ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
アーマードコア・ネクストに備わる
しかし、ネクストを量産しようにも、先天的な適正を有する操縦者の絶対的な不足が運用の最大障壁となる。世界の単独覇権を目論んでいたBFFは、リンクスの調達を名門ウォルコット家に頼りつつも、内心はそれを吉としない。その打開策として考案されたBFFの次世代兵器思想が「アームズフォート計画」だった。
運用人員にはリンクスのような特異性に依存せず、通常兵器では破壊不可能なほどの大質量と圧倒的な火器物量でネクストを封じ込める単純明快な軍事ドクトリン。BFFはレイレナード・アクアビットとAIネクスト開発に巨額の投資をするかたわら、アフリカの奥地では早期から企業体力にものを言わせた巨大兵器の建造が密かに進めていた。
その規模は、GAEを抱き込んで建造させた『ソルディオス』の比ではない。ソルディオスはあくまでアームズフォート計画の前段階であり、他企業の注意を引くための目くらましにすぎなかった。
リンクス戦争に敗れ、BFFの企業母体が解体されながらも、ようやく完成間近までこぎ着けた超巨大兵器『スピリット・オブ・マザーウィル』。
その全長は左右舷に広がる巨大な水平甲板の展開時で差し渡し2.4km。全高は600m。悪路走破と姿勢を水平に保つための6足歩行。両舷には巨大な3連装のグレネード砲。各部にもおびただしいまでの兵装を備える。
スピリット・オブ・マザーウィルは、それまで人類が建造したあらゆる兵器よりも巨大で異形の存在だ。アフリカの平原にそびえ立つそれは、敵対者を迎え撃たんと周囲に圧倒的な存在感と威圧感を放つ。
そのスピリット・オブ・マザーウィルの最上層に設けられた広大なヘリポートエリアに5つの人影が居並ぶ。そのうちの1体は4本の脚をもつ異形の機体だ。
リンクス戦争の敗戦者であるレイレナード・アクアビット・BFFの残党員で構成されるORCAの中核を成す5名のリンクス。メルツェル、ネオニダス、真改、王小龍、エミリオ・ウォルコット。彼らが駆るアーマードコア・ネクストはスピリット・オブ・マザーウィルの頂上から地上を見下ろしていた。
しかし砂塵と霞みで地表は見えない。それ以上にスピリット・オブ・マザーウィルの放った膨大な数のミサイルが吐き出す噴煙と、無数の銃火機から放たれる硝煙が雲海のように低く立ちこめる。さらにその下は、曳光を帯びて放たれる数多の弾丸とミサイル弾頭の嵐だ。
嵐の中心にいるのは高速移動しながら明滅する輝点が4つ。光は等間隔を保ったまま眼下を駆け、等間隔で高熱源体が打ち上げながら迫った。ミサイル群は誤誘導され上方へと立ち上る。
5体居並ぶ影のなかでも、で一際細身のシルエットを持つアクアビット製の機体『シルバーバレット』のコックピットに収まったネオニダスが小言を漏らす。
「ほほお。奴等、隊列を組みながらフレアを放ってミサイル対策をするとはのう。スパイの存在を逆手にとって欺瞞情報を撒き、防衛が手薄になった真正面からの強行突破。おまけに太陽光でスピリット・オブ・マザーウィルの光学照準を阻害しながら突っ込んできおった。このぶんじゃ、すぐにここまでたどり着くぞ。まんまと出し抜かれたな、メルツェル」
「銀翁。あなたは一体どちらの味方なのかな」
「こうなったのも、そもそもお前がペラペラと余計なことを話したあげく、オーメルの小娘を逃がしたことが原因じゃぞ。お前はともかく、エミリオとなら撃破は簡単じゃったろうに、なあ」
「まったくだ。メルツェルの指示に従うとロクな結果にならない」
「そうは言うが銀翁、あなたこそ対空防衛のソルディオス砲塔を自ら破壊したじゃないか。正気の沙汰とは思えない。おまけに霞スミカをこちらに引き入れると言い張ったあげくにスカウトに失敗し、尻尾を巻いて逃げ返ってきた」
かつて、レイレナードのNo.1リンクス、ベルリオーズが駆った『シュープリス』に搭乗するORCAの首謀者であり参謀でもあるメルツェルが、言及したネオニダスに対して反論を述べる。
「ソルディオス砲を破壊したのは、肉を切らせてなんとやらじゃよ。逃げたのは戦略的撤退じゃ。お前こそ、どうせオーメルの子娘にフラれた口じゃろ? そもそも、責めを受けるのは儂だけか。セロを仕止められなんだ真改は?
「……無念」
アリーヤの標準機に近接武器を持たせた『スプリットムーン』に搭乗する真改が短く一言。そして、スナイパーキヤノンを背面に担いだ四脚型に乗る
「ジジイにジジイとは呼ばれたくない。フランシスカとユージンはあれでも
「*1
ネオニダスが、半分やけになった口調でまくし立てる。
「いいのかい。お気に入りの霞スミカ氏が亡くなっても」
「別に。靡かんのなら敵として叩き潰すまでじゃよ」
そこへオープン回線の通信。霞スミカの怒声がここ一帯にいるすべての無線に響き渡った。
《お前ら。高見の見物とは、ずいぶんと余裕だな。見てろ、すぐにそこから引きずり降ろしてやる》
そして、そのままブツリと通信が切られる。
「ははは。霞スミカ氏は実に気っ風がいい。こちらに引き入れられなかったのは口惜しいが、改めて彼女らを敵対者として歓迎しようか。盛大にな」
「で、具体的にはどうする?」
「彼女等の目的はマザーウィルの主砲を潰すことだ。主砲の護衛と迎撃に専念するだけでこちらの負けはない。それに、すでに裏工作も済ませてある。ロケットの打ち上げまで、あと小一時間ほど。作戦など練るまでもなく、我々の勝利は確定的だよ」
メルツェルが不敵に笑いながら言う。
「とはいえ、このままじゃマザーウィルのミサイルサイロは確実に全損じゃぞ。ほれ、また一つ破壊された。BFF様の面子を保つために形だけでも迎撃に参加せんと、お偉方に文句を言われる。なあ、王小龍」
「儂はウォルコット家との単なるパイプ役だ。あくまでオブザーバー役であり、管轄する部下の指揮権はあるが軍部全体の決定権はない。BFFの幹部連中の考えなど知らんし、興味もない」
スピリット・オブ・マザーウィルの後方にあるロケットサイロは、かねてからアフリカ開発を精力的に行っていたBFF所有の施設だ。先にBFF残党が退去していたところに、同盟関係にあったレイレナード・アクアビットの残党が逃げ込んだ。ここで主導権を持つのは旧BFFの人員でありレイレナード側の発言力は弱い。
今回の作戦は、ネクストによる侵攻に対してスピリット・オブ・マザーウィルの優位性を証明できればパックス側に対して有利な交渉材料になると、メルツェルが言いくるめてBFFの軍部を動かしたのだ。
もちろん、スピリット・オブ・マザーウィルに絶対の信頼を寄せるBFFの軍部は喜々としてメルツェルの提案を受け入れた。それでもこの作戦の主導はあくまでBFF側にあり、もちろん指揮を振るうのもBFFの軍部重役だ。王小龍を含む、メルツェルたち5人には現状、待機命令が下されていた。
「だとさ。どうせ動いても文句を言われる。動かんでも文句を言われる。何かあって、後からこってり絞られるのはメルツェル。もちろんお前さんじゃからな」
「あぁ、確かにそれは面倒だ。では、迎撃は任せる。作戦は適宜遊撃。以上」
「まったく、その
「導き手たる者、下手に自ら動くべきではないよ。私はネクストの操縦が下手なのだから、なおさらさ」
「はぁ」と、ネオニダスがため息ひとつ。
「なら、ワシは出るぞ。あとは」
「俺が出よう。いいな、メルツェル」
「構わない」
「なら、ワシとエミリオと……真改は?」
「我……不動。……メルツェル……護衛」
真改は言葉少なに、その場を動かない意思を示す。
「はぁ。___王の爺、貴様は」
「儂の本懐は狙撃だ。ここから老いぼれの援護をしてやる。せいぜい、流れ弾に当たらないように気をつけるんだな」
「やかましいわい。おかしな真似をすれば、真改がすぐさま貴様を叩き斬るからせいぜい用心しとけよ」
「そうなれば、ウォルコット家からのお前たちORCAへの支援も即、打ち切りだ。それでもよければ好きにすればいい」
「かー、このクソジジイめ。こちらの足元を見おってからに」
王小龍にはORCA内でスパイの疑いがかけられており、それはここにいる5人全員が知っている。しかし、BFF残党とORCAへの出資を未だ続けているウォルコット家の存在が事態をややこしくさせていた。
ORCAは、王小龍がウォルコット家から送り込まれた事実上の監視役であり、オーメル側とも内通していることを確信している。しかし下手に手を出そうものなら出資を絶たれるどころかBFFとの関係悪化も避けられず、超長期的な観点で不利を被る。
一方の王小龍はその関係性を利用してスパイ容疑がかけられていることを知りながらも堂々とした振る舞いを演じ続けられている。利害関係で縛られ、互いに監視し合うことしかできない状況が、今のORCA内の空気を緊張めいたものとしていた。
「はん。まあ、いいわい。___ということは、なんじゃ。これだけ頭数がおって前線に出るのはワシとエミリオの2人だけか。
そこへメルツェルが釘をさすように言葉を付け加える。
「ああ、そうだ。銀翁、出撃するのは構わないが___」
「わーっとるわい、コジマライフルは使わん。マザーウィルに当てたらシャレにならんことぐらい、言われんでも。なんなら置いていく。ここから動かんのならお前のライフルをよこせ。これでいいんじゃろう?」
「それはいいアイデアだ。それなら安心して任せられる」
ネオニダスは
「さて、行くか。とはいえ、どうするかの。足止めが仕事とはいえ2対4はさすがに歩が悪い」
「セロとオーメルの娘は俺が抑えよう。メルツェル、念のため訊くが本当に
「もちろん。交渉の余地がないのなら仕方がない」
「なら儂は、霞とGAの娘っこか。相性としては悪くないのう」
ネオニダスのシルバーバレットが、ヘリポートの端から一歩踏み出し空中へ躍り出た。続いてエミリオが出ようとした背中に王小龍が声をかける。
「エミリオ、
「わかっていますよ。
そう言葉を残し、エミリオの操る
スピリット・オブ・マザーウィルの最上層に残るのは、王小龍のが搭乗する『ストリクス・クアドロ』と真改の『スプリットムーン』、そして、メルツェルの『シュープリス』3機。
「さて、我々は特等席から高見の見物だ。こちらのスペシャルサプライズに驚く彼女らの姿が最大の見物だな」
メルツェルがほくそ笑みながら言い放つ。王小龍は無言でストリクス・クアドロに背面のスナイパーキャノンを構えさせた。