ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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霞スミカ×国家解体戦争③

 テペス=V、改めネオニダスが駆るシルバーバレットはアクアビット標準機体(MADNESS)をベースにした機体で、アーモンドのような細長い楕円型の頭部が特徴だ。

 

 対峙するこちらを照準に収めたようで横真一文字のカメラアイを明滅させた。半透明の特殊装甲で覆われたその上下部もぼんやりとした光を放ち月夜の闇に溶ける。なにより、能面のようなそのふざけたツラを見ていると何となくイライラする。

 

 手足と頭部を構成するアクアビット謹製部位(LINSTANT)は華奢だが、最高クラスの耐エネルギー防御を誇ると同時に、機体が発するコジマ粒子の保護膜(プライマルアーマー)の出力効率にも優れる。

 

 奴の機体特性を一言で表すなら防御重視の高機動機。その高い防御力をまといながら、既存パーツのなかでも瞬間出力に特化したレイレナード製のブースターを駆使して接近戦を仕掛けてくるだろう。

 

 左腕のマシンガン(01ーHITMAN)は射程が短いため十分な距離を保てれば問題ないとして、右背面のプラズマキャノン(TRESOR)は、射出に際してレーダー波に干渉するため少々厄介だ。もっと厄介なのは、奴が右腕に携えるコジマライフル(AXIS)

 

 奴の切り札ともいえるコジマライフルは、時間をかけてコジマ粒子の圧縮充填率を高めることで飛躍的に威力が増す特殊兵装だ。動作原理は今奴の背面でチャージが進行中のソルディオス砲と同じ。ネクスト用の腕部兵装でありながら戦略兵器相当の威力と照射範囲を持つ。

 

 フルチャージで放たれれば、照射主軸の直撃を避けたとしてもその余波だけで致命的な損傷を負ってしまうだろう。銃口はまだ下に向けられたままだが、なんとかコジマライフルを使われる前に片を付けなければならない。

 

 対する、私のシリエジオは耐久性とエネルギー防御性能に優れるインテリオルの中量機(TELLUS)。奴の武器属性に対して優位性はあるが、機動力に関しては雲泥の差だ。周囲に張り付かれれば、捕捉できずに撃破されてしまう危険さえある。

 

 こちらの得物は、左手に高出力長射程のレーザーライフル(LR02-ALTAIR)。右手に射程と弾速に特徴があるハンドレールガン(RG01-PITONE)。右背面には自律誘導式のASミサイル(BM03-MEDUSA)を装備している。左背面に装備するのは、武装ではなく索敵と長距離狙撃のための高出力外部レーダーだ。

 

 対峙する奴との相対距離は500mほど。機動力差を鑑みれば一瞬で間合いを詰められる距離だ。お前には近づかれたくないよ。いろんな意味で。奴が突進の挙動を見せたら、それに合わせて先制のハンドレールガン(RG01-PITONE)をぶち込んでやる。

 

 奴の背面が瞬き機体が前方に急加速した。私は反応鋭くトリガーを引き絞る。右腕に構えたレールガンから、かすかなプラズマの尾を引いて弾体が撃ち出された。

 

 電磁誘導によって音速の数倍にまで加速された高質量弾が、高度を上げながら突進してくる奴の肩部装甲にヒットし、機体を包むように濃い青緑色のコジマの光を可視化させた。しかし、奴の機体を保護する強力なプライマルアーマーによって弾速は大きく削がれ致命打には至らない。

 

 奴はなおも前進。コジマ粒子のバリアともいえるプライマルアーマーの保護幕は通常無色透明で、転換面の境界層に大きな運動エネルギーが干渉した際にだけ青緑色の光として発散される。本来は被弾しなければ発光しないはずだが、シルバーバレットは奴の怒気かオーラかを可視化したかのように、うっすらと光を纏いながら突進してくる。

 

 おそらく、高い加速度に伴って大気中の塵や虫と衝突した際の運動エネルギーまでもを光に変換しているのだろう。それほどまでに奴の機体が発しているプライマルアーマーの出力密度は高い。それは尋常ではない防御力の高さを物語る。

 

 ついでに言えば、私の機体が今装備しているレールガンはつるし(・・・)の製品よりも威力が低い。物量戦に備えて、レールの損耗を抑えるために弾速を落とした調整が裏目に出たか。私は思わず舌打ちをする。

 

 重く長大なレールガンは取り回しが悪く、軽量機との近距離戦ではほとんど役に立たない。私はすぐさま右背面のASミサイルへと武装を切り替え、レーザーライフルと併用して発射。コジマの光を纏いながら突進してくる奴を迎撃する。

 

 高度を合わせて真正面から迎え撃ちたいところだが、ソルディオス砲塔の対空迎撃があるため、無闇に高度は上げられない。断続的にバックブースターを吹かして後退しながら相対距離を保つように努める。

 

 しかし、相手軽量機に対して足の遅さは如何ともしがたい。加えて、本来プライマルアーマーの貫通力に優れるはずのレーザーライフルもランスタンの高い基礎防御力に対して効果は薄い。

 

 ターゲットシーカー下に視覚化された相対距離が300あたりを切ったところで、奴は頭上からプラズマキャノンを浴びせかけてくる。奴の眼下をすり抜けるかたちで前方へ加速してプラズマの直撃からは逃れるが、電磁干渉波の影響で視界端に投影されたレーダー標示がノイズで潰れ役立たずになった。

 

 奴はこちらの頭上を飛び越えながら立て続けにマシンガンを放ち、小径弾丸が機体を叩く連続音が聴覚野に轟く。プライマルアーマーで威力は減衰されるが、コジマリアクターが負荷を受け、出力モニタリングのゲージが低下していく。

 

 役立たずになったレーダーには頼らず、視界外に消える間際の姿勢を確認しベクトルを読みとり、こちらの後背を取ろうとする奴の捕捉を試みる。

 

 闇夜に光る奴の姿は捉えやすい。最大出力の旋回噴射(クイックターン)による急速旋回から連なる急速後退(バックブースト)で距離を確保しながら再捕捉し、照準もそこそこにレーザーライフルを一発。当たりはしないが牽制には十分だ。立て続けにレーザーを放つが、鋭い斜め前への加速で回避される。

 

 腕部を細かく繰り、奴の進行方向に向けてレーザーライフルでの狙撃を試みるが、照射時間が短く大したダメージは与えられていない。光速で襲いかかるレーザーでも捉えられないのだから、放つ能動走査誘導ミサイルも奴の機動に追従しきれない。

 

 それでも機体を旋回させながら正対するよう努めつつ、火器管制システム(FCS)が行う偏差射撃の自動照準に補正を加えながらトリガーを弾く。奴が用いるアリーヤのブースターは大飯喰らいだ。回避を誘発させれば奴の機体はエネルギーが枯渇する。そこにチャンスが生まれるはずだ。

 

 奴はこちらの直上を動き回り、隙あらば後背位置を奪おうとする。そうはさせまいと私はひたすら旋回と後退で対抗し、互いが有利なポジションを奪い合う。奴の突進に併せて後退。その際に一瞬だけ生じる平行ベクトル状態にだけ攻撃がまともに通る。

 

 だが、こちらの射線が通るということは、向こうも同じだ。マシンガンとプラズマキャノンが断続的に放たれ、致命的なダメージこそ負っていないものの、高い対ECM性能を持つ外部レーダーも依然としてノイズにまみれたままだ。斉射されるマシンガンによってこちらのコジマリアクターの負荷も増大していく。

 

 めまぐるしく変わる位置と距離。機動の度に襲いかかる強烈な重力加速度で脳や臓腑が揺すられて正直苦しい。徐々に意識が朦朧としてくる。だが、それは向こうも同じはずだ。いや、私よりも高出力のブースターで機動戦を仕掛ける奴の方が肉体的には遥かに苦しいはずだ。

 

「高機動は身体にキツかろう、ネオニダス。いい加減、齢を考えろ」

 

 レーダーと同じく、プラズマキャノンのECM効果によって使えない状態にある無線から外部拡声器に出力を切り替え、私はネオニダスに声をかける。

 

《じゃかしい。これくらいの、Gなど、屁でも、ないわ!》

 

 そうは言うが、かすれ声での返答はただの強がりにしか聞こえない。加減速の度に言葉が途切れるのは仕方がないとして、言葉の端々には加速Gで押し出される肺の空気の漏れ出す音に加え、うめき声にも似たニュアンスが混じる。

 

 奴が苦悶の表情を浮かべていると思うと気分がいい。こちらの溜飲も下がるというものだ。

 

(ジジイ)の割には善戦(GG)だ。だが無理はするな。とっとと撤退して自慰でもしてろ。そして、二度と私の前に現れるな」

 

《霞、忠告だ。もう少し、老人を、(いたわ)らんかい!》

 

 不意に奴の機体がオーバーランして大きく距離を空ける。そして右腕に構えた大型ライフルの先端に青緑色の高輝度光を宿した。とうとう虎の子のコジマライフルを使って、決着をつける気か。これまでの激しい機動が、相当身体に堪えているとみた。

 

 隙を見計らってレールガンで狙撃するが、後退しながら回避される。奴め、チャージが完了するまでの間にひたすら逃げ回る気のようだ。最大出力まで圧縮充填されたコジマライフルは回避すら困難だ。仮に直撃すれば機体どころか私の身体もが一瞬で蒸発するだろう。だが対抗策がないわけではない。

 

 こちらは撃破ミッション。そちらは防衛ミッションだということを忘れるなよ。ネクストの幅の3倍はあろうかという巨大なソルディオス砲塔の陰に、私は自機を滑り込ませて盾にする。大出力のコジマライフルを放てばそちらの防衛目標もろとも間違いなく破壊する。これでコジマライフルは安易に撃てまい。

 

《ぬぅー、卑怯者め。悪魔か、お前は》

 

「『霞の魔女』とやら、なんだろう」

 

 一部界隈で魔女呼ばわりされているのは私も知っていた。数年前なら恥ずかしくてたまらなかったが、不思議と今なら案外悪くない二つ名だとも思えなくもない。まあ、どうでもいいが。その間にも、コジマライフルの銃口はさらに輝度を増していく。

 

 ソルディオス砲塔の構造体を中心に位置を入れ替え、再び交差戦。奴は左腕のマシンガンを散発的にばらまきながらコジマライフルの発射タイミングを伺っている。こちらは極力、砲塔から離れないように注意を配りながら目立った攻撃はせず、捕捉と回避に徹するだけだ。

 

 銃口先端に灯る光がフルチャージ状態を示す白色に変わった。コジマライフルはいつ撃たれてもおかしくない。だがその破壊力故に、威力が上がるほど撃ちあぐねるジレンマに陥る。私は悠々とソルディオス砲塔の陰に機体を滑り込ませる。どうせ撃てないだろうという慢心があった。それによって一瞬反応が遅れた。

 

 視界全体がフラッシュオーバー。遮蔽物の影だけがうっすらと視界に残るが、それもすぐさま強烈な閃光に飲み込まれる。極端な明度変化に目眩のようなものを感じながら、とっさに重量物であるレールガンをパージ。軽量化によって瞬発力を稼ぎ、左真横へと機体を緊急回避させる。

 

 あのクソ爺ィ、防衛目標ごと撃ちやがった。憤りとともに右腕に覚えた痺れるような感覚で、まだ生きていることを認識する。視界はまだ取り戻せないため正確な状況把握は困難だが、おそらく右腕部が丸ごと消し飛んだのだろう。ほどなく復帰したダメージモニタリングに目を走らせると案の定、右腕部が動作不良を警告していた。

 

 コジマライフルの射撃はソルディオス砲塔の基部を丸ごと飲み込み、その余波も手伝って全高100mほどもある巨体建築をまるごと一瞬で溶解させた。溶け残った頭頂部付近の構造体はソルディオス砲門もろとも断続的な爆発を起こしながらただの残骸へと変わり地面へと落ちる。

 

《またメルツェルのうるさい小言を聞かねばならんのう。だが、ソルディオス砲と引き替えに右腕一本。お前相手なら、おおむね満足いく結果だ》

 

「ふん、馬鹿を言うな。こちらの目的は達した。お前なんぞのお遊びに付き合っている暇はない。後は撤退させてもらう」

 

《もはや盾に使えるものは存在せん。この好機は、逃がさんよ》

 

 再び奴の右腕のライフルの先端にコジマの光が宿った。私は虚勢を張りながらも、能面のようなアクアビット製頭部を苦々しく睨みつける。実際問題、軽量機の奴から逃げきることは難しい。高速移動の要であるオーバードブーストを使っても、コンデンサのエネルギーが尽きた瞬間に狙い撃たれるだろう。万事休すか。

 

《霞。もう一度だけ言う。ORCAに来い》

 

「___」

 

 私は答えない。別段、移籍を迷っているわけではない。ORCAに寝返る気など毛頭ない。ただの時間稼ぎだ。何とかこの状況を脱する糸口を見出すために頭をフル回転させていた。

 

 一時的にでも寝返る振りでもをして、この窮地を脱するか。それとも、本当にORCAへ移籍してみるか。奴らの思想に賛同するつもりはないが、奴らが行うことと、その結果を間近で見てみたいという欲求は少なからずあった。

 

 青緑色の高輝度光は、すでに白色近くにまで色温度を上げている。もちろんコジマライフルの銃口はこちらに向けられたままだ。奴の言うとおり、周囲にまばらに生えた雑木などは遮蔽物にもならない。私は臍を噛む。

 

 不意に、レーダーが動体反応を捉えた。標示の端に緑の輝点が現れ、それが高速でこちらに接近してくる。こちらは外部レーダーのおかげで索敵範囲が広い。対して、奴はまだそれに気づいていないようだ。好転する事態に、私は打って変わって笑みを浮かべる。

 

「___孤軍奮闘は見上げた覚悟だが、状況を良く確認した方がいいぞ」

 

《なにを___む、増援か》

 

「言葉を返すよネオニダス。引け。この状況で、もはやお前に勝ち目はない」

 

《仕方がないのう。おとなしくスピリット・オブ・マザーウィルで待つとするか》

 

 奴は意外なほど素直に銃口を下ろす。そしてわずかに浮上。とたん強烈な閃光を発して視界がホワイトアウトした。奴め、地面にコジマライフルを照射して目くらましに。

 

 大地が溶け砕ける轟音に隠れて、オーバードブースト特有のコジマ粒子圧縮音を捉え、それから高周波のジェット音が遠のいていく。閃光によって潰れかけたレーダーには、接近する味方機と入れ替わりに離脱していく奴の位置が赤色の輝点で表示された。

 

 再び視界を取り戻した眼前には、隕石でも落ちたかのようなクレーターが出現。いまだ冷めやらぬ熱量で、月明かりに照らされた向こう側の景色が揺らいで見えた。その向こうから、全面投影面積を可能な限り小さくとどめた機体が飛来する。そして通信が入る。

 

《スミカ。無事ですか》

 

「なんとかな。助かったよ、ミド」

 

《いいえ。こちらもスミカに助けられましたから》

 

「そうなのか。よくわからんが、詳しい話はデブリーフィングで聞くとしようか」

 

 ネオニダスが本気なら私は殺されていた。奴の好意に助けられた形になったな。嚼ではあるが、今は任務達成と生きていることを喜ぼう。さて、メノとセロの方のどうなっているかな。気を取りなおし、私は確認の通信を入れる。

 

「こちらスミカ。メノ。セロ。そちらの進捗はどうだ」

 

《セロだ。ソルディオス砲はとっくの昔に破壊済み。真改の野郎は逃がしたが》

 

《メノ・ルー、こちらも問題なく任務完了ですッ》

 

「よし。よくやった、お前たち。では、これより停泊船に戻って機体の補給と修理を受ける。その間にミーティング。休憩後、予定通り夜明け前にスピリット・オブ・マザーウィルを目指して侵攻を開始する。ご苦労だった。あともう一踏ん張りだ」

 





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