ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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First Presentation 前編 〜初陣〜

 赤茶けた大地の端っこに、不釣り合いな高層ビル群が立ち並ぶ。しかし、生活感はまったくない。

 

 綺麗に敷き詰められたアスファルト上には風に乗って飛ばされてきた赤い砂がうっすらと積もっていた。整然とした都市の廃墟。それは世界の終わりを象徴するオブジェのようにも見える。

 

 オーストラリア北東部のヨーク半島、カーペンタリア湾に臨む独立計画都市グリフォンは国家解体戦争のあおりを受けて見捨てられた都市だ。パックスのいち代表であるGAアメリカが管轄するいち都市ではあるものの、住む人間がいない現在は、都市全体がテロリストの根城と化していた。

 

 しかし、GAアメリカ内にグリフォンを再興しようとしている動きがあるらしい。その情報を得たエミールは、ここぞとばかりに元レイヴンの俺を使ってパックスおよびGAに対して売り込み営業をかける腹づもりだ。

 

 独立計画都市グリフォンをテロリストから解放。そして、パックスはアナトリアの傭兵を知る。あわよくば継続的な依頼を取り付けようというみえみえの魂胆。おかげで俺はトルコ・アナトリアからオーストラリアまで快適とはいえない長旅をするはめになった。

 

《初出撃の準備はいい? 攻撃目標は敵主力ノーマルAC。それ以外は無視してかまわないわ。プライマルアーマーがあるからといって油断はしないで。あと、ちょっとでもバイタルや脳波に異常がでたら撤退命令を出すから従うように!》

 

 輸送機に吊され、降下準備を待つあいだ、フィオナがオペレーターらしく、早口で作戦内容を確認する。彼女はネクストのシステム技師であり作戦オペレーターを努める。おまけに口うるさい俺の主治医であり保護者でもあった。それに今日はカメラマンの仕事もある。今回の作戦の模様を撮影して、パックスへのプレゼンテーション資料をつくるための。

 

 機体のアイカメラでも記録はしているが、後方に待機した輸送機からの望遠映像も必要なのだそうだ。映像は後日編集してエミールがプレゼンに使う。

 

《あと、目標はなるべくカメラ映えするように撃破してね。作戦内容は以上よ。返事は?》

 

「イエス マァム。そちらも後方とはいえ、どこからか攻撃を受けるかもしれない。安全高度を維持して、周囲にも警戒を怠るな。輸送機が落とされて帰れなくなってはたまらんからな」

 

《イエッサー。了解よ。降下シークエンスを開始します。カウントダウン。5、4、3、2、1、投下》

 

 機体を固定していた油圧シリンダーが抜け、機体が引力にしたがって落下した。高層ビルの間を吹き抜ける砂塵まざりの突風がわずかに機体を揺する。

 

 俺はネクストのコックピットに収まってはいるものの、眼前にモニターディスプレイの類いは存在しない。外界の様子は機体の光学カメラが捉えた映像がパイロットの脳視覚野に直接届けられる。その景色は肉眼で捉えたかのように精細だ。皮膚感覚はフィードバックされないが、ビル風が頬をなでるようなファントムセンス( 疑似感覚 )さえ覚えるほどだ。

 

 視界には機体情報や環境情報、火器管制情報などを表示した半透明のウィンドウがグリフォンのビル街をバックに浮かびあがり、ヘッドアップディスプレイのように機能している。視界には水平器も表示されているが、機体姿勢はジャイロセンサーからも脳へ直接信号伝達されているため平衡感覚はつかみやすい。

 

 脳に届けられる視覚および感覚情報と計器の数値を照らしあわせて姿勢を確認すると、俺は高度計を確認しながら浮かび上がろうと意識する。メインブースターが微弱に噴射されると、落下速度を緩やかにした。

 

 神経接続で操作するネクストは、慣れてしまえば機体自体の制御は生身の肉体を動かすことと変わらない。しかし、人間の肉体には備わらないブースターユニットの制御はそうはいかない。

 

 ブースターノズルが備わる背中と肩と足に翼が生えたかのように意識し、それらを精密に動かす感覚に慣れるには、完全新規の脳神経ネットワークが形成されるまで膨大な訓練と時間が必要だった。

 

 もし鳥人間や天使などというものが実際にいたとしたら、そいつらはこういう感覚で翼を操るのだろうな。と思い、俺はひとりほくそ笑む。翼を失った元レイヴン(ワタリガラス)に、羽が生えるのはおあつらえむきだ。おっと、いまはリンクス(ヤマネコ)だったか。『グリフォン』に降り立ったのが、『翼の生えたヤマネコ』だとは洒落がきいている。

 

 俺は新しく手に入れた翼を羽ばたかせる。そして、鳥が翼で風を捕まえて滑空するような感覚をもって、グリフォン郊外のアスファルト上にアーマードコア・ネクストを静かに着地させた。

 

 同時に火器管制(FCS)を呼び出すように思考をして、両碗と背面に備わった武装をアクティブにする。

 

 

《12方向、敵影。前衛の戦車を確認。数18。その後方、MT、4》オペレーターからの索敵情報が、音声として俺の聴覚野に直接に届けられた。

 

 熱せられたアスファルトの輻射熱で揺らぐ大気の向こうに、陣形を組む敵戦車隊が見えた。それに向かって6割程度の機動で正面突破をかける。

 

 それぞれの戦車が砲塔の照準をあわせ、主砲を一斉制射した。正面から向かってくる無数の砲撃をジャンプしてかわすと同時に、装備を肩部のマイクロミサイルに切り替え、敵陣形中央に向けて発射する。

 

 戦車の対空機銃が花火のように展開され、ミサイルの迎撃を開始する。無数の流れ弾が飛んできたが、機体を包む見えないプライマルアーマーが、それらすべてを無効化した。

 

 機体の一定範囲内に飛び込んできた物体は、弾丸やレーザーのほか衝撃波までが、コジマ粒子のエネルギー位相転換によって、本来持っていたエネルギーの大半を失う。失ったエネルギーは光に変換され、その際だけエネルギーフィールドが可視化でき、機体を丸く包む光の幕が露わになった。

 

 左肩から放たれた、おびただしい数のマイクロミサイルは、機銃に迎撃されながらも縦横無尽に機動しながら熱源を捕らえては食らいつき、地面のアスファルトごと戦車を粉々にした。辺り一面に爆炎と粉塵が巻き上がった。

 

 舞い上がる黒煙を乗り越えるようにブースターで上空をパスしながら、後方に控えるMTに照準をロックすると、ほとんど回避行動がとれないMTのメインエンジンを右腕のライフルで的確に撃ち抜きながら侵攻する。

 

 グリフォンのビル群を抜けた先には、川幅1kmにもおよぶ河川が都市を分断していた。対岸へ向かう地上ルートは巨大な吊り橋のみだが、周辺には戦闘ヘリが無数に哨戒している。突破するにはなかなか骨が折れそうだ。

 

 

 

《対岸にターゲットのノーマルAC6機を確認。内、3機が橋を使って向かってくるわ》

 

「了解。迎撃する」

 

 機体の慣らしは終わった。駆動部のアクチュエーターベアリングが適度に熱を持ち、滑らかに動くようになったのが神経を通して感じられる。

 

 その都度、稼働部の慣らし運転が必要なのはACもネクストも同じだが、神経接続で動かすネクストのそれは、スポーツ選手の準備運動に近い。

 

 ネクストで戦闘機動をおこなうのはこれがはじめてだ。シミュレーションで感じる重力加速度は疑似的なもので、実際のベクトルとは微細なズレがある。実機での完熟訓練もおこなっていはいたが、単独では戦闘機動まで自分を追い込めない。

 

 ここまでのわずかな戦闘で感覚のズレはある程度修正したが、うまく動かせるだろうか。

 

 AC3機が陣形を組んで向かってくる。俺は川岸から離れてやや後退し、ビル街の開けたメインストリートで迎え撃つことにした。

 

 接近する撃破目標をターゲットマーカーが捉える。マーカーに備わる距離計が徐々に数字を小さくしていき、敵機との相対距離を俺に知らせた。

 

 

 ターゲットのノーマルAC、GOPPERT-G3(ゲッペルト・ゲードライ)はインテリオル・ユニオンに所属するアルプレヒト・ドライス( アルドラ )社が新たに開発した汎用ACだ。

 

 ずんぐりしたボディの装甲は厚く、そのうえ機動性も高い。武装のレーザーライフルは出力がさほど高くないが、防衛戦に適した実装甲シールドを装備しており、撃破するのは少々やっかいな相手だ。

 

 国家解体戦争以降、ACはほとんど製造されていない。代わりに台頭したのが、GOPPERT-G3のようなノーマルACと呼ばれるAC規格のMTだ。機体パーツの換装機構をオミットする代わりに、耐久性と機動性を両立しながら生産コストを押さえた汎用機であり、最新のGOPPERT-G3は、データシート上の単純なスペックだけなら、かつて俺が乗っていたACよりも高い性能をもっている。

 

 前衛の戦車といい、大量の戦闘ヘリといい、ノーマルACといい、テロリストが持つには充実しすぎている武装に、その背後で動く組織の影に胸くそが悪くなる。

 

 こちらに向かってくる3機ACに照準を絞りライフルを放つ。敵は右方に1機、左方に2機に散開して回避する。その統率のとれた動きは、そもそも本当にただのテロリストであるのかさえ疑わしい。

 

 俺は右手の1機にライフル射撃をフルオートで集中させながら、左手のレーザーブレードを発振させた。敵が射撃体勢をとる前にクイックブーストを吹かして敵陣をすり抜けるように急接近すると、すれ違いざまに左方先頭の1機をシールドもろとも胴体を溶断し真っ二つにする。

 

 素早くターンして、いともたやすく敵背後をとり、比較的装甲の薄い背面を撃ち抜いてもう1機を撃破する。

 

 残りの1機は後退しながらレーザーライフルを乱射するが、銃口はネクストの動きを捕らえられない。不可視のレーザーを回避しながら追いすがり、ブレードで斬り伏せた。

 

 あとは対岸の3機。再び河川にかかる橋のらんかんまで前進させると、躊躇なくオーバードブーストを起動させた。背面に光が収束し、臨界に達すると12Gもの加速度でネクストを蹴り飛ばす。

 

 本来であれば、強烈な加速で血流が一気に後方にとどまり、視界が暗転するブラックアウトを引き起こすところだが、感覚神経を肉体から遮断されているネクストではそれは起きない。

 

 しかし、実際には体中の血液が後方へ移動しているため、限界を越えればそのまま気絶してしまうだろう。コックピットは耐G構造のうえ、パイロットは強制呼吸器つきの耐Gスーツを着込み、バイタルサインが常にモニタリングされているが、最終的には心臓が血液を送り出す強さがものをいう。

 

 心臓の強さには自信がある。俺は身体機能に任せて、正面突破を試みる。

 

《身体はまだ完治していないのよ! 無茶よ!!》フィオナからの通信が聞こえたが無視した。

 

 テロリストであろうと、自拠点の橋を落としたりはしない。吊り橋のワイヤーが盾になって、戦闘ヘリは攻撃できないはずだ。対岸に到達してしまえば今度は敵ACが盾になる。同士討ちを避けるため、ヘリは攻撃の機会を失う。

 

 どのみちオーバードブーストの加速はヘリでは補足できまい。ネクストが発する加速エネルギーは、高強度ワイヤーによって吊られた巨大な橋を地震か台風時のように波打たせながら俺を対岸へと突き進ませた。

 

 案の定、撃たれることなく橋の突破に成功した。時速1,000km近くを保ったまま前方に射撃をしつつ、迎撃に出てきた手近のACに向けてブレードを振るう。わずかな手応えがあった。

 

 機体をひねりながらオーバードブーストの加速を殺すと、減速Gは体中の血液を進行方向に押しやる。心臓が脈拍を早めるとともに、バイタルアラートが鳴り響き、身体の前側がジンジンとする。急激な血流変化に意識が朦朧としていても、オートバランサーはなんとか姿勢を維持してくれているようだ。

 

 脚部がアスファルトの地面をえぐりながらブレーキをかけ、視界には巻き上げられた黒いアスファルト片と、削れた装甲板が発する赤い火花が跳ねる。切り離された上半身と下半身が吹っ飛びながら爆散するACらしきものも見えた。あと2機。機体がきしみをあげてようやく制止した。

 

 

 足を止めた俺に向かって、ACの1機がビル影からこちらを狙う。もう1機は優れた上昇性能を生かして、頭上から攻撃を仕掛けてきた。それをも上回る上昇性能で機体をジャンプさせる。血液が一気に下半身に落ちていき、同時に2機の放ったレーザーが足下をかすめていった。一瞬めまいがしたが視界はクリアだ。

 

 敵機のはるか頭上から打ち込んだライフルはシールドで防がれた。しかし、着弾の衝撃でバランスを崩した、空中の敵機に向けてブレードを一閃させる。右手と右足を切り落として無力化させると、そのまま落下する自機の重さで地面に叩きつけてやった。

 

 そして、アスファルトにめり込んだ敵機を足蹴にしながら、ビル影にいたもう1機にライフル数発を叩き込み、爆散させた。

 

 

「おまえたちの後ろには誰がいる!?」俺は踏みつけた敵機の頭部かどうかわからないところに向かって銃口を突きつけ、接触回線でACのパイロットに問いただす。

 

《レイヴン! 作戦は終了よ。そんなことを訊いても無意味だわ》

 

 フィオナの言いたいことはわかってはいる。テロ組織の背後にいるのはパックスに所属するいずれかの企業なのは間違いない。この戦闘は監視されているかもしれないし、この発言も盗聴されているのかもしれない。

 

 それでも問わずにはいられなかった。多くの人間が死んだあの戦争で、俺も死にかけた。現在の企業による支配は偽りの平和かもしれないが、俺たちレイヴンは敵側として命をかけて戦ったのだ。

 

 国家解体戦争で倒されたレイヴン達にはなんの義理もない。しかし、無駄死に扱いされるのは腹が立った。なにも変わらないのは我慢がならなかった。

 

 ACパイロットは口を割らない。気絶したか、死んだのかもしれない。

 

《レイヴン……任務完了よ。撤収しま……》フィオナの声が不意にとぎれる。

 

 

《新たに敵影!? 高濃度コジマ粒子反応!これは……ネクスト? 4時の方向! ビルの奥!!》

 

 ビル影の暗がりが、ありえない輝きを発していた。その光が除々に収束するといきなり目の前が真っ白になった。《コジマ粒子が圧縮……レイヴン! 避けて!!》

 

少し遅れて射撃音のような、聞き慣れない音とフィオナの叫び声が聴覚野に突き刺さった。

 

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