まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

14 / 70
幽白1巻の地縛霊ちゃん好き。


14話「幽霊といっても事情があります!」

「優子、ちょっとお醤油買ってきてください」

 

「今キャプテンクルールと戦ってるんで、ちょっと待ってください!」

 

1学期が終了し、夏休みに入ったある日の午前中。お母さんに頼みごとをされた私は画面から目を離さず返事をしました。

 

今プレイしているのはドンキーコング2のキャプテンクルール戦です。船長の格好をしたワニVSサルの戦いです。ようやくここまで来ました、来たんですよ……!

 

やたらと難しいステージが各所にあり、ここに来るまで数々のおサルが倒れる事態となりました……。大体、サルだけならともかくアニマルに乗らなきゃいけなかったり、コースターで骸骨が追っかけてくるステージがやたらと難しいのは何でですかね?浦飯さん半ギレしてましたし。

 

なんてことを考えてやっていたら、方向キーの入力が逆になる煙に当たってしまいました。今ディディーしかいないのにー!?

 

「あー!来ないで来ないでワニ船長ー!」

 

咄嗟にジャンプして避けようと思ったら、相手が向かっていく方向に逃げるようにジャンプしてしまいました。そしてキャプテンクルールに当たり、倒れるディディー。

 

「あああ……」

 

そしてなくなるライフの風船。そう、私は敗北したのです……おのれワニめ!

 

怒りを抱きつつ、私は電源をしっかり切って、お財布を持ちました。キリがいいし買い物に行きましょう。怒りのままやってもうまくいかないですからね。

 

「ムガー!ちょっと頭冷やしてきます!」

 

「あ、あと豆腐もお願いします」

 

「はーい」

 

それから商店街に買い物へ出かけ、一通り購入しました。

 

浦飯さんは連れてません。何でですかって?あの人夏休みだからってまだ寝てるんですよ。起こすと機嫌悪くなるのでそのままです。まぁ近所ですから問題ないでしょう。

 

自宅に入ろうとすると、門のところで荷物を引いているミカンさんが何やらウロウロしていました。何か探しているようです。

 

「どうしたんですかミカンさん」

 

「あ、シャミ子。実はばんだ荘っていう建物を探してて、この住所だと思うんだけど廃墟しかなくて……」

 

「住所はここで合ってますよ?私も住んでいるばんだ荘です」

 

そう答えるとミカンさんは慌てて謝ってきました。まぁ確かにばんだ荘はかなりぼろいですが、廃墟では……ギリギリない気がします。

 

どうやらミカンさんは桃の家で暮らさないでアパートを借りることにしたそうです。理由としては桜さんの件を知らなかったことで負い目があるというのと、桃が修行をしているため時間帯が合わないからだそうです。

 

そんな話をしつつ、ミカンさんの部屋にお邪魔しました。私の家の隣でしたので、間取りは変わりません。

 

「しかし高校生が一人でアパート借りられるんですか?」

 

「この物件、光や闇の一族絡みの人は結構簡単に住める特別物件なのよ。この部屋なんて光闇割で月120円なんですって!即決しちゃったわ!」

 

「学割!?」

 

安いなんてレベルじゃないですね。1ヶ月缶ジュース1本くらいで住めるとは驚きです。

 

しかしTVだとそういう極端に安い部屋って事故物件と聞きます。果たして大丈夫なんでしょうか?

 

「でも大丈夫ですかね、何かあるんじゃ……?」

 

「多少古いけど、問題ないと思うわよ?壁なんて壁紙を補修すればいいんだから……」

 

そう言いながらミカンさんが壁に手を当てようとすると、ベロンと壁紙が剥がれ、出てきたのは大量のお札が貼られた壁でした。

 

サーっとミカンさんの顔色が青く染まりました。こ、これは明らかにあれですね……。

 

「ミ、ミカンさん。これはきっと縁起のいいお札ですよ」

 

「でででで、でも~!?」

 

ミカンさんが涙目で私の服の袖をつかんで頭を横に振ります。マジモンの事故物件だったとは……。

 

自分でも無理があるフォローだと思いましたし、案の定ミカンさんに効果なしです。こうなったら専門家を呼ぶしかありません。そうしなければミカンさんは安心しないでしょう。

 

「分かりました。霊界探偵を連れてきましょう。あの人ならそういうの詳しいかもしれません」

 

「浦飯さんね!」

 

ということで私の家から浦飯さんを叩き起こしてミカンさんの部屋へ連れてきました。本人は眠いのか若干不機嫌そうに唸ってました。

 

「んだよ、お札が貼ってあるだけじゃねーか」

 

「大問題よ!また幽霊でもいると思うと、ああぁ……」

 

「み、ミカンさん落ち着いて!」

 

事情を説明すると、こういうことに慣れている浦飯さんはため息混じりにそう溢しました。しかしミカンさんはより震えが増していきます。このままミカンさんがより怖がれば、私たちに呪いが来そうです。

 

「このお札には霊気のカスも感じねーから効果ねーよ。気のせいだ気のせい」

 

「よ、よかった~!」

 

ミカンさんは安心して腰が抜けたのか、その場にへたり込みました。うんうん、浦飯さんを連れてきてよかったです。

 

「大丈夫だって分かると元気が出てきたわ!インテリアとか色々楽しみたいわ。ここに本棚を置いて、こっちにはTV置いて……」

 

「あ、じゃあ私ゲーム機持ってきますね!」

 

「現金な奴ら」

 

「2人とも楽しそうだね……」

 

4人目の声が聞こえたので振り返ると、桃が玄関先に立ってました。ミカンさんの引っ越しの手伝いに来たんでしょうか?

 

そう尋ねると、桃は否定しました。先日私の家に訪問してきたとき、感情のままに迷惑をかけてしまったということで挨拶にきたそうです。

 

また夏休みの間、何か事件があるといけないので桃もばんだ荘に部屋を借りると言ってきました。しかもそれは私の部屋の隣です。

 

つまり夏休みの間は魔法少女に挟まれた生活をすることとなったのです!

 

「それ、いつもとあんま変わんねーじゃねーか」

 

「ですよねー」

 

浦飯さんの言う通り、いつもと変わんない気がしますが、家の距離は非常に近くなりました。

 

そんなことをお母さんに報告すると、隣人歓迎すき焼きパーティーをしよう、とお母さんが提案しました。

 

肉の出どころですか?桃が我が家への差し入れで持ってきてくれたものです。

 

そんな感じで皆でパーティーをしました。そのパーティーの中でミカンさんの実家の段ボールと、お父さん段ボールが同じものだったことが発覚しまして皆驚きましたが、それはそれ。

 

パーティーはそのまま続き、みんなで楽しく美味しく食べました。

 

「ほら、清子さんも飲んで飲んで!」

 

「今日は私もいっぱい飲んじゃいましょう!」

 

「いいねいいね、いい吞みっぷり!」

 

一部酔っ払いが発生してましたが、無視です。

 

そんな感じで1日を終えて、邪神像のくせにうるさいイビキをかく浦飯さんに悩まされながら眠りにつきました。

 

しかし今日はこれで終わらなかったのです……!

 

 

 

始めは小さな物音でした。コツン、コツンと何か叩く音です。

 

イビキがうるさくて寝つきが悪かったせいか、そんな音が続き、少しづつ私の意識が覚醒していきました。

 

まぁ気のせいだろうと思い布団を掛けなおしました。

 

しかし音が規則的に続き、しかも段々大きくなっていくのです。さすがに気になってきました。

 

「うるさいなぁ~……」

 

音の大きさからして、発生源は我が家ではないようです。しかし最初はかすかな音だったのに、今は普通に響くくらい音が大きくなってます。

 

近所迷惑だな、と私は思い確認するために立ち上がります。

 

どうも音は家の外……つまり通路側、しかも距離と聞こえる音の位置からして、ミカンさんの部屋の方から聞こえるようです。

 

深夜、段々大きくなる音、そして昼間見たお札の数々。

 

――もしかして幽霊――

 

そんな考えに思い至り、私は背筋に寒気が走りました。しかしあのとき浦飯さんがミカンさんの部屋に入って、霊気のカスもないと言ってました。つまりあの場に霊はいなかったということです。

 

不審者の可能性もありますし、まだ霊とは断定できないかも。そう考えている間にもどんどん音が大きくなってきました。

 

ミカンさんも動揺しているのか、小さい物が落ちてきて私の頭に当たりました。幸い怪我はありませんが、ミカンさんの呪いが始まっているようです。急がねば。

 

「浦飯さん、起きて下さい」

 

「んだよ~……ってなんだこの音は」

 

「どうやら何者かがミカンさんの部屋を叩いている音らしくって……着いてきてください。泥棒か幽霊かまだわからないので……」

 

「あん?……かすかに霊気を感じるな、こりゃ幽霊かもな。悪霊かは知らねーが」

 

やっぱり。廊下にいる物体のパワーは感じるのですが、まだ私では霊気か魔力かの違いが判らないので、やはりこの人を起こして正解でした。

 

「先手必勝だシャミ子。抵抗したら霊丸ぶちかませ」

 

「それで行きましょう」

 

幽霊を殴れるか分からないので、ここは初手必殺技です。

 

私はポケットに浦飯さんを入れて廊下に勢いよく飛び出しました。そしてミカンさんの部屋の前に向けて霊丸を込めた右人差し指を構えます。

 

「そこのキサマ!大人しくしろ!!」

 

指を向けた先にいたのは、長い黒髪のせいで表情が見えない人物であり、ミカンさんの部屋をノックしていました。体つきは女の人のようで、ブラウスにロングスカートといった格好です。

 

「ありゃ完全に幽霊だな、辛気臭そーなやつ」

 

この人からは何かパワーを感じますし、浦飯さんの言葉からやはり普通の人ではなく幽霊のようです。というか明るい幽霊なんかいるんですかね?

 

私の声に反応してノックをやめた女の人はこちらに顔を向けましたが、どうも前髪が長くて表情が見えません。

 

「……私と……ケンジ君の邪魔をしないで!」

 

誰ですかケンジ君、とツッコミを入れるよりも先に感じていたパワーが強まりました。どうやら仕掛けてくる気です。だがこの間合いならこちらのほうが速い!

 

「私はケンジじゃなーい!!」

 

霊丸を撃とうとした瞬間、ミカンさんの家のドアが勢いよく開き、ドアに当たって女の人は少し吹き飛びました。ミカンさんは既に魔法少女に変身し、女の人に矢を構えてます。ミカンさんから感じる膨れ上がる魔力……この人殺る気だ……!

 

「だ、誰あなた……!?何でこの部屋に……!?」

 

「私の部屋だからに決まっているからでしょ!?ゆゆゆ、幽霊なんか怖くないわ!!」

 

そう言いながらミカンさんの声や体が震えまくってました。明らかに無理をしているのが見て取れます。

 

今の位置関係だと、私と女の人の間にミカンさんがいる形です。つまりこの位置からでは霊丸を撃てません。

 

どうフォローしたらいいか考えていると、浦飯さんが心配するなと声をかけてきました。

 

はて、どういうことなのでしょうか?もうミカンさんは撃つ寸前です。だがこれだけ動揺していると矢を外す可能性だってあるのに……。

 

「ケンジ君を、ケンジ君を返してー!」

 

「……うるさい」

 

襲い掛かろうとした女の人は前のめりに崩れました。そしてその後ろに立っていたのは、変身した桃でした。手刀を打ち込んだのでしょう、右手が手刀の形でした。あれは漫画でよく見る「首トンッ」……!か、カッコイイ!

 

「桃!」

 

「あ、ありがとう桃~!」

 

ミカンさんはその場で泣き崩れました。そして呪いが発動し私たちの頭上に現れる小さな雨雲によって、桃と私と浦飯さんは濡れました。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

謝るミカンさんを宥めつつ、全員ミカンさんの部屋に避難しました。呪いで濡れた体を拭きつつ、幽霊が起きるのを待ちます。

 

この場で強制的に成仏させるのをやめようと提案したのは、意外にも浦飯さんでした。

 

何でも昔こういった男絡みの地縛霊と会ったことがあるそうで、理由くらい聞いてやろうという提案です。幽霊という意味でこの場で一番経験を積んでいるのは浦飯さんなので、今回の件はお任せすることになりました。

 

 

「……うぅん。こ、ここは……?」

 

幽霊が目を覚ますと、全員臨戦態勢に入ります。一応桃の魔法で動けないよう縛り上げてますが念のためです。

 

先ほどは暗くてわかりませんでしたが、よく見るとかなり顔立ちが整った美人な人でした。その彼女に一番最初に声をかけたのは浦飯さんでした。

 

「よぉ、目が覚めたみてぇだな」

 

「あ、あんたたち!ケンジ君はどこ!?」

 

「それなんだけどよ……ケンジ君てのはオメーの男か?ん?」

 

「何で一杯飲んだおじさんみたいな聞き方なのよ」

 

ミカンさんが呆れながらそう言いました。緊張感がない人ですね。

 

「……そうよ。この部屋でいつも迎えてくれるのがケンジ君よ。彼をどこにやったの!?」

 

「おいシャミ子、この部屋にいた前の住人はいつからいなくなった?」

 

確かこの部屋の前の人はあまりご近所付き合いをしない人で、ほとんどしゃべったことがない男の人でした。確か引っ越ししたのは私の高校入学前くらいですから……。

 

「5か月くらい前ですかね?」

 

「結構前だな。何でオメーは今まで来なかったんだよ」

 

「半年間入院してて……つい先日死んだの」

 

「見舞いにはその人来なかったんですか?」

 

「……それは」

 

桃の質問に女の人の声は詰まりました。どうやら彼女であろう人の見舞いにも来ないような人間だったようです。

 

「……本当に彼氏だったの?」

 

「失礼なこと言わないで!彼はいつも私を優しかったわ!それに私が世話をしなきゃ何もできないような不器用な人だったの!部屋の掃除だって、食事だってやった!困ったときはお金だって貸してあげた!」

 

「そ、それは……」

 

どうやら身の回りの世話をこの人がやっていたようで、話を聞く限りどう考えてもまともな男じゃないようです。その話を聞いて全員顔を顰めてました。

 

「事情があったかもしれねーし、そいつの引っ越し先とかよく行く場所とか知ってっか?」

 

「引っ越し先は知りませんが、よく行っていた場所なら……」

 

そのケンジ君という人はこの街のパチンコの隣の喫茶店によく利用していたらしく、彼女もよくそこで彼と過ごしていたようです。

 

「脅かしたのに、協力してくれるの……?」

 

「悪霊とかになったら目覚めが悪りーからな。それにあんたを放置してたらミカンが寝れなくなっちまし」

 

「も、もう大丈夫よ!……ちょっとこのまま放っておくのも目覚めが悪いし」

 

「ありがとうございます……」

 

そんな感じで皆で協力することになりました。確かに脅かしたのは事実ですが、原因はそのケンジ君にありそうなので皆それ以上幽霊さんを責めることはありませんでした。

 

話し終えたのが日をまたいでいた時間でしたので、そのまま起き続け彼がよく行っていたという喫茶店が開店すると同時に入店しました。

 

見たところ普通の喫茶店であり、皆で注文して待ちます。

 

30分ほど経ったころでしょうか。1組のカップルが入店してきました。

 

「あ、ケンジ君……」

 

「あの人が?」

 

男のほうを見て、幽霊さんがそう呟きました。女連れで乗り込んだ彼を見て、幽霊さんは沈んだ表情になっていきました。

 

その男性は確かに隣に住んでいた男の人です。背も大きくなく、少し痩せ気味の男の人です。どうにも軽薄そうなイメージがするのは、幽霊さんの話を聞いたせいでしょうか。先ほどから一緒に入ってきた女の人にべたべたしてます。

 

相手の女の人の方はかなり濃いメイクの、いわゆるギャル的な感じです。

 

「どうする?処す?」

 

「ミカン、まだ早いよ。一応探りを入れてから殴ろう」

 

「一番槍はオレだからな」

 

「誰もストッパーがいない……」

 

私も含めてですが、皆そのケンジ君を一発ぶん殴ることに決めているようです。

 

カップルは上手い具合に私たちの後ろの席に座ったので、皆ケンジ君の会話に耳を傾けます。

 

「あーあ、この前から全然パチンコ勝てねーの。あの女がいなくなってから勝てないわ」

 

「あの女って、貢がせてたやつー?そいつ最近どうなったのよ?」

 

「知らねーよ、ここ半年顔見てねーもん。まー金は良く貢いでくれたし身の回りのこともやってくれたから便利だったけどよー、結婚とか色々言い始めてたから鬱陶しかったんだよな。その点はいなくなってせいせいするぜ」

 

「よく言うよヒモのくせに」

 

「そのヒモと一緒に暮らしてるオメーも人のこと言えねーっての。第一そいつの金をオメーにも使ってやってたんだから、オメーも共犯だって」

 

「それもそーだね」

 

アハハハ、とそのカップルの笑い声が響きます。全員拳が震えてました。ここまで、ここまでの男がいるのは初めて見ました……。

 

「おいシャミ子、オレに代われ」

 

「え、でも私もやりたいです!」

 

「良いから代われ!」

 

凄い浦飯さんの迫力に負けて、私はスイッチを入れました。私も一発殴りたかった……。

 

 

 

 

幽助に代わった瞬間、全員席を立った。幽霊の女は、先ほどのケンジの言葉にショックを受けており、反応が遅れてしまった。

 

そしてケンジの前に立った3人に対し、ケンジと女は呆けた目を向けてきた。

 

「オラァ!」

 

幽助の左拳がケンジの頭を殴りつけ、机を破壊して地面と唇がキスする羽目となった。

 

「テメーは死ね!死ぬのだ!」

 

「ちょっと浦飯さん、私の分も残しておいてよ!怖かった恨みを晴らすんだから!」

 

「……私の分も」

 

地面にめり込んだ頭を幽助が死なない程度に加減しながら踏みつけ続けると、それに続いてミカンもお尻を、桃は背中を踏みつけ続けた。

 

ミカンの場合はケンジのクズさへの怒りと、脅かされた恨みが一緒くたになっているようだ。

 

「ちょ、ちょっとあんたたち何なの!?ケンジが何かしたっていうの!?」

 

「馬鹿かテメーは!さっきのクズみたいな言葉聞いてりゃわかるだろーが」

 

「ちなみにさっきの発言は録音してあるから、言い逃れはできない」

 

桃がちゃっかり録音しているとアピールすると、女は顔を青ざめた。

 

一通りボコボコにして、幽助はその男と女を引きずって喫茶店から退場した。ミカンもそれに続き、桃は喫茶店のオーナーに修理代金を渡した後、簡単な理由を説明した。

 

オーナーもこっそり話を聞いていたらしく、グッと親指を立てただけであった。

 

少しだけ人通りの少ない場所へ移動し、全員で男と女にこの街から出ていくよう脅しまくった。矢と霊丸と杖を向けながらだ。

 

あまりの恐怖にカップルは失禁した後気絶したので、人通りの多いゴミ捨て場に放置しておいた。あんな姿を見られれば、もうこの街にはいられないだろう。

 

 

その様子をずっと見ていた幽霊の女がようやく口を開いた。

 

「皆さん、私のために、ありがとうございます……」

 

「気にすることはねぇ!いいか忘れろ!消去するのだ!あんな胸クソ悪いヤロー、頭ん中に入れとくな!」

 

「そーよそーよ!あんなの忘れましょ!」

 

「体を動かすと忘れることが出来る……と思う」

 

「でも、そんな急には……」

 

「こーゆーときはパーっと遊ぶんだよ!オラ来いや!」

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

 

幽助はそのまま幽霊の女の首元の服を捕まえて、走り出した。桃とミカンもその行動に苦笑いを浮かべながら、着いて行った。

 

映画を見たり、店を冷かしたり、丘の上に行って街並みを眺めているともう夜になってしまった。

 

なおウインドウショッピングの時点で幽助はシャミ子の体を戻した。どうにも女の数人の中での買い物は彼には辛かったらしい。

 

「こんなに楽しかったのって、本当に久しぶり……!」

 

幽霊の女は心から楽しそうな笑みを浮かべた。それは彼女がこのメンバーに会って初めて見せる笑顔だった。

 

「あ、笑った!今の顔スゲー可愛い」

 

「え……」

 

女は邪神像に入った幽助の言葉に顔を赤くして、俯いてしまった。

 

「俯いちゃダメだって、笑ってェ~」

 

「へ、変な声出さないで……あははは!」

 

笑い終えると、今までの暗い顔が嘘のように晴れやかな表情を女は浮かべていた。

 

「……あなた男の人でしょ?どうしてその子の体に入ったり像の中に入ったりしているか分からないけど……男の人から可愛いなんて言われたの初めてだった。

彼はそんなこと言ってくれなかったから」

 

「あんなの彼じゃねーよ」

 

「元気になったみたいですね」

 

「……本当に皆さん、どうもありがとうございました。これで成仏できます」

 

暗くなった夜空に浮かんだ女は全員に向けてお辞儀をした。

 

「そうね。また会うことがあったら声かけてね。今度は幽霊じゃなくて生身でね」

 

「……お元気で、っていうのも変だけど」

 

「……はい!」

 

「んじゃオレからのはなむけの句を一発!『あの世では変な男に引っかかるなよ!』字余りだが、達者でな」

 

女は二コリと笑顔を浮かべた。

 

「今度生まれ変わったら、あなたみたいな人と一緒になりたいわ」

 

「あん?」

 

 

―――それじゃ、さようなら―――

 

 

そう言い残し、女は消えていった、彼女から感じていたパワーもなくなっていることから、完全に成仏したのだろう。

 

ミカンとシャミ子は少し涙ぐんでいた。桃は口を横一文字に結んでいることから耐えているのだろう。

 

「さ、帰ろーぜ。今日はパーっとしたい気分だわ」

 

幽助のその言葉に皆頷き、ばんだ荘へ足を向ける。

 

しばらくして、シャミ子は上を向きながらこう呟いた。

 

「何だか、魔族の起こした事件より質が悪い気がしますよ」

 

「……そうだね」

 

また一つ、大人になったシャミ子でした。

 

つづく




今回のお話はミカン引っ越し話と、幽白1巻の『一年めのクリスマス!!の巻』の地縛霊ちゃんの話です。
男の名前はそのまんま。実はセリフが一番書きやすかったのがカップルの会話です。悪役のほうがセリフが思いつきやすいのは何故でしょうか。

吉田家謎のステッキは未定。シャミ子素手だからしばらくいらんよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。