ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4 作:あきてくと
《まもなく『彼』が来る》
ジョシュア・オブライエンの人格移転型AIは通信でそう言った。
スピリット・オブ・マザーウィルの主砲で上昇途中のロケットを撃墜する離れ業をやってのけたものの、結局のところ敵が味方かよくわからない
そのジョシュア・オブライエンが語る『彼』とは。まったく、訳がわからないことばかりだ。不測の事態の連続に頭痛がしてくる。その時、再びコックピットに移動体急速接近のアラートが鳴り響く。今度は何だ。もういい加減にしてくれよ。
インジケーターで指し示された方向は我々が侵攻してきた東側。広域レーダーに目をやれば、見落としそうなほどうっすらとした輝点が高高度を高速接近してくる様子を捉える。その速度は音速の3倍を優に超えていた。
しかし、そちらの方角に視線を向けても姿は見えない。接近音も検知できない。索敵システムが誤作動でも起こしたか。
いや違う。一瞬ではあるが、差し込む陽光が揺らいだ。私はとっさに視線を上げ、頭上の太陽を直視する。すぐさま自動遮光機能が働き、眩しさはそれほど感じない。さらに凝視すると、太陽のなかで黒点のようなものが動いているのを捉えた。
その点はみるみる間に大きくなり、その姿を露わにする。視界に映ったのはジョシュア・オブライエンが搭乗する機体と、よく似た形状と大きさの飛行物体。ただし色は黒だ。太陽の影による色じゃない。違和感を覚えるほど、それは明瞭な黒。
ジョシュア・オブライエンの乗る機体が
黒い機体は、すでにディテールがはっきりと捉えられる距離まで接近している。それにも関わらず、接近音は捉えられない。それも違和感の理由だった。接近機は、上映中の映画のボリュームをミュートにしたかのように一切の音を発さない。あまりの速さに、音を置き去りにしているのだ。
恐らく、搭乗するのは元レイヴンであるアナトリアの傭兵の『彼』であろう。そして太陽の中から現れる様は、さしずめ金烏か陽烏か。まったく、日本神話もかくやの大取り登場じゃないか。
我々がどれほど苦労してここまでたどりついたと思っているんだ。忌々しいほど劇的な登壇。そして、あまりの待遇の違いに文句の一つでも言ってやりたかった。そう思った矢先、接近する機体の下部からなにかが分離した。
増槽投棄かと思ったが違う。鳴り続いている移動体急速接近のアラートに、今度は
「あいつ!……勧告もなしで」
超音速飛行しながら放たれた二対のミサイルは、灰色の煙を吹き出しながら超高速度で迫りくる。ロックオン警告アラートは作動していないから、ターゲットに含まれていないことは確定しているが、発破による二次被害はこちらにも及ぶ。
しかし次の瞬間、私は思わず目を剥く。ミサイルが途中で分裂し、おびただしい数の小型弾頭がそれぞれ異なる軌道を描いて迫る。発射されたのは対地ミサイル。その役目は複数の小型弾頭による絨毯爆撃。その被害規模は___
「馬鹿野郎!味方もいるんだぞ!」
ヤマタノオロチの首のごとく押し寄せる無数のミサイル群はスピリット・オブ・マザーウィルの両舷空中甲板上の基部付近に手前側から着弾。後部へ向かいながら艦載のACやMTを巻き込んで次々と起爆し爆散する。
連続した発破音に加え、発生した爆風と破片がこちらの機体を叩き、青緑色をしたプライマルアーマーの光が視界で淡く瞬いた。
《正体不明機の識別信号は味方……けれど》
《何考えてやがる!アイツは》
《ひえぇぇ。アナトリアの傭兵さん、許してくださいぃ》
ミドとセロとメノが爆撃から逃れながらブーイングを発する。
急襲を受けたマザーウィルの空中甲板上は、蜂の巣をつついた様相だ。爆撃を敢行したアナトリアの傭兵はマザーウィルの上空をフライパス。刹那遅れてソニックブームの爆轟が鳴り響き、空気を切り裂く重低音と甲高いジェット音が辺り一帯を駆け抜けた。
「メノ、ミド、セロ!この混乱に乗じて撤収だ」
《 《 《了解》 》 》
3人が空中甲板から飛び降りるのを確認してから、私もクイックブーストを吹かして宙へ躍り出る。後方カメラでアナトリアの傭兵の機体を追えば、旋回して再びこちらに迫る様子を捉えた。再び爆撃されればこちらの機体も持たん。
それとも『この隙に逃げろ』とでも言っているつもりか。それにしても、やり方ってものがあるだろう。これだから傭兵などは信用ならないんだ。苦言を飲み込みつつも、我々は再びセロとミドを先頭とした隊列を組んで撤退。
サバンナを東に向かって平均速度1000km/h近くを保って移動する我々の頭上を、爆撃の二次被害から逃れたジョシュア・オブライエンの白い機体が後方から追い抜いていき、そのすぐ後ろをアナトリアの傭兵の黒い機体が追う。高速度の飛行により、ジェット音の音響定位が機体位置の後方から遅れて聞こえた。
そのさなか、ジョシュア・オブライエンの後背位置に付けたアナトリアの傭兵が4射の対空ミサイルを発射した。
ジョシュア・オブライエンは機首付近から後方に向けて複数本の細い青色レーザーを照射しながら急旋回で回避機動。迎撃しきれなかったミサイルは、バレルロールで機体を翻しつつクイックブーストによる急激なヨー機動で全弾を回避。
ミサイルは打ち尽くしたようで、レールガンと思わしき機首の銃火器で追い立てるアナトリアの傭兵は、逃げるジョシュア・オブライエンの後背位置を取るべく猛追する。
眼前の上空で、2機がうねるような三次元曲線の軌跡を描いて苛烈なドッグファイトを演じる。機体性能が同じなのだろう。互いの尻を取り合うのにも苦労しているようだ。
旋回競争を勝ち取ったジョシュア・オブライエンが、今度はアナトリアの傭兵の後方位置につける。
後背を取られたアナトリアの傭兵は機首を垂直まで引き上げた。しかし上昇はせず、空気抵抗での一瞬の減速から、音速近くを保ったまま
両機の背面が向き合った一瞬、双方から幾条かのレーザーが瞬く。速度を殺しきれなかったジョシュア・オブライエンがそのまま前方に踊り出て、その後背位置をアナトリアの傭兵が取り返した。
対するジョシュア・オブライエンは急減速。同時に機体脇から水平方向に全幅の3倍はある長大なレーザーブレードを発振。
あわや空中衝突するかというところまで接近したところで、ジョシュア・オブライエンは直進ベクトルと水平姿勢を保ったままその場で回頭。ブーメランのようなスピン挙動で、アナトリアの傭兵が放った射撃を回避しつつ、機体ごとレーザーブレードを振り回す。
航空機による斬撃をアナトリアの傭兵は降下して回避したものの、ジョシュア・オブライエンが再び追うポジションに立った。
位置エネルギーも使った降下加速で相対距離を離したアナトリアの傭兵が今度はスピンモーション。進行ベクトルはそのまま機体だけを反転させて追いすがるジョシュア・オブライエンに機首を向け、レールガンで迎撃した。それをジョシュア・オブライエンはバレルロールと断続的なクイックブーストの併用でかわす。
前方空域で繰り広げられる戦いは、戦闘機のドッグファイトの様相だが、私の知っている格闘戦とは全く様子が違う。速度域が高いことに加え、クイックブーストの急速運動を織り交ぜた変則機動に視線が追いつかない。それに、一瞬で180度向きを変えるほどの高G機動は、見ているだけで身体が強ばる。
真正面から2機がこちらへ向かって急降下してきた。その際に音速に達した両機の機首をヴェイパーコーンが包み込み、同時に衝撃波と爆轟を発する。攻撃されるかと身構えたが、両機は我々の存在など気にも留めず頭上をパス。そして、絡み合いながらマザーウィルの方向へと飛び去っていった。
《一体何だよ、あれは。戦闘機の動きじゃないぞ。UFOってやつか?》
《少なくとも、こちらには一切関心がないようですね》
「オーメルのお前らが知らなければ、誰も答えられんよ」
《まるで、鳥さん同士の喧嘩を見ているみたいです》
メノが述べた率直な感想に、私も内心で同意する。
後方モニターが、絡み合うようにして飛ぶ2機とスピリット・オブ・マザーウィルを小さく映し出す。レーザーブレードを展開した2機がマザーウィルの近くで交錯すると、あの巨大な空中甲板の片側が切断されて地面に落下し、砂煙がもうもうと立ち上った。
化け物か、あいつらは。
●アーマードコア6の発売前トレーラーに触発されて書き起こした短編小説『アーマード・コア6 SIX inspired』もどうぞよろしくお願いいたします。
●バンダイのプラモデルシリーズ『30 MINUTES MISSIONS』の二次小説も執筆しております。
『ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】』
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