「……さて、小倉をとりあえず探すか」
「……そうですね」
どこかしんみりした空気の中、グシオンが指示した屋根を探します。
屋根を一部どけてみると、縄でグルグル巻きにされ口もギャグボールで封じられている小倉さんを発見しました。
「小倉さん、今助けますからね!」
縄をほどくと小倉さんは思いっきり深呼吸をしました。てかあんなところに閉じ込められたら酸欠になりそうですよね。
「いやー助かったよ2人とも。もう一人の私相手は眼鏡なしだと勝ち目なかったね!」
「ず、随分余裕ですね小倉さん……」
「全く手間かけさせやがって」
小倉さんから話を聞くと、何でもこの空間に来てから一人で探索していて、あり得ないものが多くあることに気づいたそうです。
でもバッタリグシオンに会ってしまい、ろくに抵抗できず囚われてしまったとか。
多分グシオンの方はバッタリではなく待ち構えていたのでしょう。
「でもこの分だともう一人の私はいなくなったみたいだね。それならこの空間の掃除が終われば脱出できるよ?」
「本当ですか!ようし、やるぞー!」
ちょっとグシオンがいなくなって寂しい気持ちを大きな声で誤魔化します。すると浦飯さんが口を挟んできました。
「つーかイチイチ1個ずつ探して消してくのはメンド―だからよ、オレと代われや。一瞬で終わらせてやんぜ」
「どーしたんです?いつもならやらないようなことなのに」
「ま、たまには体動かしときてーのよ。ホレホレ、早く代われ」
「んじゃお願いしまーす!」
「シャミ子ちゃんてばあっさりだね……」
グシオンの頼みですから最後までやった方がいいかなとも思いましたが、浦飯さんがやっても結果は同じですし、早く終わればそっちの方がいいでしょう。あとは頼みましたよ浦飯さん。
☆☆☆
「よっしゃ、まとめて吹き飛ばすか」
さっそくシャミ子の体になった幽助は右腕をくるくる回しながら全身の妖力を高める。
行動を起こす前に、嫌な予感がした小倉は一言伝えた。
「威力を上げ過ぎて、この浮かんでいる地面まで吹き飛ばさないようにしてほしんだけど……」
「そこまでやんねーよ。要は目に見える地面以外のごちゃごちゃしてるやつを吹っ飛ばせばいーってことだろうが」
───まかせとけって
そう言った幽助は地面の端まで後退し、右拳を腰だめに構える。小倉は幽助のすぐ後ろにいるため、端っこギリギリで危ない位置だ。
ハラハラしている小倉を余所に、幽助は右拳に妖力を集中させる。
「ショットガーン!」
右拳から繰り出されるのは視界を埋め尽くすような数の拳大の赤い妖気の弾丸。
ショットガンの威力は霊丸に劣るが、直線上にしか行かない霊丸と異なり、扇状に展開するため範囲は霊丸を大きく上回る。
瞬く間に空間にある巨大な木やばんだ荘、元の世界では見慣れない物体など全てを粉々に破壊し尽くした。
「よし、綺麗さっぱりだな!いやーすっきりした!」
「な、何にも無くなっちゃったよぉ……」
偽物だけ破壊すればいいのだが、幽助と小倉の目に前にあったものはほぼ消滅してしまった。僅かなゴミが悲しく転がっている程度である。
目の前の光景は先ほどグシオンがシャミ子や幽助たちに見せた光景と瓜二つであった。もしや今のこの光景のことを見せたのでは?と思うレベルである。
なおこの光景を作り出した当の本人はやたらスッキリした顔をしていた。
「これで喧嘩ができれば最高なんだけどよー……」
しかしスッキリしたのも束の間、なんと地面が揺れて崩れ出したのだ。
これには力加減をミスしたかと思い幽助は慌てた。
「やべ!やり過ぎたか!?」
「あー……そうそう。掃除が終わったらこの空間は爆発して消滅するから、早く逃げようね?」
「何ィ!?」
少し遠慮がちに言った小倉からとんでもない一言に、幽助は驚き小倉の胸倉を掴んで前後に揺すった。
「んだとー!?そういうことは先に言えや!!しかも何で爆発なんかすんだコラァ!」
「あわわわわ!こ、この世界は情報のゴミで過剰に膨らんでいたの。いわば超新星爆発……情報がなくなるとこの空間を支える圧力がなくなって、この空間が急激に縮まり……ボン!」
「良く分かんねーぞ!そんで、脱出方法は!?」
「元の世界とこの世界の距離はゴミを排除したことでなくなったから、あとは結界に穴を開けて逃げればいいよ」
「どうやってだよ?」
小倉に空間を開ける能力はないし、幽助も全くない。となれば別の方法が必要である。
やっぱりこういう時に便利なのは次元刀である。ほぼどこでもドアだよなーと幽助は桑原の能力の便利さを改めて実感していた。
「シャミ子ちゃんの携帯で外の誰かに連絡すれば、後は私が計算しているから大丈夫」
「お、そう言えば携帯があったな……って何ィ?」
幽助がシャミ子の携帯を取り出すと、グシオンのデータをダウンロードしていたせいか、やたらと電池を消耗していた。
そしてまだ終わってないダウンロードが終了し、電話をかけようと操作した瞬間!
「おい!電池切れやがったぞ。どーすんだよ小倉!」
無情にも電池が切れたのだ。
実を言うとシャミ子は相当ゲームをやりまくっていたせいで電池の消耗が激しく、しかも碌に充電もせずこの空間に来るという、痛恨のミスをやらかしていたのだ。ゲームのアプリは電池を喰うのだ。
流石に電池の回復方法はこの空間にはないので、幽助は小倉に問いかけた。
「計算と違ぁう……」
小倉は今までにないほど絶望した表情で頭を抱えた。まさかシャミ子のゲームのやりすぎが原因とは考え着かなかったようである。
「だって当初の予定では千代田さんも来ると思ってたし……詰んだかも」
「オイオイ、シャレになんねーぞマジで」
「だだだ大丈夫。私の計算だとまだ160秒くらいは逃げる時間があるし……」
「全然ダメじゃねーかこの野郎」
余りのポンコツ気味な対応に、本当に小倉がグシオンの能力を受け継げるのか幽助は怪しみ始めた。普段は頭が切れるだけに、とても残念に映る。
「ッ!?何だ?」
だが次の瞬間、上の方の空間が破壊される音が響き、ほぼ同時に地面に魔力の矢が突き刺さっていた。
これはミカンの矢である。つまり外の空間、外部からの攻撃である。
矢の先端には魔法のヒモが括りつけられており、その先に穴が広がっている。その先にチラチラと動く人影が見えた。
「聞こえますかシャミ子ー!小倉ー!浦飯さーん!」
凄まじい声量。遠くに見える穴から聞こえる声だけで空間がビリビリと揺れるという現象が起きていた。
ただバカでかい声なので幽助は少しうるせぇな……くらいで問題ないが、小倉の身体能力は一般人であり耳を手で抑えていても桃の凄まじい声量でフラフラしていた。
トランシーバーも携帯も繋がらない状況であれば、やはり最後に頼れるのは鍛えた体(パワー!)である。それ故の大声である。
「聞こえてんぞ桃!助かったぜ!」
「空間を繋げるのに時間がかかってすみませんでした!ミカンの矢の先が出口です!それを伝って脱出してください!」
「おう!あれか!」
出口は確かにある。しかし距離は500メートル以上で、高さもかなりある。正直普通の人間ではまず脱出不可能であった。
「高過ぎぃ!!………計算と全然違ぁう……」
「あんぐれーなら全然問題ねーな。よし、大人しくしてろよ小倉」
絶望的な高さにもう駄目だと言わんばかりに落ち込む小倉に対し、幽助は何でもないかのように呟いた。
「え、ちょ」
返事も聞かず、幽助は米俵を担ぐように小倉を肩に乗せた。全身を妖力で強化している幽助を見て、小倉はまさかと顔を青ざめる。
「まさか飛ぶんじゃ───」
「舌噛むから黙ってろ!行くぜ!」
「ふえぇぇー!?」
幽助は小倉を抱えたまま飛んだ。いわゆる大ジャンプである。
せっかく魔法のヒモで伝わって出口に行けるよう、ミカンが魔力を使って維持をしているにも関わらず、全く使用せず自力のジャンプである。ひでぇ話だ。
しかもその移動速度は幽助は問題ないが、全く妖気を使えない今の小倉には過酷そのもので、凄まじいGを感じていた。下手をすると口から内臓が飛び出しそうなレベルである。
しかしそれは一瞬の出来事であり、幽助と小倉はほぼ一瞬で出口を通り抜けていた。
ひと昔前ならともかく、S級になってからこの程度の移動なら朝飯前である。特に苦にすることもなく脱出に成功した。
「うし、脱出成功だな」
着地した先は元のばんだ荘であり、そこかしこに人の気配を感じることが出来る。どうやら元の空間であることは間違いないようだ。
そんな幽助と小倉に、桃とミカン、ウガルルと良子が駆け寄った。
「浦飯さん、小倉!」
「2人とも、無事だったのね!」
「ウガガ」
「浦飯さん、お姉、小倉さん……皆無事でよかった」
「へへ、当たり前だぜ」
「し、死ぬかと思った……オエェ」
鼻を親指で擦った幽助の肩で口元を抑える小倉。むしろ脱出するときが一番ダメージを受けていたようだ。
仕方ねーなー、と幽助はゆっくり小倉を抱え、桃の部屋に移動した。
小倉を休ませる必要があったし、あの空間のことを話しておく必要があるからだ。
うーん、と小倉が横になっている間、幽助は桃・ミカン・良子・ウガルルに現状を報告した。
もちろん情報は包み隠さずに、である。
もしシャミ子であればグシオンが見せた景色に対し、桃に伝えるかどうかは悩むところであっただろう。もし何もなくなった景色を見せれば小倉の生存率が低下するというのだから。
しかし幽助はそんなことは無視して話した。考えるのがメンドクセェ、と言うのが一番の理由だ。
しかしあの程度の内容を話して落ち込んだとしても大した問題ではないと考えているからだ。
「(別に起こってもねぇことで落ち込んでたらキリがねーし)」
流石に幽助も目の前で幻海が死んだときは怒りと悲しみが溢れたが、今回は実際には何も起こってないのだ。
むしろ桃はそういった滅びの未来を回避させたのだ、落ち込むどころか自慢できることである。それをグシオンはさも不幸な未来に繋がるという体で話していた。
グシオンは未来が予測できる。だから自分からは桃に話す気はないと。
「(未来が見えるのに自分が殺られてちゃ世話ねーっての)」
幽助はグシオンの様な回りくどかったり胡散臭い理屈屋タイプは好きではない……というより嫌いなタイプだ。頭が良いからか自分の中で答えを決めている感じで話すやり方が嫌いだった。
しかも今回はシャミ子に全部押し付けて消滅したのだ。桃に話すかどうかも含めて。
お人好しのシャミ子の行動は、恐らくグシオンの思う通りに動くだろう。
ぶっちゃけた話、幽助はグシオンの行動や言動には大分イライラしていた。もし小倉の元になった魔族でなければぶっ飛ばしていたところだ。
だからシャミ子が悩まないように幽助は話した。元々シャミ子も幽助も深く考えて行動するタイプではない。余計な苦労はさせたくないし、見たくなかったからだ。
「───ってことだ」
一通り話終えた幽助に対し、桃は何か懸命に思い出しているようであった。どうやら落ち込んでいるという訳ではないようだ。
「何かいきなり急展開ね……置いてけぼり喰った感じだわ」
「ウガウガ」
「どーにもこの街の連中は人に何も話してねーみてーだからな。最初から伝えてりゃーこんなメンドクセェことになんねぇのによ」
ミカンが何かなぁ、という反応に対し幽助はそう返した。桜もシャミ子の父親もそうだが、実際苦労したシャミ子や桃に対しほぼ何も話してないまま姿を変えている状態だ。
確かに当時の彼女たちは幼いゆえに話せないのは分かるが、ある程度の年齢になったら伝えることができるようにしてほしいものだ。
マジで探偵みたいなことやってんな、と幽助は思った。
しばらくして考え込んでいた桃が口を重く開いた。
「……昔、この街でヤバい魔法少女と戦った『気がする』。この街の魔族が消えた理由……だった『気がする』」
「何よその曖昧な言い方。まるであんまり覚えてないみたいじゃない」
「……オメーもグシオンみてーにその相手が思い出せねぇってことか」
「……はい」
桃は幽助の言葉に頷いた。これでハッキリしたのは、恐らく桃とグシオンが相手をしたのは同じ能力者───魔法少女だろう。
「待って!それだと記憶の操作ができる相手ってことよね。それじゃ手掛かりないじゃない!」
ミカンの言う通り記憶を操作できるのであれば、痕跡を追うことなどできるはずもない。つまり話はここで終わりと言うことになってしまうのだ。
だがそこで桃は首を横に振った。
「いや、私の場合は撃退したおかげか、何となく思い出せる。でも口で詳しく言えるほどじゃなくて、ひどく曖昧なんだ」
「つまり一昨日の食べたメニューみてーなもんか」
「何か急にスケールが小さくなったわ浦飯さん……」
「でも良でも分かりやすいです」
しょーもない例えではあるが、記憶に引っかかりはするが口に出せるほど覚えてない、と言う意味ではこの場にいる小学生の良子でも分かる例えだった。
「んで、どうすんだよ?……あ、シャミ子の能力か」
「はい。シャミ子の能力で私の夢……というより記憶に入ってもらいます。そして皆に伝える感じで行きます」
「よし、善は急げだ。さっさとやるぜ」
「お姉、せっかく帰ってきたのに今日は大忙しだね……」
「スパルタなんてレベルじゃないわ。まぁ確かに早めに共有したほうが良いんだけどね」
(本人の許可なく)シャミ子の能力を使って桃の過去の記憶に乗り込むことが決定した。
桃の記憶に潜む、能力者とは一体誰なのか。
頑張れシャミ子!記憶を暴いて敵を見つけるんだ!
つづく
本来のまちカド本編では空間から帰ってからスイーツバイキングを経て記憶に行きますが、幽助がそんな悠長に待つとは思えないので速攻で記憶送りです。
シャミ子に厳しい一日。でも幽白も御手洗君を持ち帰った次の日の朝かお昼に仙水の攻撃を受けて、仙水との決戦が終わったのがさらに次の日の朝ですから、ほぼ1日で決着ですからね。
シャミ子のこの日程ならよゆーよゆー。基本ジャンプとかバトル漫画は結構連載は長いけど作中の経過時間は異常に短い気がする。特に決戦時