ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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ミド・アウリエル×シュープリス①

 空間が引き延ばされたかのように周囲の視界がにじんだ。前へ、前へと進む度、見えない壁に叩きつけられるような感覚に私はうめき声を漏らす。前方へとクイックブーストする度に襲いかかる強烈な加速Gに歯を食いしばりながらも、より大きく、禍々しく見えてくる撃破目標を私は睨んだ。

 

 地平にそびえ立つソルディオス砲塔の天辺が月光を反射させて鈍く光る。月明の夜空とは対象的に、暗く影を落とす大地と一体化して天へと向かって延びるその様は、月の光を欲して触手を伸ばす怪物のように見えなくもない。

 

 まるで何かを欲するように。どこか空虚(Null)な私のように。けれど同情の気持ちなど微塵も沸かない。あれは任務遂行の妨げとなる排除すべき障害物なのだから。

 

 本作戦の到達目標は、旧BFFがキリマンジャロ山麓に建設し、今はリンクス戦争の敗戦企業の残党で構成されるORCAが根城にしているロケット発射サイロ。達成目標は、宇宙への進出を目指す彼らが実行しようとしている衛星の打ち上げ阻止。そのためにオーメル・インテリオルの企業連合は、10機もの航空戦力(フェルミ)を投じた掃討作戦に打って出る。

 

 サイロの全周差し渡し400kmに等間隔で配置された対空迎撃用のコジマ粒子砲(ソルディオス砲)塔は、航空戦力侵攻の大きな妨げだ。

 

 遊撃部隊である私達は4機のネクストで先行し、このソルディオス砲塔の対空防衛網の一角に穴を空けて航空部隊の侵攻ルートを確保。並びに、旧BFFが建造した超巨大兵器スピリット・オブ・マザーウィルの超長距離砲撃を航空戦力に向けさせないように陽動作戦を展開する。

 

 そして企業連合(パックス)に楯突くORCAの野望を打ち砕く。あわよくば、ORCAの首謀者であるメルツェルを始末する。それが、世界の管理者たるオーメル所属のリンクスである私の責務。

 

 さあ、行くよ。ミド・アウリエル()

 

 ソルディオス砲の射程に捉えられたらしく、砲塔の頂点部が迎撃のために青緑色の燐光を灯らせた。だけど事前情報から対地迎撃性能は低いことが判明している。高度さえ上げ過ぎなければ、さした問題にはならない。私は撃破目標へ向かってクイックブーストを吹かし、地面を這うように機体を飛び続けさせた。

 

 今搭乗しているこの機体は、オーメルとアスピナ機関が共同で開発している次世代型高速機動ネクストの試作機だ。上半身はオーメルが手がけ、下半身とジェネレーターはコロニーアスピナの技術機関が担当する。

 

 正式な名前はまだ与えられていない。強いて呼ぶなら『マグヌス』。『マグヌス』とは機体開発のプロジェクト名で、あのドイツ出身の著名な物理学者H.G.マグヌスから引用したことは想像に難くない。

 

 (くさび)のように前方に鋭く突き出たマグヌスの胸部形状は、空気抵抗を低減するとともに、過大ともいえるほどの大型高容量のGアブソーバー機構を組み込むための独自構造だ。四肢も空気抵抗低減のために刃のような鋭い形状をしている。

 

 さらに、接収したレイレナードの技術を加えて高出力化されたメインブースターにより、クイックブースト時の瞬間最大速度はマッハ2弱にも達し、ブーストを吹かす度にユディトとは比べものにならないほどの加速Gに身体が痛めつけられる。

 

 徹底的に軽量化された機体重量も速力と機動力に寄与した。その代わり装甲は薄い。試作機だけあって予備の部品も少ないから、被弾は最小限に抑えなければならない。

 

 私はこのマグヌスのテストパイロットを務めている。だから機体特性と開発の進捗状況はよくわかっていた。

 

 本来ならこの機体はオーメルの正規テストパイロットであったパルメットが担当するところだ。けれど彼はリンクス戦争の折りに戦死している。レイレナード本社侵攻作戦の後、一悶着あってから私がこのマグヌスのテストパイロット役を引き継いだ。

 

 品質信頼度のチェックはすでにパスしており、ORCAの騒動がなければちょうど今頃は実戦テストフェーズが始まる予定だった。それにこの機体は機動戦だけでなく、高い速力を武器に敵陣に乗り込み一撃を加える強襲機としての用途も想定されているため、この作戦にはうってつけだった。だからオーメルの軍事管理顧問のデイブは、この作戦にナル(愛機)ではなく、これで私を出撃させた。

 

 進行方向には、まばらに展開した防衛のMT部隊が立ち塞がり、散発的な攻撃を仕掛けてくるけれども、そのほとんどは機体に回避行動を取らせるまでもなく後方へと流れる。この機体の速力をもってすればMTなど容易に振り切れる。たまたま直撃コースを飛んできた迫撃砲の一発も、クックブーストリロードの合間の平行移動で難なく回避した。

 

 これだけの速度が出ると、わずかな姿勢変化を起こしただけで空力バランスが崩れてしまう。失速でもして墜落すれば自機がダメージを受けてしまう。戦闘において速力は最重要だけれども、それは同時に諸刃の剣だ。

 

 緻密な姿勢コントロールには迅速かつ膨大な指令制御が必要となる。この機体には相応スペックの自動姿勢制御も備わっているけれど、実際のところは補助程度にしか機能しないため、この機体の搭乗者には高い機体制御能力と一定以上のAMS適正が要求される。

 

 もちろん、高いAMS適正を持つセロならこの機体を私より上手く扱えるだろう。しかし、この機体は改良に改良が重ねられ、ゆくゆくは製品としてリリースされる。

 

 このピーキーな性格は機体特性として残しつつも、どのようなリンクスでも扱えるものでなくてはならない。テストパイロットには機体性能を引き出すための高い技量が求められるのは当然だけれど、優れたパイロットがテストを行ったからといって優れた製品が完成するわけではないのだ。

 

 テストパイロットに求められるのは、絶対的な技量よりも機体性能を正しく吟味し、それを言葉として正確に開発技術者へとフィードバックできる言語化能力だ。私は言葉の扱いには少しだけ自信があった。

 

 その自負とともに、メイン出力を運転限界付近にまで引き上げると、さらに強烈な加速が身体を襲う。速度を示すデジタル数値は一瞬だけ2000km/hの大台に乗った。

 

 それに、女性は男性よりも痛みに強いのよ。この任務はなんとしてでも達成しなくてはならない。あの人のためにも。ORCAを潰す。そのためなら私自身の苦痛など些細な問題に過ぎない。

 

 とはいえ、ORCAにも彼らなりの正義があるのだろう。私だって、支配の手を広げるオーメルの近頃の手段を問わないやり方に疑問を抱かないわけではない。

 

 それでも、この戦いに対する迷いはない。この戦いを終わらせて欲しかったものを手に入れる。私が、そしてあの人が望んだ平和を。たとえそれが、かりそめの平和であったとしても。

 

 レイレナードのリンクス主力部隊迎撃*1に際して、レイレナードのNo.1リンクスであるベルリオーズと相打ち、志半ばにして亡くなったあの人(レオハルト)のために私は戦う。全力で。

 

 マグヌスの両背面に備わった近接信管ミサイル(DEARBORN02)に武装を切り替え、私は射程に捉えたターゲットに照準を合わせる。コジマの燐光で淡く輝く砲塔天辺に備わった球状の砲口にミサイルロックのターゲットマーカーが重なると、一呼吸あとに赤く染まりロックオンを告げた。

 

 先刻から睨みをきかせるようにこちらを捕捉しているソルディオス砲は、恐らくすでにフルチャージ状態だ。しかし対空迎撃に特化しているぶん、十分な俯角が取れないため、地を這うように距離を詰めるこちらにコジマ粒子砲は撃たれない。

 

 より高い破壊力を得るためにミサイルの近接信管の反応を最低に設定。前方へのクイックブーストで機体が最大速度に乗ったところで仮想トリガーを弾くと、片側2門のランチャーから発射された弾頭は増速されて通常より高い速度で放たれる。

 

 連続射出された合計8発の近接信管ミサイルが、まばゆい噴射炎を吐き出して闇夜に映える。弾頭がポップアップする軌道を描いて青緑色に発光するソルディオス砲へ誘導されていくのを視線で追う。発破まで、あと3、2、1___。

 

 直後、ソルディオス砲塔の直下から散発的な発光弾が撃ち上がった。高熱を伴った発光弾へと強制的に目標が切り替えられ、8発の熱探知誘導ミサイルは急激に進行方向を変え散り散りになる。

 

 疑似熱源(フレア)。自動防衛装置か。しかし、あの広範囲へと散布されるような撃ち上がり方は、ネクスト用のBFF製フレア(051ANAM)によく似ている。そう思った矢先、機体のセンサがネクストの反応を捉えてアラートで告げた。

 

 いる。ソルディオス砲塔の下、月明かりの影なった部分に1機のネクストが隠れていた。

 

 ネクストの機体検知に働くコジマ粒子濃度計と赤外線センサは、ソルディオス砲全体が発する膨大な粒子量と熱量に紛れて反応しなかった。光学センサも敵機の黒っぽいボディカラーが保護色となり検知できなかったらしい。おまけに、ネクストの簡易的なレーダーモニタでは巨大なソルディオス砲と輝点が重なってしまい発見が遅れた。

 

 迂闊だった。詰めを怠るな。内省と同時に私は歯噛みをしながら横目で敵機を睨みつける。ソルディオス砲塔を脇をパスして機体に旋回機動を取らせ、今度は敵のネクストに向けて攻撃アプローチを試みる。

 

 視界端に捉えた機体は、闇に溶けるような漆黒のアリーヤ。複眼のアイカメラがまばらに点灯し、暗闇に明瞭な赤い光が浮かび上がる。それと同時に、構えた砲門からマズルフラッシュが瞬き発破音が轟く。

 

 敵ネクストはすぐさまこちらの動きを捉えてグレネード(OGOTO)を放った。しかし、マグヌスの速力には追従しきれず、弾頭は機体後方をかすめて遥か遠方の地面に着弾して爆炎を上げるだけにとどまった。

 

 旋回を終え敵機に向き直った私は、自機に回避行動を取らせながら距離を詰める間に相手を子細に観察する。事前の作戦データには無かった機体。相手は誰だ。グレネードの生み出した爆炎が敵機の黒い塗装面に反射してアリーヤの鋭角的なディテールをオレンジ色に浮かび上がらせていた。両腕には2丁のライフルを携えている。肩部には先ほど放ったグレネードとフレア、その左肩には。

 

 視界端に表示されたバイタルモニタリングが、私の大きな心拍変動を検知してグラフを跳ね上げ、ピッと一瞬だけアラートを鳴らした。

 

 敵機の左肩にペイントされた真っ赤な鎌を象ったエンブレムが炎に照らされてより赤々と浮かび上がる。ネクストを駆るリンクスなら、その意味を知らない者はいない。そして一度見たら忘れようはずもない。

 

「あれは___シュープリス。けれど、ベルリオーズは___あのとき、レオハルトが」

 

 驚きのあまり、私は取り留めもない言葉を発していた。

*1
『Marche Au Supplce 後編 〜レオハルトとベルリオーズ〜』参照

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