「く、くそったれ!」
「ふっふっふ、浦飯さん。どんどん私が有利になってますよ」
私の目の前の数字が消えていく。かなり頭を使うが、妹の良子と散々戦ったのでこれには慣れている。
対して浦飯さんは計算は苦手のようだ。ふふふ、私圧倒的です。
「どうしたんです?このままでは私の圧勝ですよ?」
「うるせー!こっからだ、こっから!」
しかし勝敗は明らかだった。少し消しても、浦飯さんの方はどんどん積み上がっていく。
そして、浦飯さん側の画面一番上までブロックが積み上がった。
GAME OVER WIN YU-KO
「私の勝ちですー!」
「だー!くそったれ!俺はこういう頭使うゲームは苦手なんだよ!」
夢の中で私たちがやっていたゲームは「ゲームバトラー」
スポーツ・格闘・クイズ・パズルなどあらゆるジャンルのゲームを挑んでくるゲー魔王を倒すというものである。
もちろんプレイヤー同士も対戦できる代物で、かなりのレトロゲーですが、貧乏な我が家ではこういうレトロゲーしかできないのです。
今対戦していたのは、その中でもかなりめんどくさい代物で、パズルのジャンルの「スリーセブン」というものだ。
簡単に言うとぷよぷよみたいなおちものゲーであり、落下してくる数字を、縦横いずれかの数字が「合計7」になるようにするゲームである。
最初は低難易度でも碌にクリアできないが、慣れてくれば案外行けるゲームである。
しかし浦飯さんは格ゲー専門らしく、こういう頭を使うゲームは苦手なようだ。
さっきまで散々格ゲーで昇竜拳くらいまくってボコボコにされてたので仕返しです。
意外なのは、ヤンキーにしか見えない浦飯さんがゲームを結構やるということで、夢の中で対戦することとなった。
現実で邪神像に捧げられた(正確には目の前に置いた)ものを、夢の中で再現できるということらしい。
何で対戦するのか聞くと「オメーが起きてる間、結構暇なんだよ」ということだ。
確かに最初のころは何も置かれてない空間だったので、気が狂いそうな空間ではありました。
「一旦ゲーム中止だな。しかし、やっぱりゲームは対戦したほうが張り合いがあるなー。ここにいると対戦相手がいねーからよ」
ここにあるのはこたつやゲーム、漫画、たまさくらちゃんの看板、昨日の夕飯、お菓子などはあれど、遠くを見ると暗く、何も見えず闇が広がってます。
「この空間に1人だと、やること限られてきますねー」
「まぁな。修行もしてるが、それだけじゃな。なぁなぁ、今度店の中のたばことか酒の前とかに置いてくれよ。この家誰も飲まねーから口がさびしいんだよな」
「うーん、お店の前に置いていいんでしょうか……?」
何か窃盗みたいな感じがして、ちょっと気が進みません。お巡りさんに目をつけられたら怖いですし……。
「別にギってくるわけでもねーんだから、問題ねーって」
「ギってくるとは何でしょうか?」
馴染の無い言葉です。何かの暗号でしょうか?
「あん?万引きのことだよ。したことねーのか?」
「ないですよ!ダメです、お巡りさん来ちゃいます!」
ダメだこの人!本当に犯罪してる!しかもしていることがさもとーぜんのような感じです。
「サツに捕まるほどヘボくねぇって。ケケケ」
「この人に教わっていいのか疑問に思い始めました……」
「ま、やってたのは中坊のころだ。今はさすがにやってねぇよ」
「当たり前です!」
せっかく高校にちゃんと通えるようになったのに、補導されるわけにはいきません。
悪の道に染まらないよう気をつけないと。
……なんだろう、魔族的には浦飯さんの言っていることのほうが正しいのでしょうか……?
「よし、遊びの時間は終わりだ。修行やんぞ!」
「どんとこいです!……あ、でも少しは手心をですね……」
「まかせとけ!あの桃ってやつをぶっ倒せるようにきつくいくぜ!」
「ひー!?」
そこからは思い出したくないほど扱かれました。
夢の中では筋力アップできないということで、妖力のコントロールと高める修行が中心ですが、あれは修行というより単なる拷問です。
そして修行中、夢の中で気絶したかと思いきや、そこはいつもの天井でした。
「私、生きてる……!」
「お姉、何で泣いてるの……?」
妹の良子に怪訝な顔されましたが、生きてお姉ちゃん、帰ってきたんです!
3話「桃よ、これが霊丸……え、筋トレと駄菓子ですか?」
「優子。魔法少女打倒の進歩はどうですか?」
夢から覚めて、学校に行く準備をしていると、皿洗いをしているお母さんが後ろからそう尋ねてきました。
「えー、まだまだ修行が必要でして、夢の中で浦飯さんに鍛えてもらって、起きたら筋トレもしているところです」
「……浦飯さん?それは誰ですか?」
はて、お母さんにはまだ話してなかったでしょうか?しかし邪神像のことは知っていたのだから、当然知っているものだと思ってました。
「邪神像に封印されている方ですよ。私たちのご先祖ではないようですが、なぜか最近邪神像の中にいたらしく、私が強くならないと出れないらしいので、夢の中で鍛えてもらっているんです。お母さんは浦飯さんのことは知らないのですか?」
「……あの人からは聞いたことがないわ。」
「あの人?」
「お父さんです。邪神像のことや封印のこともお父さんから聞いてます。浦飯さんはどんな人ですか?」
お父さんは私が小さいころいなくなってしまったので、どんな人か覚えてないので、いまいちピンときません。やはりお父さんの方の一族の呪いなのでしょう。
浦飯さんのことはどういえばいいでしょうか……うーん。
浦飯さんてば、声は出せないけど、邪神像から外の様子を見れたり聞けるらしいから、余計なことは言えないですね。後が怖すぎます。
「見た目はリーゼントでまんまヤンキーですね。あと魔族の方です。必殺技の霊丸もその人に教わったんですよ。ほら、見てください!」
指先に妖力を集中すると、赤く光り霊丸が撃てる準備ができました。
やばいです。なんかこう、漫画みたいな技ができる私すごいとか、今すごく感じてます!
「優子、いつの間にそんな技術を……。あの体が弱いし才能も……いや、よくできましたね優子」
「ちょっとお母さん?今失礼なこと言わなかった?」
ちょっと待ってください、今才能がないとか言いかけてませんでした?まさか娘を信用してないのでしょうか。私だってやればできるんですよ?
「気のせいです。優子の新たなパワーアップのために、月々お小遣い120円から500円に大幅値上げします!」
馬鹿な……!今まで缶ジュースを買ったら終わりだったお小遣いが4倍強に!
「えぇ!?そんなに値上げを!」
「できます!へそくりや当たらない懸賞をやめることで!」
月々4万円生活という綱渡り生活なのに、こんな大幅値上げを……お母さん、優子は必ず魔法少女を倒し、生き血を手に入れましょう!
「ありがとうございます、お母さん!」
私はお母さんの思い(500円)を握りしめて登校しました。これは魔法少女を倒すための資金です。大事に使わなければ!
「お小遣い上がったので、それで何かパワーアップする秘策はないですか?杏里ちゃん」
そんなわけでいい案がないか、杏里ちゃんに相談してみることにしました。何かいい道具……例えば武器を知っているかもしれません。
「……駄菓子買って豪遊する?」
「それ、欲望を満たしているだけですよね!?」
パワーアップどころか堕落の道です。これではお母さんの心遣いが無駄になります。
憤りを感じているそのとき、何か不思議なオーラというか、パワーを後ろから感じました。
これは妖力に似てるけど違う感じだから……。
「桃!後ろは取らせないぞ!!」
振り向いた先には桃が少し驚いた顔をしてました。ふっふっふ、私の探知能力に恐れをなしたようですね。
「シャミ子、もう魔力の気配とか分かるようになったんだね。すごいね」
「ふっふっふ、鍛えられていますからね」
「……でも筋力が足りないかも」
「えぇ!?」
なぜここで筋肉なのか。もっとこう、妖力の使い方がよくなってきたねと褒めるところではないでしょうか。
「全体的に細すぎる。鍛えないと攻撃くらったとき耐えられないし、攻撃力も足りないよ」
「あー確かに、シャミ子が耐えられず吹っ飛ぶ姿が想像できる。よっしゃ、遊びに行くついでに何か筋トレグッズ見にいこーよ」
「……良い店があるから、案内する」
「ちょっとー!2人とも何でそんなに息が合ってるんですかー!?」
私の意見は通らず、グイグイ来る2人の勢いに押されてしまいました。
放課後、引きずられるように3人でショッピングセンターマルマにやってきました。
こーゆー大きな販売店に全く来たことがない私にとって、もうそれは宝船のような光景でした。
しかし今目の前に広がるのは筋トレグッズの数々です。何か、絵面の濃い購入客が多いですね。でも私たちみたいに4人組の女子高生もいますね。
「こんなのがいいんじゃないかな。握ってみて」
杏里ちゃんから渡されたのはハンドグリッパーという握力を鍛える道具です。まぁ試しに握ってみましょう。
「ふぬー!……って硬!全く動かないです!」
いくらやっても微動だにしません。逆に手が痛くなってきました。
何ですかこの硬いグリップは!壊れているんじゃないですか?
「それは世界中でもほとんど握れる人がいない、握力166㎏必要なキャプテンズ・オブ・グリッパーだね。シャミ子にはまだ無理かな」
「何でそんなものがこんなところに売っているんですか!需要ほとんどないでしょう!」
そんなもの握れるのはゴリラだけです。人間で握れる人がいることがびっくりです。
「そうだね。今はまだ無理だと思うから、一番弱いものからやってみようか」
桃に渡されたグリップは私でも問題なく、最後まで閉じれました。そうそう、こういうのでいいですよ。
「徐々にステップアップしてく感じかぁ。シャミ子は初心者だしねー」
「初めから無茶はさせられないからね」
「待ってください。お2人は私のトレーナーか何かですか?」
何だかトントン拍子でトレーニング方法が決まりつつあります。しかも将来的にはあのやばいグリップを握らせる気でしょうか?
いや待って。ボディビルダーみたいにムキムキになりたいわけじゃないです。もっとこう、美しく鍛え上げる感じが目標というか理想というか……。
「けど魔力と併用すると、大抵の魔法少女はプロレスラー以上のパワーになるよ?」
「最悪の絵面です!」
脳裏に浮かんだのは、ボディビルダーの肉体に女の子の顔を乗せて、フリフリの服を着ているイメージです。うぅ……めっちゃ気持ち悪いです。
「もしや桃も力を解放すると、すさまじい筋肉が……!?」
「いや、無駄に筋肉つけすぎると動きが阻害されるから。大きすぎるパワーも当たらなければ意味がないし……」
「うーん、筋トレ博士だね!」
「感心している場合ですか!」
どんどん筋肉の話で浸食されてます。何か話題を変えないと行けません。
ふと周りを見渡すと駄菓子屋がありました。ムキムキな人たちのそばに子供が集まる駄菓子屋を近くに置くのは、絵面としてはまずいんじゃないでしょうか。
しかし話題を変えるために、私は駄菓子屋を指さしました。
「ご、500円じゃ筋トレグッズは買えませんし、駄菓子でも買いましょう!」
「結局駄菓子になったね」
「……もう少し見たい」
「後でも見れるでしょ!ほら、行きますよ!」
今度は私が桃を引きずるように駄菓子屋へ移動しました。
店内で適当にいくつかカゴに入れると桃が何やらキョロキョロと悩んでいるようでした。
「どうしたんです、桃?」
「いや、駄菓子って買ったことがないから……どれがいいかなって」
「えぇ!?そうなんですか?!」
ば、馬鹿な。それでは駄菓子を買ったことがなく、コンビニなどの高級菓子で過ごしていたというのか。魔法少女は家柄までチートなのか!
「ほほう、ちよももの家は中々厳しい家だったのかな?」
「そうじゃないけど、あんまり機会がなかったというか……」
「なら、私が教えてあげます!」
ようやく一個、桃に勝てるものが見つかりました。
……なんだか悲しい気もしますが、まぁ良いでしょう。
あれこれ桃に教えていると、色んなものをカゴに入れてしまい、結構増えてました。
「お会計200円になりまーす」
「お小遣いの40%吹き飛んでしまいました……!」
「まぁ、あと300円残っているんだし、パーっと行こうよ」
「うぅ、パワーアップグッズはまた今度です……」
というか、最初は500円で喜んでましたが、その程度じゃグッズは買えないですよね。
どうすればいいんでしょうか。やはり地道に体一つで鍛えるしかないのでしょうか。
「鍛える方法なら教えるし、気にしなくていいんじゃないかな?」
「えぇい、私たちは敵同士です!これ以上は教わりませんよ!」
「気にしなくていいのに……」
これ以上何か教わるようになっては、借りを作るばかりで戦いにくくなります!そうなるのは断固避けなくては。
「ま、とりあえず食べようよ。シャミ子とはこうして遊びたかったしね。シャミ子は前はいつもすぐ帰宅してたり、学校休んだりで遊べなかったしさ。それにちよももね」
「杏里ちゃん……」
そうだ。杏里ちゃんはいつも角が生える前、つまり体が弱くて病院に通院していた頃から声をかけてくれていたんだ。
もしかして、今日は理由つけて遊びに連れてきてくれたのでしょうか。
「それにシャミ子は細いし、このままじゃちよももに勝てないから、鍛えないとね!」
「ちょっと感激してたのにー!」
台無しです、私の感動を返してください!
「ふふっ……」
「あー!桃、今笑ったなー!」
「わ、笑ってないよ……」
そんな締まりのない顔をされたらバレバレなんですよ、ムキー!
私は怒りのままに酢だこさん太郎を噛みちぎりました。やはりこの酸っぱさはクセになります。
「まぁまぁ機嫌治して。少しずつ交換しない?」
「仕方ないですね……いいですよ。じゃあ桃のチョコバット一口ください。そうすれば許してあげます」
「いいよ……あ、当たりだって」
「すごーい!私当たってる人初めて見た!」
「私もです!」
「え、そうなの?」
きょとんとした桃の顔がおかしくて、皆で笑ってました。
3人であれこれ食べ比べやっていたら、気がつくと夕飯の時間になっており、それぞれ帰宅しました。
結局、パワーアップグッズは買えなかったけど、結構楽しかったです。
「結局、今日は桃と戦ってません!?」
「像から見てたけど、オメー仲良く遊んでんじゃねぇか」
夢の中の修行中に思い出しました。しかも霊丸も撃ってません。カッコイイからもっと撃ちたいのに!
「あ、遊んでいるわけではないです!これは隙を見つける作戦です!」
「オメーのほうが隙だらけなんだよなー……」
そんなことはありません。明日こそ桃に霊丸を撃ってみせます。
そんなわけで次の日、桃に勝負を挑んだら、何故か広い工場跡に呼び出されてました。
あれー、おかしいな。すぐ勝負を始めるつもりだったのに……。
周りの迷惑をーとかいろいろ言われて、そういえばそうだなと考え着いてきてしまいました。
こ、これが巧みな戦術というやつですか……!?
「ところで、ここって勝手に入っていいんですか?」
「私が所有している廃工場だから大丈夫」
「えぇ!?」
「昔戦いで吹き飛ばしちゃって」
このボロボロで、やばいえぐれ方しているコンクリートとかもあるのに?
私の霊丸じゃ到底できそうにない破壊力の痕を残している戦いをした人に霊丸を向ける?
「わ、私今日は帰りまー……」
「さぁ、その霊丸とやらを撃ってみて」
「撃ちます!撃ちますから撃たないでー!」
「撃たないよ!」
少し目汁が出ましたが、何度か桃に説得され撃つことになりました。目標はあの薄い壁の倉庫です。従わなければ、私も廃工場と同じ運命になるのでしょうか。
「うぅ……絶対後で撃たないでくださいよ?」
「撃たないよ……さぁ、見せてみて」
「分かりました……」
集中です……まだ1回しか撃ってませんが、溜めるのはすぐできます。目標はあの倉庫のベニヤ板です。
私の右手の人差し指が赤く光ります。準備ができました。現実での破壊力はどうなんでしょうか。
「行きます!霊丸!!」
赤い閃光が飛び出し、ベニヤ板を貫通し、穴は私の顔くらいの大きさが空きました。
しかし奥の方の倉庫の壁は貫通できなかったようです。
「やった……使えました!」
夢の時と同じ感覚で撃てました。でもやっぱり現実で撃ったほうが、何というか快感です!個人的には満足です。
すると桃がじっとこちらをのぞき込むように見てきました。何か変だったでしょうか?
「……今日の入れると何回撃ったの?一昨日初めて撃ったって言ってたけど」
「今日で2回目ですけど、どうかしましたか?」
「……そっか、普通の人には撃たないんだ」
「何を言っているんです?当たり前じゃないですか」
普通の人に撃ったら怪我するじゃないですか。桃は何を言っているんでしょう。
そういうと桃は何がおかしいのか、笑ってました。
「……私、しばらくシャミ子を鍛えてみようかな」
「えぇ!?何でですか!?」
何で今の会話の流れで鍛える話になるんですか!
「……内緒」
「教えてくださいよー!」
結局、この後も理由は教えてくれず、トレーニングと称して家までマラソンとなりました。
おのれ、強くなってギャフンと言わせてやるぞー!
頑張れシャミ子!鍛えて霊丸撃てる回数を増やすんだ!(CV:ジョルジュ早乙女)
つづく
負けっぱなしのシャミ子は学校に邪神像を持ってきていた。
邪神像を手に取った桃は底の部分にスイッチがあったんで押したんだが、気が付くと俺がシャミ子の体を借りて外に出ちまった!
桃の奴は闘う気満々だしよ。よっしゃ、いっちょ喧嘩と行くか!
次回、邪神像解放!幽助VS桃!
伊達にあの世は見てねぇぜ!