ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Internal Purge 後編 〜メノ・ルー〜

 "かつて、民の中に偽預言者がいました。同じように、あなたがたの中にも偽教師が現れるにちがいありません。彼らは、滅びをもたらす異端をひそかに持ち込み、自分たちを贖ってくださった主を拒否しました。自分の身に速やかな滅びを招いており、

 しかも、多くの人が彼らのみだらな楽しみを見倣っています。彼らのために真理の道はそしられるのです。

 彼らは欲が深く、うそ偽りであなたがたを食い物にします。このような者たちに対する裁きは、昔から怠りなくなされていて、彼らの滅びも滞ることはありません。

 神は、罪を犯した天使たちを容赦せず、暗闇という縄で縛って地獄に引き渡し、裁きのために閉じ込められました。"

 

ペトロの手紙二 第2章 1節〜4節より

 

 

 

「ここから先に巨大兵器の建造ドックがあります。東側ドックの巨大兵器2機は、ゼロツーが担当してください。私は、西側ドックの巨大兵器からデータを収集し、その後破壊します。目標を達成したら、この場所で落ち合いましょう」

 

《了解した》「では、後ほど」

 

 ゼロツーは左側の通路へと進んでいきました。奥の暗がりに爆発が起こります。ゼロツーが撃破した敵機の爆発でしょう。

 

 私は、右側の通路を進みます。壁面に設置されたオレンジ色の灯火のおかげで視認性は良好です。レーダーより早く、敵防衛の影を捕らえます。

 

 進行方向奥からは、工場内の警備をプログラムされた小型無人防衛機がこちらを迎撃してきます。オフィスチェアにガトリングガンやロケット砲をくくりつけたような無人砲台が床を滑りながら、こちらに射かけてきますが回避などしません。些細な攻撃はすべてプライマルアーマーに守られた厚い装甲が受け止めてくれるからです。

 

 私は前進速度を保ったまま、左手のガトリングガンを前方に構え、トリガーを引くだけです。銃弾に撃ち抜かれた無数の小型砲台は爆竹のように次々と爆散します。

 

 私の後ろにはおびただしい数の薬莢が散乱し、その数と同じだけ吐き出された52mm径の弾丸は、無人機の後方に控えていたローゼンタール製ノーマルACもろとも粉々にします。この程度の戦力では、ネクストの足止めにもなりません。

 

 長い通路を抜けた先には広い建造ドックがありました。ネクストと一体化した今の私の視覚でも驚くほどの広さをもつ空間です。その広さは、建造中の巨大兵器の大きさを意味します。

 

 従来の兵器とはスケールが違いすぎます。これだけのサイズの兵器を運用されては、おそらくネクストの火力では破壊困難でしょう。GAEとアクアビットはなんと恐ろしいものを造ろうとしているのでしょうか。

 

 ドックは2部屋に分かれていました。手前の部屋は地下を円柱状にくり抜かれた形状の部屋。巨大なレールらしきものがあり、中央にはこれまた巨大なターンテーブルらしきものがあります。おそらく、巨大兵器を移送するための設備でしょう。壁には2つの巨大なゲートがあり、その片方のゲートは現在閉ざされています。恐らく別のドックに通じているのでしょう。

 

 そして、半開きになったもう一方の大型隔壁扉の奥には、この部屋の主が鎮座しています。GAアメリカ諜報部が入手したデータによると、開発コードネームは『ソルディオス』。スペイン語で『太陽の神』を表すそのネーミングは神々しいどころか、禍々しくさえ思えます。

 

 私は、物陰に敵機がいないか周囲を警戒しながら、慎重にソルディオスに近づき、二重隔壁のゲートをくぐります。周囲の壁は棚状の建造資材置き場になっていて、大小様々なサイズのコンテナが整然と置かれていました。

 

 レーダーに敵機の反応はありません。誰もいないようですし、動くものの気配すらありません。私は警戒を解き、改めて目の前の巨大な建造物を目の当たりにします。

 

 巨大兵器の周りは、強固な足場で囲まれ、その全貌を確認することは難しいのですが、6本脚の巨大な昆虫のようなシルエットをしているようです。あまりに大きすぎて、全体像が把握できません。まるで、著名建築デザイナーが設計した複雑な構造の建築物を見ているようです。

 

 私は嫌悪感から、すぐにでもこの常軌を逸する兵器を破壊したかったのですが、その前に、ソルディオスの情報を収集しなければなりません。上からの任務指示は、巨大兵器のデータ取得後の破壊です。私はこの任務にあたってネクストに増設されたX線スキャン装置を起動させました。

 

 X線スキャンは、超高周波数の電波を照射し、物体内部の構造の違いによる吸収率の差異をグラフィック化できます。それにより透過図をつくり出し、物体に触れることなく内部構造を知ることができるのです。これは医療レントゲンやCTスキャンとほぼ同じ原理です。

 

 私は、X線が照射されるネクスト前面を巨大兵器に向けたまま、その周りをグルグルと周回して、ソルディオスの外部形状と内部構造をスキャンしていきます。

 

 まずは床面から。ネクストの胴体を4つ束ねたよりも太い足が6本、昆虫のように機体側面から生えています。機械的な全体シルエットのわりに、脚部は丸みを帯びた生物的な形状をしており、より気持ち悪さに磨きがかかっています。

 

 続いてブースター出力を微弱に保ち、床面から数メートルの高さを保ったまま周回します。巨大な胴体は前後に長く、四面体を組み合わせたような機械的なデザインです。内部には動作機構と配線と配管が高密度で詰め込まれ、その中央部にはコジマリアクターらしき影も確認できました。

 

 さらに高度を上げ、ソルディオスを見下ろす形で周回します。作業足場が邪魔でわかりづらいものの、全体は昆虫というか蜘蛛のような形をしていることがわかります。ただし、一カ所違うのは、本体後方上部に丸い台座のようなものがある点です。

 

 そして、その台座の直上には、ツルンとした表面の巨大な球体がクレーンで吊り下げられています。私にはそれが巨大な眼球のように見えました。球体と本体をつなぐ無数のパイプとケーブルは、ちょうど人間の眼球と脳をつなぐ視束を模したかのように接続されており、私の生理を逆撫でします。

 

 このデザインセンスは私的にNGです。X線スキャンによってできあがった3Dモデリングは、まるで、6本脚の蜘蛛の胴体の上に、ひとつ眼(サイクロプス)のタコ頭をくくりつけたような奇怪な形状。私は気持ち悪いものでも扱うように、収集したデータを手早く本社サーバーに転送しました。

 

 ___さて、残る任務はこの巨大兵器の撃破し、工場を核ミサイルで爆破。ですが、そのまえにゼロツーを撃破しなければなりません。

 

 『もし、アナトリアの傭兵を撃破できなければ、核ミサイルで工場もろとも傭兵を消せ』とは、直接言われることはありませんでしたが、それが上の望んでいることは明白です。もちろん、そうなるときには私もこの地球上から消えることになります。結局のところは、私が死ぬか、彼が死ぬか、両方死ぬかの3択しかないのです。

 

 大変心苦しいのですが、ゼロツーには天に召されていただきます。

 

 私は、ソルディオスのある前後の部屋を行き来し、無差別に武器を乱射します。壁やフロアに無数の弾痕と爆発痕が刻まれ、激しい戦闘があった様相をつくりだし(・・・・・)ます。

 

 それから、私はゼロツーに通信を入れました。

 

「ゼロツー、ゼロツー聞こえますか。こちらゼロワン」

 

《こちらゼロツー。どうした》

 

「申し訳ありませんが、弾切れです。敵防衛部隊は殲滅したのですがターゲットを破壊することができません。応援にきていただけますか」

 

《了解した。すぐに向かう》

 

 もちろん、弾はまだ残っています。私は、任務のために平気で嘘をつけるイヤな女です。

 

 

 

 

 このまま任務を放棄して、一生追われる身となるか、アナトリアに亡命するなどして、この状況から逃げ出すことも可能でしょう。

 

 しかし、私は軍人です。GAという巨人の肩に乗っかり、戦争を終わらせると心に決めリンクスになったのです。それに、軍から逃げ出して一般人として生きるには、私は人を殺しすぎました。いまさら後戻りなどできません。

 

 目の前にはターゲットのゼロツーがいます。

 

 心臓の鼓動が大きくなります。

 

 ゼロツーが私の目の前を通り過ぎ、ソルディオスへ向かいます。

 

 私の心臓が脈打つたびに、私の身体はおろかネクストの機体をも震えさせます。

 

 ゼロツーが私に背中を見せました。

 

 私の心臓の音が振動がゼロツーに伝わってしまうのではないかと不安になりました。

 

 私は、ゼロツーの背後に向けて右腕のバズーカ砲を構えます。

 

 心臓の鼓動で視界がブレます。

 

 「ごめんなさい」私は、トリガーを引きました。

 

 ほぼゼロ距離射撃に近い形で、バズーカの弾丸をまともに受けたゼロツーの機体は爆発で大きくはね飛ばされ、床に突っ伏しました。反射的に防いだらしい左腕は、木っ端微塵に砕け散り、コア左肩の内部機構を露出させたまま煙が立ち上っています。

 

 とどめを。いえ、もう動くことはできないでしょう。動けたとしても、左腕のレーザーブレードが使えなければ、私の機体に傷をつけることすらできません。それに、どうせ間もなくソルディオスと共に、左肩の核ミサイルで消えるのです。せめて、苦しまないように殺して差し上げたいのです。

 

 私は十字を切り、ゼロツーにお別れの挨拶をします。ほんの少しだけ早いのですが、どうぞ安らかにお眠りください。私は、あなたのことを決して忘れません。私はゼロツーの機体に背を向け、出口の通路に向かいます。

 

 

 銃声がしました。被弾。プライマルアーマーが展開し威力を削いだものの、右脚部膝関節の損傷が報告されます。右足の感覚がなくなり、私の機体は右膝をついた状態で動きを止めました。

 

 左足だけを使って振り返ると、ゼロツーの機体が立ち上がり、ライフルを構えているのが見えました。しかし、左腕を失いバランス制御が追いつかないようでフラフラです。やはり、一筋縄ではいきませんか。私は片膝を着いたまま両腕の銃器を構え、満身創痍のゼロツーをロックすると躊躇なくトリガーを引きます。

 

 左腕のガトリングガンが、重い回転音を上げて砲身が回転し始めると、毎分240発の弾丸がゼロツーに襲いかかります。同時に右手のバズーカもゼロツーの足元めがけて発射し、着弾時の衝撃と爆煙で回避を難しくさせます。私の足下には、おびただしい数の薬莢がまだ熱を帯びてくすぶっています。

 

 驚くことに、煙が晴れてもゼロツーは立っていました。そして、フラフラとした足取りでライフルを構えながら、こちらへ向かってきます。私は、再びガトリングガンを射かけますが、なぜかゼロツーには当たりません。まるで幽霊のように、機体を銃弾がすり抜けていくように見えます。

 

 なんですかこれは!? 意味がわかりません!! そうしているうちに、ガトリングガンが弾切れを起こし、砲身がカラカラとむなしく回ります。私は右手のバズーカを発射。今度は直撃狙いです。しかし、砲弾が砲身から発射されるやいなや爆発しました。

 

 砲弾を狙撃したのですか!? もう一射しようとしたところで、今度はゼロツーの放ったライフル弾がバズーカの砲身を貫き、内部に残っている砲弾がまとめて誘爆を起こします。

 

 直近での爆発による強い衝撃で、私の機体は吹き飛ばされました。起きあがろうとしても左足が動きません。いつの間にか左足の膝から先がなくなっていました。関節装甲の隙間を狙撃したのでしょう。そうでなければ、この厚い装甲はライフル程度で破られるものではありません。

 

 ゼロツーのしていることは人間業ではありません。これが、噂に聞く高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)なのでしょうか。

 

 私は上半身の動きだけで、仰向けに姿勢を変えます。ゼロツーはなおもフラフラしながらゆっくりと歩み寄ってきます。

 

 ですが、あなたが高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)を用いて、どれだけ精密にネクストを動かせたとしても、この基地全体が吹き飛ぶのは避けようがないでしょう。

 

 私は、武器管制(FCS)のメニューを呼び出して、左肩の核ミサイルにコネクトします。ハイン様から事前に教えていただいた起動コードは『4097』。入力すると、左肩の核ミサイル(BIGSIOUX)がアクティブになります。

 

 ネクストのプライマルアーマーは、核爆発にも耐えるとの噂ですが、その損傷状況では、とても保たないでしょう。もちろん、私の機体も同じです。どこを狙って撃っても結果は同じです。私は照準もつけずに仮想意識下のトリガーに、左手人差し指をかけます。

 

 恐怖のせいか呼吸が乱れます。バイタルアラートがイエロー表示で過呼吸を警告します。落ち着いて。落ち着きなさいメノ・ルー。私の振るう、この剣が戦争への突入をくい止めるのです。何を恐れることがあるのですか。

 

 少し落ち着いたところで、思い切ってトリガーを引きました。仰向けになった私の機体から、核弾頭が天井に向かって撃ち上がります。

 

 呼吸が楽になりました。いえ、いつのまにか呼吸を意識していませんでした。核弾頭が発射されてから、天井にぶつかって爆発するまでの、ほんの数秒間。恐怖も不安もなく、音も振動も、時間さえも停滞したような凪が私を支配していました。そして、私という存在が、このまま消えていくのだと確信しました。

 

 

 

 

 

 

「___嘘、なのですね……全部」

 

 核弾頭を搭載したはずのミサイルは推進剤を使い切ると天井からゴトリと音を立てて落下しました。核は爆発しませんでした。故障? まさか。最初から仕組まれていたのです。

 

 ハイン様はこうおっしゃっていました。『我々3社は力を合わせて、世界の脅威を取り除かねばならない』と。それは、世界平和を脅かすものを取り除くのではなく、我々3社以外を消し去るという意味だったのですね。それを実現するには、戦争がもっとも効率のよい方法です。

 

 これで、アクアビットとBFFはGAに対して報復行動に出るでしょう。GA側は防衛作戦を展開します。私が命を懸けて撃ち上げたのは、戦争の始まりを合図する狼煙でしかありませんでした。

 

 ゼロツーが、私の首根っこに銃口を突きつけます。すみません。あなたには、とんだ茶番につきあわせてしまいました。

 

 ゼロツー。いえ、アナトリアの傭兵さん。できれば、証拠が残らないほど完全に破壊していただきたいのですが、それは贅沢というものでしょうか?

 

 重々しい銃声と共に、私の意識はなくなりました。

 

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