ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Marche Au Supplce 前編 〜リンクス戦争〜

 BFFの後ろ盾を失い、GAの監視衛星の破壊に失敗したうえ、巨額の開発費を投じて完成させた巨大兵器ソルディオスも失ったレイレナードとアクアビットが頼る戦力は、自社がかかえるネクスト部隊しかなかった。

 

 しかし、最初からそのネクスト部隊こそがレイレナード陣営の最大戦力であり、同時にGA側がもっとも恐れるものだった。ネクストは単機で大きな戦力を持つ。それゆえ、政治的・戦略的に使いどころの難しい側面がある。

 

 そのため、これまでレイレナード陣営は自社ネクストを用いた直接攻撃を避けていた。しかし、戦力図が書き変わり、劣勢になりつつあったレイレナード陣営は、とうとう虎の子であるネクスト部隊を本格投入し始めた。この戦いは後に『リンクス戦争』と呼ばれる。

 

 ネクスト同士が戦う様は、かつて企業に雇われたレイヴン同士が争う企業間代理戦争となにも変わることはない。世界を牛耳る大企業の潤沢なバックアップをうけて、より戦略化し、高速化しただけにすぎない。そして、ネクストが撒き散らすコジマ粒子によって世界の汚染が加速化した。

 

 とうとう窮地に追い込まれたレイレナード陣営は、GAとオーメルの重要施設のあるイスラエルへ直接侵攻を開始。レイレナード・アクアビットの部隊指揮を執るのは、リンクス史上最高のAMS適正を有し、知謀と策略に長けたレイレナードのNo.1リンクス、ベルリオーズだ。

 

 GA側も相当数のネクストと傭兵を投入し、イスラエル手前の旧ピースシティ砂漠にてこれを迎撃する。

 

 

 

 

《もうすぐ作戦エリアに突入。戦闘すでに開始されています。速やかに参戦し、味方の支援に向かって。降下準備はいい?》

 

「待ってくれ情報がほしい。作戦エリアの圏外で制止。輸送機のモニターをこちらに回してくれ」

 

《了解。最大望遠映像をリンクします》

 

 フィオナがよこしてくれた望遠カメラの映像にはチカチカと瞬く火線と爆発と、複雑な軌跡を描くブースト光が絡み合っているのが見える。

 

 作戦エリアは、以前アマジーグと戦った砂漠の廃墟、旧ピースシティ。砂に埋もれて立ち並ぶビルの隙間を縫って、ネクスト同士が戦闘する様子が伺えた。敵はベルリオーズを含むレイレナード精鋭部隊4機だときいている。

 

 対するこちらは、ローゼンタールのレオハルト(No.4)が駆るノブリス・オブリージュと、オーメルサイエンスのミド・アウリエル(No.30)のナルの2機。情報ではもう1機出撃していたはずだが、撃破されたのだろうか。

 

 残っているのは、どちらも近中距離戦に特化した機動戦タイプだ。向こうは遠距離攻撃機が2機もいる。作戦を立てなければ各個撃破されてしまうだろう。

 

「遠距離装備に換装する。換装が完了しだい降下。作戦に移る」

 

 メンテナンスオペレーターに腕部武装の換装指示を出すと、フィオナの合図と共に、輸送機左前方から回転式の武器ラックがついたアームが降りてくる。現在装備中の武装を空のラックに取り上げ、回転すると格納式レーザーブレードに続いてスナイパーライフルのグリップが手元に移動してきた。

 

 出力は低いものの携帯性に優れる格納式レーザーブレードをコアに収め、左手でスナイパーライフルのグリップをつかむと、フィオナに装備の換装が完了したことを伝える。右腕にはいつものアサルトライフルを装備していた。

 

《了解。降下シークエンス準備、カウントダウン開始。5、4、3、2、1、降下。レイヴン、気をつけて》

 

 合図が終わると、油圧の抜ける音と軽いショックの後、ハンガーから切り離された俺の機体は空中に放り出され、すぐさま落下速度を高めていく。ブーストをわずかに吹かして姿勢を安定させると、降下しながら作戦エリアへ回頭し、機体を前進させた。

 

 作戦領域に近づくにつれて、無線通信のサンドノイズに混じって発破音と会話のようなものがきこえてくる。初めはよく聞き取れなかったが、それは明らかに会話だった。

 

 国家解体戦争の同胞。お互いが顔見知りなのか、戦いながら敵味方関係なく全周波数帯に向かってがなり散らしているのがわかった。これでは作戦もなにもあったものではない。

 

 なかばあきれながら、交戦エリア中心から一番離れたビルの屋上に狙撃ポイントを陣取る。まだレーダーには補足されない距離だ。狙撃用のスコープモニターを呼び出して、まずは肉視での状況把握につとめる。

 

 敵は全部で4機いる。作戦エリアの反対側のビルの屋上に、武器腕を構えるP.ダム(No.21)のヒラリエスがいた。ビルの谷間を縫ってナルと交戦中なのが、赤く塗装された頭部が目立つアンシール(No.15)のレッドキャップだ。

 

 そこからこちらに近い位置の、ビル街から外れた丘陵地帯でノブリス・オブリージュと2機が交戦している。

 

 ノブリス・オブリージュは特徴的な3門レーザーキヤノンの片方がなくなっていた。高い機動力を誇るザンニ(No.12)のラフカットが頭上から攻め、ベルリオーズ(No.1)のシュープリスが、砂の丘陵を巧みに利用しながらライフルで牽制と援護をしている。あの連携の前では歴戦のローゼンタールの白騎士とはいえ、そう長くは持たないだろう。

 

 ヒラリエスから遠距離狙撃をされないために、間に背の高いビルを挟む位置に移動する。ヒラリエスの射線をふさぐ位置に移動して狙撃を慣行する。

 

 機体をとおして風速と距離とターゲットの移動ベクトルを連続的なデータとして頭のなかに呼び出す。数列データの処理結果が算出されると、対象までライフル弾の軌跡が正確に知覚される。

 

 俺は呼吸を整え、敵の動作予測位置に照準をあわせ、トリガーを引き絞る。乾いた発破音と共に音速で弾が射出された銃弾は、ほぼ一直線の光の筋を描いて空中を複雑機動するラフカットへ吸い込まれる。

 

 しかし、敵の動きのほうが速かった。本体を狙った銃弾はわずかに逸れ、肩に装備した半月状のプライマルアーマー整波装置を貫いて爆散させるにとどまった。

 

《なに!?》無線機から聞こえた驚きの声は、撃たれたザンニのものだろう。

 

 奇襲は失敗した。もう隠れる必要はない。俺は奴らと同じように無線を全周波数に向けて言い放つ。

 

「こちら、アナトリアの傭兵だ。後方から支援する」

 

《間に合ったか。よくきてくれた。すまんが劣勢だ。加勢を頼む》

 

《アナトリア? ああ・・・例の死に損ないか》

 

《あなどるなよアンシール。彼は優秀な戦士だ。ようこそアナトリアの傭兵。ここがリンクス戦争のラストステージだ。登場早々申し訳ないが君には外野で見物していてもらおう。P.ダム》

 

 ベルリオーズの呼び声と共に視界の端が瞬いた。反射的にクイックブーストを点火し、大きく回避行動をとる。

 

 ヒラリエスからの砲撃。ソルディオスのコジマキヤノンにも匹敵する膨大なエネルギーの奔流が目の前を駆け抜け、さっきまで遮蔽物にしていた高いビルふたつと、俺が狙撃ポイントに選んだビルもろとも貫通し爆散させた。

 

 巨大な爆炎と爆風が辺り一帯を覆い、それにより俺は機体姿勢を保つことができずに吹き飛ばされた。ノイズから回復したモニターが捉えたのは、一瞬にして灰燼と化した3棟分のビルの瓦礫の山だった。

 

《折角だが、P.ダムがお前の介入を許さん。そこで見ていろ》言い放つようにベルリオーズからの通信が切れる。入れ替わるようにP.ダムからの通信が入った。

 

《なにをしても無駄よ、アナトリアの傭兵。その気になればビルごとお前を狙い撃つことができる。撃たれたくなければそこでおとなしくしてなさい。尻尾を巻いて逃げるなら見逃してあげる。こちらに寝返るなら、歓迎してあげてもよくてよ》

 

 ビルの上に陣取るだけあって、上から見下すような物言いをする奴だ。返答とばかりにヒラリエスに対してライフルを打ち込む。しかし、距離が離れすぎているため、運動量を失った弾丸は放物線を描いてようやくヒラリエスが立つビルに着弾するにとどまる。

 

 これでは反撃をするにしても、味方を援護するにしても、狙いをつけて立ち止まった瞬間に狙撃される。スナイパーライフルを捨て、近接戦闘で加勢しようにも、ヒラリエスの狙撃がそれを拒むだろう。たった一発の砲撃を見せられただけで完全に動きを封じられてしまった。

 

 ヒラリエスに照準を絞らせないために、不規則に動き回りながら思索を巡らす。そのときノブリス・オブリージュから秘匿回線で通信が入った。

 

《アナトリアの傭兵、頼みがある。背中の邪魔な荷物を狙撃できるか。トラブルでパージができん》

 

 ノブリス・オブリージュは、自機の背面に残った3門レーザーキヤノンをライフルで撃ち落とせと言ってくる。しかし、ヒラリエスがいる限り正確な狙撃はできない。

 

「向こうの策略にやられた。正確な狙撃は難しい。仮に撃てたとしても、そちらの機体に当たるぞ」

 

《___それでかまわんよ。だが、そのときはお前がこの場をおさめろ》

 

 こちらの状況を理解しているのかいないのか、勝手なことを言ってくれる。だが、こちらから動かなければ窮地に追い込まれるのは時間の問題だ。

 

「わかった、機会をつくる。合図を送ったら一瞬でいい。そのタイミングで動きを止めてくれ」

 

《了解した》と返事の後、通信が一度とぎれる。

 

 さて、機会をつくる。とはいったもののどうするか。ヒラリエスのコジマライフルは高威力ではあるものの、連射がきかないうえに、チャージに時間がかかる。チャージしなくても発射可能だが、威力は通常兵器以下だ。発射後はエネルギーを使い切るため防御力・機動力ともに低下する。

 

 そこにチャンスがある。作戦は決まった。そのためには、ヒラリエスにもう一度コジマライフルを撃たせなければならない。

 

 ビルの陰からヒラリエスに向けて狙撃を試みる。精密射撃ではないため当たらないが、こちらからの攻撃の意志を見せつつ、目的を読まれないことが肝心だ。数発だけ撃ったらすぐに次の射撃ポイントへ機体を移動させ、再びライフルを放つ。

 

 射撃の間隔を少しづつ長くしていくことで、コジマキヤノンでの狙撃を誘発させる。その間に、向こうがこちらの隙を見つけるか、しびれを切らしてコジマライフルを撃ったときが作戦の決行タイミングだ。後は俺が狙撃を回避ができるかどうかが成否の分かれ道になる。

 

 奴のライフル発射のタイミングだけに注意を集中させながら、左手のトリガーを引く。

 

《適当に撃っているだけじゃ当たらなくてよ。そこッ!》

 

 ヒラリエスから閃光が発せられた。反応よくクイックブーストを最大出力で点火し回避行動をとる。同時にオーバードブーストも起動。凄まじいエネルギーの奔流が機体のすぐ脇をかすめ機体が震える。コックピットには装甲温度上昇アラートが鳴り響く。

 

 直撃ではなくても、放たれた高圧縮のコジマエネルギーの余波はプライマルアーマーをものともせず機体装甲を焼くほどの威力をもっている。機体の損傷は軽微ではあるものの、2度の砲撃の余波でその被害は機体全体に及んでいた。

 

 直後に立ち上がったオーバードブーストの高速移動でヒラリエスから距離をとり、ノブリス・オブリージュ達の交戦エリアが望める高台まで移動すると、すぐさま狙撃体勢に移る。

 

 ヒラリエスはオーバードブーストを使ってすぐに追ってくることはできず、フルチャージのコジマライフルも撃つことはできない。数十秒間は狙撃に専念することができた。

 

 いつ攻撃を受けるかも知れない恐怖を振り払い、狙撃の瞬間だけはヒラリエスのことは完全に頭の中から消す。そして、片方の大型レーザーキャノンだけを背中に残したノブリス・オブリージュを狙撃スコープに捉える。機体は埃と煤にまみれて灰色になっていたが、やはり、あのときの機体だ。

 

 国家解体戦争のイスタンブール防衛作戦で遭遇し、圧倒的な機動力を見せつけられた天使の様な白い機体。命からがら逃げおうせたものの、俺から自由を奪った仇。

 

 その仇敵が、俺に背中を預けると言う。馬鹿な奴だ。後ろから撃たれる危険性を考慮できていない。今ならほんの少し照準をずらすだけで復讐を成就することができる。

 

 半身を失った苦しみがお前にわかるか。俺は冷めた思いで仮想トリガーの遊びを絞る。忌まわしい記憶の機体が制動のタイミングでこちらに背中を向けた。

 

「アナトリアからノブリス・オブリージュへ。狙撃準備完了。今だ」

 

 ノブリス・オブリージュが動きを止めた。俺は躊躇なくトリガー引く。人間の感情とは、とてもいい加減なものだ。そのときの気分次第で判断はいかようにも変わる。今、この瞬間に俺が身体の苦痛を感じているのであれば、もしかしたら弾丸は天使の背中を貫いたかもしれない。

 

 しかし、ネクストに乗っている間は身体に不自由を感じていない。だから恨みの感情も希薄だ。すべては戦闘の中で偶発的に起こったもので、半身を失ったのは、事態を回避できなかった俺自信の責任だったと思える。

 

 銃口から放たれた弾丸は曳光を放ちながら、動きを止めたノブリス・オブリージュの背面へ向かう。そのスキを見逃さず、ラフカットが攻撃を加えるために、一瞬にしてノブリス・オブリージュに肉薄した。

 

 天使に残っていた片方の翼はもがれた。弾丸はノブリス・オブリージュの3門レーザーキヤノンの基部に直撃し、背面からは大きな爆炎が上る。空中からノブリス・オブリージュに迫っていたラフカットは予想外の爆炎に飲み込まれるかたちになった。

 

 爆炎と煙のなかで、ノブリス・オブリージュとラフカットの影が重なる。一瞬のもみ合いのあと、両者はすぐに動きを止めた。ラフカットの背中からはレーザーブレードの光束が延びていた。ラフカットは電源が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

 

《ザンニ! チッ》ベルリオーズが無線で叫ぶ。俺は続けてシュープリスに向けてライフルを放ち、遠距離から牽制する。

 

《ありがとう、アナトリアの傭兵。これで1対1だ。ベルリオーズ、決着をつけようか》

 

 身軽になったノブリス・オブリージュがライフルとレーザーブレードを構えてベルリオーズのシュープリスに向かう。

 

《邪魔が入ったが、作戦に変更はない。予定の範疇だ》僚機を失ったシュープリスも近距離戦に応じる。

 

 2機の機動で砂埃が巻き上がり姿が隠れる。瞬間的に音速を超えて発生する衝撃波がさらに砂塵を舞上げた。縦横無尽に駆け回る2機の動きは素早くスコープモニターでは捉えきれない。あたりは砂煙が充満し、すでに機影を視界に捉えることすら難しい。

 

 狙撃手の出る幕ではなくなった。ここは任せて、ヒラリエスの足止めとナルの援護に向かえというレオハルトからの作戦指示なのだろうと勝手に解釈し移動を開始する。

 

 砂煙のなかに時折見える2機のブースト炎と発射光とブレードの瞬きは、さながら積乱雲のなかで光る稲妻だ。破壊的な雷雲が通り過ぎた後は、あったはずの砂丘がきれいに消えていた。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ヒラリエスは、ビルの上から動いていなかった。あの位置は、今戦局を開いているどの位置をも狙撃できる格好の狙撃ポイントだ。ノブリス・オブリージュを狙撃するときに、俺を追ってノコノコ前線に出てきてくれば、先に撃破しておくことでこちらが優位に立てると期待したが、そう甘くはなかった。ラフカットを撃破したものの、形勢逆転にはほど遠い。

 

《さっきは上手く逃げたわねアナトリアの傭兵。でも次はかわせる? それともアンシールと戦っている彼女を先にしとめようかしら?》

 

《おいおい、P.ダム。こいつは俺の獲物だ。手出しするんじゃねぇぞ》

 

《アンシール。女相手だからって遊んでないで、さっさと始末なさい。さもないと、アンタごと吹き飛ばすよ》

 

《ひゃあ、おっかねぇ。おい、死に損ないの傭兵、お前はあのイカれた女に遊んでもらえ。俺はその間に、こっちのお嬢ちゃんをズタズタにしてやるからよぉ。ぎゃはははは。うおっ》アンシールは、ナルの唐突な反撃に驚きの声を上げる。

 

 そこへミド・アウリエルから通信が届く。

 

《こちらナル。アナトリアの傭兵、私が2機を引きつけます。援護射撃をお願いします》

 

 それっきり一方的に通信が切られる。ナルはレットキャップの攻撃を避けながら、戦域をヒラリエスがいる方へ移していく。

 

 まったく、傭兵をただの便利屋だと思っているのか。どいつもこいつも無理な注文をつけてくる。神経負荷の影響なのか、リンクスというのはどうやら全員頭のネジが2、3本飛んでいるらしい。俺は仕方なくナルを追って機体を前進させた。

 

 レッドキャップは、逃げるナルをライフルで追いたてる。中距離に持ち込まれたヒラリエスはビルから飛び降り、後退しながら背面のプラズマキヤノンでナルを迎撃した。

 

 ナルは2機を相手にしながら、器用に攻撃を避けている。しかし、動きがマニュアル通りだ。回避先を読まれればあっという間に撃破される恐れがある。戦闘が拮抗しているように見えるのは、レッドキャップがわざと手を抜いているからだ。ヒラリエスもアンシールを巻き込む恐れがあるため、高威力のコジマライフルは使えない。

 

 俺は少し離れた位置から両腕のライフルを1機づつに割り当て牽制射撃を行い、ヒラリエスとレッドキャップの照準をナルに絞らせない。その隙をみてナルが攻撃に転じるが致命傷は与えられず、4機が絡む戦況は膠着状態となった。

 

 そのまっただなかにいるナルは辛うじて回避を続けていたが、レッドキャップのスナイパーキヤノンが直撃し、機体が大きく弾かれた。

 

《ぎゃはっは。とどめだ!》

 

 俺はそうはさせまいとオーバードブーストでレッドキャップに迫りながら2丁のライフルの砲火を集中させる。

 

《邪魔すんな!》俺の接近を察知したレッドキャップが急にこちらへ振り返り、構えたスナイパーキヤノンを至近距離で放つ。それを右にスライドして回避。キヤノンの光条が機体のすぐ脇をかすめた。

 

 同時に、左腕のスナイパーライフルをパージして格納したブレードを装備すると、すれ違いざまにレッドキャップの左腕から肩の武装にわたって斬り飛ばす。

 

 そして、その場に留まらず、戦域を離れたヒラリエスへと向かう。案の定、ヒラリエスはコジマライフルをフルチャージ状態でこちらに向けて構えていた。

 

 いつコジマライフルを撃たれるかもしれない恐怖に背筋が凍る。だが、ヒラリエスと俺を結んだ射線の延長線上には、ナルと戦闘中のレッドキャップがいる。そのコジマライフルをさっきまでのような最大出力で放てば、レッドキャップを巻き込む。それでも撃てるか。俺は加速を続ける。

 

 短時間の間に、熾烈な位置取り合戦が繰り広げられた。ヒラリエスは通常兵器で俺の接近を拒みながら、レッドキャップを射線上から外すように左右へ移動する。しかし、俺もレッドキャップを常に真後ろに捉えるように調整しながら接近する。そして、あとわずかでレーザーブレードの間合いに入る距離まで詰めた。

 

 眼前に捉えたヒラリエスはしゃがみ込み、両腕のコジマライフルの銃口をわずかに上へ逸らせた。水平射撃をあきらめて、近距離から仰角射撃のカウンターに勝機を懸けた。レイレナードのリンクスにしては、思っていた以上に正気の判断だ。功利主義のレイヴンならすでに味方ごと撃っている。

 

 俺が左腕のレーザーブレードを発振させるのと同時に、目の前が真っ白にフラッシュオーバーする。コジマライフルの特徴的な発射音が耳に突き刺さった。

 

 それより刹那早く、俺は機体を仰向けにそらせて姿勢を低める。右足を前に出し、左足大腿部を使って砂の上を滑らせながらヒラリエスの脇へとスライディングして駆け抜ける。機体は激しく振動しているが、被弾はしていない。

 

 一切の視界がきかないなかで、ヒラリエスの真横と思われる位置で左腕のブレードを振るう。プライマルアーマーの反発はなかったが、熱したナイフでバターを切るような手応えがあった。俺はそのままブレードを振り抜く。

 

《お見事・・・。先・・・逝ってい・・・》砲撃の電磁波干渉によるノイズだらけの通信でP.ダムの最期の声が届いた。

 

 コックピットには機体装甲温度上昇のアラートが鳴り響く。視界が回復した。足下には胴体から真っ二つになったヒラリエスが転がっていた。

 

「こちら、アナトリア。ヒラリエス撃破」

 

《ミド・アウリエル。レッドキャップを撃破。しかし、パイロットは脱出ポッドで逃走。次の目標に向かいます》

 

《いや、こちらも終わった。相打ちだがな・・・ミド・・・後は頼む・・・レイヴン・・・世界を・・・》

 

 レオハルトの通信はザッという一瞬のサンドノイズにかき消された。その直後、遠くで大きな爆発がふたつ立て続けに起こった。

 

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