まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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オリキャラ魔法少女注意。3話に分割です。遅くなりました。


17話「正義とは一体……前編です!」

「この壺はここに置けばいいですかー?」

 

「うん、そこに置いておいて」

 

「わかりましたー」

 

 

さて、今私は桃の家で掃除をしてます。この夏休みのみ桃はばんだ荘に引っ越してきましたが、なんと桃は宿題を丸々元の家に置きっぱなしにしていたと言うのです。

 

学生の本分は勉強ということで、宿題をやることを渋る桃を引っ張って取りに戻りました。

 

そして元の家に入ると、やはり無人だったせいか埃が溜まってました。ついでに掃除してしまおうという話になり、今に至ります。

 

ついでに浦飯さんはテレビの前に置いておきました。今はお笑い番組を見てゲラゲラ笑っているところです。

 

 

「さて、大体片付きましたね。時間もちょうどいいですし、お昼にしますか」

 

 

時計を見ると、ちょうどお昼になりかけている時間でした。掃除も終わったので、もう今日の予定はなくなりましたね。桃も終わったのか、手の埃を叩いて落としながら近づいてきました。

 

 

「そうだね。でもここには食材がないから、食べに行く?」

 

「ダメですよ!外食は高いですし、栄養も偏ります。ただでさえ桃は食事に偏りがあるんですから!」

 

「オメーはこいつの母ちゃんか」

 

「お母さんではありません!」

 

 

食事に無頓着な桃を心配して言っているのに、浦飯さんが茶々を入れてきます。まだぴちぴちの高校1年生なんですから、ママには早すぎます!

 

 

「じゃあ買い物行くの?シャミ子ママ」

 

「桃までー!私は貴様のママではなーい!でも商店街で買う予定です!」

 

「一緒に行くよ。前みたいなことがあったら大変だし」

 

「あ、そうですね。じゃあ行きましょう」

 

 

そういえば単独で向かってバトルになったことがありましたね。最近色々あってすっかり忘れてました。桃がこっちを「大丈夫かこいつ」って目で見てます。ちょ、ちょっと忘れてただけなんですからね!

 

2人と邪神像を腰に装着し、たまさくら商店街へ向かいます。しかし夏は暑いです。暑くてコンクリートから湯気が見えるようです。

 

 

「そういえばミカンさん、夏休み始まってから実家の方に帰省してますが、いつ帰ってくるんですか?」

 

「もう少ししたら編入のための試験と面接があるから、あと数日で戻ってくるって」

 

「別に高校なんか行かなくても生きていけんのに、真面目だなー」

 

 

ミカンさんは色々編入のために準備があるため帰省しているそうですが、浦飯さんはその忙しさに信じられないかのように呟きました。そういえばこの人中卒でしたね。

 

 

「えー、でも学校楽しいですよ」

 

「そうかぁ?先公はウゼーし、面倒くさかったぜ。盗んでもいねーのに、盗みの犯人にされるしよ」

 

「……それは大変ですね。どうやって解決したんです?」

 

「それがよー、オレのせいにするために岩本っつー教師が盗みやっててよ。物が透けるレンズでそいつのポケットから盗んだもん取り出して見せたら言い訳して逃げ出したんだよ。

腹立ったから、逃げ出す岩本の後頭部に見えないようにした霊丸ぶちこんでやったぜ!あんときはすげー気分爽快だったわ!」

 

「殺人だー!?」

 

 

今の浦飯さんの霊丸なんか普通の教師なんかにぶつけたら跡形も残りませんよ!そんなひどい先生もいるのにも驚きですが、霊丸のほうがインパクト強すぎです!

 

そういうと浦飯さんは笑って「違う違う」と否定してきました。

 

 

「初めて撃った霊丸だったから、シャミ子の初めての霊丸と同じくらいの威力だぜ?せいぜい気絶するレベルだって」

 

「それならよかったです……」

 

「いや、良くないでしょ」

 

 

桃が突っ込んできましたが、死んでないならいいことじゃないですか。そういうと桃は「毒されてる……」とか呟いてます。いやいや、私は正常ですよ?

 

 

「そーでなくても、何かと絡んだりしてくんのが教師じゃねーか?そういうときあんだろ?」

 

「……まぁ、若干面倒なときはありますね」

 

 

桃がしっかりと頷きました。そういえば担任の先生が桃のことをよく見ておいてね、なんて言ってましたが、桃としては先生に干渉されるのは好きじゃなかったんでしょうか?

 

 

「だろー?学校が楽しいのが少数派だって」

 

「いや、それは今この場だけの話ですよね!?楽しいほうが多いと思います!もしかして桃、学校がなくなれば宿題がなくなるとか思ってません?」

 

「………そんなことはないよ」

 

「おい、こっちを見ろ魔法少女」

 

 

桃はこちらの質問に対して顔を背けました。もしかして干渉されるのが嫌なんじゃなくて、勉強嫌いなだけではないでしょうか。それなのにこちらのほうが成績が下とは……うぬぬ、納得いきません!

 

 

「真面目に宿題やらなきゃだめですよ!せっかく学校に行けてるんですから!」

 

「いやいやシャミ子君、真面目過ぎるのも良くないぜ?クソ真面目な奴は始末が悪いからなー、極端から極端へ走りたがる。だから不真面目くらいでちょうどいいんだよ」

 

「カンニングして先生に連行されただけあって、説得力ありますね」

 

「うっせ!」

 

 

何か浦飯さんが正当化しようとしてきますが、あなたこの前のテストのカンニングがバレて先生に連行されたこと忘れてないですからね。

 

全く浦飯さんは本当に緩いというか、どこかのんびりしてますね。でも普段一緒にいる人があんまり厳しいとそれはそれできついですからちょうどいいかもしれません。反面教師的な意味で。

 

 

「……でも浦飯さんの言う通りかもしれない」

 

「え、桃。もしかして真面目に悩んでます?」

 

 

顎に手を当てて黙っていた桃が、そうポツリと呟きました。え、もしかしてガチで悩んでます?

 

邪神像も浦飯さんの心境に合わせているのか、げんなりした表情を浮かべてます。いや、まぁ気持ちは分からないでもないですがやめましょう浦飯さん!

 

 

「……あー、魔法少女の中には真面目にやりすぎたせいか、闇落ちする人もいるから……」

 

「え、闇落ち!?何ですかそのパワーワードは!教えて教えて!」

 

 

闇落ち!なんと心を擽られるキーワードなのでしょうか!

 

もったいつけて話す桃の頭を尻尾の先でペチペチ叩くと、雑巾絞りされてしまいました。ごめんなさいでした!

 

 

「といっても面白い話じゃないんだよ。精神……コアが人の悪意に晒されたりとか、自責の念などで闇に飲まれると、エーテルで構成されている肉体も汚染されていくんだ」

 

「どうしてそんなことになるんです?」

 

「……色んな人たちがいるからさ」

 

 

そう呟いた桃の横顔は寂しげで、とてもじゃありませんがそれ以上質問する気にはなれませんでした。そんな不味い出来事があったのでしょうか。

 

 

「まぁクソみてーな連中なんか気にすんなってことだ。シャミ子もそこんとこはチャランポランでいいと思うぞ。この道の先輩からのアドバイスだぜ!」

 

 

煌めくような浦飯さんのドヤ顔でした。桃にはこれ以上聞けそうにもないですし、気にしてもしょうがないことですので、浦飯さんの言葉に素直に頷きました。

 

 

「確かに、思い込みすぎは良くないかもしれませんね。よし、このことは忘れて早く食材を買いましょう!」

 

「………そうだね」

 

 

桃は私の言葉にうっすらと笑みを浮かべました。この反応が正解のようです。

 

そう言えば浦飯さんも、悪い金持ちのところから魔族の女の子を救出したという話もしてましたし、そういった類の話でしょう。あんまり気分のいい話ではなさそうですので、この話はここで打ち切りました。

 

途中レトロゲーやたまさくらちゃんグッズ、パチンコ新台などそれぞれの興味の対象に引かれそうになりますが、なんとか振り切って買い物を終わらせました。

 

桃の家の門まであと少しというところで、門の前に誰かが立っているのが見えました。はて、誰でしょうか。見たことのない人です。振り返ったその人は少し年上に見える女性でした。

 

容姿は赤い髪でショートボブ、赤い瞳。身長は160㎝ほど。赤い袖なしのシャツにジーパン、黒のブーツ。格好とは裏腹にどこか影が薄いというか、儚い感じの印象を与える人でした。

 

 

「こんにちは。君がこの街の魔法少女かな?」

 

「はい。あなたは?」

 

 

桃は女の人のセリフを聞いた瞬間、私より一歩前に出ました。まるで私を庇うポジションです。私も前に出ようとしますが、桃の手で制されてそれ以上前にいけませんでした。

 

 

「ボク、血池真理。君と同じ魔法少女」

 

 

おお、ボクッ娘ですね。

 

自己紹介を聞いてそう呟こうとした瞬間、隣の桃が一瞬硬直したように感じました。うーん、桃のこの反応からするとなんかこの人ヤバそうな予感がします。そう私は感じ取り、いつでも動けるように準備しておきます。

 

 

「あなたの名は聞いたことがあります。それで、何か御用でしょうか?」

 

「光栄だね……実は魔法少女に協力的な魔族の子を探してここまで来た。ボクの目的は――――その後ろの魔族の子。君を仲間にしに来た」

 

「――――何ですと?」

 

 

意外な言葉に、全員固まりました。

 

 

☆☆☆

 

 

「悪いね。お昼時に来てしまって」

 

「いえ……お昼頂かなくて、本当に良かったんですか?」

 

「もう食べてきたからね」

 

 

尋ねてきた真理さんがお話する前に、お昼を一緒にと提案しました。しかし真理さんはここに来る前にすでに済ませてきたということで、私たち2人と浦飯さんにお供えしておきました。

 

お昼ご飯を終えて、お茶を出そうとしましたが、それも断られてしまいました。何か漫画で見た仕事人みたいなスタンスの人ですね。

 

お茶を一口飲み、口火を切ったのは桃でした。

 

 

「何故、シャミ子なんです?魔法少女ならば、魔法少女同士で手を組んだほうがいいはずですが」

 

「それは君にも言えるだろう?君とて魔法少女でありながら魔族である彼女と手を組んでいるという話は聞いているよ」

 

「こちらには事情があります。だがあなたにはそれがない」

 

「せっかちだね君は。それを今から話すところさ」

 

 

桃ってば、すっごい威圧的です!相手の真理さんもソファで足を組んで全然気にしてないかのように流しているし……私なんか聞いているだけでなんか心配になってきます。

 

 

「今でこそ魔法少女は穏健派が主流と言われているが、やはり基本的には縄張り意識が強くてね。ボクみたいな探偵業をやっていて色んな場所にお邪魔する仕事だと抵抗感ある娘が多いのさ。だから協力的な魔族のほうがやりやすいんだよ」

 

 

真理さんから素敵なワードが飛び出しました。ま、まさかの探偵業です!

 

探偵と言えば、子供の頃一度はやってみたい職業に入る人気職業じゃないですか!私もホームズみたいな格好してみたいです!

 

 

「あ、あの!名刺とかあるんですか!?」

 

「あるよ?ほら」

 

 

差し出された名刺には「血池探偵事務所 所長 血池真理」と書かれていました。

 

 

「ほげー!か、かっこいいー!!本物の探偵さんですー!」

 

「ははは、喜んでくれて何よりだよ」

 

「オイオイ、オレだって元探偵だぜ?」

 

 

名刺のカッコよさに興奮していたら、浦飯さんが横やりを入れてきました。たしかに浦飯さんは元霊界探偵ですけど……。

 

 

「だって浦飯さんは事件の解決方法は力業じゃないですかー。どっちかというと腕力家?」

 

「あんだとー!?シャミ子!オレへの尊敬ってもんが足りねーんじゃねーのか!?」

 

「昨日ハメ技で勝ちに来ていた人に抱く尊敬なんかないですー!」

 

 

格ゲーでハメ技を何度も繰り出してボコボコにされた恨みは忘れてません。大人げないにもほどがあります。

 

言い合っていると桃は私と浦飯さんの口を手で押さえてきました。ぬぬ、苦しい……!

 

 

「はいはい、2人ともそこまで。すみません、うるさくて」

 

「いやいや、息ピッタリじゃないか。ところで話を戻していいかい?」

 

「では、お願いします」

 

 

促すのはいいんですが、桃ってばまだ口を押えてきます。浦飯さんはフガフガ何か言ってますが、完全無視です。あ、段々苦しいの通り越して頭がぼーっとしてきました……。

 

 

「探偵とは言うけど、実質何でも屋みたいなところもあってね。簡単に言うと『正義の味方』をやっているようなものさ」

 

「ほうほう、詳しく!」

 

「ノリノリだなこいつ」

 

 

尻尾で催促するよう何回か真理さんを指し示すと、浦飯さんが突っ込んできました。だって探偵ですよ!?中々出会えない職業なんですよ?聞くしかないでしょ!

 

 

「ペット探しから、違法取引の現場を抑えたりもするんだ。内容は個人情報もあるから言えないんだけどね」

 

「おおー!カッコイイです!」

 

「フフ、ありがとう。しかしそういうトラブルには荒事がつきものでね。だから腕に自信がある子で、かつ『悪』は絶対に許さない子がいいんだ」

 

「それなら魔法少女でいいと思いますが」

 

 

桃の言葉に、真理さんは首を横に振りました。どうやら魔法少女はダメなようです。

 

 

 

「魔法少女は光の一族だ。依頼の中には人の闇というか、汚いものを見せられることもある。魔法少女は闇落ちの可能性もあるから、必ず『悪』を倒すという精神の持ち主で、かつ闇落ちの可能性がない魔族のほうがいいのさ」

 

 

さっき桃が言っていた闇落ち魔法少女の危険性があるわけですね?でもそういった悪意に晒された魔族はどうなるんでしょうか?邪悪さがアップしたりするんですかね?

 

 

「やけに『悪』って言葉にこだわるじゃねーか」

 

 

そんなことを考えていたら、浦飯さんからツッコミが入りました。

 

言われてみれば浦飯さんの言う通り、さっきからやたらと悪という言葉が出てきますね。しかもそこだけ強調しますし。

 

 

「何、魔法少女であれば大なり小なり『悪』に関しては拘りがあるのさ。何せ光の一族だからね」

 

「………ふーん」

 

 

珍しく浦飯さんにしたら大人しく引き下がりました。真理さんは特に気にした様子もなく、スマホをポケットから出して操作し始めました。何をしてるんでしょうか?

 

 

「シャミ子くんは噂だと何度か実戦経験もあり、度胸もあるそうだね。それでいて友達もいてご近所でも明るいと評判だし、社交性もある。ボクの求めていた人材だ。

どうだい?ウチの事務所に入ってくれればかなり給料出せるよ。とりあえずの1ヶ月の額面の給料はこんな感じかな?」

 

 

なんと私のデータが入っているらしいです。いつの間に調べたんでしょうか?いや、探偵だから当然なのかもしれません。

 

差し出されたスマホに記載された給料の額を見て私は腰を抜かしました。こ、こんな給料だったら毎日お好み焼きパーティーどころか、焼き肉行けますよ……!

 

 

「今提示したのが基本給で、依頼内容によっては危険手当やボーナスが支給されることもある」

 

「おお、これなら一気に金の問題は解決だな」

 

「……浦飯さん」

 

「ジョークだよ桃、お茶目な幽ちゃんのジョーク!」

 

 

桃がドアップで浦飯さんに迫ってますが、でもこの額は魅力的ですよ。しかも内容次第では上乗せありです。

 

これなら食生活も改善しますし、嗜好品も購入できますから最新ゲームもプレイできます。ああ、お母さんや良にも色々買ってあげれますね。

 

でも私はこの街で色んな体験をしました。もう私1人だけの問題ではないのです。浦飯さん、お父さんや桜さんの封印を解くためにこの街を守りつつ強くならなくてはいけません。

 

街を守るためにわざわざ来てくれたミカンさん。そして桃のため。

 

色んな人がこの街を守ろうとしてます。色んな事がこの街に重なってます。だからもし真理さんの事務所に入ったら、この街を離れることになるかもしれません。

 

だから私は断ることにしました。でもわざわざ私をスカウトしにやってきた方に対して、どうやって上手く断ればいいんでしょう?

 

「行く気はない!」ではひどすぎますし……。

 

うーんうーんと断りの内容を考えていると、真理さんのスマホが鳴り響きました。どうやら電話のようです。

 

 

「失礼、仕事の電話だ。一旦席を外すね?」

 

「どうぞ」

 

 

真理さんはスマホを持って一旦外に出ていきました。そのせいで内容は聞こえません。

 

ぽーっと扉の方を見ていたら、桃がものすごく顔を近づけてきました。少し悲しそうな表情をしていますが、それ以上に近いですー!

 

 

「まさかシャミ子、さっきの話受けるつもりじゃないよね?」

 

「え、何でです?」

 

「だって、さっきの給料見てすごく悩んでいたから……」

 

 

なんと。桃は私が受けるだろうと思い込んでいたようです。甘いな桃、私が高額な給料で簡単に揺らぐ魔族だと思わぬことだ!

 

 

「違います!せっかくスカウトしに来ていただいたので、どうやって相手の方を傷つけず断るか言い方を考えていたんです!金で揺らぐ魔族ではない!」

 

「……そうだったんだ」

 

「でもよー、あれだけ金が入ると最新のゲーム本体とゲーム、デカいTV買ってもお釣りが来るぜ」

 

「うぐぅ……!?」

 

 

そうなんです。広告のチラシに書かれていた値段を考えると、デカデカサイズのTVで臨場感たっぷりの最新ゲームが楽しめるはずなんです……ええい、私を惑わす悪魔(浦飯)よ、去れ!!

 

 

「ケケケ、ブレブレ魔族じゃねーか」

 

「……浦飯さん?」

 

「ジョークの通じねー奴だなテメーは!?」

 

 

浦飯さんがまた桃に責められてますが無視です。私を惑わす悪魔なんぞは助けません。

 

電話が終わって真理さんが戻ってきました。仕事の電話で席を外すのって、何か仕事のできるキャリアウーマンな感じがしてかっこいいです。

 

 

「すまないね。今から仕事に向かわなくてはならなくなった。明後日返事を聞きに来るけど、それでもいいかい?とりあえずこれが給料と休みとか、まぁ就業規則を書いてある資料だ」

 

 

ペラリと紙の束を渡されました。つい受け取ってしまいましたが、私は首を横に振ります。

 

 

「すみません、この話を私は受ける気は……」

 

「まぁ今すぐ決めろというのは大変だから、よく親御さんと相談して決めるといい」

 

 

そう言いながら、真理さんは力強く握手してきました。

 

 

「それに強くなりたいのであれば私が鍛えるし、ウチに入れば戦う機会には困らないと思うよ?それじゃ、失礼するね」

 

 

真理さんは私の言葉を遮って捲し立てたかと思いきや、そのまま資料を置いて帰っていきました。なんだか嵐の様に来ては去っていきましたね。やはり忙しいんでしょうか。

 

私は持たされた紙を握ったまま深くソファに身を沈めました。

 

 

「どうしましょう。断れませんでした……」

 

「……かなり強引だった。でも明日断ればいいと思う」

 

「そうなんでしょうか……」

 

「気にしすぎだってーの。それにあいつには関わんねーほうがいいぜ?」

 

 

先ほどまで給料面でからかっていた人とは思えぬ言葉でした。でも桃はその言葉に驚かず、頷いてました。

 

 

「浦飯さんも感じ取りましたか?あの人の危うさを」

 

「まぁな。あいつのこと、何か知ってんだろ?」

 

「噂で聞いたことある程度ですが……」

 

 

2人だけが何か感じ取っていたようで、ポンポン話が進んでいきます。そして桃が真理さんのことを話し始めようとしてました。

 

 

「実はあの人――――家族が全員死んでるんですよ」

 

 

★★★

 

 

「やけに表が騒がしいな……」

 

 

夜。深夜にほど近い頃。

 

郊外にある大きな屋敷の中。

 

初老の男1人しかいない部屋には見事な調度品が飾られており、床はペルシャ絨毯が敷かれている、誰が見ても豪華な部屋だ。贅の限りを尽くした部屋と言い換えていいだろう。

 

仕事を終え、男はワインを口に含んでいた。濃厚な赤の香りに程よい酸味……好みの味だ。こうして財を成すことが出来たからこそ、こうして好きなことが出来る。それを無粋な音に邪魔されるというのは、男の神経に触った。

 

 

「こんな夜中に何だ一体……」

 

 

まさかとは思うが、自身が雇っている者たちによる騒音ではあるまい。雇い主である自分の機嫌を損ねればクビどころでは済まないことは重々承知のはず。

 

普段なら人を呼びつけるところだが、自分の目で見てみようと思い、ソファから立ち上がりドアを引いた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

それと同時に、黒スーツの男が自分に倒れこみ、支えきれず共に地面へ倒れてしまった。

 

 

「馬鹿モン!何をやっておるかぁ!!」

 

 

倒れこんだままの態勢で男性は怒鳴り声を上げた。しかし反応がない。もし自分が怒っているのを目の前にすれば、平伏するのが当然である。にも拘わらず無反応とは一体どういうことなのか?

 

その疑問は黒スーツの顔を見て、すぐに吹き飛んだ。その男は、すでに白目を剥き、頭と口から血を流して事切れていた。

 

しかもただの人間ではない。その黒スーツの男の額には角が生えているのだ。金で雇った魔族なのだが、無残な姿となっていた。

 

 

「ヒッ!?」

 

 

あまりの死にざまに男性は死体を払いのけた。明らかに異常事態だ。

 

次の瞬間、目の前で足音が響いた。視界には黒ブーツも見え、少なくともこんな格好をした者は館の人間にはいない。

 

見上げると、赤い髪の上下とも赤いラインが入った黒づくめの服を纏った女が立っていた。

 

―――――その左手に、自身の妻の首を持ちながら。

 

 

「うわああぁぁー!?」

 

 

男は叫んだ。叫びながら逃げようとするが、足がもつれて尻もちをついた。その目の前に妻の首を女は投げる。また男から恐怖の声が漏れた。

 

 

「随分無様じゃないか。散々大勢の人をドラッグで廃人に追い込んでおいて、その狼狽えようとはね」

 

「警備、警備はどうした!一体何をしているんだ!?」

 

「誰も来ないよ。というか、来れない」

 

 

キイ、と音を立ててドアが先ほどより開く。すると長い廊下のほとんどが赤く染まっていた。

 

何人倒れているか、正確に把握するのもできないくらい、直視しがたい光景である。

 

血で染まった廊下に倒れているのは多くが黒スーツで身を包んでいたであろう男たちであるが、角が生えていたり、翼が生えていたりと人外の存在も混じっていた。

 

だがその連中も銃を握りしめたまま絶命している人間の男たち同様、息絶えていた。いずれの死体も、鋭利な刃で切り裂かれていたかのような状態だった。

 

血と臓物の混じり合った匂い。あまりに悲惨な光景と臭いに、男は吐き気を堪えるので精一杯だった。

 

目の前の女は見た目からすれば麗しいともいえるが、この光景を生み出しても平然とした態度をしているのを見て、怪物にしか見えなかった。

 

奇妙な服装以外は『何も持たない』女がこの惨劇を生み出したと考えるならば、普通の人間でないことは誰の目にも明らかだった。

 

 

「い、一体何が目的で……」

 

 

男の言葉と視線も気にせず、女がポケットから錠剤が入っている瓶を男に見せつける。錠剤に「AH」という刻印が刻まれていた。

 

 

「 『Angel Happiness』略してAH……天使の幸運か。製薬会社の社長ともあろう人が、こんなドラッグを売りさばいていたとは、驚きだよ」

 

 

いわゆるアッパー系のドラッグである。まるで天使に包まれたかのような多幸感が感じられる代物であり、錠剤であるため取り扱いが非常に楽であるのが特徴だ。

 

効果発現まで15分以内で超短時間型ともいえる。注射などの手間もなく、主に行為の前に用いるもので、現在若年層……10-20代を中心に流行しているドラッグだ。

 

表向きは普通の製薬会社だが、このドラッグを裏社会から流通させ巨万の富を築くことで、急速に裏社会の地位を上げ魔族を雇い武力強化することができた。

 

『AH』の強烈な多幸感を経験してしまえば抜け出すことは困難である。よって短期間での大量服用による副作用で廃人・死亡する事例が多発していた。

 

 

「な、何故こんなことをするのだ……妻は関係ないだろう!」

 

「このドラッグで廃人になった娘の親からの依頼さ。明るくて人気者だった子が廃人となって帰ってきたのであれば、親としては原因を潰してくれなんて言う依頼も出すさ。他にもコレを潰してほしいという声もあってね」

 

 

言い終わった瞬間、女を突き付けていた男の指が切り飛ばされた。何をされたのか、男では知覚できなかった。

 

 

「ぐああぁあーー!!」

 

「人を指さすんじゃないよ。こんなドラッグを生み出して富を得て生活している貴様らは『悪』だ。そしてボクはそれを正す『正義』だ。そんな男の家族を殺して何が悪い?」

 

 

男は痛みというより、切られた指の部分が熱く感じており、切られた事実と相まってその場から動くことが出来なかった。脂汗と血が絨毯にこぼれていく。

 

 

「このドラッグに関係する資料が、この部屋の金庫にあるんだろう?金庫の開け方を言え」

 

 

このままでは殺される。

 

男は言われた通り、金庫の解除方法を女に教えた。妻を殺された怒りより、自身の命を選んだ。

 

バレてはまずいものは、自身の近くに置いておく。この男もその習性に漏れることはなかった。

 

何も持たない女は言われた通り金庫を開け、紙のデータとUSBを取り出した。紙の内容をチェックすると、確かにドラッグの内容と一致する。確かなようだった。

 

 

「こ、これで見逃してくれるのか……私と、私の子供たちも」

 

 

男は妻を殺されたにも関わらず、反撃どころか命乞いをした。もう彼に反骨心はない。素手でこれほどの戦闘力を持った女に対し、今の自分がどうこうできる存在ではないことを察していたからだ。

 

生きていれば金という力をつけ、いつの日か反撃できる戦力を整えることが出来る。復讐を果たすことが出来るのだ。

 

 

「ああ、それ?安心していいよ」

 

 

その言葉に、男は表情を明るくした。

 

男には男と女の子供が1人ずついた。長男は18歳、長女は11歳と中々子に恵まれない中、やっとのことで生まれた子たちである。

 

そのため大層可愛がった。

 

息子はドラッグ……AHを使って女をものにしていたが、その痕跡は親である男が完全に物理的にも消してある。我が子のためなら何でもやってきたのだ。

 

娘は家の暗黒な部分など知らぬ、まさに汚れなき天使であった。

 

子供たちだけは何としても見逃してもらいたかった。

 

男の言葉を聞いた女はドアの扉を開いて、ドアから死角になっていた廊下の場所から何かを男の目の前に放り投げた。

 

 

「生かすわけ、ないだろう?」

 

 

――――それは、最愛の息子と娘の首だった。

 

絶叫する男の首が吹き飛び、家族4人の首が向かい合うように転がった。

 

悪を絶やすには、元を断つ。そしてそこから復讐をさせないようにする……つまり復讐をできなくすればいい。

 

―――――つまり、根絶やしである。

 

その徹底した行為。返り血に染まった赤い服と赤い髪。血池真理は薄く笑った。

 

「今日も見てくれた?『マキちゃん』?」

 

自分の胸を撫でて、そう呟いた。

 

つづく




そんなこんなで3話に分割です。やっぱりスパッとヤバいの書ける富樫は天才ですわ。
こういうのありか、感想いただけると助かります。
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