ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Last Duty 〜レイレナード本社襲撃〜

《一般的に、こういうシーンでは、男性であるあなたが先行するのでは?》

 

 オーメルのリンクス、ミド・アウリエルが、俺の常識を疑うかのように訊いていくる。

 

「レディファーストだ。先に行ってくれ」

 

 ミド・アウリエルに背中を見せたくない俺は、適当な理由をつけて先に行くように促す。数ヶ月前のハイダ工場の作戦で、俺はGAの僚機に後ろからいきなり撃たれた。さらに、つい数週間前のBFF本社襲撃では、オーメルが発射したと思われるミサイルの核爆発に巻き込まれるところだった。どうやったら信用などできるというのだ。

 

《___心配せずとも、後ろから撃ったりなどしません》

 

 ミド・アウリエルは強く念を押すが、GA側に組する奴らの言葉が信用に足らないことは、これまでの経験でよく知っていた。今回の共闘も、大方俺の監視か、あわよくば暗殺が裏の目的だろう。

 

「念のため、だ」

 

 そんなやりとりを交わしつつ、レイレナード本社へと侵攻する。レーダーで探知されるのを避けるために、雑木林に身を潜めて2機は進んだ。木々の隙間からは、レイレナード本社施設であるエグザウィルの上端部が望めた。レイレナードの本社は常人には理解できそうにもない奇妙な建築造形をしていた。

 

 

《レイレナード本社へは、24時間前に避難勧告済みです。待避した人間はGA側で受け入れの用意ができています。それでも、一部の強行派が本社防衛のために作戦部隊を展開しているとの情報が入っています。

 

 本作戦は、防衛部隊を突破し、エグザウィル本社施設を支えている11本の支柱を破壊することです。施設外周部の防衛部隊は私が引きつけます。あなたは、その間に支柱を破壊してください》

 

 

 ミド・アウリエルが搭乗するネクスト、ナルの背面を眺めながら通信で作戦内容をきかされた。それと同時に、ナルの武装も確認しておく。

 

 ナルには、レーザーライフルとレーザーブレード、それに散布型のマイクロミサイルが装備されていた。万が一のために、味方機の戦闘能力も把握しておかなければならない。いつ背後から撃たれるかも知れない相手の場合はとくに。

 

 鬱蒼とした雑木林を抜けると、視界が開け湖畔に出た。レイレナード本社エグザウィルは、カナダ北部のグレートスレーブ湖上に建造されている。その姿は湖に浮かぶ巨大な帆船にも見えなくもない。

 

 遠くからだと、幅100mはありそうな巨大な帆が天高くそびえるように見える。そして、数本のロープ地上へ伸び、風を受けて反り返る帆を引っ張っているかのようだ。

 

 望遠でよく見ると、実際は、真っ二つになった高さ300mほどの円錐が45°近くまで傾き、それが倒れるのを外郭5本、内郭6本の細い支柱が支えているようだった。細いといっても全体のスケールが基準であって、支柱の直径は5mを優に越える。

 

 支柱の基部は、反対側に位置する半ドーム状をした背の低い建造物が支持しており、事前の情報では、こちらは施設稼働用の発電所となっているはずだった。

 

 高い方の構造体は、ここからだと薄っぺらく見えるが、厚さは最大で40mほどもあり、工場とオフィスと居住区画、その他諸々の施設が収まっている。収容規模は数万人。建築に関してはからっきしだが、どうやってつくったか、あるいはどんな意図があってつくったかすら想像できない建物を、俺は生まれて初めて目の当たりにした。

 

 周辺の湖面には数隻の護衛艦が浮かび、その上空には結構な数の戦闘ヘリが哨戒のために旋回していた。

 

 本社施設上にも移動砲台が無数に配置されている。虎の子のネクスト部隊を失ったとはいえ、レイレナードは、かなり大規模な部隊を本社周辺に展開させていた。

 

《では、手はず通りに。作戦を開始します》

 

 ミド・アウリエルが先行して湖上に躍り出た。背面から吐き出されるブーストの推力が湖面を揺らす。ナルは右舷に向かって水面を切り裂きながら侵攻した。

 

 ナルの姿を捉えた護衛艦からは、垂直発射ミサイルが白煙を吐き出して打ち上げられ、対空砲の発破音が湖面を細かく振動させた。戦闘ヘリは急旋回し、いきなり現れた敵機に機首を向けて機銃とロケット砲を打ち込んだ。さきほどまで穏やかだった湖面には盛大に爆炎と水柱が上がる。

 

 防衛部隊の砲火がナルに集中しはじめたのを確認してから、こちらも動き出す。

 

《これが最後の戦いになるわ。気を引き締めていきましょう》

 

 俺の主治医であり、保護者でもあり、これまで慣れないオペレーターを務めてきたフィオナが俺を鼓舞する

 

「了解。こちらも出る。オペレーティングを頼む」フィオナに作戦開始を伝えてから、一直線に巨大なエグザウィル施設へと機体を進めた。

 

《10時方向、ヘリ、1》

 

 俺は10時方向の戦闘ヘリのコックピットを狙って照準を絞る。ライフル弾はヘリのコックピットを貫き、制御を失った戦闘ヘリは錐揉みしながら湖面へ落下した。

 

《12時方向、施設上、砲台3。射程に入ったわ》

 

 遠距離からの敵砲撃を避けつつ、こちらの射程まで素早く接近して砲台を的確に撃ち抜いていく。

 

《砲台沈黙。10時と2時にエグザウィル支柱》

 

 支柱めがけて発射したミサイルは、真っ直ぐに支柱へと向かう。着弾すると爆炎が上がり、支柱は倒壊しながら瓦礫をまき散らした。もう1本の支柱はライフルを斉射して破壊する。しかし、2本支えを失ってもエグザウィルはびくともしない。俺は、次の支柱へ向かって機体を加速させる。

 

 

《レイヴン! コジマ粒子反応確認。ネクストよ!》

 

 フィオナが警告を発した直後、エグザウィル内部から、行く手を阻むようにネクスト3機が躍り出し、三方向から急速に接近した。

 

 そのネクストは、レヴァンティール基地で見たものと同じAIネクストだった。レイレナードらしい流線型の機体。両肩には三角形の可変式スラスターユニットを担いでいる。そして、右腕と一体化したコジマライフルの銃口をこちらに向けた。俺は苦虫を噛みつぶしたような顔で敵機を見据えた。

 

 左腕には高出力のレーザーブレードが備わっているはずだ。唯一違うのは、3機とも頭部がアンバランスなほど鮮やかな赤色で塗装されていることだ。

 

 正面の1機から通信が入る。

 

《よお、死に損ない。それに、オーメルのお嬢ちゃん。ぶっ殺したい奴が雁首揃えてノコノコ来てくれるとはな。ぎゃっはっは。俺はついてるぜ》

 

 その声と、その特徴的な笑い方には聞き覚えがあった。先の旧ピースシティの戦闘で逃走したアンシール(No.15)だ。自機を失って、機体を乗り換えたか。その一方で、俺は相手が人格移転型AIではないことに安堵した。

 

 続いて、左手にいる敵機から通信が入る。

 

《前の戦闘では、よくも左腕を斬り飛ばしてくれたな。おかげで、お嬢ちゃんごときに惨敗だ。恥さらしもいいところだぜ。ぎゃは》

 

 さらに右手にいる敵機からも通信。

 

《だが、恨んじゃいねぇよ。むしろ感謝してるぜ。おかげで俺は、最強の力を手に入れたんだからよぉ。ぎゃっはっは》

 

 3機にアンシールが搭乗しているはずはない。___まさか人格移転型AIのコピーなのか。

 

 

《察しのとおり、俺はAIに転移した。この身体は最高だぜ。痛みも恐怖も感じない。いくら加速しようが、減速しようが身体は屁とも感じない。おまけに考えるだけでなんでもできるし、今までわからなかったことが一瞬で理解できる。この力があれば、アンジェやベルリオーズが生きていたとしても、目じゃねぇ。俺がNo.1だ。

 

 だから、テメェがしようとしていることも瞬時に予測できるぜ》

 

 

 両脇の2機が右腕から光弾を放ち、こちらが不意打ちで放とうとした両肩のミサイルポッドだけを狙撃した。ミサイルポッドは破壊され、内部の弾頭が誘爆を起こす。俺は、すぐさま後退して爆発に飲み込まれるのをなんとか避けた。

 

《ぎゃっはっは。つまり、テメェはいつでも殺せるってことだ。せいぜい足掻いて、もがき苦しめ。ぎゃっはっはっはっはっは》

 

 3機は笑いを発しながら、右腕に構えたコジマライフルの砲身を展開しコジマ粒子砲のチャージを開始する。3機の笑い声が重なって通信機から発せられる。やかましいうえに鬱陶しい。

 

 青く光るコジマ粒子が砲身に収束していき、砲口の輝きが徐々に増していく。さらに輝度が上がると白色光に変化した。

 

「フィオナ!」《もうやってる!》

 

 目の前が瞬く。フィオナが気をきかせて、高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)をすでに遠隔操作で準備していた。機体との神経接続レベル上昇プロセスが完了すると同時に、アンシールの機体からコジマ粒子砲が放たれる。

 

 アンシールが構える砲口の向きと、機体にトリガーを引がせる人差し指の初動を察知し、俺はタイミングよく機体を急降下させた。わずかに時間差がつけられ、照準が修正されたが、俺はその軌道とタイミングを予測し、三方向から放たれたコジマ粒子砲を微妙な速度の緩急と機体のひねりを加えて、すべて回避する。

 

 同時にライフルを射かけて反撃した。自機の着弾予測時間と、敵機の機動予測地点が一致する箇所に向けてライフルを撃ち込むも、敵機はそれをも見切っているかのように最小限の動きで弾丸をかわす。

 

 そして、お返しとばかりに、威力が低められた無数のコジマ粒子弾が雨のように降ってくる。俺はそれらを回避しながら遮蔽物のあるエグザウィルの巨大な傘の下へと機体を待避させた。

 

 3機の砲口から無数に放たれる光弾を的確に回避しながらも、ライフルを射かけてエグザウィルの支柱1本を破壊する。俺はレヴァンティール基地で戦った人格移転型AIネクストとの戦闘を思い返していた。

 

 人格移転型AIは、人間を遥かに凌駕する判断能力と反応速度を備え、重力加速度を無視できる機動力と恐ろしいほど正確な機体制御能力を併せ持っている。

 

 タイラント・モスの人格移転型AIには、ギリギリのせめぎ合いの末に勝てたのだ。こちらの機体の戦闘能力は以前よりも増してはいるものの、3機相手に勝つのは容易ではない。

 

 こちらが有利な点は、ハワードが仕上げてくれたコジマフロート関節のスピードだけだ。接近戦に持ち込み、1機づつ仕留めるしかない。果たして最後まで高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)の脳負荷に耐えられるだろうか。

 

 1機がこちらの進行方向に先回りして、待ちかまえるように左腕のコジマブレードを振り上げていた。振り下ろされた長大なレーザーブレードを、俺は左腕のブレードを発振させて受けると、同極のプラズマ同士が反発し、発せられたスパークを間に、お互いが後方へと弾かれた。

 

 そのとき、後方からもう1機が、ブレードを構えて接近するのを知覚した。後方モニターを呼び出し一瞬だけ目視で確認すると、レーザーブレードを構えた左腕を、肩口を軸に高速回転させながら迫ってくるのが見えた。人間ならば肩がちぎれている動きだ。AIの思考は人間の身体構造に依存しないことも思い出した。

 

 前面の敵機は、黄色い光を発するレーザーブレードを上段に構えて再び迫る。敵機が振り下ろすブレードを、俺は再度左腕のブレードで受ける。

 

 同時に、俺は機体の向きを変えないまま、役立たずの右腕ライフルを後方から迫るもう1機に向けて放り投げる。空いた右腕には格納式レーザーブレードを装備し、すぐさま振りはらって、正面の敵機の左足を大腿部から斬り落すことに成功した。

 

 背後に放り投げたライフルは、回転ノコギリのように肩を回して迫る敵機のレーザーブレードに両断されるが、内部に残った弾薬が誘爆を起こし暴発する。それと同時に黒煙が上がった。

 

 その目くらましにあった敵機は猛然と直進する。俺は同士討ちを狙って機体を側方に待避させた。

 

 2機が交錯した。墜落するヘリコプターのローターのごとく無造作にレーザーブレードを振り回しながら迫る1機を、もう1機は辛うじて回避したようだが右腕のコジマライフルが切り落とされた。さらに2機はその勢いのまま衝突する。

 

《テメェ、ボサっとすんな!》

 

《テメェこそ、どこ見てやがる!》

 

 アンシールは、自分と同一人物に対して怒鳴り散らし、罵り合う。

 

 そのスキに、俺はエグザウィルの支柱2本をレーザーブレードで両断する。あと6本。それを見咎めた3機目のアンシールがライフルを射かけてきて、それ以上の目標破壊は中断させられた。11本中5本の支柱を失ったエグザウィルは、自重で居住区画の構造体をわずかにきしませ、辺り一帯に重々しい轟音を響かせる。

 

《テメェら、いい加減にしやがれ! 3機がかりで仕留めるぞ》

 

 3機がレーザーブレードを発振させて、三方向から同時に肉薄する。

三方から繰り出されるブレードを、俺は両腕二刀のブレードを駆使してなんとか捌く。未来予測処理の負荷が激しく脳を圧迫する。頭のなかでは盛大に神経細胞が弾け飛んでいくのがはっきりとわかった。

 

 こちらのブレードは時折敵機をかすめ、装甲を溶解させてダメージを与えるが致命傷には至らない。縦横無尽に振り回される3機のレーザーブレードは、こちらの機体装甲を焼き、あるいは斬り飛ばし、装甲断片やらスタビライザーやらアンテナやらが宙を舞った。少しでも気を抜けば一瞬で戦闘不能に陥り、苦しむまもなく斬り殺されるだろう。

 

 4機から放たれるブースト炎の曳光が絡み合い複雑な軌跡を描く。振り回される5条のレーザー光が煌めき、プラズマ刃が重なる度に青白いスパークが無数に瞬いた。その様は、端から見れば複雑な造形の花火のように見えるに違いない。湖面にも反射し、それはさぞかし幻想的な光景だろう。

 

 俺の機体の関節部は、さらに青白い輝きを増していた。俺がまだ生きていられるのは、肩と肘、股と膝の主要関節が、コジマ粒子でフローティングされた特殊関節に換装されているおかげだ。

 

 この関節はプライマルアーマーと同じく、ブレードで打ち合った関節部の衝撃を吸収して光に変換する。そして、一般的なネクストの関節よりも摺動抵抗が少ないため素早い反応で動き、その際の負荷も光として発散させた。つまり光の輝度変化は関節部への負荷量を示す。

 

 市販のネクストでは、これほどの打ち合いは想定されていない。打ち合いの末に、敵の1機が左腕の動きを鈍らせる。負荷が蓄積し、関節強度が低下した結果だ。

 

 左肘を壊した1機は素早い判断で後退すると、右腕と一体化したコジマ粒子砲を構えてチャージを開始する。砲口の輝度が上がり、エネルギー充填が臨界にまで達するとすぐさま、青白い光条が放たれた。

 

 切り結ぶ2機は直前まで回避せずブレードを振るい続ける。おかげでこちらの回避も遅らされる。放たれた砲撃は、身のひねりも加えて辛うじて避けたものの、コックピット装甲のわずか手前を超高温の光の奔流が駆け抜けた。機体装甲温度上昇のアラートがコックピットにけたたましく鳴り響く。

 

 それと同時に、機体全体に軽い振動が響いた。敵機の1機が背後に回りこみ、俺の機体を羽交い締めにしていた。

 

《よし、よくやったぞ俺!》砲撃をしたアンシールは、自分と同一人物のファインプレーに対して賛辞を贈る。

 

《手こずらせやがって。テメェは、本当に人間か? おい、お前ら。オーメルのお嬢ちゃんを生きたまま連れてこい》

 

 俺を羽交い締めにしているアンシールがぼやく。そして、ほかの2機に指示を与える。

 

「どうするつもりだ」俺はアンシールの人格移転型AIに問う。

 

《テメェらの公開処刑だ。ぎゃっはっはっはっは》

 

 残りの2機がミド・アウリエルの鹵獲(ろかく)に向かう。背後にいるアンシールの笑い声は、機体の接触回線を通じて、より大きく、より鬱陶しくコックピット内に響いた。そして、俺を羽交い締めにしたまま、エグザウィルの発電区画内にあるドックへ向かって移動する。

 

《おい、暴れんな。ネクスト同士の腕力差なんてほとんど無ぇんだ。もがいたところで、振りほどけやしねぇ》

 

 ならばと、俺はオーバードブーストを機動させる。背面のハッチはなんとか展開して、奥まった位置にある特殊推進装置にコジマ粒子が収束していく。

 

 オーバードブーストはネクストの大質量を1000km/hオーバーまで加速させるほどのすさまじいエネルギーを放出する。密着状態でその噴射炎を浴びればネクストとはいえどただでは済まない。

 

 機体の背面でコジマ粒子が臨界に達しようとした瞬間、急にOBシステムがダウンした。集まっていたコジマ粒子の光は消え失せ、背面ハッチも自動的に閉じられた。

 

「なんだ、どうなっている」

 

《オーバードブーストのシステムシークエンスが外部信号で強制中断。なによこれ。ただの故障じゃない》

 

 フィオナの慌てた声と、原因究明のためキーボードを叩き続ける音が通信機から漏れる。

 

《だから、暴れんなって言ってるだろう。俺は意志をもったプログラムだぜ。データの接続さえできる場所なら、セキュリティをかいくぐって、どこへでも侵入できる。さすがに機体の全制御を奪うことはできないが、一部の機能をハッキングするくらいなら朝飯前だ。おう来たな》

 

 視界には2機のアンシールに両腕を捕まれたナルが、無抵抗のまま発電区画ドックに連れてこられる様子が映し出された。

 

 エグザウィルの低い方は半ドーム状になっていて、壁際に大規模な発電設備が並び、その手前には倉庫らしき建物が乱立している。さらにその手前は着艦ドッグになっていて、港湾埠頭のようにコンクリート敷の平坦な空間が広がっていた。

 

 俺とミド・アウリエルはドッグ上へ運び込まれた。俺は依然として羽交い締めされたままだ。ミド・アウリエルのナルはコンクリートの上に仰向けに寝かされ、その上にアンシールの機体が馬乗りになって身動きがとれないように脚と肩を押さえつけられていた。

 

 片足を俺に切り落とされ、相打ちで右腕のコジマ粒子砲を肩から失った3機目のアンシールが声高らかに叫ぶ。

 

《これよりぃ、処刑を開始するぅ。ぎゃは。まずは余興を見せてやる。やれ》

 

 その指示が飛ぶと同時に、通信から聞こえるミド・アウリエルの悲鳴が耳をつんざく。いや、悲鳴というよりは絶叫だ。あの気丈な娘がこれほど取り乱すとは、一体何をされている。

 

 

《さっきも言ったとおり、俺たち人格移転型AIは機体の一部機能をハッキングすることができる。そして、ハッキングできるのは、機体の動きだけじゃない。神経接続で操作するネクストなら、そのフィードバック回路を利用してパイロットの脳に直接ハッキングを仕掛けることもできるんだぜ。

 

 フィードバック回路に疑似情報を流すことで、パイロットの神経伝達物質を思い通りにコントロールできる。苦痛はもちろん、恐怖を与えたり、闘争心を奪ったり、最っ高に気持ちよぉくすることもできるんだぜ。ぎゃっはっはっは》

 

 

 ミド・アウリエルの叫び声が呼吸のため一瞬途切れる。そして再び絶叫をあげる。それは数分間続いてから不意に止まった。

 

《ぎゃ、気を失ったか。それか、ぶっ壊れちまったかもしれねぇな。ぎゃっは。さて、ようやくメインディッシュだ。テメェはこれで串刺しにしてやる。男の喘ぎ声なんざ聞きたくねぇからな》

 

 処刑執行人気取りのアンシールは、左腕のレーザーブレードを発振させ、羽交い締めされて身動きとれない俺へとその切っ先を向ける。

 

《最期に言い残すことはあるか。命乞いならきいてやらなくもない。結局殺すがな。ぎゃは。10秒だけ時間をやる。その間にオペレーターとの別れをせいぜい悲しめ。ぎゃっはっはっはっは》

 

 俺はアンシールの配慮に感謝して、フィオナに通信を入れる。

 

「フィオナ。あれを使う」

 

《あれを使ったら、動けなくなるのよ!》

 

「だが、もう打てる手立てはあれしかない」

 

《___わかった。もし、いざとなったら、私がこの輸送機で駆けつけるわ》

 

「気持ちはありがたいが、それだけはやめてくれ。この戦いが終われば、戦争は終わる。傭兵は廃業だ。どちらにせよ、(レイヴン)は用済みだろう」

 

レイヴン(あなた)が用済みだなんて思ってないわよ。みんな待ってる。必ず、生きてアナトリアに戻りましょう。セーフティ解除確認》

 

「了解___」

 

 

《10秒だ。あばよ。死に損ない》

 

 アンシールは俺のコックピットを貫こうと、片足を蹴りレーザブレードを突き出したまま機体を加速させた。

 

 俺は、ハワードとフィオナがこの機体に与えてくれた、もうひとつの特殊機能を起動させる。

 

 その瞬間、機体各部に備わったフィン状のプライマルアーマー整波装置と肩・肘・股・膝が眩しいほどの光を発した。その光は一瞬で膨張し、膨大な熱量と衝撃波を伴って全周囲に向けて発散される。地面のコンクリートは波紋が広がるかのようにえぐられ、あるいは溶けながら四方八方へ散った。

 

 眼前まで迫っていたブレードを構えたアンシールは、装甲表面を焼かれ、体積の小さな手足はその熱量に耐えきれずに溶解して吹き飛ぶ。羽交い締めをしていた背後のアンシールも同様だ。

 

 膨大なエネルギーは、少し離れた位置にいたナルと、その上にいたアンシールをも飲み込み吹き飛ばす。さらにその余波はエグザウィルの発電施設ドームを半壊させ、残りのエグザウィル支柱をもすべて薙ぎ倒した。

 

 後に残ったのは、辛うじて残ったわずかなドーム外壁と、表面のコンクリートが削られ荒れただれたドックの地面だけだった。周辺にかかっていた雲は吹き飛び、太陽が顔を出した。湖面にはさざ波が起こり、陽光を反射させてきらきらと輝いていた。

 

 ネクストの生成するコジマ粒子の圧縮率を極限までに高め、無理矢理解放した結果がこれだ。フィオナの父であるイェルネフェルト教授が生前に考案したアイデアを未完成のまま組み込んだのが、この機体の奥の手(リーサルウェポン)だった。

 

 目の前にそびえるエグザウィル本社は、支柱をすべて失い、自重によって崩壊し始めた。世界の終わりを告げるかのような轟音を響かせながら、湖面に残骸を振りまいて幾つもの水柱をたて続ける。

 

 視界モニターは明度が落ちて外界を正確に視認できない。通信機や生命維持機能は内蔵バッテリーに残った電力でなんとか稼働しているが、肝心の機体は、ジェネレーターが完全に破損して動かすことができなかった。俺はフィオナに通信を入れる。

 

「こちらレイヴン。任務完了した」

 

《機体は!?》

 

「動かない」

 

《すぐに回収に向かうわ! 輸送機を飛ばして!!》フィオナが輸送機のパイロットに向けて叫ぶ。そのあと一段小さく「無茶いわんでください」とパイロットの困る声が聞こえた。

 

「フィオナ。辺りはエグザウィルの崩壊が始まっていて、残骸が降り注いでいる。輸送機で近づくのは危険だ。これでいいんだ。俺は、アナトリアに拾われたときに、すでに死んでいたんだ。やるべきことはもう果たした。これ以上、この身体で生きたいとは思わない」

 

《あなたが良くても、私が良くない》

 

 こんなにわがままを言う娘であることを、いまになって初めて知った。早くに両親を亡くしながらも、技術者として、医師として、コロニー代表の一員として、ずっと気を張り続けていたのだろう。

 

 だが、これからは傭兵は不要だ。どんな形にせよ戦争は終わった。俺がアナトリアにいることで、余計な戦乱に巻き込むことにもなりかねない。これでいいんだ。「わかってくれ、フィオナ」

 

 通信機からは、鼻をすする音と喉をひきつらせる音が漏れる。

 

 

《ぎゃひ。感動的なシーンに水をさして悪いが、まだ終わっちゃいないぜ》

 

 特徴的な笑い声が通信機から飛び込み、神経を逆撫でする。

 

 不鮮明になった視界には、機体装甲をドロドロに溶かして原型をとどめていないAIネクストの機体が映った。そして、ゆっくりと俺の眼前までくると、右腕のコジマ粒子砲をコックピットに突きつける。

 

《まさか、ここまでこっぴどくやられるとは思わなかったぜ。死に損ないが。死に腐れ》

 

 レーザーの発射音が響く。

 

 眼前に光が瞬き、アンシールが横向きに倒れ込んだ。

 

 視線を脇に向けると、ミド・アウリエルのナルがライフルを構えて立っていた。ナルはブーストを吹かして接近すると、左腕のブレードを振るってアンシールの頭を潰す。アンシールの機体はそれきり動かなくなった。

 

《任務完了です、が》ミド・アウリエルが言う。

 

 だが、レーザーブレードは発振させたままだ。

 

 ナルが俺に近づいてくる。

 

《動けないのですね》

 

 ミド・アウリエルが、こちらの状態を確認する。

 

 俺は答えない。

 

 ナルの背後では、くの字に折れ曲がりかけたエグザウィル本社がいっそう激しく構造体の残骸をまき散らしていた。そして、いまにもこちらに倒れてきそうだった。

 

 激しく変化する環境とは対象的に、俺とナルがいる空間は、数秒間だけ時間が止まったように感じた。

 

 不意にナルはレーザーブレードを収める。そして、背後に回り俺の機体の脇に腕を絡めてブースターを吹かした。

 

《ここは危険です。離脱しましょう》

 

 ナルがブースターの出力を上げると、俺の機体はわずかに浮き上がる。ナルに備わったブースターの推力は十分とはいえないが、なんとか俺の機体を抱えたまま、湖に沈むことなく移動できそうだった。

 

 湖面に俺を引きずりながら、ミド・アウリエルが語りかけてくる。

 

《上からは、あなたの撃破命令を受けていました。けれど、私はその命令を無視します。あなたは、ローゼンタールの白騎士レオハルトが認めた人間だから。私は、あの人の気持ちを無駄にしたくありません》

 

 ミド・アウリエルは抑揚のない声で俺にそう伝えた。

 

 俺は無言で聞く。そういえば、この娘は、この作戦開始時になんと言っていただろうか。やはり信用するべき相手ではない。

 

 だが、今はこの娘の言葉と行動を信用するしかない。幸か不幸か、また生き残ってしまいそうだ。

 

 俺は、機体の残りわずかな電力を使って通信を開き、フィオナに無事であることを伝えた。

 

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