ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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メノ・ルー×BFF③

 高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)とは、AMSの神経接続レベルを機体の制御側で強制的に引き上げるものです。過去には、GAヨーロッパのハイダ工場を内部粛正した折り*1、アナトリアの傭兵さんに使われて、その戦闘能力の高さを身を持って知りました。

 

 訓練と称し、私もあれから何度か実際に試してみましたが、それはそれは耐え難いものでした。使用する度に、頭の神経細胞がパチンパチンと弾け飛んでいく感覚は思い出しただけでゾッとします。私の悪い頭が、これ以上悪くなったらどうしましょう。ですが、それと引き替えに得たものは大きかったです。

 

 高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)には、その副次効果として脳機能あるいは意識の機能拡張現象が確認されています。機体に備わるセンサから伝えられる情報は本来、人間の脳が扱う情報ではありません。その特殊な情報が脳に入力されることによって、何らかの能力が発現することがあるというのです。

 

 その特殊能力は、個々人がもつ脳の得意とする部位や分野と、特定の情報信号に対する感受性によって決定されるそうで、発現に一定の法則はなく付与される能力は様々だと研究員の方はおっしゃっていました。もちろん人によっては一切、特殊能力が発現しない場合もあります。

 

 その場合でも高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)中は、機体との一体感が増すとでもいいましょうか、機体が自身の肉体のように思い通りに動かせるようになります。いうなれば機体の動作遅延が解消されるイメージです。神経を通した機体との情報交換速度が上昇するため、単純に機体反応速度や制御精度が向上します。

 

 しかしいくら機体との神経接続レベルを高めたところで、元々鈍重なサンシャインでの性能向上はほとんど見込めません。ですが、武装であればなんとでもできます。こういうこともあろうかと、MSACに開発を依頼しておいてよかった。

 

 見せて差し上げます。私に発現した能力はこれです。

 

 私は後退しながら両背面のミサイルを放ちます。リロード間隔を補うために左右交互に。もちろん敵機も誘導を阻害すべく最短のリロードタイムで正確にフレアを捲きます。ミサイルは明後日の方向へと飛んで行きます。しかし、私は懲りずにミサイルを撃ち続けます。

 

 ヘリックスⅣはフレアを捲きながら、あの気持ち悪い足運びと高出力のブースターを駆使して急速にこちらとの距離を詰めようとします。しかし、そのさなか一瞬だけブーストの噴射間隔に間がありました。高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)で神経が研ぎ澄まされた私には、向こうの動揺がハッキリとした挙動で捉えることができます。

 

 気づきましたか。ですが、もう遅いのですッ。

 

 敵機は断続的にフレアを放つものの、さきほどから放っているミサイルは熱源誘導でもレーダー誘導でもないため、フレアは意味がありません。それに、どれだけ高い機動力を有していたとしても、どれだけ機体制御に優れていたとしても、逃げ場がなければ回避のしようがないでしょう。

 

 先に放ったミサイルは敵機背後から回り込む軌道を描いて、直近で発射したものは放たれ続けるフレアを無視して真っ直ぐにヘリックスⅣへと向かいます。これまで撃ち放った6射合計48発ものミサイルが360°全周囲から押し寄せるのです。人格移転型AIとはいえ、これをかわしきることができますか。

 

 本来自律誘導されるだけのミサイルが、このような常識を逸脱した飛行軌道が取れるのは、拡張意識下で私自身がすべてを同時に無線コントロールしてるからです。

 

 『拡張意識下における複数物体の同時制御』。これが、高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)で発現した私の能力です。さしずめ『オーバーロードフラッシング・ミサイル』とでも呼びましょうか。ちょっと長いですが。

 

 ちなみに試作品なので、1発あたりのお値段は大型ミサイル(BIGSUIX)の弾頭より高額です。おまけに現状で私にしか扱えないため、開発費を含めてほとんどが自腹ですよッ!

 

 弾幕というより全周囲から押し寄せるミサイルの壁を、回避不可能と判断したらしいヘリックスⅣは、旋回しながら両腕のマシンガンとライフルを連射して迎撃します。人格移転型AI故の尋常ではない射撃精度によっていくつかは迎撃されましたが、これだけの数にはさすがに無理があったようです。

 

 四方八方から襲いかかるミサイルに対して、処理負荷が限界を越えたのでしょうか。敵機はフリーズしたかのように動きを止め、そこへ残りのミサイルが全弾命中します。

 

 ミサイルへと意識を移した状態での弾頭起爆は、そのフィードバックによって私自身の自我が吹っ飛びそうになります。途中で制御をカットすることもできますけれど、最終誘導まできっちり制御しなければ高速移動するネクスト相手に命中するものではありません。

 

 私自身の脳負荷と引き替えにして、相手に与えたダメージは大きかったようです。膨大な数のミサイルが着弾した敵機の腕部と脚部の装甲が発破の衝撃波で細かくちぎれ飛んでいくのが視覚にハッキリと捉えられました。

 

いやだ、消えたくない。姉さん(いやよ、消えたくない。ジーン)

 

 さらに右腕のバズーカの追撃が胴部にヒットすると、脆くなった手足は着弾の衝撃でちぎれ飛び、ヘリックスⅣだった残骸がバラバラと地面へ散乱しました。

 

姉さん(ジーン)

 

 地面には、ヘリックスⅣを構成していたBFF製の頭部と内部機構を露出させた胴部が転がっているのみです。その状態でも、まだ人格プログラムと通信は機能しているようで、しきりに何事かを不協和音で喚いています。私は機体をその近くまで移動させます。とどめを刺すために。

 

 先ほどまでの激しい戦闘が嘘のように、アフリカの月夜のサバンナは静まり返っています。ときおり、夜行性の動物の多様な吠え声が、音虫のものと思われる高周波をバックに聞こえてくるのを機体の集音センサが捉え、拡張された私の聴覚野に届けてくれます。

 

 これまでの人生で虫の音など気にしたことがありませんでしたが、これも高度神経接続負荷(オーバーロードフラッシング)の副次効果でしょうか。とはいえ、何度もいうように私は虫が嫌いです。ですが虫の音は心地よいものです。戦闘の興奮状態が鎮静していくのがよくわかります。さて。

 

「哀れなものですね」地面に散乱した機体の破片のなかにたたずむフランシスカ・ウォルコットとユージン・ウォルコットの姉弟だったものを眼下に捉えた私が、まず思ったのはそれでした。

 

 かのリンクス戦争のさなか、アスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンの活躍によってアクアビットが解体され*2、機密扱いだった人格移転型AIについての情報が私たち末端にも伝わるようになりました。

 

 人格移転型AIはAMS接続レベルを限界負荷まで上げ、その限界領域の脳の状態を人格を含めて人工知能に模倣させたものだそうです。とはいえ、誰でも同じことをすれば人格移転型AIとして機能する訳ではなく、なにか特別な執着や感情がAIとして目覚めるきっかけとなると伺っています。それはさながらこの世に遺恨を残す怨霊のようです。たとえそうであっても。

 

「私は、人間であることを捨てた、あなた方を決してあざ笑ったりはしません。それが何を犠牲にしてでも手にしたかった望みであるならば。手向けです。主に代わって、私が弔って差し上げます。どうぞ、やすらかに」

 

 私はお祈りを捧げる際と同じ心境で、バズーカの照準を眼前の地面に転がるBFFの頭部の三つ目の中央に合わせ、仮想トリガーを引き絞りました。

 

姉さ……(ジー……)

 

 私がトリガーを引くより先に、地面にあった彼女らの頭部が弾けました。遅れてターンと余韻を引く発破音が月夜に響きます。

 

 狙撃。私は反射的に急速後退します。敵陣にいる残りの狙撃機といえば王小龍(ワン・シャオロン)氏。今度こそ彼でしょうか。

 

 しかしその姿は、カメラではおろかレーダーでもとらえられません。ただし高度神経接続負荷(オーバーロード・フラッシング)の影響で、大まかな距離と方向だけはわかります。こちらの攻撃はいっさい届かない、かなりの遠方からの攻撃です。この場所にとどまっては一方的に攻撃されるだけです。

 

 とにかく距離を。私は残りのミサイルをすべて発射して、ソルディオス砲にロックして撃ち放ちます。砲塔が倒壊して激しい爆発を起こすその隙に撤退しました。その素早い後退が功を奏してか、追撃は一発たりともありませんでした。

 

*1
『Internal Purge 前編 〜内部粛清〜』参照

*2
『断章 アクアビット本社強襲 〜ホワイト・グリント〜』参照

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