ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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The Womb 後編 〜人格移転型AI〜

 人格移転型AIの思考速度と状況判断速度はすさまじい。それはここまでの戦いで嫌というほど味わった。

 

 しかし、それは決して魔法のように目に見えないものではないし、占いのように何の情報もなしに未来が予測できるわけではない。

 

 ネクストの機体を介している以上は、機体センサーがとらえた入力情報を元に演算し、物理的な動作を出力しなければならない。動きの初動から、直後の未来を予測演算できるのは、神経接続レベルを上げたこちらも同じだ。

 

 AIに打ち勝つには、『奴に予測をさせない』か、『奴の予測を上回る』必要がある。だから、切り札である神経接続レベルはギリギリまで上げない。情報を与えれば奴は学習し、それに対処するようになる。

 

 神経接続レベルは合図とともに遠隔で切り替えてもらうが、切替わるまでに数秒を要する。合図の出すタイミングが勝敗の分かれ道になるだろう。以上が、俺のつたない人工知能の知識を辿って、直感的に導き出した戦い方だ。

 

 ただし、俺の予測が間違っていたり、それが相手の予測の範疇であれば、俺は撃破される。

 

 今の俺は、東洋にいたとされる戦士・サムライになった気分だ。彼らは防具を身につけず、抜群の切れ味を誇るカタナというサーベルで斬り合ったという。チョンマゲという奇抜なヘアスタイルはどうにも理解不能だが、その思考だけは理解できる。

 

 お互いが一撃必殺の武器を持つサムライ同士の戦いは、その大部分が彼らの頭のなかで行われる。ほんのわずかな思考の滞りや、情報の見落としが死を意味するのだ。

 

 ユナイト・モスの意識と融合したAIネクストが、左腕のレーザーブレードを発振させる。コジマ粒子を直接プラズマ化したイオン内部に照射して膨大な熱量を発生させているのだろう。一般的なネクストが装備するレーザーブレードよりも遙かに長大で、隔絶した出力を誇る。

 

 対するこちらの獲物は、一般的なネクスト用のレーザーブレードと、役に立たない右腕のライフルだ。

 

 さしずめ、ニホンの伝記『ガンリュウジマノタタカイ』における、コジロー・ササキとムサシ・ミヤモトだ。もっとも、そのときミヤモトは二刀流ではなかったらしいが。

 

 お互いがゆっくりと間合いを詰める。むこうのブレードの刀身はこちらの約2倍。懐に飛び込んでしまえばこちらが有利だが、向こうはそうさせる気がないようだ。長大なブレードを正眼に構え、あらゆる方向からの接近に対処しようとしている。

 

 あれだけの熱量を持っていれば、刀のように振り切る必要はなく、ただ触れただけでも致命的な被害を被ってしまう。自分の武器をよく理解したうえでの構えだ。AIのくせに。

 

 奴の左腕から発せられる黄色味がかったレーザーの、切っ先の動きを探りながら、間合いのギリギリ外で足を止める。AIネクストの周りに、結界が張られているかようだ。この内側は奴の間合いであり、迂闊に踏み込めばただではすまない。

 

 正面突破は自殺行為だ。

 

 俺はブーストを使って、奴のブレードの死角となる左へ回り込みながらライフルを放つ。奴も同じ理由で俺の左側にまわり込みながら至近距離からのライフル弾をいともたやすく回避する。そして、わずかでも間合いに入った瞬間にフルーレのごとく突きが繰り出される。くるくると螺旋軌道を描きつつ攻防し、お互いの位置を入れ替えながら、砂に覆われたフィールド上を移動する。

 

 俺はライフルをフルオートで連射する。それでも、奴に間合いを詰めるスキを誘発させることはできない。しかし、いくらかわされようとも射撃は止めない。コンピュータである以上、マルチタスクには限界があるはずだ。攻撃と回避と移動で、どれだけ奴の演算リソースを奪うことができるかは未知数だったが、確実に負荷を与えているはずだ。

 

 戦場をフィールド端の水辺に移した。さすがに水に足を取られるような凡ミスは犯さないようだが、狙いはそれではない。

 

「フィオナ! 神経接続を!」そこで、俺はフィオナに神経接続レベルを上げるように指示を出す。《了解!》フィオナが答えた。

 

 1秒。

 

 俺は奴の頭上に飛び上がり、ライフルを構える。

 

 2秒。

 

 俺は頭上からライフルを射かける、奴は機敏に回避する。ライフル弾は水面に着弾し、いくつもの水柱を立てる。

 

 3秒。

 

 水柱は、奴の超高温ブレードに触れると一瞬で蒸発し、水蒸気が巻き上がる。

 

 4秒。

 

 俺は奴の間合いのギリギリ外をめがけて急降下をする。

 

 5秒。

 

 俺は、雨の日に長靴で水たまりに飛び込む子供のように、着地速度を殺すことなく着水する。高速かつ大質量の着水に、大量の水が周囲に巻き上げられる。

 

 6秒。

 

 神経接続レベル変更プロセスの完了が伝えられた。

 

 7秒。

 

 一瞬のまばゆさのあと、巻き上がる水の軌道が正確に認知され、狙いどおり、奴にも大量の水が降りかかるのがわかった。奴は水を払おうとブレードを振るうが、レーザーブレードのプラズマは水蒸気を一層巻き上げるだけで、さらに視界は悪化する。

 

 視界がきかなければ正確な予測はできないはずだ。そのスキをついて奴の右側から接近し渾身の一撃を叩き込む。

 

 右上から袈裟掛けに切り払ったレーザーブレードの斬撃は、突き出た胴体のコックピット装甲をえぐるも、寸前で半身になって回避された。しかし返す刀で斬り上げ、右肩の機動スラスターユニットを斬り落とす。

 

 右側から薙払いの反撃が予測された。俺は腕を頭上に振り上げたまま、ジャンプしてかわす。そして、奴の頭めがけてブレードを振り下ろす。しかし、後退しながら首をひねってかわされ、肩口から胸にかけて浅く斬りつけるにとどまった。

 

 頭のセンサーを潰せれば、こちらが有利になったのに、簡単にそうさせてはくれなかった。だが、ここはこちらの間合いだ。

 

 俺は、奴の繰り出す攻撃を回避をしながら斬撃を加える。しかし、奴は寸前でかわし、致命傷は与えられない。奴は力の入らないコンパクトな攻撃に切り替えた。大振りした瞬間に負けるからだ。

 

 それでも機体をかすめる強力なプラズマの刃は、こちらのプライマルアーマーをものともせず、アンテナやらスタビライザーやら肩装甲やらをたやすく斬り飛ばした。奴の機体は、こちらの振るうブレードを寸前で回避するも、浅い傷や、熱によって融解し、すでに原型をとどめていなかった。

 

 水辺に荒波が起こる。2機の足の運びと、ブーストの推力が波をつくり、時折大きく跳ね、水滴が舞い上がった。

 

 予測速度と反応速度は、ほぼ互角だった。実際に攻撃と回避が行われる0.5秒前にお互いの行動は決まっており、行動が起こった時には、すでに0.5秒先の行動が決まっていた。

 

 思っていた以上に手強い。そして、高度な未来予測が脳負荷となって積み重なり、疲労感として蓄積していくのがはっきりと感じられた。このまま切り結べば、最終的にはこちらのミスで片が付く。

 

 不意に、奴が頭上から唐竹割りを繰り出すのがわかった。しかし、攻撃到達時間がやけに短い。どう回避しても間に合わない予測結果を知覚した。

 

 奴は下段に構えた左腕から、腕をひねらず肩関節をグルリと回してブレードを振り下ろした。人間の身体だったなら肩関節が脱臼する動きだ。人間のパイロットなら絶対にしない動きでもAIなら実行できる。俺は驚いてさらに回避が遅れた。とっさに右腕のライフルを盾にすると同時に、カウンターで横薙ぎにブレードを振るう。

 

 奴が勢いよく振り下ろした長大なレーザーブレードは、ライフルをなんの抵抗ともせず、俺の右腕ごと蒸発させ、刀身の中程まで水に浸かる。

 

 その瞬間、爆発が起こった。水蒸気爆発。コジマ粒子照射プラズマによる超高温は、水の体積を1700倍にまで膨張させ、轟音とともに2機を吹き飛ばす。俺は砂場まで弾き飛ばされたが、被害はそれほど大きくない。

 

 爆発で巻き上がった水が、雨のように降りしきるなか、俺は機体を起きあがらせて敵機の姿を探す。ユナイト・モスの人格が埋め込まれたAIネクストは、水辺の向こうの壁際にしゃがみ込んでいた。爆発で壁面に叩きつけられ、ダメージを負ったようだった。

 

 

 ドームのスピーカーから、拍手のような音が聞こえてきた。この戦いをモニターしているベルリオーズだ。

 

《素晴らしい戦いだった。見ているだけで興奮して血がたぎったよ。勝負はあったようだ。あれをよく見てみろ》

 

 俺は言われたとおり、壁際にいるAIネクストを望遠で確認する。肘から先のない両腕を持ち上げ、小刻みに振動している。まるで、人が頭を抱えながら震えているように見える。

 

《これは、AIが死の恐怖を感じているのだよ。メモリを司る海馬領域が盛んにデータを送るも、扁桃体を中心とした大脳辺縁系領域がデータを処理できずにエラーログが蓄積している。他の領域でもデータクラッシュが始まっているようだ。もしかしたら、記録の走馬燈を見ているのかもしれない。

 

 本来、AIは不死であるため死の恐怖を感じることはない。しかし、人格移転型AIは人間の意識を有しているために、過度の負荷がかかるとこうなる。とくに、自分がAIであると認識できていない間はこの状態に陥りやすい。

 

 そして、もはや復旧は不可能だ》

 

 スピーカーの奥から、大型のスイッチを動かすような音がした。同時に、ユナイト・モスのAIネクストが爆発した。それに続いて、先の2機も同じように爆発し、後には変哲もない汎用部品だけが焼け焦げた状態で残った。

 

《楽しかったよアナトリアの傭兵。よい戦いだった。今回は、これでお開きにしよう。次に会えるのを楽しみにしている》

 

 スピーカーの音は大きなポップノイズを残してとぎれた。その直後、ドーム壁面の一角が爆発し、黒煙が立ち上る。

 

 証拠隠滅か。ベルリオーズがどこで戦闘をモニターしていたのかすら定かではない。まんまとしてやられた気分だ。レイレナードにも、GAにも。

 

 

「疲れたぞー」

 

 俺は全身の力を抜いてネクストを仰向けに倒れ込ませた。

 

《お疲れさま。大変な戦いだったわね。もし、あの人格移転型AIが量産されるようになったら、私たちはどうしたらいいのかしら》

 

「傭兵は廃業するしかないな。戦う度にこれだけボロボロになるなら、割に合わない」

 

 人格移転型AIが量産されたなら、戦場はAIが闊歩するようになり、リンクスや傭兵の役目は終わる。だがBFFとGAの小競り合いが続くうちは、もう何度か戦わなくてはいけないだろう。

 

ベルリオーズは、人格移転型AIが『神の器であるのと同時に、世界に終焉をもたらす破壊神』だと言っていた。

 

 ホワイトグリントのジョシュア・オブライエン。奴も人格移転型AIなのだろうか。そんなものが人間の振りをして、そこら辺を歩き回っていると考えると、空恐ろしいものを感じた。

 

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