呪霊錠をつけてから2日経ちました。今日は何と夏休みなのに登校日という謎のシステムの日です。
登校し、疲労困憊の状態のまま机で寝ていた私を見て杏里ちゃんが言った第一声は―――
「し、死んでる……!?」
極めて失礼なものでした。もう少し優しさがほしいです。
「死んでませ~ん……」
「机に突っ伏したまま言われても説得力ないんだよねぇ。しかも変なポーズしてるし」
昨日の疲労が取れず、私は席につくなり両手首と両足首をくっつけつつ机に突っ伏してました。
そのポーズはまるで捕まった犯罪者が許しを乞うような感じです。
その体勢のまま抗議しますが、ダメだしを食らいます。
だって顔を上げる気力すらないんですもん。
「てか何でそんな疲れてんの?夏休みだったんだよ?」
「かくかくしかじかです」
浦飯さんと一緒に説明しつつ、通学カバンの中にある一冊のノート……夏休みの絵日記を取り出して杏里ちゃんに渡しました。ジャポン学習帳です。
「なるほどなるほど……」
杏里ちゃんが絵日記帳を見てる横で、呪霊錠を含めて今日までのことを話します。
杏里ちゃんの表情は絵日記のページをめくるごとに引きつっていきました。
ちなみに絵日記は幽霊騒ぎ・喫茶店あすら・私の記憶・真理さんとの戦いの順で書かれています。
ちなみに幽霊と真理さんの話は個人情報保護のため詳しい経緯は書いてません、てかヤバすぎて書けないです。
「シャミ子の夏休み、激熱どころかほぼ事故じゃん……戦いすぎじゃね?」
「やっぱり戦いの頻度が多いですかね」
「喧嘩の頻度っつー意味ならそんなに多くねーと思うけどな」
「多すぎるわ!てかシャミ子の相手って聞く限り互角かそれ以上の相手しかいないじゃん!漫画だってもう少し雑魚相手と戦うって」
やはり普段喧嘩していた浦飯さんの感覚より、杏里ちゃんの意見のほうが正しいでしょう。
言われてみれば基本戦って勝っていますが、真理さんには2対1で負けましたし、自分よりずっと弱い相手とは戦ったことがないですね。
弱かったのは幽霊騒ぎのあのクズ男くらいなものでしょうか。でもあれは私以外の皆がぶっ飛ばしてしまいましたし、実質私は関係ないですね。
「戦いのたびに怪我してるし、しかもその上新しい修行してるんでしょ?休まないと死ぬよマジで」
杏里ちゃんはいつもの冗談を言うときのトーンではなく、本気でした。やっぱりヤバいですよね、この状況。
そう聞くと、杏里ちゃんは頷きました。
「だって今もその呪霊錠?とかしてるんでしょ?ちょっと見せてもらっていい?」
「あ、はい」
私は両手首につけていたシンプルな黒のリストバンドを外します。このリストバンドはお母さんからプレゼントしてもらったものです。
リストバンドを外した瞬間、両手首に光の枷が現れました。光の枷から1本の光が鎖のようにつながってます。それを見ると、杏里ちゃんは感心したような声を上げました。
「うぉ~、すごい。それで普通に生活は出来るの?」
「へへ……ところがどっこいです。気を抜くと物を壊したり、妖力が切れるとくっつくように戻るので気が全く抜けないんですよ。ハハハ……」
全力で身体強化をしている状況ですから、力加減が異常に難しく、すぐ物が壊れます。妖力切れで元のくっついた状態に戻ります。
呪霊錠をつけてから今日まで起こった生活上のハプニングを説明すると、杏里ちゃんは私の肩に両手を置いて、首を横に振りました。
「もういい、今日は休めシャミ子……!」
「杏里ちゃん……ありがとうございます!桃やミカンさんは頑張れとしか言ってくれなくて、味方がいなくて!」
今度恐ろしい修行方法があったら桃やミカンさんも巻き込んでやる、絶対だ!
どんな目に合わせてやろうかと尻尾をブンブンしながら考えていると、浦飯さんが「しょうがねーなー」と言い始めました。
「ま、今日も休みでいいか。まず普通の生活ができるよう訓練だな」
「よっしゃー!休みだー!」
思わず私はガッツポーズしました。魔族に覚醒してからというもの、怪我をしているとき以外は何かしら特訓してますからね。怪我なしで休みってサイコー!
そう叫ぶと、杏里ちゃんが「不憫な……!」とか言いながら涙ぐんでました。
「そういえばさ。こう言うと大変失礼なのは分かるんだけど、この呪霊錠をやったのって浦飯さんだよね?」
「おう。それがどうかしたか?」
「いやー、浦飯さんの話を聞いていると、浦飯さんってこういう細かい技術と言うか、技って苦手なタイプだと思ってたから意外でさー」
「杏里ちゃんてば直球です」
浦飯さんとは夢の中で組手をしますが、基本殴り合いで細々した技術や技を使ったことは一度もなく、技は使っても霊丸とショットガンくらいです。
だから呪霊錠なんていう特殊な術を掛けられることに驚いたものです。
しかし杏里ちゃんもはっきり言いますね。浦飯さん短気だし、ちょっと怒るかも……と邪神像の表情をのぞき込みます。
すると意外にも、納得しているかのような表情でした。
「あーそれな。実際オレも覚える気はなかったんだけどよぉ、幻海ばーさんが覚えろってうるさい時期があってな」
浦飯さんは懐かしそうな表情をして語り始めました。
☆☆☆
幽助が魔界統一トーナメントから人間界へ戻って数ヶ月が経過したころの話である。
その頃の幽助の仕事はラーメン屋の屋台をやりつつ、始末屋……妖怪関係専門の何でも屋をやっていた。
魔界と人間界との間に張られていた結界も解かれたことで、妖怪と人間の間でトラブルが発生する……かと思いきや全くそんなことはなかった。
むしろ一部の妖怪はアイドルデビューするなど積極的に人間たちの輪に入ろうとしていた。
魔界統一トーナメント優勝者である煙鬼の自治法を皆よく守っているのだ。おかげで幽助の始末屋としての仕事はほぼ皆無であった。
もっとも大会出場者の敗者は治安維持のためパトロールを行っており、もし自治法を破ることがあればパトロール隊を相手にしなくてはならない。
トーナメント3回戦負けの選手が浦飯幽助・飛影・蔵馬といった凄腕である。そんな連中が相手となれば、違反を犯そうとするものがいないのも納得である。
細々とした依頼はあるものの、基本的にはラーメン屋で生計を立てている幽助。そんな彼にある日幻海から1本の電話がかかってきた。
『暇だろうから、こっちに顔を出しな。お前に渡したいものがある』
『急になんだよバーサン。こっちは起きたばっかだし、第一オレ夜から仕事だぜ』
『しばらく休んでも問題ないだろ。早く来な!』
ラーメン屋は夜に出している。そのため昼間まで寝ていた幽助は気怠そうに答えるが、そんなことはお構いなしに幻海は一喝し電話を切った。横暴である。
『ったく、あのババァはいつも通りだな』
ぶつくさ文句言いながら幽助は幻海の元へ足を運ぶ。いつもであれば無視するところであるが、理由もなく呼び出すタイプではない。気になった幽助は幻海の寺へ訪れた。
『来たぞバーサン、何の用だよ』
『やれやれ、相変わらず礼儀ってもんを知らないね。師匠に手土産の一つも持ってこんとは』
『(このクソババァ……!)』
呼びつけておいてこの態度に幽助はイラついた。まぁある意味平常運転とも言えるし、元気そうではある。
ちゃぶ台を見るとすでに用意されていた2人分の茶が目に入った。
何だかんだ来ることを予想していたらしく、乱暴に座った幽助は茶を飲みながら一服する。
しばらくすると幻海から話し始めた。
『お前に霊光波動拳の奥義の伝授をしようと思ってね。それで呼んだのさ』
『よーし、帰るかぁ!』
『待ちな』
幻海は部屋を出ていこうとした幽助の足を引っかけて転ばせた。普段なら受け身を取れる幽助だが、何故か今回は頭から落ちた。予想していなかったためであろう。
『なーにすんだクソババァ!第一奥義は戸愚呂の前に渡し終えただろ!』
『バカ助かお前は!あれは霊光玉を渡しただけだ。お前には霊光波動拳の五大拳の修行が済んでない……つまり今のお前は霊光波動拳の伝承者としては不十分なんだよ』
霊光波動拳にはそれぞれ『攻・防・仙・療・修』の五大拳があり、それぞれ奥義がある。
幽助は基礎的な修行しか行っておらず、その状態で伝承者となった。事態が切迫していたため致し方がないが、はっきり言えば未熟な状態で幽助は伝承者となったのだ。
『つってもよー、今更やる必要あんのかよ?』
正直に言えば奥義伝授前の幻海より今の幽助のほうが圧倒的に強い。今更霊光波動拳にこだわる必要がどこにあるのか?そう幽助が尋ねると、幻海は厭味ったらしくため息をついた。
『確かにお前は強くなった……だがお前はまだ技術が足りない。そのせいで苦戦した記憶は思い当たるだろう?』
『まぁ……確かにな』
思い当たるのは仙水と黄泉だ。幽助は技術が上手いタイプが苦手であり、両者に対して機転を生かして戦ったが、結局初めての戦いは2名のどちらにも負けている。
『……それに、あたしの寿命も近い。お前に渡せるものはこれくらいしかないからな』
『バーサン……』
元々霊光波動拳の継承者の選抜の理由も、幻海本人の寿命が近いから行ったものだ。戸愚呂との戦いで一旦死んで生き返ったものの、寿命が長くなったわけではない。
幽助は改めてそのことを思い出していた。言われるまで忘れていたともいえるが。
しんみりした空気になった瞬間、幻海は意地悪そうな笑みを浮かべた。大抵こういうときは碌なことを言わないものだ。
『まぁ別に帰ってもいいがな。あたしより強いお前が霊光波動拳の修行に根を上げて逃げ帰ったとなれば、良い笑い話になるさね。せいぜいあの世で広めてやるさ』
ケラケラと笑う幻海の姿に幽助は切れた。まるでビビって逃げ出すような言い方である。
以前の修行を何度も抜け出そうとした男は、声を張り上げた。
『て、テメェ……!やったろーじゃねーか!今のオレなら奥義くらい簡単でー!』
強くなっても簡単に乗せられる男、それが浦飯幽助である。
――――幻海の計画通りであった。
『その言葉、忘れんじゃないよ』
☆☆☆
「そんで修行して全部覚えたわけよ。今にして思うとバーサンは本当にもう残り少ないって分かってたんだな。まんまと乗せられたぜ」
その後幻海さんは霊界テロ後すぐに亡くなられたと聞いてます。おそらく急いで教えたのでしょう。普通に教えると言ったのでは浦飯さんは首を縦に振るタイプではありませんからね。
「うーん、チョロイですね」
しかしこうも簡単に乗せられる人に教わっていいのか、少し悩みどころです。そう言うと浦飯さんはキレました。
「誰がチョロイだコラァ!」
「あなた以外に誰がいるんですか誰が!」
2人で言い合いを繰り広げていると、杏里ちゃんが苦笑いしながら割って入ってくれました。
「まーまー。理由も分かってスッキリしたところで、今日は気分転換に商店街でお祭りあるからちよももとミカン誘っていこーよ!いいよね浦飯さん」
「いいんじゃねーか。オレもこんな修行ばっかだったら嫌だしな。ババアとの修行の時は何度ぶっ飛ばしてやろーと思ったか………」
「オイ、修行させてる本人が言いますか!?お祭りは必ず行きます!」
前言撤回!この人優しくないです!
修行の提案者がそんなことを言い出したので、勢いのまま杏里ちゃんの誘いに乗りました。
口は悪いですが、浦飯さんは幻海さんのことをあんまり傷つけようとか思ってなかったでしょう……恐らくですが。私の場合は、いつか浦飯さんをギャフンと言わせてやりますがね、ケケケ。
「よし決まり!喫茶店あすらで待ち合わせねー!」
ちよももとミカンも誘っておくからー!と言った瞬間ホームルームが始まりました。今日は午前中で学校が終わりなので、すぐあの2人にも会えるでしょう。
授業は眠かったので大半寝てしまい、先生に注意されましたが何とか学校も終わり、皆に喫茶店あすらの前で合流しました。
私以外は皆浴衣を着ていて、店の前ではお祭り用の弁当を販売しているマスターとリコさんもいました。
「おやシャミ子はん、今日はお祭りなのに浴衣着てへんの?」
「あ、うちに浴衣はなくて……」
今までお祭り行くほど体力もなかったので、浴衣を持ってなかったことを言うとリコさんはポンと手を叩きました。
「じゃあこれはプレゼントや」
「これ、浴衣ですね」
すっとリコさんに出されたのは浴衣でした。何故用意してあるのかは分かりませんが、綺麗な浴衣です。
「良い色だと思うんや」
「悪いですよ、貸してもらうなんて……」
「ええからええから」
ただでもらうのは悪いので断ったのですが、リコさんはぐいぐい勧めてきて、あっという間に着替えさせられました。
淡い色の浴衣です。サイズもぴったりでした。
「似合う~。これでウチが皆の浴衣をコーディネートしたことになるわ~」
「え、そうなんですか」
3人の方を向くと、桃は嫌そうな顔をして服を脱ごうとしていて、ミカンさんと杏里ちゃんは苦笑いしてます。
「謎の技で全く脱げない……」
「そーなんだよねー」
桃が脱ごうとしますが全くビクともしてません。どんな素材でできてるんですかね、アレ。
何かやたらリコさんは左手を背中に回す変なポーズ取りながら、とても悪そうな笑顔浮かべてます。何故でしょうか?
「(完璧やな、ウチの幻術♡)」
しかしさっきから浦飯さんが「いいね~」とかなんか言ってるんですよね。
も、もしや我々の浴衣に見惚れてしまったとかでしょうか!?
それにしては目がかなりいやらしいです。ミカンさんも皆身の危険を察したのか、両腕で体を抱きし締めて浦飯さんから距離を少し取りました。
「リコ、オメーも悪い奴だな。ナイスだぜ」
「幽助はんなら、そう言うてくれる思うとりましたわ。やっぱり分かります?」
「目を凝らせば分かるからな……浴衣に見せかけてるだけだろ?」
「正解ですわ~」
何だか2人ともすごい悪い顔して話してますが声が小さすぎて聞こえません。いったい何ででしょうか?そんなに浴衣が好きだったんでしょうか?
突っ込んでも答えてくれなさそうなんで、そのまま皆でお祭りに繰り出しました。
正直お祭りにはほとんど行ったことがないので、あれもこれも買いまくってしまいます。
焼きそばうまーい!……箸を折らないよう細心の注意を払いつつやってますけどね……!
『……杖を、景品の杖を取るのです……』
両手に食べ物を抱えていた私の頭の中に、突然私の中にいる千代田桜さんの声が聞こえました。
夢の中で会ってから一度も声を聴くことがなかった千代田桜さんの声が何で今聞こえるのでしょうか?
その声のことを皆に知らせると、みんな驚いてました。ちなみに事情を知らない杏里ちゃんにも簡潔に話しました。
「桜さんってちよもものお姉さんでシャミ子の中の人ってことだよね。もしかしてお告げってやつ?」
「お告げ……まぁ確かにそうなるかも」
「もしかして景品の杖ってあれじゃない?」
ミカンさんが指さした方向にはダーツの屋台がありました。景品が飾ってある棚の最上段の真ん中に、星型の杖がありました。
目を凝らしてよく見ると、魔力が発せられてました。
「間違いない、アレは魔法的なアイテムだ……!」
「おうあんた、アレどこで手に入れたんだ」
桃が指をさし、ミカンさんもそれに対して賛同しました。どうやらマジで魔法関係の道具っぽいです。そこで浦飯さんがダーツ屋の店長の男性に話しかけました。
男性は手に水かきがあって、半そでから出ている腕には鱗が見えてます。……ってこの人魚人ではないですか!
しかし浦飯さんはお構いなしに話を進めていきました。
「あれかい?オレの犬が散歩中ちょっと目を離した隙に勝手に持ってきてよ。どこから持ってきたかもわかんねーから景品として出しちまおうかなと。あ、千代田さんお疲れ様です」
「あ、どうもこんにちは」
やばい、状況が色々掴めません。杖の入手方法もそうですが、桃ってばこの魔族の方と知り合いだったんですね。
「あ、紹介するね。こちらオソロ夫妻。普段は魚屋を経営しているんだ」
「初めましてオソロです。オロソじゃないので注意してください。で、こちらが妻です」
奥さんもどうやら魚人の方のようですが、奥さんの方は大人しい方なのか、ペコリとお辞儀をしただけでした。
桃の話によると1年前にこの街へ引っ越してきた夫婦で、引っ越しの際桃の世話になったそうです。魚人が魚屋だと共食いにならないのでしょうか?
「落とし物は警察に届けたほうがいいんじゃないかな?」
「出したんだけど、持ち主が見つからなかったから戻ってきたんです。子供もいい歳だし、あーゆーのはもう使わないからちょうどいいかなって思って。
欲しいならダーツやりません?1回500円です」
「……あれはダーツっていうより……」
「東京フレ○○パークで見たやつだコレ!」
私たちの目の前にあったのは巨大なボードでした。高さは桃より大きく、横は両手を広げた長さより長いです。
ボードの中には商品が色々書いてあります。特賞の車は矢の先端部分の隙間くらいしか幅がなく、両隣はたわしと表示されてました。本家より悪質!
お目当ての【魔法の杖】は小指の爪ぐらいの幅です。両隣はバトル鉛筆がデカデカと書いてあります。この差は汚い、あまりにも汚い……!
「え?てか良い商品狭くない?」
「お祭りですから」
それでいいのかと突っ込みたくなるのですが、そう言っている間にも私たちの後ろにお客さんが次々とやってきます。やっぱり難易度は高いですが、豪華商品ですから人はやってくるみたいです。
「わ、私たちも早くやりましょう!」
「任せて。射撃なら私が得意よ」
「いやいや、まず私がやる!」
射撃が得意と言ったミカンさんを遮ったのは杏里ちゃんでした。
確かに魔法少女としてボウガンで戦うミカンさんにとってはいくらボードが早く回ろうとも問題ないはず!ミカンさんがいるので、私たちは普通に遊べると杏里ちゃんは考えたようです。
1回500円で矢1本のみ使えるので、お金を支払った杏里ちゃんは使う矢を持ち、白線の前に立ちます。ボードまでの距離はおよそ10m!……長くないですか?
「ゲームスタート!」
店長の声で回り始めたボード。その速度は普通の人なら文字が全く見えないレベルです。余りに早すぎて10m以上離れているのに風が巻き起こってます。早すぎぃ!
「早いわ!」
「いえいえ、適正ですよ?」
あまりの早さにビビっていた様子の杏里ちゃんですが、意を決して投げました。そして矢は真っ直ぐボードに向かっていき……
――――そのままボードに刺さらず矢が弾かれました!
『えぇー!?』
「早いだけじゃねぇ、ボードを魔力で強化してやがる!せこいヤローだぜ!」
「なんですとぉ!?」
浦飯さんの言う通り、よく見るとボードの周りに魔力が見えます。あれで回転スピードと強化をしていたようです。余りにもせこい。せこすぎる商売です。
「ちょっと!あれはせこすぎるでしょ!」
「魔力使ってはいけないというルールはないので……その分景品は豪華ですから」
言われて景品を見ると、豪華クルーズ船ディナー券や有名遊園地1日パス、最新ゲーム機などもあった。まぁそれらの的の幅は超狭いですが。
「あ、ついでにボード壊したら失格ですからね」
「自分は強化しているくせに……!」
ボードを壊すほど強化した矢を投げたらアウトという厳しさ。この人店出しちゃダメでしょ!
ミカンさんが桃に「アウト?」なんて聞いてますが、桃は首を横に振ってます。桃的にはまだセーフのようです。
お祭り的にはアウト……!圧倒的アウトですよ……!
しかし私の中の桜さんがあの杖掴めと轟叫んでいるので、私も挑戦です。
「おいシャミ子、杖はミカンに任せて『日本酒飲み比べセット』狙ってくれや」
「水でも飲んでください!妖力で矢を強化して……!うりゃー!」
浦飯さんの言うことは無視して、ボードに纏っている魔力を超える程度に妖力を込めた矢を放ちます!
そして当たったのは……
「たわしー!?」
「ケッ、使えねーやつ」
ど真ん中でたわしという大外れでした。そこ!体動かないくせにうるさいですよ!
「……次私。えい」
桃がいつの間にか準備して投げた先は
「これで君も忍者に!超リスト&アンクルウェイト!」でした。何をゲットしてるんだキサマは!
「ちょうどほしかった……」
「ちょっと!杖を狙ってくださいよ!」
「大丈夫。ミカンならできる」
「まかせて!」
桃がミカンさんの肩に手を置くと、ミカンさんをウインクして答えました。
やはり射撃主体のミカンさんにとっては楽勝なのでしょうか?
「そーいやアイツは緊張すると呪いが出なかったか?」
「そ、そういえば……」
「あー、そんなことも言ってたね」
浦飯さんが言ったミカンさんの呪いをすっかり忘れてましたが、桃は薄く笑って答えました。
その間にミカンさんは既に矢を構えてます。その横顔には焦りはないように見えて
「……大丈夫。これくらいミカンには―――」
躊躇することなく、ミカンさんが矢を放った先は―――
「楽勝だから」
――――魔法の杖の箇所でした。
『よっしゃー!!』
皆でミカンさんに抱き着くと、ミカンさんは嬉しそうに笑いました。やっぱり頼りになります!
そんなこんなで無事杖もゲットでき、お祭りも満喫したので浴衣を返しに喫茶店あすらにやってきました。
「リコさん、浴衣返しに来ましたー」
「わざわざエエのに、律義やなぁ」
お客さんは今はいないようで、マスターと一緒にリラックスしてました。何か喫茶店で休んでいるとオトナって感じの雰囲気です。
お祭りで騒いだ後には、この空気がすごく落ち着く感じがしました。
皆で店の更衣室を借りて浴衣を返すと、リコさんは何故か畳んで返した浴衣を広げました。何でわざわざ広げるのでしょうか?
「どうしてせっかく畳んだのに広げるんですか」
「元に戻すんよ」
「え?それ、どういうことです?」
「だって、これ元は葉っぱやし」
「――――は?」
リコさんの綺麗な笑顔から放たれた言葉は、私たちの頭の中を真っ白にするには十分でした。
その言葉を証明するように、魔力で覆われたリコさんの人差し指と中指が浴衣の上を滑るように移動させると、浴衣が葉っぱへと変わりました。
「ウチの能力や。能力名は言えんけど、ええできやろ~」
「リコ君!?そんなことは聞いてないよ!?」
「言うてへんもん」
マスターの驚きの声に、リコさんは何でもないかのように答えました。
善意で貸してくれたと思った浴衣は、全て葉っぱだったということで。
私たちは葉っぱ一枚でお祭りのご町内をうろついていたという事実が判明したということになりました。
危機管理フォームの様な、いつも仕方なく露出が多い変身とは訳が違います。全員がリコさんを見ると、リコさんは首を傾けてこう言いました。
「引っかかった~♡」
「クソ狐……殺す!」
桃の強烈な殺気が店内に満ちます。いや、桃だけではありません。ミカンさん、そして私も怒ってます。杏里ちゃんも怒ってますが、変身できないので私たちを応援してくれてます。
通報一歩手前な格好をさせられた恨み、思い知るがいい……!
そこで、おかしな点に気づきました。
桃の持っているものがいつものファンシーな杖ではなく、何故か真っ黒な【日本刀】に変わっていたのです。
その日本刀を見て、桃はこう言いました。
ヤ
「これなら、殺れる!」
「ピエェ……」
「おー、ぶっ殺せー!」
殺気120%でした。躊躇なんて言葉は忘れたようです。もう殺気が店内に充満し、マスターはブルブル震え、浦飯さんは野次を飛ばしてました。
「ふふ、やめてほしいわ……そないな殺気ぶつけられると……」
――――興奮してしまうやないか……♡
多少ビビるかも……なんて思っていたリコさんですが、何だか頬がうすく紅色に染まって魔力が滅茶苦茶禍々しく蠢いてました。
こ、この人もしかしておかしい枠組みに入るのではないでしょうか。
そんな不安がひょっこり出てきましたが、もう後戻りはできません。
『いくぞッ!!!』
3人同時に仕掛け、迎え撃つはリコさん。ここに戦いの火ぶたが落とされたのです。
「うちの店がーッ!!?」
マスターの悲鳴だけが木霊しました。
☆☆☆
勝負の結果?店がちょっと壊れてた隙にリコさんが逃げ出してところを追撃したら、私は締め落とされるという敗北に終わりました。そして他2人からリコさんは逃げ切りました。リコさんパネェ。
修行しまくってるのに敗北した悲しい私は持ち帰った杖をお母さんに見せました。
するとお母さんからこの杖は私の父が使っていたものだということが判明したのです。何でも持ち主の意思で棒状のものであれば形状変化できる凄い武器だそうです。
ところで何で浦飯さんは浴衣の正体を知ったとき動じなかったのか聞いたところ
「いや、何かしらやってんのは目を凝らせば分かんだろ。騙されるほうが悪い!」
などとぬかしたのです。
なんと卑劣な人なのだろうと私は怒りました。なのでお母さんにチクリました。
「年頃の娘の肌を晒す危険性を教えないとは……浦飯さん!罰として今日から1週間娯楽品と嗜好品は禁止です!酒もたばこもゲームも取り上げです!」
「嘘だろ清子さん!?勘弁してくれー!」
悲しい浦飯さんの叫び声が木霊しました。これにて一件落着です!
つづく
原作だったら「めんどくせぇ」の一言で奥義継承してなさそうな幽助ですが、この小説のオリ設定ということで皆さん許して!何でもしますから!
今回お祭りでオソロ夫妻によるダーツ戦をやろうと思いましたが、作者がダーツは数回しか遊んだことがないのでなしとなりました。ダーツはむずい!
後リコファンの皆さんすいません!
原作リコってヒソカの能力にかなり近いものを感じます。
葉っぱを別の物に見せたり、桃の体に浴衣を張り付けて取れなくしたりと結構共通点があります。性格も気まぐれで嘘つき。
地味にシャミ子敗北回。呪霊錠を解除する条件は言葉なので、解除前に倒されると良いのではと思いました。