「ス、ストーップです!!」
何やら魔法の光が出た広場に駆け付けた私の目の前で広がる光景は、倒れた女性を手にかけようとするリコさんの姿でした。
私の声に反応したリコさんは、振り下ろそうとした手を止めて、ゆっくり顔だけこちらへ向けてきました。
その目は明らかに殺意のみがあり、瞳孔も完全に開いてました。
───目が完全にイっちゃってます!?
「おーおー、完全にキレてんぜ」
冷静に言わんでくださいよ。浦飯さんのコメントに悪態をつきそうになりますが、口に出した瞬間にリコさんが襲ってきかねないのでリコさんから目を離せません。
それくらい今のリコさんからは危うい気配が出ているのです。触れたらすぐ襲い掛かってくるような、まるで飢えている猛獣を目の前にしている感覚です。
「……マスターをこうされて、今ウチはもうどうでもいい気分なんや」
そう言ってリコさんは一瞬だけ懐に入れている謎のオブジェに目線を移します。そのオブジェは、何だかバクにそっくりです。
そもそも私たちは席を外すと言って中々戻ってこないマスターを探しに来たのです。
浦飯さんが『リコでも探しに行ったんじゃね?』というので、皆で手分けして探していたのです。ミカンさんと桃は別の場所に行っており、私は我が家の杖を転がして探していたらここにたどり着きました。
リコさんの言う通りそのオブジェが本当にマスターなら、本当に封印されているということになります。
「なるほどな。その倒れている女が原因か」
今リコさんの足元で倒れている女性は魔力を感じるから魔法少女なのでしょう。こてんぱんにやられたのか、血が流れており身動き一つしません。……まだ死んでないですよね?
「息はまだあるみてーだな」
浦飯さんの一言でホッとしました。ギリギリ殺人現場になる前だったようです。
倒れている魔法少女がマスターを封印したのであれば、封印を解く為には光の一族である魔法少女の血が必要です。浦飯さんも桃の血で段階的に封印が解除されて喋れるようになりましたからね。
しかしマスターを助けるためには大量の血が必要となるでしょう。
今の魔法少女が倒れて出血している今、さらに大量の血が必要となってくると考えると死にかねないでしょう。
いくら魔法少女とはいえ、厳密にはちょっと違うかもしれませんが、ほぼ人間です。
もし人間と魔族の共存を掲げているこの街で魔族が人間を殺害したら、とても不味いということは私にも分かります。
2種類の種族が平和に暮らせる街というのに、その街に住む魔族が外から来た人間を殺害したとあったはとんでもないことです。
何故リコさんと魔法少女が戦うことになったのか、何故マスターが封印されているのかは分かりません。
理由はどうあれ、今リコさんは首を切り落として血をゲットしようとしてます。
魔族が魔法少女を殺害して魔族の封印を解いたという事実が広まれば、この街にとって不味いことはわかります。
桃や桜さん……いろんな人たちがこの街を平和に、皆のために守ろうとしているのに、リコさんの行為を見逃してはいけないです!
封印を解くだけならば殺さなくても血だけもらえればいいのだから、指でも切って血をもらえばいい話です。今ちょうど血が流れているわけですし、そこからとってもいいでしょう。
だからは私はリコさんに殺害しないよう説得しようとしました。
「待ってくださいリコさん!マスターの封印を解くだけなら、今流れている血を使えばいいと思います!」
魔族になる前の私だったら、血を取ってもダメです!と言っていたでしょう。でも私も多少なりとも戦ってきましたから、殺さないのであれば血を取るくらいいいと思っています。
ましてや今回の魔法少女は戦って敗れたのだから、血を奪われるリスクは承知の上でしょう。
「わざわざ殺す必要は───!?」
その瞬間、猛烈な殺意が私へ叩きつけられました。胃が重くなるような空気は、まるでヘドロの様に私の体に張り付いてくるようでした。
「───聞こえへんかった?」
リコさんはいつも微笑んでいるような方でした。それが今は全くの別人のように、暗く冷たい眼でこちらへ語り掛けます。
「この街のルールなんかどうでもええ。文句のあるやつは殺す」
私が何を言いたいのか、リコさんは完全に察していました。その上で、リコさんは濃密な殺意を持ったまま宣言します。
「───邪魔する奴は皆殺しや」
「ぐぬぅ……!」
誰が聞いても分かる、拒絶の一言。私はどう説得していいか、言葉に詰まりました。
一体どうすればいいのか、私は必死に考えました。リコさんと戦いたいわけではないですが、このまま放置するわけにもいかない。
何かいい案はないのだろうかと考える中、浦飯さんから唸るような声が出ました。
「……そういや、魔力がなくなった魔法少女ってコアだけになるんだよな?」
「この状況で聞く話ですか!?確かそのはずです!」
この殺気がバシバシ出ている状況で呑気に聞きますねこの人は!
魔力が完全になくなった魔法少女はコアだけになると聞いてます。桜さんのコアは今私の体の中にあるので、それをどうにかするのが桜さんを救い出す道でもあります。
そんな焦っている私の様子を気にもせず、浦飯さんは何度か目をパチパチしました。
「血が必要なだけだったら、わざわざ殺す必要ねーだろ。今ちょうど血が出てるんだしよー、そこにマスターを置けばいい話じゃねーか」
「……聞こえへんかった?ウチはこれにトドメ刺さな気が済まへんのや」
だろう?とこの状況に似合わない浦飯さんの軽い提案に、リコさんの殺気が増々強くなりました。浦飯さん!もうちょっとシリアスにやってください!
「やめとけって。オメーもこの先マスターとこの街で暮らして生きてーんなら、この街のルールは守れや。マスターはそーゆー殺しとか嫌いなタイプだろ」
まぁオメーの性根っつーか正体はバレてねぇみてーだが……と浦飯さんは続けました。やっぱりリコさんてバイオレンスな過去持ちっぽいですよね。トドメ刺そうとするとき全然躊躇ないし。
「……で?」
「まだ死んでねーマスター救うのに必要な奴を殺そうするのは間抜けだって言ってんだよ。察しろよバカ」
「ちょっ!?」
心底馬鹿にしたような物言いに、周りの温度が下がったような気がするほどの殺気がリコさんから叩きつけられました。何煽ってるんですか浦飯さん!?
「……あ?」
ほらー!完全にブチ切れているじゃないですかー!どう責任取る気ですか!
しかし責任を取るどころか、浦飯さんは増々馬鹿にしたような口調でした。
「大方マスターがこんなになったのも、テメーがさっさとそいつにトドメ刺さねーからだろーが」
「え……」
まるでトドメ刺しても問題ないと言わんばかりの浦飯さんの言葉に、私は声を漏らしてしまいました。
いつも友達の様にバカやっている浦飯さんから出たとは思えないような、冷酷な一言。
私だって今まで魔法少女と戦った経験はありますが、別に殺そうとか思ったことはありませんでした。
魔法少女……人間は殺してはいけないという前提の考えだった私と、同じ考えだと思っていた浦飯さんが発した言葉に衝撃を受けました。
そんな私の様子は露知らず、浦飯さんは続けます。
「別にオメーは人間を食うわけでもねーしよ。この街じゃやめとけや」
───まるでこの街以外なら関係ない
そう言わんばかりの浦飯さんの言葉。もしリコさんが人喰いかつこの街の外の犯行ならば見逃しかねない浦飯さんの言動に、私の中で戸惑いが生まれ始めてました。
「マスターをこんな姿にしたこのカスを、生かしておく意味がウチにはないなぁ」
そんな浦飯さんの言葉にもノータイムで反論したリコさんに対し、浦飯さんは一段と声を低くしました。
そしてボソリと私に言いました。
「スイッチを押せ」……そう言いました。
「ならテメーが死ね」
今までにない浦飯さんの言葉に、私の指は少しだけ震えてました。でもリコさんと戦うことに戸惑いを感じている私には、浦飯さんに託すほかありませんでした。
───それが自分への保身であることを、心のどこかで理解しながら。
☆☆☆
目覚めて視界に入ったのは、桃の家の天井でした。
「あ、目が覚めたね」
桃が私をのぞき込んで、そう呟きました。あれから一体どうなったのでしょうか?
ちらりと辺りを見渡すと、桃とミカンさん。
その横に元に戻っているマスターと、ひどい傷で気絶しているリコさん。そして魔力をほとんど感じられない魔法少女がいました。
「……あれからどうなったんです?」
「なーに、オレが上手いこと説得してやったぜ!」
もし元の体であればドヤ顔しているであろう浦飯さんの言葉。もちろん説得ではなく、物理的に大人しくさせただけというのは誰の目にも明らかでした。
普段なら突っ込んでいるところですが、リコさんと浦飯さんの言動を思い返して、言葉が上手く出ませんでした。
「……そ、そうですか……リコさんは大丈夫ですか?」
「まぁ死んでねーよ。リコの奴マスターをやられて頭に血が上ってたからよー、戦って発散させてやったぜ!」
ナハハ、と笑い声が部屋に響きます。私以外の全員が浦飯さんの言葉にため息をついてました。
桃ももう少し穏便にやってほしいと言いますが、浦飯さんは笑いながら聞き流してました。
一応マスターが元の姿に戻ったので、今回の騒動は大体終わりのはずです。
「ところで、この魔法少女の方はどうすればいいんですか?」
「それがよー、リコが気絶する前に言ってたんだがな?その女は何か誰かに操られているっぽいんだとよ」
「じゃあ誰かが操っていたからリコさんを襲ったっていうことですか?」
「まぁでもリコなら恨み買ってそうだし」
桃の一言に対し反論する人は皆無で、マスター含め全員頷いてました。リコさんて普段も人をからかってますし、やっぱり気に入らない人はいるかもです。
もし本当に操られているのであれば、その洗脳を解けばリコさんを再度襲うという可能性は低くなるでしょう。そうすればこの街で再度戦闘ということを回避できます。
問題はその洗脳をどう解くかということなのですが……。
「何で皆さん、私にそんな熱い視線を?」
そうこの話をし始めてから、皆の目が私に集中しているのです。
「シャミ子が頼りだから。夢の中へ行って」
「……分かりましたー……」
妙に低い私のテンションに、皆さんは首を傾げてました。
起きたばかりですが、またすぐに寝た私は前にやったように魔法少女の夢の中へ入っていきました。
夢の中に入ると、金魚のナビゲーターが関西弁で何か言ってました。でも構っている暇はないのでパンチの連発で吹っ飛ばしておきました。ナビゲーターって全然実力はないですね。
邪魔もなくなったので少し歩くと、景色が変わりました。恐らく彼女の夢の光景でしょう。
「朱紅玉さん……という方のようですね?彼女の小さい頃の夢みたいです」
魔法少女の名前は朱紅玉さんといい、実家は料理店のようです。そこから彼女の夢は始まりました。どうやら過去の追体験のようです。
朱紅玉さんは料理店よりファッションデザイナーになりたかったようです。小さかった彼女にとって、苦手な料理を職業にしようとは思えなかったのです。
ある日リコさんがお店で働く様になってから経営が良くなり、リコさんばっかりお爺さんが目をかけているのが、まるで自分の居場所を横取りされたようで嫌だったようです。
また彼女のお爺さんからもらった鍋をリコさんが許可なく使っていたのも気に入らない原因だったようです。
そんなモヤモヤした感情を抱いていた学校の帰り道のことでした。朱紅玉さんの目の前に1人の女性が近寄ります。
しかし今まで鮮明だった記憶が突如ノイズが入り始めました。女性の顔は良く見えず、声も途切れ途切れです。どうにかボンヤリと姿が見えるのが救いでしょう。
容姿は黒いドレスっぽい服に帽子、三つ編みの女性でした。彼女の姿を私は一目見て分かりました。
───こいつはなんかやばい
ボンヤリと見える眼は、嫌な眼をしてました。敵が罠にかかるまでジッと待ってから仕留める様な、ネットリとした視線。
実力もまるで読めず、圧倒的なパワーとかそういった感じではありません。
浦飯さんや桃が剛速球投手とするなら、目の前の女性は魔球を使いそうなタイプでした。
『どうして───に悲しそ───だい?』
ノイズがかかっているせいか、女性の声は上手く聞き取れません。記憶の中の朱紅玉さんはそれに対して自分の胸の内を明かしました。
初対面の女性にも関わらず、朱紅玉は全てを打ち明けました。目の前の女性から、姿はぼやけていても朱紅玉に共感し、本当に悲しそうな感情が伝わってきます。
『なる───族の仕業だね。きっとみんなを洗脳───なら良い方───げよう』
『───は、この世からかわいそうを消し───』
そこで夢は途切れました。そして次に移った光景は、傷だらけで倒れている朱紅玉さんでした。
朱紅玉さんは魔法で客を、お爺さんを操っているのだろうとリコさんに詰め寄り戦いましたが返り討ちにあいました。
『もう少し強うなったら遊んであげますわ』
そう言いつつも、リコさんはどこかつまらなそうにお店を後にしました。
リコさんがいなくなったお店の経営は傾き、お爺さんはお店の維持に必死になりました。そしてそれは増々朱紅玉とお爺さんの距離を開かせることになったのです。
「あいつが、あいつがいけないんや……!あの人の言う通り、あいつが全部……!」
朱紅玉さんは強く憎むようになりました。リコさんがいたころはまだ笑っている家族であったお爺さんとの関係も冷たいまま、それに振り返ることもせず朱紅玉さんはリコさんを探しに行きました。
今の自分は弱い。なら鍛えるしかない。
そのために鍛えてくれそうな師匠が必要だ。この魔法少女の力をくれるきっかけになった人物を探そうとして───
「───顔が思い出せんなぁ……?」
そして現在に至るということのようです。
正直に言えば、リコさんは鍋を無断で使った以外は特に悪いことはしてません。むしろお店を繁盛させていたし、環境を良くしていたといえるでしょう。
それに気に入らない、面白くないという感情だったはずの朱紅玉さんは、あの女性と話してから憎しみに代わってました。そしてそのきっかけとなった人物のことは、何故かほぼ忘れてしまっていました。
覚えているのはきっかけをくれた女性への感謝とリコさんへの憎しみのみ。
私はリコさんが当時悪くなかったことを伝えれば、リコさんへの憎しみを失くせると信じて話しかけます。
「……お爺さんは今どうされているんです?」
「……連絡をもうずっと取ってないから知らへん」
「お爺さんは、リコさんへ復讐するよう言ってましたか?」
「操られているんやから言う訳ないやろ!」
激昂する朱紅玉さん。私はお爺さんが言っていた一言を伝えました。
「繁盛していれば、朱紅玉さんを洋服の学校に入れてあげれる……お爺さんはそう言ってませんでしたか?」
「───!?」
「実はリコさんの力は……」
私は大人しくなった朱紅玉さんへリコさんの能力を説明しました。バレたら滅茶滅茶怒られそうですが、これ以上血を見ずに解決するにはこれしかないでしょう。
話を聞き終わった朱紅玉さんはポツリと呟きました。
「………あいつが一言謝罪して鍋を返してくれるんなら……許してやるわ」
そうして朱紅玉さんの夢から脱出し目を覚ますと、皆待ち構えてました。
事情を説明すると、リコさんは殺気を滲ませてましたが、痛む体を動かして鍋を持ってきました。
「マスターも戻ったし、鍋返すわ」
「……ん」
謝罪こそなかったものの、鍋はすぐ返却されました。予想外にスムーズにリコさんが応じたことに戸惑いを隠せません。
すると桃が耳打ちをしてくれました。
「マスターが随分リコを説得してくれたんだ。おかげでデートしまくることになったらしいけど」
「……それでいいんでしょうか……?」
どうやらマスターは文字通り体を張って説得してくれたようで、それでもリコさんは渋々だったそうです。愛が重いというやつでしょうか?
「ま、上手く洗脳したってことで、いいんじゃねーの?」
話を横で聞いていた浦飯さんの何気ない一言。その一言は私の胸に突き刺さりました。
「───洗脳……かぁ」
☆☆☆
そして一件落着しました。
結果としては誰も死なない、封印されない。ベストな終わり方でしょう。それは皆感じてましたし、皆安堵の笑顔を浮かべてました。朱紅玉もお爺さんの元へ帰りました。
───でも私の心だけは何故か曇ったままでした。
浦飯さんの最後の一言がとても引っかかったのです。いや、最後だけじゃく、今回は全体的にモヤモヤしてました。
浦飯さんが人喰いや殺しを許容しているようなセリフ。そして私は朱紅玉さんを半ば洗脳した形で解決したこと。
この街を守るという名目で戦ってきましたが、このやり方や考え方でいいのか迷ってきました。およそ守る側の考え方ではなく、悪い側の考え方の気がするからです。
川沿いで一人で私はぼーっと座ってました。ちょっと一人で考えてみたかったからです。でも考えて出るものは悪い考えばかりでした。
「はぁ……」
「何ため息ついてるの?」
「桃……」
上から覗き込むように現れたのは桃でした。気配を消して近づいていたので、まるで接近が分かりませんでした。少し桃がしてやったりの表情を浮かべます。
いつもなら噛みつくようなセリフを桃に吐くところですが、その気力がありませんでした。その様子を見た桃は眉を顰めます。
「……浦飯さんと、あの魔法少女で何かあった?浦飯さんも少し心配してたよ?」
「……そうなんですか?」
「うん。『様子が変だから聞き出してきてくれや。まぁ生理かもしれねーけど!』とか言ってたけど」
「……最悪です」
「……それは同意する」
心配してくれてるのか馬鹿にしているのか分からない浦飯さんの気の使いようにため息が出てしまいます。あの人は全然変わってないですね。
「実はですね……少し怖いんですよ、自分のことが」
「……?」
私はリコさんに対し言った浦飯さんのセリフをそのまま伝えました。そしてその時思ったことも。
そして今回解決はしましたが、私が朱紅玉さんを洗脳した結果なのだろうと。
───それでも私は浦飯さんのあの言葉を聞いてもなお、あの人を拒絶したいとか思っていない。思えなかったのです。
師匠であり、今まで助けてくれた人。あの人が居なければ早々に私は死んでいたでしょうし、この街もどうなっていたか分かりません。
普段の緩くて友達の様な関係も、戦うときの厳しさも、色んな面でのあの人を知っています。
本当なら人喰いを許容した時点で避けるべきなのかもしれません。でも私はそれ以上に浦飯さんを信用している気持ちが上回っていたのです。
だからあの時この気持ちが本当に正しいのかどうか、私が間違っているのではないかと動揺してしまったのです。
そして洗脳した私は罰せられる存在ではないのかと。グルグル考えてしまったのです。
胸の内を話してしばらく沈黙が続きました。横目で見ると、桃は少し考えているようでした。
そしてポツリと呟きました。
「……確かに浦飯さんが人喰いを許容しているかもしれないというのは、少し驚いた」
「……やっぱりそう───」
「でもね。魔法少女だって色んな奴がいる。それはシャミ子も知っているでしょう?」
言われて、過去を思い出します。正義のためなら人殺しも厭わない魔法少女もいる。桃たちも魔法少女同士で随分争っていたようだし。
頷くと桃は続けました。
「確かに思うところはあるよ、人喰いなんて認めたくないのは普通だよ。もし浦飯さんのことを良く知らないで聞いたら、間違いなく危険分子と認定してる」
桃は浦飯さんの考えを危険だと認めていた。
「けどそれ以上にあの人は信用できる。私たちは浦飯さんを良く知っている。───だから私はあの人は怖くない」
衝撃を受けました。モヤモヤした部分が分かったのです。
もし浦飯さんの考えを私が本気で拒絶しているのであれば『怖い』と思うはずなのです。実力はあちらが完全に上だし、この街で一番です。
でも私はあの人を怖いとは思ってません。何で言ったのだろうという『戸惑い』の方が強かったのです。
違和感の正体はこれだったのです。
「……まぁでも戸惑う気持ちもわかるよ。でも今までの行動を見たら、信用できる人っていうのはシャミ子だってわかっているでしょ?だから難しく考えすぎなくていいと思うよ」
「………はい」
「それに洗脳とか言うけど、ああしなきゃ上手く収まらなかったし、考えすぎだよ。力なんて使い方だよ。今回みたいに皆を守って丸く収めるためだったら全然問題ないと思う」
そうなんでしょうか。私は難しく考えすぎていたのでしょうか?
「浦飯さんも前に言ってたでしょ?難しくゴチャゴチャ考えるくらいだったら聞いたり実行したほうが早いって。それにもしシャミ子があの能力を悪用するようなら───」
桃が咄嗟に繰り出した左ストレートを私は右手で受け止めます。考える前に体が反応しました。
それを見て桃は軽く笑います。
「───私が殴り倒すよ」
「……怖いですね」
でも安心できる。誰かが躓いても、誰かが助けてくれる。そんなチームに私たちはなっていると思います。
だから私は桃にこう伝えました。
「でも、もしそうなったら───よろしくお願いします」
「───任せて」
桃は私の言葉に、不敵に笑って答えてくれました。
あとがき
幽白の初代霊界探偵、佐藤黒呼は幽助のことを
「人間を食べた妖怪を目の前にして食事と割り切れてしまうキミはもう人間界の住人じゃない気がする」
「今はキミが怖い」
「あたしは幻海師範ほど信用できない」
と拒絶してます。幽助も初期の頃と覚醒後は考えが変わっていて読者として驚いた部分です。今じゃ珍しくないかもですが、当時じゃジャンプ主人公の考え方じゃねーなと思います。
シャミ子は原作では桃たちより一般人側の感性なので洗脳したり暴力的なことに対して恐れがありましたが、この話では幽助に関わっているせいで拒否感が少ないことになってます。でも戸惑いはある感じ。
何が言いたいかというと、心の葛藤って主人公には欲しい場面だと考えてます。