ちなみに今回出てくるキャラの戦い方は捏造です。ご了承ください。
「何ですと!?今日で閉店ですか!?」
突然の悲報が喫茶あすらのマスターから語られました。無くなった尻毛をカバーするための毛糸のカラフルなパンツを履いたままのマスターは、自ら流した涙の海に沈んでいました。
「そうなんだ……このお店は今日で閉店だよ……うぅ」
地面に蹲っているマスターは泣き続けています。突然の閉店に驚く私ですが、理由が気になりました。
お店はいつ行ってもお客さんがいたし、忙しい日は私も臨時バイトとして参加してました。いいお小遣い稼ぎだったのですが、いきなり経営難になるほどではないと思っていました。
つまり経営不振で潰れたわけではないようですが、一体全体どうしたのでしょうか?
「しかしどうしてなんです?お客さんは毎日入って、リコさんの料理を美味しそうに食べてましたけど……」
「実はそのリコ君が原因なのだ……」
「えぇ?そうなんですか?」
今までマスターの泣き顔をどこか楽しそうに見ていたリコさんに視線を移すと、リコさんは頬に手を当てて笑いかけてきました。
「人聞き悪いわ~、ちょーっと料理に入れる魔力が籠りすぎて、料理が爆発して店諸共吹っ飛んだだけやのに~」
「ほぼテメーのせいじゃねーか」
「これは擁護できません……」
浦飯さんのツッコミにフォローを入れようかと思いましたが、理由がアレなので無理でした。
魔力で爆発する料理なんてあってたまるか!……そうツッコミをいれようとしましたがウガルルさん召喚するときもかなりの魔力を籠めた料理出していましたし、あり得る話のようです。
それにマスターによると今回が初犯ではなく、過去に何度も店が物理的に炎上したりしているんだとか。それで何度か警告を受けているため、今回で累積退場が決まったそうです。
「つまり今日から宿探しさ……お金はほぼないけどね」
「例えばどんな物件がいいんですか?」
「死ぬほど家賃が安くて魔族でも問題ないところかな……」
「そんなら、ばんだ荘がピッタリじゃねーか」
「「おお!」」
確かに浦飯さんの言う通り、ばんだ荘ならば魔族も入居OKですし、ミカンさんがここの家賃は光闇割を使うと月10円とか意味わかんない値段を言ってましたからね。条件はぴったりです。
思わず声を上げた私たちに、浦飯さんは「でもよー」とあまり納得していないような声を出しました。
「ばんだ荘って見かけ廃墟みてーで、汚ねー感じだろ?飲食店じゃ致命的じゃねーか?」
「人の家を廃墟や汚いと言われることに反発を感じますが、確かにお客だったら二の足を踏みますね……」
言われてみれば、飲食店で外観が汚ければわざわざ入って食べようという気にはなりません。ばんだ荘は見かけが廃墟に誤解されそうなくらい古いですから、ここで飲食店は無理でしょう。
しかしマスターは自信ありげに胸を叩きました。
「なぁに、そこはその汚さを逆手にとればいいのさ。現代は色々宣伝の仕方があるからね」
「さすがマスター、頼りになるわぁ」
何かマスターには策があるようで、自信ありげです。そんなマスターにリコさんは腕を回して抱き着いてました。な、なんだがアダルトチックな抱き着き方です。
そんなこんなで早速ばんだ荘1階にお店を作ることになりました。
「いいんじゃないかな、シャミ子が決めたなら」
事後報告になりましたが、桃にお店の相談をすると了承を得ました。リコさんと桃は仲が悪そうなのでてっきり反対してくるかと思いましたが、意外にもあっさりしています。
「この街は魔族との共存の街だからね。マスターみたいに積極的に人間の輪に入ろうという魔族のための街と言っていい。反対する理由はない」
以前よりどこか危うい感じが薄れた桃は、マスターのことをそう話してました。言外に迷惑をかける場合は異なる、とも聞こえますが。
店の準備はかなりスムーズに進みました。店が爆発したといっても木っ端みじんになったという訳ではなかったので、必要な道具はほぼ残っていたようです。あとは内装などだそうな。
「あ、喫茶あすら再開するんですね!」
マスターと買い出しに行くと、マスターは買い出しついでにビラを配ってました。何度かお店で見たお客さんが、ビラを見て嬉しそうにしてます。
「はい!廃墟をモチーフにしてSNS映えする喫茶店です!ぜひどうぞ!」
「やっぱり自分の家が廃墟って他人から言われるとダメージがあります……」
「今更だろ。かーっ、呪いが解ければなー!金も入って貧乏生活から解放されて、親父さんとオレも解放されんのになー!」
「魔法少女いないんですから、しょうがないですよ~」
呪いを解くためには光の一族たる魔法少女の魔力が込められた血が必要です。しかしこの場には仲間の魔法少女しかいませんし、そう都合よく敵の魔法少女が来たりしません。
やること山積みだなぁ……と感じつつ、喫茶店あすらは再開しました。
以前から通ってくださるお客さんがまた来てくれたのと、SNS映えというコンセプトがよかったらしく多くのお客さんが来て、私たちもウェイトレスのバイトとして参加しました。
マスターの宣伝が上手かったのか、お客さんの流れが切れることなくずーっと慌ただしいままでした。超忙しいです!
「繁盛してますね~」
「カレー……カレー……うま、うま……」
「美味いっすね!ここの飯!」
「そうだろう、元々喫茶あすらは飯がメインだったからな……当然、従業員も同じなら美味いのは必然……!このパフェ、うま……!うま……!」
「何と言うかお客さんのリアクションがおかしくね?」
開店祝いで来てくれた杏里ちゃんの言う通りお客さんの食べっぷりが豪快と言うか、語彙力が下がっている気がしますが、皆さん美味しそうなのでOKでしょう。
いや、魔力込めた料理で洗脳に近いから、ギリギリアウトでしょうか?
チラリと同じくバイト中の桃を見ますと、桃はジェスチャーでセーフをしてました。さほど害があるというわけではないので、この地の管理者の桃としてもセーフだそうです。
初日も大忙しで、今日2日目も噂が広がりお客さんが一杯やって来たため大変でしたが、その分バイト代も入って懐がホクホクです。いやー、自分のお小遣いがこんなに増えると嬉しいもんです。
ただ大事なことを忘れているような気がしますが、何だったでしょうか……。
「済まないシャミ子君。お客さんいない間に食材を買い足そうと思うのだが、一緒に来てもらっていいかい?」
「あ、いいですよ」
「ほんならウチは休憩がてら外出するわ。ほな~」
マスターに買い出しについてきてほしいというので同意すると、リコさんはふらりと外出しました。マスターと一緒にいないリコさんは珍しいですね……。
「リコ、大丈夫か?」
「心配ご無用です~」
浦飯さんが一声かけましたが、背中を向けたままリコさんは右手を振りました。その様子にマスターも少し首を傾げてましたが、そのままリコさんは歩いて行ってしまいました。
はて、何かありそうですが……浦飯さんをチラリと見ても黙ったままですし。うーん、怪しい……。
☆☆☆
「もうそろそろええんとちゃいます?」
リコは人気のない場所でくるりと振り返る。今まで姿は見えず魔力は感じられなかったが、リコは今朝から時折視線を感じていた。まるで刺すような視線であった。
「えらく余裕やな、化け狐」
リコが振り返った先の、物陰から姿を現したのはツーサイドアップで中華風の衣装を身に纏った少女である。
「(幽助はん以外には気取られなかったことといい……まず合格やな)」
リコに姿を見せた瞬間、魔法少女の体の周りに魔力が溢れた。魔力は分散せず、肉体を綺麗に覆っている。少女は既に臨戦態勢に入っている。
店が忙しかったとはいえ、幽助以外には気づかれなかった隠行のことを考えると、魔力コントロールの上手さは中々のものだろう。リコは気分が高揚し始めていた。
「ん~……どなたやろ?会ったことある?」
戦闘態勢に入った魔法少女の姿を見てもなお、口に指を当てて考え込むリコ。
その姿は一見可愛らしいものであり、余裕すら感じさせるものだ。実際は闘争心を抑えているというのが正解なのだが。
魔法少女はその様子に対し、苦々しい表情を隠そうともしなかった。
「こっちのことなんか覚えとらんか……まぁそうやろな、あの頃のアタシは雑魚だったからな。ようやくこの手で殺せるん思うと、嬉しいわ」
「へぇ……じゃあ今日は御礼参り言うことやな?ふふふ……」
楽しそうに、しかし不気味に笑うリコの表情は、魔法少女──朱紅玉──の神経を逆なでした。敵とみなしている眼ではない、面白いものを見ているようなリコの視線だからだ。
「爺ちゃんの鍋、そして爺ちゃんのために……死ねや」
言い放つと同時、体に漲らせていた魔力がより輝きを増す。リコはその様子に、唇を少し舐めた。
──こういう輩がおるから、やめられんのよなぁ……♡
この街に来る10年ほど前までは、こういった挑戦者を返り討ちにするというのが何よりの楽しみだった。なので久々の獲物に対し、リコは心が高鳴った。
「いくで」
魔力を両手に集中させている朱紅玉から、リコは寒気を感じた。とは言っても命の危機……という意味での寒気ではない。文字通り肌寒さを感じたのだ。
朱紅玉の両手が白く凍結しているようにも見える。おそらく魔力を冷気に変化させているのだろう。
「氷使い……久しぶりやなぁ」
「魔闘凍霊拳!」
冷気を集中した拳を、こちらに接近せずそのままリコに向かって打ち抜く朱紅玉。それと同時にリコはその場から弾けるように移動した。
リコが視線をずらすと、先ほどまでリコが居た場所は既に凍り付いていた。
朱紅玉の放つ拳は、文字通り凍結させる拳というわけだ。その場にとどまったまま朱紅玉は何度も拳を繰り出し、リコがそれを回避することで辺りを氷漬けにしていく。
「逃げ足だけはちょこまか速いようやな!」
「そんな褒められてもお返しできるもんは少ないわ~」
のんびりとした返答とは真逆で、リコの動きは増々鋭さを増していた。それを追うように、凍結の拳の弾幕を繰り出す朱紅玉。
朱紅玉の拳は決して遅いものではない。常人には見切ることさえ不可能であろう。
「(絶対零度に近い秒間100発の魔闘凍霊拳をここまで完璧に躱すとは……!さすがやな化け狐!)」
雑魚の魔族では瞬く間に絶命するであろう拳の弾幕。それを汗一つかくことなく回避しつつジリジリと朱紅玉へ詰めていくリコは間違いなく強者だ。
間合いを詰めていくリコの様子を見れば見るほど朱紅玉の顔もどんどん険しくなり、言動も荒れてきた。
「死ね死ね死ねシネシネ!」
「おやまぁ……正気やろか?」
段々と拳の速度と罵詈雑言の速度が上がっていく。目の色も若干変わっているように思えた。
苛烈さを増す攻撃。しかしリコの進行速度はそのまま変わらず、ジリジリと詰めていく。
「なら、これはどうや!」
足を弾幕だけで止められないと見るや、朱紅玉は氷の拳で地面を殴りつけた。地響きの衝撃と同様、氷が朱紅玉から四方へ地面を凍結させていく。
辺り一面を氷で覆えば、今までと同じ速度で詰めることは不可能となる。仮に上空に逃れたとしても、身動きの取れない空中では魔闘凍霊拳の格好の餌食である。2段構えの作戦である。
しかし浅いと言わざるを得ない作戦であった。地面の氷がリコの足元へ到着する一瞬前に、リコは朱紅玉へ飛ぶように詰めた。
「!?」
朱紅玉の目から見ても、霞むようなスピード。今までのスピードを大幅に上回り、リコがまだ本気でないことを承知していた朱紅玉でさえも予想を上回る速度だった。
リコの左指2本に挟まれた木の葉が鋭い刃に強化されており、朱紅玉の首を真っ直ぐ狙っていた。
地面を殴ってから体勢を戻そうとしている朱紅玉では、完全に回避できる体勢ではない。かといってまともに防御したのでは、木の葉に込められた魔力を考えると、半端な防御では貫通することを朱紅玉は感じ取っていた。
「うらぁ!」
故に朱紅玉が行ったのはガードでも回避でもなく、攻撃!自身の左側の首に迫らんとするリコの左手に対し、朱紅玉は左のアッパーを放った。
上へ弾かれるリコの左腕、その弾かれた衝撃でリコの上半身が後ろへ逸れる。間違いなく隙だらけであった。
「もろた!」
ボディががら空きになったリコに対し、右拳での魔闘凍霊拳を放とうとして───
「がっ……!?」
───顎の衝撃
一瞬にも満たない僅かな間だけ意識が飛んだ朱紅玉。顎への衝撃で脳を揺らされた朱紅玉の視界はブレる。辛うじて見えた視界には、リコが左足を振り抜き、一回転して着地しようとしている姿であった。
「(化け狐め!上半身を逸らされた反動を利用して蹴りを!)」
攻撃を弾かれた反動を利用した一撃であったため、威力は浅い。もし本来の威力であれば、無防備で魔力を集中して防御してなかった朱紅玉の顎は砕けていたであろう、ある意味では幸運であった。
「ずあ!」
もう一度リコに向かって拳を振るうが、すでにリコはその場から後方へ回避していた。
リコが着地した場所は魔闘凍霊拳の有効範囲外であった。
すでに距離も見切られ始めていることを頭の片隅で理解しつつも、朱紅玉の思考はリコへの執拗なまでの殺意と、どうすればそれを成せるかの思考に囚われていた。
「なるほどなぁ~……うん、よぅ分かりましたわぁ」
「何が分かったっていうんや」
首を鳴らしながら木の葉をいじくるリコ。その余裕の姿は、相手の挑発を誘うものと分かっていても腹が立つものだった。
「あんたの伸びしろや」
一瞬フェイントを入れたリコの姿が、朱紅玉の視界から掻き消える。影を捕らえた時には、すでに左側の眼前に迫っていた。
「それ」
既に間合いに入っていたリコは右拳を顔面に繰り出す。。
「ぬお!?」
驚きの声を上げながらも、首を逸らすことで朱紅玉は回避し、いくらか後退した。
そこへ追撃するリコ。鋭い爪を槍に見立てたかのような鋭い突きを彼女の目に向かって放った。
───僅かに飛び散る血。リコは自分の爪に朱紅玉の血が付くのを感じていた。
「しゃあ!」
地面と水平になるくらい上体を逸らしたことで、僅かに額を切る程度で回避に成功した朱紅玉。不十分な体勢ではあったが、朱紅玉は地面に手を付けて無理やり今の態勢から足払いを繰り出した。
「!」
足払いを後ろに飛んで回避したリコ。空中で一回転したリコが再度朱紅玉に視線を戻すも、すでに彼女の姿はない。
───上!
殺気から感じ取ったのは、自身の上空からの攻撃。
感じた通り、上空から魔闘凍霊拳を仕掛けてきた朱紅玉。
「その首もろた!」
タイミングはバッチリ。リコの着地と同時に魔闘凍霊拳も当たるというのを、両者ともに感じていた。
「縮め」
故にリコは能力を発動した。左腕のみ自身の後方の木へ向けており、左腕から伸びる魔力が木へガムのように張り付くのを感覚で理解した瞬間、リコは自身の能力で回避不能な状態から後方の木へ飛ぶことが出来た。
それはまるで引っ張られたゴムが元の位置へ戻ろうとするのと同じような現象であった。
「……先ほどのは撤回させていただきますわ、思っていた以上や」
木の手前で着地したリコと、必中のタイミングを回避され睨む朱紅玉。仕切り直しである。
「ふん、化け狐に褒められたところで嬉しくないわ!爺ちゃんのために、さっさと死ねや!」
リコは思わず濡れた。正直顔も覚えてなかった相手であったが、これほど成長しているとは、いい意味で誤算だった。
やはり勝負と言うのは、こうして鎬を削る感覚が好ましい。全てを使って戦うという感覚が、脳内麻薬ともいうべき興奮もあって、リコは大変好みだった。
しかし爺ちゃん爺ちゃんと連呼する部分はリコにとってマイナスである。
はて、ここ10年はこの街で生活しているから、それ以前の出来事だろう。
爺さんなんか相手にしたかな……と、そこでふとリコは目の前の彼女のことを思い出した。確かこの街に来る前に働いていたところの孫娘だったか。
「あー、よーやく思い出しましたわ。確かお爺さんに鍋買うてもろた子やろ、定食屋の」
「そういう改めて口に出すところがムカつくんや」
ニコニコと笑ったリコに対し、朱紅玉は魔力を高める。両腕を上下に重ねるように構えた。まるで動物の顎の様な構えである。
「この10年、アンタを倒してじーちゃんの洗脳を解くことだけを考えて鍛えたんや。アンタのような極悪な魔族は、『あの人』の言う通り殺すべきやからな」
「はぁ、そんなん知らんわ」
リコからすれば、何を言っているのか分からない。
確かに以前彼女のお爺さんの店で働いていたことがあり、今日の様に料理に魔力を籠めてお客を呼んでいた記憶はある。
第一店主のお爺さんのことは僅かに覚えているが、特に何かした記憶はない。完全に濡れ衣である。
むしろお爺さんのお店を辞めることになったのは、目の前の少女がリコを魔族と言って襲ってきたからだ。当時の彼女は魔法少女に成り立てであり、殺す価値もないから適当に痛めつけて店を去ったのは覚えている。
いわば原因は目の前の少女である。完全に逆恨みだ。
「あんたのせいで爺ちゃんが可笑しくなったんや!アンタがいなくなったからお爺ちゃんはアタシを見てくれなくなったんや!『人を操っていた』アンタが……アンタが!」
しかし朱紅玉は完全にリコを悪と断じている。まぁ間違いではないが、彼女のお爺さんに関しては完全に誤解だ。
10年なんて長期間操れる代物ではないし、能力的にも無駄である。非効率極まりないからだ。そんなことも分からないほど魔力の扱いに疎いのだろうか。
「(何というか、誰かに吹き込まれた感じやなぁ……少し誰かの魔力も若干感じますしなぁ)」
恐らく第3者にリコのことを吹き込まれ、能力的なことも言われていたのだろう。そして彼女がこちらへの憎しみを口にするとき、少し目の色が変わるのだ。何らかの操作を受けている可能性もある。
「くだらないことやなぁ……」
リコとしては戦いはもっと純粋に楽しみたいのだ。リコとしては料理で人を集めたり洗脳まがいのことはやるが、あくまで一時的なもの。
恐らくリコに関して魔力で『人を操る、殺し好きの化け狐』とでも吹き込まれ、吹き込んだ人物の言葉を信じるよう操作されているのだろう。
実にくだらないマネをしてくれる。別に恨まれたりするのは、リコ自身狙ってやっている部分があるので問題ないが、闘い自体は純粋に楽しみたいのだ。
関係ないであろう人物が純粋な戦いにケチがつけるのはもっともリコが嫌うものだ。
そして実力があるにも関わらず、それに気づかず戦いを続行する目の前の魔法少女。
───それらを全部ひっくるめてリコは「くだらない」と言い放った。
しかし朱紅玉にとっては違った。自身の10年を、たった一言で否定されたのだ。怒りで頭が沸騰するのも、無理ないことであった。
「ならそのくだらない相手に殺されてろや!!『氷龍追牙』!」
朱紅玉の構えた腕から、氷の龍が伸びるようにリコに襲い掛かる。
完全に朱紅玉の腕から切り離していないところを見ると、それほど長距離は放出できない技であるとリコは考える。
「シネやぁ!!」
「そればっかりやなぁ……!?」
言動はいくらかイカレているが、技の威力は本物であった。
『氷龍追牙』はリコの思っていた以上に速く、リコに接触する一瞬前には、まるで龍が口を開くように魔力が大きくなるのだ。そのためリコは紙一重ではなく、大きく避けなくてはならなかった。
大きく避けるということは、それだけ体勢も崩れやすい。その回避を見て、朱紅玉は笑う。
「りゃ!!」
朱紅玉は放出し続けている腕をリコの回避先へ曲げることで、『氷龍追牙』を捻じ曲げた。曲げられた『氷龍追牙』はまるで生きている龍が獲物を捕食せんとしているかのような光景である。
───鮮血が宙を舞う
脇腹を僅かに抉られたリコは、苦悶の表情を一瞬浮かべる。幸い傷口はすでに凍り付いているから、過剰な出血はないようだ。
そして次の瞬間には、龍の顎はリコへと迫っていた。
「案外ねちっこい戦い方やな」
「大人しく喰われてシンでろや!」
『氷龍追牙』をねちっこいというリコに対し、朱紅玉は『氷龍追牙』の攻撃を続行した。自身の優位性が分かっているからだ。
「(やはりあの化け狐は遠距離の攻撃技を持っとらん!)」
先ほどから朱紅玉は『氷龍追牙』の攻撃に集中して動いていない。もし遠距離攻撃があるのであれば、仕掛ける絶好のタイミングである。にも関わらず仕掛けてこないということは、リコの攻撃範囲はごく狭い……接近戦によるものであるというのは明白だった。
「(そして奴の能力!上空からの魔闘凍霊拳を放った際に見せた不自然な移動!おそらくあの時わずかに見えた魔力の糸らしきものが物体に接触することで移動するか引き寄せる能力!)」
朱紅玉の考察通りであれば、物体を引き寄せて接近戦も可能であろう。
逆に言えば伸ばしてくる魔力さえ気を付ければよい。
つまりこうして離れて攻撃していれば、こちらの優位は揺るぎなし!だからシネシネシネ!
朱紅玉は徐々に浸食されている殺意に思考を支配されつつも自身の優位性を判断し、『氷龍追牙』の攻撃を続行した。
徐々にとらえつつある『氷龍追牙』を見て、リコは薄く笑った。
「ダメやなぁ……♡」
「なんやと……!?」
リコの声が小さくて聞き返そうとした瞬間、リコから強化された木の葉が2枚投げつけられていた。しかしこんなものは脅威でも何でもない。
「見苦しいんや化け狐!」
確かに速いが躱すことは簡単だ。無論避ける際もリコから視線は逸らさない。この攻撃は恐らく木の葉で視線を逸らした瞬間、こちらに接近しようとする手段なのであろう。
こんな小細工に頼るなんて……故に見苦しいと朱紅玉は言い放った。
しかしこの瞬間、『氷龍追牙』の制御は僅かに緩くなった。今まで攻撃一辺倒だったリソースを回避と言う行動にリソースを割り振ったためである。
そのおかげで先ほどより回避の隙を少なめにすることで体勢をほぼ崩さず躱すことに成功したリコ。その隣を『氷龍追牙』は通り過ぎた。
この瞬間、空白が生まれる。無論、ここから飛び込んでも『氷龍追牙』はリコに追いつく。それは朱紅玉は計算していた。
「ご招待や♡」
言葉と同時にリコは左足を引いた。
「なぁ!?」
ぐん、と顎から朱紅玉の体がリコへ引っ張られる。
そう、朱紅玉の顎が突如リコの左足と連動するように、リコへと引っ張られたのだ!
「にぃー!?」
顎から引き寄せられた朱紅玉の態勢は、地面から足が離れて空中に放り出されるような状態になった。
これではとてもじゃないがすぐ動ける体勢ではない。今の朱紅玉は、まるで釣り竿で引っ張られる魚そのものだ。魚が空中で動けるわけはない。
急速に引き寄せられた朱紅玉に対し、リコは躊躇なく強化された木の葉を首めがけて薙ぎ払った。
「ちぃ!」
朱紅玉は『氷龍追牙』を解除せざるをえなかった。能力を展開させたままでは防ぐことは不可能だったからだ。
朱紅玉は体を捻り、魔力を集中させた右手を振るう。木の葉を受け止めるのではなく、先ほどの防御同様、弾くつもりであった。
接触は一瞬。両方とも衝撃で弾かれた瞬間、空中にいるままの朱紅玉のがら空きの胴体目掛け、リコの右足が捉える。
「がっ!?」
肋骨が砕ける音とともに上空に蹴飛ばされた朱紅玉。
そして既に朱紅玉が吹き飛ばされた先へと移動したリコの肘鉄の振り下ろしが朱紅玉の無防備な背中へ直撃し、盛大に地面へと叩きつけられた。
受け身も取れなかった朱紅玉に、リコはトドメとばかりに背中を踏みつけた。
「がはっ……!」
血を吐き出す朱紅玉。すでに手足が痙攣しており、呼吸も血が混じり浅かった。誰の目にも決着は明らかだった。
辛うじて意識がある朱紅玉は困惑と疑問が自身の中で渦巻いていた。何故あそこで突然引っ張られたのか。
リコが能力で木に移動したとき、はっきりと魔力の糸らしきものは見えていた。だから接近戦を避けていたのに、この様だ。
魔力をつけられないよう警戒していたし、戦闘中不審な行動はなかったから不意打ちで魔力をつけられたことはなかったはず。
軽く笑っているリコはグルグルと考えている朱紅玉の顔の正面に立った。凍り付いた脇腹を気にも留めない軽い足取りで、ほとんどダメージはないようだった。
「何やら疑問に思っとるようやねぇ……まぁ確かにウチの能力を見抜いて接近戦にならないよう気を付けていたみたいやけどなぁ」
薄気味悪く笑みを浮かべるリコに対し、ダメージがひどい朱紅玉は口を開くことさえできなかった。それを承知でリコは話を続ける。
「別にウチは魔力を飛ばさなくとも、接触すればくっつけることができるんや」
分かるやろ?と言われ、朱紅玉の中で合点がいった。
「あ、顎の蹴り……!」
顎に対し、一度だけ左足の蹴りをもらってしまった。まさかあの時つけていたのか?
その疑問に対し、リコは笑みでもって答えた。
「ご名答♡魔力をくっつけた後は使うまで限りなく魔力を通さないで見えないよう薄くしておくんや。幸いあんさんの攻撃は派手やからなぁ、紛れやすかったわ」
「(抜かった……!)」
リコの言うことは、この結果に対し辻褄が合う。何故魔力を飛ばしてつけられてないのにも関わらず、リコの左足と朱紅玉の顎が繋がっていたのか……ようやく朱紅玉は理解できた。
朱紅玉はリコが伸ばしてくるであろう魔力にだけ警戒していた。だから接触したと同時にくっつけてくることを見落としていた。
もしくっつけられた後、目を凝らして見れば発見できたかもしれないが、『氷龍追牙』という自身の攻撃で魔力を大量に消費していた彼女はそこまで魔力を回せなかった。
たった2回。リコから受けた攻撃は、最後を除くとたった2回である。それでこの結果では、悔しくて腸が煮えくり返りそうであった。
「ち、ちくしょう……」
「ま、そこそこ楽しめましたし、トドメのお時間や」
これだけは使いたくなった。ダメージで震える手で首元のアイテムを服から引きちぎる。
魔力の扱いに疎いものでも、かなりの魔力が込められているのが見て分かる。
「けどなぁ……あんたを殺すためなら、アタシはなんだってやるんやー!」
朱紅玉の手に握りしめられたアイテムが光り輝く。リコは封印か自爆であろうと見切りをつけていた。
「(切り札言うてもこんなもんかいな)」
思わずため息をつきたくなる。先ほどまで良い戦いであったから余計落胆を強く感じてしまった。
───だからであろう。乱入者への反応が遅れたのは
「リコくぅぅーん!」
魔法が発動する瞬間、突如割り込んだバクの魔物……マスターがリコの目の前に入り込んでしまった。思わず体が硬直し、マスターを回避させることが出来なかった。
「……はぁ?」
思わず、リコが間の抜けた声を上げた。
何者かが近づいてくるのは分かっていたし、警戒も怠ってなかった。
そして近づいてきたのはマスターだった。マスターと分かれば、リコは警戒を解いて無視していた。
基本マスターはビビりで、まさかこの場に近づくことさえ出来るはずがないと思っていたからだ。
だからマスターのこの行動は読めなかった。能力で迎撃しようと思った瞬間マスターが飛び込んで、反応が遅れてしまった。
魔法の光が終わったと同時に地面に転がるバクのオブジェ。物言わぬ置物と化したマスターの姿に、リコは呆然としていた。
「な、なんであんなんが邪魔するんや……最後のチャンス、だったのに……」
気力を振り絞っての封印だったのだろう、朱紅玉は受け入れがたい結果を見届けて意識を手放した。
「……なんで、なんでなん?なんでウチをかばったんや……?」
心底理解できなかった。なんで圧倒的にリコの方が強いのに、雑魚魔族のマスターがリコを庇うのか、リコには到底理解できなかった。
理解できない感情は、ぶつける先を求めた。そしてそれは原因を作り出した目の前の魔法少女へ、矛先を向ける。
今まで以上の魔力と殺意がこの場を支配する。
「マスター体どこですかー!ってなんですかこれはー!?」
まともな神経では近づくことさえ困難な状況に対し、どこか間の抜けた声が響く。
リコはそれに対し一瞥もせず、強化した木の葉を朱紅玉の首へ振り下ろさんと、腕を振り上げた。
つづく
今回朱紅玉の戦い方は捏造です!まちカド本編で戦ってないですから、こちらで勝手に書いてしまいました。
コンセプトは中華系の服装なので、幽白とハンターから良い感じの人が居ないかなと探しました。最初は強化系の武術とかにしようかと思いましたが、下記の理由で氷使いにしました。
魔闘凍霊拳:幽白の青龍の技。飛影に16回切られた人。秒間100発って聖闘士だよね、と思った読者は多いはず。中華系っぽい服装なので、この人がメインな感じ。
『氷龍追牙』:ハンターハンターのゼノ=ゾルディックの『龍頭戯画』と見た目は氷の黒龍波。でも黒龍波みたいな威力は全然ない。
見た目龍の攻撃ってかっこいいよね、ということで採用。