ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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一等星(カノープス)×銀の弾丸(シルバーバレット)

 直上からロックオン警告。狙いは私か。前クイックブースト直後のバックブーストで緊急回避。マイナスベクトルの強烈な減速Gにうめきながら、私は視線を上に向ける。

 

 晴天を背景にネクストの機影が2つ。その一方が放ったプラズマキャノン(TRESOR)と思わしき、放電を伴った白っぽい光条が私の機体のすぐ側を駆けた。回避には成功したものの、プラズマ放電が起こすノイズがレーダー波に干渉し、視界のHUD端に映るレーダーモニターが役立たずになる。同時に無線にもサンドノイズが乗る。

 

 その直後、視界端に映るもう1体の逆関節機が高輝度光を発した。次に繰り出されるであろう敵機の攻撃に備えて、とっさに「散開」と無線で呼びかけたものの、先制で撃たれたプラズマキャノンの強力なECM(Electronic Countermeasure)効果によって、その声が味方に届いたかどうかは定かでない。

 

 眼前を極太の青色レーザーが駆けた。太陽光の直下でも可視できるほどの膨大な光量を伴ったハイレーザーによる攻撃は、先程のプラズマキャノンで開いたミドとセロの前衛2機と、後衛となる私とメノの間に放たれ、6枚あるスピリットオブマザーウィルの右舷飛行甲板と甲板の間をすり抜けて地表に照射される。

 

 味方に被害はなさそうだ。恐らく、こちらの陣形を崩すための分断射撃だろう。それ以上に、あの敵機が放った攻撃の威力と事実に私は驚く。

 

 これほどの威力を持つレーザー兵器は多くない。現時点で存在するのは、インテリオル・ユニオンに属するメリエス謹製の2種のみだ。これは継戦能力に秀でたハイレーザーライフル(HLR01-CANOPUS)の方。目がくらみそうなほどのレーザー照射が終わり、放った敵機が左腕に握る独特な武器形状を見てそう確信した。

 

 特注品である正規のカノープスがテロリスト連中に渡るはずもない。まさか横流し品か。自社の管理体制の甘さに対する苛立ちが、放つ言葉にも乗る。

 

「ネクスト、来るぞ。各個迎撃。逆関節機のカノープスに注意しろ」

 

 プラズマキャノンの干渉電波による通信障害は未だ回復しない。私は無線通信から外部スピーカーに切り替えて味方に指示を飛ばす。無線が封鎖されても外部スピーカー同士でのやり取りは可能だが秘匿性は完全に失われる。指示を出したくとも内容は相手方にも筒抜けとなるため、伝達情報が制限されてしまう。

 

 先ほどのカノープスによる攻撃で、前衛のミドとセロはこちらとの連携が取れない距離まで離れていた。呼び戻して合流したいが、敵はそれを許さないだろう。4対5なら連携次第ではまだ勝ち目があった。しかし2機ずつに分断されては数的優位にある向こうが圧倒的に有利だ。

 

 そこへ敵機からの射撃が襲いかかる。上空からは、ネオニダスが駆るシルバーバレットがマシンガンとライフルの斉射しながら肉薄してきた。

 

《初手はこちらが取った。お前の好きにはやらせんよ》

 

 ECM環境下であるのは向こうも同じだ。外部拡声器を使って挑発とも言える言葉を投げかけてくるネオニダス。外部集音器で拾った音声のうち、外界のやかましい射撃音などは適度にフィルタリングされ、耳障りなネオニダスの音声だけがこちらの聴覚野へ明瞭に届く。

 

「陣形を崩した程度で、何を偉そうに。他の仲間はどうした。まさか、お前ら2人で我々4機を相手にするつもりか」

 

 右腕のレーザーライフルで応戦しながら、私は言葉を返す。敵機を補足したメノ機も両腕のガトリングガンとバズーカを放つが、その十字砲火をシルバーバレットは難なく回避してみせた。

 

《足止め程度なら、ワシら2人で十分じゃよ》

 

「老いぼれジジイが舐めた真似を。返り討ちにしてくれる」

 

 私は虚勢を張りながら、シルバーバレットと改めて対峙する。ネオニダスが駆るアクアビット製の軽量機であるシルバーバレットはが纏う高密度のプライマルアーマーは、メノの実弾兵装に対しても優位に働く。おまけにその高い機動性の前にバズーカのように弾速が遅い火器は掠りもしない

 

 ネオニダスとの先の戦闘でも、素早い奴の動きに対して優位は取れなかった。しかし奴の機体は前回と違う点がある。スピリット・オブ・マザーウィルへの誤射を恐れてかシルバーバレットは右腕に虎の子である強力無比なコジマライフル(AXIS)は装備しておらず、代わりに迎撃防衛戦を有効に進めるための速射性と威力に優れたアサルトライフル(04-MARV)を携えている。左腕は射程が短いマシンガン(01-HITMAN)のままだ。

 

 背中にはプラズマキャノン(TRESOR)を担いでおり、断続的に放たれるプラズマ照射の干渉電波によって、無線とレーダーは相変わらず使い物にならない。

 

 私はスピリットオブマザーウィルから翼のように生えた広大な飛行甲板を足場に立ち回る。構造物を盾にすれば誤射を恐れて手数を減らせるかと淡い期待を描いたが、奴はそんなことなどお構いなしに攻勢の構えだ。

 

 しかし、足止めとは言いつつも、先の戦闘の遺恨からか奴は私にご執心と見える。私はマシンガンとライフルの弾幕を細かな機動で回避しながら、メノの援護射撃を有効に使える間合いでネオニダスと中近距離戦を演じる。

 

 シルバーバレットの相手をしながら、カノープスを持った逆関節機と交戦しているセロとミドの様子をちらりと伺うと、彼らはすでに隣の甲板にまで戦闘領域を移していた。

 

「セロ、ミド。離れ過ぎだ。合流して一度態勢を立て直す」

 

 2人に声が届くように、私は外部拡声器の音量を上げて叫ぶ。それに対して、セロも負けじと叫び返す。

 

《無茶言うな!安易に引けば、ハイレーザーで撃たれる》

 

 まだ声が届く距離にはいる。しかしセロとミドの動きに反応はない。中距離で高い命中精度を誇るカノープスを警戒してか、セロは逆関節の中量機を相手に上下動を交えた近距離戦を繰り広げていた。

 

 一方のミドは、セロとエミリオの交戦距離が近すぎるため迂闊に手を出せず援護しきれないようだ。おまけに、甲板上に残ったミサイルサイロから攻撃に加え、周囲のACやらMTやらの砲撃や誘導弾を高機動軽量機のマグヌスで引きつけており、ミドが戦列を離れれば今度はセロが今より不利な状況に陥る。時折カノープスの閃光と光条が視界端で瞬いた。

 

 向こうはこちらとの距離をさらに離しつつある。こちらから合流するしか手はないか。しかしネオニダスが合流を阻止しにかかるだろう。私が無理に動けば、今度はメノが孤立する。現状は膠着状態を呈しているが、実際のところはこちらが不利な状況だ。

 

 そして向こうには、まだネクストが3機いる。私はネオニダスの相手をしながら、打開策を見出すべく思案を巡らす。それにより反応が刹那遅れた。

 

 スナイパーキャノンによる狙撃。直撃こそしなかったものの肩部装甲を浅くかすめ、その衝撃で機体が煽られる。クイックブーストで強制的に姿勢を取り戻しつつ運動ベクトルから狙撃地点を読み取り、その先に視線を向けるとスピリット・オブ・マザーウィルの頂点部にスナイパーキャノンを構える重四脚機の姿を捉えた。

 

「糞が。王小龍! 貴様は、一体どっちの味方だ」

 

 思うように事が進まない苛立ちを、私は外部拡声器を通してぶつける。

 

《この際だ、王のジジイ。お前さんの立場をはっきりと表明したらどうだ》

 

 王小龍は、私とネオニダスのどちらの言葉にも応じずに、無言で再度スナイパーキャノンから排莢。次弾を装填し、再度照準を絞る。

 

 双方は互いの機体撃破が目標ではない。向こうの目的はあくまで時間稼ぎ。こちらの主目的は、あくまでスピリット・オブ・マザーウィルの主砲を破壊するなりして後続の航空爆撃部隊のフェルミに向けさせないことだ。爆撃予定時刻のタイムリミットはあと30分程度。ターゲットとなる3連グレネード砲は目と鼻の先にあるというのに、ネクストが邪魔で手が出せない。

 

 おまけにグレネード砲自体が非常に強固だ。試しにレールガン(RG01-PITONE)を一発打ち込んでみたが、手応えはない。ミサイルのような爆発性弾薬のほうが破壊には有効だろう。とはいえ私が持つ単発発射の能動走査ミサイル(BM03-MEDUSA)では威力が低く、手に負えない。メノかミドの機体が備える重火器でなければ完全破壊はおろか、動作不能に陥らせることすら困難だ。

 

 時間だけが刻々と過ぎていく。打開策を見出さなければ作戦は失敗だ。あいかわらずネオニダスは素早い動きでこちらを翻弄する。強力なプライマルアーマーに阻まれながらもダメージは着実に与えているが、早急な撃破は如何せん難しい。

 

 メノ機の左腕から放たれるガトリングガンの制圧射撃がシルバーバレットの動きを規制。そこへ私がレーザーライフルで追撃。メノも右背面の6連射のミサイルの追撃放つも、あと一歩のところで回避される。しかし、回避されたはずのミサイルが不可解な軌道を描いて再度シルバーバレットに肉薄し、順次爆発する。

 

「なんじゃぁ、このミサイルは」

 

 致命打こそ与えられなかったが、至近距離での発破にシルバーバレットが纏うプライマルアーマーが高輝度光を発した。残るミサイルはマシンガンの斉射で迎撃されたが、その際の挙動もミサイルに意思が宿ったたかのように弾幕を回避するような振る舞いを見せた。

 

「メノ、今のは」

 

《詳細は明かせませんが、GAが擁するミサイルメーカー、我らがMSACの秘密兵器ですッ》

 

 その言葉で、思考が一気に整理される。

 

 メノの特殊なミサイル。2対1ずつの状況。素早いシルバーバレット。カノープスを持つ逆関節機。破壊困難なグレネード砲塔。タイムリミット。パズルのピースが揃うように、現状を打破する筋道が導き出されていく。

 

「___メノ。1分、いや30秒だけ時間をもらえるか。その間、ネオニダスを単独で相手してほしい」

 

《もちろんです。あの一等星には、水と炎の組み合わせの方が有効だと思います。銀の弾丸も空と大地は撃ち抜けませんよ》

 

 私は少々面食らった。同時に自嘲。メノの口から出た「一等星」はカノープスを持つ逆関節機、「銀の弾丸」はネオニダスのシルバーバレットを指すのだろう。そして「水」「炎」「空」「大地」という言葉は、暗号無線が使えない場合を想定して事前に共有していた作戦符丁だ。

 

 メノが発した先程の言葉は、これから私が実行しようとすることを表した隠語であると瞬時に理解する。メノは今の状況をしっかりと把握している。その有効な打開策も。

 

 戦闘指揮官である私に、手の内を隠していたメノに腹が立たないとは言えないが、GAの機密情報なら仕方なかろう。その一端を明かすリスクを冒してくれたことに対して、こちらも指揮官として応えなければならない。

 

 いいや。メノの奥の手云々を除いても、そもそも私は仲間を信頼しきれていなかった。そしてチームとしてリスクを負うことを、個人にリスクを負わせることを過度に避けていた。指揮官失格だなと、自らを嘲う。

 

《スミカ姉さん、後は任せてください。私には、この秘密兵器と主のご加護がありますからッ》

 




2025年8月18日。プラズマのECMで無線通信も阻害される要素を追加。それに応じて41話および49話を微修正。
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