ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
部屋の中は一寸先も見えないほど真っ暗だ。しかし、背後で開けっ放しになった扉から入り込む光が、暗闇のなかにさらに黒い物体を浮かび上がらせる。
感覚補助ゴーグルは自動で暗視モードに切り替わる。しかし、そのとたん扉が閉ざされ、辺りは闇に包まれて俺は視界を失う。暗視カメラとはいえ、この低性能のカメラではこれだけの真っ暗闇では役に立たない。
ただ、空気の流れを肌で感じ取り、かなり広大な空間であることは伺えた。直後、照明が点灯し、今度はカメラが光量変化に追従できず視界全体が白飛びした。俺は、またしても視界を失う。目眩がしてバランスを崩しそうになるのを、フィオナが背後から支えてくれた。
「黒い、鳥みたい」
背後でフィオナが言った。俺はまだ視覚を取り戻せない。ようやくカメラの調光が効きはじめると、徐々に光のなかに浮かび上がってくる巨大な物体。その様相に思わず絶句した。
光をすべて吸収するかのような真っ黒な巨大な影。
「大型戦闘機か?」
「いや、コイツは飛行モジュールを外せば人型で運用できる。構造はネクストに近いが、アセンブル機構は備わらないため。強いて言うなら特殊MTといったところか」
デイビットが言うとおり近づいてよく目を凝らすと、翼にあたる部分のその下に鋭利な装甲板に覆われた手足のようなものも見える。既視感を覚える。細部はレイレナードのアリーヤに似ている。プロトタイプネクストにも。
「レイレナード製、それともプロトタイプネクストの発展型か」
「いや、それも違う。プロトタイプネクストやレイレナードの機体がこれに似ているんだ」
「どういうことだ」
いちいち持って回った言い方をするデイビットに俺は苛立つ。
「そのまんまだよ。コイツのほうが、ネクストの原型とされるプロトタイプネクストよりも先に設計された」
これにはフィオナの方が驚いたようで、後背から微かに息を飲む音が聞こえた、
「君らが生まれる前の話だ。国家解体戦争はおろか、アーマードコアが台頭した企業間抗争よりも以前に、激しい宇宙開発競争が繰り広げられていたのは聞いたことがあるだろう。
かつての宇宙主導権争いの際、打ち上げられたのは衛星兵器や質量兵器だけではない。月や火星への有人探査船も幾度となく打ち上げられた。コイツはな、火星から持ち帰った情報を元に構築された機体だ。
言ってしまえば、コジマ粒子の発見も火星からもたらされた成果といえる。探査船が持ち帰った情報を元に、かのコジマ博士が基礎理論をつくり上げ、アイザック博士がコジマリアクターを完成させた。
イェルネフェルト教授がつくったプロトタイプネクストは、火星で手に入れた図面を元に、コジマリアクターとAMS技術に、既存のロボット工学を用いて新規で制作されたものだ。そして現在運用されているアーマードコア・ネクストはそのデチューン版。
コイツは、長年の解析の結果我々がようやく完成させた火星のオリジナルのほうだ。完全再現には程遠いがね」
「はん。火星に人型の機械が? 火星に俺たちと同じ姿格好をしたヒトが住んでいるとでも」
「そうはいうが、君は実際に火星に行って、何もない酸化鉄の砂漠というのを見たことがあるのかね。私も同じく実際にこの目で見たわけではない。しかし、かつて火星に文明が存在したと、まことしやかに言われているのは聞いたことはあるだろう」
「つまり、火星人の遺産ということか。ばかばかしい。タコやら、イカやらの格好をした機体なら、まだ信じたがな」
そこでデイビットは笑う。
「なら問題ない。タコのような足があるのだよ、本来のコイツには。しかし再現はできなかった。代わりに8門の
コックピット周りや動力源も解析不能だったため、操縦システムはネクストと同じAMS制御を用いている。3機のジェネレーターとコジマリアクターで稼働し、出力は一般的なネクストの3倍どころじゃない。推力はプロトタイプネクスト以上。関節部は、君が使っていたネクストと同じようなコジマフロート機構で機敏に動く。
特定空域では、機体からのエネルギー供給を用いずとも外部電力供給で低速飛行可能なアルテリア・ドライブも搭載した。専用のライフルやレーザーブレードもつくってあるから、操作はネクストと同じように動かせるだろう。
ただし、つくっておいてなんだが、こいつは人の手にあまる代物だ。人間離れした君なら動かせると思ってね」
人を化け物みたいに言うな。化け物め。
「そして、この機体の設計図はレイレナードも持っている。それが、なにを意味するかわかるな。向こうにもコイツと同じものがあるということだ。接収したレイレナード施設にも、アクアビット施設にも、これはなかった。おそらくORCAの連中が持ち出したのだろう。
奴らは、それに本物のジョシュア・オブライエンを載せてくるかもしれん。つまり、君がこの機体をまともに動かせるようにならなければ、我々は確実に負けるということだ。君の第一任務はこれの慣熟訓練だ。君には、この数日間でコイツに慣れてもらう」
「断ったら?」
「なに、こうするだけだ」
デイブがゆっくりとした極々自然な振る舞いで、左胸のホルスターから拳銃を抜き取りこちらに向ける。照準はぴたりと俺に眉間に合っている。
「撃ちたければ撃てばいい。困るのはお前たちだ」
「なら、これならどうだ」
デイビットは腕をわずかに持ち上げ、今度は銃口を後ろにいるフィオナに向けた。車椅子のパイプフレームを伝わってフィオナの震えが伝わる。
「手足があったなら、お前を殺しているところだ」
「ふん」と、デイブの親指が微動する。セーフティロックを解除したようだ。
「こんな
「エトランゼ?」デイビットは聞き慣れない単語を言う。
「『イレギュラー』『ドミナント』___時代によって呼び名は違うが、歴史上、殺そうと思っても、どうしてか、なかなか死なない人間がいる。
ジャンヌ・ダルクしかり、ナポレオンしかりだ。神の加護を受けたかのごとく、どんな状況下でも所定の時間まで生き延びる。君もその一人だと私は思っている。敬意と親愛をこめて『
君の力は我々が一番よく認めている。これまでも、これからも。そして、今この瞬間も。エトランゼ」
ふん。どこかで聞いたことがあるような台詞だ。
「君という逸材を生み出せたのなら、レイヴンズ・ネストもあながち捨てたものではなかったと思えるさ」
「不要になったからといって、自分たちで壊しておいてよく言う。お前たちが居なくなれば、この世界は平和になるだろうな」
「戦争はなくなるが、その代わり人類文明は崩壊する。人間は脆弱だ。誰かが先頭に立って、環境を改変しなくては生きていけないようにできている。そういうものだ。
確かに君はこの物語の主人公たる器だ。ただし、その物語を創っているのは我々だということを忘れてもらっては困る。我々は必要があっての組織だ。我々を滅ぼせば世界も滅びる。君がミッションに失敗しても、同じく良い結果にはならないだろう。実のところ、君に選択肢はない」
「かまわないさ。俺は選択をしない主義だ」
「それは依頼を引き受けるという意味と捉えていいのだな。君が仕事をを全うしてくさえすれば、どうするつもりもない。ただ、ここで聞いたことを口外せず、我々へ協力してもらえればそれでいい」
そう言って、デイビットは安堵したかのように、銃を下ろす。
「では、早速乗ってもらおうか。ユーロ圏とユーラシア全土には飛行許可を出してあるから自由に動かして性能を確かめてくれ。調整や必要な物があれば用意する。ああ、それと念のため言っておくが、フィオナ嬢のことは心配するな。仕事に集中しろ」
「銃を突きつけておいて、何をいまさら」
「ただの演出だよ。あのイェルネフェルト教授のご息女だ。君と同じく殺すには惜しい逸材だよ。そういうわけだ。安心して仕事に励んでくれたまえ。エトランゼ。それとも呼ばれ慣れたレイヴンの方がいいかね?」
「くたばれ」
何がおかしいのか、デイビットは苦笑いを浮かべている。ひとしきり笑ってから忠告とばかりに言う。
「ただし、高度1万m以上は上昇するなよ。撃たれるからな」
「何に」
「アサルトセルだ」
デイビットはまたしても聞き慣れない単語を言い放ち、細い目でにやりと笑う。
アサルトセルとは? まったく、そのにやけ面にも、その持って回った言い方にも、いい加減うんざりしてきたよ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回から戦闘シーンが主体となる後半(もしくは中盤)に入る予定ですが、切りのよいこのタイミングで活動報告にて一時あとがき・解説・ご挨拶の筆をとらせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。