ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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霞スミカ×国家解体戦争②

「___霞。聞いておるのか、霞スミカ」

 

 名前を呼ばれて注意を取り戻す。私としたことが、戦闘中だというのにぼんやりとしていた。とはいえ、意識が逸れていた時間は数秒にも満たない。

 

 声の出処は、眼前に立つアクアビット所属のネクストからだ。レイレナード製のアリーヤコアに、アクアビットの特徴的な細い手足と、能面のような頭部がくっついた奴の機体『シルバーバレット』が、撃破目標である対空ソルディオス砲塔の前に立ちふさがっていた。

 

「貴様の声を聞いたら急に昔のことを思い出して、つい感傷に浸ってしまったよ。会うのは国家解体戦争以来か。まだくたばっていなかったとはなテペス=V。いやネオニダス。コジマ汚染で死ぬとかほざいていた割には、ずいぶんと元気そうじゃないか。まさか仮病とかいうオチはぬかすなよ」

 

《新しい世界を見たいんでな。老いても、汚染さ(よご)れても、まだまだ死ねんよ》

 

「ふぅん、まあいい。そのソルディオス砲塔はこちらの作戦の邪魔だ。破壊するから、そこをどけ。そうすれば、とりあえずは見逃してやる」

 

 問答無用とばかりに、私は自機であるシリエジオにレーザーライフル(LR02-ALTAIR)ハンドレールガン(RG01-PITONE)を構えさせる。

 

《横柄な態度は相変わらずか。だが、どけんな。こちらも仕事でな》

 

 ネオニダスは、左腕のマシンガン(01ーHITMAN)と、右背面のプラズマキャノン(TRESOR)を構えて応戦する姿勢を見せた。右腕には奴の切り札ともいえる高威力のコジマライフル(AXIS)を携えている。

 

 彼我の距離は500mほど。相手は高機動の軽量機で武装は近接重視。先制攻撃を狙えるタイミングは奴が踏み込み動作に転じる一瞬だ。会話に応じながらも、その一瞬を見計らってレールガンを叩き込むべく照準はコックピットを捉えていた。私の右手人差し指は仮想トリガーの遊びを引き絞る。

 

「___撃ち合う前に答えろ」

 

 動揺を誘う訳ではなく、ふと思い至り私は純粋な疑問を奴に投げかける。

 

「お前たちORCAの目的は何だ。いまさら宇宙に進出したところでどうなると。アフリカを掌握して監視衛星を打ち上げたところで、お前らに勝ち目はないことは明白だろう。雌雄はリンクス戦争の時点ですでに決している。なぜ、それがわからない」

 

《ああ、そういうことか。どうやら何も聞かされていないようだな、霞。我々が打ち上げるのは監視衛星ではないよ。これが権力者どものやり方だ。あれだけの戦争を経ても、隠蔽体質は旧世紀から何も変わっていおらん。いい加減、辟易せんか》

 

 確かに企業の隠蔽体質には同意する。だが。

 

「なら、お前たちは何をしようと」

 

《メルツェルの小僧に口止めされているんで詳しくは言えんが、昔のよしみだ。ひとつ教えてやろう。我々が打ち上げようとしているのは監視衛星ではなく、『ジョシュア・オブライエン』そのものだ。奴を宇宙に打ち上げれば、おもしろいことが起こる。それこそ世界の常識が覆るほどの変革が、な》

 

 興奮気味に語った後に通信機から聞こえた意味深な笑い声が癇に障った。奴がコックピットのなかでほくそ笑んでいる顔を頭に思い浮かべるだけで虫唾が走る。それはともかく、奴が話した内容も気になる。

 

 アスピナの傭兵ジョシュア・オブライエン。人格移転型AIの。ドニエプルで倒したコピーではなく本物か。だとしてもAI化された人の意識ひとつを宇宙に上げただけで何が起こると。

 

 私が子供の頃、すでに宇宙は遥か遠い存在になっていた。もちろん空を見上げれば宇宙は今もそこにある。しかし情報は制限され、現状も進展も誰の耳にも入らない。宇宙関連のニュースはもちろん、ドキュメンタリー番組すら放送されなくなっていた。まるで私たちの記憶から宇宙の存在を忘れさせようとしているかのようだった。

 

 その結果、旧時代に盛んだったとされる宇宙開発や月や火星への有人探査は嘘ではないかという噂が持ち上がるほどだ。そんな噂も時の流れとともに人々の意識から消え去る。今ではせいぜい流れ星を見つけては喜ぶか、七夕に星空を見上げて鑑賞するか短冊に願い事を書いてお祈りする風習が残るくらいで、宇宙そのものには誰も興味を示さなくなっていた。

 

「貴様らの目的が見えないな。単なる知的好奇心というのなら、まだ理解はできる。でなければオブライエンに宇宙開拓でもさせて人類を月にでも移住させるつもりか? それとも火星か? 馬鹿らしい。人口があふれていた旧世紀なら新天地たり得ただろうが、世界人口が1/3にまで減った今となっては、人類にとって宇宙などほとんど無価値だ」

 

 私たちが国家解体戦争で人口を減らしたんだ。この手で。

 

《ここから先は答えられんな。とにかく、それによって世界は劇的に変わる。霞、今の世界に息苦しさを覚えんか。たしかに我々は国家を解体し世界を変えた。だが、今の世界はどうだ。

 

 相変わらず、世界の各地では小規模の紛争が起きている。パックスとはいえ地球全土を管理するには無理があるのだ。平和に見えるのはパックス企業の息がかかっている場所だけだ。かつてと何も変わっていない。差別に紛争、貧困に飢餓。今この瞬間も誰かが苦しんで、泣き叫びながら、死を迎えている。

 

 儂とお前の2人で挑んだ国家解体戦争の旧日本攻略。あのとき、儂はお前に訊いたな。『なぜ国家解体戦争に参加したのか』と。そして、お前は儂にこう答えた。『こんな国も、世界も滅んでしまえばいい』と》

 

「___」

 

 私は言葉を失う。そうだった。コイツには色々と打ち明け話のようなことを漏らしてしまっていたのだ。思い出したくない私の過去(黒歴史)。恥ずべきは私の歴程そのものではない。そのよう(中二病的)なことを真顔でコイツなんぞに吐露してしまった自分が恥ずかしいのだ。

 

《どうした。忘れてしまったのなら儂が語ってやろう。日本攻略の作戦立案者であるお前が国家解体戦争で、あのとき何をしたのか。

 

 事前に相手側へと攻撃時刻を意図的にリークさせ、首都の旧東京へ防衛主力部隊を集めたところに、東京湾へ儂のコジマライフルを最大出力で照射。

 

 発生したコジマ由来の汚染水蒸気で敵部隊の視界を奪うとともに、歩兵や指揮中枢系統は完全麻痺。当時最新鋭のネクストとはいえ、たった2機で。それもほんの1時間足らずで中国とロシアとアメリカの共同AC・MT部隊と、数機のレイヴンを殲滅して首都を陥落させた電撃作戦。烏合の衆とはいえ相手方の戦力は数百機は下らなかっただろう。そして、いまだ関東平野一帯は人が住めん死の土地だ。

 

 そしてそのとき、お前につけられたあだ名が『mist witch(霞の魔女)』。コジマ汚染の害を知ったうえで、祖国に向かってあそこまでえげつない作戦を躊躇なく立案できるお前に度肝を抜かれたものだ。

 

 あのときのお前は、まるで研ぎ上げられた剃刀のようだった。全人類を恨み切ったような目と、触れられないほどの気迫。当時のお前はぞくぞくするほど美しかったぞ。儂は年甲斐もなくお前に惚れてしまっていたよ。

 

 それがどうした。今のお前は迷っている。くすぶっているのだろう。自分の行いが正しかったのかどうか。企業に使われるだけの現状に満足か。インテリオル・ユニオンに属して、身の安全が保障されて、独りよがりの平和にボケたか。社蓄に成り下がったか。

 

 思い出せ。お前は何がしたかった。何が欲しかった。お前は何を成し遂げた。お前が恨んだ世界は、まだそのままだ。

 

 銃を降ろせ。そして我らとともに来い、霞。国家解体戦争の答えを。お前にかかった呪縛を解いてやる》

 

 ___たしかにその通りだよ。いつしか、考えるのをやめていた。

 

 日常が脅かされるような事態や、理不尽に命が奪われるようなことを世界からなくしたい。死んでいったあの子らのような人間を増やさない。それがリンクスとなり、私が国家解体戦争に身を捧げた理由だった。

 

 個人的な復讐は国家解体戦争ですでに果たしたつもりでいた。その挙げ句、リンクスは今や戦争勝利の功労者だ。大量虐殺の実行犯であるのにも関わらず、現歴史上では英雄視すらされる。今暮らしている人々の笑顔を見れば、こんな私でも世界の役に立ったと思えた。国家解体戦争に参画した呵責を忘れてしまいそうにもなった。

 

 その一方で、戦後はぬるま湯に使ったような安穏な日々のなかで、何もする気が起きなかった。国家解体戦争の反動。燃え尽き症候群とでも言うべきか。この数年間の私は、あのときの抜け殻のような自分に戻っていた。

 

 もちろん世界が平和になったとは露ほどにも思ってはいない。目の前の明るい部分だけを見て、暗がりから目を背けていただけだ。どこか満足していた自分がいたことは認めざるを得ない。

 

 リンクス戦争の勃発があってもどこか他人事。一個人のリンクスとして、オーメル側とレイレナード側の思惑を鑑みるべきところを、それすらも放棄していた。まあ、少しは考えたさ。しかし個人として正直どちらに付くべきかは決めあぐねていた。どうせ、なるようにしかならないさ、と諦めの気持ちで。

 

 もっとも、私が所属するインテリオル・ユニオンは、早々にリンクス戦争への積極的な干渉は避けたから、上を無視して独断で動けるはずもない。ましてや私一人が戦争に干渉した所で流れは変えられない。そうであっても、できることはあったはずだ。それをしなかった私は確かに社畜同然か。

 

 だが実際問題、私ひとりでは何もできないのだ。世界を動かすのは為政者であり、どれだけネクストが戦力として大きかろうと私はたかがパイロットだ。

 

 そもそも兵器で世界に平和をもたらすことはできない。そのことを国家解体戦争で思い知らされたよ。ああそうか。この数年間、私を停滞させていたのは、そのやるせなさか。

 

「ネクストで、世界は変えられないんだ」

 

 私は、ぽつりと呟く。

 

《ORCAなら変えられる。世界を、人の意識を根底から変えられる。人類は新たなステージに進まねばならん。条件は整った。お前と儂らで整えたのだ。悔やむな。悩むな。お前は正しいことをした。そしてこれから我らが行うこともまた正しいのだ》

 

 ___その言葉で気持ちがカチンと定まる。わずかに揺らいでいた感情が一気に冷めやった。

 

 奴が語る中共やカルトのような口当たりのよい言葉に激しい違和感を覚え、私の副腎あたりがノルアドレナリンとやらを放出し、無意識に警告を発した。正直、そういった上辺だけの優しい言葉には反吐が出るよ。

 

「お前たちの志はよくわかった。だが、お前らとは共に歩めんよ。善だの悪だの、正誤を論じるつもりはない。もちろん私自身が清く正しい善良な人間だとは思わない。国家解体戦争に参画した時点で、すでに悪なのだから。

 

 ただ、お前らのやることは阻止する。阻止できれば私の勝ち。阻止できなければお前らの勝ち。あとは好きにすればいい。私はただのリンクスだ。リンクスである以上戦うほかない。ネクストに乗っている限りは」

 

《ふむ、それもひとつの真理か。だが、苦しい言い訳だ。見苦しいぞ、霞。これ以上は見るに耐えん。儂が引導を渡してやる。美しかったお前のままで》

 

「ふん、随分好き勝手言ってくれる。ネオニダス、この際だから私からもこれだけはハッキリと言わせてもらうぞ。お前と初めて会ったときから思っていたことだ」

 

 私は、そこで言葉を区切る。

 

 言いたいことは決まっていた。

 

 だが、どのようにして伝えるかが肝心だ。

 

 一瞬考えを巡らすが、やはり率直な言葉で伝えてやるのがいいだろう。

 

 私が今抱える本当の気持ちを、わかりやすい形で懇切丁寧に教えてやる。

 

 私なりの言葉でな。

 

「私はお前が嫌いだ。さっきから一言一言が気持ち悪(キモ)いんだよ、この変態が!」

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