ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Desert Wolf 前編 〜砂漠の奇襲戦〜

 砂漠の夕日は赤い。太陽光線が大気に突入する際の角度が浅く、波長の短い青成分を拡散して波長の長い赤色が抽出されやすいからだ。さらに大気中に舞い上がる砂塵と、増え続ける光化学スモッグがそれを助長する。

 

 砂漠の夕日は赤い。アラビア半島に位置する旧ピースシティは中東の大きな都市だった。平和を意味する名前で呼ばれながらも、平和であったときは歴史上あっただろうか。内戦と紛争。大気汚染と砂漠化。いまでは都市全体が砂に埋もれ、ビルの頭だけが無数に突き出た状態。平和とかけ離れた、世界一皮肉な都市といってもいい。

 

 砂漠の夕日は赤い。とくに宵闇どきは赤黒く大地を染め上げ、それはまるで血のように赤い。ここで流された多くの血が、この瞬間だけ砂の底から湧き出てくるかのようだ。

 

 そして、これからここでまた血が流される。有史以前からここで流された血に比べれば、ほんのわずかな量だが確実に血が流れる。それは敵の血か、あるいは俺の血か。

 

 

 

 サハラ砂漠以北は白人文化が入り込んでいることからホワイトアフリカと呼ばれている。「マグリブ解放戦線」はホワイトアフリカで反企業体勢をとる最大規模の組織。その主戦力であるネクスト、バルバロイの撃破が今回請けた依頼内容だった。

 

 バルバロイは、中東イクバール社の軽量機で、防御力を捨てる代わりに機動戦に特化した機体だ。機体そのものは市販ベースのなんの変哲もない機体だが、パイロットの特異性が企業連中を悩ませている。

 

 AMS神経接続によるネクストの機体コントロールは、長期の継続的な使用により精神に負担をかける。そのため、通常は接続負荷レベルを落として運用され、リンクスの稼働寿命を延命している。通常はパスコードロックされ、設計技術者以外は任意に負荷率を引き上げることはできない。

 

 しかし、バルバロイを駆るアマジーグは、高い接続負荷レベルで運用し、精神崩壊と引き替えに尋常ではない強さを発揮するらしい。その精神負荷とは具体的にどういうものかと、フィオナに訊ねても《頭がイカれるのよ》としか答えてくれない。臨床データが少なく、よくわかっていないのだそうだ。

 

 よくわからないものを運用しようとしている、企業やその他諸々の連中にはあきれる。もっとも、頭がイカれようが、戦果をあげてくれればそれでいいのだろう。企業がかかえる正規リンクスとはいえ、かつてレイヴンの闇営業として横行した企業専属契約同様、実のところ奴らもただの使い捨てなのかもしれない。

 

 アマジーグとバルバロイは「砂漠の狼」などと仰々しい異名で世に知られている。俺なら恥ずかしくて死にたくなる。俺からみても、やはり頭がイカれているとしか思えない。

 

 とはいえ、そんなイカれた野郎に、ほんの数ヶ月まえから傭兵業を始めた新人リンクスを、単純にぶつけるほど依頼主はイカれてはいない。今回の依頼は、輸送中のバルバロイを強襲し起動前に撃破することだ。

 

 そのために、輸送ルート上の、この狙撃地点で昨晩から張り込んでいる。指示された輸送ルートや時間の変更などの対処として、早めに現地入りし、機体は探知されないようにスリープモードで待機。監視機能と最低限の生命維持機能だけをオンにして昼の灼熱と夜の極寒に耐えながら、ターゲットの通過を待った。

 

 

 

 

 小さく電子音が鳴る。動体反応する監視カメラに動きがあった。

 

 モニターを拡大すると赤黒い空と大地の間に砂煙を上げて向かってくる輸送車両が見えた。さらに倍率を上げると、その後方荷台に片膝をついて待機状態のネクストらしき影が見える。簡易的な幌がかけられ直接視認はできないものの、はためく幌の隙間から景色と同く赤黒い、イクバール社製の流線型な脚部が見えた。ターゲット確認。

 

 ネクストはまだ起動させない。敵に探知される恐れがあるからだ。十分に引きつけてからでなければ奇襲にならない。

 

 距離、7,000。

 まだ遠い。

 

 距離、6,000。

 10tを優に越える重量物(ネクスト)を運ぶ輸送車両の足は遅い。

 

 距離、5,000。

 呼吸を整え、身体に強ばりなどがないか確認し、狙撃に備える。

 

 距離、4,000。

 ネクストを起動。機体と神経接続が開始される。脳に響く高周波音と、接続時の心臓を蹴り上げられるようなショックには、度重なる出撃でもう慣れた。

 

 距離、3,000。

 システムが立ち上がり、赤黒い砂漠が視界360°に広がる。すぐさま火器管制(FCS)を呼び出し、左肩のグレネードキャノン( OGOTO )をスタンバイした。

 

 距離、2,000。

 ターゲットの移動速度、風の向きと風速、地軸ベクトル、砲撃反動など狙撃に関わるさまざまな数値が、FCS内のチップで計算処理された。その膨大な算出結果がデジタルデータからアナログデータへと変換され、俺の脳へ神経情報として入力。弾道予測が正確な感覚として知覚される。

 

 距離、1,000。

 右にコンマ1修正。その意思は再度FCSで処理され、ネクストのものだか俺のものだかわからない腕を不随意で微修正する。ターゲットに対し、照準と照星がピタリと重なった。マーカーが赤く点灯しロックオンを告げる。

 

 距離、500。

 安全管理上、最終的にトリガーを引くのは俺の意思だ。

 

 グレネードキャノンの乾いた発射音が、頭の前から後ろに通り抜け余韻を引く。

 

 その刹那、ターゲットは立ち上る爆炎と砂柱に飲み込まれた。地響きとともに、低い位置にあった雲は衝撃波が円周状にかき消し、赤い空が現れた。地面は砂の高波が放射状に広がり、周囲一帯の砂と空気を押しのける。

 

 一瞬の静寂の後、失った大気を埋めるべく、砂嵐が爆心地に向かって吹き込む。夕暮れの砂嵐があたりを暗闇に変えた。

 

 

 

 

 視界はほぼゼロ。時折、砂塵が晴れて、さらにその向こう側の砂塵が見える程度だ。急激な明度変化で視界にぼんやりとした像が映る。

 

 いや待て、これはネクストのカメラが捕らえた映像で、網膜を通していない。幻惑など起こるはずがない。

 

 再び像が映る。今度は一瞬だが、はっきりと見えた。あれはプライマルアーマーの光だ。思わず舌打ちをしたが、ネクストに神経接続された状態では、チッとは鳴らなかった。

 

 

 風がやんで砂嵐が晴れた。撃ち漏らしたターゲットはこちらに歩を進めながら、カメラアイを点滅させる。光通信でアマジーグからメッセージが入った。

 

《奇襲か。無駄な策だったな。企業の犬ごときに、この私は倒されん。ここで死ね》

 

 バルバロイは身をわずかに屈めると、これまで見たこともないほどの上昇性能で飛び上がった。遙か上空からライフルを放ちつつ、1kmほどの距離を一足跳びでこちらに向かってくる。

 

 こちらもライフルで迎撃するが、バルバロイは舞い落ちる木の葉のように銃弾を避ける。そして、左手のショットガンが放たれると、無数の弾丸が雨あられのように頭上から降り注いだ。回避しきれずに、プライマルアーマーが光を放つ。

 

 バルバロイは着地の瞬間に前転して、突進する勢いを殺さないままブーストを点火。低い姿勢を保ちながらさらに接近する。気づいたときには眼前にいた。悪趣味なイクバールの頭部がニヤリと笑ったように見えた。腰だめにショットガンを構えたゼロ距離射撃───。

 

 

 撃たれる前に、とっさに左手のブレードを払ったが、バルバロイは素早い反応で回避する。俺の頭上を飛び越えると、今度は後ろから蹴り飛ばされた。

 

 前につんのめるのをブースターで立て直しつつ距離をとる。反転して、バルバロイのいた位置に向けライフルを放つが、奴はすで遥か上空にいた。

 

 バルバロイは、再びライフル上空からライフルとショットガンを乱射する。それを避けながら郊外で待機しているフィオナに通信を送る。

 

「ターゲットの撃破に失敗した。現在交戦中。少々分が悪い」

 

《えぇぇ!?───了解。応援を向かわせるから、それまで持ちこたえて》

 

 応援? パイロットに知らせずに作戦を進めるとは、見かけによらず人が悪い。だが、作戦指揮官として信用に足る判断だ。

 

「了解した。ただし、作戦内容がリークしている恐れがある。留意してくれ」

 

 断定はできないが、この仕事にも不穏な影の動きが感じられる。誰が何をどう動かそうとしている?

 

 とにかく、今は奴を倒すことに集中しなければいけない。だが、このまま逃げ回るのにも限界がある。まずは、左肩の邪魔な荷物を降ろさなくては圧倒的に不利だ。

 

 上空のバルバロイに向かってグレネードキャノンを放つ。奴はひらりと身をかわし、その後方に花火のように火球ができあがった。さらに撃つ。砲身が焼けてもかまわない。撃ち続ける。

 

 そのなかの一撃がバルバロイの直上で爆発した。衝撃波をまともに受けたバルバロイは地面に向かって吹き飛ばされる。ブーストで接地ショックを和らげようと動きを止める奴に向かってもう1射。奴の直近に着弾し、すさまじい爆炎と砂柱が立ち上り、すぐさま砂嵐が起こった。

 

 巻き上がる砂嵐のなかから影が迫る。奴がこちらに急接近し、俺は再び蹴り飛ばされた。爆風を推進に利用して接近してきたのか。なんて奴だ。

 

 バルバロイはライフルで追い打ちをかける。俺はジャンプしてかわし、そのまま奴の直上に高く、高く上昇する。雲海のように地上に立ち込める砂嵐を抜けて、下半身に血がとどまるのを感じながらさらに雲の上まで上昇する。

 

 エネルギーアラートが限界を告げるとブースターを切った。慣性だけで上昇しつつ、浮遊感に身を任せる。沈みかけた大きな夕焼けが視界に入る。暗がりには三日月が光っていた。

 

 

 空中戦を得意とする奴なら必ず追ってくるはずだ。案の定、眼下にロケットよろしく上昇してくるバルバロイを捕らえた。俺は邪魔なグレネードキャノンをようやくパージ。そしてライフルを構える。

 

 バルバロイは地球の引力を無視したかのように上昇してくる。パージしたグレネードキャノンはくるくると回りながら引力に引かれて落ちてゆく。

 

 俺は狙いをつけてライフルを放つ。

 放たれた弾丸は、引力による加速で弾速を増す。

 放たれた弾丸は、水平射撃よりも威力を増した。

 放たれた弾丸は、落下途中のグレネードキヤノンを正確に射抜いた。

 

 

 グレネードにはまだ弾が数発残っている。それらすべてが誘爆を起こし、上昇しかけていたバルバロイを真正面から飲み込んだ。

 

 衝撃波が大気を震わし、すさまじい爆風に機体が煽られる。揺れがおさまりきらないうちに、黒い煙の中から奴の機影を捕らえると、すぐさまブースターを吹かして急降下し、落下するバルバロイに空中で肉薄する。

 

 降下速度がどれほどだったかは知らない。風圧で機体がうまく動かないなか、俺は奴に組み付き、足で首を抑え、右手でショットガンを抑えると、レーザーブレードを発振させてコックピットを貫こうと左肘を引く。

 

 両腕のショットガンとライフルを乱射しながらバルバロイが抵抗する。奴がわずかに身体をひねったため、レーザーの切っ先はコックピットの装甲を削るにとどまった。もうひと突きしようとしたところで、対地速度アラートが鳴り響き、不本意にもメインブースターが自動点火して落下速度を殺した。同時に奴を倒す最高のチャンスを逃した。

 

 急激な減速Gで、コンクリートの地面に叩きつけられたような衝撃に気を失いそうになった。いくつものアラートが同時に鳴り響き、わけがわからないまま地面にタッチダウンする。砂がクッションになってくれたのと、砂に足を取られ砂の丘陵を滑り落ちるのがなんとなくわかった。

 

 意識を呼び戻しつつ、機体の損傷状態を確認する。そのとき、銃声とともに足下に砂柱が立った。

 

 砂の丘陵の頂上に人影が現れる。沈む直前の夕日が逆光になって正体はわからないが、バルバロイだろう。アマジーグから通信が入る。

 

《その力で、貴様は何を守る》

 

 俺は思わず舌打ちをする。しかし、ネクストに神経接続された俺の舌は、チッとは鳴らなかった。

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