ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
「艦橋管制へ。セロだ。出るぞ」
ケニア沖に停泊した輸送船の後方に設えられたドックから、僕はテスタメントを発艦させると、東へ進路をとり、漆黒の海上を真っ直ぐにアフリカの大地へ向けて機体を進ませた。天気は良好だが少し風がある。時折高波も起こる。初めて見るインド洋の波は見慣れた地中海や紅海より荒々しい様相だった。
うねる波がアフリカの青白い月光を乱反射させる。ネクストの基幹操作システムであるAMSは、アイカメラが捕らえたそれらを全て拾っては僕の脳に直接届け、大脳皮質にある視覚中枢と色覚中枢を刺激した。加えて眼下からは、ものすごく大きな存在を感じる。圧迫感といってもいい。はん、母なる海ってか。
僕の感慨はコックピットに鳴り響く電子音によってかき消された。一瞬のサンドノイズの後、通信機からスミカのふてぶてしい声が届く。
《現在は標準時で日付が変わる5分前だ。遅くとも夜明けの3時間前までには戻れよ》
「わかってるよ。何度も言われなくても」
《お前の腕は信頼している。だが、素行だけは信用できん。いいな、作戦通りにやれよ。隣接するソルディオス砲からの砲撃にも注意しろ》
「イエス、サー」
《『サー』じゃない。『マム』だ、馬鹿野郎___》
スミカの怒声を最後まで聞かずに僕は通信を切り、進行方向の波を注視する。テスタメントには匍匐に近い姿勢をとらせて水面スレスレを飛行しているため、大きな波は避ける必要がある。これほどまで低空飛行させるのは、レーダー監視網に引っかからないためと、ソルディオス砲の長距離対空迎撃を避けるための対処だ。
船での道中は、スミカの指導でずっとシミュレーション訓練ばかりだった。とはいえ、戦闘訓練のようなものは装備の確認程度で、あとはひたすら隊列移動やら、陣形の切り替えやらをやらされた。ネクストで
訓練では、ほんの少し位置やタイミングがズレただけでスミカの罵声が飛んだ。あんな訓練が何にどう役に立つのかね。おかげで船酔いしている暇すらなかったのは儲けものだったがな。それでも、操作に違和を感じ取る。シミュレーターから実機に乗り換えたからというだけじゃない。訓練のおかげかビシッというか、シャキッと動くようになった。なんとなく機体を正確に動かせるような。
インテリオルの奴ら、頭数だけは多いからな。普段からこんな事をやらされているのか。どれほど役に立つのかは疑問だが、まあ、悪くはないんじゃないか。
シミュレーター訓練ではスミカから経験不足も指摘された。僕にとっては国家解体戦争が初めての実戦で、それ以降はイスラエル周辺の警備しかやってない。19年しか生きていない僕は、単純な戦歴では他の奴らには敵わない。ま、年の功ってやつだナ。
すでに陸地まであと数キロの距離だ。そろそろ警戒監視網に入る頃だろう。僕は波間にピリリとした触覚を感じ取る。カメラを拡大すると、微弱ではあるものの、海上に赤く光る物体が浮かんでいるのを確認できた。監視ブイだろう。僕はそれを躊躇なくライフルで撃ち抜く。そのとたん、辺り空気が一変する。
周辺に飛び交う微弱なレーダー波や、通信電波らしきものを僕は感じ取る。視覚では捉えられない空中を飛び交う人工電波に乗るデジタルデータ化された言語。そこで何が語られているかは定かではないが。それに乗る発信者の感情だけは色彩と触感のコードとして伝わってくる。
敵襲。そして恐怖と興奮の感情。これが戦場の空気だ。程なくして、目視で確認できるほどまで接近した海岸から砲撃が始まった。もう波を避ける必要はない。僕は機体をわずかに上昇させ、左右に振って砲撃を回避しながら正面突破を試みる。
作戦とはいっても、なんら難しい事じゃない。フェルミの侵攻ルートを確保するために周辺のソルディオス砲網に穴を開ける。ひとり頭1基づつ。そのために、まず僕が先行して敵の注意を引きつける。
僕に割り当てられた
ふん、やらせてもらうさ。機体制御システムはすでに戦闘モードに切り替えてある。砲撃の合間を縫って上陸に成功すると、浜からあがった所にいた数機のMTやらノーマルACやらをライフルで撃ち抜いてく。侵攻速度は緩めず、やけに大きく見えるアフリカの三日月に照らされて輪郭が浮かび上がったソルディオス砲塔へ真っ直ぐに向かった。
迎撃に出てきた敵機はまばらだ。ろくに隊列も組んでいない。奇襲は成功。ただし、間もなく隣接する部隊が応援に駆けつけるだろう。ネクストも出てくるかもしれない。先にソルディオス砲を破壊しておくのが得策だ。
僕は低い高度を保ったまま、さらに侵攻する。上に回避できないのは面倒だが、ノーマルACやMT相手なら何ら問題はない。砲塔周りの守備部隊はすでに壊滅状態に陥っていた。
ソルディオスの丸い砲塔の中央に青緑色のぬめったものが存在感を強めていく。チャージ中であることが伺えるソルディオス砲を射程にとらえると、僕は背面の
その瞬間、別方向からピリピリとした感じがした。コイツはアクアビット製のプラズマキヤノンの感触だ。ネクストってことは、相手は真改か、テペス=Vか。
足下に向けられたその感触を、僕はとっさに機体を上昇させて回避した。眼下を白っぽい光条が周囲に放電現象を巻き起こしながら駆けた。その干渉電波によりレーダーが潰れる。
その瞬間、ソルディオスに睨みつけられたような、青緑色の鋭い眼光を感じとる。しまった、上昇しすぎた。とっさに横へのクイックブーストで回避行動を。辛くも避けたが、青緑色の光が視界の丸々半分覆った。危なかった。この野郎、邪魔しやがったのはどいつだ。
プラズマキャノンの影響でレーダーは未だ役にたたない。けれど僕は急速接近する機影の気鋭を感じ取る。こちらの回避の隙をついて、もう眼前まで迫っていた敵機は、左腕に構えたライフルを連射しながら、右腕を振り上げた。その前腕に備わった鋭利な形状の装飾らしきものからは、極太のプラズマ光が延び、夜空に浮かんでいる三日月のような残光を曳いて振るわれる。
後方へのクイックブーストで斬撃は避けたが、展開したままだったレーザーキヤノンの砲身が容易く切り飛ばされた。僕はすぐさま無用になったレーザーキヤノンをパージして、さらに後退しながら左腕の
乱入してきたのは灰色で各部の突起形状が特徴の機体。近接戦闘用の複眼カメラを輝かせる頭部。右腕にはレーザーブレードにしてはデカすぎる筐体。左腕には威力と速射性の両方に優れた
《し……》
「死?」
《殺した……》
「誰を?」
《アナトリア……》
「あ?」
《どこだ……》
『死』じゃなく『師』。言葉をつなげると『師(を)殺した、アナトリア(の傭兵は)どこだ』か? 噂には聞いていたが、本当に単語しか喋れねぇのな、真改。
それに右腕に備わった規格外の高出力を放つレーザーブレードは間違いなく、あの
《どこだ……》
「アナトリアの傭兵? 知らないね。アナトリアにいるんじゃないのか。アナトリアの傭兵なんだから」
《とぼけるな……》
「それよりいいことを教えてやる。アナトリアの傭兵より僕の方が強いんだぜ」
《どこだ……》《アナトリア……》
だめだこりゃ。レイレナードの
「ふん。居場所を聞きたきゃ、その剣で聞けよ。変態野郎。つうか、述文で話せよ。あぁ、まどろっこしい」
《し……》
はぁ。僕はあきれて嘆息を吐く。何でレイレナードの連中はおかしな奴しかいないんだ。
《ね……》
「うおっ」
真改が予備動作なしで急速接近して、右腕のムーンライトが薙払われた。僕はサイドブースターを使って急襲の斬撃を避ける。こっちの言うことはちゃんと理解しているのか。それにしても相変わらずレイレナードのブースターはえげつない加速をしやがる。
距離を離した真改のスプリットムーンは、旋回しながら左腕に装備した
普通の相手なら、どれだけ速く動かれようがなんとなく動きが読める。しかし真改の野郎の雰囲気は、感じ取れる気配全体が気色が悪い極彩色のマーブル模様で埋め尽くされて、まともに動きを読めやしない。
言語中枢や前頭前野がぶっ壊れてやがるのか。その代わり、運動系の神経伝達が正常な脳神経ルートをバイパスしているみたいで馬鹿みたいに反応が速い。もしかしたら、すべての動きが脊髄反射による動作なのかもしれない。僕は直感で感じ取る。だとしたら、こいつはなかなか厄介だ。
だが、そうこなくっちゃな。
「どおりで、あの