見慣れたようで見慣れない景色。小さな桃色の可愛らしい女の子。危機管理フォームの私。そして道着姿の浦飯さん。さーて何でしょうか。
答えは───
「そう、桃の記憶の中です!───って、あんな変な空間に行った後すぐにやる必要があるんですかー!?」
私は思いっきり叫びました。グシオンのヘンテコな空間から脱出して今日は一段落!
普通はそう考えるはずですが、私の意識が戻ったらすぐ桃の記憶の中に行けと言われ、こんな状況になりました。スケジュール詰めすぎです!
今回の目的は桃の記憶に入り込んで、過去の記憶から桃の記憶を奪いかけたヤバい敵の姿と情報を確認することです。
事の重要性は分かりますが、グシオンのことがあったのに今日やらなくてもいいじゃないか!という心の叫びを空に向かって叫ぶと、横にいる浦飯さんから思いっきりため息が聞こえました。
「うるっせーなー。あの流れだったらさっさと敵の面を拝んだほうが早いだろーが。別にオメーは今日はまだ妖気使ってねーんだから大丈夫だろ」
「耳の穴をほじりながら言わんでくださいよ浦飯さん!」
面倒臭そうに浦飯さんが耳をほじりながら説明してきました。
確かにあのグシオンの空間の中では一発ぶん殴っただけで全然妖気は使ってないのでコンディションはバッチリです。
でも急いで桃の過去の記憶に来るなんて私の疲れとかは考えてないんですか!?
「連戦なんて普通だぜ。しかも大して疲れてねーんだから良い方だって。ナハハ」
私の抗議も虚しく、軽く返されて終わってしまいました。
そりゃ百戦錬磨の人から見れば大したことないかもしれませんが、今年の春からようやく戦い始めた私に対しての配慮なんてものは全くないようです。
「それに大体なんで浦飯さんがいるんですか?私の能力じゃ私以外は記憶に入れないと思ってましたよ」
先ほどから平然と元の姿でストレッチをしている浦飯さん。本来なら邪神像に封印されていて自力での脱出はできてないはずです。にも関わらず今回は桃の記憶に一緒についてきてました。
本人に聞いてみると、浦飯さんも肩を竦めました。
「さーな。まー詳しいことは分かんねぇが、オメーがパワーアップしたからじゃねーか?」
「おおー、そう言われればその可能性はありますね」
確かにこの能力を使った時よりずっと強くなっているので、高まった妖力が能力を強化して、浦飯さんを一緒に呼び寄せていても不思議ではありません。
夢に入るという自分の能力ではありますが、未だ完璧に把握していないのが欠点です。と言うか普段生活してて人の夢に入るなんてあり得ませんし。
「やっぱ久々に自分の体で動けんのは気分いいぜ~!」
浦飯さんが腕をクルクル回しながらニコニコしています。確かにあんな邪神像の中にずっといたら頭可笑しくなりそうですからね。元の体で出た分ストレスの発散になるでしょうし、心強い味方です。
そう思っていると近くにいた桃色の可愛らしい女の子がこちらへ振り返りました
「………ああ、やっぱり誰かと思ったらその人が浦飯さんなんだ。結構予想通りの姿ですね」
「なぬ!その喋り方は桃!記憶の中なのに意識があるんですか!?」
「うん。どうやら成長した私の意識もあるみたい」
過去の記憶というので、こちらからは何も介入できず延々と過去の映像を見るだけだと思っていたら反応があってビックリ!しかもいつもと違う桃の姿も相まって新鮮な感じです。
桃は初めて浦飯さんの姿を見るはずですが、あまり驚いてないようでした。
「桃は初めて浦飯さんの姿を見るのに何故驚いてないんですか?」
「前に浦飯さんの容姿を聞いたとき、元人間の魔族で普通の人と見た目は一緒って言ってたから。それに言動からしてヤンキーっぽいからリーゼントしてそうかなと」
やだ。バッチリ当たってます。正確にはリーゼントっぽいオールバックだ!と本人は豪語してますが。
そんな浦飯さんは小さい桃をジロジロと上から下まで観察してます。
ヤンキーが見た目小学生をじろじろ見ているという絵面がひどい!犯罪臭しかしません!
「ほー、ふーん?このチミっこくて素直そーな奴があの桃だってーのか?信じらんねーなー、えぇ?」
「……それ、普段の私は捻くれてるってことですか?」
「小さい頃の桃は小さくてかわいいですし、持ち帰れますね!」
「………シャミ子、頭撫でるのやめてくれない?」
浦飯さんがジロジロと見る横で、私は丁寧に何度も撫でると桃が怖い感じの声を出してきました。でもかわいいから全然迫力ないですね!
「全く。浦飯さんは一応肉体と言う意味では初対面なんですから、もう少し遠慮をですね……」
「いいじゃねーか!細かいことは気にすんなって!」
「……はぁ。いつもと同じである意味安心しましたけどね。まぁそろそろ先へ行きましょうか。着いてきてください」
ため息をついた桃は、しょうがないな、と言わんばかりの表情で歩き始めました。
ちょうど桜が舞う季節なのか、桜の花びらが街のそこらに落ちてました。
遠くに見える公園の桜の木から舞う花弁は、魔力の光を放ってました。
「あの公園はオレが最初にシャミ子の体に入って、初めて桃と戦った場所だよな」
「はい。姉はあそこの桜は『この街を守る魔法の桜』と言ってました。この頃は桜も満開だったんです」
確かにこの記憶の中での桜は満開でした。けれど今の公園の桜は枯れてばかりで咲いていません。だから今咲いている桜はよりいっそう綺麗に見えました。
「そう言えば桃、これからどこへ行くんですか?」
「この街にいるはずの魔族に会いに行くはず。当時の私はこの街に勝手に戻ってきたから姉の桜にばれたら大変。だから昔の知り合いに話を通してから会う感じだね」
「そんなに昔は魔族がいたのかよ?」
「ええ。そこら辺でブラブラしていて、近隣住民には周知されていました」
どうやらこの記憶の段階では魔族が普通に暮らしていたらしいです。ほぼ人間しかいない今の街とは全然違うようです。
それから桃は近隣住民に聞き込みをしてました。その際私たちは大人しく後ろで見てました。
「この家に羽の生えた人が住んでませんでしたか?」
「ここの冷蔵庫に勝手に住んでいる引きこもりの雪女さんは───」
「ゾウくらいの燃える馬に乗っている首のない騎士はいませんか?毎日ランニングしていて───」
桃は色んな人に色んな魔族の情報を尋ねてました。
明らかにそんな奴忘れるわけねーだろ!という特徴の人ばかりでしたが、奇妙なことに誰一人として覚えてませんでした。
そう、まるで魔族の記憶だけが切り取られているかのような忘れ方でした。
「浦飯さん、この忘れ方って……」
「多分オメーの思っている通りだ。ここの魔族を消して記憶を操作している奴が───グシオンを追い詰めた奴だ。多分」
「そこはもっとはっきり言ってくださいよぉ」
「まだ相手の能力もわかんねーのに決めつける方がマズイだろ。もう少し様子見だ」
まだ判断材料が少ないせいで断定はできませんが、グシオンを追い詰めた能力者と魔族が消えた犯人が同じ可能性がプンプンします。
そのまま桃は聞き込みを続ける横で、私たちは周辺に妖気がないか探りましたが、全く感じませんでした。
グシオンはギリギリで抜け出したので命は助かりました。しかし他の魔族の人たちが全く無抵抗で殺されたとは考えにくいです。
もし戦闘をしたのであれば妖気は少しでも残っているはずです。しかし私には感じ取れませんでした。
「浦飯さんは妖気を感じますか?感じ取れば早く見つけられると思うんですけど……」
浦飯さんは手を地面にかざしますがすぐ首を横に振りました。
「さっぱりだな。周りを探っても妖気のカスさえ感じねー……これじゃ魔族が全くいない街みてーだぜ」
「やられちゃったってことですか?それにしては戦った形跡もありませんけど、どうやっているんでしょう?」
「……わかんねー。このままついてくぞ」
「はーい」
もし相手の能力が記憶操作であると仮定した場合。妖気の痕跡を全く残さないよう綺麗さっぱりにすることは、記憶操作とは別の能力になります。
そうなると色んなものを消す能力?しかしそれでは桃やグシオンが生き延びているのも変な話です。
まだはっきりしない状態なので、まだ近隣住民の皆さんに聞き込みを続けている桃の後に着いて行きます。
あれから桃がどれだけ聞き込みをしても、魔族も暮らせるこの街の中に魔族は誰一人いませんでした。まるで最初からいないかのように、誰一人魔族を認識していませんでした。
「……お姉ちゃんに直接会いに行こう」
気落ちした桃は今の桃の家……元は千代田桜の家に向かっていきました。この街を作り上げた桜さんであれば何らか知っていると信じて。
どうやら成長した桃が意識的に動かない場合、記憶の中の小さな桃として行動しているようです。
歩いた先に見えた桜さんの家の表札には、別の誰かの名前が張られてました。
「……お姉ちゃんの家に知らない人が住んでる」
【那由多誰何】
そう書かれていた名前は、聞いたことがない物でした。というか読めません!
「読めます?」
「読めねーよこんな名前。なゆた……だれなに?」
「やっぱりそうですよねぇ……」
浦飯さんにも聞いてみましたが、2人してお手上げでした。
読めねぇ……と2人でうんうん唸っていると、浦飯さんは突然後ろを振り向きました。
「すいか、と読むんだ。珍しいだろう?」
───声をかけられるまで全く接近に気づきませんでした。
そこに立っていたのは人の好い笑みを浮かべた女性でした。
薄いピンクがかった白い髪はおさげにしている。僅かに尖った耳。リボンも帽子もスカートもシャツも上着も白い髪とは対照的な黒でした。
「ぼくの家に何か用かな?」
一見すると優しそうな人に見える。ただどこか神経がざわつく相手だ。
魔力も特別デカイとは感じない。
───ただ、底が見えない。例えるならば魔球を隠している投手のような印象でした。
「嫌な感じがするヤローだぜ」
浦飯さんも同じ感想だったらしく、私の感覚は間違っていないようだった。
桃が千代田桜の親族であると伝えると、誰何は目線を桃に合わせて優しく頷いた。
「桜ちゃんの親族?……ああ、あのときの施設の子か」
「(あのとき……?)」
桃と誰何は初対面ではないようですが、記憶の桃は首を傾げていました。まるで初対面のような反応です。
「会ったことがねぇ、って言うんならいいんだがな」
「……!もしかしてこの人が……!?」
「もう少し様子見だ」
この記憶の中でここまで怪しい人物はこの人が初めてです。だから一連の犯人はこの人かもしれない、と思い込んでしまいそうになりました。
那由多誰何と桃は詳しい話をするため、近くのファミレスへ入っていきました。その後に私たちも続きます。
桃が料理を注文してる中、那由多誰何は何も注文しませんでした。
そして私の横に座っている浦飯さんは注文もしてないのにドリンクバーを飲んでました。
「って!何やってんですか浦飯さんは!」
「オイオイ、ここは記憶の中で俺らは存在しないはずの奴らだぜ?何しようが問題ないってことよ」
そう言いながらポケットから取り出したタバコに火をつけてました。こ、この人いつの間に……!絶対どっかでスってきたんだ!
桃はタバコの煙がうっとおしいのか手で煙をパタパタと振って防いでました。昔と違って喫煙席と禁煙席が分かれているのに、この人はなんの遠慮もないようです。記憶の中でない場合はとんだマナー違反者ですよ。
余りに未成年の教育上にとってよろしくない行動を繰り返す人物に対し、私は憤りを感じました。もう我慢できません!
私は勢いよく席を立ちました。
そして向かう先は───ドリンクバー!!
「私はコーラ飲んできます!」
「おう、ガンガン飲め」
「……真面目にやってよ2人とも……!?」
今まで桃の記憶を乱さないよう行動してきましたが、家計の都合上入れなかったファミレスに対し我慢できなかった私はコーラをがぶ飲みしました。
普段飲めないコーラは美味すぎる……!と感動していたら桃に怒られました。記憶の中だから多少は見逃してください!
「あの、誰何さんはご飯食べなくていいんですか……?」
桃は気を取り直して、何も注文せず自身が持ち込んだ水筒だけ飲んでいる那由多誰何に話しかけます。
すると那由多誰何は少し悲しそうな表情を浮かべながら、飲んでいた水筒を下ろしました。というか飲食店で持ってきた水筒を飲むってこの人は結構図太い人ですね。
「あ!ぼくご飯を食べないタイプなの」
「ダイエットですか?」
「───違うよ。ご飯がかわいそうだから食べない。【食べられない】
そう【誓って】いるんだ」
「はぁ?」
思わず浦飯さんが意味わかんないと言いたげな声を上げてました。所謂ベジタリアンというやつでしょうか?
「もう千年くらいは【普通の】食事はしてないよ」
違いました。千年普通の食事してないとか明らかに人外でした。
「ふぅん………?」
浦飯さんは非常に胡散臭そうな目で那由多誰何を見つめてました。
確かに胡散臭いというのもわかります。那由多誰何は食事してないという割には肌艶めっちゃ良いです。
私も今までの貧乏生活で空腹の時期がありましたが、食事してない時に目の前で誰かが食べていたら我慢できないはずです。というか実際無理だった記憶があります。
那由多誰何は空腹を我慢しているようにはとても見えませんでした。なんだかひどく余裕を感じさせました。
「桃ちゃんはこの街のことをどう思う?」
「どうって……素敵な街だと思います」
「ぼくもそうさ。『魔族と魔法少女が一緒に暮らす秘匿されたこの街』が素敵だと思っているんだ」
テーブルに肘をつき、手の甲で頬を支えた那由多誰何は桃を見つめました。
「だがそれを良しとしない連中が多すぎる。バカな魔法少女、バカな人間、バカな魔族。うんざりしているだろう?」
深い、深いため息をつく那由多誰何。それは多くの汚いものを見てきたという証のようでした。その言葉に桃も頷きました。桃もそのような経験があるようでした。
「この街全体に情報を秘匿する魔法がかかっている。君ならこの街も受け入れてくれるはずだよ。私と一緒に魔族の戸籍を探さないかな?そうすれば皆の居場所がわかるよ」
「はい、やります!」
那由多誰何の提案に対し、小さい頃の桃はすぐに了承してました。
那由多誰何はその言葉に対し嬉しそうに頷くと、手足に枷をつけられた豚の様なナビゲーターを呼び出し、まぞく討伐カードを3枚使用しました。
『桃が求めている人に逢えるように』という願いでした。
結果だけ見れば街の住民を見つけるため桃に協力してくれる良い人なのでしょう。
でも桃にかかった魔法を見て笑みを浮かべる那由多誰何の表情を、私はどうしても好意的に見ることができませんでした。
何か引っかかるものがあったからです。しかし今は特別なことをしてない那由多誰何に対し何故そう思ったか、私自身わかりませんでした。
「随分口の臭ぇヤローだったぜ」
そして私の横で浦飯さんが吐き捨てるように言った言葉が、ひどく気になりました。
つづく
那由多誰何の不気味さは結構好き。でもあなた出る雑誌間違えてない?と思った方は結構いるはず。僕もその1人です。でも厨二心が疼いたので好き