まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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敵のセリフって書くの楽しいです。ある意味素直に感情を書けるからなんでしょうか?


23話「脅威!闇御伽3人衆襲来です!」

桃は楽しみにしていた動物園も邪魔が入りダメになったことで、ベッドの上で体育座りで落ち込んでいた。

 

この前より心の底がドロドロしているのを強く感じる。

 

これではダメだと桃は頭を横に振った。このまま放置しても碌なことにはならないだろう。それ故に桃は立ち上がった。

 

 

「……体を動かしてこようかな」

 

 

トレーニングウェアに着替えた桃は外に出て軽く走り始めた。

 

動物園から帰ってしばらく経っていたので、外はすでに真っ暗だった。普通の女性ならば危険な時間だが、桃にとってトレーニングするには良い時間帯であった。

 

その足で商店街、そして街の外へと駆けていった。

 

 

「……ん?あれは……?」

 

 

その姿をコンビニにアイスを買いに行っていた佐倉杏里が目撃したが、声をかける暇もないほど桃は速かった。

 

 

「ちよももって速いな~、でもなんだか変な感じだったなぁ。ミカンに連絡しとこ」

 

 

杏里から他の物へそのように連絡されているとは知らない桃は足を止めず、街の結界の外へ出る。

 

結界の外へ出ることはリスクがあったが、街を守る上でのパトロール上仕方がないことでもあった。最近増々結界が不安定であるから、トレーニングついでにちょうどいいだろうと桃は判断した。

 

そんなわけで結界の様子を見つつ、トレーニングを始めた。

 

 

「……はぁ」

 

 

しかしどうにもイマイチトレーニングに集中できない、と桃は感じていた。どうにも雑念が入るからだ。

 

楽しみにしていたとはいえ、動物園のことを引きづりすぎではないか。自分の中で感情がコントロールできないことに、戸惑いを隠せなかった。

 

そんなことをつらつらと考えながら指一本で逆立ちしていると、自分への敵意を感じた。素早く迎撃態勢に戻ると、影が1つこちらへ向かってくる。

 

動きが速い。明らかに普通の人間の動きではない。

 

影は一軒家の上に着地する。影が着地した瞬間、桃は変身する。

 

 

「お主が千代田桃か」

 

「……そう」

 

 

美しい黒髪を稚児髷(ちごまげ)にしており、淡い色の着物と頭の後ろから両脇までフワフワと伸びて揺らめいている羽衣を備えているキツイ印象を与える美人は高らかに答える。

 

(わらわ)は闇乙姫。恨みはないが、その命もらい受ける」

 

 

闇乙姫は屋根の上から跳躍し、闇乙姫の右脇から出ていた羽衣の右端が異常に伸び、桃に襲いかかる。

 

 

「ふっ!」

 

 

桃は左に飛んで回避する。外れた羽衣の先端は非常に薄く脆そうに見えるにも関わらず、コンクリートに突き刺さった。

 

すぐ引き抜かれた羽衣はまるで蛇のように蛇行しながら桃へ襲い掛かる。右足、左腕、首と連撃で繰り出される攻撃を桃は紙一重で躱している。

 

 

「上手く避けるのう。なら左もくれてやろう」

 

 

宣言通り、闇乙姫の左脇から出ていた羽衣の先端を攻撃に加えてきた。手数が倍になり、さらに速度も増していく。

 

 

「……チッ」

 

 

小さく舌打ちした桃はより回避のスピードを上げるが、どうにも体の動きが鈍いことに気づく。

 

頭で想定した身体能力と、本体にズレがあることを強く感じていた。いわゆる目で追えていても体がついて行かないような状態であった。

 

 

「(これも精神的なもののせいか……いや、戦いに集中しないと)」

 

 

一瞬だけ考えた桃だが、すぐさま思考を外に追いやり、目の前の戦いに集中する。

 

捌ききれない羽衣を、刀で切断しようと試みた。

 

 

しかし――――

 

 

「硬い……!」

 

 

ガキン、と金属音がぶつかり合う音が響く。明らかに透けて見えるほどの薄さの羽衣の強度が、刀と互角であった。

 

ただの羽衣ではないことは承知していたが、想定していたより相手の魔力が強く込められている。

 

加えて上下左右に高速で動く、まるで蛇の様な複雑な動き。しかも先端は非常に薄く、夜では視認しにくい。

 

一見頼りなさそうな羽衣がぶつかった壁は、まるで熱したナイフでバターを切り裂いたかのように崩れていた。

 

薄く笑っている目の前の女は、明らかに戦闘慣れしている相手であった。

 

 

「ふふ、より速くゆくぞ?」

 

 

女の宣言通り、さらに速度が上がる。桃も捌きの速度を上げていくが、こちらは刀が一本で相手は2つの同時攻撃。このままではジリ貧である。

 

故に桃は前のめりに捌く。

 

 

「むっ!?」

 

 

体勢を低くし潜り込むように闇乙姫に迫る桃。攻撃により伸びていた羽衣が縮むより早く、刀が届く範囲まで桃は潜り込むことに成功した。

 

声もなく振るわれる刃。右薙ぎに振った刀を、闇乙姫は跳躍することで、辛うじて刃を逃れることに成功した。

 

 

「フレッシュピーチハートシャワー!」

 

 

一回転し街灯に着地した闇乙姫に迫る桃色の砲撃。桃の刀の剣先から放った一撃は、体勢的に回避不可能であった。

 

それでも、闇乙姫は口の端を吊り上げる。

 

 

「誰に撃っておるのだ!?」

 

 

明らかに先ほどより横幅が伸びた羽衣は闇乙姫の前方を覆いつくす。

 

ぶつかる砲撃と羽衣。羽衣の手応えから、闇乙姫は高らかに嗤った。

 

 

「フハハ、お主の砲撃はコシが弱いのぉ!」

 

 

独特な言い回しではあったが、桃は手応えから羽衣の攻撃を破れそうもないと判断し、技を中断する。

 

砲撃が中止されると、含み笑いを続けたまま闇乙姫は地上へ着地する。羽衣は元の長さに戻っている。やはりある程度長さの調節がきくようだ。

 

戦いの音が響いたせいか、何人かが目撃した後、慌てて引き返すのが桃の横眼に映る。

 

 

「(そうやって逃げてくれたほうがありがたい)」

 

 

桃としては一番大変なのが守りながら戦うことだ。特に性質が悪いのが野次馬で呑気に撮影とかしている者たちである。

 

そういった連中は自分たちが被害を負うと途端に騒ぎ立てるから、居ないほうが万倍良い。そういう意味で逃げ出してくれる人は桃にとってもありがたかった。

 

通行人を見ても動じない闇乙姫の反応から見て、騒ぎになるのを嫌って退却してくれるタイプではない。それどころか通行人を見ても、被害を広げても全く気にしないタイプだろうと推測した。

 

こういう手合いは決着がつくまでしつこいものだ。周りの人たちに被害が出る前に決着をつけねばならない。桃はそう決心した。

 

 

「難儀なことよ。関係ない者たちまで気にして戦わないとならんとは。妾なら御免被るの」

 

 

闇乙姫は頬に手を当てて、悩まし気にため息を吐いた。

 

そっちが仕掛けるからだろう、と桃は悪態をつきたいところであった。しかしこういう手合いにイチイチ反応しても意味がないことは経験上分かっていたのでスルーした。

 

 

「まぁ勝手に気にして、妾の手によって死んでくれればそれでよい。お主を倒せば名を上げられ、金も入る。良いことだからな」

 

「……随分と俗物。それに世界を救ったのは別の子で、私は大して役に立ってない」

 

 

同じ魔族でありながら、余りにシャミ子とは違って欲に塗れている内容に桃は吐き捨てるように答えた。

 

大して役に立っていない、というのも本音だった。『アレ』に関しては味方が強かっただけで、自分は大して役に立ってないと桃は本気で思っていたからだ。

 

しかしその答えに対し、闇乙姫はひとつため息をついた。

 

 

「お主があの戦いで役に立ってようとそうでないと関係ないわ。大事なのは『世界を救った千代田桃』を倒した証明が欲しいだけよ。

世間というのは本当の真実より、世間で認知されている内容のほうが重要なのだ。だからマスメディアが強いのであろう?それに金があれば大抵のものは手に入る。両方大切なことだ」

 

「……私はそんなものいらない。私は……」

 

 

桃はこの後の言葉を飲み込んだ。ワザワザ敵に言う内容ではないからだ。その様子を、闇乙姫は鼻で笑った。

 

 

「これだから光の連中は。お主らは綺麗な部分を信じて戦っているようだが、お主ら3人の始末を依頼してきたのも人間なのだぞ?」

 

「――――何?」

 

 

聞き捨てならないことを闇乙姫が口にし、桃は一瞬体が硬直した。

 

 

「待て、3人と言った?まさかシャミ子とミカンまで……!」

 

「さよう。大方『光と闇の敵対関係』という体がないと闇側に依頼しにくくなるから、一緒に暮らすことが出来るこの街が目障り……そんなところであろうな」

 

 

もしこの街のように『魔族と人間の共存』が全国……世界的に広まれば、薄汚い内容を依頼できる超常的な存在がいなくなる可能性もある。

 

そして今までそのような者たちを使って行った内容が世間へ明かされる可能性が出てくるかもしれない。

 

そうなれば築き上げてきたものを一気に失う……と考えれば、このような策に出る人間が現れるのは当然だろうと闇乙姫は推測していた。

 

ただ10年以上前からこの街は存在している。何故今になったか気になるところではあるが……。

 

 

「(まぁ、そんなものは妾には意味のないことよ)」

 

 

実際何故今なのか……なんて理由を知ったところで意味はないし、むしろ今の混沌とした状況のほうが日陰で生きる闇乙姫の身としてはありがたいというものだ。

 

 

「……さっさとお前を倒して、2人の援護に行く必要ができた。どいてもらう」

 

「……お主は本当にうつけだのう」

 

 

にやりと笑った闇乙姫の態度に、何か仕掛けてきているのであろうことを察した桃は即座にその場を飛ぼうとした。

 

 

「『封縛布』!」

 

「こ、これは……!」

 

 

しかし一手遅かった。一瞬にして足先から首まで、体の自由が利かないほど締め付けられる感覚に襲われた。

 

だが目を自身の体に向けても、体の自由が利かない以外は何も変わっているように見えない。

 

 

「妾がただペラペラと喋っていたと思うていたのか?うつけめ、キサマを拘束するためよ!」

 

「何ぃ……!?」

 

 

桃は目に魔力を集中させて自分の体を見る。すると闇乙姫が先ほどまで使用していた羽衣と同じものが、桃の足元から首まで絞めつけているのを見つけることができた。

 

しかし先ほどまで攻撃してきた羽衣は今は本人の周りでフワフワと浮遊している。

 

そこで桃はようやくハッと気づくことが出来た。

 

 

「そうか……羽衣は魔力で作り出した産物!最初の攻撃は囮か!」

 

「その通り!これらの羽衣は妾の魔力のみで作り出した産物よ!

お主は目に見える羽衣ばかりに気を取られ、会話している間に限りなく見えないようにして近づけさせた2つ目の羽衣に全く注意を向けんかったからな!上手くいきすぎて笑えるわ!」

 

 

闇乙姫の羽衣は闇乙姫の魔力のみで作り出した産物であり、出すも消すも自由自在なのである。

 

そして常に闇乙姫の体の周りに具現化させ、それのみで攻撃することで相手の注意は見えている羽衣に集中するという訳である。

 

そして生み出したもう1つの羽衣で片をつけるのが闇乙姫のやり方であった。

 

しかし操作性と性能故に2つまでしか羽衣を生み出せず、さらに極端に体から離しての操作は行うことはできない。故に戦闘行動中でなく、会話できる程度の距離で静止しているときに行ったのだ。

 

会話で桃の気を逸らす間に、限りなく見えないよう魔力を薄めた羽衣を地面に這って桃に近づけるよう操作する。

 

そして会話で興味を引くような情報を出し、桃の意識を完全に闇乙姫本体に向けさせた瞬間拘束したのだった。

 

つまり桃はまんまと嵌ったのである。

 

そしてその拘束は、今の桃の魔力と筋力では抜け出すことができなかった。

 

 

「ふふ、他愛ないのぉ」

 

「……ぐっ……!」

 

 

現状、桃は詰みの状況であった。

 

☆☆☆

 

「シャミ子、桃が1人で出かけたみたいなの!」

 

 

ミカンさんがラインを見せながら、私に教えてくれました。杏里ちゃんからの連絡だったようで、かなりのスピードで街中を走っていたのを目撃したというのです。

 

そしてミカンさんと相談し、桃捜索に出かけることにしました。浦飯さんは

 

「コンビニに行ってるだけじゃねーの?」

 

なんて軽く言ってました。しかし今日の桃の様子から考えると少し心配ですし、2人と邪神像で街へ繰り出しました。

 

杏里ちゃんからの連絡で桃が向かったであろう方向へ2人で走ります。呪霊錠ありでも普通以上に走ることが出来て一瞬感動しますが、桃捜索に集中するように頭を振ります。

 

商店街を抜けて、そろそろ街の外に出ようというとき、2つの影がこちらに飛び掛かってきました。

 

 

「シャミ子!」

 

「はい!」

 

 

私とミカンさんは影の攻撃を躱し、目の前にあった学校の校庭へ逃げ込みます。ここの大きさなら戦うには十分な広さだからです。

 

 

「ほほ、ワシらの攻撃をよくぞ躱した」

 

「結界飛び越えて、すぐ見つかるのは運がいいぜ」

 

 

コンクリートが陥没するほどの一撃を加えた2人組の姿を見て、私は驚きを隠せませんでした。

 

 

「えー!?」

 

 

何故なら昔話の絵本で読んだ登場人物が目の前にいたからです。

 

 

「ワシはこぶとり邪爺」

 

「オレはカチカチ山の火狸!ブヘヘ、悪いがオレらのために死んでくれや」

 

 

何とこぶとり爺さんと、カチカチ山の狸が現れたからです。ま、まさか御伽噺の敵が現れるとは夢にも思いませんでした……。

 

まぁ人相と言うか、表情はかなり悪い感じなので子供が見たら泣くと思いますが。

 

しかし驚いているのは私だけのようで、ミカンさんと浦飯さんは至って冷静でした。

 

これが経験の差ってやつでしょうか……。

 

まるで絵本から抜け出してきたかのような風貌の2人組です。そんな2人はいやらしい笑い方をしていました。やっぱ子供には見せられませんね。

 

 

「いきなりご挨拶だなテメーら」

 

「ちょっと、私たちはあんたたちに付き合っている時間なんてないのよ。さっさと失せなさい」

 

「そーです!私たちは桃を探さなきゃいけないんです!どいてください!」

 

 

私たちの反応に対して何が可笑しいのか、先ほどより大きく2人組は笑います。何かムカつきますねコイツラ……!

 

 

「その千代田桃は、ワシらの仲間でも一番の手練れが出迎えておる」

 

「ブヘヘ、3人まとめてあの世に送ってやるぜ」

 

「あんたたち……!」

 

「桃まで!?何であなた達に狙われないといけないんですか!」

 

 

どうやら桃もコイツらの仲間に襲撃されているらしいです。

 

今まで戦った連中は理由がありました。しかし今回は勝手に狙ってきて死ねとか言ってきて、もうテロリストですよ。正直頭に来ました……!

 

ミカンさんもそう感じているのか、2人で怒りのボルテージを上げていると、浦飯さんが鼻で笑いました。

 

 

「テメーら、コイツラぶっ殺して名を上げよ~とかセコイこと考えてんだろ?コイツラは有名になってきたとか言ってたしよ」

 

 

図星だろ?

 

そう浦飯さんが言うと、こぶとり邪爺は笑みを崩さず顎をさすってました。

 

 

「それと金じゃな。1人殺れば10億で依頼されれば、誰だって請け負うじゃろう?」

 

「じゅじゅじゅ、10億ですか!?」

 

 

思わず腰を抜かしそうになりました。あ、あり得ません……女子高生を倒すのに何て値段つけてるんですか!

 

一体我が家の年収の何倍なのでしょうか……あ、何か暗くなりそうだからやめときましょう。

 

しかし値段に恐れおののいているのは私だけでした。ミカンさんと浦飯さんは鼻で笑ってました。

 

 

「ハッ、私も安く見られたものね」

 

「三下が言いそうなことだぜ」

 

 

可笑しい。10億で動揺しているのはこの場で私だけのようです。浦飯さんはラーメン屋でそこまで稼いでないって言ってたのに……!やっぱり魔界の王になると違うんでしょうか。

 

そんなことを考えていると、2人の態度が気に入らないのか、火狸は忌々し気に唾を吐き捨てました。

 

 

「馬鹿が。俺たちは人間の金と欲望に魂を、人間は俺たち黒い力に魂を売る。WIN-WINの関係だろ。

テメーら、お高くとまってやがるが目の前で大金積まれたら犬の真似だって喜んでやるだろーが、ブヘヘ」

 

 

そう言い放った火狸の目は、醜い何かにしか見えませんでした。

 

かつての我が家の呪いの貧乏のように、切羽詰まった理由ではなく。

 

目の前の2人は本気で、あぶく銭と名誉のために私たちを殺そうとしているのが本気で分かりました。

 

 

「このシャドウミストレス優子を舐めるなよ!クソみたいなあなた達と同じ魔族と思われるのは心外です!」

 

 

さっきの言葉で相当腹が立ったせいで、煽るように言ってしまいました。

 

まぁでもいいでしょう。他の人たちから見たら、私がこんな連中と同じ魔族の括りで見られるかもしれないと思うと、凄くムカムカします。ここでガツンと違うということを言わなければ世間様に誤解されます!

 

 

「んだとテメー!」

 

「ケッ、テメーらみてーな雑魚じゃ今のシャミ子でお釣りがくらぁ。おいシャミ子、さっさとぶっ飛ばせ」

 

「え、本当ですか?」

 

 

私の言葉に対し、見事に激昂している火狸に浦飯さんがそんな風に言い放ちました。

 

確かに浦飯さんの言う通り、この2人はあんまり強そうには見えません。何か全然肌がピリピリしないというか、凄そうに見えないのです。

 

呪霊錠をしているから通常よりハンデがあるはずなのに、この2人相手では何故か焦らないで冷静に見れているのはそのせいなのでしょうか。

 

 

「ホホホ、大きく出たのぅ」

 

「ブヘヘ、そんな弱っちそうな魔族のほうがオレらより強いだ~?馬鹿言ってんじゃねぇぜ」

 

「御託が長いのよ狸。さっさとかかってきなさいよ、時間の無駄よ」

 

 

痺れを切らしたミカンさんが右手の人指し指クイクイとさせながら挑発すると、火狸は相当頭に来たようで顔を真っ赤にさせました。そして一気に妖気が大きくなりました。どうやら戦闘態勢に入ったようです。

 

 

「気取ってんじゃねー!カスがぁー!!」

 

 

高めた妖気は火狸の背中の藁に集まっていきます。

 

 

「くらいなー!『カチカチ火放』!」

 

 

藁で燃え上った火が大きくなり、そこからまるで火炎放射器のようにミカンさんに迫ります。

 

助けるために動こうとした瞬間、ミカンさんは「大丈夫」と口パクし、炎に当たる直前に高速で回避しました。

 

 

「馬鹿が!調子に乗るからオレの攻撃を喰らったんだ!魔法少女なんざ大したことねーぜ!ブヘヘヘ!」

 

 

それにも関わらず、火狸は高らかに笑ってました。まるで勝鬨を上げたかのようでした。まさか目で追えてないのでしょうか。

 

そして次の瞬間、後ろからのミカンさんの矢で火狸の左腕が吹き飛びました。

 

 

「ブヒャアー!!?」

 

「鈍いわねアンタ。さっさと桃の居場所を吐けば見逃してやるわ」

 

 

叫び声を上げる火狸に対して、矢を構えたままのミカンさんは淡々と要求しました。だが火狸は聞こえていないのか、苦悶の声を上げるだけでした。

 

仲間がやばい状況にも関わらず、こぶとり邪爺は心配するどころか顎を摩るだけで全く動こうともしません。仲間がやられているのに不気味な態度です。

 

こぶとり邪爺を警戒して動けない私を余所に、ミカンさんは火狸を見つめ、火狸は雄叫びをあげました。

 

 

「よ、よくも俺様の腕をー!?」

 

 

怒りと涙で溢れている目でミカンさんを睨みつけた火狸は、残った右手の爪を鋭く長く伸ばし、炎を纏わせます。

 

 

「『カチカチ火爪』!」

 

 

火狸は炎を纏い強化した爪を振り上げ、ミカンさんに接近します。

 

ミカンさんは迎撃もせず、火狸の動きを見つめるだけでした。

 

爪がミカンさんの頭へ振り下ろされ、あと数cmでミカンさんの接触する髪に接触しようとしてました。

 

 

「殺った!」

 

 

火狸が勝利の声を上げた瞬間、炎がミカンさんの髪を焦がすより早く、ミカンさんの右足のハイキックが火狸の頬にめり込みました。

 

 

「ンベッ!?」

 

 

そして吹き飛ばされた火狸の頭が地面に接触する一瞬前に、放たれていたミカンさんの矢が火狸の顔面に突き刺さり、顔を粉々に吹き飛ばしました。

 

 

「口ばっかの奴だったわね」

 

 

首なしの火狸の死体を見て、勇ましいような笑みを浮かべたミカンさんは、こぶとり邪爺に向き直ります。

 

まさしく一瞬の決着でした。

 

 

「す、すごい早業でした……」

 

「射撃の腕は大したもんだな」

 

 

これほど簡単に敵を倒すとは。実はミカンさんが敵を倒すところは初めて見ましたが、やはり桃が信頼しているだけあって改めて凄いと感じました。

 

 

「ふむ。腕は立つようじゃな」

 

「次はあんたの番よ。てゆーか、仲間が倒されたのに手伝わないのね」

 

 

仲間が殺されたのにも関わらず、飄々としたこぶとり邪爺の態度は変わりませんでした。何故仲間が殺されたのに、怒りも悲しみもしないのでしょうか。その態度に、私は不快感と不気味さを覚えました。

 

 

「ホホホ、確かにワシラはチームを組んでおった。じゃがそれは互いに利用できるからじゃ。使えなくなったコヤツはただのゴミよ」

 

「クズね、あんた」

 

「な、何て奴なんですか……!」

 

「……そーゆーやつは結構見てきたが、やっぱ胸糞悪りーぜ」

 

 

浦飯さんの意見に完全に同意です。仲間どころか、使えなくなったら捨てるなんて、まるで道具としか思ってない言動に私は怒りを覚えます。

 

 

「下らん仲間意識じゃの。それにコヤツは闇の世界でのし上がるには芸がないヤツよ。シャミ子とやら、今度はワシが相手じゃ」

 

 

ずい、と前に出てきたこぶとり邪爺は妙に自信ありげでした。

 

しかし私は怒りは感じていても、焦りを感じませんでした。阿保みたいに修行していたから、頭がおかしくなったのでしょうか?

 

 

「シャミ子、ここは2人で……」

 

「いえ、今度は私がコイツをぶっ飛ばします」

 

 

ミカンさんの提案を遮って、私はこぶとり邪爺に一歩近づきました。仲間を心配することが下らないなんていう奴は、ぶっ飛ばさないと気が済みません!

 

 

「よし、思い切ってやれ」

 

「はい!」

 

「その思い上がり、死んで後悔するがよいわ!」

 

 

言外に呪霊錠を外す必要もないと言う浦飯さんとのやり取りで、完全に舐められたと思い込んだこぶとり邪爺は、上空に飛び上がり右頬のこぶを巨大化させ振り上げました。

 

    

「『こぶ破槌(はつい)』!」

 

 

こぶの攻撃を避けると、最初の攻撃よりはるかに大きいクレーターが出来ました。確かに破壊力は大きくなったようです。

 

そして膨れ上がったこぶをまるで鞭のように振り回し、私に襲い掛かります。

 

次々と繰り出される攻撃に、私は良く見て回避すると、外れた攻撃は地面にクレーターをいくつも作っていきました。

 

 

「ホホホ、大口叩いておいて避けるのが精一杯かの?潔く死ぬが良いわ!」

 

 

どんどん攻撃が激しくなり、一見すると隙間の無い暴風の様な連撃に見えることでしょう。しかし今の私にとっては、全ての攻撃をはっきりと目で追うことができました。

 

その攻撃力とスピードは少し前だったら焦って大変なことに違いありません。けれど今の私の目には隙だらけにしか見えませんでした。

 

そして右頬のこぶが私の左側から右側へ大きく振られた攻撃を、屈んで躱しつつ懐へ潜り込みました。

 

すると完全にこぶとり邪爺の左脇腹が無防備の状態となり、そこへ妖力を集中させた左拳のボディーブローを叩き込みました。

 

ボキッと数本折れるような鈍い音が拳から伝わってきました。間違いなく肋骨が数本折れた音でしょう。

 

 

「フゴォ!な、な、何とぉ……!?」

 

 

脂汗を滝のように出し始めたこぶとり邪爺は、脇腹を抑えて数歩後退しました。全力とはいえ、一発でこれでは、もう無理なんじゃないのか。

 

そう思って私は降伏することを勧めました。

 

 

「桃の居場所教えるか、その仲間と一緒にもう私たちに関わらないと言うなら、終わりにします。どうしますか?」

 

 

その言葉を聞いた途端、こぶとり邪爺は今日初めて大きく怒りの表情を顕わにして、震えだしました。

 

 

「はひょー、はひょー……よ、よくもワシのアバラを……!こ、小娘~!ゆ、許さんぞぉ!うがああぁ!!」

 

 

ぬぅん!と叫び声を上げたと同時に、こぶとり邪爺の上半身の服は膨張した筋肉によって吹き飛びました。

 

こぶとり邪爺の筋肉は、右頬のこぶと同じくらい膨れ上がっていきます。

 

 

「どうじゃ!これがワシの真の戦闘形態『爆肉鋼体』じゃ!全身が力こぶとなる我が奥義、受けるが良いわ!!」

 

 

どうやらこぶとり邪爺の「こぶ」は右頬のこぶだけでなく、全身の筋肉のことを指すようでした。そして先ほど受けた傷も回復しているようでした。

 

纏う妖気もつよくなっていることから、この状態がフルパワーなのは間違いないでしょう。

 

 

「死ねぃ!!!」

 

 

振り下ろされた拳は、今までで一番早く重い一撃だったはずです。

 

私はその一撃を少しジャンプして避けると同時に、こぶとり邪爺の顔面に右拳を叩き込みました。

 

 

「………!」

 

 

倒れこんだこぶとり邪爺の顔面へ回りこみ、跳ね上げるように顔面を蹴飛ばし、上体を起こさせます。そして両拳に妖力を集中させました。

 

 

「うりゃあー!!!」

 

 

ラッシュ・ラッシュ・ラッシュ――――!

 

自分でもはっきりと分かるぐらい、以前よりスピードもパワーも上がってました。何度も何度もこぶとり邪爺の顔面が上下左右に跳ね上がります。

 

時間にして数秒。

 

連撃に集中していたせいか、今のこぶとり邪爺の状態を考えておらず、連撃を止めたときには既にひどいことになってました。

 

 

「あ、やりすぎちゃいました……!」

 

 

殴りすぎてしまったこぶとり邪爺の顔は、すでにどこにこぶがあったか分からないレベルで腫れ上がってました。

 

 

「桃の居場所聞かなきゃいけないのに……」

 

「あ、あぶぶ……」

 

 

しまった、桃の居場所を聞くために程々に意識を残さないといけないのに……手加減するのは逆にやられちゃいそうでまだ怖いです。

 

変なうめき声を上げてこぶとり邪爺は地面に倒れこみ、ピクリともしませんでした。ちょっと様子を見てましたが微動だにしないので、完全に決着はついたようです。

 

 

「いやー、見事にボコボコね」

 

「やっぱヨユーだったな。つーかこれじゃ、こぶとり爺じゃなくて、こぶだらけ爺だな」

 

「すみません、桃の居場所を聞かなきゃいけないのに……」

 

「気にすんな。それにコイツラが2人とも来たってことは、恐らく仲間のやつも近くで戦っているはずだ」

 

「足で探すしかないわね、行きましょう!」

 

「はい!」

 

 

ミカンさんの提案通り、ダッシュでその場を後にしました。この2人は大したことはありませんでしたが、何だか嫌な予感がします!

 

そう思い、私たちは桃の元へ急ぎました。待っていてください桃!

 

 

 

頑張ったぞシャミ子!だがこのままじゃ桃が倒されてしまうぞ!急ぐのだ!

 

つづく




砲撃のコシは~の部分は「Gのレコンギスタ」のガイトラッシュの名セリフからオマージュ。チートMSすぎてすこ。
ミカンのハイキックは原作の闇落ちした桃を光側に戻すために、ミカンが矢を飛ばした後に放った一撃がモチーフです。「よくってよ!」

裏御伽チームは死々若丸と黒桃太郎は強敵でした。

今回の火狸とこぶとり邪爺の戦闘シーンは、裏御伽チームの上記の2人以外と魔性使いチームの爆拳がモデルです。今見ても裏御伽チームは死々若丸と黒桃太郎以外はひでぇかませだ。これ暗黒武術会の準決勝なんですよ……?
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