ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
巨大企業が画策した世界規模のクーデター「国家解体戦争」によって、それまでのほぼすべてのレイヴンがネクストに倒された。生き残ったレイヴンは公式上では存在しないことになっている。長きにわたって続いたレイヴンという仕組みは、新しい時代の波に飲み込まれ消えさった。
俺は唯一生き残ったレイヴンではあるものの、もはや需要も、仕事を斡旋する団体も存在しない世界ではレイヴンという存在にはなんの価値もない。レイヴンは死んだのだ。完全に。
世界は企業連合を母体とする新たな統治によって、完全社会主義制度に切り替わった。資源を再分配し、誰もが平等に富を持ち、差別がなく公平に暮らせる理想世界。しかし、現実には企業がトップに座る王権制度と違いはなかった。
国家解体戦争の勝者である、GA、レイレナード、ローゼンタール、BFF、インテリオル・ユニオン、イクバールの6つの企業連合が、かつての国家と大企業、中間上位に位置した裕福層からすべての富を押収。一般市民に分け与えるかわりに、6企業が労働力のすべてを吸い上げる完全管理のもとに日々の生活を送る。
人々の暮らしは貧富の差こそ少なくなったものの、実質的には企業連合による奴隷社会であった。
人々の暮らしは、わずかな自由の代償として、企業に労働力を支払い、死んでゆくだけ。出生すら管理され、人間そのものが企業のいち商品として成り果てていた。
徹底した資源管理・利益還元は目新しいものではなく、旧世紀から何度も試みては失敗してきた社会制度のひとつだ。
パックス・エコノミカと呼ばれる、企業による新たな統治は、テクノロジーの進歩が可能にした世界改革の一手ではあるものの、コンピュータの計算処理能力向上によるあらゆる管理コストの低減と、たった26機のネクストによるローコストな大量破壊兵器によってそれが可能になっただけなのだ。
結局のところ、国家解体戦争によって世界人口がかつての1/3にまで減少したために管理できているだけにすぎない。
国家解体戦争は、国家支配による資本主義が限界をむかえた末、この星の進むべき道を案ずる者たちによる革命であったともいえる。未来永劫人類が生き残るための、痛みをともなう進化と呼べるのかもしれない。
しかし、その答えを出すには人類はまだ未熟すぎたようだ。
世界に君臨した6企業間での資源を巡る利権競争は絶えることがなく、それはテロリズムを用いた代理戦争という形で横行している。大きすぎる代償を払ってまで姿を変えた世界はいまだ混迷の時代にあった。
行く宛のない俺はコロニー・アナトリアのフィオナ・イェルネフェルトと、代表指導者であるエミール・グスタフの計らいでアナトリアにとどまり、ネクストの慣熟訓練を続けている。
コロニー・アナトリアは企業の恩恵を受けづらい地方コロニーであっても、ネクストの操縦システムであるAMS技術開発を産業基盤として繁栄していた。
しかし、それはフィオナの父であるイェルネフェルト教授が生きている間まで。教授が亡き後は、技術と人員が流出。基幹産業の優位性を失ったアナトリアは衰退の一途をたどり、なんとかコロニーを維持しているのが現状だった。
その打開策として、エミールは俺を使ってネクストを運用し、傭兵稼業を画策している。元レイヴンなら傭兵はおあつらえむきだ。ただし、こちらとしては義理を背負って戦うのは本意ではないが、立場上仕方がない。
最初のシミュレーションは散々な結果だったが、肉体の神経回路を直接機体に接続するAMSを制御に用いるネクストは、まさしく俺の身体になった。しかし、正規のリンクスであれば、自分の手足のように動かせるであろうネクストは、AMSの適正の低い俺にとって夢のなかで身体を動かしているようなものだ。
意志と機体の動きがリンクしない。体の動きを、赤ん坊に戻ってもう一度練習しなおしている感覚に近い。わずかに機動しただけで、とてつもない疲労感に襲われる。
その動きをモニターしているフィオナにいわせれば、木偶の人形のほうがまだましだそうだ。コロニーを指導する立場にあるエミールは、俺にはなにも言わないが、内心は気が気でないだろう。
それでも、シミュレーションを重ねるごとに搭乗していられる時間を少しづつ延ばし、確実にネクストに慣れていった。
正直なところ、エミールがどう思おうと、アナトリアがどうなろうと知ったことではない。俺がネクストに乗るのは、一重にあのとき対峙したネクストと対等の力がほしいと願うからだ。
操縦技術を磨き、判断力を養い、戦術を練り、武器を整え目的を達成する。そうやっていままで傭兵として生きてきた。そうしなければ生きられなかった。
しかし、幾多の戦場をレイヴンとして生きぬいててきた俺であっても、この世界ではまったくの無力だ。俺がこの世界を生きるにはネクストを乗りこなすしか道はない。