まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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ミカンの話なのにミカンの誕生日に間に合わなかった……!


28話「憑VSシャミ子!です!」

体はミカンさんですが、雰囲気が全く異なり禍々しい魔力で体を覆いつくしてました。原因は間違いなく先ほどの銀色のドロッとした感じの魔族のせいでしょう。全然声も違いますし。

 

「オイ!憑と言ったな!サッサとミカンさんの体から出てけ!今出てけば、軽くぶっ飛ばす程度で済ませてやります!」

 

指をさして言いますが、憑はミカンさんの顔で右側の口角だけを吊り上げて、こちらを馬鹿にしたように笑いました。くそ、完全になめられてます!

 

「さっきも言ったが、ようやく頭の中身が獣並みのウガルルからこっちに乗り移れたんだ。ワザワザ手放すバカがどこにいる。丁重にお断りする」

 

「ぐぬぬ……!人の体を乗っ取っておいて偉そうに……!」

 

憑が顎で示した先にいるのは、先ほど倒れた獣の魔族だった。やはりあれがウガルルらしいです。

 

しかしミカンさんの話ではかつて召喚したのはウガルルのみで、今目の前で喋っている憑という魔族の話は欠片も出てきませんでした。何故憑は当然のようにミカンさんの中にいるのでしょうか。

 

一瞬、私が入った時と同時にミカンさんの心に侵入したのか?と考えました。

 

しかしあの場には私の他に浦飯さんや桃がいましたから、誰にも気づかれずに侵入するのは至難の技でしょう。なのでこれは除外されます。

 

それにウガルルも憑もあの黒い魔力を形にしたら出現しました。つまりこの2体は黒い魔力として混ざり合っていたことになります。

 

「大体変じゃないですか」

 

「何がだ?」

 

「ミカンさんの話では召喚されたのはウガルルのみと聞いてます。何故2体いて、しかも黒い魔力そのものになっていたんです?」

 

ふむ……と言いながら、憑は自身の右手で顎を撫でました。およそミカンさんらしくない行為に、中身がミカンさんとは全くの別人であることがわかります。

 

「……いいだろう。少し長くなるが話そう」

 

それほど複雑な話でもないがな……と憑は前置きしました。

 

「さっきお前も見ただろうがオレは銀色の……不定形な粘性の魔族でね、生物に憑依する能力を持っている。

10年位前、オレはとある魔法少女に負けて消滅寸前だった。何とかトドメを刺される前に当時憑りついていた肉体から脱出して身を隠したよ。

だがすぐ別の生物に憑りつかなければ、消滅するのは時間の問題だった……」

 

「10年前……確かその頃ミカンさんは悪魔召喚したと言ってましたが」

 

「そうだ。あの時はすぐに生物に憑依しなければならないほど弱っていた。

しかし余りに弱い生物……虫などに憑依するとそのまま自然の摂理で淘汰されてしまう恐れがあった。

 

だから失った力を戻しつつ、安全に過ごすためには人間に憑りついて、人間のふりをして生活し、力が戻るまで待つのが一番だった。

10年前のあの日、オレの近くで憑依できそうな人間は2つだった。妊婦の受精卵か、悪魔召喚の儀式をしている子供。そのどちらかに迫られた」

 

「受精卵……?」

 

受精卵。文字通りの意味ですが、こいつは受精卵にも憑依できるのかと考えると、心底寒気が走りました。

 

抵抗などできない子供の命を乗っ取るという戦いですらない行為を平然と行おうとする精神。そして我が子だと思い生んで育てた子供の中身が、全くの別物だったら。

 

それに対し罪悪感どころか、ただの選択肢の一つであるように目の前の魔族は事もなげに呟いたのです。

 

「安全を考えれば受精卵だ。子供の演技をしていれば10年そこらで完全な魔族の肉体となり、独り立ちできるんだからな。

 

だがオレは悪魔召喚のほうを選んだ。今の宿主は普通ならまず見かけないほど魔力を秘めた子供だった。しかも幼いとくれば憑依して心を乗っ取るのは容易。

 

憑依できれば数年でただの人間より遥かに強力な肉体を手に入れることが出来る。これを逃す手はないと思った」

 

「………」

 

だんだんと、心が冷えていくのを感じました。私は拳を強く、強く握りました。

 

「しかし誤算だったのはオレの力が予想以上に消耗していたことと、儀式がデタラメだったことだ。

 

召喚陣が狭く、捧げ物も滅茶苦茶。そのせいで本来今転がっている姿で召喚されるはずだったウガルルは肉体を保てず魔力そのものとなってしまった。

 

元々肉体を得たウガルルに憑りついてオレが主導権を握り、内側から宿主を支配していく予定だったのが完全に崩れた。

 

そのおかげでウガルルとオレは魔力そのものとして混ざり合う羽目になってしまった」

 

つまり儀式が失敗したことで体を保てないウガルルと弱った憑の2体の魔族が魔力そのものとして融合してしまったから、逆にミカンさんが完全に乗っ取られるのを防げたという事のようです。

 

しかしウガルルは憑を吐き出す前に抑えていた、と言ってました。つまりウガルルとしても目の前の憑がミカンさんにとって害悪だと気づいていたんでしょう。

 

ならば何故ミカンさんの感情で呪いは発動するのに、憑は排除できなかったんでしょうか。

 

「でも今までの話だと、ミカンさんの呪いが発動する意味が分かりません。キサマはミカンさんのために働くわけがないだろうし、ウガルルは命令も分かってなかったんでしょう?」

 

「それは簡単だ。魔力として混ざり合ったせいで弱っていたオレよりウガルルのほうが力を使う優先順位が高かったという訳だ。

 

頭の足りないウガルルでも、オレが害ある存在と分かったようだ。そんなオレと融合したウガルルは、オレを攻撃したいが自身と混ざってしまったおかげで、自分を攻撃することになってしまうからそれはできない。

 

だからその代わりに破壊衝動を外に出すようになった。それが幼い宿主の周りの者を傷つけていたのさ」

 

「………キサマ」

 

つまり幼い頃ミカンさんの呪いが周囲を攻撃してしまった理由は、コイツという異物に対しての攻撃ができなかった「ついで」に発動したようなものだったらしい。

 

呪いと思われていた魔力の暴走のせいで、ミカンさんはお母さんも傷つけてしまったと語ってました。その時の表情は、とても痛ましいものでした。

 

ミカンさんと家族がどれだけ苦労したかも考えず、コイツのせいで暴れた魔力の暴走を何てことないように憑は呟きました。

 

「だがその魔力による破壊衝動を、今の感情の上下で発動し、かつあまり害がないような被害に変える呪いに改良したのが千代田桜という魔法少女だった」

 

「そうか、ここで桜さんがやってくれた時に桃とミカンさんは会っていたのか……」

 

小さな頃2人は会っていたと言ってました。つまり儀式が失敗しどうしようもなくなってしまったミカンさんのことを助けに来た桜さんに桃も着いてきたということでしょう。

 

改良される前の呪いはウガルルが憑を攻撃するためのものでしたが、それをミカンさんの心である程度コントロールできるようにしたとは……やはり桜さんはすごいです。

 

「余計なことをしてくれた女だったよ……あのままウガルルが暴走すれば宿主の精神も疲弊し、精神が脆くなれば肉体の主導権は混ざり合った我ら……いやオレのものになるはずだったのに」

 

ミカンさんの姿で放たれる下劣な言葉に、私の中の怒りはどんどん積み重なっていきました。そして私はこいつの次の言葉に、頭の中が真っ白になりました。

 

「まぁ呪いを改造してからの共同生活も悪くなかったがな。

 

この空間から外の様子は見えないが、宿主の精神状態は良く分かる。

 

いつも呪いの発動に怯え、周りの人間に迷惑をかけないよう生きてビクビクしているときの感情は笑えたぞ……ククク」

 

「……黙れ」

 

そう発した言葉は、自分でも驚くほど声が低く、冷たかった。その言葉を受けた憑はどこか不思議そうな顔をしてます。

 

私は心の中で危機管理と唱え、変身します。

 

ずっと話を聞いてきましたが、この魔族はミカンさんの人生を無茶苦茶にしているにも関わらず最初から最後まで自分のことしか考えてません。

 

出会ってから今日までのミカンさんを思い出します。呪いで人付き合いも苦労しているのに、この街のために戦ってくれている優しい人。

 

今日だってミカンさんは悪くないのに、迷惑かけたからって楽しく活動していた体育祭委員会の皆と距離を置こうとしたときの寂しい表情。

 

今まで苦労してきた感情を、悲しみを、呪いの原因そのものである魔族が心の中で感じ取って笑いの種にする。

 

「クズめ……キサマはぶっ殺す!」

 

絶対に許さない。コイツはこの手で粉々にぶっ飛ばす!

 

その宣言を、憑は癇に障る笑い声で答えました。

 

「フッフッフ……その程度の魔力で?なら見せてもらおうか……!」

 

魔法少女に変身すらしてない私服姿のミカンさんの状態で、憑はこちらに突っ込んできました。

 

しかしそのスピードは、火狸の攻撃を躱したときのミカンさん以上のスピード。

 

「くっ!」

 

「ふん!」

 

憑の拳の連撃を受け止めず上半身のみで回避すると、すかさず憑は私の腰より低く屈んで足払いを仕掛けてきました。

 

足を狩られた私は完全に落ちる前に右手一本を地面に着けて体を支えます。

 

「ゴッ……!」

 

地面を右手で支えた瞬間、奴の蹴りが私の鳩尾に繰り出され、残った左腕でガードするも完全に勢いは殺せず、私はそのまま後方へ飛んでいきました。

 

奴も不十分な体勢で放ってきたにも関わらずこの一撃。左腕で防御したにも関わらず、肺の中の空気が一気に吐き出されるほど深く重い一撃でした。

 

転がる私は上から殺気を感じると、腕の力のみでさらに後方へ飛びます。その一瞬後に憑は右拳を先ほどまでいた私の場所に振り下ろしてました。

 

精神空間であるから地面が壊れたりしませんが、拳を地面に打ち付けたことによる衝撃波は肌で感じました。

 

ダメージを緩めるため、着地してから荒く呼吸を繰り返す私の額から一筋の冷や汗が垂れます。もし先ほどの一撃は喰らっていたらかなり不味いことになっていたのを容易に想像させるような代物でした。

 

「(明らかにいつものミカンさんよりパワーが上がっている……!)」

 

何度かミカンさんと組手はしたことがありましたが、本気でなかったにしろここまでの一撃を持っているとは思えませんでした。

 

それにミカンさんは接近戦もいけますが、戦闘スタイルとしては中距離から長距離からボウガンで狙撃するタイプです。

 

憑が憑りついたことによりいつもよりパワーアップしていると考えていいでしょう。しかしそれを否定したい気持ちでいっぱいでした。

 

他人の体を乗っ取っておいてデカイ顔をするあんな奴のほうが、普段のミカンさんより強いなんて腹が立ってしょうがありませんでした。

 

「何やら納得してないような顔だな」

 

「……何がです」

 

「何で普段の宿主より、戦闘能力が上がっているのか?……貴様に限らず、俺が乗り移った時の肉体の宿主と、宿主の知り合いが戦うとき、相手はいつもそんな表情をしているからな」

 

バカにしたように、気味の悪い笑い声をクスクスと憑は出していました。まるで愉快なものを見ているような笑い声でした。

 

「自分の肉体で戦わないくせに、調子に乗るな!」

 

その笑い声は私の感情を逆なでするのには十分でした。一刻も早く黙らせたくて、私は全速力で飛び込みます。

 

「うりゃあー!」

 

例えミカンさんの顔であろうと、今は憑に乗っ取られている状態。ここで躊躇すれば私が負ける。

 

私は顔面を打ち抜くつもりで、ストレート、アッパー、フックと最高速で拳を繰り出しました。

 

「おお、速い速い」

 

しかし憑は口角を少し上げて余裕の表情を崩さず、私の拳の連撃を紙一重で躱し続けました。

 

「こ、この!」

 

私の振るった拳は空を切り、後方へ大きく跳躍し後退した憑。逃がすな、どんどん追い込む!

 

すぐさま憑との距離を詰めようとした瞬間、憑が姿がブレました。

 

「(後ろに回りこまれた!?)」

 

後ろに回りこんだ憑の姿を眼ではギリギリ追うことが出来ても、体がまだ反応しきってません。

 

その状態の私の顔面へ、打ち下ろし気味の右ストレートが繰り出されました。腕のガードは間に合わない。

 

「(憑も空いている……!)」

 

攻撃の際は防御がおろそかになる。何度も浦飯さんや桃と組手をして文字通り体に叩き込まれた私の肉体が、考えるより先に左の蹴りを奴の顔に繰り出してました。

 

そう、私はガードを捨てて反撃に出ました。

 

私の左頬に奴の拳が突き刺さった瞬間、私も僅かですが左の足から奴に攻撃が通った感覚を感じ取れました。

 

「ぐあっち!?」

 

防御より攻撃を優先したため、文字通り後方へ私は吹っ飛んでいきました。無論いくらか妖力で防御しましたが、凄いパンチです。もし妖力なしでは首が吹っ飛んでいたことでしょう。

 

何度もゴロゴロ転がり、しばらくして転がり終わった場所から膝立ちで奴を見ます。

 

すると奴は右手で自分の頬を触って、その後自分の手を見てました。

 

蹴りが当たったのでしょう、奴の右頬から出血していました。どうだ、一発喰らわせてやったぞ!ざまーみろ!

 

「へへーん!散々調子こいた割には喰らってますね、バカめ!」

 

掌を見ていた奴は、掌を閉じてぎゅっと拳を握り締めます。そして私の顔を見ると、ニヤリと笑いました。

 

「……やるな。まさかあのタイミングで攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったよ」

 

「ふん、伊達に普段地獄を見てるわけじゃありません!」

 

「地獄?しかもオレの一撃を受けてすぐ立ち上がるとは……」

 

「キサマのパンチなんかより浦飯さんの殺人……もとい殺魔族パンチを毎日受けている私には効かないです!」

 

確かに奴の一撃は凄い。頬がかなり痛いですが、この程度ならやられ慣れているのでまだまだいけますよ!むしろ最近の特訓中は気を抜くと首が吹っ飛ぶんじゃないかという一撃が来ますからね。

 

伊達に地獄は見てねぇぜ!

 

「なるほど……普段受け慣れているというわけか。だが一撃入れた程度で……」

 

また私の懐に潜り込んできたヤツの踏み込みに合わせてカウンターの右ストレートを放ちます。

 

「(もらった!)」

 

間違いなく必中のタイミングで繰り出した拳。しかし当たった感触はなく、まるで奴の体をすり抜けるように拳は空を切りました。

 

当たる直前でわずかにスピードを上げた憑。目測を見誤った私は大きな隙を晒しました。

 

そしてほぼ同時にヤツの拳が私の両頬を交互に一発ずつ打ち、そしてアッパーを繰り出し、もろに受けてしまいました。

 

「調子に乗るな」

 

その衝撃で浮き上がった私に対し、ヤツは私より高く跳躍して胴回し蹴りを叩き込んできました。

 

「ぐあっ……!」

 

流れるような連撃。拳で脳を揺らされ、腹部への回し蹴りと地面に背中から叩きつけられた衝撃は凄まじく、肺の中の空気が全て外に出る感覚を味わい、息が出来ませんでした。

 

今度は先ほどとは違い反撃できず、ダメージから立ち上がることが出来ず蹲る私。

 

蹲る私のすぐ横で、奴は私を見下ろすように立っていました。

 

「く、くそぉ……!」

 

強い……!スピードもパワーもあちらが上!

 

現状1発しか入ってない憑に対し、こちらはすでに何発ももらってます。耐久的にも持つわけがない。

 

どうにかして勝てる方法を考えていると、奴は蹲っている私を見下ろして鼻で笑いました。

 

「……この宿主は緊張すると呪いが出る。命を懸けた接近戦は文字通り命懸けだ、一番緊張する場面だろう。

 

だから宿主はこんな力がありながら接近戦を避けて、今まで狙撃に【逃げて】いたんだ。

 

だがその才能も、普段使わないパワーもオレが使ってやれば……こうなるわけだ」

 

ただただ憑の不快な声と笑いが空間に響きました。

 

それは私の怒りに油をぶっかける行為そのものでした。

 

誰のせいでミカンさんが緊張して呪いが発動するのを恐れていると思っている!

 

誰のおかげでミカンさんが呪いに苦しんだと思っている!

 

誰のせいでミカンさんがあんなに辛そうな表情を浮かべたと思っている!!

 

――こいつは、必ず倒さなきゃならない!

 

「……驚いた。さっきまでより魔力が上昇している。感情で戦闘能力が変わるタイプか……厄介な」

 

ゆらりと立ち上がった私の体から漲る妖力を見て、憑はポツリと呟きました。

 

「ぶっ倒す!」

 

全身を妖力で強化し、私は突撃しました。例え突撃しかないと言われようと、この野郎は殴らなきゃ気が済みません!

 

「ふん……バカの一つ覚えか」

 

突撃する私を馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに見下ろす憑。その表情は余裕ではなく、油断がありました。

 

その余裕こいた顔をぶっ潰す!

 

私は自身の拳を振るう直前、私の後頭部ギリギリから相手に見えないように尻尾の先端を出現させ、尻尾の先端で真っ直ぐ憑の目に突きました。所謂目潰しです。

 

その目潰しを驚愕の表情とともに、憑はギリギリのところで避けました。ただし完全な回避ではなく、右下瞼の少し下辺りを切ってました。

 

だが本命はそれじゃありません。予想外の攻撃で硬直した憑の懐に潜り込み、避けられた尻尾を憑の首に巻き付けることによって逃がさないようにする!

 

これで今までみたいにちょこまか避けることはできないだろう!

 

「キサマ……ッ!?」

 

「くらえー!」

 

そしてそれと全く同時に右拳を鳩尾に叩き込みました。

 

「ぐぉ!?」

 

くの字に曲がった憑の肉体は、巻き付けた尻尾によって後方に吹き飛ばされずそのまま留まります。そしてこのチャンスは逃しません!

 

「うらうらうらうらー!!」

 

顔面・胸・お腹。拳が届く範囲を、妖力で強化し円形状に光っている両拳で連打し続けました。もしこのチャンスを逃せば、次はいつチャンスが来るか分かりません。ここで決める!

 

「うらぁ!」

 

全力で強化した右ストレートを奴の頬に叩き込んで、後方へ吹き飛ばします。すでに尻尾は解いてあるので、吹き飛ばされる奴に向かって右人差し指を向けます。

 

「くらえー!霊丸!」

 

私の身長より少し小さい程度の霊丸が飛び出し、憑にクリーンヒットしました。

 

呪霊錠をつけてから実戦で霊丸は撃ってなかったので、霊丸がかなりデカくなっていたことに驚きました。でも今は奴を倒さなきゃいけないのでかなりナイスなパワーアップです。

 

霊丸の勢いそのままに、憑ははるか後方へ吹き飛んで行き、見えなくなりました。全力の拳の連打からの霊丸のコンボ。今出せる最高ダメージの攻撃でした。

 

「はぁー……起きないといいんですが……」

 

私は両膝に手を置いて大きく息を吐き出しました。

 

正直さっき喰らった攻撃が大分効いていて結構辛いです。しかしここでへたり込んでしまうと、もし相手がミカンさんの長距離射撃を使ってきたら避けられませんから、まだ気は抜けません。

 

そこまで考えて、どこかおかしいことに気づきました。

 

「ちょっと待って。もしかして、アイツはミカンさんの能力を使ってない……?」

 

そう。奴は戦い始めてからミカンさんの魔法少女としての能力を使っていないのです。それどころか、魔法少女の姿にも変身してない。つまり変身前のノーマル状態で戦い続けていたのです。

 

ただ単に奴がミカンさんの力を使いこなせず、今までの状態が最高レベルだったらまだ何とかなりそうです。

 

しかしもし、今までの戦いが様子見だったのならば……。

 

「やってくれるじゃないか……!」

 

重く響くような、怒りを混じらせた声が遥か彼方から聞こえました。

 

服はビリビリに破けてますが、口元から出血している以外は出血などは見当たりません。しっかりとした足取りでこちらに歩を進める憑の姿がありました。

 

「効いてないんですか……!?」

 

「いや、ダメージはあったさ。結構効いている……倒すには至らなかったがな……!」

 

その目には激しい憎悪が宿ってました。よほどコンボを喰らったのが気に入らなかったのでしょう。歩く音にも怒りを感じました。

 

「変身する必要性もないと思っていたが……気が変わった。キサマは確実に殺す」

 

「っ!?」

 

「はぁ!」

 

禍々しい黒い魔力の光が憑の体から溢れ、一瞬目が眩んでしまいました。目を開けた先にいたのは、変身が完了していた憑でした。

 

その姿はミカンさんのいつもの魔法少女姿ではなく、衣装の黄色の部分が黒く染まっていました。闇堕ちとか魔族色って皆黒になってしまうんでしょうか……。

 

そして溢れ出る威圧感は先ほどより上です。思わず唾を大きく飲み込んでしまいました。肌にビリビリ来る感覚は、間違いないでしょう。

 

「来るなら来い!」

 

思わず弱気になりそうな心を叱咤し、大声を上げて全身を妖力で強化し構えを取ります。さすがにさっきの戦法はもう使えませんから、ここは様子見です。

 

憑はゆっくりとこちらに向かって左手を伸ばすと、ボウガンを左手に出現させました。

 

ついにミカンさんと同じボウガンを出現させましたね……。

 

火狸戦の時に見たボウガンの威力とスピードは相当な物だったのを覚えてます。果たして今の自分に避けられるかどうか。

 

――ヤバッ!?

 

そう思った瞬間と同時に首を横に捻ると、右下瞼に一本の線の様な傷が生まれてました。奴のボウガンが光ったと思ったら、すでに通り過ぎた後でした。

 

……傷ができた部分が遅れて痛みを感じてきたほどのスピード。

 

「ほ、ほとんど見えなかった……!?」

 

速い!あまりにも速い!

 

もし浦飯さんが意味わかんない超スピードで繰り出す攻撃に対しての特訓をこなしてなかったら、今頃顔面を貫かれていたことでしょう。それほどまでに速いのです。

 

対面するとここまで速いとは……!

 

驚愕している私を冷たい目で見る憑は、構えを崩すことをしませんでした。

 

「ほぉ……避けたか。ならどんどんいくぞ」

 

「くそったれ!」

 

恐らく次は先ほどの攻撃が連続で来る!

 

そう確信した私は見切るために目を強化し、両拳を円形状に覆うように強化します。

 

先ほどの威力を考えると、全身で受けての防御は不可能!この状態で見切って、拳で弾き飛ばす作戦です。

 

そして放たれるボウガンの矢の弾幕。魔力で構成された矢の色の美しさとは裏腹に、圧倒的なスピードと数の多さに驚愕します。

 

「このぉ!」

 

強化した眼で見ることによって、先ほどよりはっきりとボウガンの軌跡を見ることが出来ました。それにより強化した拳で矢を弾くことにより、直撃を外すことを繰り返します。

 

「(なんて速く重い攻撃……!これじゃいつまでも受けきれない!)」

 

確かに弾くこと自体は成功してます。しかしそれもミスが許されない行為。1回のミスで死を感じるというのは、何度も戦ってきましたが慣れるものではなく、心に焦りが出始めてきました。

 

「(どうする、懐に無理やり飛び込むか……!?)」

 

このまま受けていても勝てるわけがないので、攻撃を仕掛ける必要があります。

 

しかしこの弾幕を掻い潜って攻撃を仕掛けられるほど私は速くないし、第一憑が先ほどよりパワーアップしているなら、元々私より速かったスピードがさらに増しているはず。

 

先ほどの攻防でしこたま殴ったから、恐らく接近戦は警戒しているはず。どうすればいいんでしょう……!

 

矢を捌きつつ考えなければ反撃することは不可能な状態。だが元々私は複数のことを並列して行うという行為が得意ではないのです。

 

だから気づくのが僅かに遅れたのです。

 

一発だけ他より速く迫る矢があったことを。

 

「(弾けな――!?)」

 

体勢が不十分。両手は他の矢の対処で間に合わない。

 

「あッ……!?」

 

躱す暇もなく、左肩を矢が貫いていきました。

 

後ろへ吹き飛ぶ私。それに対して冷ややかに見るだけで、一歩も近づかない憑。

 

「さて……キサマは近づくと先ほどの様な破壊力があるからな。このまま仕留めてやる」

 

「く、くそぉ……!」

 

左肩の痛みで左腕の感覚がかなりヤバくなっている私に対し、先ほどまでと同様の戦法で来る憑。

 

一体どうすればいいんですか、皆……!

 

つづく




憑は憑りついた相手の魔力と自分の魔力を混ぜることで、憑りつかれる前の生物よりパワーアップさせる能力です。

ただ憑自体はかなり弱いので、何かに憑りつかないとクソ雑魚魔族です。それと元の生物も強くないと、実力の上昇幅が小さいので事故で死んでしまうことも十分ありうる感じ。

蔵馬の受精卵憑依というか融合の件は割とさらっと流されてますが、結構ヤバいこと言っている気がします。

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