ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
イスタンブールは、シルクロードの終点。欧州とユーラシア、中東の文化が交差する場所であり、古くから交易の中心地であった。国家解体戦争以降はローゼンタールがこの地を治めている。
もっとも
イスタンブール周辺には大規模レーダーが設置され、地中海と東ヨーロッパ、中東の全域の陸海空を、日夜網の目のように監視している。そのため、地中海を航行する船や、周辺空域を飛行する航空機は随時届け出をせねばならず、無届けで航行しようものならば無条件で撃墜されることが周知されていた。
そこまで厳重に警備をするのには理由がある。トルコを挟んだ地中海の対岸にあるイスラエルには、オーメルとGAアメリカの重要施設があるからだ。そのため監視対象となるのは、主にBFF側に属する企業の動向が中心だ。
イスタンブールにローゼンタールの大規模基地があることで、BFF側がイスラエルを攻め落とすには、サハラ砂漠を横断するか、アラビア半島を経由して旧ピースシティの砂漠を通らなければいけない。
無法地帯のサハラ砂漠を抜けるのは容易ではない。そして、旧ピースシティはイスラエルが外敵を門前払いするための表玄関口だ。BFF側のレイレナードやアクアビットがどれだけ新兵器を開発しようとも、地政学上、簡単にイスラエルは落とせない。
なにより、本丸のイスラエルは、この
しかし、いくらオーメルの寵児や、天才と呼ばれようとも、勝てないものがあることを僕は思い知らされた。僕は今、僕の意志に反して繰り返し襲ってくる吐き気と格闘していた。
「気持ちが……悪い」
久々にイスラエルの警護を外れ、休暇なのか仕事なのかわからない指令を言い渡された。指令内容はオーバーホールの終わった僕のネクスト『テスタメント』をイスタンブール戦線基地で受領することだ。
BFF側がいつ攻めてくるかわからないこの時期に、僕をイスラエルの警備から外すなんて、上の連中は何を考えている。いつもそうだ。上は、末端はもちろん僕にすら何も言わずに事を進める。
今回だって「海路と空路のどちらがいい?」と訊かれただけで、こうなるとは予想しなかった。興味本位で海路を選んだのが間違いだった。船酔いというものがこんなにつらいものだとは思ってもみなかった。
機関の研究者連中なら、僕の身体を隅から隅まで知っているんだ。船酔いに弱い事くらい知っていてもおかしくないだろ。これならば、ネクストの高負荷接続運転の方が遥かにマシだ。
海峡を抜け、イスタンブールの旧市街地を通り過ぎると、陸から大きく突き出た半島が見えてきた。目的地のイスタンブール前線基地だ。それにより気がゆるみ、また何度目かわからないおう吐を繰り返す。もう出るものがない。胃液すら出ない。
水上高速艇が接岸すると、転がり落ちるように桟橋に降り、動いていない地面のありがたさを痛感する。
「オーメルの寵児が船酔いか。年齢相応に、なかなか可愛げがあるじゃないか」
大柄な男が笑いながら言う。黙れよ。ローゼンタールの白騎士。
「医務室へ連れて行きます」レオハルトの隣にいた女が、駆け寄って僕の腕をとって自分の肩に回した。「私は、同じオーメルのミド・アウリエルです」
女が名乗るが、名前に聞き覚えはない。女のつけた、かすかなトワレのにおいで、また吐きそうになる。僕は強引に手を振り抜き、身を屈め再び
「言うことを聞いてください。私はあなたよりも遥かに下の立場ですが、私の方がお姉さんです」
怒らせたか。船酔いのせいで感覚が鈍って、うまく判断ができない。ミド・アウリエルといった女が、僕の背中をさすりながら、再び僕の腕を自らの肩にかける。そういえば、僕はここの医務室の場所も知らない。黙って従った方が賢明だと判断した。トワレは、
医務室のベッドでしばらく仮眠をとると、体調はすっかりよくなった。目が覚めても誰もいなかったから、施設内をウロウロする。そうしていたら偶然、ミド・アウリエルに捕まった。
「レオハルトが呼んでいます。ブリーフィングルームへ案内します」叱られるでもなく落ち着き払った声で、ついてくるように僕を促す。
この女は、表情や声に一切の抑揚がない。この特徴は明らかに投薬によるものだ。一見華やかそうな容姿に隠れた色あいは、ひどくくすんで見える。
僕も投薬は受けているが、向精神性がある薬物は投与されていない。オーメルに
施設内の一室に通されると、会議テーブルの向こうに白騎士レオハルトが待っていた。
「顔色は戻ったようだな。現在テスタメントの搬出前の準備中だ。出立は明日の朝と聞いている。時間はあるんだろう。情報交換をしよう」
「僕からオーメルの機密情報を引きだそうたって無駄だぜ。僕は何も知らされちゃいない」
「なに、ただの世間話だ。つきあってくれるかな」
ミド・アウリエルが、側にあったコーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、紙のカップで差し出してくる。レオハルトのぶんと、自分のぶんを用意するとテーブルサイドの席に腰掛けた。
「イスタンブール観光にも興味がないしな」僕はレオハルトの向かいの席の椅子にふんぞり返って座った。
「先日のGAEハイダ工場への粛正以降、アクアビットはすぐにでも報復行動に出るかと思ったが、向こうは静観を続けている。こちらはハイダ工場襲撃を、BFF側のせいにして声明を発表する腹積もりでいたようだが、上層部は思いとどまったようだ。
正直、私はほっとしている。両陣営とも、思っていた以上に大人の対応をしてくれていることに。願わくば、このまま恒久的な和平に落ち着いてくれればいいのだが。率直に聞く。オーメル側はどうしたいと思っている?」
はッ、国家解体戦争で4番目に戦果を挙げた破壊天使がよく言う。だが、嘘ではないことはわかる。コイツも潔白じゃないが、ローゼンタールの盟主ほど腹黒くはない。せいぜい灰色騎士ってところだ。
「知らないね。上とは政治的な話はしない。だが、BFFが目の上のタンコブだと思っているのは確実だ。僕には、なぜすぐにでも叩かないのか不思議でならない。
叩く口実は十分にあるんだ。テロリストへの支援といい、GAEとの巨大兵器といい、AIネクストといい、平和を脅かす行為や兵器製造は国際法に抵触する。___もっとも、国際法なんてものが、まだ生きていればの話だが」
出された黒くザラザラしたコーヒーを飲み干すと、紙コップを握りつぶす。
「世論が認めんよ。国家解体戦争の終結からまだ数年だ。叩くからには確固たる理由がいる。理由なく我々が動けば信用を失い、現在の制度自体が崩壊しかねない」
「世界人口を1/3にまで減らしておいて、いまさら世論もクソもないだろうが。自分らが公に動けないからといって、傭兵どもを動かしていれば同じ事だ」
「実際のところは、BFFの本拠がつかめず、本格的な攻撃に出られないだけだ。向こう側の補給を一手に引き受けるBFFが存在しているかぎり、長期戦は避けられん。
とくにレイレナードのネクスト部隊とは総力戦になるからな。まずはBFFを潰し、向こうの補給を絶ったうえで戦ったほうが戦略的有利に立ち回れる。上は機をうかがっている」
「その前に、このイスタンブール前線基地が落とされたらどうなる? 敵は総力を挙げてイスラエルを攻めてくるぞ。そんな悠長なことは言っていられなくなる」
くしゃくしゃになった紙コップを指で弾くと、勢いあまって紙コップはテーブルの下に落ちた。
「そうさせないために、私とミド・アウリエルがここへ派遣されている。世間に公言してまでな。そして、イスラエルにはお前がいるだろう」
そのとおりだ。各企業の切り札となるネクストの動向は、敵も味方もお互いがおおよそ把握できている。だから配置を変えるだけで牽制にもなるし抑止にもなる。しかし、同時にたくらみが読まれてしまうため迂闊に動かせない。
なにかがひっかかる。とくに、今僕がイスタンブールにいる理由がだ。機体の受領だけが目的とは思えない。
「気持ちが悪いな」思わず口に出た。
「まだ、具合が悪いのか?」
「いや、何でもない。続けてくれ」
「BFF側のネクストは、レイレナードのベルリオーズを筆頭に、10機ほどがいつでも動ける状態で待機している。おまけに自律稼働するAIネクストの存在も報告が入っている。幸いなことに、イクバールは早々に戦争介入を放棄した。インテリオル・ユニオンも戦争には消極的な姿勢だ」
白騎士は、リンクスのデータが網羅したファイルを投げてよこす。僕はそのファイルをペラペラとめくりながら、顔見知りを探した。BFF陣営のリンクスの何人かは、国家解体戦争で面識があった。
仕切りたがり屋のベルリオーズ。
戦闘狂のアンジェ。
僕と同じく空中戦を得意とするザンニ。
高飛車女のメアリー・シェリー。
精神負荷でイカれかけているP・ダム。
もともと頭がイカれているアンシール。
数年前の国家解体戦争時の記憶に思いを巡らす。だが、感慨深いような思い出は一切ない。
「それに対して、こちらのネクストはすべて合わせても8機。しかもここにいる我々3人以外は戦力として話にならんし、GAのエースはいまだ療養中だ。
上層部は、傭兵たちの囲い込みを始めて、協調を強めようとしている。アスピナの白い閃光と、最近活躍中のアナトリアの傭兵だ。彼らがこちら側についてくれれば戦力的には均衡状態となり、和解への道も開けるというものだ」
「和解なんて言葉は上の連中は知らない。オーメルの腹黒さは、アクアビットの
僕は、僕の周りにいる奴らを思い出すだけで気分が悪くなる。汚らしい色がとぐろを巻いたようなモヤッとした息を吐き出す連中だ。見終わったファイルを白騎士に力をこめて投げ返す。
「わかっているさ。だからこそ、我々リンクス個々の立ち位置が重要になるのだ。上の勝手な暴走をくい止めるためにも」
「ふん。今まさにBFFの奴らが金にものを言わせて、その傭兵どもにここを狙わせているかもしれないんだぞ。そうなったら一気に戦争だ。白とも黒ともつかない、金で動く傭兵どもこそグレーじゃないか。信用に足る相手じゃない」
先に手を出した方が叩かれる。だが、今はどちらの陣営も自社のネクストを動かせない。攻めるなら傭兵を使うだろう。たった2人の傭兵が今後の流れを決める。まさにダークホースってやつだ。
「まさか。ここを攻め落とそうとするなど愚の骨頂だ。現状しばらくは我々もここに缶詰だし、お前もイスラエルに帰ったらまた国境警備だろう。休暇をとれるのも今のうちだ。
だといいんだがな。ローゼンタールの白騎士ともあろう者が楽天的すぎやしないか。話し方の微妙な変化を感じとり、話が終わったことがわかった。話題に飽きたのか、これ以上話しても無駄だと判断したのか。重苦しい話題から一転して、空気がふわっと軽くなったように感じた。
「テスタメントは、乗ってきた高速水上艇に搬入させますが、よろしいでしょうか?」テスタメントが話題に出たところで、業務管理を任されているのであろうミド・アウリエルが訊いてくる。
「待て待て待て待て。帰りは空輸にしてくれ。船酔いはもうごめんだ」
ミド・アウリエルが、ため息混じりでレオハルトを伺い見る。レオハルトはあきれながら肩をすくめる。
「___わかりました。そのように手配します」
「ただし、搬入は翌朝になってからだ。テスタメントはいつでも起動できるようにしてくれ。今夜、何かが起こるかもしれない」
案の定、僕が発した言葉は場の空気を凍りつかせる。二人ともこちらを見て、はぁ? てな顔をしやがる。どいつもこいつも、その顔はもう見飽きたよ。いいから言われた通りにすればいいんだ。こっちも確証があるわけじゃない。ただの勘だよ。作業タスクが少しばかりズレるだけだろ。いちいち説明させるなよな。
◇ ◇ ◇
サイレンが鳴った。時刻は深夜2時過ぎ。僕は割り当てられた宿舎のベッドにパイロットスーツを着たまま横になっていた。
やはり来たか。僕が天才と呼ばれる理由は、色彩と質感の共感覚保有。そして、それに付随する勘の鋭さだ。感覚神経と認知がとらえたわずかな変化が、はっきりとした色彩と、触覚に近い質感で知覚されるため、些細な違和感も見逃さない。
そしてようやくイスラエルを出発してからずっと感じていた違和感の正体が明らかになった。
僕はあらゆる情報を、色と触覚が混ざり合った複雑なコードとして知覚する。そのコードは、事象の不和や思考の矛盾、人の感情の移り変わりによって機敏に変化する。
目の前にいる人間が何を考えているか正確にわかるわけではないが、思考の変化によって身体に出る仕草や表情、声色などの些細な変化が手に取るようにわかる。色のついたその場の空気を肌で感じるといえばいいだろうか。僕はこれでも、空気が読める繊細な人間なのだ。
だけど一貫しているものなどない。変化しないものなどない。変化に敏感すぎるゆえに、意志とは無関係にあらゆる変化を感じ取ってしまう。そして、そのたいがいが唐突で不快に感じる。
だから人は嫌いだ。僕にとって、周囲の人間は調律の狂った楽器と同じだ。常に不協和音を発しながらリズムを無視した演奏をしている。だから僕は常に不快でイライラする。
工廠のテスタメントを見つけるとコックピットに飛び込んでスクランブル起動をかけた。
だから機械は好きだ。機械は緩やかに、一定のリズムで劣化していく。そして、僕がネクストとつながることで、この特異能力はさらに拡張される。機体が収集する視覚情報を含めたあらゆる情報は、この世のものとは思えないほどの多彩な色と手触りが混じり合った、キレイな万華鏡を見せてくれる。
敵の攻撃は、強く鋭い色で僕を飲み込もうとする。それを僕の色で塗りつぶしたとき、戦場で立っているのは僕の方だ。僕が強いんじゃない。相手が勝手に手の内をさらして負けるだけだ。
だけど、こんな事を誰に言っても理解しちゃくれない。オーメルの科学者連中であっても口を半開きにして聞くだけだ。連中はAMS適性の数値にしか興味がない。僕は誰にも理解されない。そして誰にも理解してもらおうと思わない。
工廠を飛び出すと、眼下には基地内の照明の下で、あわただしく動く人影が見えた。ネクストのレーダーに敵機の反応はまだ捕らえられない。照明弾が照らす白熱灯のような光を頼りに索敵するが、月明かりもない真夜中に見つけだすのは困難だ。
司令部に情報を問い合わせると、東側の基地レーダーが敵影を検知したとのことだ。僕は基地のすぐ東にあるバルク湖畔まで機体を進める。
湖面には、ちらちらと震えるように明滅する照明弾の光源が映った。小さく波立つ湖面をキラキラと輝かせる。不意に、遠くの湖面が不自然に揺れて、波紋が水面に映る光をかき消した。見つけた。
「こちらテスタメントだ。敵はバルク湖上から侵攻。迎撃行動に移る」司令部に報告すると、僕は機体を湖上に進ませた。
敵は3機。索敵から隠れるように湖面スレスレを飛ぶものの、その存在を一切隠そうとしていない。人間のパイロットならば、コソコソと忍び寄るような雰囲気が感じられるものだが、コイツらは違う。
噂に聞くAIネクストか。僕は直感的に理解する。両肩に特徴的な三角型のユニットを抱えた3機が、編隊を組んで真っ直ぐに基地へと向かってくるのを視界に捕らえた。照明弾の明かりによって露わになった敵機のシルエットは、レイレナードのものらしい独特の形をしていた。
敵編隊は僕の機体を確認すると、アイカメラを赤く点滅させて散開し、3機が一斉にライフルを放ってきた。僕は湖上を滑りながら複雑な軌跡を描いて、青白い光を放つエネルギー弾をすべてかわす。アイススケートは滑ったことがないが、フィギュアスケーターになった気分だった。
「動きがいちいち
AIだけあって射撃は正確だ。正確すぎるがゆえに、僕には単純なコードパターンのようにしか感じられず、容易に回避できる。僕には、AIネクストに動き一つひとつが、くっきりとしたビビットカラーのように感じられた。
敵の射撃を回避しながら、うちの1機に難なく接近すると、敵機は左腕にレーザーブレードを発振させ迎撃しようと構える。僕はライフルを握った右腕を振り払って自機に回転モーメントを与えつつ機体をジャンプさせ、薙払われた敵機のブレードを回避する。同時にクイックブーストを噴射するとテスタメントはコマのように回る。そのまま左腕のレーザーブレードを発振させ、高速スピンをしながら敵機を3度にわたって頭上から斬りつけた。
おっとっと。生まれて初めての前転錐揉み宙返りを加えたトリプルアクセルは着地失敗だった。バランスを崩し片足を水中に突っ込んでしまう。斬られた敵機の方は、上半身がボロボロになって機能を停止。湖に沈んだあとに爆発し、大きな水柱を立てた。
一度敵機から大きく距離をとって体勢を立て直す。AIネクストどもは、懲りずにエネルギーライフルを射かけてくるが当たらない。学習能力のない馬鹿どもめ。さて、次はどの演技を試してみようかと考えた矢先、正面遠くの空に白い閃光が走った。
一瞬、流星だと思ったが違う。あれはネクストのオーバードブーストの光だ。光が向かう半島の先には、イスタンブールのレーダー基地がある。なるほど、コイツらは陽動か。
流星のようなネクストを追いかけようとする僕を、残った2機のAIネクストが行く手を阻もうと接近する。
「邪魔だ!」僕は左肩の
進路を確保した僕は、オーバードブーストを起動させ、レーダー基地に向かう新手の機影を追いかけた。分厚いゴムの壁に叩きつけられたような重力加速度が身体を襲い、あっという間に機体速度は1000km/hに達する。湖上に放置したAIネクストはレオハルト達が片づけてくれるだろう。クイックブーストも併用してさらに速度を高め、先行する敵機に追すがった。
レーダー基地は、半島の先端に位置しているため、真っ暗な夜の海に浮かんでいるように見える。進行方向の暗闇に廃墟のように佇むレーダー基地は、敵機の接近を検知すると、開店を告げるかのように盛大なオレンジ色のネオンサインを点灯させた。放射状に撃ち上げられた対空砲火だ。少し遅れて照明弾が打ち上がり、基地上空に到達した敵機を照らし出す。
真っ白な細身の機体がいた。動作の一つひとつがフラッシュのように鋭く白い光を放って上空から周囲にプレッシャーを与えてくる。初めて見る機体だが、奴が何者であるかが確信をもってわかる。アスピナの傭兵が乗る
まだ距離が遠く、こちらの攻撃は届かない。ホワイトグリントは基地からの対空放火を機敏な動きで避け、上空から砲台を狙撃していく。対空放火がなくなると、滞空したまま左肩のキャノンを構え、青白いプラズマ弾を地上施設に向けて連射した。
闇夜に紛れて見えなかった黒煙が、レーザーキャノンの発射光で照らされた時だけ視認され、暗雲のなかの稲光のように瞬いた。基地中央にあった大きな建物から火の手が上がり、それに続いて、併設されたレーダー棟が倒壊した。
僕は射程に捕らえた上空の白い機体に向けてライフルを連射する。ホワイトグリントは稲妻のような機動ですべてのライフル弾を回避すると、こちらへ向き直り、左肩に構えたままのレーザーキャノンを放つ。
発射口は僕の胸のあたりに向いており、青白くぬるっとした顆粒状の質感が着弾予想箇所に感じられた。飛び上がってプラズマ弾を回避するとテスタメントの上昇能力を活かして、敵の頭上に陣取り空中戦を仕掛けた。
2機は空中で複雑な3次元軌道を描く。相対速度が合った瞬間に、お互いがライフルを放つものの、機敏な動きで直撃を回避する。お互いが一定の距離まで接近すると、同時にレーザーブレードを発振させ切り結ぶ。
『白い閃光』のとおり名は伊達じゃないな。白い機体が全身から発する白光は、触れただけで切れそうなほど鋭い。気を抜けば全身がズタズタに引き裂かれそうだ。奴の動きを真似て、僕も鋭く尖った黒曜石のようなイメージで応戦する。
レーダー基地上空の暗い空には、絡み合うようにブースト炎がうねり、四方八方に飛び交うライフル弾の曳光が捲き散らされ、時折、超高温のプラズマ同士がぶつかるスパークが不規則に瞬いた。
戦いのさなか、ホワイトグリントから通信が入る。
「やあ、こんばんは。オーメルの
気の抜けた挨拶の陰に、花崗岩のように固く揺るぎない意思のようなものを感じる。
「知っているよ
「今回は依頼主の要望で動いてはいるけれども、これは私の目的でもある。
だが、君の力が強すぎて、思った以上に大変そうだ。さすがはオーメルの寵児。最高のAMS適性と、先天的な共感覚を持たされて、産み出されただけのことはある」
ギクリとした。僕の出生はオーメルの機密事項だぞ。
「だけど、レーダー施設破壊の目的は達成した。これで世界は動きを早める。だけど、心配しなくていい。君たちは戦争に勝つよ。ただし、君たちリンクスが生き残っている保証はないけれど___」
視界の端に光が瞬いた。水平方向に広がる6条の
「おっと、
ホワイトグリントはそう言い残すと、ブーストを切り滑空しながら海上へ逃げた。追うか迷ったが、この暗闇では海での捜索は不可能だ。僕は白騎士が乗る、翼が生えた天使のような機体の接近を確認すると、テスタメントの戦闘モードを解除する。
「こちらノブリス・オブリージュ。レオハルトだ。お前の言う通りになったな。日中の非を詫びるよ。
それと、たった今、本部から連絡が入った。BFFの本拠地が掴めたらしい。BFFの本拠は北大西洋洋上だ。アナトリアの傭兵に攻撃を打診する決定が下された。これでもう、戦争は避けられなくなった」
こちらが
あらゆる事象の都合が良すぎる。まるで誰かが誘導しているようだ。
世界が人ならざる者に操られているような、気持ち悪さを感じた。
レーダー基地はオレンジ色の炎が燃え盛り、守衛が放水して火の手を沈めようとしている。地平の端っこは紺色のグラデーションに染まり、炎の色と似た東雲色がかすかに望めた。