ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
機体を襲う轟音と閃光、衝撃波と爆風。BFFが建造した超巨大兵器スピリット・オブ・マザーウィルの主砲から発せられる、3連射2セット1サイクルの正確無比な砲撃が我々の行く手を阻む。
それらをかいくぐりながら、我々4機はクイックブーストを断続的に吹かしてネクストを前へ、前へと進ませた。
進行方向正面に再びグレネードが着弾。光学センサが捉えた閃光が、AMSを通して視覚野に突き刺さり、爆風でネクストの巨体が木の葉のように煽られる。衝撃波が脊髄の芯までを震わせた。
轟く爆音が聴覚野をつんざき、発破で巻き上げられた岩つぶてがプライマルアーマーで運動量を削ぎ落とされながらも機体の装甲を小径弾丸にのように叩いて硬質な音を立てた。視界は爆炎と黒煙で覆われ、空間識失調を起こして瞬間的に平衡感覚を失いそうになる。
《この長距離で、この砲撃精度は反則だろっ》
隊列の前衛にいるセロが苦悶の声を上げた。
スピリット・オブ・マザーウィルなどと仰々しい名前がつけられていても、正直単なるデカいだけの兵器だろうと侮っていた節は正直ある。遠距離狙撃の兵器設計思想を主体とするBFFの兵器とはいえ、まさかこれほどのものだとはな。軽い舌打ちとともに気持ちを引き締め、改めて進行方向を睨みつける。
速力に劣るメノと私の機体に砲撃が向かないように、セロとミドの前衛が絶えず速度と高度を変化させながら移動し、照準を絞らせないように攪乱機動をしてなんとかここまで接近できた。
しかし、ここから距離を詰めるごとに砲撃の精度は上がっていくだろう。こちらも徐々に弾道が見切りづらくなっていく。
だが、打つ手がまったくないわけではない。ただし、それを実行するにはもうほんの少しだけ時間が必要だ。後背の空には朝日が登り始めた。辺りは薄っすらと明るくなってくる。
正面突破のリスクの高さは重々承知している。しかし、ほぼ真東から侵攻する我々には心強い味方がいる。この手が使えなければ、そもそも真正面からの強行突破などという無謀な選択はしない。
「まもなく日の出の時刻。全員、全速前進に備えろ」
《おいスミカ、本当に上手く行くんだろうな》
「さあな。少なくとも、光学ロックのある程度の阻害は見込めるだろう。効果がなければ砲撃を避け続ければいいだけだ。天才坊やなら朝飯前だろう?」
《天才でも、出来る事と出来ない事があるんだぜ。ふざけっ……》「散開!」
直撃コース。全機が避けこそしたものの、近接信管で弾体が直近で弾けた。これまででもっとも近い距離での爆発に、生身でコンクリート壁にでも叩きつけられたような強烈な衝撃波に機体が煽られ一瞬制御を失う。
「当たれば木っ端微塵だと思え。接敵まで約10分間、絶対に当たるなよ」
機体制御を取り戻しつつ、私は無茶を承知で言う。
スピリット・オブ・マザーウィルの主砲の照準合わせにどのようなシステムが用いられているかは知らないが、おそらく光学ロックで目標を捉えてレーダー走査でベクトル計算をしたうえでの偏差砲撃だろう。
砲撃は回避するだけが能ではない。回避できないのなら、狙えなくしてやればいい。
東から侵攻する我々が背にするのは朝日。強烈なアフリカの直射日光に紛れて接近できれば、ロックの妨害くらいにはなるかもしれない。
「高度400を維持しろ」
ただし、最大限の効果を得るには時間ととも昇る朝日と、スピリット・オブ・マザーウィルを結ぶ直線上に機体を置き続けなければならない。
刻々と変化する太陽の傾斜角ごとに取るべき高度は事前に計算が済んでおり、今は手製のナビゲーションシステムをHUD上に表示させてある。それらに目を走らせながら、私は各機に高度指示を出す。
そうして、待ちわびた太陽がようやく水平線から十分に顔を出した。後背から後光が射し、前方に広がるアフリカのサバンナをさらに強く照らし出す。まず、前方にそびえ立つキリマンジャロ山脈が明るく照らし出され、夜と朝の境界線が平均速度マッハ1弱で進む我々を後方から追い越した。
それまで暗褐色だった大地が輝きを帯び始め、遠方にはっきりと捉えられたスピリット・オブ・マザーウィルを望む。
同時に砲撃にも変化があった。先ほどまでより明らかに発射間隔に開きが生じている。時間にしてほんの数秒程度ではあるが、太陽光の直射によって光学照準が阻害され、砲撃の照準調整に時間を要しているのだろう。
再度砲撃。しかし、先ほどまでより明確に照準精度も低下している。視認してから、わずかな進路変更だけで砲弾を回避できるほどに狙いが甘い。こちらの狙いどおりだ。私は思わずほくそ笑む。
《砲撃、逸れたぞ!》
《これなら行けます!》
「よぅし! 隊列を最大速度隊形に。高度を維持したまま、突っ走れ!!」
《はいッ!》
指示とともに、前方にいるミド機とセロ機の背面から発せられる噴射炎が明らかに大きくなった。しかしミドは高い速力を維持しながらもクイックブーストの出力とタイミングを微調整することで、速度を連続的に変化させて主砲の狙いを阻害している。
セロも前進しながらメインブースターを偏向させて左右へわずかに機体を切り返し、照準点の攪乱を図っている。これらの細かい動作は私の指示ではなく彼らのアドリブだ。
重い機体の私とメノは、こうした小細工などは必要ない。オーバードブーストで全速前進。それに加えて最高出力かつ最短リロードでのクイックブーストも併用し、全速力を以て機体を前へと進ませる。
前へ、前へ。
1秒でも早く前へ。
日が昇るにつれて、さらに強さを増す朝日で照らし出された赤茶けたアフリカの大地が、眼下を高速度で後方へ流れていった。
「高度上げ。430」
当然、昇る朝日に合わせて侵攻高度も調整しなくてはならない。私は視界上に映ったレーダーのスケールと高度計の数値とナビに気を配りながら砲撃軌道にも注意を払う。
照準精度とリロード速度を低下させながらも、スピリット・オブ・マザーウィルからは依然として砲撃が立て続けに放たれる。何度かは直撃コースへも飛んできた。我々はそれらを淡々と処理し続け、前へと進み続けた。
そして相対距離5000まで近づくと、いよいよスピリット・オブ・マザーウィルの巨体が視界に大きく映る。
《正面、目標を確認……大きい……!》
《でけぇ。まるで城だ》
あまりの巨体に、抑揚が薄いミドの声にも感嘆の色がこもる。セロが言う城の例えも的を射ている。正直、私も驚いているよ。まさかこれほどのスケール感だとは。
スピリット・オブ・マザーウィルのサイズについてはブリーフィングで聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると想像していたより遥かに巨大だ。それは接近するほどに大きく映り、よけいに非現実感味を湧き上がらせる。
相対距離3000。スピリット・オブ・マザーウィルの前方に格納されていた6枚の翼状をした甲板がゆっくりと水平に展開される。迎撃体勢を整えているのだろう。望遠カメラで確認すれば、甲板上や直下の地面にはすでにおびただしい数のノーマルACやらMTやらが展開していた。
距離2000ほどまで詰め寄ると、さすがに主砲の照準は追従できないようでグレネードの砲撃は止まった。代わりに各部に備わった重機関砲の斉射が侵攻を阻む。同時にアクティブレーダーの照射を感知。回避を促すアラート音が聴覚野に響いた。
「ミサイル、来るぞ。密集陣形に。フレアディスペンサー、アクティベート。進路、高度、速度ともにこのまま。手はず通りに突っ込む!」
直後、甲板上のミサイル発射管からおびただしい数の垂直発射ミサイルが打ち上げられた。100発は下らないミサイル群は一度上昇した後、自律誘導されてこちらに迫った。それはまるで巣を刺激された蜂の様相で、敵である我々を駆逐しようと襲いかかる。
「ミド、フレアを」
《了解。フレア発射、1》
掛け声とともに、先行するミド機から複数の光弾が打ち上がる。
目前まで迫っていたミサイル群が、高熱を発するフレアデコイを目標と誤認して急激に進路を上向きへと変える。だが単発に近いフレアでは絶え間なく押し寄せるミサイル群のすべてを誘導することはできない。
続いてセロがフレアを焚く。
ミサイルが絶え間なく押し寄せるなら、フレアを捲き続ければいい。密集隊形で各機が順繰りにフレアを運用すれば、リロードタイムと弾数の問題は解消できる。だが、絶え間なく押し寄せるミサイルをすべてフレアに誤誘導させるにはタイミングが重要だ。
「3。おいセロ、かけ声はどうした!」
次は、私がフレアを発射。掛け声で射出タイミングを図る練習は、アフリカまでの道中でのシミュレーター訓練で散々やったはずなのに、セロの奴は掛け声を発さない。私はそれを指摘する。
《4ッ》
続いてメノがフレアを捲く。時間差で発射されたフレアによりミサイルの第1波は全弾回避に成功した。しかしスピリット・オブ・マザーウィルの懐に飛び込むまでには、まだわずかに距離がある。
《ミサイル第2波、来きます。1》
《わかったよ。2ィ》
「そうだ、それでいい。3」
《4ですッ》
1、2、3、4。
1、2、3、4。
1、2、3、4。
1、2……。
ひたすらフレアを捲きながら突進。密集陣形だけに、フレアの射出タイミングを誤れば全員に被害が出る。綱渡りのようなプロセスを踏んでスピリット・オブ・マザーウィルに肉薄する。
「10時方向甲板、発射管2門。奥は私が撃つ。セロ、手前を」
私が残る最後のフレアを発射したところで、レールガンの超射程に捉えたミサイルサイロを狙撃する。格納された弾頭が誘爆を起こし、派手な爆炎を上げた。手前の発射管はセロが左腕の機動レーザーで破壊し無力化させた。
懐に飛び込むまで、あともう少し。
ミサイルの段幕はわずかに薄くなったが、今度は先程から放たれ続ける大口径機関砲に加え、至るところに配置された小径機銃が放たれた。さらに甲板上や地上に配置された無数のMTやらノーマルACからの砲撃も加わって、高熱を帯びた曳光弾が空間を埋め尽くす。
それらもかかいくぐり、さらに前へ。
そうして、ようやく懐に潜り込むことに成功した。先程破壊したミサイルサイロがある左舷手前の甲板上に一度着地し、枯渇寸前だったコンデンサのエネルギーを回復。その間にも押し寄せるミサイルは、速射性の高い武器を持つミドとメノが迎撃して周囲の防御を固めた。
築いた橋頭堡を足がかりとして、次はスピリット・オブ・マザーウィルの攻略に移行する。
「まず、やっかいな甲板上のミサイル発射管を潰して回る。位置は頭に入っているな。陣形を維持したまま時計回りに周回して順次破壊。雑魚は無視しろ。回避は任意。ターゲットはこちらで指示する。ネクストの急襲にも警戒しろ。行くぞ」
一瞬ばかりの休息から、すぐさま全速機動。次のミサイルサイロを破壊すべく、機銃とミサイルの迎撃の合間を縫うように4機が目標へ向かう。
現時点でスピリット・オブ・マザーウィルの攻略法などは編み出されていない。さしあたり、それぞれの甲板上にあるミサイルサイロをまず潰す。もっとも厄介なミサイルさえ無力化してしまえば制圧の難易度は大きく引き下がるはずだ。
主砲を破壊するのはそれからだ。だが、そう簡単にはやらせてくれないだろう。なにより5機のネクストの存在がもっとも大きな障壁となる。
「奴等はどこだ」
次のミサイル発射管へと機首を向けながら、周囲の状況確認とともに5機のネクストの所在を探るべくレーダーを操る。通常のレーダーは機影反応多数で役に立たない。熱源探知も同様だ。コジマ粒子反応も捉えられないことから直近にいないことだけはわかる。
《いました。中央塔の最上部にネクスト。数5》
ミドの報告に、視線を該当箇所に向ける。そして姿を認めるなり、私はすぐさまオープン回線を開いた。ORCAのリンクスたちに向けて啖呵を切るために。
「お前ら、高見の見物とはずいぶん余裕だな。見てろよ、すぐにそこから引きずり降ろしてやる」