ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
《やあ、レイヴン。久しぶりだね。アマジーグの一件以来だ。活躍は聞いているよ。さすが、私が見込んだ男だ。君と共闘できるなんて、まるで夢のようだ。実際に、何度も何度も夢に見たくらいだよ》
輸送機から作戦領域に投下されると、アスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンが無駄に多い挨拶で俺を出迎えた。奴が乗る
そもそも、人格移転型AIは、機械に乗った鴉の夢を見るのか? 旧世紀にあったとされるSF小説のタイトルを連想する。相変わらず口が減らない奴だ。
《先日は大変だったね。BFFを潰した報復としてアナトリアへの直接攻撃に出るとは予測ができなかった。アナトリアは私にとっても思い入れのある場所だ。それを守ってくれた君には感謝をしなくてはいけない》
ジョシュアが言うように、俺が北大西洋上でBFFの本社船舶を襲撃した後、アナトリアはアクアビット製と思われる巨大兵器による攻撃を受けた。
コロニー中心部へつながる古い地下鉄路線を使った攻撃は、脅しなどではなく、アナトリアを確実に崩壊させるための直接的な報復攻撃だった。コロニーへの被害こそくい止めたものの、俺の機体は大破し、急遽予備機を引っ張り出すはめになった。
今搭乗しているこの予備機体は、激戦が続く今後を見越して、以前から少しづつ製作準備を進めてもらっていた機体だ。大破した機体を修理するよりも新しい機体を完成させた方が早いとのの判断で、この任務のためにアナトリアのメカニック達が突貫作業で仕上げてくれた。
トラブルシューティングと慣らし運転は終わらせてはいたが、戦闘機動はまだ一度も行っていない。シェイクダウンの相手が、詳細の知れない巨大兵器であることに一抹の不安を覚える。
《おや、おまけに機体構成が変わっている。激戦続きだからね。パワーアップをしておかなければ、これからの戦いは苦しいからね。
一見標準パーツの組み合わせに見えるけれども、関節機構をプライマルアーマーでフロートさせて抵抗を少なくしているのか。これはすごい。亡きイェルネフェルト教授のアイデアかい? アナトリアのハワード・マーシュは優秀な技師だけど、ここまでできるとは恐れ入った。
背中の武装を外した代わりにブースターを追加か。機動戦を好む君の戦い方にあった構成だ。武装は肩部ミサイルに、左腕に対ソルディオス用のスナイパーライフルと右腕にアサルトライフル。格納式レーザーブレードか・・・なんだか、他にも隠し玉がありそうだ》
ホワイトグリントは、俺の周りをグルグルと周回して、機体構成を観察しては気づいたことをいちいち口にする。そして、その指摘はすべて正しい。人工知能であろうがなかろうが、その分析能力は優れたものだ。やはり油断がならない相手だと再認識する。
「俺は機体のお披露目に来たわけではないんだが」のべつまなくなしにしゃべり続けるジョシュアに対し、釘を刺す意味で作戦の確認を促す。
《ああ、そうだったね。興奮のあまり忘れていたよ。敵はアクアビット製の超大型兵器ソルディオスが9機。現在、この砂漠の反対側にあるアジア圏最大のコロニー・シングを目指して侵攻している。いま私たちが立っているここを最終防衛ラインに設定する。以上だ》
ジョシュアはさもつまらなそうな口振りで、手短に作戦の説明を済ます。それだけか?「他には?」念を押して確認をしておく。
《敵大型兵器は、超大型のコジマキャノンと高密度のプライマルアーマーを装備している。本体に通常兵器は通用しないため、破壊するには頭頂部の丸い砲塔が射撃前に砲門を開く一瞬を攻撃するしかない》
どうやら、必要な情報はこちらから問い合わせなければ口にしないらしい。やや機械的な応答に、目の前で話すジョシュアがやはり人工知能なのではないかという疑念が強まる。だが、興味がないことには無関心な性格とも捉えるられる。どちらにしても面倒な奴だ。
「別件で、ひとつ質問だ」《なんだい?》ジョシュアは、作戦説明とは打って変わって、うれしそうな声色で答える。
「お前はAIなのか?」
ジョシュアが、その質問に答えるまでには5秒ほどの間があった。明らかに思考をしていることが伺い知れた。いや、フリーズかもしれない。これまでのやりとりには一切なかった間だけに、大きな意味を含んでいるように感じられた。
《___その答えは・・・私よりもソルディオスを多く撃破できたら教えてあげよう》
そうきたか。だが、少なくともノーではないことは確かなようだ。どこまでいっても面倒な奴だ。
『ソルディオス』スペイン語で太陽神を表すその兵器は、俺が以前GAヨーロッパが有するハイダ工場の襲撃で破壊したのと同じ巨大兵器だった。アクアビットは、別の場所でソルディオスの建造を継続していたらしい。
6本の足が生えた昆虫のような胴体の上に、球体の大型コジマキャノンが乗っかっており、頭頂部までの高さは50mを優に越える。それが9機並んで砂漠を進軍する様は、これまで出撃したどの戦場よりも異様な雰囲気を放っていた。
ソルディオスは、我々2機の姿を確認すると、砲塔である頭頂部の砲門に青白い光を宿した。圧縮されたコジマ粒子が、そこから放たれるまでの数十秒間の間に砲口へ銃弾を叩き込まなければならない。
《さあ、行こうか。君と私が力を合わせれば、不可能なんてないんだよ》
ジョシュアの操るホワイトグリントは、ソルディオスの中央へ向かって猛進する。何を根拠にそんな言葉が出てくるのか理解に苦しむ。とにかく俺も後に続く。
射程に捉えられるほど接近すると、9機のソルディオスから同時に垂直発射ミサイルが打ち上げられる。白煙を吐き出しながら垂直に立ち昇るおびただしい数のミサイルは、目の前にそそり立つ壁のように見えた。上昇しきったところで、全弾が急降下してこちらへ向かってくる。
右腕のライフルで迎撃しながら前進してミサイル群を回避すると、俺は左翼へ向かう。ホワイトグリントは右翼へ向かった。
巨大なソルディオスの動きは緩慢で、接近するのはたやすい。その巨体が視界に収まらないほどまで接近すると、胴体の全方位に取り付けられた迎撃用の機銃が一斉に発射されるが、小径の弾丸はすべてこちらのプライマルアーマーが無力化してくれる。
だが、新しい機体は、以前の機体ほどプライマルアーマーに頼ることができない。間接部の抵抗低減に割り当てられるコジマ粒子は、プライマルアーマーへの出力から割り削かれている。ジェネレーターの粒子生成量には限りがあるため、以前に比べて防御力が低下していることになる。
そのぶん、四肢の動きは軽い。コジマ粒子の副次効果である動体摩擦低減作用により、高速で動かすほど駆動部の摩擦抵抗が少なくなる。
まるで自分の手足から重量が失せたように軽く素早く動く。ブースターの出力も向上しているため、機動性は著しく高まっていたが、全体の動きがピーキーで扱いづらさを感じる。
姿勢制御システムも完全には調整しきれていないため、ときどき不安定な挙動を示す。マニュアルで制御しようとしても、以前の感覚で操作しては手足を大きく動かしすぎて、かえってバランスを崩してしまうのだ。
だが、機体はこちらの意志どおりに反応よく動く。それは五体満足だった頃の肉体の動きに近い。忘れかけていた身体感覚が蘇ったようで懐かしささえこみ上げてきた。
巨大な眼球の様に見えるソルディオス頭頂部のコジマ粒子砲台は、機敏な動きでこちらの不器用な機動に追従する。網膜を模したような砲門には、さきほどよりも光量が増し、コジマ粒子の
砲門に向けて右腕のライフルを射かけると、着弾箇所周辺にプライマルアーマーの光の幕が視認され、放たれた弾丸がもつ移動エネルギーが削ぎ落とされる。コジマの光はさらにさらに輝度を増した。
《コジマ粒子濃度、圧縮臨界まで上昇! 撃たれるわ!》フィオナが叫ぶ。
ソルディオスに、にらまれたと思った。クイックブーストで機体に回避行動をとらせると、バットで殴られたかような衝撃をともなって機体は横に弾け飛ぶ。同時にソルディオスの巨大な眼球にフラッシュが瞬き、膨大なエネルギーの奔流が機体の脇を駆けていった。
ソルディオスから放たれた強力な光条は、大きく回避したにもかかわらず、その余波だけでこちらの機体表面を焼く。後方の砂丘を吹き飛ばし、あたりの地形を変え、その遥か遠方で巨大な火球をつくった。
自ら起こした緊急回避の挙動を制御しきれず、俺は砂の上に機体を転ばす。コックピット内には装甲温度上昇のアラートが鳴り響いていた。
規格外の破壊力をもつコジマ粒子砲の威力に背筋に冷たいものが走った。もし直撃すれば、ネクストは跡形もなく吹き飛ぶだろう。
俺は機体を起きあがらせると、再びエネルギーチャージを開始するソルディオス頭頂部のコジマ粒子砲塔に向けてライフルを射かける。次弾が撃たれる前に破壊しなければ非常に危険だ。
砲台を保護する強力なプライマルアーマーを、ライフルの連射で減衰させつつ接近する。ソルディオスは、なおもこちらを凝視し続けている。
左腕のスナイパーライフルを、至近距離で砲門に撃ち込んでやると手応えがあった。プライマルアーマーを貫通して砲門内部に着弾し、小さな爆発を起こす。連鎖的に内部で次々と誘爆し砲台が崩壊していく。
《レイヴン離れて! 濃縮コジマ粒子が流出! 爆発するわ!》
フィオナの呼び声で機体を退避させると、視界がホワイトアウトするほどの閃光とともにソルディオスが大爆発を起こす。衝撃波と轟音が体の芯まで響き、その爆発の余波は両隣にいたソルディオスをまとめて吹き飛ばした。
爆心地付近には、押し出された大気が急激に戻る際に発生する突風により砂嵐が巻き起こる。砂塵によって太陽光が遮られると、薄暗闇の中には砂塵とともにコジマの発光粒子が舞い散り、星屑のなかにでも飛び込んだかのような幻想的ともいえる光景をつくり出した。
しかし、機体に備わったコジマ粒子計の数値は危険値を遥かに超えており、この場に生物がいたならば、たちまち死を迎える濃度だ。砂嵐がやんでもコジマ粒子の光が宙に舞っている。ソルディオスの残骸からは、機体内にため込まれていたコジマ粒子が、光の粒となって噴出し続けていた。
大量のコジマ粒子によって汚染されたこの砂漠には、今後数百年間は生物の立ち入りができなくなった。そして、高濃度コジマ粒子が散布されたのと同じ状態にあるこの空間では、粒子同士が干渉して力を打ち消し合い、ネクストはオーバードブーストもプライマルアーマーも使えない。
だが、それはソルディオスも同じであり、コジマ粒子砲台を保護するプライマルアーマーは、さきほどよりも防御力が低下し、簡単に撃ち抜けるようになっているはずだ。
《一度に3機のソルディオスを撃破。残り6・・・ホワイトグリントが2機を撃破。残り4機よ》
「了解」あと2機落とせば、撃墜数でジョシュアを上回る。俺は次のソルディオスへと機体を向ける。
一度勝手がわかってしまえば、あとは単純作業だった。機体の動きにもある程度慣れてきた。
動きの鈍いソルディオスの周囲を動き回って、補足さえされなければコジマ粒子砲は撃たれない。それにソルディオスの足下付近は砲塔の死角になる。
砲の威力はたいしたものだが、多くの大型兵器がそうであるように、ソルディオスは白兵戦闘には向かない。これは、あくまで戦略兵器であり、護衛機を随従させるのが鉄則だ。機動力で勝るネクストが相手では、ほとんど欠陥品に近い。
先ほどと同じように、砲門を守るプライマルアーマーを、右腕のライフル斉射で減衰させつつ、左腕で高威力のライフル弾を放った。そして、球体の砲塔が爆発する前に離れる。
爆発が起きて砂嵐が起こる。もう1機を撃破した。ホワイトグリントも撃破したようだ。向こうの方でも大爆発が起こるのが見えた。
《ホワイトグリントがさらに2機を撃破。残り1機。すごい、圧倒的よ》感嘆の声とともに、フィオナが戦況を報告する。
最後の1機は、ホワイトグリントと獲物の取り合いだ。俺は砂嵐が収まるのを待ってから、最後のソルディオスに接近しつつスナイパーライフルで砲門の狙撃を試みる。
まず1射目でプライマルアーマーを減衰させるとともにこちらへ注意を向かせる。続いての2射目は、より精密に砲門を狙う。それほど距離は遠くないため地軸は計算に入れない。大気中を漂う砂の動きから風向きを読み、ついつい動かしすぎてしまう左腕をなんとか操り、いつもより時間をかけて照準を微調整する。
トリガーを引きかけた瞬間、目の前を銃弾がかすめた。思わぬ方向からの攻撃に驚き、狙いが逸れる。弾丸はソルディオスの頭上の遥か上を飛び越えた。
こちら狙撃を邪魔したのはホワイトグリントだった。
《おっと、ごめんよ。手元が狂った》ジョシュアがにやけ声でわざわざ通信を入れてくる。どう手元が狂えばそうなる。そうまでしてAIかそうでないかを答えたくないのか。まるで子供だ。
お返しとばかりに、ソルディオスに迫ろうするホワイトグリントの直前に向けて狙撃をする。
《おっとっと。君には弾丸1発ぶんを貸していたはずだけれど、よもや忘れたわけじゃないよね。今のはその利子ぶんだよ》
数ヶ月前のマグリブ解放戦線の英雄アマジーグとの戦闘の後のことだ。そんなことを言っていたような気がするが、よく覚えていない。この不毛なやりとりに、状況をモニタリングしているフィオナが怒声で割り込んだ。
《だから、なんであなた達が戦うの! いい加減に・・・・・・高熱源体接近! コジマ粒子反応を検知、10時方向! ソルディオスの後方上空!》
オーバードブーストの速度で急速接近する反応がネクストのレーダーにも光点で示される。ソルディオス後方の空から向かってくる小さな人型の影をカメラが捕らえた。
高度を下げ、除々に大きく見えてくるその影は、最後に残ったソルディオスに背後から取り付くと、青白く光る右腕のレーザーブレードを振るう。
ソルディオスのコジマ粒子砲台に斜め右上からレーザーブレードが叩きつけられると高輝度のアーク光が灯る。それが斜めに左下まで移動して光の筋が引かれると、半球状の残骸と化した上側部分はずるりと滑って砂の地面に落ちた。断面はまだ高温を帯び、オレンジ色の光を発している。
こちらが苦労して破壊しているソルディオスの巨大砲塔が、たかがレーザーブレードのひと振りによって斬り落とされた。あれだけの大質量を真っ二つに斬ることなど通常のブレードでは不可能だ。常軌を逸するブレード出力に皮膚が粟立った。
そして、破壊されたソルディオスは大爆発を起こし、大量のコジマ粒子が放出される。あたりは再び砂嵐が巻き起こり、光輝くコジマ粒子が舞い散った。
《データ照合。レイレナードの
フィオナが、姿の見えない敵機の情報を告げた。砂嵐による薄暗闇のなかに細く青白い発光体が浮かぶ。まるで夜霞に浮かぶ朔の月のようだ。
嵐が弱まるにつれて、ソルディオスを叩き斬ったネクストの姿が露わになってくる。黒いネクストは、右腕に強い輝きを放つレーザーブレードを携えたまま上空に浮いていた。
《ようやく出会えたな、アナトリアの傭兵。こんなガラクタのようなアトラクションでは満足できないだろう。私が楽しませてやる。手合わせを願おう》
敵機からの通信に、俺は少々混乱した。レイレナードのリンクスが、自軍の巨大兵器を自ら破壊して、ネクスト同士での戦いを求めてくる。レイレナード側のリンクスには頭のおかしな奴が多いが、そのなかでも群を抜いた奇行だ。
そして、それだけ腕に自信があるという現れなのだろう。機体の構成や細かな動きから鑑みても、ただの過信ではないことが伺い知れる。
《レイヴン。彼女の持っている
「了解した。こちらは後方から援護する。決して奴の間合いでは戦わせない」
《いやいや、私は撤収させてもらうよ。彼女との戦闘は予定に入っていないし、彼女は君をご指名だ。二人の間を邪魔するのは・・・そう、『野暮』というものだろう》
ホワイトグリントはブースターを吹かして後退する。
「待て、お前には話が・・・」
《ソルディオスの撃破数は引き分けだ。私について話すことはない。答えを聞きたければ、せいぜい生きのびることだね。だが、彼女は強い。それに、私は彼女が嫌いなんだ。ぜひとも勝利して、また会えることを祈っているよ》
ホワイトグリントは、こちらを呼び止めを無視して飛び去る。それから一方的に通信を切った。
《ホワイトグリント、撤収》
ソルディオスの残骸と、2機だけが残った広大な砂漠に、フィオナの通信がむなしく響く。入れ替わりに敵機から通信が入る。
《お前と1対1で戦えるこのときを、私は夢にまで見て待ちわびていたのだ。さあ、やるぞ》
お前もか。どうやら俺は、頻繁に誰かの夢に出てくるらしい。興奮気味に叫ぶ敵リンクスとは対象的に、俺は檻のなかに猛獣と一緒に放り込まれた気分で憂鬱になった。
どいつもこいつも、ずいぶんと勝手なことをしてくれるな、と同時に呆れた。