ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Re:Seed A Hostile Earth【easy mode?】

《しっかりして! 誰か! 生きている人は!》

 

 フィオナの悲痛な叫びが通信機から聞こえる。早まった呼吸音。息を呑み喉が鳴る音。それらの生理反応は彼女の心情を表すのに十分だ。残留コジマ粒子による放射能汚染から身を守る防護服を着込んでいるため、それらの音や声はすべてややくぐもって聞こえた。

 

《これから避難シェルターを確認しにいくわ。ああ、何て事。すべて燃えている___アナトリアは、もう、終わりかもしれない》

 

 フィオナは力なく言った。俺はそこで通信を切る。

 

 遠方から望むコロニーアナトリアは、炎と煙に包まれていた。復旧が進んでいた礼拝堂の尖塔は跡形もなく崩れさり、コロニーを囲む古い石壁もいたるところが崩れ去ってた。その内側の至る所から火の手が上がり、満足な消化作業も行われずに燃え盛るままになっている。

 

 黄昏の夕日と燃えさかる炎によって赤黒く染め上げられた地獄を思わせる周囲の光景に、俺は既視感を覚える。とはいえ、こんな光景など別段珍しくもない。いつかどこかの戦場で見た光景を思い出したのだろう。

 

 それにしても予想よりもずいぶんと早い侵攻だったな。企業をまるまる一つ、いや二つ潰した仇なのだから報復は当然か。俺は眼前にいるアナトリアの襲撃者に視線を戻す。

 

 『プロトタイプネクスト』。フィオナはそう言っていた。フィオナの父であるイェルネフェルト教授が完成させた原初のネクストだと。外観はレイレナード製のAALIYAHに似ているが、サイズは一般的なネクストに比べて1.5倍はある。

 

 前後に突き出た両肩には多連装のブースターが備わり、前腕から先には腕部と一体化した規格外の武装が備わる。右腕には5門をひとまとめにしたガトリングガン。左腕は全長近くにまで達するほど巨大なコジマ粒子砲。アナトリアを蹂躙しつくした後のすさまじい熱量が未だ冷めやらず、砲身の周囲は陽炎のようにゆらめいでいた。

 

 搭乗しているのはジョシュア・オブライエン。正確には、その人格をもった人工知能( A I )

 

 ほんの数日前、ラインアーク防衛戦のさなか、ジョシュア・オブライエンのバックアップデータを潜水艇で奪取したのはレイレナード・アクアビットの残党だった。そして、いま俺の目の前にいる巨大なネクストに搭乗しているのはバックアップデータからリブートされた人格移転型AIのジョシュア・オブライエン本人だ。一瞬サンドノイズが混じり、奴から通信が入る。

 

《遅カッタナ。言葉は不要カ?》

 

 俺は違和感を覚える。いつもの飄々とした態度はどうした。それに音声がおかしい。どこか言葉足らずに聞こえるうえ、通信に妙なノイズも乗る。単なる通信機器の故障か。それとも頭がイカれたか(プログラムがバグったか?)。はたまた、奴らに何かされたか。

 

 人格移転型AIの研究を進めていたアクアビットなら何らかの小細工もできるだろう。だがそんなことはどうでもいい。俺は機体に右腕のライフルを構えさせる。

 

 奇声。というより奇怪な電子音を響かせながら、眼前の敵機は両腕の火器を予想以上の俊敏性で構えた。5門のガトリングガンの砲身がそれぞれ回転を始め、重々しい発破音を響かせて無数の弾丸が吐き出される。

 

 射撃の狙いは正確だった。こちらが動こうとする方向に向かって的確に偏差射撃が加えられる。だが高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)でネクストとの神経接続レベルを高めた俺には、奴が放つ弾道が正確に知覚される。細かなクイックブーストの機動で火線の合間を縫いながら奴に接近し、プロトタイプネクストの巨体を照準に収めトリガーを引き絞る。

 

 しかし捉えたと思った瞬間、眼前で光が瞬いた。そして奴が一瞬にして視界から消え失せる。こちらが撃ち放ったライフル弾は、驚くべき速度で飛び去った奴が残したブースト炎を貫くにとどまった。

 

 奴の肩部に備わる10連のブースターノズルから吐き出される膨大な推力が大質量をものともせず巨体を弾き飛ばす。すぐさま回避先へと銃口を向けるも、すでに奴は反対側に飛び去っていた。俺は危険を感じ、とっさにその場からとび去る。そしてすぐさま100mm弾が雨霰のようにさきほどまでいた場所の地面を叩いた。

 

 物理法則を無視したかのようなその強烈な加速に、こちらの火器管制システム(  F C S  )は、追従しきれずに照星が眼前を左右に泳ぐだけだ。

 

 しかも奴はこちらの周囲を左右に高速移動しながら周回するため、レーダーに映る輝点はまるで原子モデルの様相で、位置把握にはまるで役にたたない。相手の初期動作から未来予測をはじき出す高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)すら上回るほどの速度で俺の機体の周囲を縦横無尽に飛び回る。

 

 そして、荒れ狂う暴風雨のごとくまき散らされる無数の弾丸と、火力が絞られたコジマ粒子砲が放たれこちらの機体をかすめる。

 

 動きに惑わされるな。奴の機動パターンを読め。役立たずとなったロックオンシステムはすぐさまオフにし、俺は急速旋回を交えた回避運動をしながら手動照準でライフルの銃口を奴の動きに追従させる。奴の移動先を読んでは捕捉を試みる。

 

 前後左右の4方向へのクイックブーストの機動に、上下動を交えながら交差を繰り返し、フェイントで奴の予測の裏をかく。所詮機械だ。反応が鋭すぎるがゆえに、こちらのフェイクにも過剰ともいえるほど敏感に反応する。とはいえ、相手はアスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンの人格を転写させた人工知能だ。単純なフェイクではさすがに誤魔化しきれない。

 

 それに学習速度も恐ろしく早い。一度見せた機動はすぐさま順応するため同じ手は二度と通じない。正攻法にフェイクを織り交ぜつつ、微妙にタイミングやパターンを変えて揺さぶりをかけてやる。時にはあえて悪手をも選択して動揺を誘う。三次元空間をフルに使った熾烈な位置取り合戦と火線の応酬が繰り広げられる。

 

 機械相手に心理戦か。戦闘中にも関わらず、ふと笑いがこみ上げる。だがそれを無理矢理押し込める。気を抜けばその瞬間にやられてしまうからだ。

 

 奴の戦いぶりは何度か見てきたが、これまでの奴はどこか手を抜いているようだった。だが、今はそういった雰囲気は感じ取れない。確実に目標を破壊すべく、一切の手加減なしに殺しに来ている。依然として奴の機体からは雄叫びのような電子音の咆哮が放たれている。これがジョシュア・オブライエンの本気か。

 

 かつては共闘したこともあったが、成り行き上でのことだ。最初から奴は敵と認識している。こちらも一切の手心を加えるつもりはない。奴をここで確実に破壊すべく、俺は殺意をもって機体を繰る。

 

 だが圧倒的な機動力差は埋めきれない。そのうえ向こうは装甲も厚い。こちらの攻撃はほとんど通っておらず、機体同士が交錯する度に銃弾の損耗と機体の損傷が増えるばかりだ。戦闘を長引かせればこちらが不利になる。

 

 俺の眼前に表示されている機体のダメージモニタリングは徐々にオレンジの箇所が増えていく。残弾数も心許ない。激しい未来予測に脳疲労が蓄積していくのがはっきりとわかる。

 

 中近距離で銃撃の応酬が繰り広げられるなか、不意にガトリングガンの火線が途切れた。奴は目前にいる。俺は考えるより先に前方へのクイックブーストを吹かして間合いを詰め、直近で捉えたプロトタイプネクストに向けて、左腕のレーザーブレードを繰り出す。

 

 間合いに捉えた奴に超高温のプラズマ刃を叩きつけるべく左腕を振るった瞬間、奴の機体の周囲に青緑色コジマの光が宿った。同時にコジマ粒子濃度上昇のアラートが耳をつんざく。

 

 回避だ。奴の機体から距離をとるため、振るったブレードの勢いはそのままに俺は機体を前方へと加速させえた。機体同士が交差する瞬間に膨大な光が瞬いた。そのすさまじいまでの光量は、後方から俺の機体を照らし、前方に自機のくっきりとした影を浮かび上がらせる。

 

 発生した衝撃波は一瞬で機体を追い越し、直後発生した乱気流に飲み込まれ、俺は嵐のなかを舞う木の葉のように無軌道で放り飛ばされる。

 

 ブースターと四肢の制御で必死に機体を操るも、いつの間にか左腕部が動かない。左腕はあの膨大な熱量でブレードごと融解したのだろう。ダメージモニターで確かめるまでもなく、左腕は麻痺したように感覚がなくなっていた。

 

 まともな受け身もとれずに機体は地面に叩きつけられ、俺は激しい衝撃に一瞬意識が飛びそうになる。その間も本能的に思考だけは働いている。

 

 『アサルト・アーマー』といったか。同じものが俺の機体にも組み込まれている。ただし、それは一度使えばコジマリアクターもろともジェネレーターが破損して機体が動かせなくなる諸刃の剣だ。

 

 だが機体を起きあがらせ、視界に捉えた奴の機体はさっきの攻撃で出来上がったクレーターの中心で何事もなかったかのようにこちらへ振り向く。予備のジェネレーターが動いているのか。それとも無制限にあれを放つことができるのか。後者だったとしたら、接近戦に持ち込んで倒すことも難しくなる。

 

 再びライフルを構えるが、射程内に捉えられているのにも関わらず、奴は回避するそぶりさえ見せない。こちらが使うライフルは規格品だ。奴はあの戦闘のさなか、弾数もしっかりと数えていたらしい。俺は弾切れになって鉄屑となったライフルを捨て去り右腕の武器を格納式ブレードに換装する。

 

 奴はクレーターの中央から動かない。残るこちらの獲物は右腕のブレードだけだ。接近しなければ奴を倒せない。どうやら奴の方も弾切れらしい。ジョシュア・オブライエンの思考プログラムが導き出した戦術は、アサルトアーマーでの確実な迎撃戦法のようだ。

 

 しかしあれだけの攻撃だ。どれだけ高出力のジェネレーターを搭載していたとしても連続では撃てまい。破るにはあれを誘発させて、次が放たれる前にブレードでしとめるしかない。やれるか。やるしかない。

 

 一歩ずつ近づく。クレーターの縁を越えさらに近づく。途中で前方へのクイックブーストを繰り出し、それを後方ブーストでキャンセルさせた。しかし、奴はそんなフェイントにも動じない。俺はさらに一歩ずつ近づく。

 

 奴はもう目と鼻の先だ。前方へのクイックブースト一発でブレードの間合いにとらえられる距離。同時に、こちらも完全にアサルトアーマーの射程圏内にいる。しかしそれでも奴に動きはない。発動を限界まで遅らせて確実にしとめるつもりなのだろう。

 

 俺は様子を伺いつつ、ゆっくりと右腕を振りかぶる。そして目の前の奴へ向かって、この至近距離からオーバードブーストを起動させた。

 

 ほんの数秒で背面に収束したエネルギーが収束し、臨界に達する。発動。爆発的な初期加速が機体を蹴り飛ばし、俺はすぐさまブレードを振るう。

 

 しかしそれでも奴はアサルトアーマーを撃たない。超高熱プラズマ刃が当たるか当たらないかのところになって、ようやく奴の機体がコジマの光を帯びる。

 

 俺は一瞬迷う。このまま斬るか、それとも退くか。

 

 わずかな逡巡の末、俺は前方へクイックブーストを併用した加速で再度退避した。再び後方から膨大な熱を伴った光が瞬く。しかし、こちらも同じ轍は踏まない。

 

 左腕を失っていることで機体バランスが右に偏向し通常よりもわずかに旋回速度が速まる。アサルトアーマーの射程外まで一度待避してから、オーバードブーストの速力を維持したままクイックターンによる急速右旋回。俺の機体はブーメランのような軌道を描いてプロトタイプネクストにレーザーブレードを叩き込むべく機体を突進させる。

 

 音速以上の速度を保ったまま、ほぼ180°向きを変えた俺の身体と機体には、恐ろしいほどの重力加速度が加わった。無理な機動に機体が軋みを上げる。バイタルアラートはレッドで身体の血流異常を警告した。だが意識は辛うじてある。視界にはこちらへ向き直ろうとする奴の機体を捉える。

 

 アサルトアーマーは発動できず、奴は再びあの膨大な推力で回避しようとする。右か左か。肩から吹き出す特大の噴射炎に注視し、奴の回避方向先を読みとり、横方向へのクイックブーストで奴の瞬間移動のような動きに追従させるべく機体を繰る。再び強烈な横Gが俺の身体を襲う。

 

 手応えはあった。しかし、朦朧とする意識のなかで振るった渾身のレーザーブレードを、奴は右腕を盾にして防いだ。数万度にも達するプラズマの刃は、五連装のガトリングガンの砲身をまとめてバターのように溶断するが、こちらの腕の振りもわずかに減速させられた。その隙に、奴は巨体に似合わず素早い身のこなしで機体を翻し、残る左腕でこちらを捕まえにかかる。

 

 機体同士が接触する音振が響く。捕まったようで身動きがとれない。奴が奇怪な電子音で吠えた。勝利の雄叫びか。ほざいていろ___。

 

 青緑色の光が弾けた。奴より刹那速く、こちらのアサルトアーマーが発動し、奴が電子音の叫び声を発しながら閃光のなかに飲み込まれる。プロトタイプネクストの巨体がコジマ粒子のβ崩壊時に発する膨大な熱量で端部から徐々に融解しては吹き飛ぶ。

 

 腕部が溶け消え、頭部も脚部もコジマの光に飲み込まれて消え去っていく。青緑色の光が晴れ、後に残ったのは元の輪郭をわずかばかり残したプロトタイプネクストの胴体部(コア)だけだった。

 

 そして案の定、こちらの機体もジェネレーターが破損し、一瞬のアラート音を残してすぐさまシステムがダウンした。もはや機体はどれだけ意識しようとも動かない。だが内蔵バッテリーに残った電力で、視覚と聴覚のAMS接続と生命維持装置と通信機だけは稼働している。せめてフィオナに連絡を、と思ったところで赤黒い空の視界端に映った影に心拍数が上がる。

 

 視界も明度と解像度が極端に低下して外界をはっきりと捉えることも難しいが、捉えた影のかすかな輪郭から航空編隊のようだということが何となくわかった。

 

 敵の増援か。だとしてもこちらは動けない。機体が動かせないのはもちろん、肉体の四肢を失っている俺は、誰かの助けがなければ一人でコックピットから脱出する事すらできない。俺は歯噛みをしながら、打開策を見いだすべく思考を巡らす。

 

 そうこうしている内に、輸送機からネクストと思わしき人型の影が降下した。数は確認できた限り1機。レーダーはもちろん、索敵システム諸々が死んでいるため、それ以外の詳しいことは何一つわからない。

 

 ほどなくして、所属不明機から通信が入った。聴覚野に届いたのは聞き覚えのある女の声だ。それに、近づいてくるあの機体にも見覚えがあった。

 

《あのプロトタイプネクストを単機で倒すとは、さすがですね》

 

 機体の搭乗者が言う。しかし、誉め称える言葉も抑揚が薄い口調のせいか、皮肉にしか聞こえない。女は続けて言った。

 

《それにしても___あなたは、また動けないのですか》

 

 俺は答えない。近づいてくるにつれ突如現れた機体の詳細が伺えた。機体はピンクの百合(ソルボンヌ)色の軽量機。カメラ性能に優れた奇形の頭部を備え、左右にレーザーライフルとレーザーブレードを携えている。声の主はオーメルのリンクス、ミド・アウリエル( No.30 )

 

 元クライアントとはいえ、俺は奴らにも命を狙われている。利用するだけしておいて、危険と判断したら手駒をあっさりと切り捨てる腹黒い連中だ。俺は悪足掻きに機体を繰るべく力を込めるが、やはり機体は一寸たりとも動かない。それに対して、声の主はわざとらしく嘆息してから言う。

 

《安心してください。今日は敵ではありません。それどころか応援に来ました。しかし、どうやら不要のようですので、ふたつめの用件を伝えます。アナトリアの傭兵には、大至急オーメル本社まで出頭願います。これはオーメルからの正式な仕事の依頼です》

 

 告げられた予想外の内容に「あん?」と、俺は思わず声に出す。

 

《同行してきた輸送機には、オーメルの対コジマ汚染に特化した救助班を待機させています。依頼を受諾するのであれば、プロトタイプネクストから受けたアナトリアの被害収拾を援助する用意があります。もちろん、あなたの返答次第ですが》

 

 俺は答えない。俺では答えられない。さしあたり俺は無言のまま、コロニーの代表指導者の一員であり、今は避難シェルターへと住民の安否確認に向かったフィオナへ判断を仰ぐべく通信を繋いだ。

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