ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
はじめに言っておこう。これから話すことは本来、君ら一般人が知ってはいけない内容だ。よってこの話は、年寄りの独り言だと思って聞いてくれ。
それと断っておくが、いくら
その前にフィオナ嬢、コーヒーのおかわりはいかがかな? なに、いらない? そうか。では話すとしようか。
かつて、国家間の激しい宇宙開発競争があったことは以前にも言ったな。
国家は自国の防衛や敵対国への牽制のために衛星機動レーザーや質量兵器などをこぞって打ち上げた。
当時打ち上げられた数は、対空迎撃用と対宙迎撃用合わせて約2万基。現在でも1万8000基あまりのアサルトセルが稼働を続け、地球を編み目のように覆っている。
それぞれの個体は自律稼働し、低軌道衛星高度に近づく物体を見境なくプラズマレーザーで攻撃するようプログラムされている。作動電力は個々に備わった太陽光パネルで発電し、マイクロ波送電で互いに必要電力を補いあう。
アサルトセルにより、苛烈な宇宙開発競争は終わった。しかし同時に大気圏外への離脱も困難になり以降、人類はそれまで躍起になっていた宇宙開発も断念せざるを得なくなった。
だが、おかしいと思わんかね。競争抑止のためとはいえ、ここまでのことをするのは。
なぜなら、アサルトセルは地上と宇宙の往来を制限するためのものであると同時に、宇宙からの侵攻を防止する防衛網として機能しているからだ。
そして先ほど言った通り、アサルトセルが撃つ宇宙空間に浮かぶ物体は地球侵攻が目的と見られる火星の人工機械生命体だ。
人工とは語弊があるかもしれないが、我々地球人類以外の知的生命体が起源であることは間違いない。もしかしたら、地球へ移住してくる前の我々の遠い遠い先祖が作ったものかもしれんな。実際のところ、それは確かめようがない。
ただ確実なのは、アサルトセルは人類を閉じこめる檻ではなく、火星由来の機械生命体の大気圏侵入を防ぐための最終防壁だということだ。
私も全てを知っているわけではない。事細かく知ったのは国家解体戦争で各機関の施設やらを掌握してからのことだ。確かめようにも一切の関係者はすでに全員この世にはいないため、もはや締め上げて問いただすこともできん。
これから語る詳細は、国家解体戦争で旧アメリカから押収した政府機関の機密文書の内容だということをあらかじめ伝えておこう。
アサルトセルが打ち上げられる以前は宇宙開発競争も盛んだったが、同時に惑星調査も活発だった。
国際月面基地をハブとして金星や火星へ、あるいは系外惑星へ向けて無人衛星が何度も打ち上げられた。有人調査も幾度となく行われた。なかでも注目が集まったのは火星だ。数度にわたって火星を居住可能にするための調査とテラフォーミング実験が行われた。
資料によれば、現在の火星はほぼ全体が赤茶けた酸化鉄の砂漠になっているのは間違いない。だが、明らかな高度文明の痕跡が確認された。かつて火星に栄えた文明が存在したのは確かなようだ。しかし、7度目の火星遠征調査で状況が一変した。
第7次火星遠征調査報告書『シドニア・レポート』。旧アメリカの最重要機密に指定されているその報告書にはこのように記されている。
人面岩の衛星画像で一時期有名なった、火星のシドニア地区の地下には旧火星文明の施設が遺跡として残っている、と。
第7次火星調査隊は、火星のシドニア地区にある巨大な人工建築物と思わしき遺跡の地下で、高精度なレンズ状の物体を発見した。だが、それを持ち帰ろうとした調査隊は、突如現れた化け物の大群に襲われたという。
機械のようでもあり生物のようでもあるそれは、群をなして調査隊を襲ったそうだ。レポートでは、旧火星文明で使役されていたロボットかもしれないと報告されていた。
調査隊は命からがら火星から逃げ出した。そして、その火星の機械生命体は『
それから数十年後、さらに驚くべきことが起こった。そのディソーダーが地球周辺でも目撃されるようになったというのだ。
ちなみにこれは余談だが、調査隊が持ち帰ったクリスタルレンズには、火星のさまざまな情報が高密度で記録されていた。解析できているのは、今のところコジマ粒子の生成の基礎理論とネフィリムの機体などについてだけだが、恐らくこれは火星における重要な品だったのだろう。
ディソーダーの正確な目的はわからない。調査隊が持ち帰ったモノを奪還するために地球まで追いかけてきたのか。それとも遺跡荒らしへの報復か、はたまた地球侵略か。そのための斥候か。
とにかく、調査隊は火星にあったパンドラの箱を空けてしまったのだよ。
幸いなことに、奴らは寿命が長いようで、こちらがじれったく思うほど侵攻速度は緩慢で実にのんびりとしたものだ。付近で発見されるディソーダーの個体数はそれほど多くない。個々の戦力もさほど高くはないが、周期的にまとまった数が押し寄せてくる。
かつての為政者たちは国際的な宇宙航空部隊を組織し、手始めに通常兵器による迎撃で対応した。そして、いつまで続くとも知らない防衛戦を強いられる羽目になった。
そのなかでディソーダーの特性もある程度解析された。それらは機械でありながら、実に生物的な振る舞いをする。ちょうど群をなす昆虫類のようにある程度の統率された行動をとるようだ。
さらに、離れた地点にいる個体同士でも行動に一定の規則性が見られることから、個体あるいは群全体で意志疎通を図れるらしい。しかも、こちらの迎撃手段に対抗するように、押し寄せてくるディソーダーはその都度、わずかに形状が変化しているとのことだ。どうやら奴らは進化するらしい。いや、マイナーチェンジといったほうがいいか。
ディソーダーに関する最終調査レポートの結論には、奴らは何らかの方法を用いて距離に関係なく情報伝達を行い、各個体が得た情報を統合して外因に耐性を持つ新たな個体が火星のどこかで生産され続けていると記されていた。
オーメルとしては、むしろその通信技術と長期間稼働し続けられる動力源の方が興味味深いがね。
そしてもう一つわかっているのは、奴らがコジマ粒子に対して特異な反応を見せる点だ。微量のコジマ粒子由来の放射能汚染には近寄ってくる。だが高濃度コジマ粒子からは避ける動きを見せる。おまけにその装甲ともいえる外板は、コジマ粒子の相転移を利用した兵器攻撃に対しては非常に脆い。
また、鹵獲したディソーダーのサンプル個体の内部機構は、ネフィリムの原型機と構造的によく似ていることも後からわかった。つまり機構や動力源などの詳細は、現在の地球の技術レベルでは解析不可能ということだ。
この事実を受け入れた宇宙開発競争時代の為政者たちは、ディソーダーへの驚異レベルを引き上げ、とうとうアサルトセルを衛星軌道上にばらまいて宇宙を隔離した。
同時に地球は宇宙への道を閉ざし、各国各企業の宇宙開発はすべての計画が道半ばにして頓挫した。そしてメディアを操作し情報を統制、人々に宇宙へ目を向けないように、それらしい情報をばらまいてこの事実を隠匿した。
それが苦肉の策であったことは想像に難くない。その判断はいい。人民の混乱を抑えるための正攻法ともいえるだろう。だが、ディソーダーへの驚異度は甘く見積もりすぎた。時の為政者どもは、アサルトセルをばらまいただけで手打ちとした。根本原因を解決しようとせずに、なかば放置したままで。あとは知らぬ、存ぜぬで、次の世代に丸投げだ。それも世界ぐるみで。
まったく、あきれたものだ。ディソーダーの件だけではない。旧世紀にあった戦争の混乱も貧困も、治安悪化も何もかも真実から人々の目を背けるための茶番だ。地球の問題は山積みだというのに、利権がらみのそれらしい解決策を提案し実施するだけで、肝心の問題は何一つ解決していない。にもかかわらず自分らが地上の支配者気取りで責務を全うした気でいる。
星の危機に際して責任感が足りんのだよ。おまけに詰めが甘いときた。そのくせ、保身のための情報工作やネットワークだけは強靱でね。そんな者たちに管理される世界など、どうせいつか潰れていた。潰されても仕方がないと思わんかね。
正当な手続きでは、旧世紀の腐りきった為政者どもを裁くことはできなかった。だから我々パックス6企業は協力しあった。怠惰でノロマな為政者どもから実効支配権をもぎ取るために、アーマードコア・ネクストによる圧倒的な武力を行使した国家解体戦争を遂行し、各国の政府機関を掌握した。
そうでもしなければ世界は変えられなかった。我々は多くの犠牲を払ってまで、旧体制の誤りを是正したのだ。
もちろんそれが誇れることではないとはわかっている。正義のためだと言い訳をするつもりもない。だが、人類全員を真綿で絞め殺すのと、2/3の犠牲で全人類の残り1/3を生かす。果たしてどちらが正しい選択か、君に答えが出せるか。
身軽になった人類はそれだけ対応の選択肢が増える。利権をむさぼるだけの無駄な武力戦争や無意味な経済対立構造も駆逐することに成功した。
ただしパックスの各企業も、そのなかにいる我々管理者層の人間も一枚岩というわけではない。大筋では同じ方向を目指してはいるが、細かな思想の違いは少なからずある。とくに新興企業のレイレナードとは宇宙開発、強いてはディソーダーの扱いについて大きな軋轢があってね。
レイレナードの連中は、ディソーダーと再接触をして地球文明の急速な発展を望んでいた。ある程度の行為は黙認していたが、彼らはやりすぎた。だから消した。これが君が関わったリンクス戦争の裏事情だ。
つまり、レイレナードの残党であるORCAが行おうとしているのは、宇宙進出ではなくコンタクトだということだ。
おそらく奴らはジョシュア・オブライエンの人格移転型AIとディソーダーを接触させ、その柔軟な思考と高い演算処理を通じて意志疎通を図ろうとしているのだろう。未知の存在と不用意に接触する。地球にとって、これほど危険なことはあるまい。
確かに私を含む数人の人間はパックスを操り、地球の実効支配権を握っている。世界の支配者なとと呼べば聞こえはいいが、実際は王様のような気楽なものではないよ。強いて言うなら我々はただの管理人、あるいは庭師のようなものだ。我々がしているのは庭の手入れのようなものだよ。地球という箱庭の。
同時に地球の番人であり、その責任者でもある。すべての責任は負う。正直に言えば、最悪の事態が起こった際の責任は取れない。だが、そうならないために、この身を捧げる覚悟が我々にはある。神に誓って。
いや、地球の神はもういない。火星の神にでも誓おうか。ふふん。
私のような立場になるとね、腹を割って話せる人間は少ないのだよ。だから、君らには知っていてほしい。
うん? どうもしないよ。そもそもそんな話を漏らしたところで誰も信じない。だが、人に伝えるのはよした方がいい。思い込みやすい人間は、アサルトセルとディソーダーの話を聞いただけで閉塞感を覚えてパニック症状を起こすからな。
君には我々の要求に沿って、しっかりと働いてもらう。もちろん十分な報酬は支払う。つまりは、お得意様ということだ。これからもよい関係であることを望むよ。エトランゼ。
___おや、すまない。事務連絡だ。失礼。
私だ。___そうか、わかった。待機させておく。
エトランゼ、いやレイヴン。セロ達がORCAのスピリットオブマザーウィルと交戦に入った。いつでも出られるように出撃準備をしておけ。