ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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ミッション・リザルト

「惨めじゃのう、王小龍(ワン・シャオロン)。実に惨めな姿じゃ。

 

 まさかスピリット・オブ・マザーウィルの主砲をネクストを通じて遠隔で操り、上昇途中のロケットを狙撃するとは。その腕前と悪知恵だけは褒めてやる。

 

 じゃが、ネクストでの白兵戦は苦手か?お前さんももう齢じゃ。使われる相手と、働き方を選ぶことをおすすめするよ。ウォルコットの老いぼれ犬めが」

 

 ネオニダスの怨言と同時に、細長い楕円型の頭部とシルエットを特徴とするシルバーバレットが右腕を突き出す。その手に握られていた大型のアサルトライフル(04-MARV)先端の着剣装具が王小龍(ワン・シャオロン)の乗るストリクス・クアドロの頭部を貫き、機体はその場へ擱座した。

 

 砂煙で霞みがかったスピリット・オブ・マザーウィルの巨体を背景に、2機のネクストが交錯する。

 

 ストリクス・クアドロの4本ある脚部は1本がへし折れ、機体の至るところに弾痕が刻まれており、主武装であるスナイパーキャノンも砲口があらぬ方向へ折れ曲がっている。高性能センサを内蔵した三ツ目の頭部もたった今潰された。

 

 スピリット・オブ・マザーウィルでの戦闘の後、ネオニダスは不審な行動を見せた王小龍を追撃した。重武装の中量四脚型が軽量二脚から逃れる術はない。ロケットの狙撃こそ阻止できなかったが、王小龍を追い詰め現在に至る。

 

 ネオニダスのシルバーバレットは霞スミカらとの戦闘で負った傷や破損が目立つが、全体の損傷は軽微だ。

 

「お前さんのお陰で、儂らの計画がパーじゃ。この落とし前をどう付けてくれようか。ああン」

 

 ネオニダスは至近距離で左腕のマシンガン(01ーHITMAN)を無造作に乱射した。そのうちの何発かがストリクス・クアドロに命中する。

 

 ネクストに本来備わるはずのプライマルアーマーは故障かシステムダウンかで機能しておらず、ゼロ距離射撃に近い距離で放たれた弾丸は、小口径にも関わらずストリクス・クアドロの装甲にさらなる弾痕を刻んでいく。

 

「どうしたぁ。答えんかぁジジイ。死んだフリかぁ。それとも、もう死んだかぁ?」

 

 いたぶるようにマシンガンを乱射し続けても、王小龍は一切の反応を示さない。通信は確実にコネクトしている。しかし、悲鳴はおろか苦悶のひとつもネオニダスの耳には届かない。射撃が止まったのは弾切れのせいだ。

 

「つまらんのう。命乞いでもすれば助けてやってもよかったが、もうよいか。あの統合型人格移転型AIの被験体になった姉弟の後を追うがよいよ」

 

 ネオニダスはシルバーバレットに一歩踏み込ませると同時に再びアサルトライフル(04-MARV)を装備した右腕を持ち上げる。

 

 その先端の着剣装具をストリクス・クアドロのコックピットに狙いを定め、右腕の肘を引いたその瞬間、コックピットに移動体接近アラートが鳴り響いた。レーダーに目をやれば緑の輝点が3つ。次に秘匿通信が入る。届いた声の主はORCAの首謀者メルツェルだ。

 

「銀翁、ご苦労。王小龍は」

 

「これから殺す」

 

「いや、もういい」

 

「甘いの。コイツを放置すれば、また厄介なことになるぞ」

 

「ウォルコット家の無用な恨みは買いたくない。王小龍は生かしておく。これは命令だ」

 

 メルツェルが搭乗するシュープリスを先頭に飛来した真改のスプリットムーンと、エミリオ・ウォルコットが乗るアサルトアシストの3機が近くの地面にタッチダウンする。

 

 しかし、ネオニダスのシルバーバレットは、まだ攻撃の構えを解かない。メルツェルがシュープリスを一歩踏み出させるとネオニダスは舌打ちを残して、ようやく機体に銃身を下ろさせた。

 

「___はぁ。運が良かったなジジイ。老い先短い命だけは見逃してくれるそうじゃと。

 

 しかし、また振り出しじゃな。これからどうするメルツェル」

 

「次のプランへ向けて準備を進めるだけさ。まずは同志を集めよう。リンクス共同管理機構(COLLARED)発足を機に、各企業の手からリンクスが離れる。今後の計画を進めるうえでの実働部隊員を集めるには格好の機会だ。

 

 君も戻ることになっているんだろう、エミリオ・ウォルコット。いいや、カラードのNo.1リンクス『オッツダルヴァ』だったかな? オーメルの28番目となる人工AMS適正者(オーグメンテッド)。ずいぶん安直なネーミングだ」

 

 メルツェルは、わざわざ機体をエミリオの方向へ向き直させて語りかける。

 

「先方たっての特別待遇だ。それ自体に不満はない」

 

「名門ウォルコットのリンクスとして、レイレナードへ潜入。長期潜伏が終わったら、今度は一躍スタープレイヤー扱いか。おまけに裏の顔は二重スパイだ。君には一体、いくつの顔と名前があるのかな。そんな器用な芸当は、私には真似できそうにないよ」

 

「おい、メルツェル、エミリオ。秘匿通信とはいえ口が軽すぎる。陰謀屋のジジイが聞き耳を立ててるやもしれんぞ」

 

「___知られた所で、ウォルコット家の使い走りごときに、どうこうできる問題ではないさ。そもそも俺はウォルコットの遺伝子が混じっているだけで、血縁とは一切の縁もゆかりもないからな。___そうだろう? 王大人(ワン・ターレン)

 

 エミリオ・ウォルコットは、この会話を聞いているか聞いていないかも定かでない王小龍に対して、わざとらしく尊称で呼びかける。

 

「よい性格じゃな、お前は。___ところでエミリオ、マザーウィルの主砲破壊をメルツェルが命じたとき、お前は撃てなかったのか?それとも撃たなかったのか? 返答次第では、お前も……」

 

「___さあ、どうだったかな。少なくとも、出戻りには手土産の一つも必要だ」

 

「本当によい性格じゃな、お前という奴は」

 

 ネオニダスの言葉と同時に、エミリオの機体のすぐ脇にいた真改のスプリットムーンが右腕のレーザーブレード(07-MOONLIGHT)を発振させた。レイレナード謹製の高出力プラズマ刃が発する膨大な熱は周囲の空気を急加熱して膨張させ、熱波となって一帯に砂塵を巻き上げる。

 

 そこへメルツェルが冷ややかな声を発した。

 

「戦犯責任の追求はいいよ。銀翁、真改。私はそういうエミリオだからこそ信頼を置いている。もし君がパックスの特別待遇を蹴って、我々と共に来るのなら、ただちに君をORCAの指導者『マクシミリアン・テルミドール』として正式に迎え入れる。今、改めて問おう。さあ、どうする」

 

「革命家マクシミリアン・テルミドールか。だが革命を成就させるためにも、今は古巣(オーメル)へ戻るべき時だ。その方がお前たちも動きやすいだろう」

 

「___そうか。では時が来るまで、しばしお別れだ。連絡は然るべき方法で取り合おう。行こうか。銀翁、真改」

 

 サバンナの砂塵のなかに、シュープリスとシルバーバレットとスプリットムーンが消えていく。後にはエミリオ・ウォルコットのアサルトアシストと、大破した王小龍のストリクス・クアドロだけが残った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「霞スミカより作戦本部へ。これより停泊船へ帰投する。ネクストの格納準備を要請」

 

《ネクスト4機の帰投を確認。作戦遂行ご苦労様でした。これより艦のドックハッチを開放。ポイント118にて待機されたし》

 

「了解。メノ、ミド、セロへ。各機プライマルアーマー並びに戦闘態勢を解除。減速して指定座標にて待機する」

 

 輸送船が停泊している東海岸周辺はすでに制圧が完了しており、あたりには数機のノーマルACが哨戒していた。ここはすでに安全地帯となっており、攻撃を受ける心配はない。

 

 指定ポイントでネクストを停止させると、私はすぐさま降機シークエンスにとりかかる。機体をしゃがみ込ませるとシステムをアイドル状態に。身体信号と機体制御をつなぐAMSをシャットダウンし、体感覚が自らの肉体に戻ると、頚椎部に刺さるAMSコネクタを痛みをこらえながら引き抜いた。

 

 コックピット内に別途設置されたガイガーカウンターの数値を一瞥し、安全な放射能濃度であることを確認してから私はハッチを開放する。

 

《スミカ、何を》

 

 その様子を見咎めたミド・アウリエルが外部拡声器で驚きの声を上げた。安全地帯とはいえ、指定場所以外での降機行為は常識に反する。だからといって禁止行為というわけではない。

 

「休憩だ。お前達も降りてこい。せっかくアフリカくんだりまで来たんだ。空気を吸わないで帰るのも癪だろう?」

 

 ネクストの集音マイクでも聞き取れるように私は大声で返してやる。コックピットハッチ上でヘルメットを外すと、高い位置にあるアフリカの日差しが容赦なく肌を焼く。空気には乾燥した土埃の匂いに、かすかな獣臭が交じる。ここは海岸から数kmの地点であるため潮の匂いもわずかに感じられた。

 

 大きく深呼吸すると、ありありと生を感じる。それだけで、思い通りに進まなかった本作戦で溜まりに溜まったストレスが少しだけ和らいだ。

 

 私がアフリカの大地に自らの足で立つと、最初にメノ・ルーが機体を降りてくる。彼女は地面に降りるなり、アフリカのサバンナに群生する見慣れない草花をニコニコと観察していた。

 

 次にミド・アウリエルが機体を降りてくるが、真面目腐った彼女は戸惑いの表情が隠せない。それから少し遅れて、セロが興味なさげに降りてきた。全員疲労の色は窺えるが、作戦完遂による安堵の表情を浮かべていた。全員が揃ってから、私は彼女らの顔を見渡して語りかける。

 

「雑務は残っているが、おおむねミッション完了といってよいだろう。ともかく、これでレイレナードとのリンクス戦争は一段落だ。我々の仕事は終わった。あとはアナトリアの傭兵に任せよう。ご苦労だった」

 

 私は現場指揮官として面々に頭を下げる。

 

「結局のところ、我々は単なる捨て駒だったがな」

 

 顔を上げながら皮肉を放つと、セロが諦め口調で言う。

 

「扱いづらい人間を抱えるほど、企業の連中は優しくないさ」

 

「くっ、ふふ。はははは」

 

 その言葉に、私は思わず笑いがこみ上げる。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「いや、すまない。お前も自覚があったのかと思って」

 

「どういう意味だよ」と憮然とした態度を取るセロに対して、メノとミドも小さく声を上げて笑う。

 

「同時に、企業のリンクスとして最後の仕事も終わった。お前たちにもカラードへの移管通達は届いているんだろう? カラード所属になれば、これから付き合いが増えるかもしれん。味方か敵かは知らんが。一応選択権はあるようだから、リンクスを辞めるという選択肢もある。お前たちはどうするつもりだ?」

 

 と問うたものの、答えはない。全員が企業のトップリンクスだ。企業の機密にも関わるから当然か。こういうときは、まず自分から語るのが儀礼というものだ。

 

「私は正直、迷っているよ。実を言えば、リンクスで居続けることに限界を感じていてな。今回の件はリンクスを辞める良い切っ掛けだと思っている。先のことは一切考えていないがな」

 

 少し間を開けて、メノ・ルーが口を開いた。

 

「私も、姉さんと同じです。戦争を無くすつもりで戦争に加担してきました。けれど、今回の戦闘でも思い知らされました。リンクス1人でできることはとても少ないと。そもそも、戦いで戦いを無くす事自体が間違っていたのかもしれません。

 

 国家解体戦争で確かに世界は変わりました。けれど、望んだような世界には変わってくれませんでした。依然として小規模な戦争はなくならず、孤児も増え続けています。私が育った教会が孤児院をやっていまして、今後はそちらを精力的に支援したいとも考えています」

 

「そうか。私なんかより、ずっと立派じゃないか。オーメルのお前たちは? 守秘義務とかつまらん事は言うなよ。やりたいことくらいはあるんだろう?」

 

 ミドの顔を見やると、彼女は意を決したように語りだす。

 

「できるのなら、私は普通の生活に戻りたい。AMS適正が認められてリンクス候補生になったとき、そしてオーメルのリンクスに抜擢されたときには、自分がアメリカンコミックのヒーローにでもなった気分でした。でも、実際の戦争は思った以上に残酷で過酷でした。今はこれ以上辛い思いはしたくないというのが本音です。

 

 実は、通っていたLAの大学の医学部予備課程(プレメディカル)を休学してリンクス養成所に入ったので。できるなら復学したい。もう、復学規定から外れていると思うので……また入学し直しですね」

 

 ミド・アウリエルが自嘲気味に言う。最初に顔を合わせた頃とは雰囲気が随分変わった。これが本来の彼女なのだろう。

 

「オーメルのリンクスなら、特待を受けるのも難しくないだろう。機密保持が鬱陶しそうだがな。セロ。お前は?」

 

「___答える義理はないね」

 

 その言葉で、和やかだった空気が一気に冷ややかなものへと変わった。

 

 私は小さく嘆息を漏らす。不快感からではない。今の私は聖母のように機嫌がいい。いつも感じている眉間のこわばりも一切ない。私はセロへまっすぐに向き直って静かに言葉を放つ。

 

「言いたくなければ、言わなくていい。だがな聞け、セロ。

 

 私はお前を認めている。孤立を否定するつもりはない。だが、お前の周囲を突っぱねる態度を見ていると、痛々しい。

 

 私も、この作戦が始まるまでそうだった。国家解体戦争を経ても変わらない世界に苛立ち、動けないリンクス戦争に悶々として周りを突っぱねていた。そんな態度は、周りから見てこんな風に、痛々しく映っていたのだろうな。ただ、これだけは言える。私は今回、お前たちと一緒に戦えて嬉しかった。

 

 私の前職はな、小学校教諭だったんだ。短い任期だったが、お前のような子供もいたよ。周囲と馴染めない子や、馴れ合わない子も多かった。当時は戦争直後だったからな。心に癒えない傷を負った子供もたくさんいた。

 

 私も恵まれた環境で育ったわけではない。それでも、時折見せる楽しそうな子供らの笑顔が救いになっていた。___けれど、私はあの子らを救えなかった。国家解体戦争に参加したのはその反動さ。あのときは世界など滅びてしまえばいいと、本気で思っていた。

 

 だけど今は少しだけ世界に希望が持てる。人との関わりと関係性こそが世界なのだと。それに改めて気づかせてくれたのはお前たちだ。

 

 もし今回のミッションで、お前達の誰か一人でも欠けていたなら、たぶん、私はもう立ち直れなかっただろう。セロ、それにメノ、ミド。生きていてくれてありがとう」

 

 メノとミドは、柔和な笑顔をたたえている。一方、セロはバツが悪そうにそっぽを向く。

 

 あたりは、しん、と静まりかえる。それが数秒ほど続いた。

 

「___バイオリニスト」

 

 そのさなか、ボソリとセロが言った。

 

「は?」

 

 バ・イ・オ・リ・ニ・ス・ト。言葉ははっきりと聞き取れた。しかし、セロとバイオリンのイメージがどうしても結びつかない。

 

 セロがバイオリンを演奏している姿を想像すると、笑いがこみ上げてくる。こらえ切れず私は涙を流して爆笑していた。見れば、メノとミドも口を抑えて必死に笑いをこらえている。

 

「だから言いたくなかったんだ」

 

「すまない。もちろん、天才坊やはバイオリンの演奏もお手のものだろう。だが、お前には無理だ。第一、その仏頂面では客が寄り付かん。よし、私がマネジメントしてやる。お前はバイオリンを演奏できる。私は働き口が見つかる。これで一件落着だな」

 

「余計なお世話だよ」

 

 セロは照れ隠しのように再びそっぽを向く。こいつは人との関わりに慣れていないだけの、単なる恥ずかしがり屋なのだ。そう思い至ったとたん、セロが無性に可愛らしく見えてきた。こいつも出会った頃よりも少しだけ心を開いてくれるようになった。それがとても嬉しかった。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 先程から通信の呼び出し音が、頭上にあるコックピットの中からかすかに鳴り響いている。着艦準備が整ったのだろう。

 

 ネクストに乗り込み再起動をかけると、視界に映る遠く西の空を見つめる。今も戦闘が続くスピリット・オブ・マザーウィルがある方向だ。

 

 今後、世界がどうなるかはわからない。アナトリアの傭兵とジョシュア・オブライエンの戦いの結果が、この世界にどのような変化をもたらすかも定かではない。

 

 きっと、私はこれからも戦場に残り続けるだろう。ネクストを降りたところで、今更どこへ行けばいいかもわからないのだから。

 

 かつて抱いていた理想はもう捨てた。世界から理不尽な死はなくならない。ならせめて、私の手の届く範囲にいる者くらいは、生き延びさせてみせるさ。

 




ここまでお読みくださりありがとうございました。活動報告にて中書きとして、小説の裏設定とACfa劇中におけるオッツダルヴァの裏切りの真相についての考察を述べております。
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