ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
「痛っ」
引きずった左足が廊下の段差に引っかかって、私は転びそうになる。とっさに壁に寄りかかって身体を支えた。そのまま壁を背にして一息つく。
左足膝から下が熱を帯びてズキズキと痛む。その場に座り込みたい気分だったが、一度座ったら立ち上がれないような気がした。自由のきかなくなった私の左足は、幸い骨折はしていないようだけれど、痛み以外の感覚がほとんどなくなっていた。
身体も言うことをきかない。でも急がなきゃ。早くアナトリアの通信室にたどり着いて、シェルターに避難しているコロニーの人々の安否確認を。そして、外であれと戦っているレイヴンのサポートを。
ラインアークからの帰路、炎上するアナトリアを目前にして私たちを乗せた輸送機は所属不明のネクストから事前勧告もなしに撃たれた。レイヴンがネクストの推力で輸送機の進路を強引に変えなければ、捻挫どころではすまなかっただろう。
所属不明の機体は、あくまで所属先が不明なだけで、私はあの機体を知っていた。プロトタイプネクスト。最初のネクスト。父が造ったネクストだ。開発コードは『00ーARETHA』。搭乗しているのは恐らくジョシュアだろう。
自分たちで造ったネクストに、自分たちのコロニーが滅ぼされる。おまけにパイロットがアナトリア出身だとは、なんとも皮肉なものだ。
とはいえ、
このシナリオを描いた人物は脚本家の才能がある。是非とも一度会ってみたいものだ。そして、そいつの頬を思いっきりひっぱたいてやりたいわ。
それにしても、あれはヤバい。さらに人格移転型AIとの組み合わせは最悪だ。
あれは可能な限り巨大なジェネレーターと、可能な限り強力なブースターと武装を備えた、できる限りのものをすべて詰め込んだ機体だ。
コックピットは十全なコジマ汚染対策が施されているが、それでもなおパイロットの身体を蝕む。AMSが要求するパイロットへの精神負荷量は現在運用されているネクストの比ではない。すべてのネクストは、あれを元にして安全に運用できるように調整されたデチューン版に過ぎない。
あれの設計をした父はパイロットではない。パイロットのことなど興味もないし、考えてもいない。ただ、できるから造っただけだ。それはつまり、人間ではあの機体の性能を引き出すことはできないということだ。同時に、人間のパイロットが搭乗することが、00ーARETHAの性能リミッターであり弱点だった。
けれど、重力加速度もコジマ汚染も精神負荷も無視できるAIが動かすあれに弱点は存在しない。レイヴンでも勝つことができるかどうか。
それでも、できる限りのことをしなくてはならない。まずは落ち着いて、周りをよく観察する。そして打開策を考える。そうよねレイヴン。
汗で額に張り付いた髪を指で払い、壁に片手を突きながら右足を踏み出す。もうすぐだ。もうすぐ通信室に着く。
◇ ◇ ◇
プロトタイプネクストの圧倒的な戦力差の前に、俺は打開策をみいだせないでいた。人格移転型AIであるジョシュアは重力加速度を無視した非常識的な運動性能を発揮し、こちらを翻弄する。
奴の動きを読んで射撃をするも命中率は依然として低い。命中しても厚い装甲とプライマルアーマーに阻まれダメージはほとんど通らない。それに対して、奴の主武装である右腕のガトリングガンは、確実にこちらの機体にダメージを刻んでいく。機体の損傷状態を示すダメージモニタリングはレッド表示が除々に拡大していった。
このまま戦闘が長引けば確実に撃破される。得意な接近戦に持ち込もうにも、圧縮コジマ粒子を解放する全方位攻撃のカウンターが懸念されるため迂闊に近づくこともできない。
おまけに、ジョシュアの後には、オーメルの天才と呼ばれるセロが駆る
撤退の判断も頭をよぎった。現在の機体損傷なら、なんとかジョシュアとセロの追撃を振り切ることも可能だろう。
フィオナには内緒だが、ラインアークには俺の身柄の受け入れを頼んでいた。俺がここを離れれば、アナトリアを危険にさらさないですむと踏んでの決断だ。亡命および身体の医療的補助と引き替えに、防衛戦力を提供するという条件を、ラインアークは前向きにとらえてくれていた。
こうなる前に事を運びたかったが、
瀕死の俺を受け入れてくれたエミールの顔が頭をよぎる。機体のメンテナンスを一手に引き受けてくれたハワードやメカニックたちの顔が。「ありがとう」と言って花をくれた無垢な少女の顔が。俺の主治医であり、オペレーターであり、今は怪我を押してアナトリアの通信室に向かったフィオナの顔が頭をよぎる。
___今は、逃げるわけにはいかない。それがレイヴンとしてどれだけ非合理的な判断だとしてもだ。
空間を圧縮したかのように飛び回るプロトタイプネクストをとらえるべく、俺は神経を集中させて狙い撃つ。役に立たないロックオンシステムはオフに切り替え、奴の動きを読み、感覚だけで照準を引き絞る。
目が慣れてきたせいか、最初に比べて奴の動きに追従できるような気がする。もしくは、奴の機体がこの戦闘で消耗してきているのかもしれない。あれだけの重量をあの速度で機動させれば、機体全体にかかる負荷量は桁違いだ。少なくとも稼動部のアクチュエーターやベアリングには相当な負荷がかかるはずだ。
プロトタイプは所詮プロトタイプだ。兵器として洗練されていない。一般兵器なら、蓄積したデータによって改良され信頼性が向上していくものだが、プロトタイプにはそれがない。設計上では十分な強度を確保していたとしても、多くのイレギュラーが存在する戦闘行為は決してシミュレーション通りにいくものではない。
ましてや、操縦しているのは人間のパイロット以上の能力をもつ
こちらの120mm弾が、奴の胴部に命中する。続いて放った弾丸は脚部装甲で弾けた。しかし、射撃が当たるようになっても決定打は与えられない。奴の機体消耗が進んだとしても、彼我の戦闘能力は大きな隔たりがあった。
瞬間移動のような動きを可能にするクイックブースト。大出力のコジマリアクターが発生する強力なプライマルアーマーと巨体を包む堅牢な装甲版。速射性に優れる右腕の大型ガトリングガンと、左腕の長大なコジマ粒子砲。それに、機体周囲にクレーターをつくるほど強力なコジマ粒子圧縮波が接近を拒む。
不意にコジマ粒子濃度の上昇を検知し、奴の機体が瞬く。攻勢に回って接近しすぎたか。俺はすぐさま機体を後退させた。
その直後、膨大な熱を伴った光が弾け、衝撃波が円周状に広がる。波打つように大地がえぐられ、溶けかかった岩石もろとも大量の土砂を巻き上げた。爆風が俺の機体を襲い激しく揺さぶられる。モニターの遮光フィルターが解除された後の目に飛び込んできたのは直径200mほどの巨大なクレーターだった。
自分の機体にも同じ物が搭載されているが、改めてその破壊力を目の当たりにして背筋が凍る。だが、動揺している暇はない。すぐさま奴に向かってライフルを撃ち込むべく機体を突進させる。
奴は後退しながら射撃を避け、左腕のガトリングガンで迎撃した。その動きを確認した俺は、漠然と思い描いていた戦法が通用することを確信する。
俺は射撃を加えながら奴に追いすがる。あの攻撃の直後は蓄えられたコジマ粒子を使い果たしプライマルアーマーが無効化する。ダメージを与えるなら今がチャンスだ。
とはいえ、相変わらず射撃はいとも簡単に避けられる。だが、それでかまわない。これは奴に再びコジマ粒子圧縮波を使わせるための演技だからだ。連続使用ができない、あの攻撃直後のスキをつくための。
こちらの接近を拒むべく、再び奴の機体が光を発する。先の攻撃発動から20秒が経過していた。俺は予期していたように後退し、衝撃波に備える。そしてタイミングを見計らってオーバードブーストを起動した。
太陽光に匹敵するほどの光が半球状に広がり、辺り一帯が吹き飛ぶ。光がピークに達したところで、発動準備の整ったオーバードブーストが機体を急加速させ、俺は光の中に猛然と突入した。
瞬時に音速に達するほどの加速で起こる空気圧縮熱と、圧縮コジマ粒子解放時の熱量が加わって、機体前面装甲に備わったサーモセンサーはすぐさま温度異常を訴える。装甲温度アラートがうなりを上げて警告を発した。激しい振動が機体を揺さぶった。しかし俺はかまわず光の中心にいるプロトタイプネクストに向かって、左腕のレーザーブレードを振るうべく突き進む。
圧縮コジマ粒子を解放し終えて、視界を覆う光が薄れる。奴が回避しようとわずかに動いたようだが、必死に機体を操ってレーザーブレードを振るう。手応えがあった。俺の左腕から発せられる数万℃ものプラズマ刃は、すれ違いざまに奴の右肘を両断することに成功した。
さらに俺は、ライフルの追撃を加えるために旋回して向き直る。突如として右腕と大型ガトリングガンを失った奴の巨体は、機体の急激な重量バランス変化によって左に傾いだ。
こちらが放った数発の弾丸が奴の装甲で弾けたが、それでも、それ以上の攻撃は再びクイックブーストを使用した瞬間移動のような機動で回避される。
しかし、飛びすさった奴の動きは相変わらず速いものの、どこか不規則で、どこに飛んでいくか予測できない不安定感があった。奴が失った5連装の大型ガトリングガンだけでもネクストの1/3ほどの質量がある。操縦性に影響しないわけがない。
だが、その乱れた挙動はすぐさま収束し、重量物を捨て去った奴の動きは以前よりも鋭さが増したようにも思えた。奴はこの一瞬で、右腕と武装を失った重量変化に対応できるように、ブースターや運動制御系のパラメーターを再調整したのだろう。そんな人間のように柔軟かつ人間離れした芸当ができるのも人格をもったAIの特異点だ。
ライフルを放つが、左に回避される。追従しようとそちらに照準を向けると、奴はすでにこちらの右手にいた。あわてて後退しようとした時には、プロトタイプネクストの巨体が視界いっぱいに広がって接近を許した。
衝撃と轟音が俺を襲う。奴は爆発的な瞬発力と膨大な質量を武器に用いて、こちらに体当たりを仕掛けた。
20G以上の加速をともなった巨体に衝突され、俺は正体を失う。機体制御もままならないままビリヤード球のように跳ね飛ばされた俺の機体は、大きく地面を滑って岩山に背中をもたれる形で止まった。
気絶しなかっただけ儲けものか。だが、衝撃をまともに受けた俺は脳しんとうを起こして、動こうにも身体が一切言うことをきかない。視神経だけはカメラが送る信号を受信し続け正確に外界を視認できている。
目の前に立つプロトタイプネクストは、左腕の長大なコジマ粒子砲を地面に打ち据えて砲身を固定し、二股の砲口をこちらに向ける。その発射態勢だけで、これから繰り出される攻撃の威力がどれほどか想像に難くない。両端にスパークが幾重にも走り、砲口近くが輝きを放って除々にその輝度を増していく。
俺は必死で機体を動かそうと意識するも、身体はそれを受け入れない。肉体を持った人間である以上、生理現象に逆らうことはできない。これまでなんどか人格移転型AIを退けてきたものの、人間とは根本的に性質の異なるAIという存在の戦闘能力に改めて戦慄する。
現存する兵器は、すべて人間の使用を前提にして造られている。もし、AIの性能を100%発揮できる機体が生み出されたなら、人間は一切の対抗手段を失うだろう。
ジョシュアが構えたコジマ粒子砲の先端が、エネルギー臨界に達したことを示す白色光を放つ。俺は思わず目を閉じる。目を閉じたつもりでも脳視覚野と直結したネクストの視覚システムは、眼前に広がる救いようがない光景を強制的に見せ続けた。
《ジョシュアァァァ!テメェの親父の代わりにオシメを変えてやった恩を忘れたか。このハナタレ坊主!アナトリアをなめるんじゃねぇ!》
突如、アナトリアの技師長ハワードの怒声が通信機から響いた。同時にジョシュアの乗るプロトタイプネクストの周囲でグレネードが着弾したような幾重もの爆発が起こる。
俺はなにごとかと、辛うじて動く目だけで遠距離砲撃の発射元を望む。巨大な4足歩行の大型兵器がアナトリアの市街地を守るように鎮座し、機首に備わったグレネードキヤノンの砲口から発射煙を立ち上らせている様子が目に飛び込んだ。
それは、以前マグリブ解放戦線のアナトリア襲撃を退けた際に接収したGAE製の
あのとき俺に破壊された機体後端部は、ツギハギだらけの補修が加えられ、失った後ろ足の代わりにAC用のタンク脚部が無理矢理取り付けられていた。それは応急処置としか言いようがない、いかにも不格好な代物だ。
《次弾装填。照準合わせ》《エイッサー》とハワードとメカニックたちが機内でやりとりする声が聞こえた。
ボロボロの
《こちらフィオナ。レイヴン、無事!? アナトリアの通信室にやっと到着したわ。アナトリアのみんなはシェルターに避難している。ケガ人はたくさんいるけれど、全員命に別状はないわ》
続いてフィオナからの通信が飛び込む。脳しんとうの影響で発声できないため、無事である事は伝えられなかったが、機体のモニタリングデータが向こうとリンクできていればこちらの状態は把握できるだろう。
そして、アナトリアの被害報告に驚いた。死人がゼロとは奇跡的だ。それとも意図的なものなのか。違和感を覚えたものの、ひとまず頭の隅に追いやり目の前の事に集中する。ハワードとフィオナのおかげで脳しんとうから回復する時間が稼げた。まだ動くことはできないが除々に回復するはずだ。
グレネードの爆炎が晴れた後には、依然としてプロトタイプネクストが立っていた。ただし、発射臨界に達する寸前だったコジマ粒子砲の砲口は俺でなく、
俺は撃たせまいとして、言うことのきかない右腕を持ち上げようとする。腕がわずかに動く。なんとかライフルは構えることができたものの、銃口が震えて上手く狙いが定まらない。
《ハワード、逃げて!》とフィオナの叫びが通信機から響く。
コジマ粒子砲の先端に再び白光が灯る。高威力のコジマ粒子砲の反動を支えるために、腰を下ろし踏ん張る構えをとるプロトタイプネクストは股関節の装甲がめくれあがり、左脚部のアクチュエーターが露出する。あそこを狙えれば、重量バランスの狂った奴は、自重を支えられなくなるはずだ。
俺は構えたライフルが震えないように右腕を保持しようと力を込める。だが生理的な震えはそう簡単に収まるものではない。それでもわずかなチャンスを掴み取るために、必死で生理現象にあらがい右腕を繰る。
着弾予測箇所がフラフラと揺れる。筋肉の一本一本を正確に動かすような感覚をもって、腕の位置をコンマミリ単位で微調整を加えながら保持し続ける。
システムが提示する着弾予測と、勘による狙いが一致した瞬間に、確信をもって仮想トリガーを静かに引く。同時に奴のコジマ粒子砲も再臨界に達し高輝度の光が瞬く。脚部関節に狙撃を受け、奴の機体がわずかに傾いたものの、コジマ粒子砲は独特の発射音を響かせて放たれた。
放たれたコジマ粒子ビームは、わずかに照準を逸らし、
「ハワード、無事か」と、俺は脳しんとうから回復しつつある身体で問う。「大丈夫だ。儂等は脱出する。あとは頼むぞレイヴン」といつも通りの大きな声で答えが返ってきた。
砲撃の放射熱を砲身から熱気を立ち上らせて発散しているプロトタイプネクストは、被弾した左足をかばうような動きでこちらへゆっくりと振り向く。
《やはり、君は私の期待通りの仕事をしてくれる》
ジョシュアが語る、その言葉の意図を問いただそうとした矢先、《ただの独り言だ》と付け加えられる。《そろそろ、決着をつけようか》とも。
プロトタイプネクストは相変わらす素早い動きでこちらを翻弄する。しかし、着地してからの俊敏性は明らかに低下していた。左脚部のダメージが大きいのだろう。そのタイミングを狙って俺はライフルを射かける。左腕部のコジマ粒子砲には光が灯り、エネルギーチャージが進行している様子が伺えた。
俺は一定距離を保ちつつ、射線から逃れるように機動した。コジマ粒子圧縮波を破ったとしても、あれが依然として恐ろしい攻撃であることに変わりはない。それに、またあのタックルを喰らうのは願い下げだ。こちらが優位に立ったいま、あえて近接戦闘を仕掛ける理由はみつからない。安全な距離を保って狙撃を慣行する。
それでも奴の高機動に着いていけずに時折姿を見失う。3度目に奴の姿をロストしたときに、左腕のコジマ粒子砲が撃たれた。
超高温の光の奔流が俺の機体脇を駆ける。あの巨体をもってしても、支えなくしては強力なコジマ粒子砲の反動は御しきれないようで砲撃はこちら当たらない。しかし、奴が左腕を薙ぐとコジマ粒子の光束も追従してこちらに迫った。
命中率の低さをブレードのように振るうことでカバーするか。俺は機体を急降下させて巨大なレーザーブレードのように薙払われた射撃を避ける。奴はそのまま左腕を頭上に振り上げ、さらに俺の回避先めがけて振り下ろす。
まるで巨大な光の柱が倒れ込んでくるかのようだ。俺はクイックブーストの平行移動で脇に跳び、遙か上空から迫り来る唐竹割りを辛くも避けた。天上から振り下ろされた破壊の光は大地をえぐり、コロニー近くにあった崖山を真っ二つに切り裂いた。
あの崖の上にはオーメルのセロが陣取っていたはずだ。まさかあれでやられるような奴とは思えないが、巻き添えを喰らっていてくれればいいと淡い期待を抱く。
コジマ粒子砲の発射後の防御力低下と硬直のスキを狙って、俺はプロトタイプネクストにライフルを射かける。1発目。命中。2発目。命中。3発目が命中したところで、奴の左脚部が負荷に耐えきれず膝をついた。
それでもなお移動しようとクイックブーストで強引に機動した結果、ジョシュアのプロトタイプネクストは姿勢を維持できずに高速度を保ったまま地面を転がる。土煙が地上を数百mに渡って一直線に駆け、そのまま奴は一時動きを止めた。
遅れて機体を起きあがらせるも左脚部以外の四肢の動きも鈍く、これ以上戦闘ができる状態とは思えなかった。
《終わりか___だが、これでいい》ジョシュアが通信でつぶやく。
俺はライフルの照準に奴を捕らえながら、地面にしゃがみこんだままのプロトタイプネクストに一歩づつ近づく。もちろんコジマ粒子圧縮波の射程外で足を止めた。
《レイヴン。君に弾を一発貸していたのを覚えているか》
マグリブ解放戦線の英雄アマジーグとの戦闘の後のことだ。ジョシュアに横やりを入れられた俺は、ジョシュアのホワイト・グリントに殴りかかり、返り討ちにあって撃たれた。射撃は外されたが、ジョシュアはそれを『貸し』だと言っていた。
《いまここで返してくれないか。
そう言ってカメラアイを点灯させたジョシュアは、AIの根幹をなすチップが搭載されているであろう頭部への銃撃で、トドメを刺してくれと懇願する。
《君が意外と情に厚い人間だということを私は知っている。だが迷うな。私は
俺はライフルの照準を引き絞り、胴体に埋め込まれた形をした奴の頭部カメラに銃口を向ける。
何がきっかけでこうなったのだろうな。ラインアークで潜水艇を撃ち漏らした時か。レイレナードを潰した時か。BFFを潰した時か。ネクストに乗った時か。国家解体戦争に身を投じた時か。レイヴンになった時か。思い返せばキリがない。
迷った時は『俺は
俺は引き金を引いた。
100mほどの距離から放った120mmのライフル弾は、プロトタイプネクストのアイカメラに弾痕を穿ち、とたんにそこから火花が噴き出す。
《許しは乞わん。恨めよ》とジョシュアは言った。
頭部からひとしきり火花をまき散らしたあとには、一筋の黒煙が立ち上った。
《___敵機、沈黙》フィオナが思い出したように、震えた声で言葉にする。そしてさらに付け加える。
《敵ネクスト。オーメルの
細身の機体が、遠方からゆっくりとこちらに迫る。そして場の空気を壊すように、パイロットから通信が届いた。
《存外、人格移転型AIとはいえそんなものか。