「何をしているの?」
放課後、帰ろうかというときに桃が我が1年D組までやってきて、邪神像を指さしました。
今邪神像の周りには漫画やら食べ物が色々置いてある状況です。確かに帰るのに広げっぱなしはおかしく見えるでしょう。
「あ、桃。これはお供えです」
「お供え?」
「はい。この像は闇の一族の邪神像で、邪神像に捧げものを置くと、この中というか夢の中の物が充実するんです。クラスメイトの方も協力してくれるんですよ」
浦飯さんが色んなものを要求するので、もう毎日増えまくっています。
この前の要望通り、買い物帰りにお酒コーナーとタバコの前に邪神像を置いたら、その日の浦飯さんはそれはもう満喫しまくってました。
私はもちろんお酒もたばこもやりませんよ。両方とも20歳以上からです!
「……そっか。いつも持ち歩いてたんだ。てっきり……」
「てっきり?」
「それでトレーニングしているんだと思ってた」
「ダンベルじゃないですー!」
桃は何でもかんでもトレーニングに結び付けようとします。魔法少女は筋肉で敵を粉砕するのでしょうか?魔法使いなさいよ。
「ところでさ、その邪神像の中にご先祖がいるの?」
邪神像の頭部分を杏里ちゃんが撫でながら聞いてきました。
そういえばそのことを説明してなかったですね。桃もクラスメイトの小倉さんもいますが、ついでに話しちゃいましょう。
「私も最初そう思ってましたし、お母さんもそう言ってたんですけど、中に入ってたのはご先祖じゃなかったんですよ」
「それじゃ誰だったの?」
「浦飯幽助という魔族の方です。元人間と言っていて、私みたいに覚醒したと言ってました」
「……浦飯、幽助?」
「桃、どうしたんです?」
桃が浦飯さんの名前を聞いた途端、何か考え始めました。何か知っているんでしょうか?
「……どこかで聞いたような気がするけど、思い出せない。ごめん」
「謝る必要ないですよ。浦飯さんも何で邪神像の中にいるか分からないそうですし」
「そうなの?封印されたのが昔すぎて忘れたとか?」
クラスメイトで黒髪カチューシャで眼鏡の小倉さんがそう聞いてきました。それなら納得できるんですけどね。
「いや、何かの格闘大会で優勝して起きたら邪神像にいたそうです。しかも邪神像に入ったのはごく最近で、私が覚醒するかしないかくらいの時だそうです」
「……よく分からない」
「そうなんですよ……浦飯さんが覚えている知り合いの方の電話番号とか全部かけてみたんですけど、繋がらなかったり、出ても全然違う人だったりして、全然ダメだったんです」
仲間に知らせる必要があるということで、浦飯さんに言われた通りの電話番号なり住所を調べたりやってみましたが全部空振りでした。
電話先の相手に浦飯さんの名前を言っても全然知らないと言われ、住所を調べてみても違う人だったりと今のところ手掛かりなしです。
浦飯さんは早く封印を解いて外に出たいと言ってますが、仲間に知らせて何とかするのはできず、今の私では魔法少女の生き血で封印を解くのも難しく、今のところその道は険しいです。
「嘘言っている可能性はないの?」
「それはたぶんないと思います」
小倉さんの疑問ももっともです。でも浦飯さんがそんな分かりやすい嘘で騙すとは思えないので否定しました。
「魔族で狡猾なタイプは上手く騙してきたりするけど……すぐバレるような嘘はつかないから、そんなタイプではなさそうだね」
「あの人は真正面から殴り込みに行くタイプです。そういう回りくどいマネするタイプじゃないですよ」
むしろ「何で初めからオレにケンカ売ってこねぇ」とか敵に直接言うタイプですね。
数日間一緒に過ごしてきましたが、大体の性格は分かりました。何というか、すっごい分かりやすい人だと思います。
「ドラクエで言うと?」
「ガンガンいこうぜ!のタイプですね」
「うーん、わかりやすい!」
「でも、どんな大会かは知らないけど、優勝したという割には魔力をほとんど感じない……」
桃がそう言いながら、邪神像を持ち上げて色々な方向から見てました。特に底の部分をよく見てますね。
「桃、あんまりいじらないでくださいよ」
桃の視線の先には、邪神像の底にある謎のスイッチでした。
というかスイッチなんてものがあったんですね、初めて知りました。
「もしかして、シャミ子の霊丸ってその人に教わったの?」
「そうなんですよー!こうして1日1回は撃てるように……って桃、今何かしました!?」
今桃が底についていたスライド式のスイッチを動かしました。勝手に何をやっているんですか!
「今放課後で人がほとんどいないし、私が対処できるときにこういう仕掛けは動かしたほうが危なくないし……」
「そういう問題じゃないです!もし自爆スイッチだったりし……」
言おうと思っていた言葉が出てきませんでした。それよりも、意識が段々となくなっていくような……。
そして私の記憶はそこで途切れました。
4話「桃VS浦飯さん!……あれ、私のバトルシーンは!?」
スイッチを押した瞬間、シャミ子の体から力が抜け体勢が崩れ、桃はその体を支えようと一歩前へ出ようとする。
その瞬間、桃が感じたのは――――圧倒的なオーラであった。
「……っ!?」
桃は近寄るどころか、後退しようとする足を抑えた。
その力は魔力とは似て非なるもの。
桃の目にはっきりとシャミ子の体から途方もなく赤く禍々しい力が噴き出しているのが見えていた。それは教室を覆いつくし、外へ漏れ出ていた。
明らかにシャミ子とは桁違いのパワーである。比較にすらならないほどであった。
桃は戦慄していた。まさか少しふざけているようなデザインの像に、これほどのパワーの魔族が封印されているとは思ってもみなかった。
まして封印を解こうとしているのは、まるで魔族らしくないシャミ子なのだ。もっと弱いものだと予想していた中身が、色々な意味で予想を超えていた。
ここまでで思考していた時間はほんの一瞬である。桃は即座に変身した。
自身の変身スピードは0.1秒ほどである。
目の前で変身するという隙は見せるが、これほどの力を持つ相手に生身で戦うという選択肢は存在していない。
桃はピンクのフリフリの魔法少女姿へ変身し、杏里と小倉を庇うように立った。すでに2人は腰を抜かして青い顔をしていた。意識があるだけ、まだましであろう状態だった。
「……あなたは、誰!?」
目の前のシャミ子の体を乗っ取った者に問いかける。
正直放課後とはいえ、まだ学校には部活などで人が居過ぎて戦えない。
何とか隙を見て、場所を変える必要があった。
この問いかけで少しでも糸口が見いだせるか、どうか。
一挙手一投足を見逃すまいと、桃は魔力を高める。いつ仕掛けられても対応できるように。
そして、シャミ子の体が口を開いた。
「よっしゃー!ようやく娑婆に出れたぜー!!」
「……はい?」
今、何と言ったのだろうか。
聞き間違えだろうと、桃は頭を横に振った。そして見た。
シャミ子の体はどや顔でガッツポーズをしている。正直、桃はかなり腹が立った。
「いやー、ようやくあの暗いとこから出れたぜ!やっぱり娑婆はサイコーだな!」
「あ、あのー……」
「お、何だ?何か用か?」
笑顔で体操をしているシャミ子……で中身は別人であろう人に桃は声をかけた。
「さっきやたらと魔力が洩れてましたが、攻撃する気だったんじゃあ……?」
「あ?攻撃?ちげーって、ちょっと外に出た時に妖力が洩れただけじゃねーか」
聞き間違いだろうか。あれほどの力を出しておいて「ちょっと」と抜かしたのだ。
あまりの事態に後ろの2人はすでに放心状態である。
「あれが、ちょっとですか……?」
「そりゃそうだろ。フルパワーで出したらやべぇだろ。死人が出ちまうぜ」
オーラだけで、とも思ったが否定できなかった。
あれほど禍々しければ、ありうる話だと、桃は理屈ではなく感覚で理解してしまった。
桃は知らないことであるが幽助ら魔族の強すぎる妖力はもはや毒である。
幽助側の妖怪のランクは霊界基準で実力順に上からS、A、B……とランクされていく。
高ランク妖怪の攻撃的意思を持つ妖気は、触れるだけで遥かに実力の劣る者を消滅させていくことができる。
シャミ子と幽助の入れ替わりの際、幽助が攻撃的意識を持っていたとしたら、すでに校舎内は大惨事であったことは間違いない。
「じゃあ、攻撃の意思はなかったと」
「まぁな。オメーが桃か?」
既にシャミ子の体の周りにあったオーラが、わずかに体を覆っているほどに小さくなっていた。
どうやら今すぐここで戦い始める可能性は低いようだ。無論警戒したまま、桃は応じた。
「はい。それじゃあ、あなたは……」
「おう。オレが浦飯幽助だ」
自信ありげに自身を親指で指示していた。ここでシャミ子とだいぶ性格が違うことが分かる。
「シャミ子からは、何故か邪神像に入っていた魔族の男性と聞いています」
「会話は邪神像から大体聞いてたからな。あいつ、おおざっぱにしか答えてねぇからな」
「経緯を聞いてもよろしいですか?」
「おう。俺も情報集めたかったしな」
そして幽助は桃にここまでに至った経緯を話した。時折、桃が質問しながら話は進む。
桃が特に反応したのは幽助が語る魔界、そして魔族の人間界への対応である。
魔界の存在はは桃が知らないだけで、存在している可能性もゼロではない。しかし魔族が人間に迷惑をかけず、積極的に馴染んでいこうという姿勢が信じられなかった。
それが今まで難しかったから、この魔族と人が争いなく暮らせる、ここ「せいいき桜ケ丘」が特別なのだ。
TV進出もして魔族と身分を明かしているアイドルもいるという。
桃は一瞬迷ったが、自身の知っている情報を明かすことにした。
先ほどのシャミ子の話を考えるならば、この浦飯幽助という男には下手に隠し事をせず話したほうが揉めることはないだろう。
そういうところでシャミ子は嘘をつくタイプではないと、数日間の付き合いだが桃は感じ取っていた。
桃は語った。
魔界は確認されていないこと。基本的に魔族は姿を隠し、悪事をしているものが大半だと。
それを狩るのが魔法少女であり、狩った魔族の数に応じてポイントがあったりする……などなど。
そしてせいいき桜ケ丘はそういった争いがないようにした中立地帯なのだと、幽助に語った。
ちなみに魔族のアイドルもいないと語った。
「マジかー……どうすんべ」
幽助はシャミ子のポケットを探ったが、目当ての物がない。何度かポケットを叩いて、気づいた。
「なぁ、タバコとライター持ってねぇか?ちょっと考えたくてな」
「……私たち未成年です」
桃は頭が痛くなった。学校に普通そんなもの持ってくるわけがない。
この男は何も考えてなかった。シャミ子の体で見つかったら一発で停学である。
しかし、この男は中学時代から学校でもよく吸っていたのでそういったとこまで気が回っていなかった。
「飴ならありますよ?」
いつの間にか復活していた杏里が飴を幽助に投げた。どうやら、普通に立てる状態まで回復したらしい。
杏里は桃味の飴を幽助に差し出すと、幽助はすぐ口に放り込んだ。
「飴かよ~。ま、サンキュな。さっきは悪かったな、怖がらせちまったみてぇだ」
「いやー、私あんなに腰抜かしたの初めてですよ。シャミ子とは全然違うんですね」
ハハハ、と軽く笑う杏里が図太いのか、それともまだ呆けている小倉がのんびりしているのか。
幽助は飴を舐めながら、頭を掻いた。
「しかし、分かんねぇことだらけだな。全然別の場所に来ちまったみてぇだ」
「可能性としてはあります。しかしそのような話は聞いたことがないので、私としてはどうしたらいいのかは分からないです」
「ま、今考えても仕方ねぇなら、情報集めるしかねぇな。それにようやく外に出れたしな!色々やりてーし」
「……待ってください。どこに行く気ですか?」
桃は肩を鳴らしながら外に出ようとする幽助の道を遮った。幽助は面白くなさそうに、表情をゆがめる。
「良いじゃねーか。ちょーっと羽を伸ばしてくるだけだって」
「ダメです。まだ私はあなたを信用したわけではありません。シャミ子に霊丸とか教えたのも、外に出るためでしょう?」
「当たり前じゃねーか」
その瞬間、ミシリと空間が音を立てて軋む。桃が怒気を発しているからだ。
「(何か勘違いしてねーか、この女?)」
何故かやたらと桃が圧力をかけてくるその態度に、幽助は不思議がっていた。
桃としてはシャミ子は霊丸を普通の人に撃たないと言ったことを思い返していた。そんな風に言う魔族がどれほど少ないか、桃は知っているのだ。
だから、いかにも戦いに出かけそうなこの男を行かせるわけには行かなかった。平和なこの街で争いをさせるわけにはいかない。
「この街では争いはご法度です。大人しくしててください」
「へぇ……面白れぇ。じゃあ俺が大人しくしなかったらどうするつもりだ?」
「……力ずくでも止めます」
杖を握りしめる力が強まる。
しかし桃は思い違いをしていた。この男、実は単にパチンコに行きたいだけである。
先日邪神像の中からパチンコ店で新台入りましたという広告を見て、シャミ子にパチンコ店に入るよう言ったがシャミ子は入るわけがなかった。それに対して不満たらたらだったのである。
この男、中学時代に普段からやっていた行為を違反であるとは思っておらず、一度霊体になった後1日だけ復活した日もパチンコに行っていた男である。学校のことなぞ気にしているわけがない。
だからシャミ子の体でもそのままパチンコを打ちに行く予定だったのだ。
ちなみにお金はなんとかする予定だ……何も考えてないとも言えるが。
桃は悪意に満ちた魔族を見てきたために、そういったおバカな発想が全くなかった。
幽助はそんな桃の態度を見て、喧嘩のチャンスを感じ取った。
ちょうど喧嘩もしばらくしてなかったことだし、桃の実力も見てみたい。
だから幽助はあえてこの話に乗ってみた。この男、最悪である。
「ここじゃ狭いな。もっとだだっ広いとこでやろうぜ」
「そうですね……ここの窓から見える、あの丘なんかどうでしょう」
「ちょっと2人とも!戦う気!?」
杏里が慌てて間に入る。さっきまで普通に話していたのにあっという間に戦う空気になったのだ、焦りもするというものだ。
しかし幽助は邪神像を右手に持ち、その声を無視して窓を開け、右足をかける。
「んじゃ、行くぜ」
「はい」
次の瞬間、杏里には2人が一瞬にして消えたようにしか見えなかった。スポーツで鍛えた動体視力でも、どう動いたか全く見えなかったのだ。今の教室に残っているのは杏里と小倉だけ。
「え、き、消えちゃった……!?」
「ですねぇ……」
幽助は窓から飛び出し、校庭をはるかに超えた建物の上から上へと移動し、瞬く間に丘に到着する。窓から到着まで数秒もかかってない。
桃も似たような形で移動するが、到着したのは幽助が到着した後だった。
桃が着いた時に幽助はストレッチをしていた。非常にリラックスしているように見える。気負ったところがなく、自然体なのだ。
場数はかなり踏んでいるかもしれない、そう桃は感じ取った。
「来たな。よし、じゃあ始めっか!」
幽助は邪神像を少し離れた場所に置くと、桃に向き直った。そして構える。桃の見たことのない構えだった。
「はい。やりましょう」
杖をしまい、桃もオープンスタンスで構える。
誰もいない、大きな木だけが見ている中、ほんの僅か、幽助の右足が前にずれる。
―――先に動いたのは桃であった。
フェイントも何もない、左のジャブ。一瞬で懐に飛び込み、幽助の顎先めがけて放つ。
幽助は最小の首の動きで躱す。構わず、桃は残像を残すレベルでジャブを繰り返す。
それも幽助は躱すが、注意を上にそらすことができた。
桃は右ボディフックを放つ。上、下のコンビネーション。
決まる直前、桃の視界が跳ねた。
「っ!」
顎にアッパーをもらっていた。その動きは打たれるまで分からなかった。もう見切られたのか?
桃の思考とは裏腹に、桃は攻撃を続行した。一撃で止まるほどやわではない。
桃の右ストレートは半身で躱されたが、発生した衝撃波は地面をえぐっていく。桃は止まることなく連発した。
「(当たらない……!)」
早さのギアを上げていっても、ぎりぎりで躱される。
ここに来るとき桃は疲れない程度に移動してきたためスピードを出していなかったが、相手も同じようなものだった可能性が高い。
つまり、こちらよりスピードが速い。
「はぁ!」
桃の振り下ろされた拳の衝撃波で、地面にクレーターができる。幽助はそれを宙に飛ぶことで躱した。
しかしそれは空を飛べないものにとって悪手である。宙では思うように移動できないからだ。
即座に杖を取り出した桃は構えた。繰り出すのは遠距離技である。
「フレッシュピーチハートシャワー!」
桃色のハートの形を模した光線が杖から放たれる。桃の多用する中技だ。
「(捉えた!)」
このタイミングでは避けようがない。これでどの程度ダメージが通るか。
もうフレッシュピーチハートシャワーは幽助の目の前に迫っていた。
「おらぁ!」
しかしそれを右手だけで弾かれ、フレッシュピーチハートシャワーは明後日の方向へ消えていく。
着地した幽助はまったくダメージは通っていないように見えた。
「か、片手だけで……」
「いいタイミングだったぜ。オメーもこういうの撃てるとは思わなかったぜ」
幽助は明後日の方向の空へ右人差し指を構える。そしてそのまま赤く人どころか山さえ飲み込めそうな大きさの霊丸が飛び出し、空へ消えていった。
桃は戦慄した。技自体は同じだが、その威力はシャミ子のものとは桁が違う。
仮に今の威力との撃ち合いになっていたら、確実に桃の技は消滅し、霊丸をまともに受けていたであろう。それを想像し、桃は唾を飲み込んだ。
しかし確実にダメージを与えられたはずなのに、何故先ほど撃たず今このタイミングで無駄に撃ったのかが桃には分からなかった。
「これがオレの十八番、霊丸だ。最大威力は1日4発が限度でな。弱く撃てば数は増やせるけど、基本は4発だ」
「……何で、このタイミングで、明後日の方向に撃ったんですか?」
「何でって……オメーがさっき技見せたから、今度はオレの番じゃねーか?」
桃はめまいがした。まさか、馬鹿正直に自分の能力を見せる相手がいるとは。
桃の経験上、今までの敵はこちらを仕留められそうと思ったときにベラベラと自分の能力を話すのが大半だった。
これではまるでスポーツマンシップに則っているようではないか。
「今、私たちは戦っているんですよ?自分の能力をベラベラ話すなんて信じられません」
「そうかぁ?前からオレはこんな感じだぞ。確かに酎のヤローにも見せたときも馬鹿だなーとか言われたけどよ」
幽助は暗黒武術会で戦った酎のときも、ウル技を見るために自分の霊丸を披露したことを思い出していた。だいぶ昔のような感じがして、幽助としては懐かしい気分であった。
桃としては前にも同じことをしたと聞き、頭が痛くなり始めていた。こんな相手は今まで一人もいなかったのだ。
「私を倒して、血を邪神像に捧げるために戦っているんじゃないんですか?」
「……あー!久しぶりに喧嘩できるからワクワクしてて、そういやそのことすっかり忘れてたぜ!」
「……自分の封印ですよね?」
「確かにオレが今回たまたま出てきたけどよ、元々シャミ子とオメーの喧嘩だぜ?割って入られるほどムカつくもんはねーよ。だからオメーを倒すのはシャミ子の役目だ」
ああ、この人は戦い好きの馬鹿なんだ。桃の中で幽助の人物像が決まった瞬間である。
「でもこうして今私と戦ってますよ?」
「そりゃオレも閉じ込められて鬱憤が溜まってたし、魔法少女の実力にも興味あったからな。大怪我しない程度に手加減してやるよ」
その一言に桃はプッツンした。完全に舐められている。
「そうですか。じゃあ私は浦飯さんを参ったと言わせてみせます」
「面白れぇ!」
桃は魔力を、幽助は妖力を高め、蒸気のように吹き上がっていく。そして拳を繰り出したのは同時だった。
☆☆
「……は!?ここはどこですか?」
私の意識が戻ったとき、目の飛び込んできたのは全く見知らぬ家の中でした。杏里ちゃん、小倉さん、頭に包帯巻いている桃……って怪我してる!?
「桃!どうしたんですその怪我!?」
「あ、この喋り方はシャミ子だね」
「私は私です!……ん?何かその言い方はおかしくないですか?」
その言い方ではまるで私じゃない人だったような言い方です。よく見ると治療道具やお菓子やらが散乱してます。治療した後に飲み食いしていたようです。
「さっきまでシャミ子の中身が浦飯さんだったんだよ。それでちょっと前まで私と戦ってて、今は私の家なんだ」
「え!?そ、それで結果はどうだったんですか?」
「私の完敗だよ……手も足も出なかった。この頭の傷だって着地失敗したときにできたやつだから、ほとんど怪我は無いんだ」
まさかダンプ片手で止める桃に圧勝とは……浦飯さんの実力は実はかなりすごいのかもしれません。
桃もよく見ると頭以外はほとんど怪我らしい怪我はないようです。まさか怪我させないようにして勝ったんですか?す、すごいです。
でも今ボソッと桃が「パチンコ行くのを止めるほうが苦労した」とか言ってましたが、まさかそんなことしようとしたんですか、あの人は?
「遅れて戦っている場所に行ったら、ちよももが大の字で倒れているんだもん。びっくりしたよ~!」
「その周りはえぐれてたりすごいことになっていたけどねー」
「そうなんですか。でも、桃に大きな怪我が無くてよかったです」
素直にそう言いました。もし桃が大怪我でもされて、戦うことができなくなったら、鍛えている意味がないですからね。
そう言うと、何故か3人の目が優しい目をしてました。しかも何故か頭を撫でてきます。おい、やめるんだ!
「……ところでシャミ子。今回の飲食費と治療代なんだけどね。浦飯さんがシャミ子にツケといてくれって」
「え”!?」
「はいこれ」
渡されたのは浦飯さんが私の体で行った代金でした。その額、5200円!
「浦飯さん食べまくってたもんねー。パチンコ行かせない!ってみんなで止めたら、じゃあ喰いまくってやるって。酒がないーとか文句言ってたけど」
よく見ると周りに散乱しているのはお菓子だけでなく、ラーメンやら寿司やらピザもありました。
こんなもの、私もほとんど食べたことがないのにー!道理でお腹がはち切れそうなわけです!
「こんなお金ないですよー!」
我が家の貧乏脱出のために活動しているのに、増やしてどうするんですか!
「返済は分割にするから……」
「浦飯さんの馬鹿ー!!」
頑張れシャミ子!バイトしてお金を返す以外は強くなるしかないぞ!そうして立派な魔族として活動するんだ!
つづく
バトルシーンに関してはもっと長く書こうかと悩みましたが、ダラダラしそうだったのでここまでとしました。
ちなみに今回幽助inシャミ子は未成年ですので悪いことは何もしてません(笑)