ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
「さて、ご存じの通り、レイレナードとアクアビットの残党がとうとうこちらに打って出ました。ジョシュア・オブライエンの人格AIを搭載したプロトタイプネクスト6機による各企業拠点への同時攻撃は各地に少なくない被害をもたらしております。
GAのビッグボックス、オーメルのイスラエル、ローゼンタールのイスタンブール、インテリオルのドニエプルはこれを迎撃、殲滅に成功。多少の被害は出たもののいずれの箇所も現在は沈静化しております。イクバールも撃破には成功したもの重要拠点ひとつを完全に失いました」
モニターの左上に浮かんだ、このオンライン議会のホスト役であるローゼンタール代表ハインリヒ・シュテンベルグが淡々と報告をする。
「アスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンか。とはいえ結局全部
「現在調査中ですが、おそらく我々への報復でしょう。あるいは警告、もしくは宣戦布告かと」ハインが読み上げた資料から目を離さずに答える。
「まさか同盟関係にあったインテリオルとイクバールにも攻撃を仕掛けるとは。全企業を敵に回すつもりかい。奴らは」その右隣に写っていたウォルコット家の宗主であるテレザ・ウォルコットがしわがれた声で忌々しげに感想を述べた。
「とはいえ拠点を潰されたからといって、我々にとって大した痛手にもならん。そんなことは彼らも分かっているだろうに」ブラックドッグがあきれたように言った矢先、何かに気づいたように身を乗り出す。
「ん、おい、ちょっと待て。プロトタイプネクストは6機。攻撃を受けたのはGA、オーメル、ローゼンタール、インテリオルにイクバール___1箇所数が合わないじゃないか」
「もう1箇所はアナトリアですよ」ハインはさも当然のように言った。
「ああ、例の。まあ報復は当然か。彼はどうした?」落ち着きを取り戻したブラックドッグはソファに体重を預けながら尋ねる。わずかな間が空き、私が答えようとする前にハインが答える。
「プロトタイプネクストはアナトリアの傭兵が撃破したものの、コロニーは甚大な被害を負った模様です。ちなみにアナトリアを襲撃した個体も
モニターのなかでハインがこちらに視線を投げかける。「ああ」とだけ私は答えた。
「ふぅん。ここまでは順当だな」ブラックドッグが画面の脇のサイドテーブルからウイスキーグラスを手に取り、一口だけすすってから言う。
「破壊と再生の度合いをコントロールするのが我々の責務だ。緩やかな破壊と、緩やかな再生を理想的なサイクルで繰り返す。その秩序を乱す者は罰さなければならない。そうだな」我々の共通の意志を確認するかのようにブラックドッグが続ける。
ラップトップの画面に映る他の2名と私は、今更確認するまでもないと言わんばかりに無言で応じる。
世界は有史以来たった数人の考えによってコントロールされてきた。古くから国家は企業の傀儡であり、その企業を操るのは出資元である一部の財閥富豪だ。
旧世紀の国家政治の主権者。大企業の代表。表で目立っている者は、皆単なるピエロにすぎない。真の支配者は決して表には出ず、一般人には名前すら知られることはない、それが世の不文律だ。
国家解体戦争だって、実際に事を起こしたのはパックス6企業ではあるが、画策したのは今日この会議に参加している4人と、本日は参加していない2人を加えた、たった6人の意図のもとでだ。
私やハインはパックス企業内で働いている。ステファン・ブラックドッグとテレザ・ウォルコットは自由気ままな隠居生活だ。アイザック博士は現役の物理学者で、叢雲氏は何をしているのかよく分からん。とはいえ、6人全員がパックスに資金援助もしくは何らかの形で参画しているのは確かだ。
もちろん我々とて、世界人口を1/3にまで減らしておいて何も思わん訳ではない。国家解体は必要だったから行われた。戦争を起こさなければ、世界はいずれ破綻していただろう。我々とて、戦争をしたくてしているわけではない。支配したくてしてるわけではない。
だが、目の前の安直な現在を守れば、未来を失う。個を守れば、全を失う。人間社会存続のために連続的で不可逆的な選択肢のなかで、端から見れば非情ともいえる判断を下さねばならない。だから我々は今を殺した。未来のために。
違うのは今やるか、後でやるかだ。そして大抵の場合、対処が遅れるほどリカバリーが難しくなる。だから我々は世界をリセットしたのだ。取り返しがつかなくなる前に。
現在のパックス企業による世界の管理体制はただのシステムで、我々はただの管理人だ。世界は歯車一つ欠けただけで崩壊しかねない。世界とはそれほどまでに不安定なバランスのなかで存続しているものなのだ。
そして、誰かがその汚れ役を引き受けねばならず、放棄すれば世界が潰れる。世界存続の全責任を背負うのだ。そんなことができるのは生粋のマキャベリストか、それともただの身の程知らずか。それこそ神か狂人のどちらかだろう。
我々はたった6人でその重さを、お互いを慰め合いながら、お互いの腹の内をさぐり合いながら背負っていく。とはいえ、このなかの誰かが欠けても問題はない。すでにやるべきことは決まっているし、後継者も育っている。世界はずっとこうして動いてきた。そしてこれからもそうして動いていくだろう。
不意に場違いな赤子の鳴き声がヘッドセットに響きわたり、参加者の注目を集める。そのなか、テレザ・ウォルコットのババアだけが後ろ向きでいた。彼女の背後にはベビーベッドがあって、寝ていた赤ん坊が起きたようだ。
「おぉ、リリウムや、どうしたね」テレザは泣きわめく赤ん坊を抱き上げ、なだめながら我々に紹介するかのように見せつける。「デイブ、あんたの顔が怖いとさ」とも付け加えて。
「はて、貴女の娘かな。とっくの昔に閉経したと思っていたが。ウォルコットの遺伝子操作技術は相変わらず大したものだ」私が冗談混じりに言うと「馬鹿かい。リリウムと言ってね、末っ子の娘さ」とテレザはうれしそうに返す。
「ふむ。初孫ではないだろうが、さしあたり、おめでとうといっておくよ」
私は脇にあったコーヒーカップを手に取り、祝杯の代わりに掲げる。私の音頭に同調したブラックドッグもグラスを掲げ、ハインは黙礼をした。
「アタシには分かるよ。この子は強い子に育つ。リリウムには、いずれアタシの跡を継がせるつもりさ」
ほう。このババアが人を誉めるのは珍しい。こうしてみればただの孝行婆だが、裏で何をしているかは我々であっても正確には知らん。ウォルコットの遺伝子操作技術によるリンクス量産や不老処置などはほんの表の顔でしかない。
ウォルコット家はBFFとレイレナードの最大出資元でもある。アクアビットのえげつない研究の方向性もウォルコットの息がかかっていたことは確かだ。
それに、リンクス戦争の折りにはBFFとレイレナードの同盟関係を黙認していたくせに。今回の騒動だって、裏では一体どこまで関わっているものやら。何にせよ、ババアの猫撫で声なぞ誰も聞きたくない。いや、猫というより狐だな。腹黒古女狐だ。
ようやく赤ん坊が泣きやみ、テレザは声の調子を戻す。
「邪魔をしたね。話を戻そうか。貴奴らは宇宙を目指している。旧レイレナードの過激派。ベルリオーズの意志を継ぐものたち。ORCAといったかい。まさに凶暴なシャチだね」
「レイレナードのNo.1リンクス、ベルリオーズか。死んでもこれだけの影響力を持つとは、一介のリンクスどころか、まるで新興宗教の教祖様だな。奴らとて、事の真相を知らんわけではあるまい。それでもなお、宇宙を欲するか。人間の知的欲求とは恐ろしいものだな。どこかで見切りをつけなければ、身を滅ぼすことは明白であるというのに」
「ORCAの主犯格はベルリオーズの後継者だ。メルツェルという。潜入させているスパイからの情報では、現在はアフリカ東部を拠点として、水面下でなにやら動いている。とにかく宇宙に手を出そうとしているのは確かだ」
「ほう。何か手だてはあるのか? オーメル軍事管理参謀殿」
「残存するリンクス数名で部隊を編成し奴らを潰す。必要とあらばオーメルとインテリオル、それにGAとローゼンタールの残存兵力をかき集めて事態収集に当たるつもりだ」そういいつつ私はハインに目配せをする。
「ええ。彼らがを行動を起こす前に抑えられなかったのは誠に遺憾ですが」
「とはいえ、向こうもまだかなりの手駒は残しているのだろう。旧BFFの親レイレナード派に加え、BFFが所有していたほとんどの艦隊と人員も向こうに渡っている。それに建造中だった巨大兵器も。
とはいえ、イレギュラーが起こったとしても
「あれはオーメルに贈った種だ。なにがあろうと、我々ウォルコット一族とは関係がない___そういう約束だったはずだったね、デイブ」
「そのとおりだ」と私は答える。パックス6企業の本部にはそれぞれの企業が互いにスパイを送り込んでいるのは暗黙の事実。表面上は良好関係に見えても、互いが互いの手の内を探り合っているのが現実だ。「テレザ。王小龍といえば、BFF再興の件は?」
「あぁ、総会で再興させることが決定したよ。義理でも一応、名前くらいは残しておきたいからね。旧体制から接収した人員はそのまま戻す。不足分はGAからの出向の形をとらせるがいいね。ああ、ちなみに今度の
ふん、よく言う。腹黒老女狐が。
「それはさておき、ORCAとの件は予定外の争いであることには違いがない。地上の汚染が予定よりも早まることになる。救済計画も早める必要が出たな。そちらの方の進捗はどうなっている、ハイン」ブラックドッグが話の趣旨を変えた。
「聞きたいのは、ゆりかごの方でしょうか? それとも穴蔵の方でございましょうか?」
「もちろん、ゆりかごの方だ」
「カーパルス地区での大規模無線送電施設アルテリアの建造進捗と、アルテリア・ドライブの稼働テストは順調です。クレイドルのテストプロトタイプは現在も問題なく航行中。まもなく実用段階に入るでしょう。クレイドル第1号機ももうじき組み上がります。第一陣の人員の選別はついておいでで?」
「現在進めているところだ。なかなか空に住みたがる物好きな人間はいないものでな。
「結構です。ちなみに、穴蔵の方は100年計画とは銘打ったものの、とても100年では完成しそうにありません。アイザック博士が提言したB#型最深度採掘施設を拡張した地下都市計画は、現状少々無茶がすぎると言わざるをえませんな。このままでは1000年かかってもできるかどうか」
「あちらはあくまでバックアップだ。クレイドル体制さえ整えば問題はない。目下の懸念事項は旧レイレナード・アクアビットの残党狩りか。最大の不確定要素はアスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンだな。本物の。
「それについては、私にまかせてくれ。アナトリアの彼を当たらせる」ブラックドッグの懸念に私は言葉を挟む。
「元レイヴンとはいえ、信用できるのか」
「手段を問わなければ問題はないだろう。彼とは古い縁でね。もっとも向こうは知らんだろうが」
「いやだねぇ。血生臭いオーメルの暗部が動くのかい」
白々しくぼやくテレザに対して、私はニヤリと笑みを返した。