ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
《所属不明機に告ぐ。この空域は許可なく飛行することが禁止されている。速やかに反転せよ。従わない場合は即時撃墜する》
ここよりはるか眼下、紺碧の地中海に浮かぶキプロス島の航空基地からスクランブル発進した2機の
警告を受けたとしても、この状況下で反転するのは正直難しい。現在こちらはネクストの後方に備え付けられたロケットエンジン式の強襲用ブースターの大推力によってマッハ2で飛行中だ。ネクストの推力では微修正程度の方向転換しかできないし、無理に方向転換をしようものならバランスを崩して墜落する危険がある。そもそも反転する気などさらさらない。
それよりも、こういう状況下ではどう返答したらよいものか思い悩む。「こちら反転の意志なし」と意図を明確に伝えるべきだろうか。それだと、相手を小馬鹿にしているような印象を与えかねない。ならばむしろ「おとといきやがれ」と罵声の一つでも浴びせるほうがまだスマートだ。
アクション映画などではいきなり銃火機をぶっ放すのがお決まりだが、相手が無人機とはいえ、それはあまりにも悪役じみているため二の足を踏んでしまう。折衷案として嘘のひとつでも並べてみるのもいいかもしれない。
「こちら
《ふざけるな! そんなコードは発行されていない。火器セーフティロック解除。これより撃墜行動に移る》
「ふざけてなどいない。こちらは大真面目だ」
こちらは真面目にオーメルの施設を襲撃し、人質を奪還するつもりだ。そんなことを知る由もない
ミサイルを回避すべく、着弾タイミングを読んで左にクイックブーストで移動しながら機体をロールオーバーさせると、すぐ脇をミサイル弾頭が高周波のジェット音と風切音を上げて通過する。ターゲットを見失った2機のミサイルはどこへ向かうか悩んだあげく明後日の方向へ飛んでいった。
さて、次の選択肢は戦闘機を撃墜するか、このまま逃げるかの判断だ。目的地のイスラエルはもう目前だ。どちらを選んでもよいのだけれど、せっかくだからこの事態を見越してハワードが取り付けてくれた武装を試してみようか。
肩武装をアクティブにすると両肩に備わった6本のトゲ付き装甲板のような装置が背面に向く。機体位置の微調整を済ませ、トリガー信号を送るとトゲの先端から両肩左右合計12発の弾丸が後方の広範囲に向けて発射された。
それに驚いた後方の2機は緊急回避を取るも、放った散弾が機体表面に数カ所の風穴を穿ち、そこからたちまち黒煙が吹き出す。制空監視の
この武器はイクバール謹製の
進路上には、霞がかかって不明瞭ながら砂と岩で赤茶けて見えるイスラエルの地が見えてきた。海岸線から程なく陸地に入ったところには中心都市エルサレムが佇み、そのさらに奥には陽光を反射させてエメラルドグリーンに輝く死海の湖面が南北に広がっている。
今回の作戦名は『Appointment With Death』と名付けることにしよう。アガサ・クリスティの名探偵ポアロシリーズ『死との約束』の原作タイトルであり、映画化タイトルは『死海殺人事件』。イスラエルにあるオーメル施設襲撃と人質救出、そして彼らとの約束を果たすための最後の作戦名にピッタリだ。目的を果たすためなら喜んで殺人鬼にでもなってやるさ。
もうほどなく目的地上空に到達する。事前に入手した情報では、人質はエルサレムにあるオーメル本社ではなく、その手前の海岸沿いに位置するパルマヒム空軍基地に捕らえられているようだ。基地の滑走路を捉えると、そこへめがけて機首を下げ、降下準備に入る。
今日も気分がいい。景気付けに、お気に入りのBGMをかけようか。この作戦が成功すれば、リンクス戦争に真の幕が下りる。そのフィナーレにふさわしい曲をセレクトしよう。
『Thinker』を再生させるために、ネットワークライブラリにアクセス。少し間をおいて、ギターの静かなアルペジオをバックにイントロコーラスが始まる。シンバルが鳴る。ピアノがコードを刻む。可変調子。ドラムが8ビートで打ち鳴らされる。特徴的なギターリフが8小節に渡って続いた後に、ようやくボーカルがレトリックを吐き出す。
”I'm a thinker.
I could break it down.
I'm a shooter.A drastic baby.”
私は平和のために模索する
ようやく愛する人たちを救う方法をみつけた
私がこの引き金を引きさえすれば すべてが上手くいく
”Agitate and jump out.
Feel it in the will.
Can you talk about deep-sea with me.”
だから今日の私は容赦がない
せいぜい覚悟しろ
さっさと人質の居場所を教えるのが身のためだ
”The deep-sea fish loves you forever.
All are as your thinking over.
Out of space, When someone waits there.
Sound of jet, They played for out.”
おお 囚われの姫君よ
あなたが望むのなら 私は地獄からでも蘇る
あなたが待ってくれているなら 音よりも速く駆けつける
さあ 救出作戦開始だ
イルミネーションのような光が海岸線に沿って流れるように瞬いた。私は機体を緊急回避させる。直後、機体周囲に青紫色をした高エネルギーの火球が花火のように無数に弾けた。イスラエルの海岸には5km間隔で高出力の高射プラズマビーム砲が設置されている。所属不明機の接近を検知したオーメルは、ビーム砲を一斉に回頭させこちらを迎撃した。
歓迎の花火としては喜べないほどの高出力ビームだ。プライマルアーマーの防御膜で保護されているネクストであっても1発被弾しただけで致命傷となる。しかし、何があろうと進路は変えない。正面突破しかありえない。
機体はさらに速度を上げてパルマヒム空軍基地に向かって降下する。再び青紫の光線と火球が行く手を遮るが、対空砲火のわずかな隙間を見つけては機体をすり抜けさせる。地面がどんどん近づいてくる。
敵の懐ともいえる高射砲の有効射角外に機体を滑り込ませると、使用限界に達した背面の強襲用ブースターを強制パージさせた。すでに基地上空だ。バラバラに分解された強襲用ブースターが空中に散乱し、マッハ2近い慣性速度を保ったまま拡散する。それらの構造体は基地の敷地に突き刺さって、いくつかの滑走路を使用不可能にさせた。
これで始末が厄介な高速戦闘機は簡単に離陸できまい。幸いなことに
落下速度を殺すためにメインブースターを全開にするが速度はなかなか落ちない。その間にもクイックブーストを細かく噴射して、回避のために機体を前後左右へ振って対空砲火の隙間を縫う。同時に両腕のライフルを眼下に構え、着地前に上空からの狙撃を慣行した。
少々降下速度が高過ぎたようだ。ブースターだけでは抑え切れない落下速度を、戦闘ヘリに体当たりしてなんとか着地可能速度にとどめる。脚部が接地した衝撃で足裏のアスファルトが窪む。着地の衝撃はショックアブソーバーが機能して問題なく吸収してくれた。機体に異常はない。
それを確認する間も、ライフルを握った両腕を広げながら敵機を照準にとらえて引き金を引き続けた。惑星運動のように機体を自転させながら周囲の敵機を照準におさめては射抜き、公転運動しながら360°から押し寄せる鉛弾の雨を踊るような複雑な軌道で避ける。
回避できなかった銃弾はプライマルアーマーが威力を低減するが、機体装甲には無数の弾痕が刻まれた。だがそんなことにかまってなどいられない。私はひたすら回避と射撃を続ける。引き金を引き続けた。
通信チャネルを間違えているのか、司令部内の慌てふためく声がこちらにダダ漏れだ。呼び出しのコール音やら足音やらの雑音がそれに混じって鳴り響き、蜂の巣をつついたような様相が伺い知れた。
《施設防衛部隊、残り約半数!》
《アナトリアの傭兵だとッ?》
《リンクス戦争の英雄がなぜ、ここに?》
《GAにネクストの応援要請を出せ!》
《イスタンブールのミド・アウリエルを呼び戻せるか!?》
《無理です。間に合いません!》
《インテリオルは!? ええいどこでもいい、とにかく応援を呼べ!》
《施設防衛部隊、すでに3/4を消失。もう保ちませんッ!》
ネクストの応援は来ない。事前に情報を得て、わざわざ警備が手薄になるタイミングを狙ったのだから。
迎撃部隊はほぼ壊滅状態だ。そろそろ王手をかけようか。弾切れになった左腕のライフルを投げ捨てると格納式ブレードを装備させた。防衛ラインを守備する重ノーマルAC2機を難なく斬り伏せると、私はそのまま指令管制棟のガラス面に超高温のプラズマ刃を振るう。寸止めだが。
通信越しに遅れた悲鳴が響きわたった後、司令部内部はさっきまでの喧噪が嘘のように沈黙した。管制室にいる全員がこちらを見て顔をひきつらせるのを光学カメラが捉えた。ガラス面の一角はレーザーブレードの放射熱を受けて赤熱しながら煙を上げる。私は指令管制塔の通信に割り込んで用件を伝えた。
《こちら
指令管制棟のガラスのいくつかが、プラズマ化した金属粒子の熱量で水飴のように溶解した。司令室のなかで一番威厳がありそうな人物が、部下になにやらジェスチャーを送るのが見えた。
数分後、施設の入り口から見慣れた背格好の女性が歩み出て、こちらを見上げ控えめに手を振る。
日除けのためにかぶったヒジャブが陰になって目元はしっかりと確認できないが、口元には笑みが伺える。彼女に間違いない。
「やあ、助けにきたよ。
◇ ◇ ◇
数ヶ月後___ラインアーク
《こちらホワイト・グリント。オペレーターです。あなたたちはラインアーク主権領域を侵害しています。速やかに退去してください。さもなければ、実力で排除します》
オペレーターがラインアーク領海を侵犯する敵に警告の文言を発する。最初はぎこちなく遠慮がちであったものの、ここ数度の出撃で啖呵を切るのに随分と慣れたようだった。隠れて練習した成果もあるだろう。感情を押し殺したような殺伐とした雰囲気が上手く出せるようになったじゃないか。
ラインアークは、旧インドネシア東部とオーストラリア北部のメラネシアの島々を連絡橋でつなぐ海上都市だ。全周囲が海に面しているため、全方位からの侵略に対して素早く対処できるだけの機動戦力が防衛行動には必須であり、ネクストはラインアークに最適な防衛戦力だった。
領海を侵犯する相手の割合は、物資の強奪を目的とした海賊団が6割。企業に取り入ろうとする武装組織からの攻撃が2割。政治的暴力や圧力、侵略や怨恨がまとめて残り2割を占める。
海賊団やテロリストとはいえACやMTで武装しているため油断はできない。会敵勧告に応じなければ威嚇射撃。それでも撤退しなければ武装を破壊して無力化させる。戦闘による海洋汚染が懸念されるため、戦闘は最小限に抑えるのが海上都市ラインアークでの戦い方だ。
だから防衛には実質的な戦力よりも『ホワイト・グリント』の雷名がもっとも効果的だった。ラインアークを守護するホワイト・グリントの噂がさらに広まれば、小規模の組織はそのうちラインアークに近づきさえしなくなるだろう。
どこの企業にも属さない独立コロニーであるラインアークは、
その備えとしてラインアークには、このホワイト・グリントをはじめとして十分な防衛戦力が配備されている。今回の小規模海賊団も、ちょっとした曲芸飛行を見せつつ、数発の威嚇射撃をしただけで尻尾を巻いて逃げ帰っていった。
《目標、領海内からの撤退を確認。ホワイト・グリント帰投してください》
「了解」
月に一度程度は企業連中が派遣した小部隊との小競り合いになるが、お互いに威嚇射撃をしながらの睨み合いが数十分続いただけで事は終わる。これは「領分を守れ」という企業からのメッセージが込められた牽制であり、このルーチンワークが守られている限り企業が本格的な武力介入をしてくる可能性は低いだろう。
とはいえ、楽観視はできない。企業連中が信用に値しないことはこの身をもって知っている。公にはなっていないが、数ヶ月前にオーメル・サイエンステクノロジーがトルコのアナトリアを襲撃した事件があったばかりなのだから。
企業連合に反逆したコロニー・アナトリアはオーメルによって粛正され甚大な被害を負った。粛正の尖兵として派遣されたアスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンと、オーメル所属のリンクスであるセロは、コロニーへの攻撃に際しアナトリアの傭兵の返り討ちにあって2名とも撃破された。
生き残ったアナトリアの傭兵はオーメル施設へ単身報復攻撃を仕掛け、捕虜を取って現在逃亡中。この件に関するアナトリアの声明は、オーメルへの報復攻撃は傭兵による独断行動でありコロニー・アナトリアは一切関与していないと代表自らが発表している。
現在、リンクス戦争を集結に導いたアナトリアの傭兵は、英雄から一転して世界に仇をなす天敵として認知されている。
まったく、あいかわらず物騒な世の中だ。
《レイ___じゃなかった。これを見て》
オペレーターが深刻な声を発し、機体へドキュメントファイルを転送する。転送されたファイルは
リンクス管理機構
まだ制度の本格運用には至っていないものの、プレリリース中のデータベースでは、登録された各リンクスの情報やそれにまつわるニュースなどが閲覧できた。俺は機体を整備ドックへ向かわせながらオペレーターに言われた通り、転送が終わったドキュメントを視界上に表示させて目を通す。
* * *
発信者:オーメル・サイエンステクノロジー広報部
【特報】テロリスト・アナトリアの傭兵を撃破 GAローディ大尉お手柄!
数ヶ月前にオーメルが管理するパルマヒム空軍基地を襲撃し、捕虜1名と輸送機を奪取して逃亡したアナトリアの傭兵は、追撃の末GAアメリカに所属するローディ大尉によって倒された。オーメルは他企業と連携し、数名のリンクスから成る特命部隊を組織してアナトリアの傭兵の足取りを追っていた。特命部隊は2日前にカザフスタン北部にアナトリアの傭兵の潜伏していることを特定。昨日決行された大規模な掃討作戦の末、GA所属ローディー大尉がアナトリアの傭兵の撃破に成功した。捕虜の身柄は不明。大きな功績を上げたローディ大尉は少佐への昇進が決定している。
以下はローディ大尉のコメント。
『強敵だったが、味方機の援護もあってアナトリアの傭兵の撃破に成功した。パックスのリンクスとして危険分子を野放しにしておくことはできない。今後も世界平和のために尽力したい』
* * *
「___随分早かったな。怪しまれないように、もう少し粘ってくれればよかったものを。気が利かない奴だ。AIのくせに」俺はぼやく。
《でも、これでようやく肩の荷が降りたわね。ジョシュアのおかげで、もう逃げも隠れもしなくてすむわ》オペレーターのフィオナが安堵と哀愁を帯びた調子で言う。
オーメルのセロを倒した後、ジョシュアが我々に提案したのは、いわゆる替え玉作戦だった。
ジョシュアの人格データが格納されたチップがプロトタイプネクストから取り出され、俺が以前使っていた予備機へ移植されたことで、ジョシュアは人質を奪還できるだけの戦力を手に入れるとともに、『アナトリアの傭兵』になりすますことができた。
とはいえ、その作業は言うほど簡単なことではない。人格データを移植するには予備機のシステム周りの大幅な改修が必要だった。ハードウェア周りはハワード達メカニックが担い、起動のためのソフトフェア調整はフィオナが担当した。事前にジョシュアからの綿密な作業指示があったものの、わずかでも手順を間違えればジョシュアの人格が消失してしまう恐れすらあった。
また、ジョシュアが扮するアナトリアの傭兵がオーメルを攻撃すれば、再びアナトリアのコロニーが報復を受けることになる。だからアナトリアは、コロニーの主要財源であるアナトリアの傭兵を切り捨てる必要があった。それに関しては『アナトリアの傭兵によるオーメルへの攻撃は、傭兵の独断でありコロニーは関与していない』と、傭兵家業を立案したエミール自身が進んで公式声明を発表した。
その裏で、コロニーの代表指導者であるエミールはニヤリと笑って俺に言う。「せっかく国家解体戦争で失われそうだった命を助けてやったというのに。恩を仇で返すとはまさにこのことだ。コロニー側としては必死に説得と阻止は試みたが、相手は武装した『リンクス戦争の英雄』だ。我々ではどうしたって彼を止められんよ。いや、参った。参った」と。ふん、こいつも喰えん奴だ。
ジョシュアはオーメル施設を襲撃し、人質を奪還する。諸々の安全が確保された後、アナトリアの傭兵になりすましたジョシュアが撃破されることで、これまで企業が危険視してきたアナトリアの傭兵は、連中の望み通りに死ぬ。そして、死人はもう殺すことができない。
こうして俺は『アナトリアの傭兵』の名前を捨てた。
ラインアークに亡命した現在は、ジョシュアから譲り受けた『ホワイト・グリント2号機』を駆る守備隊の遊撃手だ。同時に、外部からの傭兵としての依頼も募集しており、その報酬もラインアークの貴重な収入財源になっている。
ジョシュアからは奴の名前も譲り受けたが、『ジョシュア・オブライエン』の名前は人目を引くため保安上の事由で名乗れない。とはいえ、レイヴンになった時点で俺の個人情報の類はすべて失われていたし、名前がなくてもとくに不便はない。肩書きが『アナトリアの傭兵』から『ラインアークの傭兵』になっただけだ。結局のところ、何も変わってはいない。
フィオナもアナトリアを出て、俺に着いてきた。というよりは、生身の身体では身動きひとつ取れない俺をフィオナがアナトリアから連れ出したといっていいだろう。
プロトタイプネクストの攻撃とコジマ汚染で存亡が危ぶまれたコロニー・アナトリアだったが、なんとか再興できそうな状態だった。しかし、コロニー管理部はあの一件の責任を負わされる。コロニー創設に携わったイェルネフェルトの名を継ぐフィオナは一人でその全責任を負い、コロニーの全権をエミールに引き渡した。そして、彼女は生まれ育ったコロニーを出た。
こうしてフィオナは『イェルネフェルト』の名前を捨てた。
彼女の名誉のために補足すると、その結果はコロニーが望んだことではない。コロニー内でのイェルネフェルトとフィオナへの信頼は厚く、フィオナがコロニー管理部から退陣することは議会で反対された。多くの住民達も反対した。しかし、フィオナは頑として譲らなかった。退陣はフィオナ自らが進んで決めたことであり、それが彼女の望みであったことを俺は知っている。
いつだったか愚痴をこぼしていたように、イェルネフェルトの名前は彼女にとって大きな重荷になっていたに違いない。名前を捨て、アナトリアを出た彼女は、いつになく晴ればれとした表情をしていた。
視界を覆い尽くす紺碧の空と海の狭間に、陽光に照らされて白く輝く都市群が浮かぶ。ラインアークに乱立するビル群も、島々を繋ぐ連絡橋も、風力発電のプロペラもすべて光触媒作用のある二酸化チタン塗料で塗りたくられて乳白色に輝いていた。
俺は、白壁にぽっかりと開いた整備ドッグの入り口を目指して、ホワイト・グリントを進ませる。
守備隊本部施設の一角のガラス窓から、ラインアーク守備隊長のエリザがこちらを見下ろしている。どうせ、また戦闘の様子を肴に昼間から酒でも呑んでいるのだろう。聞けば彼女もかつてはどこぞの軍部に所属していたらしい。ラインアークは天下り先のようなものだと言っていた。
ラインアーク守備隊は自主組織であって軍隊ではない。厳しい規律などはなく南国特有の明け透けした雰囲気が漂っていて、堅苦しさとも無縁だ。おかげで、こちらも気楽に仕事をさせてもらっている。ラインアークが存続している限りは、このセミリタイヤのような南国生活が続くことだろう。
《___ねぇ、聞こえる? ありがとう》
フィオナが唐突に感謝の言葉を述べる。
礼を言わなければならないのは、むしろこちらの方だというのに。
国家解体戦争で翼を失った
そして彼女は、口うるさい俺の主治医であり、ネクストのシステムメカニックで、業務アシスタント兼戦闘オペレーターで、自分一人では何もできない俺をいつも介抱してくれている保護者であり、これまで一緒に戦ってきたパートナーだ。
「こちらこそ、ありがとう」
俺もフィオナに感謝の言葉を述べた。
___電子音が鳴る。通信の呼び出し音だ。発信者名には『J』とだけ表示されていた。フィオナが通信を受諾すると、ネクストのコックピットにも発信者の声が響く。
《やあ、ごきげんようレイヴン。それにフィオナ。ニュースは見たかな? どうだい、死んで自由になった気分は。献花の代わりに仕事を依頼したいのだけれど、引き受けてくれるかな。ラインアークのホワイト・グリント?》
了
ゲーム本編となる第1部完です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
ここまでのあとがきは任意で読めるように、ブログにて書かせていただきました。
https://calm.akitekuto.com/entry/acsyousetuatogaki