ARMORED CORE for Bidden【ACfb】アーマード・コア4   作:あきてくと

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Desert Wolf 後編 〜英雄アマジーグ〜

 高高度からの落下による衝撃で失いかけた意識を呼び戻しつつ、機体の損傷状態を確認する。そのとき、銃声とともに足下に砂柱が立った。

 

 砂の丘陵の頂上に人影が現れる。沈む直前の夕日が逆光になって正体はわからないが、バルバロイだろう。俺は苦虫をかみ殺した気持ちでフィオナに通信を入れる。

 

   「フィオナ聞こえているか。神経接続レベルを上げる。ロックの解除コードを教えてくれ。このままでは保たない」

 

   《は? ダメよ! ダメダメ! 絶対にダメ!! なんとかして増援を待ちなさい!》

 

 

 

 そのとき、アマジーグが通信で何かを語りかけてきた。

 

【その力で、貴様は何を守る】

 

 アマジーグは俺に何かを訊ねたようだが、こちらはそれどころではなかった。

 

   「フィオナ! 時間がないんだ!!」

 

【フィオナ・ジカンガナインダー・・・貴様の女の名前か。それもいい。愛するもののため、力を振るう。私も同じようなものだ。だが、邪魔はさせん。貴様と貴様の女には悪いが、ここで死んでもらおう。我らの正義のために】

 

   《もうすぐ、応援が到着する頃よ。もうほんのちょっとだけがんばって》

 

   「頼む!何でも言うことをきくから助けてくれ!!」

 

【命乞いか。いいだろう。では、我々の仲間になれ。私の力と貴様の力でパックスどもを粛正するのだ】

 

   《えーと、じゃあ、あなた、実弾兵器ばかり使うから、弾薬費がかさんでいるの。今後はエネルギー武器を主武装にしてくれないかしら?》

 

   「そいつは断る」

 

【何!? ……では、この場を見逃し、今後我々の前に決して現れないと、貴様の神と女の名に誓え。そうすれば命だけは助けてやろう】

 

   《なら、これまで以上に働いてもらうことになるわよ。もう、しょうがないなぁ。パスコードは『08506』よ》

 

   「了解した。ありがとうフィオナ、感謝する」

 

【無神論者か……まぁ、いい。ところで強きものよ。貴様の名前はなんという?】

 

   《ただし、いい? 神経負荷を高めている間は、その……汚染が……。あら、なに汚染だったかしら?》

 

   「コジマだ」

 

【コジマか。強きリンクス、コジマよ。久しぶりに強きものに会えた。礼を言おう】

 

   《そう、それ! 同時にコジマ汚染の進行も加速度的に早まるから、短時間しか使っちゃダメよ! いいわね!》

 

   「当然、理解しているさ」と、フィオナとの通信を切る。

 

【………………。】バルバロイは何かを言いたげだったが気にしない。俺は手早くネクストのメインシステム・ターミナルを呼び出し、神経接続プロセス変更メニューにアクセスする。

 

 

//:Aadministration~$:SYSTEM CONTLOR MENU//:

=====================================

CAUTION!!

Only a limited number of people can operate.

 

 

=====================================

SYSTEM CONTLOR MENU//~$:Nerve connection//:value

Nerve value 40% now

Setting value input > 60% Enter

 

 

=====================================

We are not responsible for this setting no matter what you do.

If you still want, enter your pass-code.

 

 

=====================================

pass-code enter please > 08506 Entar

please wait.

***

*******

*********

***********

*************

***************

*****************

*******************

*********************

***********************//:OK.

Change completed safely.

 

 

=====================================

If you use this function, your head will go crazy.

Are you sure you want to run ?

 

 

=====================================

Y/n > Y

 

 

 

 

 神経接続負荷レベルを上昇させるプロセスが完了した。

 

 その瞬間、目を開けていられないほどの光が溢れてくる。そして景色が一変した。比喩ではなく、本当に景色の見え方が変わった。視界が赤くぼやけ、カメラが検知した赤外線が視覚でわかる。まるで、右目で赤外線画像を見て、左目で可視光線画像を同時に見ているようなレイヤー構成のようだ。

 

 音も熱も光も、突き詰めれば振動である。電子機器が発する電磁波や地場までもが周波数で検知される。機体に備わったカメラやセンサーが360°全周囲のあらゆるデータを拾い、そのすべてを俺に伝えてくる。

 

 地面の日なたと日陰の部分の温度の違い。大気中の部分的な温度分布の違い、空気の密度、風の向き、強さ。さらに、地軸の向き、地球の磁界など、そのデータは膨大だ。

 

 また、目の前にいるバルバロイの装甲表面の温度はもちろん、摺動部ベアリングの温度、各部モーターの稼働音と稼働状況、機体内を走る電気配線が発する電磁波までもが、0と1のデジタルデータで収集され、AMSが演算処理し、人間の脳に適した形に変換されて正確な感覚として知覚される。

 

 これでは、頭がおかしくなっても仕方がない。そして、さらに不思議なことが起こった。

 

 目の前のバルバロイが0.5秒後にこちらに背を向けるのがわかった。そして、実際にバルバロイがこちらに背を向けた。動きのわずかな初動からコンピュータが動きを予測し、予測データが随時更新されながら脳に届けられる。足を引き、腰をひねり、肩を回すわずかな動きのベクトルが時間単位(ミリセカンド)で知覚される。

 

 0.5秒先の未来が見える。これが、アマジーグの強さの秘密か。バルバロイのコックピットの奥には、奴の存在を感じる。呼吸、脈拍、血流までも。

 

 立ち去ろうとするバルバロイに向けてライフルを向けた。

 

【なんの真似だコジマ。先ほど、この場を見逃すと約束したばかりだが】

 

「すまないが、通信ミスだ。俺が何を言って、お前が何を聞いたかは知らないが、前言は撤回する」

 

【おのれ謀ったな、コジマァァァ!!】機体のセンサーは、アマジーグの血圧上昇と体温上昇も検知する。

 

 怒り狂ったバルバロイは振り向きざまにショットガンを放とうとする。奴のショットガン(SHAITAN)がどこに銃口を向け、そこから放射状に放たれる16発すべての弾道と、着弾までの時間が、結果が起こるコンマ数秒前に知覚される。

 

 俺はわずかに機体を傾けただけで、近距離から放たれた16発すべての散弾を見切り、かわす。

 

 パシンと頭の中で何かが小さくはじけた。

 

 バルバロイは続けざまにショットガンを放つが、まるで砂漠の蜃気楼を相手にしているかのように当たることはない。俺はバルバロイの左手親指に向けてライフル弾1発を正確に打ち込む。奴の親指を粉砕し、バルバロイはショットガンを取り落とす。

 

 奴はすぐさま反対の手に持つライフルを構えようとするが、その動きを察知し、ライフルもう1発。構える前に奴の右手の親指を砕き、バルバロイは、もう一方のライフルも手から取りこぼす。

 

 パシン、パシンと、再び頭の中で何かがはじける感覚がした。

 

 武器を失ったバルバロイは、飛びかかろうと身を屈めようとする。その際に生まれる右膝間接の装甲の隙間めがけて3発目の弾丸を叩き込むと、バルバロイは崩れ落ちた。

 

 それでもなおブーストの推力だけで飛び上がり、上空から襲いかかってくる。

 

 俺は左腕を胸の前に構えた。バルバロイの右肩ブースターに微細な電磁場変化と熱量変化を検知。クイックブーストを使用してのフェイントが予測された。

 

バルバロイは予測通り、左手にあるブレードの死角になる俺の右側に回り込み、右腕のストレートパンチを繰り出す。俺は微動だにせずレーザーブレードを発振させる。構えた左腕の位置だけをわずかに調整してから発振した青白いレーザーは、バルバロイの拳から肩までを串刺しにした。

 

 パシン。

 

 爆発したバルバロイの右腕は、奴の機体を反対方向に弾き飛ばす。鈍い動きで起きあがったものの、そのまま膝をついて動かなくなった。

 

 

【コジマ……貴様も私と同じ……いや、あるいは……】

 

 

 そうだ。お前と同じ力を使った。だが、お前の強さとはこんな機械仕掛けのものではない。

 

 お前は凄い奴だ。自分がやるべきことを決め、すべてを捨ててでも、決めたことをやる遂げる覚悟があるのだろう。そして、どのような結果になったとしても最後まで責任をとるつもりなのだろう。

 

 どっちつかずで、誰も救えない俺たちレイヴンとは違う。それが、正しかろうが、間違っていようが、少なくとも決定をすることで誰かを救っている。

 

 そして、お前は強い。仲間のコジマ汚染を防ぐために、単独で戦っていると聞いた。お前は、お前に見えているすべてのものを守りたいのだろう。それが無理だとわかっていて、なお戦い続けるのだろう。

 

 これまで多くの敵と戦ってきたが、お前ほど正義という言葉が似合う奴はいない。

 

 俺はライフルを構えた。ブレードでつけた傷痕が痛々しく残るコックピットに狙いつける。その奥にはアマジーグの弱々しくなった生命活動が検知された。

 

 できれば殺したくはないが、任務を達成するのが俺の正義だ。

 

 

 パシン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───なんだ?

 

 

 直上、熱量変化。同時にコジマ粒子濃度上昇。熱源体確認。並びにレーダー波、および、ロックオンレーザーを検知。高エネルギー体射出。初速毎秒約1000km、加速しながら降下中。加速係数1.2。

 

 対象位置から弾道予測。俯角マイナス89.6°水平左にコンマ2。着弾予測位置にはバルバロイがいる。

 

 

 

 光が降ってきた。無慈悲な破壊の光だ。神経接続レベルを上げた今の俺には、バルバロイの破壊されていく様子が、スローモーションのようにすべて見えた。

 

 遙か上空から放たれた120mmのライフル弾は、光の尾を引きながら、バルバロイの首脊椎部に着弾。発生した衝撃波が頭部と肩部をひしゃげさせた。そのまま弾丸は頸椎に沿って貫通。コックピットは弾丸の直撃を避けるも、内部は圧壊し、その時点でアマジーグの生体反応は失われた。

 

 弾丸はバルバロイ腰部のコジマリアクターを損傷させ、制御がきかなくなったコジマ粒子が暴走。機体内部を高圧で駆けめぐり、薄青緑色のコジマの光が間接部から漏れ出した。光はそのまま急激な膨張を続けバルバロイの機体を内側から無惨なまでにバラバラにした。

 

 最後は、小さな爆発の後に、薄青緑色のコジマ粒子の柱が上空22.3mの高さで立ち昇る。それは英雄アマジーグの墓標のようであった。

 

 

 

 パシン。

 

 

 

 上空からアマジーグを葬ったものが急降下してきた。地上十数mのところでブースターを吹かして落下速度を殺すと、白く細身のネクストが静かに砂の上に着地した。通信が入る。

 

《応援は不要だったかな? こちら、ホワイトグリント。アスピナ機関の傭兵、ジョシュア・オブライエンだ》

 

 俺は名乗り返すことなく、アマジーグを殺した白い機体にライフルを向けた。

 

《聞こえていないのか。私は敵ではない》そういいつつ、防衛のためホワイトグリントもライフルを構える。

 

《ちょっと、なんであなた達が戦うの。やめなさい!》状況をモニタリングしていたフィオナが慌てた声で制止に入る。

 

 ジョシュアの声も、フィオナの声も、もちろん聞こえている。俺はどうしても、思い知らせてやりたかった。アマジーグを殺したことを。不条理なのはわかっている。ただ、コイツを殴りたくなった。

 

 俺はライフルを脇に放り投げ、ドスドスと足を踏み鳴らして前進し、危機を救うために駆けつけてくれたホワイトグリントに向かって堅く握らせた拳を叩き込む。

 

 ホワイトグリントが視界から消失した。

 

 上。いや後ろ。

 

 繰り出した右拳を、そのまま裏拳にしてホワイトグリントに再び殴りかかるが、奴は予期していたように身を低めてかわし、立ち上がると同時に前蹴りで俺を突き飛ばした。俺は砂を背にして仰向けに倒れる。

 

 

 パシン。

 

 

 そこへホワイトグリントが右腕のライフルを突きつけ、躊躇なく引き金を引く。弾道予測から、当たらないのはわかっていた。銃弾は俺の左頬の脇に着弾し砂柱を立てる。舞い上がった砂が顔にかかり、カメラに影をつくった。

 

《手柄を横取りされて悔しがっているわけではないね。アマジーグに何らかの思い入れがあったのか。それとも、精神負荷の影響で早くも頭が錯乱したのかな?》

 

 ジョシュアの言葉に、俺は少し冷静になった。

 

《おもしろかったよレイヴン。それに免じて、この件に関する違約金を請求するのはやめておこう。そのかわり、この弾薬1発分の代金は君自身にツケておくとしよう。

また、会えるのを楽しみにしているよ》

 

 ホワイトグリントは消えるように去っていった。なにか肝心なことを見落としているような、違和感を残して。

 

《ちょっと、なんてことをしてくれるの! 始末書ものの行動よ!! 頭のほうは大丈夫なの!?》通信機からフィオナの怒声が響いた。

 

「君まで俺を疑うのか。俺は正常だ」とはいえ、異常な行動に見えても仕方がないと、冷静になって考える。

 

《そうじゃなくて、身体的に異常はないかと聞いているの》

 

 

 パシン。

 

 

「少々違和感があるが、問題はない」それにしても。「奴は……ジョシュア・オブライエンは人間じゃない」

 

《ええ、本当に強い人。昔はあんなじゃなかったのに》

 

 

 パシン。

 

 

 頭の中で『パシン』と鳴るのは、間違いなく脳細胞が破壊する音だ。それは始末書で、まとめて報告することにしよう。

 

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