ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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フェルミ・パニック

《オーメルのガキンチョめ! 調子づくなよ》

 

 セロ(No.6)を相手に、ネオニダス(No.7)が苦悶を放つ。

 

 ランクナンバーはたった1番違いだが、互いの実力差は大きい。年齢差によるフィジカルの差も大きな要因を占めているのだろう。私の援護など不要といえるくらいに、セロの猛攻がネオニダスの駆るシルバーバレットを寄せ付けない。それどころか、セロは高低差を交えた機動でネオニダスを撹乱し、逆に追い込んでいく。

 

 ここは地上500m以上の位置にあるスピリット・オブ・マザーウィルの右舷空中甲板上。セロと私が敷く防衛線の後背にはマザーウィルの右舷主砲と、それを破壊しようとひたすらにミサイルを打ち込むメノ・ルーとミド・アウリエルがいる。

 

 そして、遥か遠方の空には、ORCAとBFFが拠点とするロケットサイロの爆撃任務を請け負った10基の空中要塞フェルミ(FF130-FERMI)がこちらに向かってきていた。

 

 事前に打ち合わせていた予定時刻より早いタイミングで侵攻を始めたフェルミ編隊に対し、マザーウィルの両舷の主砲は迎撃のために3連2射1サイクルの大径グレネード弾を絶え間なく放ち続ける。

 

 直近での主砲発射に伴って発せられる轟音と強烈な閃光には思わず身体がすくんでしまっていたが、ネクストに備わる優れた環境フィルター機能と慣れによってすでに感覚は麻痺しかけていた。

 

 私は弾切れとなったレールガン(RG01-PITONE)をパージし、レーザーライフル(LR02-ALTAIR)ASミサイル(BM03-MEDUSA)でセロを援護するかたわら、使えそうな周波数を探って再三フェルミとの通信を試みる。

 

 しかし、依然としてスピリット・オブ・マザーウィルから発せられ続ける強いECMジャマーによって長距離無線はどの周波数帯もことごとく不通となっていた。

 

 私の混乱などよそに、その間もスピリット・オブ・マザーウィルの両舷に備わる主砲である大口径グレネードが幾度となく発射される。その度に、おおよそ100km先の遠方の空ではネクストの20倍ほどの体積はあろうフェルミの巨体が、コジマの光と黒煙を振りまきながら蚊トンボのように落ちていく。

 

 プライマルアーマーの防御があるとはいえ、この主砲の威力と命中精度の前では、レオーネメカニカが誇る空中要塞フェルミもただのデカイ的だ。

 

 10基編成だったフェルミの編隊はすでに5基にまで減っている。作戦続行不可能と判断して、さっさと撤収すればよいものを。フェルミの現場指揮官はそろいも揃ってノータリンか。一体、何を考えている。

 

 しかし、作戦遂行フェーズに遅れを生じさせた我々にも非はある。それが解っているからこそ、依然として繋がらない無線に向かって私は悪態をつく。すでに状況は絶望的だ。残る手立ては、信号弾を打ち上げて作戦中止の判断を下すしかない。

 

 その時、一際大きな爆音と閃光と衝撃波を伴ってマザーウィル右舷の主砲が吹き飛び四散。その際に飛び散った破片が、機体を保護するプライマルアーマーによって運動量を削ぎ落とされながらも機体装甲を叩く。

 

《やりましたッ》

 

《右舷主砲撃破、完了》

 

「よしっ。あとは左舷の1基だ!急げ」

 

 これでフェルミの撃墜ベースは半減する。フェルミが1基でも無事であれば撃破目標のロケットサイロを破壊できる。

 

 戦域は左舷へと移る。しかし、そこで地上からの再浮上を果たしたエミリオ・ウォルコットの逆関節機も合流し、戦況は4対2の乱戦に近い様相を呈する。

 

 メノとミドは左舷主砲に取り付き、再び重火器を撃ち込む。セロと私は、彼女らの護衛役だ。巨大なグレネード砲塔を時折盾として使いながらネオニダスとエミリオを近づけさせまいと牽制射撃を放つ。

 

 こちらが放つレーザーの弾幕にネオニダスの奴は迂闊には近づけず、エミリオも誤射の懸念から高威力のハイレーザーライフル(HLR01-CANOPUS)は安易に撃てない。

 

 しかし、その乱戦模様のさなかでもマザーウィルの主砲は放たれ続け、フェルミは次々と撃墜されていく。

 

 ずいぶん大きく見える距離まで接近したフェルミは、残り3基にまで減っていた。このままでは全数撃破されるのは目に見えている。

 

 また1基、フェルミが落ちた。

 

 残り2基。

 

「___やむをえん。作戦中止だ」

 

 苦々しい思いを振り払い、私は味方に向けて力なく宣言。同時にシリエジオの背面に増設された信号弾を打ち上げる。

 

 遥か上空に放たれた4射の赤色信号弾はフェルミの艦橋からでもはっきりと視認できるはずだ。どんな阿呆が見ても意味は通じるだろう。今から反転しても遅いかもしれないが、搭乗員だけは脱出できるかもしれない。我々も撤退の準備を___

 

「___馬鹿な。なぜ、止まらない」

 

 私は唖然とする。

 

 4射の赤色信号弾はブリーフィングで通達された正規の作戦中止手順だぞ。フェルミの搭乗員に周知されていないはずがない。それでもフェルミの侵攻は止まらない。

 

 まるで馬鹿の一つ憶えだ。眼の前にこれほどわかりやすい驚異と合図があるというのに、回避機動を取ることもなく、飛んで火に入る夏の虫のごとく薄気味悪いほど真っ直ぐにこちらへと向かってくる。

 

 その動きには、人が操るような一切の気配が感じられなかった。無人機を飛ばすなどという話は聞いていない。そうであってもオートパイロットをオンにしたまま直行するような挙動は明らかに異常だ。

 

 私の動揺など知る由もなく、マザーウィルの主砲が咆哮を上げる。そして2基のうちの1基に直撃し、青緑色の淡いコジマの燐光を残して跡形もなく粉砕した。

 

 残るフェルミは、あと1基。

 

 9基ものフェルミと搭乗員を犠牲にして、マザーウィルの主砲の仰角限界を突破した1機が上空を通過していく。主砲はフェルミを後方から狙い撃つために、重低音を辺りに響かせながらゆっくりと砲塔を旋回させた。

 

「やらせるなっ」

 

《ですが、もうミサイルが》

 

《こちらもですッ》

 

 メノもミドも、すでに爆発性の銃火器は撃ち切り、破壊力に劣る碗部の通常兵装で主砲を攻撃していた。とっさに私も被弾覚悟で敵ネクストの存在を意識から無理矢理に追いやり、レーザーライフルをマザーウィルの主砲に向けて撃ち込み、迅速な破壊を試みる。

 

 フェルミは、マザーウィル後方にある爆撃地点のロケットサイロへ向けて遠のいていく。砲塔は照準合わせどころか旋回半ばだ。間に合うか。

 

《早くしろぉ》

 

 セロが苦悶の声を上げる。主砲に向かってトリガーを弾きながら周囲を見渡せば、セロが1人で2機のネクストを相手に奮闘していた。

 

 しかし次の瞬間、青緑色の光条が空を駆け、それに飲み込まれたフェルミはマジックのように跡形もなく消滅する。

 

 あの色と威力は、すでに見慣れた感のあるコジマライフル(AXIS)。もちろん、撃ったのはネオニダスのシルバーバレットではない。

 

 光条の軌跡から、コジマライフルが放たれたのはスピリット・オブ・マザーウィルの最上層と察知する。直後、オープン回線で通信が飛び込んだ。声の主はORCAの首謀者メルツェルだ。

 

《フェルミを全機、撃墜完了。そしてゼロアワーだ。残念だったね。我々ORCAの勝ちだ》

 

 メルツェルの勝利宣言と同時に、反転を終えたスピリット・オブ・マザーウィルの砲塔が気を利かせたように動きを止め、静寂が訪れる。

 

 思い出したように視界端のデジタル時計を見やると、すでに作戦リミットタイムを過ぎていて、陽は随分高い所まで登っていた。

 

 つい先程まで放たれ続けていた銃火器の咆哮は一切鳴り止み、辺りを見渡せばネオニダスとエミリオも攻撃の手を止め、頭部とアイカメラだけをメルツェルがいるマザーウィルの最上層へ向けていた。周辺のACやらMTやらも同様だ。

 

 セロのテスタメントも、メノのプリミティブライトも、ミドのマグヌスも中破一歩手前の状態で、反撃する気力も失せたようにその場へ佇む。

 

 仲間の状況を確認してから、私も下から上へ舐め上げるようにメルツェルを睨みつける。

 

 周囲は演者の言葉を待つ演説会場のような雰囲気だ。それに気圧されないように意識を強く持つ。そして、メルツェルが再び言葉を紡ぐ。

 

《諸君、生き残ったことは称賛しよう。しかし、すでに勝者が決定したこの戦いに意味はない。

 

 霞スミカ、フェルミには操縦系統に小細工を仕掛けさせてもらった。君の判断如何によらず、この状況は変えようがなかった。少なくとも、その点については安心するといい。フェルミに搭乗していたレオーネ・メカニカの方々には、崇高なる目的のための大いなる犠牲として哀悼の意を表しよう。

 

 そして君らの処遇だが、我々ORCAに賛同するなら仲間として喜んで受け入れるつもりだ。捕虜となるのなら命だけは奪わないでおこう。ただし、抵抗する場合はその限りではない。時間はたっぷりと与える。よく考えるといい。より良い答えを期待する》

 

 はん。クソORCAの腐れメルツェル様は、ずいぶんとお優しいことで。

 

 反吐を吐くと同時に、私は空いていた左碗部を突き上げ、中指を立ててやる。AMSで操縦するネクストの器用なマニピュレーターは、こうした気の利いた使い方もできる。

 

 ただし、これは私個人の主張だ。思わず挑発的なジェスチャーを取ってしまったことに後悔したが、仲間たちの意見を伺う必要はなかった。

 

 セロも同じく、Fu*kとばかりに銃身中央に加速器が長く突き出たレーザーライフルを掲げる。機動レーザー(ER-O200)は腕部ハードポイントに接続されるためマニピュレーターはフリーだ。よく見れば、わざわざ中指まで立てている。なんだかんだで、お前とは気が合いそうだよ。

 

 ミドは足元の砲塔基部をわざとらしく蹴りつけ、控えめな性格を隠そうともせず不満を露わにする。

 

 メノはバズーカとガトリングガンの砲身を交差させ機体前面に掲げていた。敬虔なキリスト教信者である彼女のジェスチャーは、バツ印ではなく十字架だろう。神の名においてメルツェルの提案を拒絶する。つまり『クソ喰らえ』だ。

 

《これは残念》

 

 始めから、こちらが期待通りの返答をしないことは解っていたのだろう。メルツェルは笑いながら言う。

 

《それからこれは業務連絡というべきか。

 

 王小龍(ワン・シャオロン)、あなたのスパイ容疑は確定している。あなたが部下を使ってロケットサイロの至る所に仕掛けさせた時限式の爆薬はすべて撤去させてもらった。すでに我々はウォルコット家の支援を必要としない。無事に戻れたなら、そちらの雇い主に出資打ち切りの旨を伝えてくれたまえ。

 

 とはいえ、いずれも今は些事に過ぎない。

 

 さあ、『ジョシュア・オブライエン』はまもなく宇宙へ上がる。それにより、人類に黄金の時代が訪れる。その幕開けの瞬間を心して見届けるといい。

 

 HLVの打ち上げまで、あと1分___》

 

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