ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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レイヴン×火星のネフィリム

 強さとは何か。そればかりを考えて生きてきた。レイヴンとして戦場で生き残るために必要だったからだ。

 

 強さとは観察力だ。

 

 相手の癖を見抜き、少ない情報から勝つために必要なヒントをみつけ出さなくてならない。そのうえで、こちらの欠点は覚られないように上手く隠してチャンスを待つ。それができなければ死ぬ。

 

 強さとは洞察力だ。

 

 彼我の機体特性と武器特性の相性や相手の心理を素早く理解し、次の行動を決める。状況に応じて取るべき行動を見極め、有効な立ち回りを演じられなければ命を落とす。

 

 強さとは忍耐力だ。

 

 闘争時は大きなストレス状態にある。感じ方に差はあれど、誰もが無意識にストレスを避けようとするものだ。勝負を早く決めようと、不用意に攻めれば手痛いしっぺ返しを食らう。安直に引けば限りある機会を失う。

 

 攻守のタイミングは正確に見極めなければならない。落ち着いて、心理的な駆け引きを制する必要がある。焦りは死を招く。

 

 強さとは恐怖心だ。

 

 臆病者ほど慎重になれる。とくに絶対的な死の恐怖を覚えた際の生存本能は大きな力に変わる。ただし恐怖は脳と身体を萎縮させてしまう。恐怖に支配されてしまえば、後は逃げるか死ぬしかない。

 

 一方で、自信も強さには欠かせない。

 

 調子に乗れない奴は死ぬ。負けないと思いこんでいるだけでも強さになる。ただし慢心しすぎてはすぐにあの世行きだ。臆病と虚勢の間を、綱渡りのようなバランスで維持し続けられるメンタルコントロールが必須となる。そのバランスを崩した瞬間に死ぬ。

 

 強さとはリズムだ。

 

 正確なリズムを持っている奴は強い。とくに呼吸の周期は重要だ。動きから相手の呼吸を読む。そうすれば動きのリズムが読める。逆に呼吸を読まれることも意識しなくてはならない。一定のリズムを刻めるからこそ、意図的に外すこともできる。

 

 ただし一度リズムを崩すと、再度取り戻すのは難しい。クイックブーストを駆使するネクストはとくに。意図しないリズムに陥ったとき、待っているのは死だ。

 

 強さとは健康な心身だ。

 

 高G下でも正確に身体と機体を動かせること。コントロールできる全てを自らの制御下に置くこと。個々の感覚器官を最大限に働かせ、それらを協調させること。そうするためには普段から体調やバイオリズムはもちろん、健康にも注意を払わなければならない。身体姿勢も重要だ。生活態度が悪い奴は戦場でも死にやすい。

 

 強さとは知識だ。

 

 戦いにはセオリーがある。広義ではアセンブルや地利。そして、それらを加味した戦略立て。狭義では、状況や環境に応じた最適な戦術立て。相手方の心理分析もそうだ。最適な状況判断を下すのに知識は欠かせない。無知では生き残れない。

 

 強さとは経験だ。

 

 正しい知識や理論があれば最適解は導き出せるが、戦闘中に膨大な情報を処理するには圧倒的に時間が足りない。その点、身体記憶に刻みつけた正しい経験は、直感という形で短時間で答えに導いてくれる。しかし、それは一朝一夕で身につくものではない。逐一状況が変わる戦場では経験がものを言う。経験不足でも死ぬ。

 

 もちろん、強さに関わる要素は他にもある。ただし、これらの要因が戦力に占める割合はごくわずかだ。

 

 身も蓋もない言い方をすれば、強力な武器や機体を使うことが第一優先となる。強い武器や機体は、搭乗者への要求項目も大幅に引き下げてくれる。

 

 特長を活かして、弱点を攻める。利得を最大化して、損失を最小に抑えるのは勝負事の鉄則と言えるだろう。死にたくなければ強い武器と機体を使うこと。その点で劣っていれば、それだけ死に近づく。理不尽であっても、これが現実だ。

 

 この『ネフィリム』という機体は、俺が知る限り間違いなく現存する兵器のなかで最強といえるだろう。

 

 基本はネクストと同じではあるが、一回り大型であるぶん装備する武器の威力は高く、装甲も厚い。エネルギー出力と容量も潤沢。なかでも特筆すべきは機動性だ。

 

 各部のクイックブーストは、一般的なネクストとは比べものにならないほど大推力を誇り、瞬間加速はプロトタイプネクストにも匹敵する。

 

 ただしORCAも同じ機体を保有しているらしく、このネフィリムと同型機をジョシュア・オブライエンが使うと予想されているため機体の優位性は期待できない。

 

このミッションの成否は、互いの搭乗者としての純然たる強さと、クイックブーストの扱いの巧さで決まるだろう。

 

 機体を跳ね飛ばすほどの大推力を吐き出すクイックブーストはネクストの最大の特徴とも言える。極短距離であるものの前後左右への高速移動と、その場で急速回頭を可能とする高機動の要だ。

 

 それだけに、互いが高速移動する対ネクスト戦は、クイックブーストの扱い方ひとつで有利にも不利にもなる。

 

 AMSの神経接続で操作するネクストは、若干の遅延はあるものの、生身の肉体を動かすのと変わらない。自動姿勢制御(オートバランサー)も働くため、意図的にバランスを崩すように意識しない限り、常に重力に対して垂直に維持される。

 

 飛び上がろうと思えばメインブースターが噴射されて高度が上がるし、後退しようと思えば前部に備わったバックブースターが噴射されて後ろへ下がる。空中では機体各部に備わったブースターが協調制御され、バランスを取る感覚で姿勢制御や移動ができるため操作に慣れてしまえば特別難しい点はない。

 

 ただし、クイックブーストだけは別だ。四肢の制御や姿勢制御ブースターは抽象思考で動作させられるが、クイックブーストにはおおざっぱな抽象思考が反映されない。クイックブーストを作動させるには操作を明確に意識して、機体の前後左右に備わったブースターを一つ一つ思考で動作指示をしてやる必要があった。

 

 ボタンのような物理インターフェースを使えば、その操作は比較的容易となるだろう。だが思考で操作するAMSインターフェースでは、思考に機構が追従しないもどかしさ(・・・・・)を余計に感じやすい。おまけにクイックブーストの機械的な制限も、より扱いを難しくしていた。

 

 まず大原則として、単位時間あたりのジェネレーター出力の問題からかクイックブーストの2カ所以上の同時噴射はできない。加えて装置冷却のために必ずリロードタイムを挟む必要があった。

 

 そのためクイックブーストを使用して一方向へ連続的に高速移動をすることはできず、リロード中は一瞬ではあるが機体は停滞する。これを最小限に抑えるためには最短のリロードタイムで再度噴射入力をするか、各箇所のブースターを効果的に組み合わせて使わなければならない。

 

 だから移動距離を速度を最大限に稼ぐために、ネクストでは一定リズムで前後左右に蛇行しながら飛び跳ねるような特有の動きになる。

 

 加えて各ブースターのリロードタイムのせいで、連続して使える組み合わせにも制限がある。実際に使える組み合わせは直感的とは言えず、また状況に応じて適切な組み合わせを繰り出すには高い練度が必要だ。

 

 入力タイミングもシビアで、わずかでも間違えば不発となり、ひとつのアプローチがまるまる成立しなくなる。とくに近距離戦闘、あるいは一対多の状況ほど不発のミスはリスクが大きい。

 

 焦ってリロードタイムを経る前にクイックブーストの発動入力をしてしまえば、敵の眼前で停滞し大きな隙となる。大切なのは正確なリズムの維持。最大の敵は焦りだ。

 

 だが、どれだけ的確にクイックブーストを使えたとしても、人格移転型AIのジョシュア・オブライエンより勝ることはできないだろう。その理由は、この機体にある致命的な欠点にある。ブースターの出力が高すぎるのだ。

 

 ネクストより高強度高容量のGショックアブソーバーが組み込まれても、ネフィリムのクイックブースト時はネクスト以上の重力加速度が身体を襲う。その度に血液や体液が身体を突き抜けて飛び出さんばかりに体内を駆けめぐる。まるで四方八方から巨大な金属パイプか何かで殴られているようだ。

 

 外界映像はAMSによって視覚野に直接送り込まれるため、眼球へ血が溜まるレッドアウトは起こらない。ただし、脳への血流不足によるブラックアウトはいとも簡単に起こる。そのためクイックブーストのタイミングと出力調整を誤れば予兆もなしに意識が飛ぶ。

 

 意識を失いそうになると、即座にAMSフィードバック機能が自律神経に働きかけ、血管を強制的に収縮させて覚醒が促された。それが延々と繰り返される。まるで拷問だ。

 

 肉体を持たない人格移転型AIなら重力加速度は無視できる。だが生身の人間はそうはいかない。下手に操作すれば、それだけで自死を招きかねない。

 

 おまけに、この機体のさらなる特徴である、飛行モジュールときたらまさしく欠陥品と言うしかない代物だ。

 

 飛行モジュールは機首カウルと主翼およびエンジンの2つのパーツに別れていて、それらを装着すればネフィリムを大型戦闘機のように運用できる。モジュールは使い捨てで、一度外してしまえばあとはヒト型としてしか運用できないが、その点はまあいいだろう。

 

 エンジンは、構造が簡単でローコストなラムジェットエンジンを搭載し、高速巡航が可能だ。スクランブルがかかってもイスラエルからアフリカ・キリマンジャロの戦地まで、ほんの数十分あれば辿り着けるはずだ。

 

 ただしラム圧が得られない低速飛行時は当然のように推力も得られない。おまけに水平飛行を維持できる最低限の主翼しか備わらず、空力を用いた舵はほとんど効かない。わずかでもロール角がつけば浮力が維持できずに機首といわず機体高度がどんどん下がる。

 

 つまり、高速巡航時以外の細かな姿勢制御や機動はネクストのブースターを使って強制的に制御しろということらしい。

 

 たしかに、クイックブーストを使えばラムジェットエンジンが稼働するまでの初速を稼げる。しかし、ヒト型運用時とは違って細かな制御が難しいうえ、飛行時におかしな方向へクイックブーストを吹かそうものなら、次の瞬間はどのような姿勢になっているか予測もつかない。

 

 エアブレーキを駆使したストールマヌーバのようなことが速度を問わず意図的に繰り出せるのは空戦での大きなメリットだ。平行移動はもちろん、その場で方向転換も可能。瞬間的には後ろ向きで飛ぶこともできる。もちろん、制御できればの話だが。

 

 そのための、最低限の巡航性能だけを備えた小さな翼なのだろう。飛行時のこいつはネクストとも戦闘機とも異なる運動性能を発揮する。はたから見れば巨大な鳥か、宇宙人が乗っていると噂されたUFOのような動きをしていることだろう。

 

 その代わり、操縦特性はネクストとも戦闘機とも似つかない。わずかでも気を抜けば次の瞬間は墜落だ。こんな機体をたった数日で乗りこなせと言う。馬鹿じゃないのか。

 

 これは人間が扱えるものではない。こいつを設計した奴は、無知か阿呆のどちらかだ。信頼性こそが兵器におけるもっとも重要なパラメータだというのに。

 

 おまけにアルテリア・ドライブとかいう装置のおかげで、地上の無線送電施設の稼動範囲帯であれば半永久的に浮遊が続けられるそうだが、試しに使ったところマイクロ波の影響か、血液が沸騰しそうになった。コックピットのコジマ汚染対策も万全だと言っていたが、実際のところはどうだか。

 

 極めつけはコックピットに漂うこの臭い。ネクストとの神経接続中でも、嗅覚だけは遮断されない。ネフィリムのコックピット内に漂う臭いは、明らかに人間の体液やら腐臭やらだ。それも一人や二人のものではない。消臭剤で薄められてはいるが、薬品臭混じりの死臭が鼻に刺さって仕方がない。この悪臭による不快感も余計に俺を苛立たせる。

 

 これを設計したオーメルの技術者等とデイビットの奴と、この機体の原型を作った火星人とやらをまとめてコックピットに放り込んで、最大出力の殺人的な加速制動を味あわせてやれればどれだけスッキリするだろうか。

 

 このネフィリムには、AMSフィードバックを利用して自律神経へ働きかけ、メンタルを適度に整える機能も搭載しているとのことだが、どうしてもイライラは収まらない。

 

 どうらやそのメンタルヘルス機能とやらはぶっ壊れているらしかった。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 もう何度目かわからない実機での慣熟訓練から帰投した俺は、オーメルのメカニックの手によってコックピットから引きずり出される。

 

 ハンガーに格納されたネフィリムの周囲には、すぐさまオーメルの専属メカニック達が機体から発せられる熱気をものともせず担当箇所に群がり、次の出撃に備えてチェックを行う。

 

 俺は、すっかり顔なじみになったコックピット担当に抱えられて整備用タラップを降り、階下のフロアで車椅子を準備したフィオナとデイビットに出迎えられた。

 

「経過はどうかね」

 

 車椅子に移された俺は、フィオナにベルトで固定される。その作業が終わったのを見計らってデイビットは毎度のごとく尋ねてくる。

 

「悪くない。だいぶ思い通りに動かせるようになった。あの、おかしな飛行形態時を除けばな」

 

「あれは技術部が遊びで追加したオマケのようなものだ。目的地まで到達できれば何の問題もない。ちなみに航空機の操縦経験は?」

 

「セスナ機を少し。それより、あのコックピットのすえた臭いは何とかならないのか」

 

「すまんが、それは我慢してくれ。あれでも念入りに掃除はさせているんだ」

 

 デイビットはこちらの苦情を軽く受け流す。俺は鼻息を大きく吐き出して、不満を露わにする。

 

 ネクストを操るには先天的な適正因子が必要になる。つまり稀少なAMS適正者(リンクス)がネフィリムのコックピット内で複数人死んでいるということだ。それは同時に、オーメルが非公式のリンクスを保有しているということを意味する。こんな機体のために犠牲にできるほどの数の。

 

「ところで、成層圏に浮かぶアレは何だ」

 

「対地上攻撃兵器の打ち上げ防止のための『衛星軌道上自律型迎撃装置( アサルトセル )』だと教えたはずだが」

 

「違う。そのアサルトセルが撃つ宇宙空間の物体のことだ」

 

 その言葉を聞いたデイビットの表情が凍り付く。一瞬の間を経て、デイビットは押し殺した声を発した。

 

「高度を上げすぎるなと言ったはずだが。どうやら君は見てはいけないものを見てしまったようだ。___指示違反だ。このぶんは違約金として報酬から減額させてもらうぞ」

 

 口ではそう言うものの、細い目をさらに細め、笑みを浮かべている。

 

 会話を交わすうちに、段々こいつの変化に乏しい表情が読めるようになってきた。叱責の言葉や声とは裏腹に、今のデイビットの表情はよく聞いてくれたと言わんばかりにご機嫌だ。

 

「とはいえ、大事なゲストに尋ねられたからには答えない訳にはいかんな。___あれは火星人だよ。正確には火星の機械生命体だが」

 

「は?」と、後背で車椅子を押すフィオナが間の抜けた声で言った。

 

「説明しよう。だが長話になる。休憩がてらコーヒーでもいかがかな」

 

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