている大型兵器の完全なる破壊です。

 

 敵に察知されないように速やかな作戦遂行が望まれるため、我々は、高高度輸送機から降下してハイダ工場に侵入します。地上部隊を殲滅後、地下工場に潜入。私がターゲットのデータ収集をしている間に、あなたはターゲットを撃破。その後、速やかに脱出するように。

 

 ご存じの通り、本作戦は、アクアビットと極秘裏に提携していたGAEに対する、我々GAグループの内部粛正です。この事実は、世界各方面に緊張状態を引き起こす恐れがあるため、他言無用でお願いします」

 

《こちら、アナトリア。了解した。ただ、報酬全額前払いというのは、俺の経験上、いい思い出がないんだが、信用していいんだな? メノ・ルー大尉》

 

 通信によるブリーフィングを終えたアナトリアの傭兵が、作戦管理者である私に、いぶかしげに訊いてきます。

 

「ええ、GAは太っ腹なのです」私の頭のなかには、GA代表ロナルド・ウッド閣下のでっぷりとしたお腹が浮かびました。「それだけ重要な任務であるとお考えください」。言葉をつけ加えて指摘をごまかします。そこへ、アナトリアの作戦オペレーターが通信に割り込んできました。

 

《レイヴン! GAはお得意様よ。失礼のないようにね》

 

《子供扱いしないでくれ。いつも通りにしっかりやる》

 

《それがダメなのよ! 大尉さん、この人ったら、命令は無視するものだと思っているから、気をつけてね》

 

「わかりました」と微笑みながら言葉を返します。本作戦では機密上、向こうのオペレーターにはお休みしてもらうことになっているのです。

 

「では、不備があった場合、報酬の一部返還も覚悟してもらいましょう」

 

《む》

 

「ふふふ、冗談です。情報漏洩への対処として、作戦中はコールネームで呼び合うことになります。本機がゼロワン。あなたの機体はゼロツーです」

 

《こちらゼロツー。報酬について了解した》

 

 傭兵たちとはなんと楽しい人達なのでしょう。そう思うほど、これから起こることに心苦しさを覚えます。本作戦の本当の目的は、ハイダ工場を含む、作戦に関与したアナトリアの傭兵もろとも、この粛正劇の証拠をすべて消すことなのですから。

 

 そのために、ローゼンタールのハイン様から剣をいただきました。すべてを破壊する光の剣。そして、それは今、私が乗るネクストの左肩に収まっています。

 

 光の剣とは、大型ミサイル(BIGSIOUX)に偽装した核弾頭でした。

 

 戦術核であり、威力はそれほど大きくありません。旧世紀の戦争で、ニホンという国のヒロシマやナガサキという都市で使われたものよりも威力はずっと小さいものです。それでもハイダ工場一つを丸ごとこの地球から消すことができます。

 

 いつもと違いはないはずなのに、左肩だけがやけに重く感じます。それに『核』というだけで、とてつもなく背徳的な物体のように感じてしまうのは、私がクリスチャンだからでしょうか。

 

 

 《降下、5分前。後方ハッチ開放》輸送機のコックピットから伝えられました。

 

 

 現在は、襲撃目的地であるGAEハイダ工場の9,000m上空を飛ぶ輸送機の格納庫のなかで、私のネクストとアナトリアのネクストの2機が降下準備中です。

 

 ゆっくりと開くハッチの向こうには裏側から太陽に照らされて淡く輝く地球の輪郭が見えます。ここインド洋上空は現在真夜中。直下には街の明かりがかすかに見えました。

 

「ゼロワンからゼロツー。失礼を承知で伺います。あなたはずいぶんと不自由な身体だとお聞きしました。苦しくはありませんか?」

 

《ゼロツーからゼロワン。普段は苦しい。けれど、ネクストに乗っている間はすべてを忘れることができる。身体的な事情が、作戦に及ぼす影響は一切ない》

 

 慈愛のつもりで訊いた彼の身体のことを、彼は作戦における不安材料と受け取ったようでした。「そうですか。了解しました」と声をかけます。

 

 ただし、いつもお決まりのように言う、「神のご加護を」という言葉は、今日だけはどうしても言うことができませんでした。

 

 

《降下、10秒前___》通信で輸送機のコックピットからカウントダウンが開始されます。

 

 

 ゼロの合図と同時に、まず私の機体がカタパルトで射出され、数十秒遅れて彼の機体がそれに続きます。無重力感が身体を襲い、上下感覚がつかめなくなります。視界がぐるぐると回転し、星か街の明かりかが尾を引いて視界の端から端へと流れていきます。

 

 視界の端に浮かぶ計器を確認し、ブースターをわずかに噴射させ、機体姿勢の安定を保たせました。

 

 眼下には、黒く大きな地球がゆっくりと迫ってきます。けれども、見渡すだけで全体像が見える地球は、地上にいるときほど大きくは感じません。それどころか、ひどくちっぽけなものに見えます。

 

 こんなにも狭い星なのに、なぜ人と人は戦わなければならないのでしょう。戦争とは、知恵の実を食べ、楽園を追われた私達(アダムとイブ)への罰なのでしょうか。神様は何もおっしゃってくれません。だから私達は、戦いの果てに希望を探すのです。

 

 高度計と速度計はめまぐるしく変わります。パラシュートの展開時期を見計らうため高度計を注視し続けます。ゼロツーは私のわずか上空にいます。

 

 高度8000m。

 

 7800m。

 

 7400m。

 

 6600m。

 

 5500m。

 

 4400m。

 

 落下速度は地球の引力に引かれて累進的に増大し、高度は反比例して加速度的に減少してきます。

 

 高度3000m。「ゼロワン。パラシュート展開します」

 

 発破音とともに、背面に増設されたバックパックからパラシュートが展開され、空気抵抗による急減速で下に引っ張られる力がかかります。同時に高度計の動きがゆっくりになりました。

 

 ゼロツーの状態を確認しようと上空に目をやろうとした瞬間、私の真横を彼の機体がパラシュートを展開しないまま高速度で落下していきます。

 

「ゼロツー! パラシュートを! 応答を!」

 

《ゼロツーからゼロワン。敵地上戦力は事前予測よりも大きい。先行して防衛部隊を引きつける。ゼロワンは上空から援護を頼む。以上》

 

 眼下には、降下限界ギリギリあたりで、ようやくゼロツーが展開したパラシュートの傘が見えました。それから1分と経たず地上には照明弾が打ち上がり、火線と爆発が巻き起こりました。

 

「___早速、命令無視ですか……報酬減額確定です」

 

 

 

 確かに奇襲とはいえ、2機が同時に降下したのでは、敵の対空砲火の対処に手間取ってしまいます。1機が陽動に動けば、もう1機は易々と地上に降下できるでしょう。けれども、ゼロツーの行動は無茶すぎます。

 

 闇夜に浮かぶハイダ工場の敷地内では、流れるような軌道を描いて爆発が巻き起こっています。ゼロツーに敵の砲火が集中しているのです。おかげで、工場の全貌が見えるまで、こちらはほとんど迎撃を受けることなく降下できました。

 

 そして、こちらもまもなく射程に入ります。火器管制(FCS)を呼び出し、右手のバズーカ、左手のガトリングガン、右肩の大型ミサイルと連動ミサイルをアクティブにします。

 

 そして、いつものように手早くお祈りを捧げます。どうぞ私をお守りください、プリミティブライト( 主の光 )よ。

 

 射程にとらえた手近な敵機をFCSがロックオンします。照準をロックすると、左右の腕が自分の意志とは無関係に敵機の動きを追従する気持ち悪さを感じます。

 

 自分の意志で補正を加えることはできるのですけれども、着弾地点で爆発するバズーカも、着弾地点が散りやすいガトリングガンも、精密な照準は必要ありません。FCSのロックオンに任せてトリガーを引きます。

 

 私のネクストは、GA標準機サンシャインをベースとした重装備型。左肩以外の全砲門を開き、砲火を放ちます。上空から一方的に、圧倒的な火力で地上部隊を蹂躙していきます。

 

 地面に降りる前に、基地防衛のMTおよびノーマルAC、砲台はすべて沈黙しました。残るは、4足歩行型の大型機動要塞GAEMーQUASARが2機のみです。

 

 およそネクストの20倍はあろうかという、巨大なGAEの機動要塞は、ヘビーマシンガンの重々しい射撃音をまき散らしています。そして、垂直発射ミサイルが火災で赤く染まった空に立ち上り、ターゲットに向かっていきます。ターゲットとはもちろんゼロツーです。時折、主砲のグレネードキヤノンが乾いた咆哮をあげて大きな爆発をつくりました。

 

 私は、こちらの存在に気づいていない機動要塞に向けて、右肩の大型ミサイル(BIGSIOUX)をロック。完了と同時に発射します。機動要塞がミサイルの接近を検知し、向きを変えて迎撃に移りますが、もう遅いのです。主砲左脇に着弾し、これまでで一番大きな爆発を起こします。機動要塞は左前脚と主砲を失い、破片をまき散らして、その場に崩れ落ちました。

 

 撃破を確認するやいなや、ゼロツーの援護に向かいます。少し離れた位置にいるゼロツーは、空中に停滞し砲火を器用に避けては、機動要塞上部を狙って射撃を試みています。おそらく、垂直発射ミサイルのハッチ開放タイミングを狙っているのでしょう。

 

「ゼロワンからゼロツー。聞こえますか。機動要塞のハッチ内はすでに補強が完了しています。ライフルでは撃ち抜けません。あとは私にまかせてください」

 

《了解した。敵を攪乱する》

 

 ゼロツーはそう言うと、機動要塞に急接近し、ハエか蜂のように機動要塞の周囲を飛び回っては翻弄し、注意を引きつけます。ネクストとはいえ、よくもまあ、あんなに動けるものだと感心しました。私の重い機体では到底ムリな機動です。

 

 彼と機動戦になった場合、私に勝ち目はありません。動きづらい基地内部で仕掛けるのが正解なのでしょうが___。 

 

 私は右腕のバズーカを構え、照準を合わせます。

 

 機動要塞ではなく、ゼロツーの機体にロックオンして。

 

 照準と照星とが重なり、ゼロツーと機動要塞とが重なったタイミングでトリガーを引きました。右腕から放たれた大口径砲弾は白煙を引きながら真っ直ぐにゼロツーと機動要塞へ向かいます。

 

 意外なことに、トリガーを引くことに迷いはありませんでした。戦闘の興奮状態にあるからか、それとも、これが私の知らない私の本性なのでしょうか。

 

 もし、これが彼に命中したなら、任務の半分は完了したも同然です。もし、外れたとしても、機動要塞に当たり、疑われることはないでしょう。その保険的意味合いが、私に躊躇なくトリガーを引かせました。私はイヤな女です。

 

 バズーカ砲が機動要塞の前面に命中し爆炎が上がります。

 

 砲弾は機動要塞主砲を木っ端微塵に砕き、内部機構を露出させました。ゼロツーは好機とばかりにレーザーブレードを発振させ、露出した部分に突き刺します。

 

 特殊装甲でなければレーザーブレードの超高温プラズマを遮れるものなどありません。貫かれた機動要塞は内部破壊を起こし、機体各部で小さな爆発が起こります。

 

 私はリロードの完了したバズーカをもう一度、機動要塞とそれに取り付くゼロツーに向けて放ちました。しかし、ゼロツーは背後からの砲撃にもかかわらず、何事もなかったかのように飛び去り、それを回避します。弾丸は機動要塞の弱った箇所に命中します。爆発は機動要塞の内部を駆けめぐり、その巨体を内側から完膚なきまでに破壊しました。

 

 

 着地したゼロツーの機体がこちらへ歩いて向かってきます。燃え上がる火の手を背景に一歩づつ近づいてきます。ゆっくりと、間合いを確かめるように。

 

 さすがに2射目はバレたのでしょう。私は彼と戦う覚悟を決めます。

 

 それなのに、今ごろになって自分が恐ろしいことをしたのだと実感しました。心臓がこれまでにないほど鼓動を強め、バイタルアラートの心拍数がイエロー表示で警告を発します。

 

 そのとき入ったゼロツーからの通信に、私の身体はビクンと震えました。 

 

 通信をつなぐのが先か、撃つのが先か迷ったあげく、通信を承諾しました。

 

《ゼロツーからゼロワン。工場外部の制圧を完了。これより工場内部に突入する。いい腕だな。さすがGAのエースというだけある》

 

 

 ……。

 

 

 ………………。

 

 

 …………………………?

 

 

 気づいていないのですかッ!? 私はあなたを撃ったのに。あなたを殺そうとしたのに。

 

「___つ、通信で社名は出さないでいただけますか。機密情報の漏洩が懸念されます」

 

《あぁ、済まない。つい口に出してしまった》

 

 

 さらなる報酬減額確定です。

 

 

 ___それよりも、なによりも、あなたは私のしたことに、本当に気づいていないのですか? それとも気づいていないフリをしているのですか?

 

 どちらにせよ、私は、イヤな女です。

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